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同郷の後輩であるヴァイオリニスト、ウジェーヌ・イザイに結婚祝いとして作曲され献呈された。
音楽之友社
友人のヴァイオリニスト、イザイの結婚式に出向けなかったフランクが、彼と花嫁のために献呈したロマンティックな逸品。
ららら♪クラシック
1886年の夏。フランクは、63歳にして初めてバイオリン・ソナタを作曲します。それを知った友人が、ソナタをイザイの結婚祝にしたいと、フランクに申し出たのです。フランクは「心から喜んで、イザイの結婚祝のプレゼントにしましょう!」と、出来上がったばかりのバイオリン・ソナタを友人にあずけたのでした。イザイは、一目でこの曲を気に入りその場ですぐに演奏。そして「これは私だけのものではありません。全世界への贈り物です。私の役目は全身全霊をささげ、この曲のすばらしさを伝えることです。」とスピーチし、その言葉通り、世界中で、生涯にわたってこの曲を演奏し続けたのです。
「結婚祝いとして作曲され」たのではなかった?
フランク ヴァイオリン・ソナタ
カヤ・ダンチョフスカ(vn)
クリスティアン・ツィメルマン(p)
1980年7月
ミュンヘン,ヘルクレスザール
ダンチョフスカ(1949年-)とツィメルマン(1956年-)のポーランド・デュオによる録音で、ジャケットの写真がなんとも初々しいです。ツィメルマンがすごく若く見えますが、この時は24歳なので本当に若いのです。
最初にツィメルマンの演奏から書きますが、献身的なピアノです。知らないで聴いたら、ツィメルマンとは気がつかなかったでしょう。巧いことは巧いのですが、伴奏に徹しているせいなのか、それともこの頃はまだ大家ではなかったのか、ツィメルマンらしさがあまり現われていません。
ダンチョフスカは、丁寧に弾いているのですが、よく言えば楽曲に奉仕している演奏、そうでなければ無難な演奏です。
聴くたびに印象が変わるのですが、今日は素敵な演奏と思いました。感想を書くのが難しいCDです。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
ヴァーツラフ・フデチェック(vn)
ペトル・アダメツ(p)
1981年(リリース?)
フデチェク(1952年-)は、チェコのヴァイオリニストで、そのイケメンぶりから一時期は日本でも人気があったと記憶しています。今回すごく久しぶりに名前を見つけましたので取り上げることにしました。第一印象としては大先輩のヨゼフ・スークに似ているように思いましたが、あれ程の存在感はなく、線が細く弱々しい感じがします。ヴァイオリンの音があまりきれいじゃないのです。ヴァイオリンがマイクに近いせいか、直接音が多く、ギスギスした音に聴こえます。そのようなことから、あまり気乗りがしなかったのですが、次第に引き込まれるものを感じました。真摯に音楽に向き合う姿勢があり、集中力・緊張感があります。とはいえ、これだけいろいろな録音がある中で、心に訴えかけてくるものが少ないのも事実です。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
ローラ・ボベスコ(vn)
ジャック・ジャンティ(p)
1981年9月
埼玉県,新座市
ボベスコ(1921年-2003年)のフランクは、5種類の録音があるようです。DECCAのモノラル録音(1949年(1950年?))、DECCAのステレオ録音(?)、日本初来日公演ライヴ(1980年)、PHILIPSの録音(1981年:当盤)、PAVANEの録音(1982年:後述)です。ピアノは、ジャック・ジャンティ(1921年-2014年)(1980年盤のみ小松(澤)美枝子)で、長く(私生活は短く)ボベスコのパートナーをつとめた人です。
この数行を書くために1時間以上を費やしてしまいました。DECCAのステレオ録音なんて存在するのでしょうか?
