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伊福部昭「SF交響ファンタジー第1番」の名盤?

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一度は記事にしてみたかった曲。連日猛暑が続いていますので,夏らしい曲ということで取り上げてみました。この曲のどこが夏らしいのか。暑苦しいところ。

いや,純粋に伊福部昭の音楽を取り上げたかったのです。

SF交響ファンタジー」は、伊福部昭(1914年‐2006年)が作曲した東宝特撮映画のための音楽を1983年に演奏会用管弦楽曲として編曲した作品です。第1番から第3番,交響ファンタジー「ゴジラvsキングギドラ」の4曲があります。今回は最も有名でよく演奏され,聴かれているであろう第1番

伊福部昭:SF交響ファンタジー第1番
SYMPHONIC FANTASIA No.1

編成(3管編成):
ピッコロ、フルート2、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン2、バストロンボーン、チューバ、ティンパニ、大太鼓、スネアドラム2、吊りシンバル、トムトム2、タムタム、コンガ、ハープ、ピアノ、弦五部。

楽曲(片山杜秀氏による3種類の解説より抜粋。):

01 ゴジラの動機
Adagio grottesco。ゴジラの動機が鳴り響く。1オクターヴを構成する12の音程が全部使われた半音階的旋律によるグロテスクな音楽である。この動機は,無論,様々に装いを凝らしつつ,ゴジラ・シリーズ全体に多用されているが,ここでは,『三大怪獣,地球最大の決戦』(1964年,本田猪四郎監督)で,夜の太平洋上にゴジラが出現する場面のためのアレンジ(M9)が用いられている。

(↑次の02 間奏部も含んでいます。)

02 間奏部
8小節の接続部。2/4と7/4が交替する,特徴的なリズム・パターンが4度,クレッシェンドかつアッチェレランドしながら反復される。(くりかえされるラシドという音型は次の『ゴジラ』のテーマ,ドシラの逆行だ。)

03 「ゴジラ」タイトル・テーマ
Allegro。かの有名な『ゴジラ』(1954年)のタイトル・テーマ(M1,M16)。
ドシラ・ドシラ・ドシラソラシドシラが2×4+1のいびつな九拍子を形成する,寸詰まりでいらついた行進曲は,劇中ではゴジラにかなわないので焦る自衛隊(略)のための音楽だったのだが,いつの間にか,それが世間からゴジラじたいの動機と認識されるようになった。奇数拍子の焦燥感が自衛隊以上にゴジラの無軌道さと交感してしまったのだろうし,ドシラとゴジラが期せずして語呂合わせになったことも関係しているのだろう。

Gojira 1954 Main Theme (ゴジラのテーマ)

04 「キングコング 対 ゴジラ」タイトル・テーマ
『キング・コング 対 ゴジラ』(1962年,本田猪四郎監督)のタイトル・テーマ(M1)。原曲には,南方語による混声合唱が付されている。


05 「宇宙大戦争」夜曲
Lento cantabile。イオニア音階による愛の主題。『宇宙大戦争』(1959年,本田猪四郎監督)に於ける,池辺良と安西郷子のカップルのための愛のテーマが,濃厚に奏でられる。但し,この編作の直接の下敷きになったのは,ほぼ同じ楽案による,別の映画のためのスコアらしい(原曲未詳)。

06 「フランケンシュタイン 対 地底怪獣」バラゴンのテーマ
Adagio Grottesco。『フランケンシュタイン 対 地底怪獣』(1965年,本田猪四郎監督)の,白根山中にバラゴンが出現し,ひと暴れする場面の音楽(M22B,M23)。金管が凶暴に半音階的に叫ぶバラゴンの動機。


07 「三大怪獣 地球最大の決戦」
『三大怪獣 地球最大の決戦』から,ゴジラとラドンの戦い,及び,それを尻目に夏木洋介と伊藤久哉が若林映子争奪戦を繰り広げるシーンの音楽(M14,M16,M17)。01のゴジラの動機に,トランペットに担われるラドンの半音階的な動機が重なり,両者の闘争を表現する。


08 「宇宙大戦争」タイトル・テーマ
リディア音階的かつ軍楽隊的な『宇宙大戦争』のタイトル・テーマ(M2)。4小節のファンファーレをリピートした後,Tempo di Marciaになる。


09 「怪獣総進撃」マーチ
ヴァイオリン,ヴィオラ,オーボエ,コール・アングレにって提示される5音階風でやや田園的に軽やかな『怪獣総進撃』(1968年,本田猪四郎監督)のマーチが加わる。これは,主旋律のみのスケッチに基づき,新しくオーケストレーションし直されたもの。この後,『宇宙大戦争』のタイトル・テーマが復帰し,再び『怪獣総進撃』マーチへ。


10 「宇宙大戦争」戦争シーン
『宇宙大戦争』のナタール人の月面基地を,千田是也率いる地球軍が攻撃するシーンの音楽(M26,M32,M34)によって,激越なフィナーレが形勢され,コーダに至る。


以上が切れ目なく演奏されます(演奏時間:約15分)。広上淳一/日本フィル盤はトラック分けされているので便利♪

ここまでいろいろ書きましたが,忘れてください。知らなくてもよいです。

私は上記の解説に出てくる映画はほとんど観たことがありませんが,音楽を聴いているうちに観た気になってしまうから不思議です。

YouTube

小松一彦/東京交響楽団

石井眞木/札幌交響楽団

原田幸一郎/新交響楽団

石丸寛/新星日本交響楽団

ゴジラ - 続・三丁目の夕日


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石井眞木(指揮)
新交響楽団
fontec 1984年11月23日
東京文化会館

13分28秒。伊福部昭に作曲を学んだ石井眞木の指揮による演奏です。東京文化会館という残響が少ない
会場での録音のせいか,ただでさえシンプルな響きがより一層際立ってモノクロの映画のオリジナルBGMに近い雰囲気がありますね。早めのテンポでぐいぐい進んでいくので,直線的な迫力がありますが,力押し一辺倒というわけでもなく「宇宙大戦争」夜曲のような曲ではぐっとテンポを落として豊かに歌っています。熱演であり小気味良い演奏ではあるのですが,潤いのない録音による乾いた響きのため,繰り返し聴くと飽きてしまうかもしれません。シンバルやタムタムがもうちょっと音量豊かだったら聴き応えがあると思います。他に,交響頌偈「釈迦」を収録。


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小松一彦(指揮)
東京交響楽団
EMI CLASSICS 1989年4月8日
ゆうぼうと(簡易保険ホール)

15分03秒。今年の3月30日に亡くなった小松一彦の指揮による演奏です。シンバルやタムタム,スネアその他の打楽器はこれぐらいの音量で派手に鳴らして欲しいものです(鳴らし過ぎかな?)。弦楽器もしっとりとして,かつ量感もあり,好ましいですね。録音会場の「ゆうぼうと」は音響の良いホールだったという記憶がありますが,今回の4枚の中では最も優秀な録音だと思います。演奏はテンポの緩急差が大きい大変ドラマティックかつロマンティックな大熱演で,そのねっとりとした歌はカロリー満点であり,これを聴いた後に聴くCDは不利です。大満足の1枚。現在はTOWER RECORD限定販売(最新リマスタリング)で,他に交響頌偈「釈迦」を収録。
小松一彦は生前「日本は初心者と専門家に分かれていて,真ん中の八割を占めるはずの聴衆がいない」と残念がっていたそうですが,真ん中の八割になりたいものです。


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広上淳一(指揮)
日本フィルハーモニー交響楽団
キングレコード 1995年8&9月
セシオン杉並ホール

14分53秒。この曲でお薦めを尋ねられたらこのCDが一番最初に思い浮かぶかもしれません。ひとつめは最も入手しやすそうだからという理由,ふたつめは最も標準的な演奏だからという理由からです。解説が片山杜秀さんだし,細かくトラック分けされていてどこがどの部分なのかも分かり易いので至れり尽くせりの決定盤でしょう。標準的な演奏と書いてしまいましたが,理想的な演奏と書き換えたほうがよいでしょう。ただ,この演奏も石井眞木指揮のCDと同様,デッドな録音ですので,オーケストラの響きも乾いた感じが強いです。それでも,演奏・録音共にこの曲の最上の記録を残そうという気概が感じられますので,このCDを第一に選ぶべきなのでしょうね。他の人もそう言ってますし。
このCDでは他に「SF交響ファンタジー第2番」「同第3番」「倭太鼓とオーケストラのためのロンド・イン・ブーレスク」を収録しています。


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ドミトリ・ヤブロンスキー(指揮)
ロシア・フィルハーモニー管弦楽団
Naxos 2004年5月3-12日
ロシア国営TV&ラジオ・カンパニー,
第5スタジオ

13分06秒。ロシアの指揮者とオーケストラによる演奏だという先入観をもたないで聴こう。私はあまり違和感を感じないで聴けました。とはいえ,日本人指揮者とオーケストラによる演奏のおどろおどろしい雰囲気とはちょっと違うし,メロディの節回しも演歌調でなくてスマート。オーケストラの響きのせいもあって,あまり泥臭くなく明るめで色彩感が増したよう。外国人が喋る日本語に似た演奏です。どちらかといえばマーチのほうがスムーズな演奏になっていますね。こういうのも面白いなぁと思います。他に「シンフォニア・タプカーラ」「ピアノとオーケストラのためのリトミカ・オスティナータ」を収録。このCDは,文字ぎっしりの片山杜秀氏の解説だけでも購入する価値があると思いますよ。


夜に浮き出るその黒いかたちに,「先生の音楽には和声が本質的に欠如している」と弟子の黛敏郎に言わしめた,伊福部昭の厚く暗く重いモノクロームな音楽がかぶるとき,御霊としてのゴジラはいよいよ完全なる姿を現し,不滅の負の破壊的生命を得るのである。
片山杜秀「音盤博物誌」(ARTES)の「ドシラとゴジラ」より


ヴォーン・ウィリアムズ「トマス・タリスの主題による幻想曲」のCD

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今回は,ヴォーン・ウィリアムズ(1872年10月12日-1958年8月26日)の管弦楽曲を取り上げようと思います。本当は別の曲を用意していたのですが,気が変わりました。

ヴォーン・ウィリアムズの管弦楽曲でCDに収録されていることが多いのは,グリーンスリーヴスによる幻想曲(1908年),揚げひばり(1914-20年),トマス・タリスの主題による幻想曲(1910年)でしょう。

それらに次いで多いのは,ノーフォーク・ラプソディ(1906-07年),「富める人とラザロ」の五つの異版(1939年),交響的印象「沼沢地方にて」(1904年)でしょうか。

そんなわけで,ヴォーン・ウィリアムズの最も有名な曲でCDの聴き比べもしやすい(書きやすい)「グリーンスリーヴスによる幻想曲」にしようと思ったのですが,当たり前過ぎるような気がしてきたのです。

ファンが多そうな「揚げひばり(舞い上がるひばり)」は,ヴァイオリン協奏曲に分類されていますので,管弦楽曲特集中の今回はパス。

結果として「トマス・タリスの主題による幻想曲」に決定です。管弦楽に固執しているのに管楽器が使われていない曲になってしまいましたが。

トマス・タリス(1505年頃-1585年11月23日)は、16世紀イングランド王国の作曲家でありオルガン奏者だそうです。英国教会音楽の父とよばれている人で,私の大好きなタリス・スコラーズの名称もこの作曲家に由来しています。

そのトマス・タリスが1567年に作曲した「大主教パーカーのための詩篇曲」の第3曲の旋律が「トマス・タリスの主題」というわけです。

初めて聴いた人は,どの部分がタリスの主題かわからないと思います。
そんな貴方様にこれをご紹介しておきます。
これは面白い。よくぞ作ってくれました!という感じ♪

All Miku【初音ミク】RVW Fantasia on a Theme of Thomas Tallis(冒頭部分)に・・・


レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ
トマス・タリスの主題による幻想曲
Fantasia on a Theme of Thomas Tallis

ウィキペディアによるとこの曲の楽器編成は,①弦楽オーケストラから成る第1アンサンブルと、②2人ずつの小編成による第2アンサンブルと,③弦楽四重奏という3群に分けられた弦楽合奏から成り立っているそうです。これにより教会内部の音響効果とかオルガンの響きを模しているのだとか。

BBC National Orchestra of Wales
Tadaaki Otaka conductor
Royal Albert Hall, 31 July 2012

尾高忠明さん,指揮姿が美しいです!

それで,各CDを聴いた感想なのですが,この曲は少々書きづらいです。毎日聴き続けたのですが,掴みどころがないのです。終わりそうで終わらなくて取り止めがない感じ。草原を渡る気まぐれな風,寄せては返す波,のような音楽です。波って大きな波が来たり小さな波が来たりして,展開が予測できないでしょう。ちょっと落ち着かない心地がするのですが,それが自然のような気もするし,そんな感じの音楽。「幻想曲」だから?

ここのところ,仕事が忙しかったせいもあり,電車の中ではぼーっとしている(寝ているともいう)ことが多かったので,「トマス・タリスの主題による幻想曲」をとても心地よく聴くことができたのですが,それぞれの演奏の特徴を書こうとすると手が止まります。

でも書こう。次の曲に進むために。次があれば。

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ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)
フィルハーモニア管弦楽団
EMI CLASSICS 1953年11月11日録音
カラヤン(14分54秒)唯一のヴォーン・ウィリアムズの録音です。カラヤンのレコーディング・レパートリーの中には演奏会で取り上げていない曲もありますが,「トマス・タリスの主題による幻想曲」はコンサートで演奏しています。まだ若い(といっても45歳の)カラヤンの演奏はドラマティックで,この頃からカラヤンはカラヤンであったのだなぁと感慨深いものがあります。この曲はやっぱりステレオ録音で聴きたいので,モノラル録音の当CDはお勧めでないのですが,切り捨てるには惜しいです。むしろこれは名演なのではないかと思った次第で,濃厚な表現は1970年代のカラヤンに通じるものがあり,曲のイメージと若干ずれてしまったかもしれないけれど,圧倒されるものがありました。

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ディミトリ・ミトロプーロス(指揮)
ニューヨーク・フィルハーモニック
SONY CLASSICAL 1958年3月3日録音
ミトロプーロス(12分44秒)は,もっといろいろ聴いてみたいのですが,あまりCDを持っていません。現在発売されているCDでは多い順にヴェルディ,マーラー,プッチーニ,モーツァルト,チャイコフスキー,R・シュトラウス,ベートーヴェンといったレパートリーです。マーラーはバーンスタインに手ほどきをしたぐらいですから当然ですが,ヴェルディが一番多いというのは意外でした。短めの録音時間からも分かるとおり,すっきりすいすい進んでいきますが,しかしあっさりしておらず,情感豊かで熱い演奏です。カラヤンと似ているかな……。

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サー・ジョン・バルビローリ(指揮)
シンフォニア・オブ・ロンドン
EMI CLASSICS 1962年5月17日録音
バルビローリ(16分20秒)は,粘り気のあるロマンティックな演奏。後半の3枚はグリーグを思わせるところがありますが,この演奏にはチャイコフスキーを感じます。今さらですが,バルビローリって音楽が熱いというか,イギリス人指揮者という感じがあまりしない人ですよね。念のために調べてみると「イタリア人の父とフランス人の母の間にロンドンで生まれる(ウィキペディア)」とあります。彼の指揮による「グリーンスリーヴスによる幻想曲」を聴くとよくわかるのですが,いろいろなことをやっていますので聴き慣れた曲でも新鮮味を感じます。この曲でも無意識のうちに曲をよく聴こうというしている自分に気がつきます。そういう演奏です。

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サー・ネヴィル・マリナー(指揮)
アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
DECCA 1972年録音
マリナー(15分13秒)は,聴かせ上手で求心力のある演奏ですね。オルガン的な音響が素晴らしいと思いますし,強弱の幅も大きく,録音が派手めなこともあってわかりやすいです。曲によっては高弦がきつく感じられるときもありますが,弦の美しい響きが楽しめます。ヴォーン・ウィリアムズの管弦楽曲集をとりあえず1枚という方には,このCDがよいかも。

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バリー・ワーズワース(指揮)
ニュー・クィーンズ・ホール管弦楽団
DECCA 1992年10月12-14日録音
ワーズワース(15分41秒)は,U野K芳さんが推薦していたので思わず買ってしまいました。私が初めて買ったヴォーン・ウィリアムズのCDだったと思います。次のトムソン盤に共通するものがありますが,こちらのほうが録音がキリっとしているせいもあって,より私の好みに近いかも。ただ,トムソン盤のほうが弦の量感が豊かで聴き映えがしますので,一般にはあちらをお勧めしたいと思います。ワーズワース盤のほうが地味に感じられるのですが,清楚で細やかな神経が行き届いていると思います。

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ブライデン・トムソン(指揮)
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
CHANDOS 1986年6月25-26日録音
トムソン(16分13秒)は,今回一番のお勧めです。今回の聴き比べではこの演奏が基準となりました。過不足がなく調和がとれているところが好ましいです。それがこの曲には大事ではないかと思います。ロンドン・フィルの演奏も美しく,ややソフトだけれども厚みのある録音は耳に心地よくて,このような演奏であれば何度も繰り返し聴きたいと思えます。


新 長岡鉄男の外盤A級セレクション(共同通信社)

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オーディオ評論家の長岡鉄男さん(以下敬称略)が亡くなったのは2000年(平成12年)5月29日のことで,あれは私にとって大変ショックな出来事でした。

長岡鉄男が書いた文章を読むのが好きだったのです。オーディオに関してではなく,録音に関してでもなく,エッセイ。「長岡鉄男のレコード漫談(計3巻)」「長岡鉄男のディスク漫談(計2巻)」(以上,音楽之友社)等からいろいろな影響を受けました。長岡鉄男の物の見方,考え方が好きだったのですね。



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長岡鉄男のレコード漫談
玉石混交のレコード紹介240
音楽之友社
昭和59年10月20日第一刷発行


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長岡鉄男のディスク漫談
玉石混交のディスク紹介201
音楽之友社
1989年10月15日第一刷発行


この記事のタイトルである「長岡鉄男の外盤A級セレクション」は,共同通信社から1984年7月16日に発売されました。「FM選書33 長岡鉄男の外盤A級セレクション 1」というタイトルでしたが,第1巻ということは,第2巻以降があるのでしょうか?

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長岡鉄男の外盤A級セレクション
共同通信社
1984年7月16日第1刷発行


この本,「レコード漫談」や「ディスク漫談」と異なり,エッセイの部分がなく,録音のよいレコードをひたすら紹介するだけの実用本位な本なので,私はあまり読んでいなかったのですが,この本が先月復刊されました。


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長岡鉄男の外盤A級セレクション
共同通信社
2013年8月17日第1刷発行


某インターネットショップで予約したのですが,一緒に注文した本の発売日が8月末であったため,届いたのは昨日でした。手にした第一印象は,ひと回り大きくなってずいぶん立派な本になったなということ。

この本で紹介されている100枚のレコードのジャケット写真が冒頭にカラーで掲載されています。レコードごとの目次が付いたのも便利です。どの頁にどのレコードが掲載されているのかすぐに調べることができるようになりました。以前は付箋紙が必要な本だったのです。

しかし,この本の最大の特徴は,100枚のLP音源の中から13トラックを収録したSACDハイブリッドディスク(サウンドサンプラー)が付属していることです。

紹介されている100枚のLPはクラシック音楽中心(99枚目はピンク・フロイド!)なのですが,結構マイナーというか,普通の人は買わないレコードが多いです。この中で私が持っているのは10枚ぐらいしかないかな。入手し難いったらありゃしない音源ばかり(かなりのLPがCD化されていないか,廃盤?)。

そういうわけで,付録のSACDハイブリッドディスクに興味を持ち購入しました。本自体は使いやすくなったものの,内容は全く変わっていませんからね。(「新」じゃないじゃん!)

このSACDの収録曲は以下のとおりです。

『ラ・スパーニャ』より
フランチェスコ・カノーヴァ・ダ・ミラノ:スパーニャ・コントラプント
トッレ:ダンサ・アルタ「ラ・スパーニャ」
ヴェラルディ:イストリア・ベティカ
 グレゴリオ・パニアグワ指揮、アトリウム・ムジケー古楽合奏団(BISSA1963)

アラブ・アンダルシアの音楽~ムッサダル
 グレゴリオ・パニアグワ指揮、アトリウム・ムジケー古楽合奏団(HMA195389)

サント=コロンブ:コンセール第44番「悲しみの墓」
 ジョルディ・サヴァール&ヴィーラント・クイケン(ヴィオール)(AVSA9885)

タランチュール=タランテラ~アンティドトゥム・タラントゥレー(毒蜘蛛の解毒)
 グレゴリオ・パニアグワ指揮、アトリウム・ムジケー古楽合奏団(JMXR24202)

J.S.バッハ:リュート組曲第4番変ロ長調 BWV.1010~プレリュード
 ホプキンソン・スミス(リュート)(E8938)

ペルゴレージ:スターバト・マーテル~ドロローサ
 ルネ・ヤーコプス指揮、コンチェルト・ヴォカーレ(HMA1951119)

C.P.E.バッハ: ファンタジア I
 インガー・グルディン・ブラント(クラヴィコード)(BIS142)

モーツァルト:幻想曲ニ短調 K.397
 ヨス・ヴァン・インマゼール(フォルテピアノ)(ACC10018)

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番ハ短調 op.111~第1楽章
 パウル・バドゥラ=スコダ(フォルテピアノ)(XRCG30001)

超絶技巧トランペット~アレクシス:ソナチナ
 エドワード・タール(トランペット)(BIS152)

ジョン・ケージ:4人の奏者のための第2コンストラクション
 クロウマタ・パーカッション・アンサンブル(BIS232)


これが結構面白くてあっという間に聴き終えてしまいました。なるほど,優秀録音というのはこういうものかと再認識することができました。いやぁ,スゴイ! こんなに生々しく鮮烈な音がうちのステレオから出るなんてビックリです。LPで聴くのとでは若干異なる音質なのでしょうけれど,しっかり堪能できました。このSACDは私のオーディオチェック用ディスクとして活躍することでしょう。

この中で,録音演奏共に最も素晴らしいと私が思うものを1曲あげるなら,パウル・バドゥラ=スコダハンマーフリューゲルによるベートーヴェンのソナタ第32番でしょうか。



ところで,どうして長岡鉄男なのかというと,次の記事で書こうと思っている曲の録音状態が気になって長岡鉄男の「レコード漫談」で調べたところ,「(略)コレクションの中に本物は五枚しかなかった。もともとあまり好きな曲ではない。コケおどしのダサイ曲だ。すぐ飽きてしまう。せっせと集めるほどのものではない」と書かれていたのに笑ってしまったからです。

次回は(私はそう思っていないけれど)「コケおどしのダサイ曲」です♪
(の予定でしたが,後送りにします。次回は「コケおどしのダサイ曲ではありませんよ。9月5日)

ジョルディ・サヴァール 無伴奏の夕べ

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ジョルディ・サヴァール 無伴奏の夕べ

2013年9月13日(金)19:00開演
銀座 王子ホール
ジョルディ・サヴァール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)

●祈り
 K.F.アーベル:前奏曲
 J.S.バッハ:アルマンド(無伴奏チェロ組曲第5番ハ短調BWV1011より)
 J.シェンク:アリア・ブルレスカ

●哀惜
 サント=コロンブ2世:ロンドー形式によるファンテジー
 サント=コロンブ:涙
 作者不詳(フランスのブルターニュ地方):哀歌「ああ、思い出して」に基づく変奏と即興
 J.S.バッハ:ブーレ(無伴奏チェロ組曲第4番 変ホ長調 BWV1010より)

●人間の声
 ドゥマシ:前奏曲 ニ長調 
 M.マレ:人間の声、ミュゼットI-II、跳躍

********** 休憩 **********

●「音楽の諧謔」
 トバイアス・ヒューム:戦士の行進 / ヒューム大佐のパヴァーヌ&ガリアルド
 聞け、聞け / 戦士の決意

●「リラ・ヴァイオルのためのレッスン集」
 A.フェラボスコ:コラント
 T.フォード:ここでいいじゃないか
 J.プレイフォード:鐘、サラバンド へ長調

●作者不詳(1580年頃):バグパイプ・チューニング
 ポイントあるいは前奏曲 / ランカシャー・パイプス / ラムゼイの豚
 一杯のお茶 / バーディーのケイト / おもちゃ

******** アンコール ********

 作者不詳:アバーゲルディ城セット(モイラ卿セット)より
 作者不詳(フランスのブルターニュ地方):哀歌「ああ、思い出して」に基づく変奏と即興
 マラン・マレ:ミュゼット ト長調



ジョルディ・サヴァール(Jordi Savall, 1941年8月1日 - )で検索するといっぱい出てくるCD(SACDのほうが多い)の数々。(前回の記事でも,ジョルディ・サヴァール&ヴィーラント・クイケンのCDが登場しています。)


いつかサヴァールの生演奏を聴いてみたいと思っていたのですが,ついにその日が訪れました。

本当は,サヴァール指揮のエスペリオンXXI か,コンセール・デ・ナシオンを聴いてみたかったのですが,今回はサヴァールによるヴィオラ・ダ・ガンバの独奏です。

一週間の仕事で疲れている金曜日の夜なので,途中で寝てしまうのではないかと心配でしたが,最後まで夢中になって聴いてしまいました。

演奏が終わってから聴衆にお辞儀するサヴァールの神々しいことといったら!

しばらくの間,弦楽器のソロ・コンサートでこんなに感動することはありえないと思ったくらい。

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ジョルディ・サヴァールはバルセロナ県の都市イグアラダに生まれた。6歳で地元の少年合唱団に参加して音楽を始め、バルセロナ音楽院でチェロを学ぶ。1964年に同音楽院を卒業すると翌年独学でヴィオラ・ダ・ガンバおよび古楽を学んだ。1968年よりバーゼル・スコラ・カントルムで研鑽を積み、73年に師であるアウグスト・ヴェンツィンガーを継いで後進の指導に当たった。
今日の音楽界における傑出した人物として知られ、奏者およびディレクターとして過去30年以上に渡り調査、研究、そして解釈に力を注いでいる。忘れ去られていた音楽の宝物を再発見することに献身し重要なレパートリーを復元、ヴィオラ・ダ・ガンバ音楽のファン層を広げている。また、古楽声楽家モントセラト・フィゲラスと共に3つのアンサンブル―エスペリオンXX、ラ・カペラ・レイアル・デ・カタルーニャ、そしてル・コンセール・デ・ナシオンを立ち上げ、美と感情の世界を探求、創造し、世界中の何百万人という音楽ファンに感動を与えた。
サヴァールが音楽を担当したアラン・コルノー監督の映画「めぐり逢う朝」(1991年)のサウンドトラックはセザール賞を受賞、また、その活発な演奏活動および録音企画は、古楽がエリート趣味あるいは少数にのみ支持される音楽では無いことを証明しており、ファン層を広げ、若い聴衆の心をつかんでいる。
これまでに、仏ル・モンド・ドゥ・ラ・ミュジク誌の“ミュージシャン・オブ・ザ・イヤー”、仏ヴィクトワール・ドゥ・ラ・ミュジクの“ソリスト・オブ・ザ・イヤー”、スペイン“芸術金賞”、ウィーン・コンツェルトハウスの名誉会員を含む数々の名誉ある賞を受賞。またフランス文化省より芸術文化勲章オフィシエを授与されている。



サヴァールのサインが欲しくて買ってしまったCDです。3,000円の国内盤を買いましたが,ネットで1,290円の輸入盤を購入できる皆さんは幸せです。(キングさん,ごめんなさい。国内盤は日本語解説が付いているのでお薦めですよ!)

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サヴァール/《人間の声》~無伴奏ガンバ作品集
1998年デジタル録音。カタロニア出身の名ガンバ奏者ジョルディ・サヴァールによる無伴奏作品を集めたアルバム。
アーベル、J.S.バッハ、マレ、サント=コロンブをはじめとする 作曲家のガンバ(チェロ)作品などから曲を選び、サヴァール自身が5つの組曲に再構成、それそれが様々な作曲家による3~5曲からなる組曲としているのが特徴です。
表題のマレ作曲《人間の声》に代表されるように、極めて人声に近いガンバの特徴を活かした演奏です。6弦の1550年ザネッティ製の楽器を3種類の調弦、7弦の1697年ノーマン製と、2つの楽器を使い分けています。

私はCDにサインをもらいません。日付を覚えておきたいので,コンサートのパンフレットにサインしてもらうことが多いです。

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サインが終わった後,すっと手を差し伸べてぎゅっと握手してくれました。ううっ。

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写真撮影は「可」だったんですよ。


追記:この日はNHKさんが映像収録をしていました。11月に放送されるそうです。

ビゼー「アルルの女」の名盤

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ビゼー作曲の「アルルの女」は大好きな曲で,管弦楽曲の中からどれか1曲をあげろと言われたら,有力な候補となります。とにかくメロディが好き。そして魅力的な管弦楽法。

第1組曲「メヌエット」中間部のアルト・サクソフォーンとクラリネット,(同)「カリヨン」中間部のフルート,第2組曲「パストラール」の太鼓のリズムに乗って奏されるフルートとクラリネット(+ピッコロとオーボエ),(同)「間奏曲」のサクソフォン,(同)「メヌエット」のフルートによる旋律がどうしようもなく好きなのです。

ジョルジュ・ビゼー「アルルの女(L'Arlesienne)」

第1組曲(ジョルジュ・ビゼー編)
 第1曲「前奏曲」
 第2曲「メヌエット」
 第3曲「アダージェット」
 第4曲「カリヨン」

第2組曲(エルネスト・ギロー編)
 第1曲「パストラル」
 第2曲「間奏曲」
 第3曲「メヌエット」
 第4曲「ファランドール」

CDの聴き比べは以下に絞りました。Yahoo!ブログは最大5,000文字までなので!


