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ヴォルフ イタリア風セレナーデ ト長調

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ブログ休止前に、吉田秀和「私の好きな曲」で取り上げられている曲を聴いてみようという企画があったのですが、記事にしなかった曲もあります。

それは、ヴォルフの「アナクレオンの墓」という歌で、フィッシャー=ディースカウの複数の録音の聴き比べになるはずでした。こんな曲です。

"Anakreons Grab "; Goethe-Lieder; Hugo Wolf
Dietrich Fischer-Dieskau

フーゴ・ヴォルフは、偉大な歌曲作曲家で、私にとっては「いつかきちんと向き合わなければいけない」という課題のような存在です。そう思いながら、喜びも悲しみも幾星霜。Wikipediaでヴォルフの生涯を読みましたが、なかなか壮絶な人生を送った人だったのですね。

今回は、今年最後の曲として、ヴォルフの数少ない器楽曲から弦楽四重奏曲を取り上げたいと思います。CDと同じように、今年の余白に入れるのにはちょうどよい曲と考えました。

フーゴ・ヴォルフ(1860年-1903年)
イタリア風セレナーデ(Italienische Serenade)ト長調
イタリアのセレナーデ
イタリアン・セレナーデ

短い曲です。7分ぐらいで終わります。いくつかの解説を合成してみました。
ヴォルフがアイヒェンドルフの小説「のらくろ者の日記」に着想を得た作品であり、星空の下でギターを奏するような活発で短い序奏から始まる。まもなく第1ヴァイオリンが静かに明るい主題を出す。曲はその他に3種類の主題を歌う。クライマックスを築いてから、冒頭の序奏を再現し、恋人へのセレナーデを奏し終え、ギターを抱えながら恋人のもとを去っていくかのように、ヴァイオリンのピッツィカート、ヴィオラとチェロの柔和な響きで曲は終わる。

「イタリア風」の「セレナーデ」を作曲したのではなく、セレナーデを歌っている情景を描写した音楽です。ややこしいですね。曲の真ん中ぐらいのところで、チェロがレシタティーヴォを奏します。これが何と意味しているのか。私は恋人の親父さんの出現ではないかと勝手に考えているのですが、これを境に曲想が少し変化します。そういうところが巧いと思います。

Wolf: Italian Serenade
Hagen Quartet (1989 Movie Live)
(弦楽四重奏版)

Wolf's 'Italian Serenade'
Amphion String Quartet
(弦楽四重奏版)

Wolf: Italian Serenade for string quartet
Signum Quartet
(弦楽四重奏版)

Wolf: Italian Serenade
New Century Chamber Orchestra
(ヴォルフ自身の編曲による弦楽合奏版)

ヴォルフ:イタリア風セレナード(1980年ライヴ)
テンシュテット指揮 コンセルトヘボウ管弦楽団
(レーガーの編曲による管弦楽版)

Hugo Wolf "String Quartet in D minor"
Quaertetto Prometeo
(ヴォルフの弦楽四重奏曲ニ短調)

この短い曲がCDのメインとなることはありません。

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アルテミス四重奏団のデビューCD(1996年録音)には、ツェムリンスキーの第1番、ヴェーベルンの5楽章、ベルクの抒情組曲とともに、ヴォルフのイタリア風のセレナーデも収録されています。この組み合わせに、なぜヴォルフを入れなければならなかったか? もしかしてこれは大変な名曲なのか? これは聴いてみたいCDです。 



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ヴォルフ:イタリア風セレナーデ 
プラハ弦楽四重奏団
ブジェティスラフ・ノヴォトニー
ヴァイオリン:カレル・プジビル
ヴィオラ:ルボミール・マリー
チェロ:ヤン・シルツ
1979年10月22日~11月2日 ブラハ,スプラフォン・スタジオ

ブラームスの弦楽四重奏曲全集(CD2枚組)の最後に収録されています。ヴォルフがブラームスを嫌悪していたことを知っていての選曲でしょうか。
プラハSQによる演奏は、やや遅めのテンポで7分30秒。これはこれで良い演奏だとは思うのですが、別の曲を聴いてみるような感じです。抒情的過ぎるというか、この曲の活き活きと弾むような曲想が活かされていないように聴こえます。ブラームスの延長で演奏しているのでしょうか。しっとりし過ぎるように思います。



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ヴォルフ:イタリア風セレナーデ 
ハーゲン弦楽四重奏団
ルーカス・ハーゲン
ライナー・シュミット
ヴェロニカ・ハーゲン
クレメンス・ハーゲン
1988年11月 オーストリア,アベルゼー,聖コンラッド教会

ヤナーチェクの2つの四重奏曲(「クロイツェル・ソナタ」「ないしょの手紙」)がメインで、3曲目に収録。この場合も、おまけに入れたという印象が拭えないです。
6分26秒で、良いテンポです。内声部が充実していて、ドイツのクァルテットらしく充実した響きですが、もう少し軽くてノリがよいほうが曲にふさわしいと思います。チェロのレシタティーヴォはさすがクレメンス、威厳があり雄大な響きです。



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ヴォルフ:イタリア風セレナーデ 
カルミナ四重奏団
マティ-アス・エンデルレ
スザンヌ・フランク
ウェンディ・チャンプニー
シュテファン・ゲルナー

2000年5月26-28日
スイス,ラ・ショー・ド・フォン,ムジカ・テアトル

このCDもメインはベルクの弦楽四重奏曲作品3とシェーンベルクの「浄められた夜」で、ヴォルフのイタリア風セレナードは、1曲目であるものの前菜のような扱いです。
この演奏はとても良いです。FM放送の番組テーマ曲にそのまま使える感じでの6分54秒、録音も良く鮮やかなものです。このような演奏を聴くにつけてカルミナ四重奏団は素晴らしいクァルテットであると思います。


2013年10月6日から休止していた拙ブログですが、今年(2017年)の5月21日にブログを再開しました。なんだかあっという間したね。

皆さまにおかれましては、どうぞよいお年をお迎えください。

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲 アルテミス・クァルテット

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遅ればせながら
あけましておめでとうございます
本年もよろしくお願いいたします

今年最初の曲、聴き初めの曲は、ベートーヴェンしかない、他の作曲家は考えられない、と昨年から決めていました。私の基本はベートーヴェンなのです。

演奏は、アルテミス四重奏団、いや、アルテミス・クァルテットと呼ばせていただきましょう。

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
弦楽四重奏曲全集
アルテミス・クァルテット

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かつてアルバン・ベルク四重奏団の後継者とまで言われたアルテミスQ(←面倒なので省略)ですが、その演奏を聴くとき、私は少々混乱します。現在に至るまでメンバーの入れ替わりが多いからです。この記事は、私の頭の整理のために書きました。適当に読み飛ばしていただければ幸いです。

アルテミスQについて簡単にご紹介します。1989年にリューベックで結成された弦楽四重奏団です。結成当時のことはわかりませんが、第1期アルテミスQは、ナタリア・プリシェペンコ(女性)とその他3名(男性)からなります。

アルテミスQは、1996年の第45回ミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門で、東京クヮルテット(←「ァ」ではなく「ヮ」)以来、28年ぶりの優勝者となり、1997年のプレミオ・パオロ・ボルチアーニ弦楽四重奏国際コンクールでも第1位となったことから、彼女と彼らに対する評価は決定的なものとなりました。

まず、アルテミスQによるベートーヴェン全集を録音順に並べてみます。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲名と作品番号の復習も兼ねています。

弦楽四重奏曲第9番ハ長調 op.59-3「ラズモフスキー第3番」
ナタリア・プリシェペンコ(第1ヴァイオリン)
ハイメ・ミュラー(第2ヴァイオリン)
フォルカー・ヤコプセン(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)
1998年7月20-26日
ケルン,フンクハウス・ヴァルラフプラッツ,クラウス・フォン・ビスマルク・ザール

弦楽四重奏曲第15番イ短調 op.132
ハイメ・ミュラー(第1ヴァイオリン)
ナタリア・プリシェペンコ(第2ヴァイオリン)
フォルカー・ヤコプセン(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)
1998年7月20-26日
ケルン,フンクハウス・ヴァルラフプラッツ,クラウス・フォン・ビスマルク・ザール

弦楽四重奏曲第2番ハ長調 op.18-2
ナタリア・プリシェペンコ(第1ヴァイオリン)
ハイメ・ミュラー(第2ヴァイオリン)
フォルカー・ヤコプセン(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)
2002年6月10-12日,2002年7月2-4日
ケルン,シュトゥーディオ・シュトルベルガーシュトラーセ

弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調 op.131
ハイメ・ミュラー(第1ヴァイオリン)
ナタリア・プリシェペンコ(第2ヴァイオリン)
フォルカー・ヤコプセン(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)
2002年6月10-12日,2002年7月2-4日
ケルン,シュトゥーディオ・シュトルベルガーシュトラーセ

弦楽四重奏曲第7番ヘ長調 op.59-1「ラズモフスキー第1番」
ハイメ・ミュラー(第1ヴァイオリン)
ナタリア・プリシェペンコ(第2ヴァイオリン)
フォルカー・ヤコプセン(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)
2005年6月23-26日,7月2-3日
ベルリン,イエス・キリスト教会

弦楽四重奏曲第11番ヘ短調 op.95「セリオーソ」
ナタリア・プリシェペンコ(第1ヴァイオリン)
ハイメ・ミュラー(第2ヴァイオリン)
フォルカー・ヤコプセン(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)
2005年6月23-26日,7月2-3日
ベルリン,イエス・キリスト教会

プリシェペンコとミュラーが交替で第1ヴァイオリンを弾いています。エマーソンSQと似ていますが、その違いは、曲によって弾き分けているのではなく、第1ヴァイオリンは負担が大きいので、交替することによって練習の効率化を図っているのだそうです。

ここまでが第1期アルテミスQです。

なぜ第1期かというと、ヴィオラのヤコプセンが「子供と一緒に過ごしたい……」という理由で退団してしまうからです。新ヴィオラのオーディションを始めたアルテミスQですが、今度はヴァイオリンのミュラーが「腕の故障で弾けなくなった……」ため、ヴァイオリンとヴィオラの2名が入れ替わります。ついでに録音会場も変わりました。

ここからが第2期アルテミスQです。

弦楽四重奏曲第4番ハ短調 op.18-4
グレゴール・ジークル(第1ヴァイオリン)
ナタリア・プリシェペンコ(第2ヴァイオリン)
フリーデマン・ヴァイグレ(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)
2008年2月13-15日,5月5-7日
ベルリン,テルデックス・シュトゥーディオ

弦楽四重奏曲第8番ホ短調 op.59-2「ラズモフスキー第2番」
ナタリア・プリシェペンコ(第1ヴァイオリン)
グレゴール・ジークル(第2ヴァイオリン)
フリーデマン・ヴァイグレ(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)
2008年2月13-15日,5月5-7日
ベルリン,テルデックス・シュトゥーディオ

弦楽四重奏曲第1番ヘ長調op18-1
ナタリア・プリシェペンコ(第1ヴァイオリン)
グレゴール・ジークル(第2ヴァイオリン)
フリーデマン・ヴァイグレ(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)
2010年5月19-20日,6月29-30日,7月1日
ベルリン,テルデックス・シュトゥーディオ

弦楽四重奏曲第6番変ロ長調 op.18-6
ナタリア・プリシェペンコ(第1ヴァイオリン)
グレゴール・ジークル(第2ヴァイオリン)
フリーデマン・ヴァイグレ(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)
2009年11月8-13日,12月16-18日
ベルリン,テルデックス・シュトゥーディオ

弦楽四重奏曲第13番変ロ長調 op.130
大フーガ op.133
ナタリア・プリシェペンコ(第1ヴァイオリン)
グレゴール・ジークル(第2ヴァイオリン)
フリーデマン・ヴァイグレ(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)
2009年11月8-13日,12月16-18日
ベルリン,テルデックス・シュトゥーディオ

弦楽四重奏曲第12番変ホ長調 op.127
ナタリア・プリシェペンコ(第1ヴァイオリン)
グレゴール・ジークル(第2ヴァイオリン)
フリーデマン・ヴァイグレ(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)
2010年5月19-20日,6月29-30日,7月1日
ベルリン,テルデックス・シュトゥーディオ

弦楽四重奏曲第5番イ長調 op18-5
ナタリア・プリシェペンコ(第1ヴァイオリン)
グレゴール・ジークル(第2ヴァイオリン)
フリーデマン・ヴァイグレ(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)
2010年12月21-22日
ベルリン,テルデックス・シュトゥーディオ

弦楽四重奏曲第3番ニ長調 op.18-3
ナタリア・プリシェペンコ(第1ヴァイオリン)
グレゴール・ジークル(第2ヴァイオリン)
フリーデマン・ヴァイグレ(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)
2011年1月27-28日
ベルリン,テルデックス・シュトゥーディオ

弦楽四重奏曲第16番ヘ長調 op.135
グレゴール・ジークル(第1ヴァイオリン)
ナタリア・プリシェペンコ(第2ヴァイオリン)
フリーデマン・ヴァイグレ(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)
2011年2月9-11日
ベルリン,テルデックス・シュトゥーディオ

弦楽四重奏曲第10番変ホ長調 op.74「ハープ」
ナタリア・プリシェペンコ(第1ヴァイオリン)
グレゴール・ジークル(第2ヴァイオリン)
フリーデマン・ヴァイグレ(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)
2011年3月29-31日,4月3-4日
ベルリン,テルデックス・シュトゥーディオ

弦楽四重奏曲ヘ長調 Hess34(ピアノ・ソナタ第9番 op.14-1の編曲)
ナタリア・プリシェペンコ(第1ヴァイオリン)
グレゴール・ジークル(第2ヴァイオリン)
フリーデマン・ヴァイグレ(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)
2011年3月29-31日,4月3-4日
ベルリン,テルデックス・シュトゥーディオ

第1ヴァイオリンはプリシェペンコであるパターンが多くなりました。彼女は第37回パガニーニ国際コンクール第1位(イザベル・ファウスト、庄司紗矢香も同コンクール第1位)の実力者です。1998年から始まったベートーヴェン全集の録音もようやく完結しました。めでたしめでたし。

さて、第2期アルテミスQですが、またメンバーが入れ替わります。ナタリア・プリシェペンコが2012年に退団してしまうのです。このクァルテットの個性をヴィネタ・サレイカを迎えたのも束の間、今度はヴィオラのヴァイグレが2015年に亡くなってしまいます。

アンシア・クレストンをヴァイオリンに迎え、ヴァイオリンのジークルがヴィオラに回り、ヴァイオリンが女性2人、ヴィオラとチェロが男性になりました。

結成当時?
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ナタリア・プリシェペンコ(第1ヴァイオリン)
ハイメ・ミュラー(第2ヴァイオリン)
フォルカー・ヤコプセン(ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ(チェロ)


現在?
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ヴィネタ・サレイカ(第1ヴァイオリン)
アンシア・クレストン(第2ヴァイオリン)
グレゴール・ジーグル (ヴィオラ)
エッカート・ルンゲ (チェロ)

結成以来のメンバーは、エッカート・ルンゲだけになってしまいました。

固定メンバーで弦楽四重奏団を維持するのは大変みたいです。メンバーの都合では解散させてもらえないという、業界の(商業的な)事情もあったのかもしれません。

プリシェペンコ在団のうちにアルテミスQを聴いてみたかったですが、在りし日の姿をしのんでYouTubeの音源を貼っておきます。

(貴重な第1期の映像です)
Artemis plays
Beethoven string quartet Op.95 - 2005

Artemis Quartet
Ludwig van Beethoven - Große Fuge, Op. 133
(冒頭にCMが入ります)

(以下、第2期の映像です)
Artemis plays
Beethoven string quartet op.18 No.4 - 2008

Artemis plays
Beethoven String Quartets op. 130 Presto - 2010

Artemis plays
Beethoven String Quartets op. 130 Cavatina - 2010

Artemis plays
Beethoven String Quartet op. 135 - 2011


CDで聴くより、YouTubeのほうが素晴らしく感じるのはなぜでしょう。映像の力、眼からの情報というのは圧倒的なものがあります。

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はい、ここまでが前置きでした。長かったですね。

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集の人気盤といえば順不同で、アルバン・ベルク、スメタナ、バリリ、エマーソン、ブダペスト、イタリア、タカーチュ、東京、メロス、アマデウス、クリーヴランド、ゲヴァントハウス、ハンガリー、ベルリン、ジュリアード、ヴェーグ、リンゼイなどなど。(ハーゲン四重奏団の全集がないのが不思議)