さて、このCDは好きだったのです。持ち味があり、ボベスコの癖らしきものもプラスに働き、良い演奏だと思っていました。ただ、今回のようにいろいろな名演を聴いた後では、ボベスコの限界のようなものを感じてしまいます。それは音程であったり、ややのっぺりした表情であったり。もしかしたらボベスコは、この録音では、あまり乗っていなかったのかもしれません。そのようなことから、1年後の演奏をお薦めします。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
ミッシャ・マイスキー(vc)
マルタ・アルゲリッチ(p)
1981年12月29-31日
チェリストのマイスキー(1948年-)とアルゲリッチ(1941年-)によるフランク1枚目です。マイスキーに曲が合っているのでしょう、なかなか雄弁な演奏で、チェロによるため第1楽章では少し違和感もあったのですが、第2楽章以降はなかなか聴かせるものがありました。ヴァイオリンによる演奏でも、なかなかここまで感情を迸らせる濃厚な表現には出くわしません。それにチェロの音色が美しいです。
アルゲリッチは絶好調です。ここまで毎回登場していますが、まだまだ登場します。ただ、その表現が、ときに大仰に感じられるかも、です。
マイスキー&アルゲリッチによるフランクの録音は、当盤の他、2000年の京都ライヴ(Deutsche Grammophon)など複数あり、全部でいくつあるのかわかりません。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
ローラ・ボベスコ(vn)
ジャック・ジャンティ(p)
1982年
ベルギー
ボベスコ(1921年-2003年)とジャンティ(1921年-2014年)による、ベルギー(製造はフランス)のPAVANE RECORDSへの録音で、どうしてこんなに早く再録音したのかわかりませんが、前述のPHILIPS盤からたった1年後です。しかし、私にはこちらのほうが良い録音、良い演奏に聴こえます。ボベスコの演奏は基本的に変わっていませんが、このCDの音が好きです。PHILIPS盤では混濁気味だったピアノも粒立ちよく、まるで別人のようです。
ヴァイオリンも間接音が少し増え、より美しくなりましたし、演奏もこちらのほうが丁寧で、あまり細かいことにこだわらないボベスコの大らかな持ち味がよく出た演奏といえます。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
ジャン=ジャック・カントロフ(vn)
ジャック・ルヴィエ(p)
1982年8月15、18、22日
オランダ,ハーレム・コンセルトヘボウ
【お薦め】
CDの感想を書く前にジャン=ジャック・カントロフについて書いておきます。と言っても資料が少ないので、大したことは書けない(コピペが多い)のですが。
カントロフ(1945年-)は、カンヌ生まれのヴァイオリン奏者・指揮者です。
NIPPON COLUMBIA CO.,LTDの [この一枚 No.77] ~ジャン=ジャック・カントロフ/パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番・第2番《ラ・カンパネッラ》~に次のような記述があります。
[この一枚 No.77]~カントロフ/パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番・第2番
2009年9月の「この一枚」ではジャン=ジャック・カントロフが演奏したフォーレ:ヴァイオリン・ソナタ集」を取り上げ、以下のように紹介している。「カントロフは1974年の第1回PCMヨーロッパ録音に於いて、パイヤール室内管弦楽団によるモーツァルト:2つのヴァイオリンのためのコンチェルトーネK.190の第2ソリストとして登場して以来、約20年にわたりDENONレーベルのメイン・ヴァイオリニストとして様々なヴァイオリン名曲を録音してきた。(中略) 彼の演奏は非常に繊細で、録音セッションでは、かすかなキズでもすぐに演奏を止め、再度のテイクを要求した。そのため、膨大な録音時間と録音テープが必要で、結果、多くの編集個所が録音スタッフに突きつけられた…」
確かに、彼の録音は微細なミスも許さないものであったが、同時に常にテクニックの限界に挑戦し続ける大胆さも持ち合わせている。1983年に録音された自身率いるパガニーニ・アンサンブルのアルバム「煙が目にしみる」ではカントロフはクラシツク、ポピュラーの名曲をまるで曲芸のような超絶技巧で聴かせているが、その中にパガニーニのヴァイオリン協奏曲第2番の第三楽章「ラ・カンパネラ」も収録されている。