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サー・トーマス・ビーチャム指揮
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
EMI CLASSICS 1956年4月21日

ビーチャムはロイヤル・フィルとの「ペール・ギュント」(1956・57年)がとても素晴らしかったので,すごく期待して購入したCDでした。買った当時は期待はずれで,その後長く聴いていなかったのですが,これはなかなか良い演奏です。全体にごつごつしていて肌触りが悪いのですが,その田舎っぽさが懐かしい感じがして心地良いです。他の盤は洗練されていて音楽の流れがスムーズなのですがこの演奏はところどころに引っかかるところがあります。しかし,各曲中間部の素朴な味わいにはぞくっとくるものがあり,当盤の唯一無二の魅力となっているのです。

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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
フィルハーモニア管弦楽団
EMI CLASSICS 1958年1月

カラヤンがベルリン・フィルの芸術監督&常任指揮者に任命されたのは1955年4月5日ですが,その後も1960年頃までフィルハーモニア管との録音は続けられました。「アルルの女」はベルリン・フィルとの録音が複数あるので,これは参考までに聴いてみたのですが,とても良かったのでご紹介しておきます。カラヤンの解釈に大きな変化はありませんが,音楽の流れが自然で力強く,颯爽として活力があり,表情づけが多彩で憎らしいくらい上手。オーケストラの総合的な魅力はベルリン・フィルに及ぶべくもありませんが,ビゼーの音楽に素直に浸れるという点で捨て難い魅力があります。

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イーゴリ・マルケヴィッチ指揮
パリ・ラムルー管弦楽団
PHILIPS 1959年12月

「カルメン」と「アルルの女」のそれぞれ第1組曲・第2組曲に小組曲「子供の遊び」(これのみオケはソヴィエト国立管弦楽団)を収録したビゼーづくしの1枚。いかにもマルケヴィッチらしいメリハリの利いた音楽で,以前褒めちぎった記憶がありますが,意外に古い時代の録音だったのですね。素晴らしい音でしたのでまったく気がつきませんでした。「アルルの女」の悲劇性なんて知ったこっちゃないというような割り切り方,潔さがかっこよく,シンフォニックかつスタイリッシュで現代的・機能的な名演。そこから浮かび上がるビゼーの音楽の美しさはたとえようもなく素晴らしいと思います。

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アンドレ・クリュイタンス指揮
パリ音楽院管弦楽団
EMI CLASSICS 1964年1月13-15日

名盤としての評価がダントツで録音評がすこぶる悪いCD。個人的には当初あまり魅力を感じずお蔵入りしていましたが,SACD化されたのを契機に聴き直して不明を恥じたという演奏です。情感の折込み方が独特で湿度が高いように感じられます。洗練と素朴の間の絶妙なポジションにある演奏であり,それゆえ多くの人の共感を得ることができるのでしょう。パリ音楽院管の蠱惑的な音色のおかげもあって,欠点と感じるようなことも「味わい」に置き換えてしまう絶対的な魅力があります。しかし,意外に素っ気ない部分もあったりしてクリュイタンスだったらもっとできるんじゃないでしょうか。ESOTERICのSACDで聴きましたがこれなら録音は悪くないと思いました。EMIのSACDとどっちが音質が良いのか気になるところです。

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イーゴリ・マルケヴィッチ指揮
モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団
DENON 1969年

7月に発売されたタワーレコードの「コンサートホール原盤」復刻シリーズの1枚。マルケヴィッチが10年後に再録音していたなんで知らなかったので思わず買ってしまいました。フランスの地理に疎い私ですが,モンテカルロはアルルに近いのでしょうか,オーケストラの音色が曲に合っている気がします。前録音はどこか肩肘張ったようなところがあって,力づくで音楽をねじ伏せているようなところもあったのですが,この演奏はもっと柔軟で伸びやかな印象を受けます。完璧さでは旧録音,自然な感興は当録音ということで,これもご紹介しておきたいと思いました。音質は復刻に用いたテープの状態がよくないのか,この年代としては古めかしさを感じますが,鑑賞するのには全く差し支えないです。

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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ダニエル・デファイエ(sax)
Deutsche Grammophon 1971年12月28・29日

私が初めて買った「アルルの女」です。当時は「カルメン」組曲が好きで「アルルの女」にはそれほど魅力を感じていなかったのですが,第1組曲のメヌエットとカリヨン,第2組曲のメヌエットを飽きずに繰り返し聴いていました。「刷り込み」となってしまっている演奏なので客観的な感想を書くのが難しいのですが,オーケストラを徹底的に磨き上げた,洗練の極みとも言うべき演奏ですが,あまりに完璧過ぎて壁を感じます。もう少し素朴さがあったら言うことなしの超名演になったでしょう。しかし,カリヨン中間部の極上の木管アンサンブルなど他では聴くことができず,ついつい手を伸ばしてしますCDとなっています。第2組曲のメヌエットは当盤が最高でしょう。鳥肌モノですよ。

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ミシェル・プラッソン指揮
トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団
アンチョン・アイェスタラン合唱指揮
オルフェオン・ドノスティアーラ合唱団
EMI CLASSICS 1985年

この盤以前に全曲版の録音が存在していたのか知りませんが,(オリジナル編成ではないけれど)劇音楽「アルルの女」作品23バージョンです。手軽に全曲が聴けるなんて本当に良い時代になったと思いますが,このCDを中古ショップでよく見かけるのは,期待ハズレに思う人が多いからでしょうか。組曲版は名曲揃いなので,他にも良い曲があるに違いないと思って聴くと,あれっ?ということになります。同じ27曲でもグリーグの「ペール・ギュント」とは違うのです。「アルルの女」全曲版はオーケストラの編成も特殊ですし,フラグメント集みたいに聴こえますので。だから,ビゼーが第1組曲を編曲した後,残された曲で第2組曲を構成しなければならなかったギローは素材不足に陥って歌劇「美しきパースの娘」から1曲(メヌエット)転用しなければならなかったのでしょう。さて,このCDの演奏について触れると,各曲に対するプラッソンの解釈は理想的と思いますし,優秀なオーケストラと合唱,エコーの多い録音によって聴き栄えのする演奏に仕上がっています。全曲版もなかなか捨てたもんじゃないと思うのですが,後に登場するリッツィ盤に比べると少々華美にも感じられますね。あと,国内盤では全5幕と表示されているのが不思議で,リッツィ盤は全3幕です。プラッソン盤は全27曲を11トラックにまとめているのも不便です。

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クリスファー・ホグウッド指揮
セント・ポール室内管弦楽団
DECCA 1989年11月

オリジナル・スコアから6曲(前奏曲,メヌエット,導入曲,メロドラム,パストラル,カリヨン)を抜粋して編まれたホグウッド版のオリジナル組曲です。「アルルの女」に対する私の関心がこちらのスタイルに向いてしまっているので,このような演奏は大歓迎です。前奏曲は小編成のほうが聴きやすいと思うのです。ハープではなくピアノなのが新鮮ですし,メヌエットも弦が少ないので物足りなさを覚えますが,全てがよく聴こえるので楽しいです。導入曲は間奏曲のことで明るさが際立ちます。メロドラムはカリヨン中間部に挟まれてアダージェットが弦楽四重奏で演奏されますが,このほうが曲にふわしいと感じます。パストラルも組曲版では威圧的に始まりますがこの演奏は小気味よいですね。なお,パストラルの中間部はありません。次のカリヨンも同様で実に爽やかです。これも中間部がないのであっという間に終わります。ホグウッドには,バーゼル室内管弦楽団との再録音(Arte Nova)がありまして,そちらを取り上げたかったのですが,今回は間に合いませんでした。

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カルロ・リッツィ指揮
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
テリー・エドワース合唱指揮
ロイヤル・コヴェント・ガーデン歌劇場合唱団
TELDEC 1994年11月

前奏曲,第1幕(第2~6曲),第2幕(第7~17曲),第3幕(第18~第27曲)の全曲盤です。同じ全曲でもプラッソン指揮と比べるとこちらのほうが素朴で劇付随音楽らしい趣があります。全体に小気味よく威圧感のない演奏なので安心してビゼーの音楽に浸れますし,27トラックに分割されていますので,資料的な価値もありますね。ただ,組曲版のアレンジを用いていている曲もあり,折衷的です。組曲版となるべく違和感がないよう聴いてもらおうという配慮なのでしょうけれど,そろそろオリジナル編成による全曲盤を聴いてみたいところです(存在するのかな?)。ただ,このリッツィ盤の演奏はなかなか良くて私のお気に入りなのです。あれこれ策を弄せず正攻法で演奏しているのが良く,地味で物足りないと感じる人もいるかもしれませんが,「アルルの女」の音楽の素晴らしさを素直にありのままに表現している演奏と思います。あまり売れなかったCDでしょうし,再発売の見込みもないと思いますが,中古ショップで見かけたら入手することをお勧めします。

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マルク・ミンコフスキ指揮
レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル
リヨン歌劇場合唱団
Naive 2007年

第1組曲と第2組曲の間に劇付随音楽から選んだ7曲を演奏するという不思議な構成は中途半端かも? 演奏は素晴らしいです。緩急自在で切れが良く伸びやかで繊細な歌を聴かせてくれる前奏曲,快速テンポでやはり小気味よいメヌエット,一転して荘重(サウンドは軽やか)なアダージェット,リズムの刻みがユニークなカリヨンは中間部がとても美しい,といった具合にとても洗練されています。挟まれたミンコフスキ編の7曲はパストラルから始まるので,第2組曲だと思って聴いていた人は途中で驚くでしょうね。この7曲(合唱入り)が最大の聴きものかもしれません。全曲盤だったらよかったのにと思いました。第2組曲から聴き慣れたギロー編でオリジナル楽曲との比較という形になりますが,同じ曲が形を変えて繰り返されていることに不思議な気持ちになります。オリジナルを聴いてしまった後なので,第1組曲のときのような新鮮さをあまり感じません。アルバムの構成としてはよろしくないような気がするのですが,ミンコフスキという人はチャレンジ精神旺盛な人なので,あれこれやってみたいのでしょうね。ファランドールは期待どおりの盛り上がりですが,それにしてもルーヴル宮音楽隊って,よいオーケストラですね。


「アレやコレが入ってないじゃん!」と思うかもしれません。私もアレやコレは入れなきゃいけないと思ったのですが,それらは次回(未定)のお楽しみということで,今回はご容赦いただきたいと思います。


最後に,以前の記事で「(私はそう思っていないけれど)コケおどしのダサイ曲」と書いたのはこの曲ではありません。念のため!

ホルスト「惑星」の名盤

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この曲は,2009年の1月24日(土)にアップしていました。

当時のコメント欄に「夏になったら挑戦してみます」と書いてありましたので,改めて記事にしてみたいと思います。

グスターヴ・ホルスト
大管弦楽のための組曲「惑星」(The Planets)作品32

火星,戦いをもたらす者(Mars, the Bringer of War)
金星,平和をもたらす者(Venus, the Bringer of Peace)
水星,翼のある使者(Mercury, the Winged Messenger)
木星,快楽をもたらす者(Jupiter, the Bringer of Jollity)
土星,老いをもたらす者(Saturn, the Bringer of Old Age)
天王星,魔術師(Uranus, the Magician)
海王星,神秘主義者(Neptune, the Mystic)


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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
DECCA 1961年9月
ウィーン,ゾフィエンザール

この曲をローカル名曲からインターナショナル名曲に押し上げた録音と言われています。いまだにこの演奏が最高という人もいるでしょうけれど,名盤がいっぱい現われてしまった今日,改めて聴くと少々複雑な思いがします。指揮者もオーケストラも頑張っているけれど,少々ぎこちなさを感じます。それが初々しくてよいのかもしれません。「木星」以降の演奏が好きですが,この演奏の売りは何と言ってもウィーン・フィルの独特な音色でしょう。なお,この録音に関しては斜めのジャケットのOIBP盤のリマスタリングはよくないと思います。

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ズビン・メータ指揮
ロサンジェルス・フィルハーモニー管弦楽団
ロジェ・ワーグナー合唱指揮
ロサンジェルス・マスター・コラール女声合唱
DECCA 1971年4月
ロサンジェルス,ロイスホール

DECCAのスペクタル名曲路線を担当していた頃のメータ/ロス・フィルのコンビによる演奏。楽譜に書かれている音符は全部聴かせてやんよという録音とダイナミックな演奏による効果満点な1枚。意外に「金星」や「水星」も良いです。このタイプの名演奏・名録音が多くなってしまった今となっては分が悪いのですが,忘れられない一枚です。

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レナード・バーンスタイン指揮
ニューヨーク・フィルハーモニック
アブラハム・カプラン合唱指揮
カメラータ・シンガーズ
SONY CLASSICAL 1971年11月・12月
ニューヨーク,エイヴリー・フィッシャー・ホール

中学生の頃,友人宅で聴かせてもらった演奏で,「惑星」全曲を聴いたのはこのときが初めてだったと思います。「火星」や「水星」はこんなにテンポが速かったかなぁ。瑞々しい感性と覇気がみなぎるバーンスタインによる若々しい熱演といったところでしょうか。ややオフマイク気味の録音ですが,悪くはありません。「水星」なんてとても良いと思います。

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ユージン・オーマンディ指揮
フィラデルフィア管弦楽団
ロバート・ペイジ&マリア・ザッツマン合唱指揮
フィラデルフィア・メンデルスゾーン・クラブ
RCA 1975年12月18日
フィラデルフィア,スコティッシュ・ライト・カテドラル

オーマンディとフィラデルフィア管弦楽団が残した多くの録音の中でも最高傑作のひとつではないでしょうか。輝かしいサウンドはやや高域を持ち上げた録音のせいもあり大変豪華な印象を与えます。少々やかましいですけれどね。指揮も,オーマンディってこんなに濃い味つけをする人だったっけ?と思わせるような高カロリーのものです。効果満点という言葉はこちらに使うべきでした。そういう演奏であり録音です。「土星」ラスト近くのオルガンの重低音がすごい……。

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エイドリアン・ボールト指揮
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
ジェフリー・ミッチェル合唱団
EMI CLASSICS 1978年6月・7月
ロンドン,アビー・ロード第1スタジオ

「惑星」のスペシャリストであるボールトの5回目にして最後の録音(ですよね?)。「惑星」はボールト指揮の演奏が一番というコメントをよく見かけます。そんなに決めつけなくてもいいじゃんって思うんですけれど,こうして聴き比べてみると,やはりこれは名演であったのだなと感心します。どの曲もこう演奏されなければいけないというような信念が感じられ,まさにその通りだと思わされます。演奏効果が節度を保ちつつきちんと表現されているのが素晴らしく,感動的でもあります。聴き比べの最後にもう一度聴き直してみたいと思わせる名盤。

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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
RIAS室内合唱団
Deutsche Grammophon 1981年1月
ベルリン,フィルハーモニーザール

カラヤンの20年ぶりの再録音。晩年になってなぜこの曲?という思いもありましたが,録音してくれて感謝したい演奏です。前録音はオーケストラの音色が面白かったものの未熟な印象がありました。しかしこのベルリン・フィルとの再録音は,音楽づくりの完成度が高く,「惑星」のお手本といっていいくらいの名演だと思います。。
なお,OIBP(KARAJAN GOLD)盤のほうがゴージャス感がありますが,初期デジタル録音の情報量の少なさをエコーでごまかしているような気もします。私は初期盤のほうが好きで,オーケストラの音が自然で楽器の分離がよいですし,例えば「天王星」フル・オルガンの上行グリッサンドも初期盤のほうがきちんと聴こえていました。(でも,初めて買う人はOIBP盤のほうが聴き映えがしてよいかも。)

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ロリン・マゼール指揮
フランス国立管弦楽団
フランス国立放送合唱団
SONY CLASSICAL 1981年
パリ,フランス国立放送104スタジオ

マゼールはなにかやってくれるのではないかと期待させる指揮者ですが,この演奏も裏切りません。それがあちこちにそれがあるわけではなく,どこかはネタバレになるので書きませんが,興味がある人は聴いてみてください。いや,興味がなくてもこの「惑星」は秀演と思いますので是非。楽器のバランスがとてもよく,聴いていて非常に気持ちがよいです。録音も優秀です。全体的に美しく丁寧に仕上げた演奏で,フランスのオーケストラらしい色彩感も魅力的です。

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シャルル・デュトワ指揮
モントリオール交響楽団
イワン・エドワース合唱指揮
モントリオール合唱団
DECCA 1986年6月
モントリオール,聖ユスターシュ教会

頭に楽譜が浮かんでくるようなDECCAらしい精密な描写の録音。オルガンの音が最もよく聴こえます。私は一時期このCDが一番好きだったのですが,やっぱりいいですね。初めて聴いたときは,モントリオール交響楽団がここまで壮麗な音が出せるオーケストラと思わなかったので驚きました。聴かせ上手なデュトワの指揮にも全く不満はなく,演奏・録音共に総合点の高いCDでしょう。無難な演奏ともいえますが,この洗練度,完成度の高さは一頭地を抜いていると思います。

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コリン・デイヴィス指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ディートリヒ・クノーテ合唱指揮
ベルリン放送女声合唱団
PHILIPS 1988年11月
ベルリン,フィルハーモニー

指揮者の誠実な人柄を想像させる演奏です。したがって「金星」「水星」「土星」「海王星」は美しい演奏で申し分のない丁寧な仕上りです。「火星」「木星」「天王星」も各曲がもつ演奏効果をストレートに生かした力強いもので大変聴き応えがあります。そしてベルリン・フィルのアンサンブルはカラヤン盤より一層緻密ですので,こちらを好む人も多いでしょう。録音が優秀なのも嬉しいですね。飽きの来ない名演だと思います。〔以上,書き直しました〕

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ジェイムズ・レヴァイン指揮
シカゴ交響楽団
マーガレット・ヒリス合唱指揮
シカゴ交響女声合唱団
Deutsche Grammophon 1989年6月
シカゴ,オーケストラ・ホール

このCDを購入したとき,これで「惑星」のCDはもう買う必要がないと思った演奏であり録音でした。シカゴ交響楽団によるこの曲のスペクタキュラー路線での決定的演奏に,お腹がいっぱいになってしまったのです。オーケストラが優秀で,録音もよく,レヴァインも演出巧者で,言うことなしです。ひとつの方向の頂点。でも,聴いているうちに疲れてきちゃう?

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ジョン・エリオット・ガーディナー指揮
アーヒム・ホールプ副指揮
フィルハーモニア管弦楽団
モンテヴェルディ合唱団(女声)
Deutsche Grammophon 1994年
ロンドン,オールハローズ・ゴスペル・オーク 

ガーディナーの「惑星」ってなんか違和感がありますが,ガーディナーはホルストに縁があるのだそうです。このCDは購入したときから好きで,個人的にはレヴァイン/シカゴ響の定評ある演奏よりしっくりくるのは,イギリスの指揮者とオーケストラによる演奏だからでしょうか。各曲の性格分けが的確で,オーケストラも巧く,録音も大変優秀ですから最初の1枚としてもお薦めです。世間の評価があまり高くないみたいで残念。良い演奏だと思うんだけどな。併録のグレインジャーの「戦士たち(管弦楽と3台のピアノのための想像上のバレエの音楽)」が面白い曲で,なかなかポイントが高いCDです。

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サイモン・ラトル指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
グリットン・ロビン,サイモン・ハルジー合唱指揮
ベルリン放送合唱団
EMI CLASSICS 2006年3月16~18日
ベルリン,フィルハーモニー

再生装置を選ぶCDで,スピーカーによって驚くほど印象が異なります。雰囲気で聴かせるタイプのスピーカーでは欲求不満が溜まりますが,分解能・解像度が高いスピーカーで聴くと優秀録音だと思えます。けして悪い録音ではないです。「火星」はいかにも優秀な指揮者とオーケストラによる充実したサウンドでラストはなかなか壮絶。じっくり遅い「金星」はベルリン・フィルの名技のせいもあって天国的な美しさがありますし,いつもながら小気味良く駆け抜ける「水星」も意味ありげに演奏されます。「木星」の緩急変化にラトルのセンスの良さを感じますし,「土星」も深みと重みのある演奏です。最も凝った管弦楽法を聴かせる「天王星」もベルリン・フィルならではの色彩感豊かな演奏で,「海王星」もメルヘンティックかつ神秘性豊か。このまま終わってくれればよかったのですが,最後にコリン・マシューズ作曲の「冥王星、再生する者」(Pluto, the renewer)が演奏されちゃいます。「冥王星」だと思われなければ,面白い曲です。重低音がすごい!

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【参考盤】
ジェイムズ・ワトスン指揮
ブラック・ダイク・ミルズ・バンド
キース・オーレル合唱指揮
ハレ合唱団
DOYEN 1996年

ホルストは「惑星」の編成を変えたり抜粋で演奏することを厳禁したそうです。私が初めて聴いた「惑星」(の「木星」)は吹奏楽版だったのですが,割りとイケますね。このCDはスティーブン・ロバーツの編のブラスバンド版で,弦どころか木管楽器もなしのブラスバンドによる演奏です。この曲で弦と木管ナシ(オルガンと一部の打楽器もナシ。しかし,琴みたいなハープがでかい音で響くし,海王星には女声合唱が付く)というは聴く方にとってもかなりきついものが予想されますが,実際「火星」「木星」「天王星」のような色彩的な曲は違和感があります。しかし,「金星」は大人のムードが漂うし,「水星」は別の曲みたいだし,途中まではよかった「土星」,ハープ協奏曲みたいな「海王星」と楽しめました。提供してくれた人に感謝。


意外にCDをもっていましたが,とても全部について書けないし,文字数制限もあるから,何枚かは割愛しました。なんだかんだ言って,私,「惑星」好きなんだなと思いました。

ガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」の名盤

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2週間ぶりでしょうか。先週も記事を書くには書いたのですが,気に入らなくてボツにしました。ブログをやる気が失せてきた今日この頃。自分のホームページをつくるのが面倒だったのでブログを始めたのですが,最近は発信の手段っていろいろあるじゃないですか。TwitterとかFacebookとか。ブログにするほどのこともない落書きみたいな文章はTwitterで十分と考えました。でもね,なんかイマイチなんですよ。Twitterは情報を得るためのツールと割り切ったほうがいいみたい。FacebookTwitterのデカイやつという感じかな。Facebookは凝った記事を書くのには向いていないので,やっぱりブログしかない? ちなみに私が記事をひとつ書くのにどれだけ時間がかかっていると思います? ざっと十数時間です。コメントの返事を書く時間も入れると大変な時間です。何が言いたいか,わかる人はわかりますよね? そういえば先日,知人が熱心に勧めるのでスマートフォンにLINEをインストールしました。これはハマりました。普通のメールでもいいんですけれど,LINEのトーク(テキストチャット機能)のほうが話が弾みます。なぜだろう? そんなわけで,今後私への連絡はLINEでお願いします!

さて「ラプソディ・イン・ブルー」ですが,作曲者の名前で躓きました。「ガーシュイン」と「ガーシュウィン」,どちらが一般的でしたっけ? 「ガーシュイン」じゃなかった?

どちらで検索しても約774,000件ヒットしますが,7月に記事を書いたL氏も含め,世の中「ガーシュウィン」のほうが多いみたいです。長い物には巻かれたい私ですので,以下「ガーシュウィン」にします。

ラプソディ・イン・ブルー」は,書くのが難しいです。なお,演奏時間を記していますが,これはあくまでご参考。演奏時間が短い=テンポが速い,じゃないです。念のために書いておきます。

ジョージ・ガーシュウィン(George Gershwin)作曲
ファーディ・グローフェ(Ferde Grofe)編曲
ラプソディ・イン・ブルー(Rhapsody in Blue)

Gershwin: Rhapsody in Blue
hr-Sinfonieorchester
Fazil Say, Klavier
Carlos Miguel Prieto, Dirigent
(参考演奏としてご紹介するには個性的過ぎましたね。)


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アール・ワイルド(ピアノ)
パスクワーレ・カルディルロ(cl)
アーサー・フィードラー(指揮)
ボストン・ポップス
RCA 1959年5月

16分21秒。アール・ワイルドというピアニスト,よく知らないのですが,ウィキペディアによると「1942年にトスカニーニに招かれ、ガーシュウィンの《ラプソディー・イン・ブルー》によってオーケストラと初共演を行い、大々的な成功を収め、名声を確かなものにした」のだそうですね。彼にとって因縁のある曲ですが,なるほどと思わせる見事なピアノです。名人って感じの素敵な味わいのあるピアノ。オーケストラもポップスという名称だけあってノリがよいです。腰軽ではなく充実したサウンドを聴かせてくれるのがありがたいですね。録り方が古い(音質はよい)せいで,演奏も若干古臭さを感じさせないでもないですが,それがよいのです。古き良き時代,懐かしさを覚えます。こういう演奏が好きです。


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レナード・バーンスタイン(ピアノ)
レナード・バーンスタイン(指揮)
コロンビア交響楽団
SONY CLASSICAL 1959年6月

16分31秒。名盤の誉れ高い1枚。実は苦手な演奏でした。重たい演奏に感じられたのです。ピアノもオーケストラも立派過ぎるように感じ。リズム感覚の良さを称える評論家が多いけれど,そうなの?って思っていました。今回改めて聴いてみてのですが,やっぱり立派な演奏でした。この曲はクラシック音楽であるということを実感します。繰り返して聴いているうちに,バーンスタインのピアノの抒情的な,詩的な美しさに打たれました。大変ドラマティックでもあります。他と比べると異色ですが,古さを超えて語りかけてくるものがある説得力がありました。なお,ロサンジェルス・フィルハーモニー管弦楽団との1982年3月(Deutsche Grammophon)録音は未聴です。


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アンドレ・プレヴィン(ピアノ)
ジェルヴァーズ・ド・ペイエ(cl)
アンドレ・プレヴィン(指揮)
ロンドン交響楽団
EMI CLASSICS 1971年6月

14分42秒。プレヴィンのCDはあまり持っていないです。この曲はプレヴィンじゃなきゃって思うものが少ないんです。メンデルゾーンの「真夏の夜の夢」(ロンドン響とのほう)は良かったですが……。しかし,この「ラプソディ・イン・ブルー」は素晴らしいです。このCDが一番好きかも? ここまでの3枚でこの曲の聴き比べは終わりにしてもよいです。若い頃に天才ジャズ・ピアニストと呼ばれただけあって,プレヴィンのピアノが最も「らしく」聴こえます。そしてとても美しい。とても生き生きとして,こんなにピアノが魅力的な演奏は他にないと思います。オーケストラ共々,ちょっとどっしりし過ぎているかもしれませんが,ピアノ協奏曲的な演奏ではこれが一番と思います。本当に素晴らしい!