それで、アルテミスQのベートーヴェン弦楽四重奏曲全集はどうだったかという本題ですが、第7番から第16番まで聴き、作品18の6曲はつまみ聴きして、素直に良い演奏だと思いました。緻密なアンサンブルは、例えば第8番(ラズモフスキー2番)、第9番(ラズモフスキー3番)の終楽章、第13番(作品130)の第2楽章で威力を発揮します。他の団体よりも一段速いテンポ、見事なアンサンブルで駆け抜けているのは快感です。また、練り上げられた解釈と集中力の高さが感動的です。デュナーミクがはっきりしていて演奏にメリハリがあり、聴きなれた曲でも新鮮な印象を受けます。

同じ曲を過去の名演と聴き比べると、響きの違いがあります。それは、主としてヴィオラとチェロの音色によります。筋肉質というか、ちょっとギスギス・ゴリゴリしていて音色が美しくないかも。それがフットワークの軽さにつながっているのかもしれません。

アルテミスQは、実演と録音では全然違うのだそうで、CDだけで判断してはいけないと思いつつ、そんな感想を抱きました。

最後にこの全集の問題点。

(1)
「弦楽四重奏曲第13番変ロ長調作品130」をアルテミスQは「大フーガ 変ロ長調 作品133」で締め括っています。それはベートーヴェンが本来意図した形でありますが、最終決定のロンド楽章はどこへ行ってしまったのでしょう。全集なのに、作品130の第6楽章だけが収録されていないのは残念です。

(2)
Walkmanで聴くためにリッピングしようとしても、DISC5・6がうまくできません。また、CDプレーヤーでの再生でもDISC4でプチッ、プチッというノイズが入ります。現在、交換交渉中……。


ブラームス 弦楽四重奏曲第3番変ロ長調 作品67 の名盤

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平成30年2番目の記事は、ブラームスです。
ベートーヴェン同様にブラームスも私にとっては大切な作曲家なのです。

ブラームス(1833年-1897年)にとって、声楽曲とともに室内楽曲は重要ジャンルであり、自己批判が強く、発表に慎重なこの作曲家にあって、作品数も多く、どの曲も名曲ということになっています。

弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調 op.18
弦楽六重奏曲第2番 ト長調 op.36
弦楽五重奏曲第1番 ヘ長調 op.88
弦楽五重奏曲第2番 ト長調 op.111
弦楽四重奏曲第1番 ハ短調 op.51-1
弦楽四重奏曲第2番 イ短調 op.51-2
弦楽四重奏曲第3番 変ロ長調 op.67
ピアノ五重奏曲ヘ短調 op.34
ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 op.25
ピアノ四重奏曲第2番 イ長調 op.26
ピアノ四重奏曲第3番 ハ短調 op.60
ピアノ三重奏曲第1番 ロ長調 op.8
ピアノ三重奏曲第2番 ハ長調 op.87
ピアノ三重奏曲第3番 ハ短調 op.101
ホルン三重奏曲変ホ長調 op.40
ヴァイオリンソナタ第1番「雨の歌」 ト長調 op.78
ヴァイオリンソナタ第2番 イ長調 op.100
ヴァイオリンソナタ第3番 ニ短調 op.108
ピアノとヴァイオリンのためのスケルツォ(F.A.E.ソナタの第3楽章) ハ短調 WoO 2
チェロソナタ第1番 ホ短調 op.38
チェロソナタ第2番 ヘ長調 op.99
クラリネット五重奏曲ロ短調 op.115
クラリネット三重奏曲イ短調 op.114
クラリネットソナタ第1番 ヘ短調 op.120-1(ヴィオラ版、ヴァイオリン版あり)
クラリネットソナタ第2番 変ホ長調 op.120-2(ヴィオラ版、ヴァイオリン版あり)

その中で、3曲の弦楽四重奏曲はどうなのでしょう。Wikipediaによると、第1番と第2番には最低8年もかかっているうえ、その前にも20曲を越える習作を破棄しているのだそうです。もったいない。

弦楽四重奏曲第3番は、ブラームス最後の弦楽四重奏曲です。交響曲同様、弦楽四重奏曲もベートーヴェンを意識してしまって、これ以上は書けなかったと言われています。

最後の弦楽四重奏曲と言っても、作品番号は67であり、交響曲第1番のひとつ前です。この曲は交響曲第1番と並行して作曲されたそうで、緩徐楽章などどこか似ていますよ。

ヨハネス・ブラームス
弦楽四重奏曲第3番変ロ長調 作品67

第1楽章 Vivace 変ロ長調
第2楽章 Andante ヘ長調
第3楽章 Agitato; Allegretto non troppo ニ短調
第4楽章 Poco Allegretto con Variazioni 変ロ長調

Johannes Brahms String Quartet No.3 in B falt major Op.67
Amadeus Q

Brahms String Quartet op. 67 in B flat major
Quartetto Italiano (1970)



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ブラームス:弦楽四重奏曲第3番変ロ長調 作品67
ブダペスト弦楽四重奏団
ヨーゼフ・ロイスマン
アレクサンダー・シュナイダー
ボリス・クロイト
ミッシャ・シュナイダー
1963年11月26日,12月9,10日 ニューヨーク

この記事を書くために自前のCDリストを検索し、発見したCD。購入したときに一度聴いて以来忘れていたのでしょう。ブラームスの棚ではなく、カップリングのシューマンの棚に入っていたので気がつきませんでした。
驚きました。これは名演です。ブダペストSQだから悪かろうはずがないとは思っていましたが、最初に私の気を引いたのは録音。マイクが楽器に近くて、生々しいのです。そして定位が良い。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンがずれて座っているのが手に取るようにわかります。だからブラームスの作曲技法が理解しやすいです。
さらに演奏が素晴らしい。経験なんでしょうね。この和音をたっぷり響かせてほしいという場所はドンピシャで決めてくれるのです。旋律の歌わせ方もブラームスにふさわしく、嬉しくなって久しぶりに集中して聴き入りました。こういう演奏が聴きたかったのです。良い演奏に巡り合えてよかった。(購入したときに既に出会っていたのだけれど。)



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ブラームス:弦楽四重奏曲第3番変ロ長調 作品67
アマデウス四重奏団
ノーバート・ブレイニン
ジークムント・ニッセル
ピーター・シドロフ
マーティン・ロヴェット
1960年1月 ハノーファー

ブラームスの弦楽六重奏曲(全2曲)、弦楽五重奏曲(全2曲)、弦楽四重奏曲(全3曲)は、アマデウス四重奏団のCDがお気に入りです。これさえあれば他のCDは要らないと決めつけ、購入していませんでした。そんなに良かったかな。
アマデウスQの演奏で聴くと、この曲がモーツァルト作曲のように聴こえます。かといって響きが軽いわけではなく、このクァルテット特有の少々渋めの音、声に譬えればハスキーな声。そしてどこか雅やかな音色がブラームスによく合っています。ブラペストSQに比べると瀟洒な感じがしますね。
旋律も呼吸が深く、よく歌い、大満足です。アンサンブルは今どきの精緻な演奏に比べると時々崩れそうな感じがしますが、それも計算のうちなのでしょう。
ブラペストQともども、ヴィオラが恰幅のよい音を出すので、響きに厚みがありますね。



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ブラームス:弦楽四重奏曲第3番変ロ長調 作品67
プラハ弦楽四重奏団
ブジェティスラフ・ノヴォトニー
カレル・プジビル
ルボミール・マリー
ヤン・シルツ
1978年5月16-17日 プラハ,スプラフォン・スタジオ

なぜこのCDを購入したのか、その動機が思い出せません。帯に「レコード芸術推薦」と書いてあるので、再発売時の月評を読んで興味を持ち、購入したのでしょう。プラハSQと言えば、Deutsche Grammophonに録音した、ドヴォルザークの弦楽四重奏曲全集(9枚組)が有名ですね。
一聴して録音の美しさに耳を奪われます。アマデウスQと18年の差は大きいです。DENONとSUPRAPHONの共同制作なのでPCM録音です。デジタル録音だからマスターの劣化がないのでしょうか。
演奏はゆったりとしたもので、派手さはなく真摯な演奏ですが、よく歌うヴァイオリンのポルタメント多用などに懐かしさを感じます。第1ヴァイオリンが突出せず、各楽器が均等に役割を果たしているのは、受け渡しの多いブラームスの場合、長所になります。第3楽章は普通流れるように演奏するのですが、プラハQは一歩一歩踏みしめていく感じで、ユニークと思いました。洗練されていないのがかえって新鮮です。そしてこの演奏もヴィオラが巧いです。



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ブラームス:弦楽四重奏曲第3番変ロ長調 作品67
アルバン・ベルク四重奏団
ギュンター・ピヒラー(第1ヴァイオリン)
ゲルハルト・シュルツ(第2ヴァイオリン)
トマス・カクシュカ(ヴィオラ)
ヴァレンティン・エルベン(チェロ)
1992年4月 St.Petersburg,Palais Yusopv

アマデウスQの演奏が素晴らしいと言っても、今となっては60年近く前の録音なので、もっと新しい録音を望まれる方はこれを選ぶことになるでしょう。
鮮烈で瑞々しく都会的で洗練されており、鉄壁のアンサンブルは安定感は抜群です。ツンと高くすまし顔なところが好き嫌いの分かれ目かもしれません。きれいすぎるのです。ブラームスはゴツゴツした演奏が好きという人には向かないでしょう。
それにしても鮮やかなものです。これだけ聴いていれば、もう他は要らないと思うのでしょうけれど、聴き比べてみると、もう少しヴィオラとチェロが音を出して厚い響きを構築してもよいのではと思います。ただ、第3楽章、この魅力的な楽章をアルバン・ベルクQはとても美しく、流麗に演奏してくれます。
アルバン・ベルクQには旧録音があり、それも良いそうなので、聴いてみたいところです。



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ブラームス:弦楽四重奏曲第3番変ロ長調 作品67
エマーソン弦楽四重奏団
ユージーン・ドラッカー
フィリップ・セッツァー
ローレンス・ダットン
デイヴィッド・フィンケル
2005年12月 New York,American Academy of Arts and Letters

Deutsche Grammophonのブラームス室内楽全集(11CD)に入っていた録音です。このボックスはお薦めです。ブラームスの室内楽曲を非常に水準の高い演奏で揃えることができます。ヴィオラ・ソナタが収録されていないのが残念ですが。
エマーソンQも巧いですね。アンサンブルの精度だけ比べれば、アルバン・ベルクQより上かも。エマーソンQは、何を聴いても同じように聴こえてしまいますが、それも個性というものでしょう。アルバン・ベルクQの演奏をもう少しがっしりさせた感じで、だからよりブラームスらしくなっています。ベートーヴェンよりですね。
このCDは録音が良く、第1と第2ヴァイオリンの掛け合いがよく分かります。第3楽章のヴィオラも巧く(エマーソンSQのヴィオラは常々巧いと思っていました)、左右に大きく振った録音なので、ヴァイオリンとの掛け合いが楽しめます。録音が良いCDは耳に心地良いです。この演奏もお薦めです。



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ブラームス:弦楽四重奏曲第3番変ロ長調 作品67
タカーチュ四重奏団(タカーチ四重奏団)
エドワード・ドゥシンベル(第1ヴァイオリン)
カーロイ・シュランツ(第2ヴァイオリン)
ジェラルディン・ウォルサー(ヴィオラ)
アンドラーシュ・フェエール(チェロ)
2008年5月23-26日  Bristol St.George's, Braqndon Hill

先日、アルテミスQのメンバーの入れ替わりが多過ぎるという非難めいた記事を書いてしまいましたが、タカーチュQもチェロ以外、全員入れ替わっています。第1ヴァイオリンの Gábor Takács-Nagy が退団しても団名は変わっていません。
新しめの録音で聴きたいという人には、このCDが選択肢となるでしょう。このCDも録音が良いです。SA-CDと思ったぐらい。
違う演奏とはいえ、この曲をずっと聴き続けるのはなかなか大変ですが、最後に良い演奏が回ってきたという思いがあります。これは名演でしょう。響きがブラームスらしさを失っていないし、各パートのバランスも理想的で響も美しく、この演奏から今まで気がつかなかったことをいろいろ教えてもらいました。強力にお薦めします。
Hyperion のCDは高いという理由で購入しなかったのですが、タカーチュQのようなクァルテットが存在しているのは嬉しいことです。


モーツァルト 弦楽五重奏曲第3番ハ長調 K.515 の名盤

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ある人(浅里公三氏)が書いていましたが、K.515とK.516はモーツァルトの室内楽曲の最高傑作なのだそうです。ということは、あらゆる室内楽曲の最高峰ということでしょうか。

弦楽四重奏曲と弦楽五重奏曲は何が違うかというと、楽器の数が違います。弦楽四重奏曲は、ヴァイオリン×2、ヴィオラ×1、チェロ×1です。

弦楽五重奏曲は、モーツァルト、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームスは、ヴァイオリン×2、ヴィオラ×2、チェロ×1です。第1ヴィオラと第2ヴィオラがあります。

ただし、シューベルトは、ヴァイオリン×2、ヴィオラ×1、チェロ×2で、第1チェロと第2チェロがあります。

ボッケリーニには、ヴァイオリン×2、ヴィオラ×2、チェロ×1のパターンが110曲、ヴァイオリン×2、ヴィオラ×1、チェロ×2のパターンが12曲あるそうです。すごい数!

変わっているのは、ドヴォルザークの第2番ト長調作品77で、なんと、ヴァイオリン×2、ヴィオラ×1、チェロ×1、コントラバス×1です。さすがドヴォルザークです。

なお、今回は「疾走する悲しみ(by小林秀雄)」ではなく、お正月らしいほうの曲を選びました。

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
弦楽五重奏曲第3番 ハ長調 K.515

第1楽章 Allegro ハ長調、4分の4拍子 ソナタ形式
第2楽章 Andante ヘ長調、4分の3拍子 ソナタ形式
第3楽章 Menuetto. Allegretto ハ長調 4分の3拍子 複合三部形式
第4楽章 Allegro ハ長調 4分の2拍子 ロンド風のソナタ形式

※初版は第2楽章と第3楽章が逆だったそうで、そのように演奏している録音も多いです。どちらでも素晴らしい音楽には違いありませんが、私は第2楽章がアンダンテの方が好みです。

Mozart: String Quintet No. 3
Barylli Quartet (1953) 
(CMが入りますが、名演なのでご紹介します)

Wolfgang Amadeus Mozart, quintet for strings in C-major KV 515
Ensemble 415
(ピリオド・スタイルの演奏です)


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弦楽五重奏曲第3番ハ長調 K.515 
ブダペスト弦楽四重奏団
ヨセフ・ロイスマン
エドガー・オルテンベルク
ボリス・クロイト
ミシャ・シュナイダー
ミルトン・カティムス(第2va)
1945年2月6日,4月23日 ニュー・ヨーク,Liederkranz hall

名前がブダペスト(ハンガリーの首都)なのに、メンバーはロシア人というブダペスト四重奏団。Wikipediaで紹介されていたエピソードが面白かったのでコピペします。
「ロシア人が1人いたら何者だろう?そいつは無政府主義者だ。2人いたら?チェスの試合だ。3人いたら?共産主義グループだ。それではロシア人が4人いたら?それはブダペスト四重奏団だ。」
1966年のステレオ録音を購入したつもりが、よく見たら1945年のモノラル録音であったという悲しいCD。いや、もしかしたらこのモノラル録音のほうが優れた演奏であるかもしれない。メンバーだってまだ若いのだし。
モノラルという録音の不利がありますが、演奏は良いと思います。ただ、どうしてもこれを選ばなければならないというものも無くて、やっぱり1966年のステレオ録音を選びたいところです。



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モーツァルト:弦楽五重奏曲第3番ハ長調 K.515
バリリ四重奏団
ワルター・バリリ
オットー・シュトラッサー
ルドルフ・シュトレンク,ヴィオラ
リヒャルト・クロチャック,チェロ
ヴィルヘルム・ヒューブナー(第2va)
1953年5月 ウィーン,モーツァルト・ザール

ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲という取っつき難い世界に挑戦していた頃、重宝していたのはバリリQによる録音でした。私にとってすごくわかりやすい演奏だったので、曲を好きになることができました。「歌」に溢れ、「音色」が魅惑的、「優美」であると同時に「繊細さ」と「力強さ」も兼ねそなた理想の弦楽四重奏団でした。このクァルテットが奏でるベートーヴェンは、本当に素晴らしかったのです。
さて、バリリQのモーツァルトですが、やっぱり素晴らしいですね。すごく、のんびりしたテンポで始まります。田舎っぽいですが、何とも言えない懐かしさ、人懐っこさがあって、ほんわかとした雰囲気に癒されます。第1ヴァイオリンのバリリの艶やかな音色が美しいです。なお、第1楽章はこのえ演奏で15分30秒かかりますが、後述のラルキブデッリは11分27秒です。この演奏も第2楽章はメヌエットのパターンです。以下、モーツァルトを聴く喜びを与えてくれる名演といえます。
録音はこれもモノラルですが、Westminsterの録音なので聴きやすいです。