さらに、クラシック音楽のCD紹介が充実している某通販サイトで「弦楽器奏者」をクリックし、「カントロフ, ジャン=ジャックKantorow,Jean-Jacques (vn)」を選択すると80件ヒットします。これを「発売日 新しい順」に並べ替え、カントロフがヴァイオリン奏者として最後に録音したのはいつだろう?ということを調べてみました。
最初に登場するのは、アレクサンドル・カントロフの録音で、これはジャン=ジャックの息子です。2015年にラロのスペイン交響曲やヴァイオリン協奏曲、ロシア協奏曲を録音していますが、ジャン=ジャック・カントロフは指揮者であり、ヴァイオリンは ロレンツォ・ガット、キム・ウヒョン、エリーナ・ブクシャです。ヴァイオリニストとしては、ラロのロシア協奏曲Op.29の2011年録音(ケース・バケルス指揮のタピオラ・シンフォニエッタ)が最後なのでしょうか。
以前にレコード芸術のインタビューで、自分はもうヴァイオリンを弾かない、これからは指揮に専念する、とカントロフが答えていた記憶があります。
なぜ、こんなことを長々と書いているかというと、私はカントロフを実演で聴いたことがないため、知識で補填しようと考えたからです。DENONの録音は、再生装置によっては、カントロフのヴァイオリンが、あまり美しくない音で聴こえることがあります。
以下、カントロフのヴァイオリンが美しく聴こえる再生装置での感想です。
一見(聴)、地味に思えますが、微に入り細を穿つ表現です。「かすかなキズ」「微細なミスも許さない」完璧な演奏。ヴァイオリニストやピアニストによっては大きく弾き崩す人がたまにいますが、カントロフには常に節度があります。ここを踏み越えてはいけないというラインが明確に引かれており、その範囲の中で最良の表現を心がけています。その集中力が凄く、こちらもきちんと聴かなければならない、気軽に聴き流せない、という気持ちになります。一生懸命聴けば聴くほど、カントロフの演奏の素晴らしさがわかります。第4楽章を聴き終えたとき、これだけ清々しい後味が残る演奏もありません。37歳のカントロフの美しい記録と言えます。
ピアノのジャック・ルヴィエ(1947年-)はマルセイユ生まれのピアニストで、これも素晴らしい演奏です。優れた技巧の持主であり、美しい音色で情緒豊か、かつドラマティックにフランクを歌い上げています。協演者に厳しいカントロフが選んだピアニストであり、ソロでも「ラヴェルのピアノ曲全集の録音や、ドビュッシーやラヴェルの室内楽の録音によりグランプリ・デュ・ディスクを受賞」しているだけのことはありますよ。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
ピンカス・ズーカーマン(vn)
マルク・ナイクルグ(p)
1984年12月
パールマン、チョン・キョンファと同じくガラミアン門下のズーカーマン(1948年-)、ピアノは作曲家兼ピアニストのマルク・ナイクルグです。このコンビは、Deutsche GrammophonやPHILIPSに、サン=サーンス、R・シュトラウス、プロコフィエフ、小曲集も録音しています。
ヴァイオリンを豊かに鳴らし、ポルタメントがやや多めの耽美的な演奏です。この頃のズーカーマンは不調で、それゆえ指揮活動(1980年から1987年までセントポール室内管の音楽監督)に力を入れていたとも言われていますが、これほどの美音で奏でられたフランクは、なかなか無いと思います。ナイクルグのピアノも作曲家らしく楽曲のツボを押さえたもので、味わい深いものです。
それではお薦めかというと、終楽章あたりで美音に飽きてしまい、楽曲に対する踏み込みがやや浅いように思えてきます。やっぱり不調だったのでしょうか。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
シェロモ・ミンツ(vn)
イェフィム・ブロンフマン(p)
1985年6月
スイス,ラ・ショー=ド=フォン,ムジカ・テアトル
【お薦め】
今ではそれなりの年齢に達していますが、この録音時、ミンツ(1957年-)28歳、ブロンフマン(1958年-)27歳で、若々しい感性がプラスに働き、フレッシュな名演を聴かせてくれます。第1楽章では、ブロンフマンの方にマンティックな傾向があるようで、テンポの伸縮が顕著ですが、ミンツは比較的端正な演奏です。第2楽章でもブロンフマンのテクニックは、この難曲をものともせず、鮮やかなピアニズムを発揮し、ミンツもやや線が細いですが、持ち前の美音を用いて感興豊かな演奏を聴かせます。第3楽章もミンツは静謐な中に心のこもった歌を聴かせ、第4楽章も同様に、声高になることがない、品が良く落ち着いた表現です。音色にもう少し線の太さがあればとも思いますが、これだけ聴かせてくれれば十分でしょう。
フランクのヴァイオリン・ソナタも、これで第4回になりますが、まだ3分の1も終えていません。いつになったら完了するのでしょう……。