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アンドレ・プレヴィン(ピアノ)
アンドレ・プレヴィン(指揮)
ピッツバーグ交響楽団
PHILIPS(今はDECCA)1984年

14分01秒。一般にはロンドン響との旧録音よりこっちのほうが評価が高いのです。それはわかるような気もするのですが,うーん,私は旧録音のほうが好きだな。こちらのほうが美しいんですよ。よくこなれているというか,洗練されているというか,録音も優秀な感じがしますし。コンサートホールの良い席で聴いているような録音で,残響も豊か。でも,それが物足りない。ベールを被せているような録音なんです。旧録音のほうがピアノが生々しくて直接的に伝わるものがあります。この演奏だけ聴けばこれはこれでよいですけれど,ロンドン響のほうが私の好みです。好きなんだからしかたがない。


マイケル・ティルソン・トーマスは,縁が深いガーシュウインを大事にしている指揮者です。3種類の録音がありますので,それらを聴いてみます。

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ジョージ・ガーシュウィン
(1925年製ピアノ・ロール)
チャールス・ルッソ(cl)
マイケル・ティルソン・トーマス(指揮)
コロンビア・ジャズ・バンド
SONY CLASSICAL 1976年6月

13分46秒。「ラプソディ・イン・ブルー」が初演されたのは1924年ですが,その翌年に作曲者が残したピアノ・ロールに合わせ,オリジナル・ジャズ・バンド・スコアを捜し出して用いたという超こだわりの1枚。ガーシュウィンのピアノ・ロールはソロだけでなくオーケストラ部分も演奏してしまっているので,オーケストラ部分の穴をすべて埋め,ソロだけを演奏するように苦労して加工したのだそうです。向こうからはけして合わせてくれないピアノ・ロールと演奏するのはすごく大変だったのではないでしょうか。ガーシュウインのピアノを想像させてくれる貴重な演奏です。素晴らしいピアノだったのでしょう。脳内補完して聴けば,この曲の最高のピアノです。奥歯に物が挟まったような書き方をしていますが,ピアノとオーケストラ(バンド)に温度差を感じるのです。バンドの演奏はとても素晴らしいのですが,ピアノが同じ空気を吸っていないので違和感を覚えるのでしょう。録音は大変優秀です。併録の「パリのアメリカ人」がまた素晴らしい。


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マイケル・ティルソン・トーマス(ピアノ)
ロリン・リーヴィー(cl)
マイケル・ティルソン・トーマス(指揮)
ロスアンジェルス・フィルハーモニック
SONY CLASSICAL 1982年2・10月

15分50秒。「今回の録音は,1924年の初演当時のオリジナル・スコアを細部に至るまで忠実に復元したもの」だそうで,「ガーシュウイン自身の演奏を手本にしたもの」であり,「初演に立ち会った人たちの助言や意見を参考にしている」のだそうです。今回もこだわっていますね。前回はピアノに違和感を覚えましたが,今回はMTT自らのピアノですからその点は大丈夫。理想とする「ラプソディ・イン・ブルー」を演奏するにあたり,他のピアニストの起用なんて考えられないのでしょうね。実際,今回聴いた中では最も巧いピアノだと思います。ガーシュウィンの完璧な再現を目指したピアノ。ただ,不思議なことにこの演奏,聴いているうちについつい他のことを考えてしまうのです。完璧過ぎて親近感が湧かないのか,ちょっと求心力が少なめ。録音は今回も優秀です。


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マイケル・ティルソン・トーマス(ピアノ)
ジェローム・シマス(cl)
マイケル・ティルソン・トーマス(指揮)
ニュー・ワールド交響楽団
RCA 1997年1月

17分26秒。三たび「オリジナル・ジャズバンド版」で「初演時にホワイトマン楽団が演奏した版」だそうです。確かに前2枚はいずれも優秀録音でしたが,今回はさらに「ラプソディ・イン・ブルー」のすべてを聴かせちゃいますとでもいうような録音。普段は聴こえにくい楽器もこのCDではバッチリ聴こえます。こういうのを聴いていると,「ラプソディ・イン・ブルー」はジャズ・バンド版に限ると言いたくなります。元々不思議な構成の曲なのですが,ジャズ・バンド版のほうがすんなり聴けてしまうのです。前回は少しよそ行きの顔を見せていたピアノですが,今回は本来のMTTを取り戻したみたい。マイケル・ティルソン・トーマスによる「ラプソディ・イン・ブルー」を聴くならこのCDが一番完成度が高と思います。もう一回聴き直したら感想が変わるかもしれませんが,たぶんこれでOKです。


ところで,今年9月6日(金)のサイトウ・キネン・フェスティバル松本Gig(キッセイ文化ホール)で「ラプソディ・イン・ブルー」が演奏されましたよね。テレビでご覧になった方も多いと思います。

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大西順子(ピアノ)
小澤征爾(指 揮)
サイトウ・キネン・オーケストラ
2013年9月6日
キッセイ文化ホール
(長野県松本文化会館)

演奏についてどうのこうの書いてもしょうがない,とにかくハラハラドキドキの大変楽しい演奏でした。大西順子がこう弾きたい,小澤征爾がそれじゃ合わせられないとか言い合ってるシーンから始まり,オーケストラとのリハーサルもなんかギクシャクしていて不安になります。本番直前,めちゃくちゃ緊張している大西順子が可愛らしい。終演後,あそこさえ弾けていたら80点だったのに!と残念がる彼女を見て,音楽をするのっていいなぁとつくづく思いました。

なぜSKOと大西順子が"ラプソディー・イン・ブルー"をやるのか
小澤征爾×村上春樹×大西順子

ワーグナー「さまよえるオランダ人」の名盤

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しばらくブログを休んでいましたが、ちゃんと聴き比べはやっていたのです。挑戦するなら今しかないと考え、オペラを集中的に聴いていました。
最初の1年目はワーグナーばかり聴き続け、自分に一番しっくりくるオペラはワーグナー以外にないと悟りました。そんなわけで、復帰第一弾は、ワーグナーの全オペラ中、最も演奏時間が短い「さまよえるオランダ人」です。

リヒャルト・ワーグナー 歌劇「さまよえるオランダ人」


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クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
(1991年の録音)

オランダ人:ロバート・ヘイル
ゼンタ:ヒルデガルト・ベーレンス
エリック:ヨーゼフ・プロチュカ
ダーラント:クルト・リドル
舵取り:ウヴェ・ハイルマン
マリー:イリス・フェルミリオン

最初はこのドホナーニ盤だったのですが、自分の中にまだ理想の演奏というものが無くて、「きちんとした演奏」いうこと以外、なんの感慨も湧かなかったです。ごめんなさい。でも、ドホナーニって(ファンの人には申し訳ないけれど)そういう演奏が多いような気がします。立派で品格があって、でもなぜか惹かれない……。


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ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮
バイロイト祝祭管弦楽団
バイロイト祝祭合唱団(合唱指揮:ヴィルヘルム・ピッツ)
(1961年のライヴ録音)

オランダ人:フランツ・クラス
ゼンタ:アニヤ・シリヤ
ダーラント:ヨーゼフ・グラインドル
エリック:フリッツ・ウール
マリー:レス・フィッシャー
舵取り:ゲオルク・パスクダ

完成度はドホナーニ盤に軍配を上げますが、この演奏のほうが惹かれるものがあります。この盤での聴きどころのひとつであるアニヤ・シリアの可憐なゼンタは痛々しいほどの熱唱であるけれど、最後はちょっとつらそうな感じ。ライヴ収録ならではの感興豊かな臨場感のある演奏と思いました。良かったです。
それにしても、第3ビルトのノルウェーの水夫たちvsオランダ船の水夫たちの合唱合戦には血沸き肉躍るものを感じますね。

Ho ! He ! Je ! Ha ! 
Hisst die Segel auf !  Anker fest ! 
Steuermann, her !


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ジュゼッペ・シノーポリ指揮
ベルリン・ドイツ・オペラ管&合唱団
(1991年の録音)

オランダ人:ベルント・ヴァイクル
ダーラント:ハンス・ゾーティン
ゼンタ:シェリル・スチューダー
エリック:プラシド・ドミンゴ

この盤は賛否があるようなのですが、まぁまぁ良かったです。歌手ではヴァイクルのオランダ人が私の好みですが、スチューダーのゼンタは、うーん、ちょっと無理っぽい感じがしました。合唱は迫力があったけれど、少々粗っぽいかも。


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ジェームズ・レヴァイン指揮
メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団
(1994年の録音)

オランダ人:ジェームズ・モリス
ダーラント:ヤン・ヘンデリック・ローターリンク
ゼンタ:デボラ・ヴォイト
エリック:ベン・ヘップナー
マリー:ビルギッタ・スヴェンデン
舵取り:ポール・グローヴズ

この演奏はお薦めです。①~③は少々迫力不足で物足りなかったですから、こういう演奏が聴きたかったんです。ゴージャスでカロリーが高いです。歌手ではデボラ・ヴォイトのゼンタ、ジェームズ・モリスのオランダ人が特に素晴らしいと思いました。なお、レヴァイン/METによるワーグナー序曲・前奏曲集(DG1994年)は、かつての私の愛聴盤でした。


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ゲオルク・ショルティ指揮
シカゴ交響楽団&合唱団(合唱指揮:マーガレット・ヒリス)
(1976年の録音)

オランダ人:ノーマン・ベイリー
ゼンタ:ジャニス・マーティン
エリック:ルネ・コロ
ダーラント:マルッティ・タルヴェラ
マリー:アイソラ・ジョーンズ
舵取り:ヴェルナー・クレン

とにかくシカゴ響のパワフルなサウンドに圧倒されっぱなしでした。レヴァイン盤もよかったけれど、総合的にはショルティ盤のほうが上かな。タルヴェラのダーラント、そしてなんといってもルネ・コロのエリックが立派! このオペラをしっかり堪能することができました。なお、ショルティ指揮の廉価ボックスがDECCAより販売されていますが、読み込みエラーが出るCDが多いので注意してくださいね。


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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団(合唱指揮」ヴァルター・ハーゲン=グロル)
(1981~1983年の録音)

オランダ人:ジョゼ・ヴァン・ダム
ゼンタ:ドゥニャ・ヴェイソヴィチ
ダーラント:クルト・モル
エリック:ペーター・ホフマン
舵取り:トマス・モーザー
マリー:カヤ・ボリス

ベルリン・フィルがすごいです。炸裂するティンパニ、金管の咆哮、艶っぽい木管、シルクのような弦楽合奏。カラヤンの語り口の巧さにもすっかり惹き込まれてしまいました。この上なく劇的な表現ですが、歌手や合唱がオーケストラの一部になってしまっていることに不満を感じる人がいるかも。でも、これ以上の「さまよえるオランダ人」は聴けないような気がします。


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カール・ベーム指揮
バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団
(1971年のライヴ録音)

オランダ人:トマス・スチュアート
ゼンタ:グィネス・ジョーンズ
ダーラント:カール・リッダーブッシュ
エリック:ヘルミン・エッサー

合唱を含む声楽陣は概ね優秀で、白熱的な演奏に圧倒されました。この演奏を決定盤にあげる人がいるのも頷けます。ただ、なんと言ったらいいんでしょう、なにか違うような気もするんです。それがなにか、うまく表現できたらいいのだけれど。ジャケットに帆船が描かれていないのもよろしくありません。


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フランツ・コンヴィチュニー指揮
シュターツカペレ・ベルリン
ベルリン国立歌劇場合唱団
(1960年の録音)

オランダ人:ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ
ゼンタ:マリアンネ・シェヒ
ダーラント:ゴットロープ・フリック
エリック:ルドルフ・ショック
マリー:ジークリンデ・ヴァーグナー
舵取り:フリッツ・ヴンダーリヒ

これは素晴らしかったです。演奏全体に意欲と覇気が感じられ、音楽に惹きこまれます。ディースカウのオランダ人は、やっぱり巧いです。シェヒのゼンタはちょっと弱いかな。1960年とは思えない鮮明な録音で、「オランダ人」を聴きたいと思ったとき、真っ先に手が伸びるCDとなるでしょう。


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クレンペラー指揮
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
BBC合唱団(合唱指揮:ピーター・ゲルホーン)
(1968年の録音)

オランダ人:テオ・アダム
ゼンタ:アニア・シリヤ
ダーラント:マルッティ・タルヴェラ
エリック:エルンスト・コツーブ
マリー:アンネリーゼ・ブルマイスター
舵取り:ゲルハルト・ウンガー

なぜかこの演奏については感想メモが残っていません。きっと言語に絶する素晴らしさだったのでしょう。「さまよえるオランダ人」というとクレンペラー盤を思い起こすほどだったのですが、だからといって改めて聴くには重そうな演奏です。


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ヨーゼフ・カイルベルト指揮
バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団(合唱指揮:ヴィルヘルム・ピッツ)
(1955年なのにステレオ録音!)

オランダ人:ヘルマン・ウーデ
ダーラント:ルートヴィヒ・ヴェーバー
ゼンタ:アストリッド・ヴァルナイ
エリック:ルドルフ・ルスティヒ
マリー:エリーザベト・シェルテル
舵取り:ヨーゼフ・トラクセル

JHさん提供の音源。素直に一言「良かった」です。ゼンタのヴァルナイが迫力あり過ぎてイメージが狂っちゃいましたが(笑)


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ワーグナー「タンホイザー」の名盤

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「さまよえるオランダ人」で復帰したものの、どうもあの記事はよろしくなかったなとちょっぴり後悔しております。かといって今から全部聴き直す時間と気力はないので、今回も同じ調子で書きます。そんなわけで、

リヒャルト・ワーグナー 歌劇「タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦」

親しみやすい旋律に満ちた聴きやすいオペラだと思いますが、1曲あげるとしたらワーグナー屈指の名アリア「夕星の歌(優しい夕星よ)」でしょうか。オペラなんて「カルメン」ぐらいしか知らない中学生の頃の私でもこの歌は知っていました。このアリアは主役のタンホイザーではなく、彼の友人であるヴォルフラム(バリトン)によって歌われます。ちなみにタンホイザーはオペラの中ではハインリヒと呼ばれていますが、フルネームはハインリヒ・タンホイザーというのでしょうか。劇中もう一人ハインリヒという人物が登場しますが、これは端役です。紛らわしい。


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ジュゼッペ・シノーポリ指揮
フィルハーモニア管弦楽団
コヴェントガーデン王立歌劇場合唱団
1988年の録音

タンホイザー:プラシド・ドミンゴ
エリーザベト:シェリル・ステューダー
ヴェーヌス:アグネス・バルツァ
ヴォルフラム:アンドレアス・シュミット
領主ヘルマン:マッティ・サルミネン
牧童:バーバラ・ボニー

この「タンホイザー」は素晴らしいと思いました。ドミンゴのタンホイザーには賛否があるみたいですが、元々タンホイザーは異質な人なのでこれはこれで良いかも。フィルハーモニア管の美しい響きにも魅了されました。と、3年前は思ったのですが、今回聴き返してみたら、全体にこじんまりとした印象で、少々物足りなさを感じました。合唱が遠くに聴こえるからでしょうか。


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フランツ・コンヴィチュニー指揮
シュターツカペレ・ベルリン
ベルリン国立歌劇場合唱団
1960年の録音

タンホイザー:ハンス・ホップ
エリーザベト:エリーザベト・グリュンマー
ヴォルフラム:ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ
ヴェーヌス:マリアンネ・シェヒ
領主ヘルマン:ゴットロープ・フリック
ヴァルター:フリッツ・ヴンダーリヒ

「さまよえるオランダ人」がとても良かったので期待しましたが、う~ん、ちょっと物足りないかも。歌手では発声が少し古臭いけれどグリュンマーのエリーザベトが悲劇のヒロインっぽくっていいですね。このCD一番の聴きものであるディースカウのヴォルフラムは名唱と思いますが、「夕星の歌」などあまりに巧過ぎて違和感がないでもないです。地味だけれど懐かしい響きのするオケでしたが、合唱はアマチュアっぽい? この時代はこんなものなのでしょうか。


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ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮
バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団
(合唱指揮:ヴィルヘルム・ピッツ)
1962年のライヴ録音

タンホイザー:ヴォルフガング・ヴントガッセン
エリーザベト:アニヤ・シリヤ
ヴォルフラム:エーベルハルト・ヴェヒター
ヴェーヌス:グレース・バンブリー
領主ヘルマン:ヨーゼフ・グラインドル
牧童:エルゼ・マルグレーテ・ガルデッリ

ごめんなさい、私にはこの演奏の良さがわかりませんでした。歌手は豪華ですが、3年前に聴いたときはそれほど感銘を受けなかったのです。サヴァリッシュはシューマンなど指揮したときはよいのですが、彼のワーグナーは私にとってそれほど面白くないかも。


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ゲオルク・ショルティ指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン少年合唱団
1970年の録音

タンホイザー:ルネ・コロ
エリーザベト:ヘルガ・デルネシュ
ヴォルフラム:ヴィクター・ブラウン
ヴェーヌス:クリスタ・ルートヴィヒ
領主ヘルマン:ハンス・ゾーティン

このオペラで最も条件の良さそうなCDです。歌手は女性陣がよいですね。指揮はワーグナーの主要オペラを録音しているショルティですし、オーケストラもウィーン・フィルで魅惑のサウンドを聴かせます。でも、このCDでもどこか物足りなさを感じてしまいます。ここで、いつもは記事を書き終えるまで見ないことにしているのですが、どうしても気になったので、名曲名盤500を開いてしまいました。「タンホイザー」はダントツ1位でショルティ盤でした。ふぅん、やっぱりそうなんだ。ショルティだったらもっとダイナミックで鮮烈な演奏を残せそうな気もするのですが。


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ロリン・マゼール指揮
ピッツバーグ交響楽団
メンデルスゾーン合唱団

気分を変えて交響組曲「タンホイザー」を聴いてみました。マゼールは本当は全曲盤を録音したかったのではないかと思いました。パリ版に基づいたマゼール自身の編曲による演奏で「官能的に始まり,敬虔なものとなり,そして激しく,最後には宗教的なものになる。この交響組曲版によって,タンホイザーのそうした面が際立ち,その美しさに新しい光を当てることができれば……というのが私の願いである(ロリン・マゼール)」だそうです。でも、これを聴くぐらいならオペラ全曲盤を聴いていただきたいと思いました。ごめんなさいマゼール。


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ベルナルト・ハイティンク指揮
バイエルン放送交響楽団&合唱団
1985年の録音

タンホイザー:クラウス・ケーニヒ
エリーザベト:ルチア・ポップ
ヴォルフラム:ベルント・ヴァイクル
ヴェーヌス:ヴァルトラウト・マイヤー
ヘルマン:クルト・モル
ヴァルター:ジークフリート・イェルザレム
ビーテロルフ:ヴァルトン・グレンロース
ハインリヒ:ドナルト・リタカール
ラインマル:ライナー・ショルツ
牧童:ガブリエレ・ジーマ
4人の小姓:テルツ少年合唱団員

最初は手堅い演奏と思っていたのですが、これはなかなかの名演です。歌手も素晴らしいし、オケも合唱も美しいです。ハイティンクって録音数が多いのに、なかなかこれはと思う名演が少ないと思っていたのですが、このワーグナーは素晴らしいです。でもハイティンクが録音しているワーグナーって、「タンホイザー」と「ニーベルングの指環」ぐらいでしょうか。もったいないです。


私が初めてワーグナーっていいなと思ったのは、「タンホイザー」序曲を聴いたときでした。カラヤンの1974年盤が最も好きな演奏です。だからオペラ全曲もカラヤンが残していてくれたらよかったのですが、なぜか「タンホイザー」はないんです。最もカラヤン向きのワーグナー作品だと思うのですが不思議です。(あるにはあるんです。1963年のライヴでウィーン国立歌劇場を指揮したモノラル録音。Deutsche Grammophonから発売されていました。今は廃盤かな。)


もしかして「タンホイザー」って、ワーグナー作品の中では人気がない?

ワーグナー「ローエングリン」の名盤

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白鳥が曳く小舟に乗って登場し、白鳩が曳く小舟に乗って退場する騎士の物語。白鳥もそうですが、鳩が舟を曳く(鳩は自らに鎖を結わえ、すぐに舟を曳いて進む)……。いや、いいんです。ロマンティック・オペラですからね。

リヒャルト・ワーグナー 歌劇「ローエングリン」


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エーリヒ・ラインスドルフ指揮
ボストン交響楽団
ボストン・プロ・ムジカ合唱団
1965年の録音

ローエングリン:シャンドール・コンヤ
エルザ:ルシーネ・アマーラ
オルトルート:リタ・ゴール
テルラムント:ウィリアム・ドゥーリー
国王ハインリヒ:ジェローム・ハインズ
軍令使:カルヴィン・マーシュ

「ローエングリン」の聴き比べをするにあたり、最初に手に取ったディスクです。これがなかなか良くて、もうこれで決まりと思ったほどです。まず、ラインスドルフの指揮が良かったです。もったいぶったところがないストレートな指揮で、聴きどころをきちんと聴かせてくれます。ボストン響も全開という感じで、このオペラを初めて聴いてみようという方にはわかりやすくて良いと思います。歌手はコンヤ(コーンヤ)を除いて知らない人ばかりですが、概ね良い感じです。



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ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮
バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団
1962年のライヴ録音

ローエングリン:ジェス・トーマス
エルザ:アニヤ・シリア
オルトルート:アストリッド・ヴァルナイ
テルラムント:ラモン・ヴィナイ
国王ハインリヒ:フランツ・クラス

バイロイト祝祭劇場でのライブのため、オーケストラの音量は控えめで、歌手の声がよく聴こえる録音です。オーケストラが歌の邪魔をするのは許せないという人にはお薦めですが、オーケストラも楽しみたいという人は物足りないかも。サヴァリッシュの指揮も抒情的で、あまり劇的ではありませんが、これは録音によるところも多いのでしょう。歌手はバイロイトならではの強力な布陣です。でもやっぱり録音がよくないような……。



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ゲオルク・ショルティ指揮
ウィーン・フィル
ウィーン国立歌劇場合唱団
(合唱指揮グロール)
1985年&1986年の録音

ローエングリン:プラシド・ドミンゴ
エルザ:ジェシー・ノーマン
オルトルート:エヴァ・ランドヴァー、
テルラムント:ジークムント・ニムスゲルン
国王ハインリッヒ:ハンス・ゾーティン
軍令使:ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ

ウィーン・フィルをDECCAの録音で聴きたいという人にはこれが一番でしょう。冒頭からオーケストラの美しい音色に耳を奪われます。ショルティの指揮も壮麗で、鮮烈な印象を受けます。歌手では軍令使にディースカウを起用していますが、軍令使はもっと張りのある声のほうが好きです。ドミンゴのタイトルロールも悪くないと思います。小粒のテノールよりドミンゴのドラマティックな歌唱のほうが好みです。その他の歌手はノーマン(見た目よりもずっと可憐な歌)を始めとしていずれも立派な歌唱を聴かせてくれます。



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ルドルフ・ケンペ指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
(合唱指揮ロスマイヤー)
1962年&1963年の録音

ローエングリン:ジェス・トーマス
エルザ:エリーザベト・グリュンマー
オルトルート:クリスタ・ルートヴィヒ
テルラムント:ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ
国王ハインリヒ:ゴットロープ・フリック
軍令使:オットー・ヴィーナー

少々録音の古さを感じさせますが、ウィーン・フィルの良さは伝わってきます。音楽の素晴らしさがすとんと心に落ちてきます。長い間名盤とされてきたのも頷けます。主役二人、特に(ちょっと歌唱が古い感じだけれど)グリュンマーのエルザが悲劇のヒロインっぽくて良いです。フリックの国王は立派な歌唱ですが私にはハーゲンを連想させてしまう……。悪役夫婦のルートヴィヒのオルトルートが素晴らしく、ディースカウのテルラムントもやはり巧いです。後者はシューベルトの歌曲を聴いているような気分にもなりますが。



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ラファエル・クーベリック指揮
バイエルン放送交響楽団&合唱団
1971年の録音

ローエングリン:ジェイムズ・キング
エルザ:グンドゥラ・ヤノヴィッツ
オルトルート:グィネス・ジョーンズ
テルラムント:トマス・ステュアート
国王ハインリヒ:カール・リッダーブッシュ
軍令使:ゲルト・ニーンシュテット

歌手が素晴らしいです。キングのスケール感のある強靭な声、清楚で可憐で気品のあるヤノヴィッツ(最高のエルザ!)、リッダーブッシュの威厳ある国王、ステュアートとジョーンズも正に適役で、歌手陣については文句なしです。クーベリックの指揮もケンペ同様にすーっと心に入って来る、繊細さと力強さを兼ね備えた自然な音楽づくりで、この指揮者がもっとワーグナー全曲録音を残してくれたらよかったのにと思います。私のベストワン。



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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団
(合唱指揮:ワルター=ハーゲン・グロル)
1975,76,81年の録音

ローエングリン:ルネ・コロ
エルザ:アンナ・トモワ・シントウ
フリードリッヒ:ジークムント・ニムスゲルン
オルトルート:ドゥニャ・ヴェイソヴィチ
国王ハインリッヒ:カール・リッダーブッシュ
軍令使:ロバート・カーンズ

1975年12月8日に開始して1981年5月23日に終了という、えらく時間がかかった録音です。前奏曲(序曲ではない)からカラヤン&ベルリン・フィルの精緻で繊細、重厚にして迫力あるサウンドに魅了されます。「ローエングリン」のCDではクーベリック盤とカラヤン盤(廃盤です)の2種類を残したいと思います。歌手ではやはりルネ・コロが白鳥の騎士そのものといった、気高く誇り高い、しなやかで力強い歌唱を聴かせてくれます。クーベリック盤と共通のリッダーブッシュの国王も立派です。

このCDを聴くとき、堀内修氏の「カラヤンとベルリン・フィルが、本気になって、このロマン的大歌劇の美しさを現出させようとすると、それは現れる。エルザが祈れば、白鳥の騎士が必ず現れるのだと、信じないわけにはいかない。」という一文を必ず思い出してしまいます。そういう先入観があるので、どうしても思い入れが強くなります。


ワーグナー「ラインの黄金」の名盤

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ワーグナーのオペラを総譜完成順に並べと、妖精(1834年)、恋愛禁制(1836年)、リエンツィ(1840年)、さまよえるオランダ人(1841年)、タンホイザー(1845年)、ローエングリン(1848年)、ラインの黄金(1854年)、ワルキューレ(1856年)、トリスタンとイゾルデ(1859年)、ニュルンベルクのマイスタージンガー(1867年)、ジークフリート(1871年)、神々の黄昏(1874年)、パルジファル(1882年)になります。
したがって、「ローエングリン」の次は「ラインの黄金」なのです。

ラインの黄金を鋳直して作った指環の主は世界を支配できるはずなのに、アルベリヒが簡単に縛り上げられてしまったのはなぜだろう。指環の魔力っていったい……。

リヒャルト・ワーグナー 楽劇「ラインの黄金」


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クレメンス・クラウス
バイロイト祝祭管弦楽団

ヴォータン:ハンス・ホッター
フリッカ:イーラ・マラニウク
フライア:ブルニ・ファルコン
ドンナー:ヘルマン・ウーデ
フロー:ゲルハルト・シュトルツェ
ローゲ:エーリッヒ・ヴィッテ
アルベリヒ:グスタフ・ナイトリンガー
ミーメ:パウル・クーエン
ファゾルト:ルートヴィッヒ・ヴェーバー
ファフナー:ヨーゼフ・グラインドル
エルダ:マリア・フォン・イロスファイ
ヴォークリンデ:エリカ・ツィンマーマン
ヴェルグンデ:ヘティ・プリマッハー
フロースヒルデ:ギゼラ・リッツ

1953年8月8,9,10,12日(ライヴ)
バイロイト祝祭劇場

クラウスについては、ボスコフスキーの前にニューイヤーコンサートを指揮していた人ぐらいの知識しかなくて、恥ずかしながらウィンナワルツの指揮者だと思っていました。だから、この「ラインの黄金」を聴いて本当に驚きました。音楽の運びが理想的で録音がよければこれが一番好きかもしれません。1953年の古い録音(しかもライヴ)で、オーケストラの楽器を詳細に聴き分けることなど到底無理ですが、それでもクラウスが卓越したオーケストラコントロールの持ち主であったことはわかります。なお、歌手の声は聴きやすい録音です。歌手はいずれも素晴らしいと思いますが、ハンス・ホッターがこの録音では素晴らしい歌唱(名唱)を聴かせてくれたのがとても印象的でした。また、グスタフ・ナイトリンガーは、このクラウス盤の他に、フルトヴェングラー盤(1953年)、カイルベルト盤、クナッパーツブッシュ盤(1956年)、ショルティ盤、ベーム盤でアルベリヒを歌っているスペシャリストです。


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サー・ゲオルク・ショルティ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ヴォータン:ジョージ・ロンドン
フリッカ:キルステン・フラグスタート
フライア:クレア・ワトソン
ドンナー:エバーハルト・ヴェヒター
フロー:ヴァルデマール・クメント
ローゲ:セット・スヴァンホルム
アルベリヒ:グスタフ・ナイトリンガー
ミーメ:パウル・クーエン
エルダ:ジーン・マデイラ
ファゾルト:ヴァルター・クレッペル
ファフナー:クルト・ベーメ
ヴォークリンデ:オーダ・バルスボーグ
ヴェルグンデ:ヘティ・プリマッハー
フロースヒルデ:イラ・マラニウク

1958年9月24日~10月8日
ウィーン、ゾフィエンザール

聴く前に余計な先入観はないほうがよいのでしょうが、「ニーベルングの指環(ジョン・カルショー著、山崎浩太郎 訳、学習研究社)」を読むと、この演奏の有難みが100倍くらい増します。レコード史の偉業・金字塔と称えられたものですし、私もこのセットを買ってから10年以上、他のCDを求めませんでしたので、私の基準になってしまっています。思い入れもあります。歌手も当時のDECCAとして最上のラインナップで、今聴いても鮮明で鮮烈な印象を与える録音(オリジナルマスターテープは劣化がひどくて使い物にならないようです。CDクオリティであってもデジタル化されていて本当によかった)です。ところで、この録音には当時のオーディオ・チェックによく使われたという場面が2か所ありますが、それはどことどこでしょう?