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モーツァルト:弦楽五重奏曲第3番ハ長調 K.515
アマデウス弦楽四重奏団
ノーバート・ブレイニン
ジークムント・ニッセル
ペーター・シドロフ
マーティン・ロヴェット
セシル・アロノヴィッツ(第2va)
1967年5月 ベルリン

これはスメタナQ+スークのCDと同じくらいお気に入りの演奏だったのです。アマデウスSQ+アロノヴィッツ盤のほうがテンポが速くて若々しく、より曲にふさわしいと思いました。音色はくすんだ感じ、いぶし銀的音色ですが、厚みのあるアンサンブルは安定感がありますね。そう、良い演奏、素晴らしい演奏ではあるのですが、もう一つ何かがほしいです。でも、美しい演奏。アンダンテ楽章なんて本当にきれい。出て来る音が美しいのだけれど、演奏者がモーツァルトの音楽を慈しんで演奏しているのがよくわかる演奏です。



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モーツァルト:弦楽五重奏曲第3番ハ長調 K.515
アルテュール・グリュミオー
アルパド・ゲレツ
ジョルジュ・ヤンツェル
マックス・ルズール
エヴァ・ツァコ
1973年5月 スイス,ラ・ショー=ド=フォン

ディヴェルティメントK.563のときは、これもありだと思ったのですが、弦楽五重奏だとさすがに疑問を感じます。つまり、グリュミオー+その他4名の演奏で、4名はグリュミオーに遠慮しているというか、引き立て役に回っていて、控えめに演奏しているように聴こえます。逆に、グリュミオーの第1ヴァイオリンが常に目立っているわけで、曲もそのようには書かれているのですが、あまりにもグリュミオー、目立ちすぎじゃないの?とも思います。とはいえ、巧いことは巧いので、一聴の価値はあります。グリュミオーはモーツァルトが好きなのでしょうね。



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モーツァルト:弦楽五重奏曲第3番ハ長調 K.515
スメタナ四重奏団
イルジー・ノヴァーク
リュボミール・コステツキー
ミラン・シュカンバ
アントニーン・コホウト
ヨゼフ・スーク(第1va)

1976年6月7~10日 プラハ,スプラフォン・ジシコフ・スタジオ

これは良い演奏だと思います。弦楽五重奏とはかくあるべしといった感じです。すごく端正で丁寧、美しい演奏。よい意味でのお手本的、模範的な演奏です。名ヴァイオリニストのヨゼフ・スークが第1ヴィオラを弾いているのもポイントが高く、実に美しいヴィオラです。
私が初めて買った K,515はこのCDで、あまりに立派な演奏だったから、しばらくはこれ1枚でいいやと思ったくらいです。でもこうやって、他のCDと聴き比べてみると、もう一味、何かあってもいいような気もします。安全運転過ぎるのかもしれません。1977年度レコード・アカデミー賞受賞の名盤です。



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モーツァルト:弦楽五重奏曲第3番ハ長調 K.515
グァルネリ四重奏団(グヮルネリ四重奏団)
アーノルド・シュタインハート
ジョン・ダレイ
マイケル・トゥリー
デヴィッド・ソイヤー
アイダ・カヴァフィアン(va)

1984年10月26日 ニューヨーク.メトロポリタン美術館(ライヴ)

グァルネリ四重奏団は、1964年に結成された弦楽四重奏団で。メリーランド大学カレッジパーク校の付属弦楽四重奏団として活動してきました。弦楽四重奏団としての活動は2009年に終えているようです。
このK.515、いささか地味ではありますが、内容がぎっしり詰まっていて滋味がありますよ。第1ヴァイオリンがスター・プレーヤ^でないのが好ましく、5人のアンサンブルが楽しめる演奏です。私は好きです。
なお、この弦楽五重奏曲全集は、3人のヴィオラ奏者を迎え、曲によって変えています。その3人とは、アイダ・カヴァフィアン、スティーヴ・テーネンボム、キム・カシュカシアンなのですが、私の好きなカシュカシアンは、第2番K.406と第6番K.614で、残念ながらK.515とK,515は弾いていません。ちょっとがっかり。



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モーツァルト;弦楽五重奏曲第3番ハ長調K.515
メロス四重奏団
ヴィルヘルム・メルヒャー
ゲルハルト・フォス
ヘルマン・フォス
ペーター・ブック
フランツ・バイアー(第2va)
1986年7月 バンベルク,ツェントラルザール

高性能なモーツァルト。だいぶ以前に、メロスQによるモーツァルトの弦楽四重奏曲を買って、自分の好みとは違うと感じて手放してしまったのですが、これは良い演奏です。すっきりくっきりキリっとしていて現代的、スイスイ曲が進んでいきます。これはこれでいいのかもしれない。これも第2楽章がメヌエットのパターン。第3楽章は意外にゆったりしたテンポでよく歌います。第4楽章はやや早めのテンポ。全体にすごく完成度の高い演奏(ピカイチ)で、洗練された美しさがあり、ケチの付けようがないのですが、幾分面白味に欠けるかもしれません。これを聴き終わったらもう一度繰り返し聴きたいとは思わず、今度は別のCDを聴いてみたくなるかも。



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モーツァルト;弦楽五重奏曲第3番ハ長調K.515
アルバン・ベルク四重奏団
ギュンター・ピヒラー
ゲルハルト・シュルツ
トマス・カクシュカ
ヴァレンティン・エルベン
マルクス・ヴォルフ(第2va)
1986年7月 CH-Seon,Evangelische Kirche

メロスQの演奏を非常に完成度が高いと書きましたが、この演奏もそうです。一枚も二枚も上手かもしれません。メロスQとどこが違うかというと、それは微妙なところであり、しかし、それが大きいのです。アルバン・ベルクQがナンバーワン・クァルテットであった理由がそこにあります。と、偉そうなことを書いて実はよくわかっていないのですが、「呼吸」ですよね。アゴーギクと呼べばよいのでしょうか。ひとつひとつの楽句での微妙な速度変化、強弱法という仕草に心をくすぐられます。あと、音色。アルバン・ベルクQは、ウィーン国立音楽大学の教授達が結成した団体ですが、だからなのでしょうか、ウィーン・フィルに似た美しさがあります。アルバン・ベルクQ全盛期の録音であり、やっぱり名盤だと思います。バリリQの現代版。決定盤といってよいと思います。



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モーツァルト:弦楽五重奏曲第3番ハ長調 K.515
ラルキブデッリ
ヴェラ・ベス
ルシー・ファン・ダール
ヘイス・ベス
ユルゲン‎・クスマウル
アンナー・ビルスマ
1994年6月28日-7月1日 オーストリア,alte reitschule schloss grafenegg

ラルキブデッリが録音した曲は、いずれも評論家が高い点数を付けています。K,515やK,516も例外ではありません。念のため、名曲名盤500を調べたところ、どちらも第1位でした。そんなに良い演奏でしょうか。ブラームスの弦楽六重奏曲もラルキブデッリが1位なのです。
第1楽章は速いテンポ。バリリQの倍ぐらいのスピードに聴こえます。1回目の試聴と装置を変えたので印象が変わりました。これはこれで良い演奏ではないかと。ピリオド楽器の響きが美しいです。でもやっぱり速すぎるかな。車の運転中に聴くのだったらよいかもしれません。
第2楽章はメヌエットのパターン。これもちょっと速いけど、この楽章では効果的です。チャーミングな演奏。第3楽章はこれぐらいのほうがもたれなくて良いと感じます。第1ヴァイオリンと第1ヴィオラの掛け合いもバランス良好で、この団体は各奏者の水準が高く、本当に巧いですね。第4楽章もやっぱり速いです。全体としてラルキブデッリは古楽古楽していないのに好感がもてます。速さが癖になりそうな演奏でした。



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モーツァルト:弦楽五重奏曲第3番ハ長調 K.515
クイケン弦楽四重奏団
シギスヴァルト.クイケン
フランソワ・フェルナンデス
寺神戸亮
マルレーン・ティアーズ
ヴィーラント・クイケン
1995年6月5-7日 オランダ,ナイメヘン,コンセルトヘボウ

同じピリオド・スタイルでもクイケンSQは、普通のテンポ。これもあまりピリオドアプローチを意識させないところが良いです。現代楽器による演奏との違いは楽器の違いだけで、もはや好みで判断するしかないのですが、このような演奏であれば、別にピリオド楽器を使用しなくてもよいのではないかと思ったりもします。モーツァルトをピリオド楽器で聴いてみたいという人にはお薦めですが、第1楽章は品が良すぎるというか、もう少しはじめたところがあってもよいような気がします。第2楽章はメヌエットがくるパターンですが、これは
文句なしです。曲の性格にピタリと合った演奏。第3楽章のしっとりとした美しさ、第4楽章はなかなか楽しい演奏です。これぐらい各楽器が自己主張してくれないと弦楽五重奏曲は面白くないです。



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モーツァルト:弦楽五重奏曲第3番ハ長調 K.515
ルノー・カプソン
アリーナ・イブラギモヴァ
ジェラール・コセ
レア・エニノ
クレメンス・ハーゲン
2014年1月29,30日(ライヴ) ザルツブルク,モーツァルテウム大ホール

新しい録音もご紹介しようと思ったので、これです。モーツァルトの弦楽五重奏曲全6曲を2枚のDVDに収めたもの(Blu-ray Discだったらなお良かったのに!)。
この演奏は、モーツアルトの誕生日1月27日に合わせてザルツブルクで開催される音楽祭「モーツアルト週間」でのライヴ収録だそうです。
何といっても演奏者が素晴らしい顔ぶれです。
第1ヴァイオリンがルノー・カピュソン、第2ヴァイオリンがアリーナ・イブラギモヴァ(もったいない!)、第1ヴィオラがジェラール・コセ、第2ヴィオラがレア・エニノ、そしてハーゲン四重奏団のチェリストであるクレメンス・ハーゲン。
しかし、第2ヴィオラのレア・エニノという女性は知りませんでした。検索してもこのDVDしかヒットしないです。売り出し中の若手なのでしょうか。ヴェロニカ・ハーゲン姐さんだったら嬉しかったのに。でも、レア・エニノ、名手達に交じって必死に弾いている姿が心を打ちます。ファンになりそう。、
しかし、こうやって弦楽五重奏曲を順に聴いていくと、他の曲も良い曲ではるのですが、K.515とK.516が抜きん出だ名曲だとわかります。
このメンバーですから演奏は素晴らしいに決まっています。ソリストとしても、室内楽演奏家としても長けた人達ですので、非の打ちどころのない演奏です。


ジャクリーヌ・デュ・プレ 5レジェンダリー・レコーディングズ・オン・LP

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このブログは毎週土曜日に新規投稿を行っているのですが、今週は曲が用意できていません。弦楽四重奏曲のシリーズはあと一回書いて終りにし、その次から7回シリーズである曲(天才作曲家のすごく有名な曲です)を取り上げる予定なのですが、どちらも準備が整っていないのです。さぁ困った。

それで、後回しにし続けていたこの記事を書くことにしました。本当はもっと早く書かなければいけなかったのですが、ついつい先延ばしにしてしまいました。小学生から高校生にかけての友人がレコードを送ってくださったのです。ありがたいことです。

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ジャクリーヌ・デュ・プレ
5レジェンダリー・レコーディングズ・オン・LP
(アナログLP初回数量生産限定盤)

ジャクリーヌ・デュ・プレという女性チェリストを知らない方はは、「こちら」をクリックしてください。

このWikipediaでは「正式なデビューは1961年にロンドンで行われた。同年にはエルガーのチェロ協奏曲を録音し、16歳にして早くもチェロ演奏家として国際的な名声を得る。この演奏を行う際に、ストラディバリが制作した60余りのチェロの中でも指折りの銘器と言われる1713年製ストラディヴァリウス “ダヴィドフ”を贈られる。」とあるのですが、「コンプリート・EMI・レコーディングす」の解説では「1964年には、後援者のイスメナ・ホーランドから、ストラディヴァリウスの銘器ダヴィドフを贈られ、以後、生涯に渡ってこの楽器と付き合うこととなるのですが、デュプレの演奏が激しいこともあって、ダヴィドフはたびたび修理に出されていたようです。」とあり、一致していません。デュ・プレがエルガーの協奏曲を録音したのは1965年ですから、EMIの解説のほうが正しいと思うのですが。

なお、このLPは「オリジナル・マスターテープよりアビー・ロード・スタジオで、2011年日本独自企画SACD盤用の24bit/96kHzリマスターされた音源(LP4を除く)を使用し、彼女の名盤を数量限定生産でアナログLP盤として復刻」したのだそうです。

収録曲は以下のとおり。5枚組のBOXです。立派な箱。

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【LP1】
エルガー:
(1) チェロ協奏曲ホ短調 Op.85,
(2) 歌曲集『海の絵』Op.37,
ジャクリーヌ・デュ・プレ)チェロ:1)
ジャネット・ベイカー(メゾ・ソプラノ:2)
ロンドン交響楽団,
ジョン・バルビローリ(指揮)
1965年8月
ロンドン,キングズウェイ・ホール(1)
アビー・ロード・スタジオ(2)

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【LP2】
(1) ハイドン:チェロ協奏曲第1番ハ長調 Hob.VIIb-1
(2) ボッケリーニ:チェロ協奏曲変ロ長調(グリュツマッヒャー改訂)
ジャクリーヌ・デュ・プレ(チェロ)
イギリス室内管弦楽団
ダニエル・バレンボイム(指揮)
1967年4月 アビー・ロード・スタジオ

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【LP3】
(1) シューマン:チェロ協奏曲イ短調 Op.129
(2) サン=サーンス:チェロ協奏曲第1番イ短調 Op.33
ジャクリーヌ・デュ・プレ(チェロ)
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
ダニエル・バレンボイム(指揮)
1968年4,5,9月 アビー・ロード・スタジオ

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【LP4】
R・シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ}Op.35
ジャクリーヌ・デュ・プレ(チェロ)
ハーバート・ダウンズ(ヴィオラ)
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
エイドリアン・ボールト(指揮)
1968年4月 アビー・ロード・スタジオ
※) 初アナログLP盤発売
注) ジャケット画像には、違う曲名が書かれていますが、今回のLPではこの写真が使われているのです。

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【LP5】
ドヴォルザーク:
(1) チェロ協奏曲ロ短調 Op.104
(2) 森の静けさ Op.68-5
ジャクリーヌ・デュ・プレ(チェロ)
シカゴ交響楽団
ダニエル・バレンボイム(指揮)
1970年11月 シカゴ,メディナ・テンプル


エルガーの協奏曲から聴くことにしました。ずっしりと思いレコード、良いLPです。新品のレコードなんて本当に久しぶり。1年ぶりのLP再生だったので、少々手間取りました。音が出ないので変だと思ったら、アンプにプレーヤーが接続されていませんでした。やれやれ。

まず、ノイズが無いのが意外でした。無音部で、カートリッジの針がレコードの溝を擦る音は聴こえるのですが、古い録音にもかかわらず、ヒスノイズがありません。SACD用のマスターを使用したそうですが、ノイズ・リダクションをかけているのでしょう。ノイズ・リダクションをかけると、微細な情報が聴きとれるようになる反面、音の鮮度が失われてしまう場合があるから、少しイヤな予感。

以前のように、LPとCDやSACDの音を聴き比べてみようなどとは思わないのですが、LPの音ってこういう音だったっけ?と思ってしまいました。意外におとなしい音、品が良い音だったのです。

うちのアナログ装置は、プレーヤーは(アナログ末期の傑作と言われているけれど)高価なものではないし、今回使用したカートリッジも普及品なので限界があるのでしょう。LPは空気感があるとか、空間再生能力に優れているとか書いてあるのを見かけますが、今回聴いたLPはCDに比べて格段の優位性を感じることはありませんでした。

いや、こんなことを書いたら、このLPを送ってくれた友人が悲しむかもしれません。きっと高かっただろうと思います。タワーレコードで調べたら、セール価格6,341円でした。思ったより高くないですね。あっ、またなんてことを……。

でも、まぁ、本当に久しぶりにエルガーの協奏曲を聴けてよかったです。心からそう思います。こんな機会がなかったら、もう5年ぐらい聴くことはなかったでしょう。アリサ・ワイラースタインのチェロでも聴いてみたい曲ですが、バックはバレンボイム指揮のシュターツカペレ・ベルリン……。指揮がバレンボイムというところに因縁を感じます。

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ソル・ガベッタのCDも聴きたいところです。

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モーツァルト レクイエム K.626 の名盤 1941年~1959年

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ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
レクイエム ニ短調(Requiem in d-Moll)K.626

この曲について書こうと思ったのは、もうだいぶ前なのですが、なかなかその気になれませんでした。

その理由について書きます。

(1)「」の問題

この曲は、モーツァルトの絶筆、最後の作品です。モーツァルトの死により未完成の状態であったので、弟子のジェスマイヤー(ジュスマイヤー、ジュースマイヤー)が補筆・完成させたのは、周知のとおりです。では、モーツァルトが作曲したのはどこまでで、どこからジェスマイヤー他が補筆したのか?

まず、モーツァルトの「レクイエム」の構成です。

Introitus(入祭唱)
 第1曲 Requiem aeternam(永遠の安息を)
 第2曲 Kyrie(キリエ)
Sequentia(続唱)
 第3曲 Dies iræ(怒りの日)
 第4曲 Tuba mirum(奇しきラッパの響き)
 第5曲 Rex tremendæ(恐るべき御稜威の王)
 第6曲 Recordare(思い出したまえ)
 第7曲 Confutatis(呪われたもの)
 第8曲 Lacrimosa(涙の日)
Offertrium(奉献唱)
 第9曲 Domine Jesu(主イエス・キリスト)
 第10曲 Hostias(賛美の生け贄と祈り)
Sanctus(サンクトゥス)
 第11曲 Sanctus(聖なるかな)
 第12曲 Benedictus(祝福されますように)
Agnus Dei(神羊誦)
 第13曲 Agnus Dei(神の子羊)
Communio(聖体拝領唱)
 第14曲 Lux aeterna(永遠の光)

ジェスマイヤーの作曲だと思って聴くと軽んじてしまうので、あまり意識しないようにしていますが、モーツァルトの手による部分は以下のとおりです。

第1曲:唯一、モーツァルトが完成させた曲
第2曲:四声の合唱とバス声部はモーツァルトが作曲、
    オーケストレーションはフラインシュテットラーとジェスマイヤー
第3曲:四声の合唱とバス声部はモーツァルトが作曲、
    オーケストレーションはジェスマイヤー
第4曲:同上
第5曲:同上
第6曲:同上
第7曲:同上
第8曲:8小節までの四声の合唱とバス声部はモーツァルトが作曲、
    9小節以降の作曲と、オーケストレーションはジェスマイヤー
第9曲:四声の合唱とバス声部はモーツァルトが作曲、
    オーケストレーションはジェスマイヤー
第10曲:同上
第11曲:ジェスマイヤーが作曲
第12曲:同上
第13曲:同上
第14曲:モーツァルトの指示により、ジェスマイヤーがIntroitusを再利用

モーツァルトが完成させたのは、第1曲だけなのです。

第2曲から第7曲、第9曲・第10曲はモーツァルトの手によるところが大きいのですが、第8曲の9小節以降、第11曲から第13曲はジェスマイヤーが作曲しています。

そのようなことから、「レクイエム」の演奏は、ジェスマイヤーが補作した版、すなわち「ジェスマイヤー版(ノヴァーク校訂)」が現在に至るまで広く使われているのですが、「モーツァルトの音楽とは、ちょっと違うのでは?」という批判もあり、ジェスマイヤーの「補作」をさらに「補作」した「版」が作られました。

まず、1971年に「バイヤー版」が出版され、「ランドン版」「モーンダー版」「ドゥルース版」「レヴィン版」その他があります。

ここまで長くなりましたが、「レクイエム」の録音について感想を書くとき、「版」の問題は避けて通れないと考えていたのです。

しかし、世の中にはこれらの「版」について詳しく説明されているサイトがあり、それなら私は演奏についてだけ、「簡単に」感想を書けばよいのではないかと考え直しました。「版」の問題は解決です。


(2)名盤が多いという問題

ONLINE CD SHOPで「モーツァルト レクイエム」を検索すると、H店で189件、T店で837件、A店で291件がヒットします。名曲ですから録音数も多く、したがって名盤も多いということになります。5枚や10枚をご紹介したところで、皆さまのご期待に沿えないのではないかという気持ちがあるのです。それが第2の理由です。

この問題については、5~10枚といわず、50枚ぐらい(数えてみたら90種類ありました!)感想を書けばよいのではないかと考えました。その代わり、1枚当たりの感想は「少なめ」にしたいと思います。


(3)「レクイエム」は怖いという問題

小学生のときに、モーツァルトの「伝記」を読みました。詳細は憶えていないのですが、最後の部分がとても怖くて、中学生になるまでモーツァルトは聴きませんでした。FM放送の楽曲解説で「モーツァルトは明るい曲(長調の曲)が多い」というのを聴き、すごく意外に思ったくらいです。自分の中にモーツァルトは「陰鬱」な曲を書く人だという先入観(偏見)が出来上がっていました。私にとってモーツァルトの伝記は、「雨月物語」に匹敵するのです。


(4)演奏様式の多様化という問題

少し前だったら、古(ピリオド)楽器による演奏、現代(モダン)楽器による演奏で片づけられたのですが、現在はそう簡単ではなくなってしまいました。演奏について感想を書くとき、いちいちそれについて記すのが面倒なのです。

古楽について <名古屋大学古楽研究会>


どうでもいいことばかり書きましたが、聴き比べもしておこうと思います。音源の数が多いので、今回は11枚だけです。

モーツァルトの「レクイエム」で最も古い録音は、ザルツブルク大聖堂の学長ヨーゼフ・メスナーが1931年8月のザルツブルク音楽祭で演奏したときの放送用ライヴ録音だそうです。

その次が、ブルーノ・ワルター指揮ウィーン国立歌劇場合唱団&ウィーン・フィルの1937年ライヴで、セッションでの録音は、1941年のブルーノ・キッテル指揮ブルーノ・キッテル合唱団&ベルリン・フィルが最古ということになります。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
ピア・タッシナーリ(ソプラノ)
エベ・スティニャーニ(メゾ・ソプラノ)
フェルッチョ・タリアヴィーニ(テノール)
イタロ・ターヨ(バス)
ローマRAI管弦楽団&合唱団
コスタンティーノ・コスタンティーニ(合唱指揮)
ブルーノ・エルミネロ(合唱指揮)
ヴィクトル・デ・サバタ(指揮)
1941年12月4,5日 ローマ,サンタ・マリア・デリ・アンジェリ聖堂

録音が古い(当然モノラル)ので、参考盤として話のネタにするつもりだったのですが、これは名演でした。古い録音から新しい録音まで一通り聴いた後なので、古臭い表現に拒否反応を示すと思ったのですが、逆にすごく惹きつけられるものがありました。聴いているうちに音の貧しさも気にならなくなります。この演奏の特徴を一言で表すなら、迫真性でしょうか。それにしても豊かな歌と声です。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
ヴェルナー・ペック(ボーイ・ソプラノ)
ハンス・ブライトショップ(ボーイ・アルト)
ヴァルター・ルートヴィヒ(テノール)
ハラルト・プレーグルヘフ(バス)
ウィーン宮廷合唱団(ウィーン・ホフムジーク・カペレ)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ヨーゼフ・クリップス(指揮)
1950年6月 ウィーン,ムジークフェラインザール

前の盤とは音質が段違いです。この頃の9年の差は大きいですね。女声の代わりに少年達が独唱と合唱を受け持っています。テノールとバスは大人なのにソプラノとアルトは少年。歌の深みがアンバランス(特に独唱)ですが、テンポの速い曲など響きは新鮮でもあります。クリップスの指揮は時代を反映してか、Lacrimosaなどかなりロマンティックです。この頃のウィーン・フィルの鄙びた音色も好ましいです。



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モーツァルト:レクイエム K.626
〔ジュスマイヤー版〕
ナタリア・シュピーレル(ソプラノ)
ワルワラ・ガガーリナ(アルト))
ピョートル・マリュテンコ(テノール)
セルゲイ・クラソフスキー(バス)
ソビエト全放送同盟大交響楽団&合唱団
ニコライ・ゴロワノフ(指揮)
1951年(ライヴ)

Wikipediaによるとゴロワノフの指揮の特徴は「情熱的で烈しいまでの音色と、力強く、ほとんど重々しい音響感覚、著しく弾力的なテンポやフレージング、デュナーミクにある」のだそうですが、そのとおりです。かなりアクが強い演奏であり、合唱もけして上手ではないのですが、そのような演奏も飲み込んでしまう器の大きさが、モーツァルトのレクイエムにはあります。重戦車のような迫力と尋常でない繊細さが同居した演奏。ロマンティックの極み。面白いです。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
エリザベート・グリュンマー(ソプラノ)
ゲルトルーデ・ピッツィンガー(アルト)、
ヘルムート・クレプス(テノール)
ハンス・ホッター(バス)、
RIAS室内合唱団、聖ヘトヴィヒ大聖堂聖歌隊
RIAS交響楽団
フェレンツ・フリッチャイ(指揮)
1951年3月5日 ベルリン

普通に良い演奏ですが、音楽への真摯な取り組みというか、真心のこもった演奏に聴こえます。しかし、聴きどころは、ハンス・ホッターがバス独唱であることでしょう。あらゆるレクイエムの録音の最上のバスとは申しませんが、貴重だと思います。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
エリーザベト・グリュンマー(ソプラノ)
マルガ・ヘフゲン(アルト)
ヘルムート・クレプス(テノール)
ゴットロープ・フリック(バス)
ベルリン聖ヘトヴィヒ大聖堂聖歌隊
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ルドルフ・ケンペ(指揮)
1955年10月10-14日 ベルリン,リンデン教会

良好なモノラル録音であり、合唱とオーケストラの響きが美しいし、迫力も十分です。独唱もこの頃のベスト・メンバーでしょう。ケンペの誠実な指揮には好感が持てますが、曲によってはもう少し思い切った運びがあれば、なお良かったです。重厚に過ぎる嫌いがあります。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
イルムガルト・ゼーフリート(ソプラノ)
ゲルトルーデ・ピッツィンガー(アルト)
リヒャルト・ホルム(テノール)
キム・ボルイ(バス)
ウィーン国歌劇場合唱団
リヒャルト・ロスマイヤー(合唱指揮)
ウィーン交響楽団
アーロイス・フォーラー(オルガン)
オイゲン・ヨッフム(指揮)
大聖堂助任司祭ベナル(司式)
1955年12月5日(ライヴ)ウィーン,シュテファン大聖堂

ウィーン・シュテファン大聖堂におけるモーツァルトの命日のミサ典礼を録音したものです。Dies iræ など、ステレオかと思ったぐらい迫力がある録音です。ヨッフムの指揮は前述のケンペより上手で、私はヨッフムという指揮者が好きですから、これも【名盤】印を付けたいところですが、今回は止めておきます。ウィーン国立歌劇場合唱団は、この後も度々登場します。モーツァルトの「レクイエム」を最も多く録音した合唱団ではないでしょうか。しっかりした歌唱を聴かせてくれます。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
イルムガルト・ゼーフリート(ソプラノ)
ジェニー・トゥーレル(アルト)
レオポルド・シモノー(テノール)
ウィリアム・ウォーフィールド(バス)
ウェストミンスター合唱団
ジョン・フィンリー・ウィリアムソン(合唱指揮)
ニューヨーク・フィルハーモニック
ブルーノ・ワルター(指揮)
1956年3月10,12日 ニューヨーク,カーネギー・ホール

モーツァルト生誕200年の年だったので、1956年の録音が続きます。当盤はワルター唯一の「レクイエム」のセッション録音ですが、もう少し後であればステレオ録音で残せたのにと、もったいない気がします。ややレンジの狭さを感じさせる録音ですが、パワーのある合唱とオケでなかなか力強い演奏に仕上がっています。モーツァルトを得意としたワルターの演奏ですから、【お薦め】マークを付けてもよかったのですが、これだけ多様な演奏が出回ってしまうと、存在感が少しだけ弱いようにも思うのです。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
ロザンナ・カルテリ(ソプラノ)
オラリア・ドミンゲス(アルト)
アントン・デルモタ(テノール)
マリオ・ペトリ(バス)
RAIトリノ交響楽団&合唱団
ロリン・マゼール(指揮)
1956年3月30日(ライヴ)ケルン

マゼールは1930年生まれですから、この録音は26歳のときのものです。この時代としてはそれほど良い録音とは言えませんし、マスターの保存状態も悪いです。厳しい表情を聴かせる合唱が迫力満点で、ついつい聴き入ってしまいました。あまり奇をてらったところのない、正統派重厚ロマンティック路線ですが、独唱ともども声の威力を感じさせる演奏でした。なお、マゼールには、バイエルン放送交響楽団&合唱団を指揮した1993年のライヴ映像もありますが、未視聴です。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
リーザ・デラ・カーザ(ソプラノ)
イラ・マラニウク(アルト)
アントン・デルモータ(テノール)
チェーザレ・シエピ(バス)
フランツ・ザウアー(オルガン)
ウィーン国立歌劇場合唱団 
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ブルーノ・ワルター(指揮)
1956年7月26日(ライヴ) ザルツブルク旧祝祭劇場

ORFの正規音原によるザルツブルク音楽祭エディションの一枚です。故宇野功芳さんは「録音が冴えない」と書いていますが、正規音源だけあって悪くはないと思いますす。基本的な解釈はニューヨーク・フィル盤とあまり変わらない印象を持ちましたが、ウィーンの演奏家によるこの盤のほうが優美です。例えばDies iræの迫力はニューヨーク・フィル盤のほうに軍配が上がり、全体の仕上がりを考慮すればニューヨーク・フィル盤を採るべきでしょうか。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
テレサ・シュティッヒ=ランダル(ソプラノ)
イラ・マラニウク(アルト)
ヴァルデマール・クメント(テノール)
クルト・ベーメ(バス)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン交響楽団
カール・ベーム(指揮)
1956年11月2-8日 ウィーン

【お薦め】
今回唯一の私的【推薦盤】です。1894年生まれのベームはこの録音時、既に62歳になっていますが、逞しい演奏で、筋骨隆々といった感じで、その造形美が素晴らしいのです。全体に遅めのテンポなのは、この時代の他の演奏と同じで、重厚路線ですが、ベームの場合は、劇性は十分ですが過度にロマンティックに傾かないのでもたれません。
ベームにはウィーン・フィルを指揮したステレオ録音や、この盤と同じウィーン響を指揮した映像(どちらも1971年の収録)があり、名演の誉れ高いものですが、この演奏はそれらに劣ることのない、素晴らしい演奏です。ただ、低弦やオルガンのペダル音でしょうか、異様に低音が膨れ上がって聴こえ、それが少々耳障りです。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
セーナ・ユリナッチ(ソプラノ)
ルクレティア・ウェスト(アルト)
ハンス・レフラー(テノール)
フレデリック・ガスリー(バス)
ウィーン・アカデミー室内合唱団
ウィーン国立歌劇場管弦楽団
ヘルマン・シェルヘン(指揮)
1957年5・6月

モノラル録音ばかり聴き続けるのは少々つらいものがありましたが、やっとステレオ録音にたどり着きました。ステレオ録音って素晴らしい! 演奏は彫が深いと感じるときと、曲が長いと感じてしまうときがあります。どちらかと言うと、この演奏に関しては後者のほうが多いのです。シェルヘンはいろいろなことをやっていますが、それが常套手段のように聴こえてしまうのです。なお、シェルヘンには1953年のモノラル録音もありますが、そちらは未聴です。


今回はここまでです。次回は1960年~1069年までの録音(の予定)です。


モーツァルト レクイエム K.626 の名盤 1960年~1967年

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いきなりCDの聴き比べに入るのもどうかと思い、「レクイエム」の歌詞を記してみました。合唱曲の曲だけ読み仮名を付けていますが、あくまで参考です。

Introitus【入祭唱】
イントロイトゥス

第1曲(合唱・ソロ)
Requiem aeterna【永遠の安息を】
レクイエム      エテルナム

 Requiem æternam dona eis, Domine, 
 レクイエム      エテルナム       ドナ   エィス  ドミネ

 et lux perpetua luceat eis. 
 エト ルクス ペルペトゥア ルチェアト  エイス

 Te decet hymnus, Deus, in Sion, 
 テ  デチェト  イムヌ   ス   デウス  イン スィオン

 et tibi reddetur votum  in Jerusalem. 
 エト ティビ レデトゥル  ヴォトウム イン イェルサレム

 Exaudi   orationem meam, 
 エクスアウディ オラツィオネム   メアム

 ad  te omnis caro veniet. 
 アド テ オムニス   カロ    ヴェニエト

 Requiem æternam dona eis, Domine, 
 レクイエム      エテルナム       ドナ    エィス ドミネ 

 et lux perpetua luceat eis.
 エト ルクス ペルペトゥア ルチェアト  エイス



第2曲(合唱)
Kyrie【キリエ】
キリエ

 Kyrie eleison. 
 キリエ   エレイソン

 Christe eleison. 
 クリステ    エレイソン

 Kyrie eleison.
 キリエ   エレイソン


Sequentia【続唱】
セクエンツィア

第3曲(合唱)
Dies  iræ【怒りの日】
ディエス イレ

 Dies  iræ, dies  illa 
 ディエス イレ   ディエス イラ

 solvet sæclum in favilla: 
 ソルヴェト セクルム      イン ファヴィルラ

 teste David  cum Sibylla
 テステ   ダヴィド クム  スィヴィルラ

 Quantus tremor est futurus, 
 クワントゥス    トレモル     エスト フトゥルス

 quando judex  est  venturus, 
 クワンド    ユ-デクス  エスト  ヴェントゥルス

 cuncta stricte discussurus.
 クンクタ     ストリクテ  ディスクススルス

 

第4曲(ソロ)
Tuba mirum【奇しきラッパの響き】

 Tuba mirum spargens sonum 
  
 per sepulchra regionum, 
  
 coget omnes ante thronum.