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カール・ベーム
バイロイト祝祭管弦楽団

ヴォータン:テオ・アダム
フリッカ:アンネリース・ブルマイスター
フライア:アニヤ・シリア
ドンナー:ゲルト・ニーンシュテット
フロー:ヘルミン・エッサー
ローゲ:ヴォルフガング・ヴィントガッセン
アルベリヒ:グスタフ・ナイトリンガー
ミーメ:エルヴィン・ヴォールファールト
ファゾルト:マルッティ・タルヴェラ
ファフナー:クルト・ベーメ
エルダ:ヴィエラ・ソウクポヴァー
ヴォークリンデ:ドロテア・ジーベルト
ヴェルグンデ:ヘルガ・デルネシュ
フロースヒルデ:ルート・ヘッセ

1966年7月26日(ライヴ)
バイロイト祝祭劇場

ベームによる堅固で骨太のワーグナーです。歌手はいかにもこの時代のバイロイトという顔ぶれですが、栄光の1950年代を引きずっているようにも思えます。録音はよく言えばブレンドされた、悪く言えば分離が悪く聴こえ、せっかく用意された6台のハープも埋没してしまいます。「ニーベルングの指環」の名盤として必ず登場する録音ですが、楽しむ要素が少なく、あえて今れを選ばなくてもいいんじゃないかなと思っています。失礼!


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ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 

ヴォータン:ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ
フリッカ:ジョゼフィン・ヴィージー
フライア:シモーネ・マンゲルスドルフ
ドンナー:ロバート・カーンズ
フロー:ドナルド・グローブ
ローゲ:ゲルハルト・シュトルツェ
アルベリヒ:ゾルターン・ケレメン
ミーメ:エルヴィン・ヴォールファールト
エルダ:オラリア・ドミンゲス
ファゾルト:マルッティ・タルヴェラ
ファフナー:カール・リッダーブッシュ
ヴォークリンデ:ヘレン・ドーナト
ヴェルグンデ:エッダ・モーザー
フロースヒルデ:アンナ・レイノルズ

1967年12月
ダーレム。イエス・キリスト教会

カルショーが世界初の「指環」全曲録音を行うにあたって当時ウィーン国立歌劇場の芸術監督であったカラヤンではなく、ショルティを指揮者に選んだというのはわかるような気がします。ショルティとだったらカルショーが理想とする「指環」を協同で制作することが可能でしょうが、カラヤンはプロデューサーの意見など意に介さなかったでしょう。この「指環」セットは私が二番目に購入したもので、指揮者によって、また歌手によってこんなに違うものかと驚かされたものです。最初は違和感がありましたが、聴きこむにつれ、こうでなくてはと思わざるを得ません。オーケストラの精妙な響きと圧倒的な迫力は他の追随を許さないものがあります。指揮者とオーケストラに関しては、ショルティ盤より好きかも。歌手陣はカラヤン好みの美声の持ち主ばかりですが、ディースカウのヴォータン、好き嫌いを通り越して、一聴の価値はあると思います。


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マレク・ヤノフスキ
シュターツカペレ・ドレスデン

ヴォータン:テオ・アダム
フリッカ:イヴォンヌ・ミントン
フライア:マリタ・ナピアー
ドンナー:カール・ハインツ・シュトリュツェク
フロー:エーベルハルト・ビュヒナー
ローゲ:ペーター・シュライアー
アルベリヒ:ジークムント・ニムスゲルン
ミーメ:クリスティアン・フォーゲル
ファーゾルト:ローラント・ブラハト
ファフナー:マッティ・サルミネン
エルダ:オルトルン・ヴェンケル
ヴォークリンデ:ルチア・ポップ
ヴェルグンデ:ウタ・プリエフ
フロースヒルデ:ハンナ・シュヴァルツ

1980年12月
ドレスデン、ルカ教会

「ニーベルングの指環」初のデジタル録音です。とにかく声楽陣が豪華。「ラインの黄金」以外でも、ジークフリートはルネ・コロ、ジークフリートはイェルザレム、ジークリンデはジェシー・ノーマンですし、シュライアーはローゲとミーメ(「ジークフリート」)を歌っています。そしてオーケストラはいぶし銀の響きのシュターツカペレ・ドレスデンで言うことなし、と言いたいところなのですが、録音がオーケストラの持ち味を引き出していないように感じられます。迫力不足なのは、指揮者のせいだけではないでしょう。ヤノフスキは録音で損をしていると思います。ヤノフスキは2012年にベルリン放送交響楽団と再録音をしています。


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ジェームズ・レヴァイン
メトロポリタン歌劇場管弦楽団

ヴォータン:ジェームズ・モリス
フリッカ:クリスタ・ルートヴィヒ
フライア:マリアン・ヘッガンダー
ドンナー:ジークフリート・ロレンツ
フロー:マーク・ベイカー
ローゲ:ジークフリート・イェルザレム
ミーメ:ハインツ・ツェドニク
アルベリヒ:エッケハルト・ヴラシハ
ファゾルト:クルト・モル
ファフナー:ヤン・ヘンデリック・ローターリンク
エルダ:ビルギッタ・スヴェンデン
ヴォークリンデ:ヘイキュング・ホング
ヴェルグンデ:ダイアン・ケスリング
フロースヒルデ:メレディス・パーソンズ

1988年4月。5月
ニューヨーク・マンハッタンセンター

オットー・シェンク演出のLDまたはDVDを観たという人はそこそこ多いのではないでしょうか。私も「ラインの黄金」だけ持っています。その映像とCDは同じ年代に制作されているのですが、一応別録音です。歌手も微妙に違います。この歌手陣で、Deutsche Grammophonがレヴァイン指揮メトロポリタン歌劇場管弦楽団で録音したのですから、期待を裏切るはずがありません。実際、名演だと思いますし、ファーストチョイスとしてもお薦めできるCDです。


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ベルナルト・ハイティンク
バイエルン放送交響楽団

ヴォータン:ジェイムズ・モリス
フリッカ:マルヤーナ・リポヴシェク
フライア:エヴァ・ヨハンソン
ドンナー:アンドレアス・シュミット
フロー:ペーター・ザイフェルト
ローゲ:ハインツ・ツェドニク
アルベリヒ:テオ・アダム
ミーメ:ペーター・ハーゲ
ファゾルト:ハンス・チャンマー
ファフナー:クルト・リドル
エルダ:ヤドヴィカ・ラッペ
ヴォークリンデ:ジュリー・カウフマン
ヴェルグンデ:シルヴィア・ヘルマン
フロースヒルデ:スーザン・クィットマイヤー

1988年11月
ミュンヘン、ヘルクレスザール

ハイティンク指揮の「タンホイザー」を絶賛しましたが、この「ラインの黄金」(というか「ニーベルングの指環」全曲)も素晴らしいです。ハイティンクの指揮による録音は、わが家にすごく少なくて、評判が良いと知って買ったCDも期待外れのCDも少なくないのですが、これは聴き終わった後にもう一度聴きたいと思える演奏でした。どういうところが?と問われると返事に窮してしまいますが、自然な音楽運びで、作為を感じさせないのに雄弁で効果的で、物足りなさを全く感じさせない演奏です。これはお薦めです。


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ヴォルフガング・サヴァリッシュ
バイエルン国立歌劇場管弦楽団

ヴォータン:ロバート・ヘイル
フリッカ:マルヤナ・リポヴシェク
フライア:ナンシー・グスタフソン
ドンナー:フローリアン・チェルニー
フロー:ヨゼフ・ホプファーヴィーザー
ローゲ:ロバート・ティアー
アルベリヒ:エッケハルト・ヴラシハ
ミーメ:ヘルムート・ハンプフ
ファゾルト:ヤン・ヘンドリク・ロータリング
ファフナー:クルト・モル
エルダ:ハンナ・シュヴァルツ
ヴォークリンデ:ジュリー・カウフマン
ヴェルグンデ:アンジェラ・マリア・ブラーシ
フロースヒルデ:ビルギット・カルム

1989年11月、12月(ライヴ)
ミュンヘン、バイエルン国立歌劇場

サヴァリッシュが残した録音のうち、最も多い作曲家はブラームスで、次がワーグナーとリヒャルト・シュトラウスのようです。ライヴですが「妖精」「恋愛禁制」「リエンツィ」の録音があるので、もしかしたらワーグナーの全オペラを録音した唯一の指揮者ということになるのでしょうか。ワーグナーを知り尽くしたサヴァリッシュですから、この「ラインの黄金」も期待を裏切らない名演です。ただ、この演奏でなくてはならない何かがあるのかと問われると困ってしまうのですが。


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シモーネ・ヤング
ハンブルク州立歌劇場管弦楽団

ヴォータン:ファルク・シュトルックマン
フリッカ:カーチャ・ピーヴェック
フライア:ヘレン・クォン
ドンナー:ヤン・ブッフヴァルト
フロー:ラディスワフ・エルグル
ローゲ:ペーター・ガイヤール
アルベリヒ:ヴォルフガング・コッホ
ミーメ:ユルゲン・ザッヒャー
ファーゾルト:ティグラン・マルティロシアン
ファーフナー:アレクサンドル・ツィムバリュク
エルダ:デボラ・ハンブル
ヴォークリンデ:ハ・ヤン・リー
ヴェルグンデ:ガブリエーレ・ロスマニト
フロースヒルデ:アン=ベス・ソルヴァング

2008年3月(ライヴ)
ハンブルク州立歌劇場

女性指揮者初の(そして今のところ最後の)「ニーベルングの指環」全曲録音です。ケチのつけようがない良い演奏だと思うのですが、他のCDを差し置いてこれを選ばなければならない理由はないように思います。「指環」を10セット所有するならその中のひとつにこのセットがあってもいいんじゃないかというぐらいでしょうか。いや、けして悪い演奏ではないですし、歌手もシュトルックマンやコッホなど素晴らしい人がいるのですが、立て続けに聴き比べたとき、指揮と管弦楽はこれぐらいできて当然のように思えてしまうのです。


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サー・サイモン・ラトル
バイエルン放送交響楽団

ヴォータン:ミヒャエル・フォレ
フリッカ:エリーザベト・クルマン
フライア:アネッテ・ダッシュ
ドンナー:クリスチャン・ヴァン・ホーン
フロー:ベンヤミン・ブルンス
ローゲ:ブルクハルト・ウルリヒ
アルベリヒ:トマス・コニエツニ
ミーメ:ヘルヴィヒ・ペコラーロ
ファゾルト:ピーター・ローズ
ファフナー:エリック・ハーフヴァーソン
エルダ:ヤニーナ・ベヒレ
ヴォークリンデ:ミレッラ・ハーゲン
ヴェルグンデ:シュテファニー・イラーニィ
フロースヒルデ:エーファ・フォーゲル

2015年4月24,25日(ライヴ)
ミュンヘン、ヘルクレスザール

最新の録音で「ラインの黄金」を聴いてみたいという人にはお薦めです。最近の歌手はあまり知らないのですが、ヴォータンのフォレを始めとして総じて良い人を揃えていると思います。不満があるとしたら指揮で、オーケストラを最良のバランスに保ち、全く破綻がないのですが、ラストなど、もう少し思い切って鳴らしてもよいのに、万事そつが無く、物足りなさを覚えます。優等生的なんです。今後神々は黄昏に向かうのだから、能天気な迫力は似つかわしくないということなのでしょうが。


ワーグナー「ワルキューレ」の名盤

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ワーグナーに心酔している熱狂的なファンのことを「ワグネリアン」というのだそうです。ワグネリアンであれば、ワルキューレ全員の名前を言えるのでしょうか。ブリュンヒルデ、ヴァルトラウテ、ロスヴァイゼ、ジークルーネ、シュヴェルトライテ……、私はもうだめです。「ワルキューレ」を聴くたびに、そんなことを考えたりします。どうでもいいことですが。


リヒャルト・ワーグナー 楽劇「ワルキューレ(ヴァルキューレ)」



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クレメンス・クラウス
バイロイト祝祭管弦楽団

ジークムント:ラモン・ヴィナイ
ジークリンデ:レジーナ・レズニック
フンディング:ヨーゼフ・グラインドル

ヴォータン:ハンス・ホッター
ブリュンヒルデ:アストリッド・ヴァルナイ
フリッカ:イーラ・マラニウク

ヴァルトラウテ:イーゼ・ゾレル
オルトリンデ:ブルニ・ファルコン
グリムゲルデ:シビラ・プレイト
ゲルヒルデ:ブリュンヒルデ・フリーラント
ジークルーネ:ギゼラ・リッツ
シュヴェルトライテ:マリア・フォン・イロスファイ
ヘルムヴィーゲ:リゼロッテ・トーマミュラー
ロスヴァイゼ:エリカ・シューベルト

1953年8月8,9,10,12日(ライヴ)
バイロイト祝祭劇場

聴き始めは録音の古さに閉口しますが、しばらくすると慣れます。脳内補正しているのでしょうか。クラウスの指揮が理想的です。歌手では独特な声のホッターが真に感情がこもっていて感動的なヴォータンを聴かせてくれますが、アストリッド・ヴァルナイのブリュンヒルデが素晴らしいと思いました。ヴァルナイは他にカイルベルト盤(1955年)、クナッパーツブッシュ盤(1956年)でもブリュンヒルデを歌っています。フラグスタートとニルソンの世代に挟まれ、録音もモノラル期だったので損をしましたが、立派で美しい声です。



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サー・ゲオルク・ショルティ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ジークムント:ジェームズ・キング
フンディング:ゴットロープ・フリック
ジークリンデ:レジーヌ・クレスパン

ヴォータン:ハンス・ホッター
ブリュンヒルデ:ビルギット・ニルソン
フリッカ:クリスタ・ルートヴィヒ

ヴァルトラウテ:ブリギッテ・ファスベンダー
ヘルムヴィーゲ:ベリット・リンドホルム
オルトリンデ:ヘルガ・デルネッシュ
ゲルヒルデ:ヴェラ・シュロッサー
シュヴェルトライテ:ヘレン・ワッツ
ジークルーネ:ヴェラ・リッテ
ロスヴァイゼ:クラウディア・ヘルマン
グリムゲルデ:マリリン・タイラー

1965年10月29日~11月19日
ウィーン、ゾフィエンザール

ショルティ&ウィーン・フィルによる「ニーベルングの指環」は、この「ワルキューレ」が最後の録音となりました。しかし、プロデューサーのジョン・カルショーは、この録音の最後の数日間にトラブルに遭い、後味の悪い終りを迎えたようです。ショルティ曰く「彼らはああしたことが大好きだということさ。君が苦しんでいたり、時間と闘っていたりするのを目にしたとき、その危機が彼らの最高の力を引っぱり出すのさ……」(「ニーベルングの指環」(ジョン・カルショー著、山崎浩太郎 訳、学習研究社))とか。最高の力を引っぱり出されたウィーン・フィルは、さすがプロ中のプロ、今回聴き直して、感動を新たにしました。ハンス・ホッターは全盛期を過ぎていますが、それでも最高のヴォータンのひとりだと思います。ニルソンのブリュンヒルデは後年より声が重く感じ、ベーム盤のほうが好みです。



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ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 

ジークムント:ジョン・ヴィッカーズ
ジークリンデ:グンドゥラ・ヤノヴィッツ
フンディング:マルッティ・タルヴェラ

ヴォータン:トーマス・スチュワート
ブリュンヒルデ:レジーヌ・クレスパン
フリッカ:ジョゼフィン・ヴィージー

ヴァトラウテ:イングリット・シュテーガー
ゲルトリンデ:リゼロッテ・レープマン
オルトリンデ:カルロッタ・オルダシー
シュヴェルトライテ:リロ・ブロックハウス
ハイムヴィーゲ:タニーザ・マスティロヴィッチ
ジークルーネ:バルブロ・エリクソン
グリムゲルデ:ツヴェトゥカ・アーリン
ロスヴァイゼ:ヘルガ・イェンケル

1966年8、9、12月
ダーレム。イエス・キリスト教会

さすがベルリン・フィルは音にパワーと厚みがありますね。機能性と美しさは今回聴き比べた中でも随一です。声楽陣はいずれもカラヤン好みの美声の持ち主で、歌手もオーケストラの一部のようです。ショルティ盤ではジークリンデ(ドラマティック・ソプラノ)であったレジーヌ・クレスパンがカラヤン盤ではブリュンヒルデ(ホッホドラマティッシャー・ソプラノ)であるのも、女声にリリックさを求める、いつものカラヤンです。独特の声のヴィッカーズの力強いジークムント、ヤノヴィッツのジークリンデの清新な美しさ、気高く美しいスチュワートのヴォータンです。



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カール・ベーム
バイロイト祝祭管弦楽団

ジークムント:ジェームズ・キング
ジークリンデ:レオニー・リザネク
フンディング:ゲルト・ニーンシュテット

ヴォータン:テオ・アダム
ブリュンヒルデ:ビルギット・ニルソン
フリッカ:アンネリース・ブルマイスター

ヴァルトラウテ:ゲルトラウト・ホップ
ゲルヒルデ:ダニカ・マステロヴィッツ
オルトリンデ:ヘルガ・デルネシュ
シュヴェルトライテ:ジークリンデ・ワーグナー
ヘルムヴィーゲ:リアーネ・ジーネック
ジークルーネ:アンネリース・ブルマイスター
グリムゲルデ:エリーザベト・シェルテル
ロスヴァイゼ:ソナ・ツェルヴェナ

1967年7月23日、8月10日(ライヴ)
バイロイト祝祭劇場

指揮に推進力と緊迫感があり、ぐいぐい引き込まれます。キングのジークムントはショルティ盤よりすいぶんこなれた感じがします。テオ・アダムのヴォータンも素晴らしく、そして、録音方式がステレオになってからのブリュンヒルデは、疑いなくビルギット・ニルソンでした。どうでもいいことですが、ヴォータンがローゲを召喚するところで、槍で岩を三度叩く(突く)ところがあります。録音によっていろいろな音がしますが、何も聞こえないと肩透かしを食らったような気分になります。



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オットー・クレンペラー
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

ジークムント:ウィリアム・コクラン
ジークリンデ:ヘルガ・デルネッシュ
フンディンク:ハンス・ゾ―ティン 

ヴォータン:ノーマン・ベイリー

1969年10月、11月、1970年10月録音場所
ロンドン、オール・セインツ教会

今回の聴き比べでは、「第1幕のみ」とか「第3幕のみ」の録音は取り上げていないのですが、この盤はどうしてもご紹介しておきたいのです。第1幕全曲と第3幕の「ヴォータンの告別~魔の炎の音楽」だけの録音です。「魔の炎の音楽」で「ヴォータンは、呪文をかけるように槍を構え。沈痛な面持ちでブリュンヒルデを振り返る。炎の中に消えゆく前に、もう一度ブリュンヒルデを振り返る」の場面、最愛の娘との別れをこれほど見事に演奏した例は聴いたことがなかったと、すごく感動しました。当時は……。クレンペラーならではの深い呼吸によるゆったりしたテンポの「ワルキューレ」です。



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マレク・ヤノフスキ
シュターツカペレ・ドレスデン

ジークムント:ジークフリート・イェルザレム
ジークリンデ:ジェシー・ノーマン
フンディング:クルト・モル

ヴォータン:テオ・アダム
ブリュンヒルデ:ジャニーヌ・アルトマイヤー
フリッカ:イヴォンヌ・ミントン

ヴァルトラウテ:オルトルン・ヴェンケル
ヘルムヴィーゲ:ルース・ファルコン
オルトリンデ:シェリル・ステューダー
ゲルヒルデ:エーファ=マリア・ブントシュー
シュヴェルトライテ:アンネ・イェヴァン
ジークルーネ:クリステル・ボルヒャース
ロスヴァイゼ:ウタ・プリエフ
グリムゲルデ:キャスリーン・クールマン

1981年8月
ドレスデン、ルカ教会

少々鮮明さを欠く録音のせいで、やっぱり損をしていますが、オーケストラの響きが美しいし、歌手陣は相変わらず豪華で、特にジークムント兄妹が揃ってよい出来だと思います。アルトマイヤーのブリュンヒルデがちょっと弱いかもしれません。これだったらジェシー・ノーマンが歌ったほうがよかったんじゃないかとも思いました。全体に悪くないのですが、もう少し感興豊かな指揮だったら良かったかも。



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ジェームズ・レヴァイン
メトロポリタン歌劇場管弦楽団

ジークムント:ゲイリー・レイクス
ジークリンデ:ジェシー・ノーマン
フンディング:クルト・モル

ヴォータン:ジェームズ・モリス
ブリュンヒルデ:ヒルデガルド・ベーレンス
フリッカ:クリスタ・ルートヴィヒ

ヴァルトラウテ:ラインヒルト・ルンケル
ヘルムヴィーゲ: リンダ・ケルム
オルトリンデ:マリリン・ミムズ
ゲルヒルデ:マリタ・ナビア
シュヴェルトライテ:ルートヒルト・エンゲルト
ジークルーネ:ダイアン・ケスリング
ロスヴァイゼ:アンネ・ヴィルケンス
グリムゲルデ:メレディス・パーソンズ

1987年4月
ニューヨーク・マンハッタンセンター

レヴァインは何を振らせても様になっていて、聴き手の期待を裏切りません。これはこれですごいことだと思います。芸術監督を務めるメトロポリタン歌劇場ですから、オーケストラとの息もバッチリで、ケチのつけようがありません。歌手もこの時代の名歌手を揃えた強力なライナップです。夢見るような幻想的な美しさが特長です。



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ベルナルト・ハイティンク
バイエルン放送交響楽団

ジークムント:ライナー・ゴルトベルク
ジークリンデ:シェリル・ステューダー
フンディング:マッティ・サルミネン

ヴォータン:ジェイムズ・モリス
ブリュンヒルデ:エヴァ・マルトン
フリッカ:ヴァルトラウト・マイアー

ヴァルトラウテ:ウテ・ヴァルター
ゲルヒルデ:アニタ・ソルト
ヘルムヴィーゲ:ルース・ファルコン
シュヴェルトライテ:ウルズラ・クンツ
オルトリンデ:シルヴィア・ヘルマン
ジークルーネ:マルガレータ・ヒンターマイヤー
グリムゲルデ:キャロライン・ワトキンソン
ロスヴァイゼ:マルガリータ・リローヴァ

1988年2,3月
ミュンヘン、ヘルクレスザール

メジャーレーベルは看板指揮者でセッションによる「ニーベルングの指環」を完成させていますが、(全曲録音に消極的であった)EMIの初の「指環」はこのハイティンク指揮による全曲盤でした(PHILIPS盤だと思い込んでいました)。満を持したというわけでもないのでしょうが、EMIのベストを尽くした布陣と思います。まず、ハイティンクの指揮が「中庸の徳たるや、それ至れるかな」といった感じで、オーケストラから美しい響きを導いています。歌手も申し分ありませんが、ステューダーのジークリンデが清楚で可憐です。マルトンのブリュンヒルデも強力な声で、モリスのヴォータンがやはり立派です。ちょい聴きのつもりでも、ついつい傾聴してしまう演奏です。



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ヴォルフガング・サヴァリッシュ
バイエルン国立歌劇場管弦楽団

ジークムント:マンフレート・シェンク
ジークリンデ:ユリア・ヴァラディ
フンディング:クルト・モル

ヴォータン:ロバート・ヘイル
ブリュンヒルデ:ヒルデガルド・ベーレンス
フリッカ:マリアナ・リポヴシェク

ヴァルトラウテ:コルネリア・ヴルコップフ
ヘルムヴィーゲ:ナンシー・グスタフソン
オルトリンデ:マリアンネ・ザイベル
ゲルヒルデ:アンドレア・トラウポート
シュヴェルトライテ:アンネ・ペレコールネ
ジークルーネ:クリステル・ボルハース
ロスヴァイゼ:グドルン・ヴェヴェツォウ
グリムゲルデ:ビルギット・カルム

1989年11月、12月(ライヴ)
ミュンヘン、バイエルン国立歌劇場

サヴァリッシュの指揮は手慣れているように思えますが、スケール感に欠けるので物足りなさを覚えます。能天気なジークムントとやや古風なジークリンデというアンバランスな兄妹。この演奏での聴きものはベーレンスのブリュンヒルデですが、2年前のレヴァイン盤のほうが、声の調子がよかったように思います。



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ダニエル・バレンボイム
バイロイト祝祭管弦楽団

ジークムント:ポール・エルミング
ジークリンデ:ナディーネ・ゼクンデ
フンディング:マティアス・ヘレ

ヴォータン:ジョン・トムリンソン
ブリュンヒルデ:アン・エヴァンス
フリッカ:リンダ・フィニー

ヴァルトラウテ:シャーリー・クローズ
ヘルムヴィーゲ:エヴァ・マリア・ブントシュー
オルトリンデ:ルート・フローレン
ゲルヒルデ:エヴァ・ヨハンソン
シュヴェルトライテ:片桐仁美
ジークルーネ:リンダ・フィニー
ロスヴァイゼ:ヘーベ・ダイクストラ
グリムゲルデ:ビルギッタ・スヴェンデン

1992年6、7月
バイロイト祝祭劇場

初期の3作を除き、ワーグナーの主要オペラは10作あるのですが、それらのすべてを録音した指揮者は少ないです。バレンボイムはそのひとりです(と書いて、他に誰がいたっけ?と慌てる。)。バレンボイムは1980~1999年に、毎年のようにバイロイトで指揮していましたし、自分でも得意なレパートリーにしていました。とても優秀な録音のせいもあって、指揮とオーケストラは聴きごたえがあります。アン・エヴァンスのようなブリュンヒルデは嫌いじゃないですし、声に恵まれたトムリンソンのヴォータンも熱唱と思うのですが、その他の歌手があまり良くないように思えます。



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シモーネ・ヤング
ハンブルク州立歌劇場管弦楽団

ジークムント:スチュアート・スケルトン
ジークリンデ:イヴォンヌ・ネフ
フンディング:ミハイル・ペトレンコ

ヴォータン:ファルク・シュトゥルックマン
ブリュンヒルデ:デボラ・ポラスキ
フリッカ:ジャンヌ・ピランド

ヴァルトラウテ:クリスティーナ・ダミアン
ヘルムヴィーゲ:ミリアム・ゴードン=シュテヴァルト
ゲルヒルデ:ヘレン・クゥオン
オルトリンデ:ガブルエーレ・ロスマニス
ジークルーネ:カティア・ピーヴェック
ロスヴァイゼ:レナーテ・スピングラー
グリムゲルデ:アン=ベス・ソルヴァング
シュヴェルトライテ:デボラ・フムブル

2008年3月12-19日(ライヴ)
ハンブルク州立歌劇場

堂々たる恰幅のよい太書きの演奏ですが、感興に任せたテンポの伸縮とか、そういものがあると、もっと良かったと思います。録音がこもりがちで、解像度が今一つ、ダイナミックレンジも狭く、総じて迫力不足ですが、この劇場ではこういう音響なのかもしれません。歌手は、スケルトンが美声で力強く、また憂いもある理想のジークムントで、シュトゥルックマンのヴォータンも立派です。

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やっと終わった。

ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」の名盤

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「トリスタンとイゾルデ」のような、オペラ史上最も革新的で、後世の芸術に大きな影響を与えたといわれる作品を聴き比べのは気が引けます。ここに取り上げた録音はいずれも名演ですので、歌手や指揮者のお好みでどうぞと言って終りにしたいくらい。Wikipediaによると演奏時間は4時間弱で、とても5日間で全てのCDを聴くことはできません。数年前に聴いた記憶を引き出しながら書いてみたいと思います。

リヒャルト・ワーグナー 楽劇「トリスタンとイゾルデ」


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ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
フィルハーモニア管弦楽団
コヴェントガーデン王立歌劇場合唱団
(合唱指揮:ダグラス・ロビンソン)

イゾルデ:キルステン・フラグスタート
トリスタン:ルートヴィヒ・ズートハウス
ブランゲーネ:ブランシュ・シーボム
クルヴェナール:ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ
マルケ王:ヨゼフ・グラインドル
メロート:エドガー・エヴァンス
牧童・若い水夫:ルドルフ・ショック
舵手:ロデリック・デイヴィス

1952年6月10-21、23日
ロンドン、キングズウェイ・ホール

この演奏は、私にとって2つの大きな魅力があります。ひとつは、イゾルデがキルステン・フラグスタートであること、もうひとつはフルトヴェングラーの指揮であることです。
フラグスタートは20世紀前半の、最高のワーグナー・ソプラノです。この録音のときは(まだ)57歳で全盛期を過ぎているとはいえ、この録音でも張りのある凛とした、品格のある声で最高のイゾルデを聴かせてくれます。その他の歌手も理想的で立派な歌唱です。
この録音は当然ステレオではありませんが、きれいな音でフルトヴェングラーの演奏を聴けるのはありがたいことです。宇野功芳さんはあまり褒めていませんでしたが、重厚かつ濃厚で彫が深い名演だと思います。聴き終えたときのずっしりと心に残る演奏は、他からは得られないものです。