 Mors stupebit et natura, 

 cum resurget creatura, 

 judicanti responsura
  
 Liber scriptus proferetur, 

 in quo totum continetur, 

 unde mundus judicetur.

 Judex ergo cum sedebit, 

 quidquid latet, apparebit: 
  
 Nil inultum remanebit.
 
 Quid sum miser tunc dicturus? 

 Quem patronum rogaturus? 

 Cum vix justus sit securus.



第4曲(合唱)
Rex tremendæ【恐るべき御稜威の王】
レクス  トレメンデ

 Rex  tremendæ majestatis, 
 レークス トレメーンデ      マジェスタティス

 qui salvandos  salvas  gratis, 
 クウィ サラ-ヴァンドス  サラヴァス グラティス

 salva  me, fons pietatis.
 サラヴァ  メ     フォンス ピエタティス



第6曲(ソロ)
Recordare【思い出したまえ】

 Recordare Jesu pie, 

 quod sum causa tuæ viæ: 

 ne me perdas illa die.

 Quærens me, sedisti lassus 

 Redemisti crucem passus 

 Tantus labor non sit cassus.

 Juste judex ultionis, 

 donum fac remissionis, 
 
  ante diem rationis.
 
 Ingemisco, tamquam reus: 

 culpa rubet vultus meus: 

 supplicanti parce Deus.

 Qui Mariam absolvisti, 

 et latronem exaudisti, 

 mihi quoque spem dedisti,

 Preces meæ non sunt dignæ: 

 Sed tu bonus fac benigne, 

 Ne perenni cremer igne.

 Inter oves locum præsta, 

 et ab hædis me sequestra, 

 statuens in parte dextra.

 

第7曲
Confutatis【呪われた者達が】
コンフタティス

 Confutatis maledictis, 
 コンフタティス     マレディクティス

 flammis acribus addictis, 
 フラムミス     アクリブス  アデディクティス

 voca me cum benedictis.
 ヴォカ  メ-   クム    ベネディクティス

 Oro supplex  et acclinis, 
 オロ   スププレクス  エト アククリニス

 cor contritum quasi  cinis: 
 コル  コントリトゥム     クヮンジ チィニス

 gere curam mei finis.
 ヂェレ  クーラム  メイ   フィニス 



第8曲
Lacrimosa【涙の日】
ラクリモサ

 Lacrimosa dies    illa, 
 ラクリモサ         ディエス イルラ

 qua resurget ex   favilla 
   クワ   レスゥルヂェト  エクス ファヴィルラ

 judicandus    homo reus:
 ジュディカンドゥス  オモ      レウス

 Huic ergo parce Deus. 
 ウイク   エルゴ パルチェ  デウス

 pie  Jesu Domine, 
 ピエ  イェズ ドミネ

 Dona eis  requiem. Amen.
   ドナ    エイス  レクィエム      ア-メン

 

Offertorium【奉献唱】
オッフェルトリウム

第9曲
Domine Jesu【主イエス・キリスト】
ドミネ      イェズ

 Domine Jesu  Christe, Rex gloriæ, 
 ドミネ      イェズ   クリステ      レクス  グロリエ

 libera animas omnium fidelium defunctorum 
 リベラ   アニマス     オムニウム      フィデリウム  デフンクトールム

 de pœnis inferni, et de profundo lacu; 
 デ  ペニス   インフェルニ  エト  デ プルフンド    ラク

 libera eas de ore leonis, 
 リベラ   エアス  デ オレ   レオニス

 ne absorbeat eas Tartarus, 
 ネ   アブソルベアト  エアス  タルタルス

 ne cadantin obscurum. 
 ネ   カダントイン   オブスクルム

 Sed signifer Sanctus Michæl 
 セド  スィニフェル   サンクトゥス   ミカエル

 repræsentet eas in lucem sanctam, 
 レプレセンデト     エアス  イン ルチェム   サンクタム

 quam olim Abrahæ promisisti  et semini ejus.
 クヮム   オリム   アブラエ     プロミ-ズィティ エト スィミニ    エーユス
 


第10曲(合唱)
Hostias【賛美の生け贄と祈り】

 Hostias et  preces Tibi, 
 オスティアス   エト プレチェス  ティビ

 Domine, laudis  offerimus. 
 ドミネ       ラウディス  オフフェリムス

 Tu suscipe pro animabus illis, 
 トゥ スシィペ     プロ アニマブス     イリス

 quarum hodie memoriam facimus. 
 クヮァルム   オディエ  メモリアム         ファチムス

 Fac eas, Domine, de morte transire ad  vitam,  
 ファク イアス   ドミネ       デ モルテ      トランシーレ   アド ヴィタム

 quam olim Abrahæ promisisti et semini ejus.
 クヮム   オリム   アブラエ     プロミジスティ エト  セーミニ   エジュス



Sanctus【聖なるかな】
サンクトゥス

第11曲
Sanctus【聖なるかな】
サンクトゥス

 Sanctus, Sanctus, Sanctus 
 サンクトゥス    サンクトゥス    サンクトゥス

 Dominus, Deus   Sabaoth 
 ドミヌス       デウス     サバオト

 Pleni sunt cæli et terra gloria tua 
 プレニ  スント   チェリ  エト テ-ラ   グロリア  トゥア

 Hosanna, in excelsis.
 オザンナ       イン ネクシェルスィス
 


第12曲(ソロ+合唱)
Benedictus(祝福されますように)
ベネディクトゥス

 Benedictus qui venit in nomine Domini. 
 ベネディクトゥス  クゥイ ヴェニト イン ノミネ      ドミニ

 Hosanna, in excelsis.
 オザンナ       イン ネクシェルスィス 



第13曲(合唱)
Agnus Dei(神の子羊)
アニュス  デイ

 Agnus Dei, qui tollis peccata mundi: 
 アニュス    デイ  クゥイ トリス ペッカ-タ  ムゥンディ

 dona  eis   requiem. 
 ドナ    エイス  レクイエム

 Agnus Dei, qui tollis peccata mundi: 
 アニュス    デイ  クゥイ  トリス ペッカタ  ムゥンディ

 dona  eis   requiem. 
 ドナ    エイス レクイエム

 Agnus Dei, qui tollis peccata mundi: 
 アニュス    デイ   クゥイ トリス   ペッカタ  ムゥンディ

 dona eis requiem sempiternam.
 ドナ   エイス  レクイエム     セムピテルナム



Communio(聖体拝領唱)
コムニオ


第14曲(ソロ+合唱)
Lux æterna【永遠の光】
ルクス  エテルナ 

 Lux æterna luceat eis, Domine: 
 ルクス  エテルナ     ルチェアト  エイス  ドミネ

 Cum Sanctis tuis  in æternum, 
 クム    サンクティス   トゥイス イン エテルヌム

 quia pius es. 
   クワイア ピウス エス

 Requiem æternam dona eis Domine: 
 レクイエム      エテルナム       ドナ   エィス  ドミネ 

 et lux perpetua luceat eis. 
 エト ルクス ペルペトゥア  ルチェアト  エイス 

 Lux æterna luceat eis, Domine: 
 ルクス  エテルナ     ルチェアト  エイス  ドミネ

 Cum Sanctis tuis in  æternum, 
 クム     サンクティス  トゥイス イン エテルヌム
 
 quia pius es.
   クワイア ピウス エス




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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
レオンティーン・プライス(ソプラノ)
ヒルデ・レッセル=マイダン(アルト)
フリッツ・ヴンダーリヒ(テノール)
ヴァルター・ベリー(バス)
ウィーン楽友協会合唱団
ラインホルト・シュミット(合唱指揮)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)
1960年8月24日(ライヴ)ザルツブルク,祝祭大劇場

今回のトップ・バッターはカラヤンで、この年に完成した祝祭大劇場でのライブです。でも、録音が良くないです。聴くに堪えないというほどではなく、この頃のカラヤンの特長は伝わってきます。この演奏は、劇性に加えてライヴゆえの白熱感がありますし、ウィーン・フィルの優美さ、楽友協会合唱団の力強い歌声も聴くことができます。独唱がマイクに近いのでL.プライス、マイダン、ヴンダーリヒ、ベリーらの歌唱も堪能できます。
オケでは、録音のせいか、ティンパニの主張が強く、Dies iræ など、なかなか興奮させられます。
そんなわけで、音質が悪いのも忘れて聴き入ってしまったのですが、やっぱりカラヤンのファン向けのCDです。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
マリア・シュターダー(ソプラノ)
ヘルタ・テッパー(アルト)
ヨーン・ファン・ケステレン(テノール)
カール・クリスティアン・コーン(バス)
ミュンハン・バッハ合唱団
ミュンハン・バッハ管弦楽団
カール・リヒター(指揮)
1960年11月

【条件付きお薦め】
画像のCDは、ドイツの名門レーベルであるテレフンケンのアナログ盤(LP)からCD化(板起こし)したものだそうですが、音が良くないのです。強い音がが歪みます。演奏から受ける印象よりも、音の悪さが気になってしまいます。
リヒターの音楽づくりは、彼が指揮するバッハと同様で、峻厳なものを感じます。こちらも居住まいを正して聴かねば!という気持ちになります。
興味深いのは、合唱団の発声です。カラヤン指揮のウィーン楽友協会合唱団もアマチュアという位置づけですが、ミュンヘン・バッハ合唱団はそれ以上にアマチュアの発声です。わざとこのような声で歌っているとしか思えません。あと、ラテン語の発音が気になります。こういうのをドイツ語訛りのラテン語というのでしょうか。
いろいろ書きましたが、名演だと思っています。下の画像のCDであれば【お薦め】です。
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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
ヴィルマ・リップ(ソプラノ)
ヒルデ・レッセル=マイダン(アルト)
アントン・デルモータ(テノール)
ヴァルター・ベリー(バス)
ヴォルフガング・マイヤー(オルガン)
ウィーン楽友教会合唱団
ラインホルト・シュミット(合唱指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)
1961年10月5-12日 ベルリン,イエス・キリスト教会

【お薦め】
初めてこの演奏を聴いたとき、冒頭でゾクっとするものを感じました。語り口の巧さに魅せられました。オーケストラの響きが美しいです。大抵の「レクイエム」は合唱が強いのですが、例えばKyrieで、これだけ弦の動きがよくわかる演奏も珍しいです。オケが中心なのでしょう。
カラヤンは、音楽監督をしていたウィーン楽友協会合唱団を起用することが多く、ずっと以前は「優秀な声楽陣」と評価されていたのですが、ある頃から「あまり上手じゃない合唱団」と言われ始め、それ以降は散々な扱いですが、その歴史を紐解けば、すごい合唱団なのです。録音が合唱の拙いところをうまくカバーしている感じです。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
マリア・シュターダー(ソプラノ)
マルガ・ヘフゲン(コントラルト)
ニコライ・ゲッダ(テノール)
オットー・ヴィーナー(バス)
ウィーン・ジングアカデミー
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
カール・シューリヒト(指揮)
1962年6月19日(ライヴ)ウィーン・シュテファン大聖堂

シューリヒトの指揮で、しかもオケはウィーン・フィルで、この頃のライヴとしては非常に良質な録音(合唱がやや遠く、もやっとしているのが残念)で聴けるとは、なんとありがたいことなのでしょう。その指揮はよく言えば、自然で、自由なテンポの伸縮など、感興の豊かさがうかがえます。圭角の取れた滑らかな運びの音楽。ウィーン・フィルの音色もチャーミングです。しかし、好演ではあるけれど、名演とまではいかないと思います。
独唱は、ヴィーナーは少々時代がかかった感じ、ゲッダは素晴らしい美声でオペラのような歌唱、ヘフゲンの劇的な貫禄ある歌唱、シュターダーもやや古臭さを感じさせますが気持ちの良い声です。この四人による四重奏はなかなか迫力があります。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
ユッタ・ヴルピウス(ソプラノ)
ゲルトラウド・プレンツロウ(アルト)
ロルフ・アプレック(テノール)
テオ・アダム(バス)
ベルリン放送ソロイスツ
ベルリン放送交響楽団
ヘルムート・コッホ(指揮)
1962年11月 SRK,Saal1

普通のテンポの曲もありますが、全体としては非常にゆったりしています。これ以上遅いとダレてしまうという寸前まで遅くしたり、限界を超えるときもあります。始めはちょっと遅いかなと思うぐらいだったのが、リタルダンドしていって、曲の終りには相当遅くなっていたりとか。叙情的と言えなくもない演奏で、初めて聴いたときには感動したのですが、いろんな演奏を知ってしまった今では、繰り返し聴くのはつらいです。このテンポが許容できるかが好き嫌いの分かれ目になるでしょう。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
司式:リチャード・カッシング枢機卿(ボストン大司教)
助祭:マシュー・P・ステイプルトン神父(聖ヨハネ神学校長)
副助祭:フランシス・S・ロッシター神父(聖ヨハネ神学校祭式長)
聖ヨハネ神学校生たち
サラメ・エンディッチ(ソプラノ)
ユーニス・アルバーツ(コントラルト)
ニコラス・ディヴァージリオ(テノール)
マック・モーガン(バリトン)
ベルイ・ザムコヒアン(オルガン)
プロ・ムジカ合唱団
アルフレッド・ナッシュ・パターソン(合唱指揮)
ハーヴァード・グリー・クラブおよびラドクリフ合唱協会
エリオット・フォーブス(合唱指揮)
ニュー・イングランド音楽院合唱団
ローナ・クック・デ・ヴァロン(合唱指揮)
聖ヨハネ神学校聖歌隊
ラッセル・H・デイヴィス神父(合唱指揮)
ボストン交響楽団
エーリヒ・ラインスドルフ(指揮)
1964年1月19日 マサチューセッツ州ボストン,聖十字架大聖堂

【お薦め】
1963年11月22日に凶弾に倒れたジョン・F・ケネディ大統領の追悼ミサのライヴであり、コンサートのライヴではありませんが、演奏は素晴らしいですし、録音も優秀なステレオ録音です。相当大人数の合唱団のようですが、寄り合い所帯になるところをラインスドルフの指揮がきっちり引き締めています。大合唱に隠れてあまり目立たないけれど、ボストン響も美しい響です。ただ、これを全部聴くのは結構時間がかかりますので、モーツァルトの「レクイエム」以外の部分は飛ばして聴いています。曲の最中に鈴(ベル)が鳴って驚いたりしますが、そういうことが気にならない人であれば、これは持っていたいCDです。なお、収録内容は以下のとおりで、「レクイエム」とはこのように進行されるのかと興味深いものがありました。

1.鐘
  オルガン前奏(F.クープラン:オルガンのための荘厳ミサ曲~マエストーゾ)

第1部 みことばの聖式
2.階段祈祷(一部)
  モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
  入祭唱:Requiem aeternam
3.Kyrie
4.集祷文
  書簡
  昇階唱と詠唱
  続唱
5.Dies iræ
6.Tuba mirum
7.Rex tremendæ
8.Recordare
9.Confutatis
10.Lacrimosa
11.聖福音

第2部 いけにえの聖式
いけにえの聖式(冒頭部分のみ)
奉献
12.Domine Jesu
13.Hostias
密唱
14.序唱(プレファツィオ)と典文
15.Sanctus
16.聖変化(コンセクラツィオ・ミッセー)
17.Benedictus

第3部 いけにえの食事
18.主祷文
19.Agnus Dei
20.聖体拝領
21.Lux aeterna
22.聖体拝領後の文

第4部 終了の部
オルガン後奏(L.クープラン:シャコンヌ)



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
エリー・アーメリング(ソプラノ)
マリリン・ホーン(メッゾ・ソプラノ)
ウーゴ・ベネルリ(テノール)
トゥゴミール・フランク(バス)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
イシュトヴァン・ケルテス(指揮)
1965年10月8-11日 ウィーン,ゾフェインザール

1960年代の演奏を聴いていると、モーツァルトの「レクイエム」の演奏に、形が出来上がっているように感じます。それで【お薦め】が多くなっているのですが、その典型的な演奏がケルテス盤のように思います。強い個性はないものの、安心して聴くことができる演奏です。この曲のスタンダードといえる名演と言えるかもしれません。特筆すべきところがないけれど、瑕疵も見当たらない、文句のない演奏。
録音は合唱とオーケストラのバランスを考慮したものですが、左右めいっぱい広げたステレオ効果を強調し過ぎているように聴こえます。
【お薦め】にしてもよかったのですが、次のフリューベック盤とどちらかを選ばなければならないとしたら、フリューベック盤でしょう。
アーメリングの声がとってもきれい。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
エディト・マティス(ソプラノ)
グレース・バンブリー(メゾ・ソプラノ)
ジョージ・シャーリー(テノール)
マリウス・リンツラー(バス)
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団&合唱団
ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス(指揮)
1967年

【お薦め】
ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴスは、姓がフリューベックで、名がラファエル、ブルゴスは出身地なのだそうです。知らなければ「デ・ブルゴスの指揮は……」と書いてしまうところでした。ごめんなさい、ブルゴス。
それで、この演奏は、録音も良いし、演奏も美しく、ケルテス盤より彫が深いので、感心して聴き入りました。これを聴いている間、不満はほとんど感じませんでした。
多くの人が期待するのはこのような演奏だと思います。演奏の優秀さや、聴きやすさからして、最初の一枚として十分お薦めに値する演奏です。
この盤も女声独唱陣が優秀です。


モーツァルト レクイエム K.626 の名盤 1971年~1979年

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この特集も3週目に入りましたが、とんでもない企画であったと反省しております。来週になれば、ピリオド勢が台頭し、「ジュスマイヤー版」以外の「版」も増えてきますから、ここを乗り切れば、というところですね。
それでは早速。


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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
エディット・マティス(ソプラノ)
ユリア・ハマリ(アルト)
ヴィエスワフ・オフマン(テノール)
カール・リッダーブッシュ(バス)
ウィーン国立歌劇場合唱団
カール・ベーム(指揮)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1971年4月13・14日 ウィーン,ウィーン楽友協会大ホール

いきなり定盤です。HMV & BOOKS ONLINE でも42件もレビューが付いており、人気の高さがうかがえます。語りつくされた演奏について、自分の言葉で感想を書くのは、なかなか大変です。そのような理由から、この後に登場する同じ年の12月の映像作品について長めの感想を書きました。ベームの指揮では、そちらの方がより優れた演奏だと思うのですが、いかがでしょうか?



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
シーラ・アームストロング(ソプラノ)
ジャネット・ベイカー(メゾ・ソプラノ)
ニコライ・ゲッダ(テノール)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン)
ジョン・オールディス合唱団
イギリス室内管弦楽団
ダニエル・バレンボイム(指揮)
1971年7月9・12日 ロンドン,オール・セインツ・チャーチ

バレンボイムには2種類の録音があるようで、もう一つの録音はパリ管弦楽団&合唱団を指揮した1984年録音ですが、そちらは未聴(というか、存在さえ知りませんでした)です。この演奏は、高カロリーです。オケと合唱団の名前からして、室内楽の延長的な演奏のような予感がしますが、録音と指揮のせいで、コッテリしています。そう、録音、音作りが興味深いです。やたらと弦の高い音が響いたり、他ではあまり聴こえない管楽器が目だったり、オルガンの重低音を響かせたりと、なかなか面白いです。バレンボイムの指揮もドラマティックで、初めて聴く人は、これぐらい演奏効果が高いもののほうがよろしいのではないでしょうか。独唱人も強力です。四重唱など聴き応え十分です。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
グンドゥラ・ヤノヴィッツ(ソプラノ)
クリスタ・ルートヴィヒ(メッゾ・ソプラノ)
ペーター・シュライヤー(テノール)
ヴァルター・ベリー(バス)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ノルベルト・バラチュ(合唱指揮)
ウィーン交響楽団
カール・ベーム(指揮)
1971年12月 ウィーン,ピアリステン教会
フーゴー・ケッヒ(映像監督)

【お薦め】
うちのSONY BRAVIAでは、年代を感じさせる映像ですが、パソコンのiiyama製23インチ・ディスプレイでは、あまり画質の古さを感じさせません。今回はそちらで視聴しました。

第1曲 Requiem aeternam
ゆったりとしたテンポですが、あまり遅さは感じさせず、荘厳な響きです。教会なので残響が多く、合唱が美しく聴こえます。この曲のソプラノ・ソロは、難しいようで、満足させてくれる歌唱に巡り合えませんが、グンドゥラ・ヤノヴィッツの清祥な声は格別です。オケはウィーン交響楽団ですが、ウィーン・フィルに劣りません。

第2曲 Kyrie
バスの決然たる歌から始まり、ウィーン国立歌劇場合唱団が豊麗な歌声で二重フーガを聴かせてくれます。CDと異なり、オーケストラより合唱主体の録音であるのが嬉しいです。ティンパニの打ち込みが効果的です。

第3曲 Dies iræ
速すぎない良いテンポです。ベームの指揮だと品格を失いませんが、迫力は十分で、ピアリステン教会が壮大な音響で満たされます。

第4曲 Tuba mirum
ベリーの張りのある朗々としたバスから始まります。テノールのシュライヤーは「レクイエム」の数ある録音の中でもベストと言える歌唱ではないでしょうか。ルートヴィヒは年季の入った歌、そしてヤノヴィッツの透明感のある可憐なソプラノ。

第5曲 Rex tremendæ
これは遅め。大河の悠然とした流れを思わせます。ウィーン響の弦も美しいです。この曲でもティンパニの慟哭の強打が効果的で、ラストは美しく閉じます。

第6曲 Recordare
ルートヴィヒの深々とした声と、やはりヤノヴィッツが素晴らしいです。重唱の素晴らしさに感想を書くのも忘れて聴き惚れてしまいました。シュライアーとの二重唱も美しいです。

第7曲 Confutatis
この曲も遅め。合唱団の声量があり過ぎて教会が飽和状態になっています。神秘的な雰囲気で曲を終えます。

第8曲 Lacrimosa
これも素晴らしいです。感傷的にならず厳粛で荘厳なラクリモーサです。「願わくは 神よあわれみたまえ」の包み込まれるような合唱の響き。アーメンの悲劇的な表現が感動的です。

第9曲 Domine Jesu
これは珍しく速め、というか普通のテンポです。私はこの曲が好きなんです。「獅子の口から解き放ちたまえ」というところとか良いですね。ヤノヴィッツから始まる四重唱もベストと言える歌唱でしょう。ウィーン・フィルに比べると幾分地味なウィーン響の響きが曲によくマッチしています。

第10曲 Hostias
優しく温かく、こんなに美しい曲であったかと思わせる演奏です。音だけのときは長ったらしく思えてしまうのに、映像があると説得力が違います。後半の「主がその昔」に移るときの間が絶妙過ぎます。さすがベームです。

第11曲 Sanctus
このような演奏を聴いていると、ジュスマイヤーの曲が完全にモーツァルトの曲と一体となって「レクイエム」を形成していると感じます。ここでもティンパニの意味深い強打が聴こえます。

第12曲 Benedictus
この曲はジュスマイヤーとしても会心の作曲であったと思います。ルートヴィヒからヤノヴィッツへのソロの受け渡しが素晴らしいです。ベリーは声をずり上げるところが気になりますが、それも「味」の一部というものでしょう。再び壮麗なオザンナ。元気な合唱団です。

第13曲 Agnus Dei
この曲も映像があるとゆったりとしたテンポが気になりません。繰り返しになりますが、合唱主体の録音が功を奏していると思います。

第14曲 Lux aeterna
この曲でヤノヴィッツがここ一番の最高の歌唱を聴かせてくれます。「とこしえに 主の聖人とともに」からラストまでずっとベームの指揮を観ることができるのがありがたいです。いつ果てるとも知れない悠久の時を感じます。運命を打ち込むかのようなティンパニ。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
アーリーン・オジェー(ソプラノ)
グーリ・プレスナー(コントラルト)
アダルベルト・クラウス(テノール)
ロジェ・ソワイエ(バス)
フランス国立放送合唱団
ジャン・ポール・クレダー(合唱指揮)
フランス国立放送管弦楽団
セルジウ・チェリビダッケ(指揮)
1974年2月22日(ライヴ)パリ,シャンゼリゼ劇場

チェリビダッケの録音も少なくとも2種類あります。もう一つの方は、トリノRAI管弦楽団&合唱団を指揮した1968年録音です。一般的にはこちらの演奏のほうが有名のようです。正直に申し上げると、食傷気味なので、他と変わったことをやっている演奏だと、嬉しくなってしまいます。ネタバレになってしまうので詳しくは書きませんけれど、チェリビダッケならではのストーリー性のある音楽運びです。ただ、録音のせいもあるのでしょうが、合唱団はもう少し、言葉を大切にしたほうがよいと思います。ちょっといい加減な感じの合唱団。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
エリー・アメリング(ソプラノ)
バーバラ・シェルラー(アルト)
ルイ・ドゥヴォス(テノール)
ロジェ・ソワイエ(バス)
リスボン・グルベンキアン財団管弦楽団&合唱団 
ミシェル・コルボ(指揮)
1975年4月 リスボン,Eglise de Graca

【お薦め】
最初は演奏も録音も今一つに感じられたのですが、再生装置を変えたら俄然良くなりました。合唱もオケも素晴らしいです。コルボ自身が1961年に創設したローザンヌ声楽アンサンブル(1990年と1995の録音に起用)ではなく、当盤はグルベンキアン管&&合唱団(カルースト・グルベキアンの遺産により運営)の演奏ですが、これがモーツァルトの演奏にぴたりとはまり、心地よい音楽を聴かせてくれます。この演奏の特徴を最もよく表しているのが、第8曲「Lacrimosa」で、ラストの「Amen」がとても印象的です。けして居丈高になることのない音楽は、ジュスマイヤー版の代表的な録音のひとつじゃないかと思える程です。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
アンナ・トモワ=シントウ(ソプラノ)
アグネス・バルツァ(メゾ・ソプラノ)
ヴェルナー・クレン(テノール)
ヨセ・ヴァン・ダム(バス)
ルドルフ・ショルツ(オルガン)
ウィーン楽友協会合唱団
ヘルムート・フロシャウアー(合唱指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)
1975年9月27・28日 ベルリン、フィルハーモニー

カラヤンとベルリン・フィルの全盛期とも言うべき、1970年代前半の録音です。交互に聴き比べたわけではありませんが、カラヤンの基本的解釈は同じと思います。オーケストラに一層の磨きをかけ、カラヤン好みの独唱陣を揃え、お馴染みの合唱団を起用しての万全の録音です。でも、旧盤のほうが魅力的でした。どこがどのようにと、具体的には書けないのですが、1961年盤にはもっと表現意欲があり、求心力が高かったのです。なお、私が初めて買ったモーツァルトの「レクイエム」は、この演奏です。お気に入りの曲は、なぜか「Tuba mirum」で、こればかり繰り返し聴いていました。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
ウィーン少年合唱団の独唱(ソプラノ・アルト)
クルト・エクイルツ(テノール)
ゲルハルト・エーデル(バス)
ウィーン宮廷管弦楽団・合唱団
ハンス・ギレスベルガー(指揮)
1976年

実態は、ウィーン少年合唱団、ウィーン国立歌劇場男声合唱団員、ウィーン国立歌劇場管弦楽団員による演奏なのだそうです。女声の代わりに少年合唱団を起用しているのですが、細かい音符が歌えていなかったり、押し出しの弱さや、深みの乏しさがありますが、独唱ともども清らかな印象があり、(ソプラノが常にフラット気味であるものの)天使の歌声とはよく言ったものです。ただ、四重唱で、バス、テノールが大人の声で、アルト、ソプラノが少年の声なので、その落差はいかんともしがたいです。合唱ではそれほど気にならず、むしろメリットを感じることのほうが多いですけれど。ギレスペルガー指揮するオケ(ウィーン・フィル?)も、冒頭で一瞬、ピリオド・スタイル?と思わせましたが、小編成ゆえの合奏の美しさを堪能できます。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
Magdalena Hajossyova
Libuse Marova
Zdenek Svehla
Karel Berman
Prague Philharmonic Choir
Josef Veselka
プラハ交響楽団
ヴァーツラフ・スメターチェク(指揮)
1976年5月(ライヴ)プラハ,聖ヴィート大聖堂

「プラハの春国際音楽祭」の一環としてプラハ城内の聖ヴィート大聖堂で行われたコンサートのライヴ録音で、スメターチェクが30年間常任指揮者を務めたプラハ交響楽団とのモーツァルト「レクイエム」です。
合唱や独唱はかなりはっきり採れて量感もたっぷりなのですが、オケが遠く小さく感じます。サウンド的に物足りないかもしれません。合唱の表現がやや単調だったり、独唱が伴奏と音程が合っていなかったり、ずれたりするなど欠点は多いのですが、最後まで聴かせてしまうのは、モーツァルトの音楽の魅力か、スメターチェクの手腕によるところが大きいのか、あるいはその両方でしょうか。独唱はソプラノとアルトは良いのですが、男声は……。



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モーツァルト:レクイエム 二短調 K.626
[バイヤー版]
イレアーナ・コトルバス(ソプラノ)
ヘレン・ワッツ(アルト)
ロバート・ティアー(テノール)
ジョン・シャーリー=カーク(バス)
アカデミー&コーラス・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
ラースロー・ヘルタイ(合唱指揮)
サー・ネヴィル・マリナー(指揮)
1977年 ロンドン 

【お薦め】
この特集も第3回にしてようやく「ジュスマイヤー版」以外の版が登場しました。バイヤー版が出版されたのは1971年ですので、第2回まで「ジュスマイヤー版」以外の版による録音は存在し得なかったのです。
マリナー/アカデミー室内管は、ピリオド・アプローチではありませんが、新しいものを積極的に取り入れていこうという姿勢があります。「バイヤー版」の採用も当然というところでしょう。(これに先立つコレギウム・アウレム合奏団の1974年録音もバイヤー版ですが、今回は聴くことができませんでした。)
「ジュスマイヤー版」のマイナーチェンジ版ともいえる「バイヤー版」ですが、ジュスマイヤー版を聴き込んだ後で聴くと、いろいろなところが異なっているのが判り、興味が尽きません。「版」の問題はさておき、このマリナー盤は大変充実した演奏です。オケの編成が少なめということもあり、すっきりくっきりしているのが特長で、解釈はオーソドックスながら美しく鮮やかな印象を残します。
なお、マリナー新盤は、なぜかジュスマイヤー版に回帰しています。



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モーツァルト:レクイエム 二短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
マグダ・カルマール(ソプラノ)
クララ・タカーチ’コントラルト)
ジョルジ・コロディ(テノール)
ヨージェフ・グレゴル(バス)
ハンガリー国立放送合唱団
ハンガリー国立管弦楽団
ヤーノシュ・フェレンチーク(フェレンチク)(指揮)
1978年

【お薦め】
私が初めて買ったフェレンチークの録音は、シェーンベルクの「グレの歌」でしたので、この人は声楽を伴う管弦楽作品が得意という印象をもっていました。
とはいえ、モーツァルトの「レクイエム」はあまり期待していなかったのです。
フェレンチークが1953年から亡くなるまで音楽監督を務めたハンガリー国立管弦楽団&合唱団の演奏ですが、優秀な録音のせいもあって、これが実に素晴らしい演奏なのです。オーケストラも合唱も独唱も良いです。ハンガリー国立管弦楽団が総力をあげて録音に臨んだという感じです。フェレンチークの指揮は、外連味の無い、極めてオーソドックスな解釈で。丁寧で心がこもったものです。それが心地良いのです。これは意外な掘り出し物でした。



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モーツァルト:レクイエム 二短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
ヘレン・ドナート(ソプラノ)
クリスタ・ルートヴィヒ(メゾ・ソプラノ)
ロバート・ティアー(テノール)
ロバート・ロイド(バス)
フィルハーモニア管弦楽団&合唱団
カルロ・マリア・ジュリーニ(指揮)
1978年9月16-17日 ロンドン,キングズウェイ・ホール