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サー・ゲオルク・ショルティ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン楽友協会合唱団
(合唱指揮:ラインホルト・シュミット)

イゾルデ:ビルギット・ニルソン
トリスタン:フリッツ・ウール
ブランゲーネ:レジーナ・レズニック
クルヴェナール:トム・クラウセ
マルケ王:アルノルト・ヴァン・ミル
メロート:エルンスト・コツープ
若い水夫:ヴァルデマール・クメント
牧童:ペーター・クライン
舵手:テオドール・キルシュビヒラー

1960年9月
ウィーン、ゾフィエンザール

「指環」全曲を行うためにビルギット・ニルソンと契約したDECCAですが、彼女が出した条件はまず「トリスタンとイゾルデ」を録音することでした。それにより「ジークフリート」に先立ってこの演奏が録音されました。3週間休みなしで行われたセッションで、ショルティは完全に消耗してしまったそうでうです。とはいえ、けしてやっつけ仕事ではなく、これは名演です。
ニルソンはさすがの歌唱です。意外にも彼女Y唯一の「トリスタン」のセッション録音となりましたが、自分の芸術を残すためにベストを尽くしたかったのでしょう。そういう気構えが聴こえます。圧倒的な声圧と、どんな場面でも美しくさを失わない歌唱は見事です。
その他の歌手も、ウールのトリスタンをはじめ、この頃のDECCAが揃えられる最上の歌手陣です。
ショルティ&ウィーン・フィルの演奏も劇的であり、リリシズムも十分、特にラストの荘重さが心を打ちます。



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カール・ベーム
バイロイト祝祭管弦楽団
バイロイト祝祭合唱団
(合唱指揮:ヴィルヘルム・ピッツ)

イゾルデ:ビルギット・ニルソン
トリスタン:ヴォルフガング・ヴィントガッセン
ブランゲーネ:クリスタ・ルートヴィヒ
クルヴェナール:エーベルハルト・ヴェヒター
マルケ王:マルッティ・タルヴェラ
メロート:クロード・ヒーター
若い水夫:ペーター・シュライアー
牧童:エルヴィン・ヴォールファールト
舵手:ゲルト・ニーンシュテット

1966年7月(ライヴ)
バイロイト祝祭劇場

ニルソンのイゾルデで、ヴィントガッセンのトリスタンという理想の主役です。
指揮はベームで、「トリスタンとイゾルデ」の名盤として愛され続けてきた演奏です。
ヴィントガッセンの声は摩耗しておらず、瑞々しい若さを保っていますが、トリスタンはバリトン寄りの声のほうがふさわしいように思い、少し違和感もあります。
ライヴだから、ニルソンはショルティ盤よりも感興に任せて自由に歌っており、ステレオ録音で聴く最高のイゾルデです。
ベーム指揮のオーケストラも迫力満点、白熱的で、一心不乱に演奏し、音楽がぐいぐい進んでいきます。ライヴのベームは人が変わったようにすごいです。
脇役も申し分がないというか、最上の人達で、この年に亡くなったヴィーラント・ワーグナーの演出ということもあり、この時代のベストを記録した貴重な録音でしょう。



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ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団
(合唱指揮:ヴァルター・ハーゲン=グロル)

トリスタン:ジョン・ヴィッカーズ
イゾルデ:ヘルガ・デルネシュ
ブランゲーネ:クリスタ・ルートヴィヒ
クルヴェナール:ヴァルター・ベリー
マルケ王:カール・リッダーブッシュ
メロート:ベルント・ヴァイクル
牧童・若い水夫:ペーター・シュライヤー
舵手:マーティン・ヴァンティン

録音時期:1971年12月、1972年1月
録音場所:ベルリン、イエス・キリスト教会

「トリスタンとイゾルデ」は最もカラヤンの音楽性に適したオペラのはずです。
カラヤンは、1938年のベルリン国立歌劇場における「トリスタンとイゾルデ」により、批評家に「奇跡の人」と称賛され、国際的に認められるようになりました。カラヤンにとって「トリスタン」は出世の機会を与えてくれたオペラですが、果たしてカラヤンにそのような認識があったでしょうか。
この録音は不思議です。管弦楽はいつものベルリン・フィルの輝かしくダイナミックで洗練美の極致のサウンドなのですが、良くも悪くもカラヤンの姿が見えて来ません。
イゾルデのデルネシュは悪くない(どころか立派な歌唱な)のですが、ショルティ盤やベーム盤のニルソン、クライバー盤のマーガレット・プライスと比べて、やや中途半端な印象を受けます。ちょっと陰のある声質はイゾルデにふさわしいのですが、元来リリックな人なのでちょっとつらそうです。
ヴィッカーズはカラヤンが重用したテノールですが、ベルリン・フィルに埋もれない強靭な声を聴かせます。独特な声ですが、確かにこの人はヘルデン・テノールであったのだなと納得の歌唱。
実は、私が一番好きな登場人物はクルヴェナール(トリスタンの従臣)なのですが、この録音のヴァルター・ベリーが一番しっくりきます。
脇役は豪華な歌手陣です。でも、この演奏には何かが足りない。イゾルデが強力なワーグナー・ソプラノであったら印象が変わったかも?



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ヘルベルト・フォン・カラヤン
バイロイト祝祭管弦楽団
バイロイト祝祭合唱団
(合唱指揮:ヴィルヘルム・ピッツ)

イゾルデ:マルタ・メードル
トリスタン:レーモン・ヴィナイ
ブランゲーネ:イーラ・マラニウク
クルヴェナール:ハンス・ホッター
マルケ王:ルートヴィヒ・ウェーバー
メロート:ヘルマン・ウーデ
若い水夫:ゲルハルト・アンガー
舵手:ゲルハルト・ストールツ
羊飼い:ヴェルナー・ファウルハーバー

1952年7月23日(ライヴ)
バイロイト祝祭歌劇場

このCDは持ってないですし、聴いたこともありません。理由は値段がやや高いことと、録音が悪そうだからです。参考盤としてここに留めておきたいと思います。④は1971~72年というカラヤン&ベルリン・フィルの全盛期に録音されたのに、ちょっと納得できない、というか、物足りなさを覚えます。それで、歌手陣がより強力なこの録音を聴いてみたいのです。クルヴェナールがハンス・ホッターですから、それだけでも聴く価値はあると思うのです。



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カルロス・クライバー
シュターツカペレ・ドレスデン
ライプツィヒ放送合唱団
(合唱指揮:ゲルハルト・リヒター)

トリスタン:ルネ・コロ
イゾルデ:マーガレット・プライス
ブランゲーネ:ブリギッデ・ファスヴェンダー
クルヴェナール:ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ
マルケ王:クルト・モル
メロート:ヴェルナー・ゲッツ
若い水夫:ヴォルフガング・ヘルミヒ
牧童:アントン・デルモータ
舵手:エーバーハルト・ビュヒナー

1980年8&10月、1981年2&4月、1982年2&4月
ドレスデン、ルカ教会

ずいぶん時間をかけて録音されたワーグナーです。クライバーは1974,75,76年のバイロイトで「トリスタンとイゾルデ」を指揮していますので、得意のレパートリーになっていたのでしょう。
クライバーの指揮は、細かいところまで神経が行き届いて表情豊かで、しかし音楽が小さくまとまらず、ダイナミックで新鮮で、聴く都度新しい発見があって……。
ディースカウのクルヴェナールは、フルトヴェングラー盤以来ですが、巧いことは巧いです。けれど知的過ぎて、猪突猛進な猪武者クルヴェナールには違和感があります。
ルネ・コロのトリスタンはノーブルな美声で、うっとりと聴き惚れるところも多いのですが、もう少し低音が豊かで声に張りがある。バリトンっぽい人のほうがトリスタンにふさわしいと思います。
マーガレット・プライスのイゾルデは、クライバーの希望による起用だそうですが、なんと可憐なイゾルデでしょう。モーツァルトのオペラから抜け出てきたかのよう。レコードならではの配役です。



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レナード・バーンスタイン
バイエルン放送交響楽団
バイエルン放送合唱団
(合唱指揮:ハインツ・メンデ)

トリスタン:ペーター・ホフマン 
イゾルデ:ヒルデガルト・ベーレンス 
ブランゲーネ:イヴォンヌ・ミントン 
クルヴェナール:ベルント・ヴァイクル 
マルケ王:ハンス・ゾーティン 
メロート:ヘリベルト・シュタインバッハ 
牧童:ハインツ・ツェドニク 
水夫:トマス・モーザー 
舵手:ライムント・グルムバッハ 

1981年2月,4月,11月(ライヴ)
ミュンヘン、ヘルクレスザール

未購入・未聴。演奏時間は266分で4時間26分。「トリスタンとイゾルデ」の平均タイムを30分も上回ります。聴く前から怖気づいてしまって、未購入のうちに廃盤になってしまいました。タワーレコード限定で昨年から販売されているのですが、なかなか食指が動きません。でも、避けては通れない道なので、忘れないようにここに取り上げておきます。吉田秀和先生も褒めていたみたいですし。



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アントニオ・パッパーノ
コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団
コヴェント・ガーデン王立歌劇場合唱団
(合唱指揮:レナート・バルサドンナ)

トリスタン:プラシド・ドミンゴ
イゾルデ:ニーナ・ステンメ(シュテンメ)どっち?
ブランゲーネ:藤村実穂子
クルヴェナール:オラフ・ベーア
マルケ王:ルネ・パーペ
メロート:ジャレド・ホルト
若い水夫:ロランド・ヴィリャソン
牧童:イアン・ボストリッジ
舵手:マシュー・ローズ

2004年11月23日~2005年1月9日
ロンドン、アビーロード第1スタジオ

指揮者のパッパーノは、バイロイトでバレンボイムのアシスタントを務め、自身も「ローエングリン」でデビューしており、ワーグナーの実績はバッチリです。の名匠達に比べると、物足りなさは否めませんが、歌手の引き立て役としては申し分ないと思います。
トリスタンはドミンゴですが、名前を伏せて聴いたらわからないかもしれません。個人的には今回聴いた中では最高のトリスタンではないかと思っています。弱音の柔らかい声、跫音の輝かしさ、まさにブロンズの響きです。高音がちょっと苦しいところやドイツ語の子音が足りないことなど、小さな問題です。
ニーナ・ステンメは、劇場で聴いてみたい人。2003年のグラインドボーン音楽祭でイゾルデを歌って大成功を収めたそうですが、これはその直後の録音です。今のステンメはさらに声が強くなっているそうなので、ブリュンヒルデを聴いてみたいとろこです。録音で聴く限り、古の名歌手に引けは取っていないように思えるのですが。
藤村実穂子のブランゲーネ、ベーアのクルヴェナールも良い仕事をしています。

ワーグナー「ニュルベルクのマイスタージンガー」の名盤

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「トリスタンとイゾルデ」が4時間弱で演奏時間が長いと書きましたが、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は4時間20分です(!)。休憩時間も入れると、どれくらいの上演時間になるのでしょう。

最初に登場人物をまとめておきます。大勢います。

ハンス・ザックス(靴屋):バス
ヴァルター・フォン・シュトルツィング(フランケン地方出身の若い騎士):(テノール)
エファ(エヴァ)(ポーグナーの娘):ソプラノ 
ダフィト(ダーヴィット)(ザックスの徒弟):テノール
マグダレーネ(エヴァの乳母):メゾソプラノ
ファイト・ポーグナー(金細工師):バス
クンツ・フォーゲルザング(毛皮屋):テノール
コンラート・ナハティガル(ブリキ屋):バス
ジクストゥス・ベックメッサー(市役所の書記):バス
フリッツ・コートナー(パン屋):バス
バルタザール・ツォルン(錫細工師):テノール
ウルリヒ・アイスリンガー(香料商人):テノール
アウグスティン・モーザー(仕立屋):テノール
ヘルマン・オルテル(石鹸屋):バス
ハンス・シュヴァルツ(靴下屋):バス
ハンス・フォルツ(銅細工師):バス
夜警:(バス)
同業組合に属する市民と妻たち
職人たち、徒弟たち、娘たち、民衆

(上演するのにとてもお金がかかりそう。)


リヒャルト・ワーグナー 楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」



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ヨーゼフ・カイルベルト
バイエルン国立歌劇場管弦楽団 
合唱:バイエルン国立歌劇場合唱団
(合唱指揮:ヴォルフガング・バウムガルト)

ザックス:オットー・ヴィーナー 
ヴァルター:ジェス・トーマス 
エファ:クレア・ワトソン 
ダフィト:フリードリッヒ・レンツ 
マグダレーネ:リリアン・ベニングセン 
ポーグナー:ハンス・ホッター 
フォーゲルゲザング:デイヴィッド・ソー 
ナハティガル:カール・ホッペ 
ベックメッサー:ベンノ・クッシェ 
コートナー:ヨゼフ・メッテルニッヒ 
ツォルン:ヴァルター・カールノート 
アイスリンガー:フランツ・クラールヴァイン 
モーザー:カール・オステルターク 
オルテル:アドルフ・カイル 
シュワルツ:ゲオルク・ヴィーター 
フォルツ:マックス・プレープストル 
夜警:ハンス・ブルーノ・エルンスト 

1963年11月23日(ライヴ)
ミュンヘン、バイエルン国立歌劇場

このオペラを初演したのはバイエルン国立歌劇場(その頃はミュンヘンの宮廷歌劇場)だそうですが、その建物は第二次世界大戦で崩壊してしまいました。このライヴは、1963年11月に再建されたバイエルン国立歌劇場の記念公演の録音です。
ラストにおなじみのメロディで民衆によって歌われる「聖なるドイツの芸術が我らの手に残るだろう」が感動的です。終演後の拍手や歓声がそれを証明しています。
そのような貴重な記録ですから、歌手や指揮についてとやかく言うのは野暮というものでしょう。
録音(ステレオ)はこの時代のライヴとしてはすこぶる良好です。



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ラファエル・クーベリック
バイエルン放送交響楽団
テルツ少年合唱団
(指揮:ゲアハルト・シュミット=ガーデン)
バイエルン放送合唱団
(指揮:ハインツ・メンデ)

ザックス:トマス・スチュワート 
ヴァルター:シャーンドル・コーンヤ 
エファ:グンドゥラ・ヤノヴィッツ 
ダフィト:ゲアハルト・ウンガー 
マグダレーネ:ブリギッテ・ファスベンダー 
ポーグナー:フランツ・クラス 
フォーゲルゲザング:ホルスト・ヴィルヘルム 
ナハティガル:リヒャルト・コーゲル 
ベックメッサー:トーマス・ヘムスレー 
コートナー:キート・エンゲン 
ツォルン:マンフレート・シュミット 
アイスリンガー:フリードリッヒ・レンツ 
モーザー:ペーター・バイレ
オルテル:アントン・ディアコフ 
シュヴァルツ・カール・クリスティアン・コーン 
フォルツ:ディーター・スレムベック 
夜警:ライムント・グルムバッハ 

1967年10月1日~8日(放送用録音)
ミュンヘン、ヘルクレスザール

放送用の録音ということですが、その経緯が知りたいです。どうしてこのような録音が行われたのでしょうか。1868年6月に初演されたオペラですから、その99年後ですよね。
なぜこのようなことを書いているかというと、非常に素晴らしい演奏だからです。クーベリックの指揮が生き生きと音楽を語らせ、声楽陣が優秀で主役級にハズレがないです。
皆さん素晴らしい歌唱で、特にスチュワートのザックスが好きです。完成度が高い演奏はこの後にも出て来ますが、完成度と求心力の高さを併せ持った演奏はこの録音が随一でしょう。
この演奏を初めて聴いたとき、クーベリックとはこんなにすごい指揮者だったのかと思ったくらいです。録音は悪くないのですが、もう少しレンジが広かったらとか、でもそんなこと些細なことです。
「マイスタージンガー」のCDをどれか一組残すとしたら、間違いなくこのセットを選びます。



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ヘルベルト・フォン・カラヤン
シュターツカペレ・ドレスデン
ドレスデン国立歌劇場合唱団
ライプツィヒ放送合唱団
(合唱指揮:ホルスト・ノイマン)

ザックス:テオ・アダム
ヴァルター:ルネ・コロ
エファ:ヘレン・ドナート
ダフィト:ペーター・シュライアー
マグダレーネ:ルート・ヘッセ
ポーグナー:カール・リッダーブッシュ
フォーゲルゲザンク:エーベルハルト・ビュヒナー
ナハティガル:ホルスト・ルウノウ
ベックメッサー:ジェレイント・エヴァンス
コートナー:ゾルタン・ケレメン
ツォルン:ハンス=ヨアヒム・ロッチュ
アイスリンガー:ペーター・ビンズツゥス
モーザー:ホルスト・ヒースターマン
オルテル:ヘルマン・クリスティアン・ポルスター
シュヴァルツ:ハインツ・レーエ
フォルツ:ジークフリート・フォーゲル
夜警:クルト・モル

1970年11月24日~12月4日
ドレスデン、ルカ教会

信じられないことに、このオペラ初のステレオ全曲(ライヴや放送用録音を除く)録音です。また、カラヤンが珍しく(皆無ではない)ドレスデンのオケを起用した録音でもあります。
「カラヤンはベルリン・フィルやウィーン・フィルではなく、ドレスデンのオケを選び、理想の響きをによるマイスタージンガーを作り上げた」と書かれていることがありますが、当初バルビローリが指揮する予定だったのが、大人の事情で降りてしまったので、急遽EMIがカラヤンを代役に立てて録音しのたそうです。選ばれたのはカラヤンのほうでした。
どうでもいいことを書きましたが、カラヤンが残したワーグナー全曲録音の中で、最も評価が高く、このオペラの決定盤とされている録音です。
そして歌手陣はこの当時揃えられる最高の人達を集めています。夜警がクルト・モルなくらいですから。学生の頃、この豪華なラインナップを眺めて、どんなにすごい演奏なのだろうと空想していたものでした。(ベックメッサーは「?」です。)シュライアーなど一番巧いダフィトでしょう。
ドレスデンのオケは、16世紀のニュルンベルクを描いたこの作品にふさわしい音色(いぶし銀といわれます)です。カラヤン節で演奏しているものの、まだカラヤン色に染まりきっていない初々しさを感じます。でも、微妙な緩急の付け方とか、クライマックスへの持って行き方など、やっぱりカラヤンは巧いですね。



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シルヴィオ・ヴァルヴィーゾ
バイロイト祝祭管弦楽団
バイロイト祝祭合唱団
(合唱指揮: ノルベルト・バラチュ)

ザックス: カール・リッダーブッシュ
ヴァルター: ジーン・コックス
エファ: ハンネローレ・ボーデ
ダフィト: フリーダ・シュトリッガー
マグダレーネ: アンナ・レイノルズ
ポーグナー: ハンス・ゾーティン
フォーゲルゲザング: ヘリベルト・シュタインバッハ
ナハティガル: ヨゼフ・デネー
ベックメッサー: クラウス・ヒルテ
コートナー: ゲルト・ニーンシュテット
ツォルン: ローベルト・リッヒャ
アイスリンガー: ヴォルフ・アッペル
モーザー: ノルベルト・オルト
オルテル: ハインツ・フェルトホフ
シュヴァルツ: ハルトムーツ・バウエル
フォルツ: ニコラウス・ヒルデブラント
夜警: ベルント・ヴァイクル

1974年7月、8月
バイロイト祝祭劇場

マイナーなイメージのあるヴァルヴィーゾについてWikipediaで調べたところ「特に1969年から1974年に登場したバイロイト音楽祭の『ニュルンベルクのマイスタージンガー』ではその端正な指揮ぶりが評判を得た」のだそうで、これはヴァルヴィーゾのバイロイト最後の年でしょうか。
ライブ録音なので、盛大に足音が入っていたり、音楽が鳴りやまないうちに拍手が起きたりします。そのようなノイズを嫌う人にはお薦めできませんが、ヴァルヴィーゾのテンポ感、ノリの良さが心地よく、気持ちよく聴くことができました。
声楽陣も個性豊で、コックス(これが唯一の録音?)の若々しいヴァルターや可憐で初々しいボーデも良いのですが、何といってもリッダーブッシュによるザックスが聴けるのがありがたいです。このオペラは他の歌手が多少良くなくても、ザックスさえ良ければ聴けます。威厳があって慈悲深く、伸びのある美しい声。録音で聴ける最高のザックスだと思います。
なお、1年後のショルティ盤でベックメッサーを歌っているヴァイクルがこの盤では夜警です。もしかしたら夜警は非常に重要な役なのかもしれません。合唱の量感がたっぷりで、オケと互角なのも嬉しいです。



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サー・ゲオルク・ショルティ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン国立歌劇場少年少女合唱団
(合唱指揮:ノルベルト・ヴァラッチュ)

ザックス:ノーマン・ベイリー
ヴァルター:ルネ・コロ
エファ:ハンネローレ・ボーデ
ダフィト:アドルフ・ダラポッツァ
マグダレーネ:ユリア・ハマリ
ポーグナー:クルト・モル
フォーゲルゲザンク:アダルベルト・クラウス
ナハティガル:マルティン・エーゲル
ベックメッサー:ベルント・ヴァイクル
コートナー:ゲルト・ニーンシュテット
ツォルン:マリティン・ションベルク
アイスリンガー:ヴォルフガンク・アッペル
モーザー:ミシェル・シェネシャル
オルテル:ヘルムート・ベルガー・トゥーナ
シュヴァルツ:クルト・リドゥル
フォルツ:ルドルフ・ハルトマン
夜警:ヴェルナール・クルムリックボルト

1975年10月
ウィーン、ゾフィエンザール

今回の聴き比べはこのCDから始めました。これがすごく良かったのです。ずばり名演です。ショルティは20年後にシカゴ響と再録音しましたが、この演奏のどこに不満があったのでしょう。評論家さん達もシカゴ響との再録音のほうを支持しているのですが。
まず、ウィーン・フィルと合唱の響きがすごく美しく、それを鮮明に捉えた録音も優秀です。歌手はいずれも秀でた人達ばかりで、エヴァ役のハンネローレ・ボーデはヴァルヴィーゾ盤と共通で、この頃は引っ張りだこだったのかな。
ベイリーもザックスにふさわしい歌唱ですが、一番素晴らしいと思ったのは、ベックメッサー役のベルント・ヴァイクルです。美声の持ち主ですが、高音の美しさと演技の巧さで頭一つ抜きん出ていました。もちろんザックスのベイリーも貫禄がありましたし、カラヤン盤と共通のルネ・コロも相変わらず最高のヴァルターでした。
このオペラの最初に選ぶべきセットと言っても過言ではないでしょう。



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サー・ゲオルク・ショルティ
シカゴ交響楽団&合唱団
(合唱指揮:デュエイン・ヴォルフ)

ザックス:ジョゼ・ヴァン・ダム
ヴァルター:ベン・ヘップナー
エファ:カリタ・マッティラ
ダフィト:ヘルベルト・リッペルト
マグダレーネ:イリス・フェアミリオン
ポーグナー:ルネ・パーペ
フォーゲルゲザング:ロベルト・ザッカ
ナハティガル:ゲイリー・マーティン
ベックメッサー:アラン・オーピー
コートナー:アルベルト・ドーメン
ツォルン:ジョン・ハートン・マーレー
アイスリンガー:リチャード・バイアン
モーザー:スティーヴン・サープ
オルテル:ケヴィン・デス
シュワルツ:ステファン・モーシェク
フォルツ:ケリー・アンダーソン
夜警:ケリー・アンダーソン

1995年9月20日~27日(ライヴ)
シカゴ、オーケストラ・ホール

未聴なのですが、気になったので掲げておきます。ウィーン・フィル盤に十分満足してしまっているので購入していませんが、もしかしたら、こちらのほうがよいのかな? 気になります。同じ指揮者で再録音させてくれるとは、DECCAは太っ腹な会社ですね。



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オイゲン・ヨッフム
ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団&合唱団
(合唱指揮:ヴァルター・ハーゲン=グロル)

ザックス:ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ
ヴァルター:プラシド・ドミンゴ
エファ:カタリーナ・リゲンツァ 
ダフィト:ホルスト・R・ラウベンタール
マグダレーネ:クリスタ・ルートヴィヒ
ポーグナー:ペーター・ラッガー
フォーゲルザング:ペーター・マウス
ナハティガル:ロベルト・バニュエラス
ベックメッサー:ローラント・ヘルマン
コートナー:ゲルト・フェルトホフ
ツォルン:ローレン・ドリスコル
アイスリンガー:カール=エルンルト・メルカー
モーザー:マルティン・ヴァンティン
オルテル:クラウス・ラング
シュヴァルツ:イヴァン・サルディ
フォルツ:ミオミール・ニコリク
夜警:ヴィクター・フォン・ハーレム

録音:1976年3-4月
ベルリン、イエス・キリスト教会

なんでも歌えるディースカウと、なんでも歌ってみせるドミンゴ。この二人の歌に違和感を覚えなければ、総合点が高い演奏だと思います。名歌手が揃っていますし、端役も優れています。マグダレーネ役のルートヴィヒとか、ベックッサー役のヘルマンとか。
個人的にはこのドミンゴは名唱だと思っています。でも、今回の歌手陣で別格ともいえる巧さを発揮しているディースカウはディースカウとしか聴こえない……。
ヨッフムの指揮は、最初は几帳面過ぎると思いましたが、しばらく聴くとその折り目正しさが好ましく思えてきます。バランス感覚が優れているので心地良いです。
録音も良くて、最初に書いたように、二人の名歌手を意識しないで聴けば、これはひとつの理想的な録音と言えるのではないでしょうか。

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順番からすると次回は「ジークフリート」なのですが……。

ワーグナー「神々の黄昏」の名盤

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大人の事情で、リヒャルト・ワーグナー 楽劇 「ジークフリート」は省略させていただきます。

今回は「ニュルンベルクのマイスタージンガー」並みに長い、4時間20分を要する「神々の黄昏」です。とにかくこれで楽劇「ニーベルングの指環」はいったんお終いです。


リヒャルト・ワーグナー 楽劇 「神々の黄昏」



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ハンス・クナッパーツブッシュ
バイロイト祝祭劇場管弦楽団
バイロイト祝祭劇場合唱団
(合唱指揮:ヴィルヘルム・ピッツ)

ジークフリート:ベルント・アルデンホフ
ブリュンヒルデ:アストリッド・ヴァルナイ
グンター:ヘルマン・ウーデ
ハーゲン:ルートヴィヒ・ヴェーバー
グートルーネ:マルタ・メードル
アルベリヒ:ハインリヒ・プフランツェル
ヴァルトラウテ:エリーザベト・ヘンゲン
ヴォークリンデ:エリーザベト・シュヴァルツコップ
ヴェルグンデ:ハンナ・ルートヴィヒ
フロースヒルデ:ヘルタ・テッパー
第1のノルン:ルート・ジーヴァルト
第2のノルン:イラ・マラニウク
第3のノルン:マルタ・メードル

1951年8月4日(ライヴ)
バイロイト祝祭劇場

戦後のバイロイト音楽祭は、1951年のフルトヴェングラー指揮のベートーヴェン「第九」(超がつく名演とされています)により再開されるのですが、起用された指揮者はクナッパーツブッシュとカラヤンでした。EMI(のレッグ)がバイロイトの「指環」録音権を契約していたにもかかわらず、DECCA(のカルショー)はクナッパーツブッシュ指揮の「指環」を録音してしまいます。
カルショーは「ヴァルナイは傑出したブリュンヒルデだった。ルートヴィヒ・ヴェーバーは悪魔のように邪悪なハーゲンだった。そしてクナッパーツブッシュは(略)強大なパワーと激烈さをもって指揮した(略)(「ニーベルングの指環」(学習研究社))」と述べています。
傑作をものにしたと思ったカルショーでしたが、EMIの録音権のため発売できず、結局お蔵入りになってしまいました。このCDは1999年にTestamentより正式発売されたものです。
故宇野功芳氏は「(略)十二分に満足させ、堪能させ、感動させてくれた。今まで聴いてきたショルティ盤などが、なんと矮小に思えたことか。(「名盤大全」(音楽之友社))」と激賞していますが、ここまで言われると聴く前から気持ちが盛り上がります。
前置きが長くなりましたが、私の感想は、まずアストリッド・ヴァルナイのブリュンヒルデが素晴らしいと思いました。最後まで美しさと強さを保つ声は、フラグスタートの後継者と言われただけのことはあります。クナッパーツブッシュの指揮も大きなうねりをもった、巨人の足取りを思わせるものです。
しかし、DECCAによる録音とはいえ、この音質で長時間聴くのはつらいもがあります……。



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クレメンス・クラウス
バイロイト祝祭管弦楽団
バイロイト祝祭合唱団
(合唱指揮:ヴィルヘルム・ピッツ)

ジークフリート:ヴォルフガング・ヴィントガッセン
ブリュンヒルデ:アストリッド・ヴァルナイ
グンター:ヘルマン・ウーデ
ハーゲン:ヨーゼフ・グラインドル
グートルーネ:ナタリー・ヒンシュ・グレンダール
アルベリヒ:グスタフ・ナイトリンガー
ヴァルトラウテ:イーラ・マラニウク
ヴォークリンデ:エリカ・ツィンマーマン
ヴェルグンデ:ヘティ・プリマッハー
フロースヒルデ:ギゼラ・リッツ
第1のノルン:マリア・フォン・イロスファイ
第2のノルン:イーラ・マラニウク
第3のノルン:レジーナ・レズニック

1953年8月8,9,10,12日(ライヴ)
バイロイト祝祭劇場

EMIはカラヤンによる「指環」全曲録音を計画していたのですが、カラヤンは1952年でバイロイトを降りてしまいました。1953年の「指環」は、カイルベルトとクレメンス・クラウスが指揮しましたが、このCDは後者によるものです。
先のクナッパーツブッシュ指揮によるDECCAの録音より聴きやすいですし、歌手陣もこちらのほうが(ずっと)優れていると思います。
バイロイトでのヴィントガッセンによるジークフリートは、1953年が初めてのようですが、若々しく瑞々しい歌唱を聴くことができます。私はこれを聴いて初めてヴィントガッセンは素晴らしい歌手と思いました。
クナッパーツブッシュ盤と共通の歌手、例えばヴァルナイも、歌手中心に捉えた録音のせいか、こちらのほうが魅力的で、伸びやかな歌声を聴かせてくれます。



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ヨーゼフ・カイルベルト
バイロイト祝祭管弦楽団
バイロイト祝祭劇場合唱団
(合唱指揮:ヴィルヘルム・ピッツ)

ジークフリート:ヴォルフガング・ヴィントガッセン
ブリュンヒルデ:アストリッド・ヴァルナイ(第1サイクル)
ブリュンヒルデ:マルタ・メードル(第2サイクル)
グンター:ヘルマン・ウーデ
ハーゲン:ヨーゼフ・グラインドル
グートルーネ:マルタ・メードル(第1サイクル)
グートルーネ:アストリッド・ヴァルナイ(第2サイクル)
アルベリヒ:グスタフ・ナイトリンガー
ヴァルトラウテ:マリア・フォン・イロシュヴァイ
ヴォークリンデ:エリカ・ツィンマーマン
ヴェルグンデ:ヘティ・ブリュマッヒャー
フロースヒルデ:ギゼラ・リッツ
第1のノルン:マリア・フォン・イロシュヴァイ
第2のノルン:ゲオルジーヌ・フォン・ミリンコヴィッチ
第3のノルン:ミンナ・ボロティーヌ

1955年8月14日(ライヴ)
バイロイト祝祭劇場

これもDECCAによる録音ですが、なんと史上初のステレオ録音による「指環」全曲録音で、第1サイクルと第2サイクルが残されています。しかし、これもバイロイトとEMIの契約その他の事情により、お蔵入りになってしまいました。これがTestamentから発売されたとき、レコード芸術誌等で大変話題になったのを覚えています。
このCDは、実は入手していません。ちょっと高かったので、値が下がるのを待っていたら、いつの間にかHMVでは入手困難になっていました。だいぶ前にTOWER RECORDSに注文したのですが、いまだに届きません。
ワーグナー歌手の変遷を留めておくため、アップしておきます。



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サー・ゲオルク・ショルティ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
(合唱指揮:ウィルヘルム・ピッツ)

ジークフリート:ヴォルフガング・ヴィントガッセン
ブリュンヒルデ:ビルギット・ニルソン
グンター:ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ
ハーゲン:ゴットロープ・フリック
グートルーネ:クレア・ワトソン
アルベリヒ:グスタフ・ナイトリンガー
ヴァルトラウテ:クリスタ・ルートヴィヒ
ヴォークリンデ:ルチア・ポップ
ヴェルグンデ:グィネス・ジョーンズ
フロースヒルデ:モーリーン・ガイ
第1のノルン:ヘレン・ワッツ
第2のノルン:グレース・ホフマン
第3のノルン:アニタ・ヴェルキ

1964年4・5月、10・11月
ウィーン、ゾフィエンザール

セッションによる初の「指環」全曲ステレオ録音です。ライヴでない分、レコード会社は相当の経費を負担しなければならず、特に「神々の黄昏」は合唱付きなのでお金がかかります。DECCAは「ラインの黄金」「ジークフリート」の商業的(世界的)な成功により、自信をもって取り組んだのでしょうね。
ここまでモノラル録音を聴いてきたので、ステレオ録音の有難みを実感しています。これならいつまでも聴いていられます。ステレオでの音響効果を追求した優秀録音で知られるショルティ盤ですから、なおさらで、夢のような世界です。
これ以上望みようもない最高の歌手達は、この録音に参加できることを栄誉に思い、主役から端役に至るまでベストを尽くしています。このCDだけでひとつの記事が書けるくらいです。
ブリュンヒルデはビルギット・ニルソンですが、ヴァルナイがニルソンに取って代わられたのも仕方がないと思ってしまいます。ムラのない強く美しく高貴な声。
そして、ディースカウは、録音で聴く最良のグンターでした。ギービヒ家の当主としての貫禄と悩める長兄を巧みに演じていました。
ショルティの理想的な指揮と、ウィーン・フィルの魅惑的なサウンドです。



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カール・ベーム
バイロイト祝祭管弦楽団
バイロイト祝祭合唱団
(合唱指揮:ヴィルヘルム・ピッツ)

ジークフリート:ヴォルフガング・ヴィントガッセン
ブリュンヒルデ:ビルギット・ニルソン
グンター:トーマス・スチュアート
ハーゲン:ヨゼフ・グラインドル
アルベリヒ:グスタフ・ナイトリンガー
グートルーネ:リュドミラ・ドヴォルジャコヴァー
ヴァルトラウテ:マルタ・メードル
ヴォークリンデ:ドロテア・ジーベルト
ヴェルグンデ:ヘルガ・デルネシュ
フロースヒルデ:ジークリンデ・ワーグナー
第1のノルン:マルガ・ヘフゲン
第2のノルン:アンネリース・ブルマイスター
第3のノルン:アニヤ・シリア

1967年7月27日、8月14日(ライヴ)
バイロイト祝祭劇場

「ニーベルングの指環」録音の三強は、ショルティ、ベーム、カラヤン盤(登場順)なのですが、この中で唯一ベーム盤がライヴ録音です。ベームは1962年の「トリスタンとイゾルデ」でバイロイトに初登場し、1965・66年に「指環」を指揮しています。
ショルティ盤と歌手が共通しているのは、ヴィントガッセン、ニルソン、ナイトリンガーですが、ショルティ盤のほうが総じて歌手が優れているように思え、ニルソンは絶好調ですが、ヴィントガッセンはやや声が疲れ気味で盛りを過ぎてしまったような印象があります。
ベームの指揮は派手さのない誠実なもので、安心して音楽に身を委ねることができますが、セッション録音でない分、効果面で損をしているかも。クライマックスも、ちょっと盛り上がりに欠けるようです。
ここまで合唱指揮はすべてヴィルヘルム・ピッツです。第一人者としての厚い信頼がうかがえます。
気持ちの良い音が聴ける録音ですが、ライヴゆえの制約と、バイロイト祝祭劇場の音響のせいもあり、ショルティ盤、カラヤン盤に比べると、オーケストラの音が少しくぐもって聴こえます。



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ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団
(合唱指揮:ヴァルター・ハーゲン・グロル)

ジークフリート:ヘルゲ・ブリリオート
ブリュンヒルデ:ヘルガ・デルネシュ
グンター:トマス・スチュワート
ハーゲン:カール・リッダーブッシュ
グートルーネ:グンドゥラ・ヤノヴィッツ
アルベリッヒ:ゾルタン・ケレメン
ヴァルトラウテ:クリスタ・ルートヴィヒ
ヴォークリンデ:リゼロッテ・レープマン
ウェルグンテ:エッダ・モーザー
フロースヒルデ:アンナ・レイノルズ
第1のノルン:リリ・コーカシアン
第2のノルン:クリスタ・ルートヴィヒ
第3のノルン:カタリナ・リゲンツァ

1969年10,12月,1970年1月 
ベルリン、イエス・キリスト教会

カラヤンのオペラ録音は、配役が面白いのですが、「黄昏」ではリッダーブッシュのハーゲンが興味深いです。光の王子・ジークフリートに対する闇の王子・ハーゲンなのですが、どの録音でもハーゲンは意地悪い声でいかにも悪役です。しかし、リッダーブッシュは包容力のある声で、立派過ぎです。個人的にはハーゲンはカッコイイ役だと思っているので、これもアリだと思いますが。
ヤノヴィッツのグートルーネは最美で可憐、ブリュンヒルデを歌っているデルネシュはヤノヴィッツの声質に似ていて、カラヤンの好みが反映されています。
ショルティ盤と共通のヴァルトラウテであるルートヴィヒも最高ですし、他の録音では聴けない歌手陣なので、ショルティ盤とともに、持っていたいCDです。
そしてベルリン・フィルが素晴らしいです。ソロ楽器の惚れ惚れとする巧さ、室内楽的な精妙さ・繊細さと強大な音の奔流で、これ以上は考えらないです。
カラヤンの指揮もこの演奏は抒情的と評されることが多いのですが、十分過ぎるほどドラマティックで、ここはこうあってほしいという聴き手の期待を裏切らず、聴かせ上手な点ではショルティより一枚も二枚も上手と思います。



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マレク・ヤノフスキ
シュターツカペレ・ドレスデン
ドレスデン国立歌劇場合唱団
ライプツィッヒ放送合唱団

ジークフリート:ルネ・コロ
ブリュンヒルデ:ジャニーヌ・アルトマイヤー
グンター:ハンス・ギュンター・ネッカー
ハーゲン:マッティ・サルミネン
グートルーネ:ノーマ・シャープ
アルベリッヒ:ジークムント・ニムスゲルン
ヴァルトラウテ:オルトルン・ヴェンケル
ヴォークリンデ:ルチア・ポップ
ヴェルグンテ:ウタ・プリエフ
フロースヒルデ:ハンナ・シュヴァルツ
第1のノルン:アンネ・イェヴァン
第2のノルン:ダフネ・エヴァンゲラトス
第3のノルン:ルース・ファルコン

1983年3月、4月
ドレスデン、ルカ教会

ヤノフスキ旧録音の「ニーベルングの指環」は、日本コロムビア株式会社さんのサイトによると「旧東ドイツのドイツ・シャルプラッテンが国家威信をかけて西ドイツのオイロディスクと共同制作したもの」だそうで、それを日本コロムビアさんが「ワーグナー没後100周年記念としてCD18枚組 ¥63,000として発売」したのだそうです。18枚組?(通常は14枚組です)いや、突っ込むのはそこではなくて、63,000円!!
ヤノフスキのこの「指環」は、廉価で叩き売られたり、ワーグナーBOXの穴埋めに使われたり、名盤扱いされなかったりと散々ですが、そう悪くはないと思うのです(なんて言いぐさ)。
ルチア・ポップがヴォークリンデのような端役を歌っているぐらいの充実した歌手陣は、なかなか聴き応えがあります。コロの丁寧な歌唱にも(もう少し熱くてもいいと思うけれど)好感が持てますし、サルミネンのハーゲンは本当に憎たらしく、シャープのグートルーネは愛くるしいです。アルトマイヤーのブリュンヒルデもカラヤン盤を聴いた後では、あまり不足を感じません。でも、ちょっと苦しいかな。
ヤノフスキの指揮は頭打ちを感じる録音のせいか、スケール感に乏しいものの、ドレスデンのオケの響きは美しく魅力的です。
おそらく基本に忠実な演奏と思いますので、最初の1セットとしてはお薦めできます。



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ジェームズ・レヴァイン 指揮 
メトロポリタン歌劇場管弦楽団 
メトロポリタン歌劇場合唱団
(合唱指揮:デイヴィッド・スティヴェンダー)

ジークフリート:ライナー・ゴールドベルグ
ブリュンヒルデ:ヒルデガルド・ベーレンス
アルベリッヒ:エッケハルト・ヴラシハ
グンター:ベルント・ヴァイクル
ハーゲン:マッティ・サルミネン
グートルーネ:シェリル・ステューダー
ヴァルトラウテ:ハンナ・シュヴァルツ
ヴォークリンデ:ヘイキュング・ホング
ウェルグンテ:ダイアン・ケスリング
フロースヒルデ:メレディス・パーソンズ
第1のノルン:ヘルガ・デルネシュ
第2のノルン:タティアナ・トロヤノス
第3のノルン:アンドレア・グルーバー
 
1989年5月
ニューヨーク・マンハッタン・センター

このCDは今回省略しようと考えたのですが、歌手陣が豪華なので取り上げることにしました。
ベーレンスのブリュンヒルデとステューダーのグートルーネを聴きたかったからで、これはどちらも素晴らしく、強く美しく、耳にご馳走です。
ヴァイクルのハーゲンは美男子を連想させ、サルミネンのハーゲンはやっぱり憎たらしいです。シュヴァルツもフロースヒルデからヴァルトラウテに昇格。第1のノルンを歌っているデルネシュは、カラヤンの「ジークフリート」ではブリュンヒルデでした。
問題はジークフリートで、他の歌手と比べてゴールドベルクはつり合いが取れていないと思います。
レヴァインはさすがに巧いです。カラヤンと似ているものを感じます。
今回聴いた中では最も残響がある録音ですが、私はもう少しデッドな音響のほうが好みです。



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ヴォルフガング・サヴァリッシュ
バイエルン国立歌劇場管弦楽団
バイエルン国立歌劇場合唱団

ジークフリート:ルネ・コロ
ブリュンヒルデ:ヒルデガルド・ベーレンス
グンター:ハンス・ギュンター・ネッカー
ハーゲン:マッティ・サルミネン
グートルーネ:リズレート・バルスレフ
アルベリッヒ:エッケハルト・ウラシハ
ヴァルトラウテ:ヴァルトラウト・マイアー
ヴォークリンデ:ジュリー・カウフマン
ウェルグンテ:アンジェラ・マリア・ブラーシ
フロースヒルデ:ビルギット・カルム
第1のノルン:マリアナ・リポヴシェク
第2のノルン:イングリッド・カラッシュ
第3のノルン:ペネローペ・ソーン

1989年11月26,27,30日(ライヴ)
バイエルン国立歌劇場

だんだん疲れてきたので駆け足でご紹介していきます。この演奏はCDよりもニコラウス・レーンホフ演出の映像作品のほうが有名なのかもしれません。
ヤノフスキ盤のコロ、レヴァイン盤のベーレンスを主役2人に組み合わせたサヴァリッシュ盤は、強力な布陣といえます。だからこのCDも外せません。
コロはヤノフスキ盤より熱唱していますし、ベーレンスはやっぱり素晴らしいのですが、セッションのレヴァイン盤のほうがより完璧だったでしょうか。でもこちらのほうが感興豊かです。
憎たらしいサルミネンのハーゲン(引っ張りだこですね)も健在です。人気のヴァルトラウト・マイアーがヴァルトラウテ(ややこしい)を歌っているのも魅力的です。
サヴァリッシュは1957~1962年のバイロイトで指揮していたぐらいですから、ワーグナーのスペシャリストなのですが、大人しめの演奏で、ちょっと物足りないです。
録音がもう少し冴えていたら良かったかもしれません。



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ベルナルド・ハイティンク
バイエルン放送交響楽団&合唱団

ジークフリート:ジークフリート・イェルザレム
ブリュンヒルデ:エヴァ・マルトン
グンター:トーマス・ハンプソン
ハーゲン:ジョン・トムリンソン
グートルーネ:エーファ・マリア・ブントシュー
アルベリヒ:テオ・アダム
ヴァルトラウテ:マルヤナ・リポヴシェク
ヴォークリンデ:ジュリー・カウフマン
ヴェルグンデ:シルヴィア・ヘルマン
フロースヒルデ:クリスティーヌ・ハーゲン
第1のノルン:ヤルド・ヴァン・ネス
第2のノルン:アンネ・ゾフィー・フォン・オッター
第3のノルン:ジェーン・イーグレン

1991年11月
ミュンヘン、ヘルクレスザール

ハイティンクのワーグナーは素晴らしいと言い続けてきたので、このCDも外せません。
ジークフリート・イェルザレムのジークフリート(ややこしい)は最上とは言わないまでも、1990年代に活躍した人ですから、この録音での歌唱もなかなかのものです。頑張っていると思います。イェルザレムの代表的な録音と成り得るのではないでしょうか。
この少し前からエヴァ・マルトンは、ブリュンヒルデやトゥーランドットをレパートリーに加えています。独特の(金属的な)強い声は好き嫌いが分かれるかもしれませんが、少なくとも録音ではオケに負けていないです。
トムリンソンのハーゲンは立派です。次の世代のハーゲンですね。当時人気のリポヴシェクがヴァルトラウテを歌っています。また、何気に第2のノルンは、オッターだったりします。
ハイティンクの指揮は自然にワーグナーの音楽に寄り添ったものですが、少しも物足りなさを感じさせず、指揮者と作曲家の相性の良さを感じます。繊細かつ雄渾で素晴らしい指揮です。
オケもバイエルン国立歌劇場管弦楽団よりバイエルン放送交響楽団のほうが巧いです。
歌手の声が近い録音ですが、もちろん悪くありません。ラストのハーゲン Zurück vom Ring! の前に崩壊音が入っていて最初に聴いたときはビックリしました。

(文字数制限を超えてしまっただろうか?)



ワーグナー「パルジファル」の名盤(?)

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ワーグナー最後のオペラ「パルジファル」です。
「パルジファル」は、1882年1月13日に総譜が完成し、1882年7月26日にバイロイト祝祭劇場で初演されました。「歌劇」でも「楽劇」でもなく、「舞台神聖祝典劇」なのだそうです。オペラであることには変わりませんけれど。

ワーグナーの作品の中でどれが一番好きかと問われたら、「パルジファル」と答えるかもしれません。それぐらい好きだから、記事を書けると思ったのですが、2週間聴き続けて、途中からよくわからなくなってしまいました。

今さらですが、再生装置によっても全く印象が異なるので、困っていいます。


リヒャルト・ワーグナー 舞台神聖祝典劇「パルジファル」



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ハンス・クナッパーツブッシュ
管弦楽:バイロイト祝祭管弦楽団
バイロイト祝祭合唱団
(合唱指揮:ヴィルヘルム・ピッツ)

パルジファル:ヴォルフガング・ヴィントガッセン
グルネマンツ:ルートヴィヒ・ヴェーバー
クンドリー:マルタ・メードル
アンフォルタス:ジョージ・ロンドン
ティトゥレル:アールノルド・ヴァン・ミル
クリングゾール:ヘルマン・ウーデ

第1の聖杯騎士:ヴァルター・フリッツ
第2の聖杯騎士:ヴェルナー・ファウルハーバー
第1の小姓:ハンナ・ルートヴィヒ
第2の小姓:エルフリーデ・ヴィルト
第3の小姓:グンター・バルダウフ
第4の小姓:ゲルハルト・シュトルツェ
花の乙女:ローレ・ヴィスマン
花の乙女:エリカ・ツィマーマン
花の乙女:ハンナ・ルートヴィヒ
花の乙女:パウラ・ブリーヴカルネ
花の乙女:マリア・ラコーン
アルト独唱:マリア・ラコーン

1951年7&8月(ライヴ)
バイロイト祝祭劇場

以前にもどこかで書きましたが、戦後のバイロイト音楽祭は、1951年に再開され、ベートーヴェンの「第九」、ワーグナーの「パルジファル」「ニーベルングの指環」「ニュルンベルクのマイスタージンガー」が演奏されました。
指揮は、「第九」はフルトヴェングラー、「パルジファル」はクナッパーツブッシュ、「指環」と「マイスタージンガー」は、第1チクルスがクナッパーツブッシュ、下稽古と第2チクルスがカラヤンでした。
クナッパーツブッシュは、バイロイト音楽祭で「パルジファル」を、この年1951年、1952年、(1953年はクレメンス・クラウスが指揮)、1954年、1955年、1956年、1957年、1958年、1959年、1960年、1961年、1962年、1963年、1964年に指揮していて、1951年の上演はDECCA(このCDです)、1962年はPHILIPSが録音しています。他の年もいろいろなレーベルが販売しているようです。
この1951年盤では、当時無名に近かったヴィントガッセンが大抜擢されてパルジファルを歌っています。そんなにすごい歌唱とは思えないのですが、生のヴィントガッセンはきっと素晴らしかったのでしょう。
あと、マルタ・メードルのクンドリーも聴きものでしょう。メードルは偉大なワーグナー・ソプラノでしたが、アストリッド・ヴァルナイ同様、録音にはめぐまれなかったような気がします。
最後に録音状態ですが、DECCAといっても、優秀録音ではないです。当然モノラル録音で、ヘッドフォンで最後まで聴くのはちょっとつらいものがありました。
とりとめもなく書いてしまいましたが、戦後バイロイト再開の年の「パルジファル」が聴けるという、録音のありがたみを感じました。



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ハンス・クナッパーツブッシュ
バイロイト祝祭劇場管弦楽団・合唱団
(合唱指揮:ヴィルヘルム・ピッツ)

パルジファル:ジェス・トーマス
グルネマンツ:ハンス・ホッター
クンドリー:アイリーン・ダリス
アンフォルタス:ジョージ・ロンドン
ティトゥレル:マルッティ・タルヴェラ
クリングゾール:グスタフ・ナイトリンガー

第1の聖杯騎士:ニールス・メラー
第2の聖杯騎士:ゲルト・ニーンシュテット
第1の小姓:ソナ・ツェルヴェナ
第2の小姓:ウルズラ・ベーゼ
第3の小姓:ゲルハルト・シュトルツェ
第4の小姓:ゲオルク・パスクダ
花の乙女:グンドゥラ・ヤノヴィッツ
花の乙女:アニヤ・シリヤ
花の乙女:エルセ=マルグレーテ・ガルデッリ
花の乙女:ドロテア・ジーベルト
花の乙女:リタ・バルトス
花の乙女:ソナ・ツェルヴェナ
アルト独唱:ウルズラ・ベーゼ

1962年8月(ライヴ)
バイロイト祝祭劇場

ショルティ/ウィーン・フィルの「ニーベルングの指環」に登場する2人のヴォータン(ホッターとロンドン)やナイトリンガーの名前を見ただけで、感動してしまいます。すごい顔ぶれです。
ただ、クンドリーという重要な役を歌っているアイリーン・ダリスという人は、他では名前を見かけません。この年はアストリッド・ヴァルナイがクンドリーを歌った日もあるそうで、そちらを残していただいたほうがよかったかな(?)
この1962年盤は、クナッパーツブッシュの代表的な録音として、また「パルジファル」というオペラの代表的な名盤として、多くの評論家やオペラ・ファンから支持されています。語り尽くされていますので、とても自分の言葉では表現できません。
ただ、全く個人的な意見ですが、「パルジファル」を聴いてみたいと思った人は、最初からクナッパーツブッシュ指揮の演奏を選ばないほうがよいと思うのです。そんな気がします。
ところで、「レコード芸術」2017年8月号の217・218頁で、この録音をSACD化したものについて記事が載っています。興味のある方は読まれてはいかがでしょうか。



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ヘルベルト・フォン・カラヤン
ウィーン国立歌劇場管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
(合唱指揮:リヒャルト・ロスマイヤー)

パルジファル;フリッツ・ウール
グルネマンツ;ハンス・ホッター
クンドリー;エリーザべト・ヘンゲン(第1幕、第2幕第1場、第3幕)
クンドリー;クリスタ・ルートヴィヒ(第2幕第2場)
アンフォルタス:エーべルハルト・ヴェヒター
ティトゥレルトゥゴミル・フランク
クリングゾール;ワルター・ベリー

第1の聖杯騎士;エルマノ・ロレンツィ
第2の聖杯騎士;コスタス・パスカリ
第1の小姓;リズロッテ・マイクル
第2の小姓;マルガレータ・ショステッド
第3の小姓;エリッヒ・マイクート
第4の小姓;クルト・エクヴィルツ
花の乙女;グンドゥラ・ヤノヴィッツ
花の乙女;ヒルデ・ギューデン
花の乙女;アンネリーゼ・ローテンベルガー
花の乙女;ゲルダ・シャイラー
花の乙女;マルガレータ・ショーステッド
アルト独唱;ヒルデ・レッセル=マイダン

1961年4月1日(ライヴ)
ウィーン国立歌劇場

カラヤンは、自身が理想とするワーグナー上演に情熱をもっていた人でしたが、これは1956年から1964年まで総監督の地位にあった、ウィーン国立歌劇場での録音です。
この演奏も歌手が素晴らしく、特に、クンドリーを歌うクリスタ・ルートヴィヒは、他の追随を許さない名唱と思います。ルートヴィヒが歌うのは、第2幕の後半だけなのですが、全部ルートヴィヒでも良かったんじゃないでしょうか。知らないで聴いたら効果的であったのかもしれません。
カラヤンの活き活きとした指揮やオーケストラの響きも素晴らしいと書きたいところですが、残念ながら録音はあまりよくないですね。歌手の声はよく入っていますが、オーケストラの音が歪むのが気になります。ですから、これは「パルジファル」が好きな人か、カラヤン・ファンへのお薦めでしょう。



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ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団
ワルター・ハーゲン・グロル(合唱指揮)

パルジファル:ペーター・ホフマン
グルネマンツ:クルト・モル
クンドリー:ドゥニヤ・ヴェイソヴィチ
アンフォルタス:ジョゼ・ヴァン・ダム
ティトゥレル:ヴィクター・フォン・ハーレム
クリングゾール:ジークムント・ニムスゲルン

第1の聖杯騎士:クラエス・アーカン・アーンシェ
第2の聖杯騎士:クルト・リドル
第1の小姓:マリヨン・ランブリクス
第2の小姓:アンネ・イェヴァング
第3の小姓:ハンナ・ホプフナー
第4の小姓:ジョージ・ディッキー
花の乙女:バーバラ・ヘンドリックス
花の乙女:ジャネット・ペリー
花の乙女:ドリス・ゾッフェル
花の乙女:インガ・ニールセン
花の乙女:オードリー・ミッチェル
花の乙女:ロハンギス・ヤシュメ
アルト独唱:ハンナ・シュヴァルツ

1979,80年
ベルリン、フィルハーモニー

バイロイト祝祭管弦楽団に長く在籍していた眞峯紀一郎さんは、カラヤンについて「オペラの指揮は、ただ楽譜を見て棒を振るだけでなく、もっと大きな観点から作品を俯瞰する必要があります。カラヤンはそれを見事にこなせる人でした。私は個人的に、カラヤンは“オペラ指揮者”だったと考えています。カラヤンは音楽から演出に至る全てを自分でコントロールする人で(そんなところが原因となって、バイロイトではヴィーラントと仲違いしたのですが……)、スコアもテキストも完璧に暗譜して、歌手の所作などにも全部指示を出していました。」と語っています。なぜ、この文章を引用したかというと、ビルギット・ニルソンが上演中、カラヤンに指示を出してもらおうと救いを求めたとき、カラヤンは目をつぶって指揮していたので気がついてもらえなかったと怒っていたのを思い出したからです。
この録音は、ワーグナーにこだわり続けたカラヤンが残した録音の中でも、最高の出来ではないでしょうか。カラヤンは、「パルジファル」の録音は70歳になってからと語っていたそうですが、この録音はカラヤンのワーグナー演奏の集大成のように思えます。カラヤン初のデジタル・セッションということもあり、今が時と思って「パルジファル」を選んだのでしょうか。
歌手選びでは、こだわりが裏目に出ることもあるカラヤンですが、この録音は文句のつけようがないです。この演奏であれば、ペーター・ホフマンよりルネ・コロのほうがふさわしかったと思いますが、カラヤンは「ローエングリン」で懲りたのかもしれませんね。。
興味深いのは、クンドリーにドゥニヤ・ヴェイソヴィチという歌手をあてていること。カラヤン指揮の「さまよえるオランダ人」で、ゼンタを歌っていた人です。ヤノヴィッツの声質で、低いほうの声域を伸ばしたような人。カラヤン好みの声の歌手なのですが、他では名前を見たことがない人なんです。



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ピエール・ブーレーズ 指揮
バイロイト祝祭管弦楽団
バイロイト祝祭合唱団
(合唱指揮:ヴィルヘルム・ピッツ)

パルジファル:ジェームズ・キング
グルネマンツ:フランツ・クラウス
クンドリー:ギネス・ジョーンズ
アンフォルタス:トマス・スチュアート
ティトゥレル:カール・リッダーブッシュ
クリングゾール:ドナルド・マッキンタイヤ