立派な演奏だと思います。特にどこが悪いとかないのですが、なぜか心に落ちて来なかったのです。三度聴いてみましたが、ダメでした。おそらく、この曲に私が求めている「響き」と違うのだと思います。重苦しい感じがして、曲が長く感じられてしまいました。この演奏が好きな人もいらっしゃると思いますが、申し訳ないです。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
アーリーン・オジェー(ソプラノ)
キャロライン・ワトキンソン(アルト)
ジークフリート・イェルサレム(テノール)
ジークムント・ニムスゲルン(バス)
ゲヒンガー・カントライ・シュトゥットガルト
バッハ=バッハ・コレギウム・シュトゥットガルト
ヘルムート・リリング(指揮)
1979年2月 

【お薦め】
毎日毎日「レクイエム」ばかり聴いていると、自分の中に全く個人的な名演奏の基準のようなものが出来上がり、第1曲「Requiem aeternam」を聴いただけで、演奏に対する好き嫌いが現れるようになります。それでこの演奏はどちらかというと、ストンと心に落ちるタイプ、つまり好きな演奏です。どこが良いかというと、まず、声楽陣がきちんと発音しているということです。ラテン語だからといって、歌詞が聴きとれない演奏は、私的にはダメなのです。生理的に受け付けません。この演奏はしっかりと発音し、音程を確保しようとする声楽陣のひたむきさに好感が持てます。リリングの指揮も理想的です。お薦めです。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
バルバラ・ニェマン(ソプラノ)
クリスティナ・ショステク=ラトコヴァ(メゾ・ソプラノ)
ヴィスワフ・オフマン(テノール)
レオナルト・ムルス(バス)
ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団&合唱団
カジミェシュ・コルト(指揮)
1979年12月20-21日 ワルシャワ国立フィルハーモニー・ホール

コルトは、ポーランドの指揮者で、ポーランド国立放送交響楽団やワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督を務め、ミヒャエル・ギーレンの前の南西ドイツ放送交響楽団の首席指揮者であった人です。コルトが指揮するオケは優しい響きがします、が、全体的にメリハリに欠け、地味です。合唱もまずまず、独唱は男声はまぁまぁで、この盤を選ばなければならない理由が見い出せませんでした。録音も冴えない感じです。



モーツァルト レクイエム K.626 の名盤 1981年~1989年

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今回はいつもより数が多いような気がします。書いても書いても終わらないのですが、気のせいでしょうか。


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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔バイヤー版〕
ラシェル・ヤカール(ソプラノ)
オルトルン・ヴェンケル(アルト)
クルト・エクウィルツ(テノール)
ロベルト・ホル(バス)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
ニコラウス・アーノンクール(指揮)
1981年10・11月 ウィーン.ムジークフェライン

いきなりアーノンクール旧盤です。「レクイエム」百花繚乱の現在では、割と普通の演奏に感じられるのですが、これが登場したときは、その表現の広さ(アクの強さ)が驚きをもって迎えられたことでしょぅ。管弦楽は古楽器オーケストラであるウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(1953年創設)ですが、合唱は、最もこの曲の録音が多いと思われるウィーン国立歌劇場合唱団で、安定した歌唱と声のヴォリュームを確保しています。
ピリオド・スタイルというより、アーノンクール節というべき演奏で、その解釈はロマンティックと言ってよいでしょう。合唱は極端なメッツァ・ヴォーチェの多用により、管弦楽とともに幅の広いダイナミックレンジを実現しています。
ラストの意外性など、全曲を飽きることなく面白く聴くことができましたが、アーノンクールには世評の高い新盤(あちらはアルノルト・シェーンベルク合唱団)もありますので、とりあえず【お薦め】マークは付けないでおきます。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
マーガレット・プライス(ソプラノ)
トゥルデリーゼ・シュミット(メッゾ・ソプラノ)
フランシスコ・アライサ(テノール)
テオ・アダム(バス)
ライプツィヒ放送合唱団
シュターツカペレ・ドレスデン
ペーター・シュライアー(指揮)
1982年4月12-16日 ドレスデン

【お薦め】
合唱が優秀で、ラテン語の発音はこれまで聴いてきた中では、最も徹底しています。子供の頃からドレスデンの聖十字架教会の少年聖歌隊で歌っていたシュライアーに自然に身についたものなのでしょう。何を歌っているのかわからない合唱団が多い中、この演奏は安心して聴いていられます。独唱もアダム、アライサ、シュミット、M. プライスという名歌手を揃えているのが嬉しいところです。シュライアーは、モーツァルト、J・S・バッハ、ハイドンを好んで指揮していたそうですが、さすがに手慣れたもので、抜群の安定感があります。目新しさはありませんが、モーツァルトの「レクイエム」のスタンダードな名盤として、強くお薦めいたします。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
ナデツダ・クラスナヤ(ソプラノ)
エウジェニア・ゴロホフスカヤ(アルト)
ユーリ・マルシン(テノール)
セルゲイ・レイフェルクス(バス)
ロシア国立アカデミー合唱団
モスクワ・フィルハーモニー交響楽団
ユーリ・テミルカーノフ(指揮)
1983年12月(ライヴ)

濃く重たい「レクイエム」です。冒頭のオーケストラは近接マイクのせいもあり、表情豊かに感じられます。合唱は人数が多いらしく、強靭な声を張り上げて歌っていますので、迫力がありますが、音程はちょっと悪いかな。テノールがアマチュアっぽいかも。オンマイクの独唱陣はオペラティックな歌い方。テノールとソプラノがあまりよくないと思います。全体としては熱演であり、良いところもあるのですが、デリカシーのないテノール(合唱)のせいもあり、大味な印象を受けました。



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モーツァルト:レクイエム
〔モーンダー版〕
エマ・カークビー(ソプラノ)
キャロライン・ワトキンソン(コントラルト)
アントニー・ロルフ・ジョンソン(テノール)
デイヴィッド・トーマス(バス)
ウェストミンスター大聖堂少年聖歌隊
エンシェント室内管弦楽団&合唱団
クリストファー・ホグウッド(指揮)
1983年9月 ロンドン,キングスウェイ・ホール

【お薦め】
「モーンダー版」の初録音です。モーンダー版は大胆な補筆を行っていて、例えば、第11曲 Sanctus と第12曲 Benedictus は、ジュスマイヤーの作曲なので割愛しています。第8曲 Lacrimosa も、9小節以降はジュスマイヤー作なのでカットし、新たな部分を書き入れています(が、成功しているとは言い難い……)。そして、モーツァルトがおそらく「レクイエム」のために書いたであろう「アーメン・フーガ」の16小節のスケッチを補筆完成したうえて挿入しています。このアーメン・フーガが私は好きなんです。聴き慣れた「レクイエム」に新たな曲が加わっているというのがすごいです。その他ジュスマイヤー版のいろいろなところに手を入れていますが、省略します。
声楽陣の特長としては、合唱の女声部を少年合唱団に歌わせている(やっぱりKyrieが歌えていない)ことがあります。そのこと自体はこの盤だけではありませんが、独唱は女声のソプラノとアルトです。そしてソプラノが天使の声と讃えられたエマ・カークビーなのです。この声があればこそ、少年合唱団を起用したのでしょう。重唱部分を聴く喜びも大きくなります。
メリハリの効いたホグウッドの指揮も素晴らしく、DECCAの鮮明なステレオ録音と相俟って新鮮な気持ちで「レクイエム」を聴くことができます。今聴いても実にフレッシュなモーツァルトです。

W.A. Mozart - Requiem "Amen" fugue sketch and 5 completions



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
エディス・ウィーンズ(ソプラノ)
ガブリエレ・シュレッケンバッハ(アルト)
アルド・バルディン(テノール)
Gerhard Faulstich (バリトン)
ベルリンRIAS室内合唱団
ベルリンRIAS放送交響楽団
ウーヴェ・グロノスタイ(指揮)
1984年

少人数の管弦楽と合唱による演奏ですが、ピリオド・スタイルではありません。。ウーヴェ・グロノスタイという指揮者はよく知らないのですが、本業(?)は合唱指揮者のようです。オケは合唱や独唱を邪魔しないよう、伴奏の域を出ない、控えめな存在です。そのような配慮のもと「〇〇の天然水」のような、清祥な合唱は悪かろうはずがありません。管弦楽も合奏も一糸乱れぬ精緻な演奏ですが、もうちょっと合唱が鮮明な録音であったらなお良かったでしょう。派手さなはありませんが、心のこもった好演です。併録のK.339は心洗われる演奏でした。(どうでもいいことですが、ジャケットが恐いです。)



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
マグダレーナ・ハヨーショヴァー(ソプラノ)
ヤロスラヴァ・ホルスカ(アルト)
ヨーゼフ・クンドラーク(テノール)
ペーテル・ミクラーシュ(バス)
ウラディーミル・ルソー(オルガン)
スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団&合唱団
ズデニェク・コシュラー(指揮)
1985年3月 スロヴァキア・フィル・コンサートホール

【お薦め】
意外といってはなんですが、これは好きな演奏と録音です。優秀な録音という意味ではなく、合唱と管弦楽のバランスがちょうどよい塩梅なのです。合唱も格別に巧いというわけではないのですが、気持ちのよい歌声です。巧いというより上手な合唱団ですね。トロンボーンの音程が気になるとか、小さいことはいろいろありますが、全体として理想的な「レクイエム」の再現だと思います。表現しようという意欲が伝わってくる演奏です。うん、良い演奏です。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[バイヤー版]
アーリーン・オジェー(ソプラノ)
デロレス・ジーグラー(メゾ・ソプラノ)
ジェリー・ハドレー(テノール)
バリトン:トム・クラウセ(バス)
アトランタ交響楽団&合唱団
ロバート・ショウ(指揮)
1986年2月10・11日 アトランタ・シンフォニー・ホール

合唱の神様、ロバート・ショウの指揮であれば、きっと素晴らしい合唱が聴けるに違いないと思い、入手したCDです。録音も TELARC だから間違いなかろうと思って。確かに合唱は巧いです、が、録音が思ったほどよくありませんでした。合唱がこもった感じで、あまり鮮明ではないのです。そうなるとこの盤の魅力は激減します。管弦楽は丁寧な演奏で、合唱共々美しいし、それなりに価値はある記録なのですが、この盤をお薦めする理由が少ないです。いや、そんなに悪くないですのですが。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
アンナ・トモワ=シントウ(ソプラノ)
ヘルガ・ミュラー=モリナーリ(アルト)
ヴィンソン・コウル(テノール)
パータ・ブルチュラーゼ(バス)
ウィーン楽友協会合唱団
ヘルムート・フロシャウアー(合唱指揮)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)
1986年5月26-6月1日 ウィーン,ムジークフェラインザール

カラヤンの正規録音では、1961年、1975年に続いて三度目のものです。ただし、管弦楽はベルリン・フィルからウィーン・フィルに変わっています。映像収録もありますが、CDは1986年5月26-6月1日、映像は1986年5月26-6月2日となっていて、ほぼ同じ演奏のようです。オーケストラ作品が好きで、合唱はそれほど重要視しないという人であれば、この盤は一聴に値すると思います。カラヤンとウィーン・フィルが生み出すサウンドは、美しいものです。毎回起用されるウィーン楽友協会合唱団は、オケのだいぶ後ろで歌っているようで、管弦楽の一部として扱われているようです。何を歌っているのかよくわからないです。オケと合唱が同じメロディを演奏する箇所は、女声が弱いのでオケが主役になっています。でも、ウィーン・フィルってやっぱり良いですね。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
バーバラ・ボニー(ソプラノ)
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(アルト)
ハンス・ペーター・ブロホヴィッツ(テノール)
ウィラード・ホワイト(バス)
モンテヴェルディ合唱団
イングリッシュ・バロック・ソロイスツ
サー・ジョン・エリオット・ガーディナー(指揮)
1986年9月22-24日 ロンドン,セント・ジョンズ教会

【お薦め】
ピリオド・アプローチでも、ガーディナー指揮の演奏は聴きやすいです。管弦楽があまり古楽器っぽくないからでしょうか。編成のバランスが取れているのでしょうか、金管とティンパニの強奏はコープマン盤ほど極端に聴こえませんが、より効果的と思います。モンテヴェルディ合唱団の優秀さは広く認められているところで、ここでも素晴らしい歌声を披露しています。本当に美しく素晴らしい。
ソプラノのバーバラ・ボニーが良いです。清純派の歌唱?です。最近はあまり名前を見かけませんが、どうしているのでしょう。他の独唱達も気持ちの良い歌唱で、重唱がとても美しいです。オーケストラも技量の高さがうかがえ、これは文句なしの名盤と言えます。
ガーディナーは再録音を行うのでしょうか。現在のガーディナーの演奏を聴いてみたいです。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[バイヤー版]
イングリット・シュミットヒューセン(ソプラノ)
キャサリン・パトリアッシュ(アルト)
ニール・マッキー(テノール)
マティアス・ヘーレ(バス)
オランダ室内合唱団
ラ・プティット・バンド
ジギスヴァルト・クイケン(指揮)
1986年10月(ライヴ)

【お薦め】
クイケンによるモーツァルトの「レクイエム」は、弦楽四重奏版ばかりが有名になってしまって、こちらは忘れ去られているようですが、バイヤー版によるピリオド・スタイルの演奏として貴重なものです。
聴いてすぐにピリオド・アプローチだとわかる演奏は、モダン楽器が好きな人には抵抗があるかもしれません。しかし、とても素晴らしい演奏です。
少数精鋭のオランダ室内合唱団(美しい!)もラ・プティットバンド(1972年にレオンハルトとクイケンにより創設)とが高度な一体化を成し遂げ、格調の高い名演を創出しています。この時代の他のピリオド・スタイルの演奏より一歩進んでおり、今聴いても色褪せていません。ラテン語の発音に変なところがあるとか、そんなのはどうでもいいことなのです。
独唱ではバスのマティアス・ヘーレの柔和な声がなかなか良いのですが、テノールがもう少しヴィブラートを抑えていれば、重唱がさらに美しくなったでしょう。ソプラノのシュミットヒューセンの少年のような清楚な声も印象的で、アルトのパトリアッシュと良い組み合わせです。
録音も優秀で、この名演を余すところなくとらえていると思います。全曲どれもハズレ無しの文句なしのお薦めです。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
パトリツィア・パーチェ(ソプラノ)
ヴァルトラウト・マイアー(メゾ・ソプラノ)
フランク・ロパルド(テナー)
ジェイムズ・モリス(バス)
スウェーデン放送合唱団
ストックホルム室内合唱団
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
リッカルド・ムーティ(指揮)
1987年2月14,15日 ベルリン,フィルハーモニー

【お薦め】
モダン楽器によるジュスマイヤー版の録音として、ベストワンを争う演奏だと思います。まず合唱がスウェーデン放送合唱団とストックホルム室内合唱団という、合唱の神様エリック・エリクソンゆかりの団体であり、完璧であること、管弦楽がベルリン・フィルという最高の合奏力を誇るオーケストラであることなどが理由です。第3曲 Dies iræ などすごい迫力ですよ。ヴェルディの「レクイエム」みたいです。独唱も当時のEMIが揃えられる最高の顔ぶれでしょう。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[バイヤー版]
マリー・マクローリン(ソプラノ)
マリア・ユーイング(メゾ・ソプラノ)
ジェリー・ハドレー(テノール)
コルネリウス・ハウプトマン(バス)
バイエルン放送合唱団
ヴォルフガング・ゼーリガー(合唱指揮)
バイエルン放送交響楽団
レナード・バーンスタイン(指揮)
1988年7月3-6日 ディーセン・アム・アンマーゼー ,修道院教会マリア聖堂

バーンスタイン盤があるのをすっかり忘れていました!
感想は後日書きます! とりあえず場所取りだけしておきます!