第1の聖杯騎士:ヘルミン・エッサー
第2の聖杯騎士:ジークリンデ・ワーグナー
第1の小姓:エリザベート・シュヴァルツェンブルク
第2の小姓:ギセラ・リッツ
第3の小姓:ディーター・スレンベルク
第4の小姓:ハインツ・ツェドニック
花の乙女:ハンネローレ・ボーデ
花の乙女:マルガリータ・キリアーキ
花の乙女:インゲ・ポースティアン 
花の乙女:ドロテア・ジーベルト
花の乙女:ウェンディ・ファイン
花の乙女:ジークリンデ・ワーグナー
アルト独唱:マルガ・ヘフゲン

1970年7,8月
バイロイト祝祭劇場

バイロイト音楽祭の「パルジファル」は、クナッパーツブッシュ後、1965年はアンドレ・クリュイタンス、そして、1966年から1968年、1970年、2004年、2005年はピエール・ブーレーズが指揮しています。
この録音は1970年の上演の合間を縫って録音されたとのことで、ライヴではないようです。舞台を歩き回る音が聴こえるから、同時に映像収録もされたのかな。
演奏時間が3時間38分で、ケーゲル盤に同じく最も短い部類だと思いますが、その割には速さを感じさせないです。クナッパーツブッシュの指揮に慣れていたバイロイトの聴衆に、ブーレーズの演奏はどのように響いたのでしょうか。
この演奏は、数年前に聴いたときには清冽な印象を受けました。ブーレーズというと、精密機械のような演奏を連想しがちですが、覇気のある指揮で十分ドラマティックです。今回聴いてもその魅力は色褪せておらず、思わず耳を傾けてしまいました。
歌手では素晴らしい声のフランス・クラウスのグルネマンツ。この演奏を聴いている限りでは傑出したグルネマンツと思いました。リッダーブッシュのティトゥレルも存在感を見せつけ、スチュアートの情熱的なアンフォルタスですし、マッキンタイヤも演技派のクリングゾールです。
花の乙女たちは、ケーゲル盤に軍配が上がります。あれは最高ですから。
ギネス・ジョーンズは力強いけれど、強弱の差、高低の音量の差が大きくて、好みが分かれるかもしれません。ジェームズ・キングも力強い歌唱で、ジョーンズとはつり合いが取れています。
時間が経つのを忘れて聴いてしまう演奏です。これも「パルジファル」を初めて買おうとする人にお薦めできます。
ただ、ブーレーズもケーゲルも、第2幕冒頭のテンポは速すぎると思うのですが。



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ゲオルグ・ショルティ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン少年合唱団
(合唱指揮:ノルベルト・ヴァラチュ)

パルジファル:ルネ・コロ
グルネマンツ:ゴットロープ・フリック
クンドリー:クリスタ・ルートヴィヒ
アンフォルタス:ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ
ティトゥレル:ハンス・ホッター
クリングゾール:ゾルターン・ケレメン

第1の聖杯騎士:ロバート・ティアー
第2の聖杯騎士:ヘルベルト・ラクナー
第1の小姓:ロートラウト・ハンスマン
第2の小姓:マルガ・シムル
第3の小姓:ハインツ・ツェドニック
第4の小姓:エーヴァルト・アイヒベルガー
花の乙女:ルチア・ポップ
花の乙女:リソン・ハーゲン
花の乙女:アン・ハウエルズ
花の乙女:キリ・テ・カナワ
花の乙女:ジリアン・ナイト
花の乙女:マルガリータ・リローヴァ
アルト独唱:ビルギット・フィニラ

1971年12月,1972年3月
ウィーン,ゾフィエンザール
録音 DECCA)

聴き始めてすぐ懐かしい気分になりました。DECCAの録音によるショルティ&ウィーン・フィルのワーグナーの響きです。DECCAのオペラ録音の伝統でしょうか、歌手が歌いながら移動したり、クリングゾールの城が崩れ落ちる場面では派手な効果音が入ります。サービス精神旺盛ですね。たまに暗騒音のようなものが聴こえますが、地下鉄かな?
「パルジファル」は、どの録音も歌手が豪華なのですが、この演奏もそうです。花の乙女にルチア・ポップ(クーベリック盤でも歌っています)やキリ・テ・カナワを起用していますが、花の乙女に名歌手を用いるのが豪華歌手陣の証であるみたい。でも花の乙女たちは、ソリスティックな人達じゃないほうがよいと思うのですが。
グルネマンツで名唱を聴かせていたハンス・ホッターがティトゥレルで、時代の移り変わりを感じます。フィッシャー=ディースカウはアンフォルタス役で、他の盤と比べて異質ですが、ものすごく巧いです。思わず聴き入ってしまうくらいに。ワーグナーのオペラにおける名バス歌手のフリックのグルネマンツも老騎士にふさわしいと思います。
クリスタ・ルートヴィヒのクンドリーも、カラヤンのライヴ録音より表現がこなれており、声の魅力はそのままで、よりドラマティックになっています。ルートヴィヒのの至芸が良い録音で残されていて心から良かったと思います。これに比べると、ルネ・コロは美声に頼っている(高貴な人だからこれでよいのかな?)ように思えますが、それでも最高のパルジファルでしょう。
ウィーン国立歌劇場の合唱は優秀ですし、ウィーン少年合唱団も思わず息をのむ美しさでした。なんだかんだいって、ウィーン・フィルの音色には抗しがたい魅力がありました。
この演奏も初めて「パルジファル」を聴こうという方にお薦めします。



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ヘルベルト・ケーゲル
ライプツィヒ放送交響楽団
ライプツィヒ放送合唱団
ベルリン放送合唱団
ライプツィヒ聖トーマス教会合唱団

パルジファル:ルネ・コロ
グルネマンツ:ウルリッヒ・コルト
クンドリー:ギゼラ・シュレーター
アンフォルタス:テオ・アダム
ティトゥレル:フレート・テシュラー
クリングゾール:ライト・ブンガー

第1の聖杯騎士:ホルスト・ゲプハルト
第2の聖杯騎士:ヘルマン・クリスティアン・ポルスター
第1の小姓:エリザベート・ブリュエル
第2の小姓:ギゼラ・ポール
第3の小姓:ホルスト・ゲプハルト
第4の小姓:ハンス=ユルゲン・ヴァッハスムート
花の乙女:エリーザベト・ブロイル
花の乙女:レギーナ・ヴェルナー
花の乙女:ギゼラ・ポール
花の乙女:ヘルミ・アンブロース
花の乙女:ヘルガ・テルマー
花の乙女:イルゼ・ルートヴィヒ=ヤーンス
アルト独唱:インゲボルク・シュプリンガー

1975年1月11日(ライヴ)
ライプツィヒ、コングレスハレ

ブーレーズ盤と並んで快速テンポ(3時間41分)の「パルジファル」。場面によっては、もう少し速度を落としてゆっくり聴かせてくれたらと思う箇所もありますが、分離の良い各楽器がメロディを浮彫にするのが心地よいです。ケーゲルは1962年から1977年まで、ライプツィヒ放送交響楽団の音楽総監督であった人ですから、オーケストラとの息もぴったりです。
歌手はいずれも水準以上ですが、やはりパルジファルのルネ・コロ、アンフォルタスのテオ・アダムでしょうか。立派な声です。
それに、この盤は、合唱が美しいです。花の乙女たちのソロと合唱のアンサンブルの美しさは随一と思います。合唱指揮者でもあったケーゲルの面目躍如というところでしょう。ライプツィヒ聖トーマス教会合唱団の参加もこの演奏に神々しさを与えているようです。
このCDの難点は、高域が強調された(いわゆるハイ上がり)音で、時に金管の高音が耳につらく響くことです。もうちょっと自然な感じがよかったな。



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ラファエル・クーベリック
バイエルン放送交響楽団
バイエルン放送合唱団
合唱指揮:ハインツ・メンデ
少年合唱:テルツ少年合唱団
合唱指揮:ゲアハルト・シュミット=ガーデン

パルジファル:ジェームズ・キング
グルネマンツ:クルト・モル
クンドリー:イヴォンヌ・ミントン
アンフォルタス:ベルント・ヴァイクル
クリングゾール:フランツ・マツーラ
ティトゥレル:マッティ・サルミネン

第1の聖杯騎士:ノルベルト・オルト
第2の聖杯騎士:ローラント・ブラハト
第1の小姓:レギーナ・マルハイネケ
第2の小姓:クラウディア・ヘルマン
第3の小姓:ヘルムート・ホルツアプフェル
第4の小姓:カール・ハインツ・アイヒラー
花の乙女:ルチア・ポップ
花の乙女:カルメン・レッペル
花の乙女:スザンネ・ゾンネンシャイン
花の乙女:マリアンネ・ザイベル
花の乙女:ドリス・ゾッフェル
アルト独唱:ユリア・ファルク

1980年5月(放送用録音)
ミュンヘン、ヘルクレスザール

クーベリック指揮のワーグナーの素晴らしさは、「ローエングリン」「ニュルンベルクのマイスタージンガー」で書いたとおりですが、この「パルジファル」も良いです。
この顔ぶれで「パルジファル」の放送用録音を制作してしまうなんて、バイエルン放送はなんてリッチな放送局なのでしょう。ルチア・ポップが花の乙女の1人だなんて、もったいない。ただ、花の乙女たちは声の饗宴という感じで良いのですが、ヴィブラートを抑えればもっと美しかったでしょう。
低声陣は、クルト・モルのグルネマンツ、ヴァイクルのアンフォルタス、サルミネンのティトゥレル、マツーラのクリングゾールなど、いずれも声の威力を駆使して美しく情感豊かに歌い上げています。素晴らしい。
キングも、節回しに癖がありますが、声に張りがある力強いパルジファルです。ミントンのクンドリーは、カルメンみたいですが、これも声の威力がすごいです。
クーベリックは、旋律をよく歌わせる指揮で、なんだか懐かしい気持ちになりますし、必要な場面では十分神々しいです。また、単調な重厚長大路線ではなく、場面ごとにふさわしいテンポ設定で、良い意味で安心して聴いていられます。合唱も優れています。
録音は、量感と厚みの上に明晰さと透明感があって「パルジファル」にふさわしいと思いましたが、劇場というよりスタジオっぽい雰囲気なのが、好みが分かれるところかもしれません。
このCDはお薦めです。初めて「パルジファル」を買おうという人にも自信をもって推薦します。



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サー・レジナルド・グッドオール
ウェールズ・ナショナル・オペラ管弦楽団
ウェールズ・ナショナル・オペラ合唱団

パルジファル:ウォーレン・エルスワース
グルネマンツ:ドナルド・マッキンタイア
クンドリー:ヴァルトラウト・マイアー
アンフォルタス:lフィリップ・ジョール
ティトゥレル:ディヴィッド・グイン
クリングゾール:ニコラス・フォルウェル

第1の聖杯騎士:Timothy German
第2の聖杯騎士:William Mackie
第1の小姓:Mary Davis
第2の小姓:Margaret Morgan
第3の小姓:John Harris
第4の小姓:Neville Ackerman
花の乙女:Elizabeth Ritchiea
花の乙女:Christine Teare
花の乙女:Kathryn Harries
花の乙女:Rita Cullis
花の乙女:Erizabeth Collier
花の乙女:Cationa bell
アルト独唱:Kathryn Harries

1984年6月
スウォンジー、ブラングウィン・ホール

このグッドオール盤は、演奏時間が4時間46分です。ブーレーズ盤やケーゲル盤が3時間40分前後なので、1時間以上も差があることになります。尋常じゃありません。
指揮者として不遇な状態が長かったグッドオールですが、演奏時間も長いです。
なかなか先に進まないのですが、こんなに遅くしなくてもと思います。このテンポであることの必然性が感じられません。次のレヴァイン盤も遅いのですが、あちらは納得がいきます。
歌手ではまずマッキンタイアのグルネマンツがよい声です。第一線を退いた聖杯騎士なのですが、ちょっと曲者っぽいところがなんともいえません。マイアーのクンドリーは次のレヴァイン盤より声が若々しくて力強く、艶と伸びがあって、これはこちらを採りたいです。



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ジェームズ・レヴァイン
バイロイト祝祭管弦楽団
バイロイト祝祭合唱団
合唱指揮:ノルベルト・バラチュ

パルジファル:ペーター・ホフマン
グルネマンツ:ハンス・ゾーティン
クンドリー:ヴァルトラウト・マイアー
アンフォルタス:サイモン・エステス
ティトゥレル:マッティ・サルミネン
クリングゾール:フランツ・マツーラ

第1の聖杯騎士:ミヒャエル・バプスト
第2の聖杯騎士:マティアス・ヘレ
第1の小姓:ルートヒルト・エンゲルト・エリー
第2の小姓:ザビーネ・フエス
第3の小姓:ヘルムート・ハンプフ
第4の小姓:ペーター・マウス
花の乙女:デボラ・サスーン
花の乙女:スーザン・ロバーツ
花の乙女:モニカ・シュミット
花の乙女:アリソン・ブラウナー
花の乙女:ヒルデ・ライトラント
花の乙女:マルギッテ・ノイバウアー
アルト独唱:ルートヒルト・エンゲルト・エリー

1985年7月、8月(ライヴ)
バイロイト祝祭歌劇場

レヴァインは、バイロイト音楽祭で1982~1985年.1988~1993年に「パルジファル」を指揮し、メトロポリタン歌劇場で1991、92年にDeutsche Grammophonに録音を行い、上演を映像収録しています。「パルジファル」を得意としていたのでしょう。
この録音はレヴァイン3回目のバイロイトですが、ゆったりとした足取りで、なぜか大河ドラマを連想してしまいます。
カラヤン盤と共通のホフマンのパルジファルは、第二幕のパルジファルの変化のあたりからそれまで抑えてきたものが噴出したようで、ヘルデンテノールの本領を発揮します。神々しくさえあります。
マイアーのクンドリーは声に威力があり、ドラマティックな場面で圧倒的です。
この録音は、ヴィントガッセン(1914年~1974年)を継ぐヘルデン・テノールとして、ルネ・コロ(1937年~)、イェルザレム(1940年~)と並び称されつつも、病気で早い引退を余儀なくされたペーター・ホフマン(1944年~2010年)の記録として、聴き続けていきたいです。



プッチーニ「トゥーランドット」の名盤

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ある記事で、ホッホドラマティッシャー・ソプラノという言葉を使用しましたが、不安になったので調べてみました。

どんなソプラノかというと、ワーグナーのオペラでは、ゼンタオルトルートイゾルデブリュンヒルデクンドリーで、リヒャルト・シュトラウスでは、エレクトラ、プッチーニでは、トゥーランドットといったところです。

そのようなわけで、急に「トゥーランドット」を聴きたくなりました。

以下、Wikipediaより。

トゥーランドット
題名役のトゥーランドットには、分厚い管弦楽の響きや合唱をも圧するような超人的な高音域を長時間にわたって歌い続けることが要求され、「ノルマ」の題名役と並んで、ソプラノ・ドランマーティコ最大の難役の一つと考えられている。

カラフ
カラフ役にも、「ハイC」といわれる高音域を含めて、トゥーランドットと声量・声質の両面で渡り合うだけの力強さが求められる。リリコ・スピント・テノールが担う。


ジャコモ・プッチーニ 歌劇「トゥーランドット」


登場人物
 トゥーランドット:鉄血にして熱血にして冷血。氷のような姫君
 カラフ:名前を知られてはいけない王子、ティムールの息子
 リュー:王子に密かに想いを寄せる召使
 ティムール:ダッタン国を追われた盲目の廃王、カラフの父
 中国の皇帝アルトゥム:トゥーランドットの父
 ピン:皇帝に仕える大蔵大臣
 パン:内大臣
 ポン:総料理長だが、料理をする場面はない
 役人:一番最初に歌う人。出番は少ないが重要な役と思う
 ペルシアの王子:歌うところが一箇所しかない。叫び声?
 プー・ティン・パオ:歌うところは一箇所もない。首切り役人
 ラマ教の修行僧:少年合唱
 混声合唱



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アルベルト・エレーデ
サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団&合唱団

トゥーランドット:インゲ・ボルク
カラフ:マリオ・デル・モナコ
リュー:レナータ・テバルディ
ティムール:ニコラ・ザッカリア
皇帝アルトウム:ガエターノ・ファネルリ
ピン:フェルナンド・コレナ
パン:マリオ・カルリン
ポン:レナート・エルコラーニ
役人:エツィオ・ジョルダーノ

1955年7月(ステレオ録音)
ローマ、聖チェチーリア音楽院

今回最初に聴いた演奏です。
とにかく、マリオ・デル・モナコのカラフが凄いです。こんなカラフは聴いたことがありません。「黄金のトランペット」の異名をとっただけのことはあり、このカラフだけでも聴く価値はあります。
他の歌手の存在感が薄れてしまいますが、戦後カラスと人気を二分したというレナータ・テバルディのリューも非の打ちどころがない歌唱で、役にふさわしいと思います。
肝心のトゥーランドットですが、ボルクは、喉に負担がかかっている感じで、声を潰してしまうのではないかと心配しされられますが、健闘していると思います。この当時、DECCAにはトゥーランドットを歌える歌手がいなかったのでしょうか。
エレーデの指揮とオーケストラは、歌手中心の録音のせいもあって、万事控えめで、伴奏に徹しているようです。
それにしても、1955年なのにステレオ録音です。どこかのレコード会社も見習ってほしかった。



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トゥリオ・セラフィン
ミラノ・スカラ座管弦楽団
ミラノ・スカラ座合唱団
合唱指揮:ノルベルト・モーラ

トゥーランドット:マリア・カラス
カラフ:エウジェニオ・フェルナンディ
リュー:エリーザベト・シュヴァルツコップ
皇帝アルトゥム:ジュゼッペ・ネッシ
ティムール:ニコラ・ザッカリア
ピン:マリオ・ボリエルロ
パン:レナート・エルコラーニ
ポン:ピエロ・デ・パルマ
役人:ジュリオ・マウリ
ペルシャの王子:ピエロ・デ・パルマ
第1の声:エリザベッタ・フスコ
第2の声:ピヌッチャ・ペロッティ

1957年7月(モノラル録音)
ミラノ、スカラ座


今回5番目に聴いた演奏です。
セラフィンの指揮は、「トゥーランドット」のお手本のようなもので、他の演奏もこのようであったら良いのにという理想的なものです。モノラルなのが残念で、これがステレオ録音だったらどんなに素晴らしかったでしょう。
マリア・カラスのトゥーランドットは、私の好みだと、ビルギット・ニルソンより好きです。カラスは強い個性と特徴的な声を持っていますが、より人間的なトゥーランドットを感じさせてくれます。第2幕から第3幕途中までのトゥーランドットに人間らしさを求めるのも変ですが、氷のような姫君にも血が通っているのです。
この録音のすごいところは、リューをシュヴァルツコップが歌っていることです。カラスとシュヴァルツコップの共演、なんて豪華なのでしょう。シュヴァルツコップというと、元帥夫人とかドイツ・リートを連想しますが、このリューも少々表現過多であるものの、声質が合っているので、けして誤った起用ではないと思います。
問題はカラフ。フェルナンディは、「トスカ」のスポレッタ(スカルピアの副官)を連想させます。主役ではない脇役のテノール。フェルナンディにも良いところはありますが、カラフとしては物足りなさを感じます。
これはマリア・カラスを聴くべきCDでしょう。


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エーリヒ・ラインスドルフ
ローマ歌劇場管弦楽団&合唱団

トゥーランドット:ビルギット・ニルソン
カラフ:ユッシ・ビョルリンク
リュー:レナータ・テバルディ
ティムール:ジョルジョ・トッツィ
皇帝アルトゥム:アレッシオ・デ・パオリス
ピン:マリオ・セレーニ
パン:ピエロ・デ・パルマ
ポン:トマゾ・フラスカーティ
役人:レオナルド・モンレアーレ

1959年7月3-11日
ローマ歌劇場

今回2番目に聴いたCDです。
空前のはまり役と言われたビルギット・ニルソンによるトゥーランドットは、水晶ようない声で、この難役をものともせず、軽々と歌っているように聴こえます。
ユッシ・ビョルリンクは健闘しているものの、デル・モナコを聴いた直後だったので、物足りなさを覚えました。リューはエレーデ盤と同じテバルディで、このような役は独壇場で文句なしです。
このCDは、ラインスドルフの指揮が面白かったです。プッチーニのオーケストレーションをきっちり分析・把握し、楽しく聴かせてくれます。アリアの伴奏をしている木管楽器の表情豊かな歌わせ方など、他にない良さがありました。



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フランチェスコ・モリナーリ・プラデッリ
ローマ歌劇場管弦楽団&合唱団

トゥーランドット:ビルギット・ニルソン
カラフ:フランコ・コレッリ
リュー:レナータ・スコット
ティムール:ボナルド・ジャイオッティ
皇帝アルトゥム:アンジェロ・メルクリアーリ
ピン:グイド・マッツィーニ
パン:フランコ・リッチャルディ
ポン:ピエロ・デ・パルマ
役人:ジュゼッペ・モレーシ
ペルシャの王子:ピエロ・デ・パルマ
第1の声:イェーダ・ヴァルトリアーニ
第2の声:イーダ・ファリーナ

1965年
ローマ歌劇場

今回4番目に聴いた演奏です。
ニルソンのトゥーランドットは、ラインスドルフ盤に同じで、また、フランコ・コレッリも50年代後半から60年代後半にかけての代表的なカラフでだったそうです。そんな二人の共演ですから、「トゥーランドット」の代表盤として多くの人から支持されています。
加えてリューは、プリマドンナのレナータ・スコットであり、悪かろうはずがありません。
プラデッリの指揮も強い個性は感じないものの、手慣れていて安心して聴けます。
しかし、ニルソンが巨大な声で歌っているかというと、そうでもないし、コレッリは調子が悪いのか、それほどでもないように思われます。
そのようなわけで、私にとっては魅力が今一つなのですが、いかがでしょうか。



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ズービン・メータ
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
ウォンズワース・スクール少年合唱団
合唱指揮:ラッセル・バージェス
ジョン・オールディス合唱団
合唱指揮:ジョン・オールディス

トゥーランドット:ジョーン・サザーランド
カラフ:ルチアーノ・パヴァロッティ
リュー:モンセラート・カバリエ
ティムール:ニコライ・ギャウロフ
皇帝アルトゥム:ピーター・ピアーズ
ピン:トム・クラウゼ
パン:ピエル・フランチェスコ・ポーリ
ポン:ピエロ・デ・パルマ
役人:サビン・マルコフ
ペルシャの王子:ピエル・フランチェスコ・ポーリ

1972年8月
ロンドン、キングスウェイ・ホール

今回3番目に聴いた演奏です。
このCDは値下がりを待って入手し、すごく期待して聴いたのに、さほど感銘が得られず、がっかりした記憶があります。
まずメータの指揮ですが、メリハリが効いていてダイナミックなのは良いのですが、平板な印象があります。ひとつにはテンポの問題があります。セラフィンが理想なのですが、メータは普通の人とちょっと違う感性を持っているのか、常人の私には違和感を覚えるところが多いのです。
ジョーン・サザーランドは偉大な歌手ですが、トゥーランドットはどうでしょう。高音が苦しそう(ハイCの張り合いでは、パヴァロッティに負けてしまう)です。しかし、それ以外は、プリマドンナとしての存在を感じ、やはりこの人はすごい歌手であったと再認識しました。もう一度アリア「この宮殿の中」を聴いてみたいと思った歌手のひとりです。
パヴァロッティは「キング・オブ・ハイC(3点ハ音)」の人ですから、高音に余裕がありますね。

No, no, Principessa altera. 
Ti voglio tutta ardente d'amor !

この箇所の最高音なんていくらでも延ばせそうです。でも、私は太い声のカラフが好きなので、パヴァロッティはちょっと違う気がしています。
リューは、どの録音もその時代を代表するソプラノ・リリコが歌っていますが、モンセラート・カバリエも、正しい発声はかくあるべき的な素晴らしい歌唱です。
録音はDECCAだけあって鮮明です。



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ヘルベルト・フォン・カラヤン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団

トゥーランドット:カーティア・リッチャレッリ
カラフ:プラシド・ドミンゴ
リュー:バーバラ・ヘンドリックス
ティムール:ルッジェロ・ライモンディ
皇帝アルトゥム:ピエロ・デ・パルマ
ピン:ゴットフリート・ホーニク
パン:ハインツ・ツェドニク
ポン:フランシスコ・アライサ
役人:ジークムント・ニムスゲルン

1981年5月
ウィーン、ムジークフェラインザール

今回最後に聴いたCDです。
冒頭の、

Popolo di Pekino! 
La legge è questa: Turandot la Pura 
sposa sarà di chi, di sangue regio, 
spieghi i tre enigmi ch'ella proporrà. 
Ma chi affronta il cimento e vinto resta, 
porga alla scure la superba testa!

北京の民よ!
これは法である。
清らかなトゥーランドット姫は
姫が出す3つの謎を解いた、
王子の花嫁となる。
しかし、謎解きに挑んで敗れた者は、
誇り高き首を斧に差し出すのだ!

が良い声だなと思ったのですが、ジークムント・ニムスゲルンだったのですね。
プラシド・ドミンゴのカラフは、最高音のハイCがかなり苦しいですが、それ以外は理想的で、中高音に張りのある立派な声です。今回聴いた中では、唯一デル・モナコにあともう少しというところのテノールでした。
バーバラ・ヘンドリックスのリューは、とてもチャーミングで表情豊かですが、少し歌い方に癖があります。でも素晴らしいです。
さて、このCDの最大の問題は、カーティア・リッチャレッリをトゥーランドットに起用したことです。リッチャレッリもプリマドンナのひとりですから、約不足ではありません。しかしアイーダやトスカを歌えても、トゥーランドットは相当な負担だったのではないでしょうか。でも、このようなトゥーランドットは嫌いじゃありません。むしろゾクゾクするものを感じます。
それにしてもリッチャレッリ、最近は名前を見かけません。どうしているのでしょう。
カラヤンの指揮は、「ラ・ボエーム」「トスカ」「蝶々夫人」の名演を残しているだけあって、この「トゥーランドット」も見事です。これだけ細微に入り細をうがつ演奏は今後も現れないでしょう。迫力も満点です。
効果をねらった録音も新しい発見を与えてくれます。


以上、6組のCDをご紹介しましたが、ここでクイズです。
6組のうち5組に、「ある歌手」が登場しています。それは誰でしょう?
答えは、 ピエロ・デ・パルマ  です。
カラヤン盤では、皇帝アルトゥムを歌っていますが、「この役はしばしば『往年の名テノール』が舞台生活の最後に演じる役として用いられる。(Wikipedia)」のだそうで、パルマの起用は感慨深いものあります。
もっともパルマはこの後、数年歌い続けているのですが。

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ヴェルディ「イル・トロヴァトーレ」の名盤

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ワーグナーと同じ年に生まれたヴェルディですが、いざ書こうとして困るのは、ヴェルディは作品数が多いのです。「オベルト、サン・ボニファーチョ伯爵」から「ファルスタッフ」まで28作品もあります。その中で、一番最初はどれにしようかと考えていたら、ある会話を思い出しました。

M:ハルコウさんはオペラに詳しい?
私:なんでも聞いて。教えてあげるよ!
M:母が出演(※)したオペラの題名が思い出せないの。
私:どんなオペラ?
M:占い師が出てくるオペラ。
私:わかった! それは「カルメン」だね?
M:「カルメン」じゃないと思う。
私:ジプシーが出て来たでしょ?
M:うん、ジプシーがいっぱいいた。
私:じゃあ、やっぱり「カルメン」だよ!
M:……。
(※アンヴィル・コーラスと思われる)

違います。今ならわかる。でも、アズチェーナは占い師じゃないよね?


ジュゼッペ・ヴェルディ 「イル・トロヴァトーレ」


主な登場人物
マンリーコ:吟遊詩人(トロヴァトーレ)
レオノーラ:アラゴン侯爵夫人付きの女官
ルーナ伯爵:アラゴン地方の若い貴族。レオノーラ獲得に燃える
アズチェーナ:ビスカイヤ生まれのジプシー女
フェルランド:ルーナ伯爵の家臣。衛兵頭
イネス:レオノーラの侍女
ルイス:マンリーコの部下
老ジプシー
使者



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ヘルベルト・フォン・カラヤン
ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団

マンリーコ:ジュゼッペ・ディ・ステファノ
レオノーラ:マリア・カラス
ルーナ伯爵:ロランド・パネライ
アズチェーナ:フェドーラ・バルビエリ
フェランド:ニコラ・ザッカリア
ルイス:レナート・エルコラーニ
使者:レナート・エルコラーニ
老ジプシー:ジュリオ・マウリ

1956年8月3,4,6-9日(モノラル録音)
ミラノ、スカラ座

今回2番目に聴いたCDです。
マリア・カラスで有名な録音ですが、たとえマリア・カラスでなかったとしても十分名演だと思います。レオノーラという役に、カラスの声は合っていないような気もするのですが、もちろん感情表現などは素晴らしいと思っています。
カラスと組むことが多い、ディ・ステファノがマンリーコを歌っていますが、若々しい熱唱で、この頃が絶頂期だったのでしょう。
パネライは、悪くはないですけれど、もうちょっと脂ぎった、ギラギラした感じのルーナ伯爵を期待しているので、やや物足りないです。
バルビエリのアズチェーナは声楽的に物足りなさがありますが、やや年を取ったジプシー女としてはこれぐらいでちょうどよいのかもしれません。
カラヤンの指揮は、オケとが合唱がスカラ座ということもあって、歌手を引き立てた伴奏となっています。切れ味のよい若々しい音楽づくりで申し分ありません。



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アルベルト・エレーデ
ジュネーヴ大劇場管弦楽団
フィオレンティーノ・マッジオ・ムジカーレ合唱団

マンリーコ:マリオ・デル・モナコ
レオノーラ:レナータ・テバルディ
ルーナ伯爵:ウゴ・サヴァレーゼ
アズチェーナ:ジュリエッタ・シミオナート
フェルランド:ジョルジョ・トッツィ
ルイス/使者:アトス・チェザリーニ
イネス:ルイザ・マラリアーノ
老ジプシー:アトス・バルビ

1959年2月
ジュネーヴ大劇場

マンリーコがデル・モナコ、レオノーラがテバルディ、アズチェーナがシミオナートという歌手陣なので、是非聴いてみたいと思っているのですが、未入手・未聴です。いつか聴く日のために、スペースを空けておきます。



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ヘルベルト・フォン・カラヤン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団

マンリーコ:フランコ・コレッリ
レオノーラ:レオンティーン・プライス
ルーナ伯爵:エットーレ・バスティアニーニ
アズチェーナ:ジュリエッタ・シミオナート
フェルランド:ニコラ・ザッカリア
使者:クルト・エクヴィルツ 
イネス:ローレンス・デュトワ
ルイス:ルドルフ・ツインマー
老ジプシー:ジークフリート・ルドルフ・フレール

1962年7月31日(ライヴ・モノラル録音)
ザルツブルク、祝祭大劇場

今回4番目に聴いた演奏です。
次のセラフィン盤と共通ですが、ルーナ伯爵にエットーレ・バスティアニーニを起用しています。44歳という若さで亡くなったバスティアニーニが、ベストの状態で活躍していたのは1952~1962年という短い期間かもしれませんが、その歌唱は特にヴェルディ作品において優れていました。
アズチェーナは、イタリア最高のメゾと言われたジュリエッタ・シミオナート、あるいは、シミナートの後継者と呼ばれていたフィオレンツァ・コッソットが理想です。
マンリーコとレオノーラはお好みで選ぶしかないと思いますが、歌手の充実度はこのカラヤン盤と次のセラフィン盤ということになります。
ニコラ・ザッカリアのフェルランドは、少し年老いた家臣という印象。ローレンス・デュトワのイネスは可憐な侍女。
レオンティーン・プライスの当たり役であるレオノーラは、最初は貫禄がありすぎるように思いましたが、第四幕など圧巻の歌唱を聴かせてくれました。
エットーレ・バスティアニーニのルーナ伯爵は、次のセラフィン盤よりもこちらのほうが声がよく響いているようで、感情表現も含めて立派だと思います。これにフランコ・コレッリを加えた三重唱は迫力があります。
ジュリエッタ・シミオナートのアズチェーナは、セラフィン盤のコッソットが声の威力で聴かせたのに対し、細やかな感情表現と素晴らしい声とテクニックで聴かせ、このほうがアズチェーナらしいです。
フランコ・コレッリのマンリーコは、声が軽すぎず、輝かしく、感情の起伏が大きいのが特長です。ライヴゆえの瑕疵はありますけれど。
カラヤンの指揮はオーケストラを雄弁に歌わせ、緩急の差を大きく取り、ダイナミックで情熱的。オケの音が大き過ぎるときも多いのですが、聴く側の興奮を嫌がが応でも高めてくれます。いや、一番興奮しているのはカラヤンかもしれません。
モノラル録音ですし、演奏に瑕疵Jもありますので、最初に購入するCDとしてはお薦めしません。



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トゥリオ・セラフィン
ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団

マンリーコ:カルロ・ベルゴンツィ
レオノーラ:アントニエッタ・ステッラ
ルーナ伯爵:エットーレ・バスティアニーニ
アズチェーナ:フィオレンツァ・コッソット
フェルランド:イヴォ・ヴィンコ
ルイス:フランコ・リッチャルディ
イネス:アルマンダ・ボナート
老ジプシー:ジュゼッペ・モレーシ
使者:アンジェロ・メルクリアーリ

1962年7月
ミラノ、スカラ座

今回3番目に聴いたCDです。
指揮がセラフィンであること、名歌手を揃えていることから、このCDは決定盤候補でした。私が所有しているCDの中でも最も古い部類に入りますし、このオペラはこの演奏さえあれば他は要らないと思ってていました。
まずフェルランドのイヴォ・ヴィンコが立派な声です。
アントニエッタ・ステッラは、レオノーラが彼女のデビュー役でした。この録音でも美声と技巧を駆使し、レオノーラにふわさしい素晴らしい歌唱を聴かせてくれます。バスティアニーニのルーナ伯爵は、低音から高音までむらのない美声の素晴らしさ。嫉妬と情熱の伯爵にぴったりで、気品のある憎ったらしさを巧みに演じています。
アズチェーナのフィオレンツァ・コッソットも、この頃はまだ27歳で、抜擢されたというべきでしょうが、堂々としたもので瑞々しく美しい歌唱です。声の威力と存在感が違います。
カルロ・ベルゴンツィは正統的ベルカント唱法によるイタリア屈指のドラマティック・テノールと言われた人で、ヴェルディをレパートリーにしていた人ですから、悪かろうはずがありません。でも、もっと魅力的なマンリーコもいるでしょう。
この演奏がDeutsche Grammophonの優秀な録音で残されて良かったです。



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トーマス・シッパーズ
ローマ歌劇場管弦楽団&合唱団

マンリーコ:フランコ・コレッリ
レオノーラ:ガブリエッラ・トゥッチ
ルーナ伯爵:ロバート・メリル
アズチェーナ:ジュリエッタ・シミオナート
フェランド:フェルッチョ・マッゾーリ
ルイス:アンジェロ・メルクリアリ
イネス:ルチアーナ・モネータ
老ジプシー:マリオ・リナウド

1964年7月、8月
ローマ歌劇場

この演奏も歌手陣が揃っていますし、「トロヴァトーレ」の名盤のひとつなので聴いてみたいとは思っているのですが、まだ入手していません。ジャケットと演奏者のご紹介にとどめておきます。



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アントニオ・パッパーノ
ロンドン交響楽団
ロンドン・ヴォイセズ(合唱)

マンリーコ:ロベルト・アラーニャ
レオノーラ:アンジェラ・ゲオルギュー
ルーナ伯爵:トーマス・ハンプソン
アズチェーナ:ラリッサ・ディアドコヴァ
フェルランド:イルデブラント・ダルカンジェロ
ルイス:Enrico Facini
イネス:Federca Proietti
老ジプシー:Riccardo Simonetti
使者:Andrew Busher

2001年8月28日-9月1日
ロンドン、アビー・ロード第1スタジオ

今回1番目に聴いたCDです。
最初に聴いたCDは感想が甘くなります。他のCDを聴き返していないからです。
率直な感想としては、できるだけ新しい録音のCDがほしい、という人はこれでいいんじゃない?というところです。新しいといっても今年は2017年ですから、もう16年も経ってしまっているんですね。光陰矢の如しです。
個人的には、アズチェーナを歌っているディアドコヴァが良いと思います。
アラーニャは最高音を限界まで引っ張るなど熱唱ですが、ちょっとイメージが違う気もします。
ゲオルギューのレオノーラも巧いのですが、声が重く暗く、レオノーラが老けてしまったような印象があります。
ハンプソンのルーナ伯爵も優等生的ですが、これはこれで役に合っているかもしれません。
パッパーノの指揮は快適なテンポのノリの良さが心地よく、このオペラには合っていると思います。


明日から実家に帰ります。

ヴェルディ「アイーダ」の名盤

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夏らしいオペラ!ということで、8月13日から「アイーダ」を聴いていました。7月は夏らしかったけれど、今年の8月はあまり夏らしくないですね。雨の日が多く、海とか山に行く気候ではなかったです(晴れていても行かないけれど)。日没も毎日少しずつ早まって、夏が終わっていく、という感じの今日この頃です。仕事も忙しくて、ぐったりの土・日曜日、パソコンに向かって記事を書く気力がなく、文章が全然思い浮かばないのですが、なんとか書いてみました。でも「アイーダ」って、魅力的な音楽ですね。もう数セット、CDを買ってもいいかなと思いました。


ジュゼッペ・ヴェルディ 歌劇「アイーダ」


アイーダ(20歳):エチオピアの王女だが、アムネリスの奴隷。ラダメスが好き
ラダメス(24歳):神託によりエジプト軍司令官に任ぜられる。アイーダが好き
アムネリス(20歳):ファラオの娘。ラダメスが好きなので、アイーダが憎い
アモナスロ(40歳):エチオピアの国王なのに自ら兵を率いて陣頭指揮
エジプト国王(45歳):ファラオともいう。善い王様のようだが、戦好き?
ランフィス(50歳):祭司長だが、戦好き?
使者:出番が少ない
巫女の長:エキゾティックな独唱あり
その他、大勢(司祭達、巫女達、奴隷達、民衆、囚人達)



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ヘルベルト・フォン・カラヤン 
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン楽友協会合唱団
合唱指揮:ラインホルト・シュミット

アイーダ:レナータ・テバルディ
ラダメス:カルロ・ベルゴンツィ
アムネリス:ジュリエッタ・シミオナート

アモナスロ:コーネル・マックニール
ランフィス:アーノルド・ヴァン・ミル
エジプト国王:フェルナンド・コレナ
使者:ピエロ・デ・パルマ
巫女の長:エウゲニア・ラッティ

録音:1959年9月
ウィーン、ゾフェインザール

今回4番目に聴いたCDです。
数年前に聴いた時は、再録音盤の完成度の高さから、もうこのCDは必要ないと思ったものですが、今回は素直に良い演奏と感じました。安心する、というか、ほっとするものがあります。カラヤンの指揮も、再録音よりも覇気や若々しさ、勢いや熱っぽさがありました。
歌手は往年の大歌手達をずらりと揃えて壮観ですが、いろいろ聴いた後では、例えばテバルディやベルゴンツィやは最高のアイーダでありラダメスであっただろうか、いや、思ったほどではなかったような、とか、いろいろ考えてしまいますが、このオペラの名盤としての地位は揺るぎのないものでしょう。



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ズービン・メータ
ローマ歌劇場合唱団及び管弦楽団
合唱指揮:ジャンニ・ラッザリ

アイーダ:ビルギット・ニルソン
ラダメス:フランコ・コレッリ
アムネリス:グレイス・バンブリー

アモナスロ:マリオ・セレーニ
ランフィス:ボナルド・ジャイオッティ
エジプト王:フェルッチョ・マッゾリ
使者:ピエロ・デ・パルマ
巫女の長:ミレッラ・フィオレンティーニ

1967年6月~8月
ローマ歌劇場

今回2番目に聴いた演奏です。
ズービン・メータの指揮が良いです。個人的には次のムーティよりも好きです。メータは、どのように演奏すれば聴衆が喜んでくれるか、よく理解していると思います。また、オケや合唱の扱いもよろしく、聴くたびに新しい発見があります。メータを見直しました。
歌手では、アイーダがビルギット・ニルソンですが、さすがに抜群の安定感で、重唱や合唱の場面でも埋もれずに存在感を示しています。アイーダがトゥーランドットになってしまったみたいな気もしないではありませんが。
アムネリスはグレイス・バンブリーで、カラヤン指揮の映像版「カルメン」に登場していた人です。こちらも、なんとなくカルメンを連想してしまうような……。
ラダメスのフランコ・コレッリは、歌い方に少し癖があって、ラダメスだと違和感があります。出世より恋人を選ぶ、世渡り下手の若い将軍という感じはよく出ているかも、です。



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リッカルド・ムーティ
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
イギリス軍音楽学校のトランペット奏者
コヴェント・ガーデン王立歌劇場合唱団
合唱指揮:ロベルト・ベナーリオ

アイーダ:モンセラート・カバリエ
ラダメス:プラシド・ドミンゴ
アムネリス:フィオレンツァ・コッソット

アモナスロ:ピエロ・カプッチッリ
ランフィス:ニコライ・ギャウロフ
エジプト国王:ルイジ・ローニ
使者:ニコラ・マリヌッチ
巫女の長:エスター・カサス

1974年7月
ロンドン、ウォルサムストウ・アッセンブリー・ホール

今回最初に聴いた演奏です。
実は他の指揮者のCDと間違えて聴いていました。聴きながら、やっぱり〇〇〇は、こういうところが下手だとか、いろいろ不満があったのですが、ムーティの指揮と判ったとたん、これはこれで説得力があると180度評価が変わりました。いいかげんなものです。でもやっぱり、この頃のムーティは、まだ若かったのだと思います。その一本気なところがこの演奏の魅力でもあるし、その後のムーティであればもう少しできたのではないかという不満にもなります。
歌手陣は理想(最強)の顔ぶれです。が、モンセラート・カバリエはフィオレンツァ・コッソットに負けているように感じられます。アイーダより目立つのがアムネリスなので仕方がないとも言えますが。
なんだかんだ言って、この録音はこのオペラの最高の演奏のひとつでしょうね。



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ヘルベルト・フォン・カラヤン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
合唱指揮:ヴァルター・ハーゲン・グロル

アイーダ:ミレッラ・フレーニ
ラダメス:ホセ・カレーラス
アムネリス:アグネス・バルツァ

アモナスロ:ピエロ・カプッチッリ
ランフィス:ルッジェーロ・ライモンディ
エジプト国王:ジョセ・ヴァン・ダム
使者:トマス・モーザー
巫女の長:カーティア・リッチャレッリ

1978年5月
ウィーン、ムジークフェラインザール

今回3番目に聴いた演奏です。
数年前に聴き比べをしたときにはこの演奏がトップだったのです。今回もかなり期待して聴いたのですが、残念ながらあまり心を打ちません。なぜだろう。メータやムーティの若々しい演奏を聴いてしまった後だからでしょうか。カラヤンの指揮は余裕の手綱捌きでこの大作オペラをまとめ上げ、やや遅めのテンポも相まって、安定度が高いです。ただ、第3幕以降は歌手もオケも非常に美しく、繰り返し聴いてしまいました。「アイーダ」というと、第2幕第2場の「凱旋の場」が有名過ぎるくらい有名なのですが、第3幕以降を聴かせるという意味では、やっぱりさすがカラヤンと思いました。
ところで、そこ「凱旋の場」ですが、エジプト風トランペット(アイーダ・トランペット)という楽器が指定されています。この録音に先立ち、ウィーン・フィルはヤマハ(日本楽器)にアイーダ・トランペットを注文しました。この録音では。そのヤマハ製の楽器を、12(ヴェルディの指定は6)人のトランペット奏者が演奏しています。
歌手では、端役に至るまで万全の布陣ですが、ホセ・カレーラスのラダメスが素晴らしいです。今回一番好きなラダメスでした。アグネス・バルツァやミレッラ・フレーニによる美声のアイーダとアムネリスも素晴らしいのですが、フレーニというソプラノ・リリコが、リリコ・スピントに挑戦し始めた頃の録音で、無理して声を作っているような感じがしないでもありません。フレーニの声帯はだいじょうぶなんだろうかと要らぬ心配をしてしまいました。



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リッカルド・ムーティ
バイエルン国立管弦楽団
バイエルン国立歌劇場合唱団
合唱指揮:ヴォルフガング・バウムガルト

アイーダ:アンナ・トモワ=シントウ
ラダメス:プラシド・ドミンゴ
アムネリス:ブリギッテ・ファスベンダー

アモナスロ:ジークムント・ニムスゲルン
ランフィス:ロバート・ロイド
エジプト国王:ニコラウス・ヒルブランド
使者:ノーベルト・オルス
巫女の長:マリアンヌ・セイベル

1979年3月22日(ライヴ)
ミュンヘン、バイエルン国立歌劇場

今回5番目に聴いたCD。
これは熱いです。ムーティの指揮がエネルギッシュ。この頃のムーティは、このような熱い指揮をする人であったのかと、見直してしまったくらい。イタリアではなくドイツの歌劇場で、客演ということもあり、得意な「アイーダ」で聴衆を圧倒したかったのでしょう。
そしてこのCDは主役3人、特にアンナ・トモワ=シントウとブリギッテ・ファスベンダーが素晴らしいです。2人ともヴェルディのオペラにはあまり縁がないような感じがしますが、声の凄い威力と繊細かつ劇的な表現で、アイーダとアムネリスを見事に演じ切っています。
全盛期のプラシド・ドミンゴも頑張っているのですが、2人の女声歌手の印象が強いため、影が薄く感じられてしまうほどです。
その他の歌手では、アモナスロ役のジークムント・ニムスゲルンが良い声で、かっこいいアモナスロを演じていました。



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ロリン・マゼール
ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団

アイーダ:マリア・キアーラ
ラダメス:ルチアーノ・パヴァロッティ
アムネリス:ゲーナ・ディミトローヴァ

アモナスロ:レオ・ヌッチ
ランフィス:パータ・ブルチュラーゼ
エジプト王:ルイジ・ローニ

1986年2月
ミラノ、スカラ座(?)

歌手の顔ぶれが豪華なので、一度聴いてみたいと思っているのですが、未入手です。参考盤として掲げておきたいと思います。素晴らしい演奏という予感がします。



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アントニオ・パッパーノ
ローマ聖チェチーリア国立音楽院管弦楽団&合唱団
合唱指揮:チロ・ヴィスコ(?)

アイーダ:アニヤ・ハルテロス
ラダメス:ヨナス・カウフマン
アムネリス:エカテリーナ・セメンチュク

アモナスロ:リュドヴィク・テジエ
ランフィス:アーウィン・シュロット
エジプト国王:マルコ・スポッティ
使者:パオロ・ファナーレ
巫女の長:エレオノーレ・ブラット

2015年2月
ローマ、Sala Santa Cecilia, Auditorium Parco della Musica

今回最後に聴いたCDです。
指揮者のアントニオ・パッパーノをHMVで検索すると、145件ヒットします。多いのはヴェルディ、プッチーニ、ロッシーニですが、レパートリーが広いですね。ベートーヴェン以前はないようですけれど。この録音では、パッパーノの指揮が良いです。音楽の作り込みが実に丁寧で、洗練されています。「アイーダ」の録音にかけるパッパーノの意気込みが感じられ、少なくとも、録音、オケ、合唱に関しては過去の名盤に引けは取らないと思います。
しまし、歌手は、最良の布陣で臨んだのでしょうけれど、全体的にやや弱い感じがしました。水準以上ではあろうものの、どうしても物足りなさは否めません。
このセットはなんとCD3枚組(通常は2枚組)で、第1幕、第2幕、第3・4幕で3枚の構成になっています。
国内で、オペラの全曲録音の新譜が非常に少なくなった現在、もライヴ収録ではなくセッション録音で、しかも「アイーダ」のようなお金がかかる作品が発売されるなんて、ありがたいことだと思います。


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シューベルト ピアノソナタ第20番 イ長調 D959(遺作)の名盤

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現代最高のピアニストのひとりであるクリスティアン・ツィメルマンツィマーマン、ツィンマーマン、ジメルマン、チメルマン)の新譜が輸入盤CDとLPは9月10日、国内盤は9月20日に発売されるようです。

でも、なぜか全然話題になっていないような気がします。

「レコード芸術」9月号のユニバーサル ミュージックの広告で確かめてみたのですが、小さく載っていました。

収録されているのは、2015~2016年のリサイタルでも弾いていた以下の曲。

シューベルト
ピアノ・ソナタ 第20番 イ長調 D959
ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調 D960

ピアノ・ソロでは、1991年8月のドビュッシーの前奏曲集(1991年8月録音)以来、なんと25年ぶりの録音で、録音場所は、新潟県柏崎市というのだから、驚きます。

25年ぶり……。そして、新潟県柏崎市

これは心して聴かなければなりません!

今週はそのための予習をしました。

フランツ・シューベルト ピアノソナタ第20番 イ長調 D959

第1楽章 Allegro イ長調 4/4拍子
第2楽章 Andantino 嬰ヘ短調 3/8拍子
第3楽章 Scherzo: Allegro Vivace – Trio: Un poco più lento イ長調 3/4拍子
第4楽章 Rondo. Allegretto-Presto イ長調 4/4拍子

細かい話ですが、「D959」は「ドイチュ959番」と読みます。「D」と「959」の間に「.(ピリオド)」を入れてる場合と入れてない場合がありますが、私が所有しているCDでは入れていないケースが多かったので、多数決に従いました。

以下、所有しているCDの紹介です。持っているのはせいぜい5枚だろうと思ったら、意外に多かったです。ホント、意外だ……。



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ルドルフ・ゼルキン
1966年2月、ニューヨーク

今回8番目に聴いた演奏です。
クラシック音楽を聴き始めた頃、ゼルキンは、ベートーヴェン演奏の権威だと思っていました。ある本で「皇帝」や「ハンマークラヴィーア」の推薦盤がゼルキンだったからです。この演奏を聴き始めてしばらくは、これではまるでベートーヴェンではないかという思いが頭から離れませんでした。テンポも遅めで、今回取り上げているCDの中では一番遅いと思います。音色のせいもあり無骨なピアノで、自分は不器用なのでこういう弾き方しかできませんから、と言われているよう。でもその遅いテンポから滲み出てくるシューベルトの美しさは、時に瞑想的で、息をのんでじっと聴き続けてしまいました。



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ヴィルヘルム・ケンプ
1968年、ハノーファー

今回6番目に聴いた演奏です。
ある日、シューベルトのピアノ・ソナタを聴いてみたいと思った私は、どうせ買うなら全集にしようと考え、ヴィルヘルム・ケンプによるシューベルト:ピアノ・ソナタ全集(7CD)を購入したのでした。それで、毎日繰り返し聴いたのですが、シューベルトのソナタの素晴らしさが、全く理解できなかったのです。それは聴く側の感性に問題があるのだろうということで、しばらくシューベルトのソナタは聴かないことにしました。その後、いろいろな演奏を聴くようになり、ケンプの演奏も久しぶりに聴いてみたのですが……、うん、やっぱりわからないです。録音のせいか、ピアノが強音でキャンキャン鳴るのがちょっとつらい、かも。



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リチャード・グード
1978年5月、ニューヨーク

今回5番目に聴いた演奏です。
ブロ友であるnemo2さんが教えてくれた演奏です。持つべきものはブロ友さん。それまでリチャード・グードというピアニストは、名前は知っていても聴いたことがありませんでした。教えていただかなかったら、一生聴かなかったかもしれません。
これが実に良かったのです。今回はどうかな?と思ったのですが、やっぱりこれは好きな演奏です。ピアニズムのようなものは感じられなくて、ピアノの音なんかあまり綺麗じゃないのですが、だからでしょうか、シューベルトの音楽がストレートに心に響いてきます。見た目は取っつき難そうだけれど、話してみたら佳い人だったという感じでしょうか。結構、感興の赴くままに弾いているのですが、作為を感じさせない自然さが美点でしょう。



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クラウディオ・アラウ
1982年8月、ラ・ショー=ド=フォン

今回2番目に聴いた演奏です(ABC順なのです)。
これだ、と思いました。このような演奏を聴いて、私はこの曲が好きになったのです。こういう演奏ならこの先いろいろ聴き比べができるとほっとしました。アラウの演奏はがっしりというか、骨組みがしっかりしています。その中で、自然に表情を付けてくる。それが本当に微妙な匙加減で、けして行き過ぎることがない。うまく表現できませんが、何度聴いても飽きることがない演奏だと思うのです。ただ、録音はもう少し残響がないほうが好みです。



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マウリツィオ・ポリーニ
1983年12月、ウィーン

今回7番目に聴いた演奏です。
ポリーニというピアニストに対する評価は、好き嫌いがはっきり分かれますよね。私はどちらかといえば、ポリーニは好きな演奏家に属するのですが、このシューベルトを聴いて、この曲に新たな美を見出したりもし、それなりに新鮮ではあったのですが、じゃあこれを他人に推薦するかというと、しないと思います。本能的に、これは違うと感じました。でもこのCDは、評論家の支持がかなり高いのですよね。一巡して二回目に聴いたときも、基本的なテンポの設定とか、微妙な揺れとか、終始違和感が拭えなかったのですが、聴き進めるうちに、これはこれでありかな?とも思うようになりました。ポリーニのピアノに説得されたという感じです。



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アルフレート・ブレンデル
1987年12月、ノイマルクト

今回4番目に聴いた演奏です。
モーツァルトやシューベルトはブレンデルの録音を選べば間違いないと信じていた時代(中学生の頃)がありました。それは間違いではないのだけれど、でも、ブレンデルが好きだという人は、今までに会ったことがないような気がします。
このD959は、一言でいえば「完璧」でしょうか。ディナーミク、アゴーギク、ピアノの音(ベーゼンドルファー?)、その他、録音に至るまで、理想的なピアノです。洗練美の極致です。久しぶりに聴いて感動したのですが、なんだろう、でもやっぱりどこか近寄りがたいというか、壁みたいなものを感じなす。シューベルトにしては、といったら失礼ですが、立派過ぎないか?とも思います。



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ホルヘ・ボレット
1988年2月、ロンドン

今回3番目に聴いた演奏です。順序は大切です。
アラウとボレットを比べると、ボレットはさらに表情豊かで、ピアノで歌っているようです。弾いているピアノはベヒシュタインなのかボールドウィンなのかわかりませんけれど、美しい音色で、うっとりと聴き惚れます。一言でいえば、大変わかりやすい演奏で、D959を初めて聴く人はこのCDから入るのがよいかもしれません。
久しぶりにこのピアニストの演奏を聴いて、一時期、ボレットの残した録音を全て集めようとした日々を思い出しました。それぐらい好きなピアニストだったのです(なぜか過去形)。



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クリスティアン・ツァハリアス
1992・1993年、リーエン

今回、9番目に聴いた演奏です。
ツァハリアスのシューベルト、ピアノ・ソナタ全集は、購入した当時はあまり良い演奏だとは思えなくて、その後聴かなかったのです。耳も肥えてきた9番目ですから、あまり期待しないで渋々聴いてみたら、これが良かった。過去の私は、なぜこの演奏を良いと思わなかったのだろう。シューベルト晩年(といってもたった31年9ヵ月の生涯)のピアノ・ソナタは、どこか深刻な風が吹いているのだけれど、ツァハリアスの演奏は、それを吹き飛ばして、明るく美しく奏でています。だから、聴く方もあまり構えずに、リラックスしてシューベルトの音楽を楽しむことができます。こんな演奏があってもいいんじゃないかと思います。



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内田光子
1997年5月、ウィーン

ブレンデル盤を「完璧」と言いましたが、内田盤は「パーフェクト」です。意味は変わらないのですが、ブレンデル盤はピアノが完璧、内田盤はピアノも表現もパーフェクトです。満点です。シューベルトと一体化していて、どこまでが内田でどこからがシューベルトか境が無い感じです。音だけでオーラを放っているように感じられます。こんな演奏が出現してしまったら、後から続く人はやりづらいだろうと思います。内田さんのシューベルトが登場したとき、評論家さん達は皆絶賛していたと記憶していますが、最近は名盤ランキングが落ちているのはなぜでしょう。あまりに真剣過ぎるので、気楽に聴けないからでしょうか。



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レイフ・オヴェ・アンスネス
2001年8月、ロンドン

今回、最初に聴いた演奏です。
私はアンスネスというピアニストが好きで、とりわけヤナーチェクとニールセンのアルバムとか、ブリテンとショスタコーヴィチの協奏曲を愛聴しています。それで、このD959なのですが、アンスネスの技巧をもってすれば全く問題なく、コロコロした美しい音色でサラサラと流れるように弾き進めています、が、一回目に聴いたときは、これから聴く演奏が皆こんな調子だったら、今回の記事は早々に挫折しただろうと思いました。ところが、一巡して二回目に取りかかったとき、今度は素晴らしい演奏に聴こえました。不思議です。これに比べると、ゼルキンやケンプの演奏がゴツゴツした肌ざわりに思えるくらい流麗で、多彩な音色を駆使して表情豊かに弾き上げています。でも、このCDは最初に購入すべきではないかも。



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クリスティアン・ツィメルマン
2016年1月、新潟県柏崎市

さぁ、どうなんでしょう? まだ発売されていません。


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