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レクイエム ニ短調 K.626
[バイヤー版]
フェリシティ・ロット(ソプラノ)
デッラ・ジョーンズ(メゾ・ソプラノ)
キース・ルイス(テノール)
ウィラード・ホワイト(バス)
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団&合唱団
フランツ・ヴェルザー=メスト(指揮)
1989年4月

指揮者としてのヴェルザー=メストの転機は、1986年にヘスス・ロペス=コボスの代役としてロンドン・フィルを指揮し、モーツァルトの「レクイエム」を演奏して大成功を収めたことです。これはその3年後のEMIへの録音で、期待が膨らみます。やや速めのテンポであっさり進んでいく印象があります。なるほど、凛としたたたずまいと品の良さが感じられる美しい演奏です。このようなスタイルには「バイヤー版」が合っています。よく歌う伴奏の弦がとってもきれいです。このCDの欠点は、録音が冴えないことです。現代楽器による「バイヤー版」の模範的演奏として一聴の価値はある演奏です。



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モーツァルト: レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
リン・ドーソン(ソプラノ)
ヤルト・ヴァン・ネス(アルト)
キース・ルイス(テノール)
サイモン・エステス(バス)
フィルハーモニア管弦楽団&合唱団
カルロ・マリア・ジュリーニ(指揮)
1989年4月19~21日
ロンドン,ウォルサムストウ・アセンブリー・ホール

旧録音と同じフィルハーモニア管弦楽団&合唱団なので紛らわしいですが、旧録音がEMI(現 WANER CLASSICS)で、この録音はSONY CLASSICALです。管弦楽も合唱も規模が大きい昔ながらのモーツァルトの「レクイエム」という感じで、ジュリーニの基本的な解釈は変わっていません。直接比較したわけではありませんが、全体的にテンポが遅くなり、響が柔らかく滑らかで、いっそう叙情的で彫が深くなった印象があります。「Dies iræ」のような曲でも力押しせず、細かく表情を付けているのがジュリーニらしいです。独唱は水準以上ですが、リン・ドーソンの清楚な歌声が気に入りました。合唱もラテン語の発音が物足りないですが、美しいです。併録のK.339も良いですね。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
バルバラ・シュリック(ソプラノ)
キャロライン・ワトキンソン(アルト)
クリストフ・プレガルディエン(テノール)
ハリー・ファン・デル・カンプ(バス)
オランダ・バッハ協会合唱団
アムステルダム・バロック管弦楽団
トン・コープマン(指揮)
1989年10月(ライヴ)ユトレヒト

ピリオド・スタイルによる演奏。故宇野功芳氏が「オケの音彩に癖がなく(略)どこもかしこも心がこもり、味が濃い」と称賛されていた演奏です。管弦楽は弦が少なく、合唱団も少人数です。寂しいくらいで、ときに荒ぶるトランペットやティンパニがすごく目立つ(うるさい!)「レクイエム」です。しかし Kyrie から音楽が動き出します。
なかなか興味は尽きない演奏ではあるのですが、前述のとおり金管とティンパニがうるさくて、少々聴き疲れします。緩徐な曲は美しいのですが。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ランドン版]
グンドゥラ・ヤノヴィッツ(ソプラノ)
ユリア・ベルンハイマー(メゾ・ソプラノ)
マーティン・ヒル(テノール)
デイヴィッド・トーマス(バス)
ハノーヴァー・バンド・コーラス
ハノーヴァー・バンド
ロイ・グッドマン(指揮)
1989年12月

これもピリオド・アプローチで、1989年に完成された「ランドン版」の初録音です。モーツァルトの「レクイエム」は、最初からジュスマイヤーが補作したわけではなく、まず初めにコンスタンツェからヨーゼフ・アイブラーに託されたのでした。しかし、アイブラーはその作業を途中で放棄してしまいます。ランドン版は、アイブラーとジュスマイヤーの補作を比較し、アイブラーのほうが優れているとの見地から、第3曲から第7曲までのアイブラーのオーケストレーション(ランドンがさらに補作)を生かし、第2曲と第8曲以降はジュスマイヤー版を採用するという折衷案(?)となっています。
アイブラーの補作はジュスマイヤーより本当に優れていたのでしょうか?
第1曲 Requiem aeternam は、モーツァルトが完成させた曲ですから、版の問題がありません。グッドマン指揮の演奏は、ピリオド・スタイルであり、管弦楽も合唱も小編成で、すこぶる見通しが良いものとなっています。ソプラノがグンドゥラ・ヤノヴィッツであるのポイントが高いです。
第2曲 Kyrie も、フライシュテットラーとジュスマイヤーのオーケストレーションなので違和感はありません。金管とティンパニが少々うるさい演奏です。
第3曲 Dies iræ は、確かに違いますが、思ったほどの変化はなく、誰が補作してもこういうアレンジになるのかなと思いました。
第4曲 Tuba mirum、第5曲 Rex tremendæ、第6曲  Recordare もあまり変わりませんが、第7曲 Confutatis は結構違っています。第8曲 Lacrimosa 以降はジェスマイヤー版なので聴き慣れたオーケストレーションです。
ジュスマイヤーはアイブラーの補作を破棄してオーケストレーションをやり直したと言われていますが、割と参考にしたのでは? または、モーツァルトによる部分的なオーケストレーションが残されていたのでしょうか?
版の違いよりも、ピリオド・スタイルの演奏に耳が行ってしまったCDでした。最初からジュスマイヤー版を採用していたら、【お薦め】になったであろう、秀逸な演奏でした。なんだかんだと言われていますが、ジュスマイヤーは良い仕事をしたと再認識しました。


モーツァルト レクイエム K.626 の名盤 1990年~1991年

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約10年刻みでご紹介してきましたが、今回はたった2年間です。なぜかというと、1991年はモーツァルト没後200年の年に当たったため、録音数が多いのです。
仕事が忙しくてブログを書く時間がないということもあるのですが……。


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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
ジュディス・ハウォース(ソプラノ)
ダイアナ・モンタギュー(メゾ・ソプラノ)
モルドウィン・デイヴィ(テノール)
スティーヴン・ロバーツ(バス)
BBCシンガーズ 
ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズ
ジェーン・グラヴァー(指揮)
1990年
ジェーン・グラヴァーは、イギリスの女性指揮者で、1984年から1991年までロンドン・モーツァルト・プレイヤーズの音楽監督でした。その時代の録音です。
収録会場は教会のような所なのでしょうか。残響が豊かです。小編成の合唱と管弦楽ですが、残響のせいもあって、水準以上の演奏を聴かせます。独唱はテノールの歌い方が気になりますが、他はまぁまぁというところでしょう。グラヴァーの指揮は、第3曲 Dies iræ の猛烈なスピードを除けば、穏当なところですが、トラペットとティンパニの強奏がうるさくて、そういうところが苦手です。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
ダイアナ・モンタギュー(ソプラノ)
マイケル・チャンス(カウンター・テナー)
クリストフ・プレガルディエン(テノール)
フランツ・ヨゼフ・ゼーリヒ(バス)
ケルン室内合唱団
コレギウム・カルトゥジアヌム
ペーター・ノイマン(指揮)
1990年(?)

【お薦め】
ペーター・ノイマン指揮のケルン室内合唱団&コレギウム・カルトゥジアヌムによるモーツァルト:ミサ曲全集(10枚組)は、安価で質の高い演奏が得られるため、モーツァルト・ファン必携のBOXでしたが、限定盤であったため、今では入手が難しいようです。その中には当然「レクイエム」も含まれているのですが、ブックレットの最終頁の収録年月日および録音音会場に、K.626のみ記載がないのです。そのため、この「レクイエム」の録音年は資料によって異なっているのですが、とりあえず「レコード芸術」誌を信用して1990年としました。もしかしたら1988年かもしれません。
ピリオド・スタイルによる演奏は、本当に素晴らしいです。「レクイエム」のお手本となるべき演奏です。特にどの曲がということはなく、いや、どの曲も優れた演奏なのです。独唱も合唱も管弦楽も優れています。「レクイエム」で1枚だけを残すとしたら、このCDを選ぶであろうとさえ思いました。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
シルヴィア・マクネアー(ソプラノ)
キャロリン・ワトキンソン(アルト)
フランシスコ・アライサ(テノール)
ロバート・ロイド(バス)
アカデミー・アンド・コーラス・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
サー・ネヴィル・マリナー(指揮)
1990年2月6-8日 ロンドン,セント・ジョーンズ・チャーチ

【お薦め】
だいぶ前の話ですが、マリナーがNHK交響楽団を指揮した演奏をテレビで観まして、この人はなんて音楽づくりの上手な人だろうと、初めて感心しました。アカデミー室内管との録音ではわからなかったのに、N響との演奏で気がつくなんて不思議です。この「レクイエム」は、マリナーの再録音ですが、最初の録音がバイヤー版であったのに対し、今回はジュスマイヤー版です。やっぱりジュスマイヤー版の方が好ましいというマリナーの最終判断でしょうか。演奏は、マリナーの「音楽づくり」が小気味よく、合唱と管弦楽のバランスもよい加減で、気持ちよく全曲を聴き終えることができました。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
アンジェラ・マリア・ブラーシ(ソプラノ)
マルヤーナ・リポヴシェク(アルト)
ウーヴェ・ハイルマン(テノール)
ヤン=ヘンドリク・ロータリング(バス)
バイエルン放送交響楽団&合唱団
サー・コリン・ディヴィス(指揮) 
1991年3月12・14・15日 ミュンヘン.ヘルクレスザール

【お薦め】
コリン・デイヴィスは、声楽付き管弦楽曲が得意というイメージがあります。モーツァルトの「レクイエム」も3種類(1967年、1991年、2007年)の録音があり、この録音は2番目です。合唱と管弦楽は、首席指揮者を務めていた、優秀なバイエルン放送交響楽団と合唱団で、けして悪い意味ではない、昔ながらのオーソドックスな演奏という印象です。どの曲もハズレなく、強烈な印象に欠けますが、これを【お薦め】にしないで、どの盤を推薦するんだという気持ちもあり、ちょっと甘めの採点ですが【お薦め】にしたいと思います。大変立派な演奏です。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ドゥルース版〕
ナンシー・アージェンタ(ソプラノ)
キャサリン・ロビン(アルト)
ジョン・マーク・エインズリー(テノール)
アラスティア・マイルズ(バス)
ロンドン・シュッツ合唱団
シュッツ・コンソート
ロンドン・クラシカル・プレイヤーズ 
ロジャー・ノリントン(指揮 )
1991年4月

ドゥルース版初登場(初録音ではありません)です。ドゥルース版の大胆な改変とノリントンの個性的な指揮は、絶大なインパクトがあります。毎日「レクイエム」(ジュスマイヤー版が中心)ばかりの生活なので、楽しく聴くことができました。一応ピリオド・スタイルで、合唱がやや地声っぽいのですが、発音も音程もしっかりしており、声に力があります。第2曲 Kyrie は、各パートの入りが明確であるんもが好ましく、終結が面白いです。第3曲 Dies iræ は大きめにつけた強弱が効果的で、快速テンポの第4曲 Tuba mirum です。圧巻は第8曲 Lacrimosa で、モーツァルトが作曲していない9小節以降で、ドゥルース版が本領を発揮しており、新しい音楽(結構長いです)になっています。ここは好き嫌いが分かれるところでしょう。それに、Amen Fuga が続きます。第12曲 Benedictus も驚きです。ほとんど別の曲です。という具合に特徴を挙げ始めたらキリがなく、興味が尽きない演奏です。個人的には好きな演奏です。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
クリスティーナ・ラキ(ソプラノ)
ドリス・ゾッフェル(メゾ・ソプラノ)
ロベルト・スヴェンセン(テノール)
トーマス・クヴァストホフ(バス)
ケルン放送交響楽団&合唱団
ガリー・ベルティーニ(指揮)
1991年5月(ライヴ)

ベルティーニが首席指揮者を務めていたケルン放送交響楽団とのライヴです。ベルティーニはこの年にケルン放送響の地位を辞します。録音のせいか、合唱は男声が目立ち、女声(特にソプラノ)にもう少し声量があればと思います。合唱だけでなく、管弦楽も、格調の高さを感じさせる反面、どこかアンバランスでもあります。オーソドックスなスタイルなので、これぐらいの水準に達している演奏は他にもあるということで、【お薦め】マーク無しです。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
モンセラート・フィゲーラス(ソプラノ)
クラウディア・シューベルト(アルト)
ゲルト・テュルク(テノール)
ステファン・シュレッケンベルガー(バス)
ラ・カペッラ・レイアル・デ・カタルーニャ
ル・コンセール・デ・ナシオン
ジョルディ・サバール(指揮)
1991年8月 ゲブウィレル,ドミニコ会教会

【お薦め】
「ル・コンセール・デ・ナシオン」は。古楽器を用いるスペインの室内楽団で、1989年にジョルディ・サバールにより設立されました。当然この演奏も、ピリオド・スタイルです。【お薦め】というのは、今さらですが、私の個人的な好みに基づくものですので、必ずしも一般的ではないのかもしれませんが、これは好きな演奏です。重厚長大路線はあまり好きではないので、いかにも小回りの利く(繊細な表現が可能)、少数による管弦楽と合唱団で、速すぎない程度のテンポ感覚が好ましいのです。一言で表現すれば、カッコイイ演奏です。ただ、ソプラノのモンセラート・フィゲーラス(サバールの奥さんで名歌手、2011年11月23日逝去)の歌唱が個性的過ぎるかも……。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔レヴィン版〕
クリスティーネ・エルツェ(ソプラノ)
インゲボルク・ダンツ(アルト)
スコット・ウィア(テノール)
アンドレアス・シュミット(バリトン)
ゲヒンゲン聖歌隊
シュトゥットガルト・バッハ合奏団
ヘルムート・リリング(指揮)
1991年12月 ヘッセン放送局大ホール

リリングの再録音にしてレヴィン版の初録音です。この版を作成したロバート・D・レヴィンは、「協奏交響曲 変ホ長調 K.297b (K.Anh.C14.01)」の記事で、マリナー盤が採用していた版の編曲者と同一人物です。ジュスマイヤー版とは、いろいろな違いがあるのですが、大きな違いは、やはり第8曲 Lacrimosa で、微妙な手直しがあり、Amen Fuga が続きます。第11曲 Sanctus も伴奏の弦楽合唱が全然違います。元が単調な曲なので、これはこれで良いかも。続く Osanna にはだいぶ手が入れられて長くなっています。第12曲 Benedictus も間奏がモーツァルトらしく(?)なったのを始めとして、各独唱の音型が微妙に異なります。後奏もかなり違っていて、Osanna も別の曲になっています。レヴィン盤の唯一の録音ではありませんが、良質な演奏で聴けるとあって、貴重な録音に違いありません。演奏は、前回と変わってピリオドっぽくなっていますが、演奏から受ける感銘度は前回のほうが上だと思います。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ランドン版]
アーリーン・オジェー(ソプラノ)
チェチーリア・バルトリ(メゾ・ソプラノ)
ヴィンソン・コウル(テノール)
ルネ・パーペ(バス)
ウィーン国立歌劇場合唱連盟
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
サー・ゲオルク・ショルティ(指揮)
1991年12月5日(ライヴ)ウィーン,シュテファン大聖堂

モーツァルトは、1791年12月5日に亡くなりましたので、この録音が行われた日付は、モーツァルト没後200年に当たるわけです。典礼ミサのライヴですが、式の全てを収録すると2枚組になってしまうので、適当に割愛されています。ラインスドルフ盤もそうでしたが、やはりミサでの演奏となると、指揮者も声楽陣も管弦楽も本気度(真剣さ)が違うようです。モーツァルトゆかりの教会で、モーツァルトのために演奏するわけですからね。ただ、この演奏は感動するときもあれば、平凡な演奏に感じるときもあります。演奏も録音も悪くないし、名演と言ってもよいぐらいなのですが、何かが足りない。ショルティは遠慮して、個性を殺しているように思われます。
また、この演奏では「ランドン版」が採用されていますが、一般的なジュスマイヤー版のほうが、場にふさわしかったのではないでしょうか。
なお、ここまで書いて、「そういえば、この『レクイエム』は当初バーンスタインが指揮するはずだったのが、前年にバーンスタインが亡くなってしまったので、代わりにショルティが指揮することになったんだよな……。あれっ? バーンスタイン盤の録音年っていつだったっけ?」とというわけで、慌てて前回の記事にバーンスタイン盤の感想を追加したのでした。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
ペトラ・ランペ(ソプラノ)
ブリッタ・シュヴァルツ(アルト)
エドワード・ランドール(テノール)
ヘルマン・クリスティアン・ポルスター(バリトン)
ベルリン放送合唱団
ベルリン放送交響楽団
ハインツ・レーグナー(指揮)
1991年12月16日 東京,サントリーホール

モーツァルト没後200年記念演奏会のライヴなのだそうです。この演奏会に行かれた方にとって、あるいは演奏者にとって、このCDは、感動の記録でしょう。私も生演奏でこのような演奏を聴いたら、ぼーっとして家路についたと思います。しかし、録音だけを聴く場合、例えば、Requiem aeternam や Kyrie は良いとしても、その後、少しだけ間を空けて、猛烈なスピードで演奏される Dies iræ は、いささかバランスを欠いているようにも思われ、そういうところが、外面的な効果を狙っているように感じられてしまうのです。なんだかんだ言って、大きな編成による演奏には安心させられるものがあるのですが、少し気になってしまいました。


モーツァルト レクイエム K.626 の名盤 1994年~1999年

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今週も業務多忙で、その日のうちに感想を書くことができず、土曜日に思い出しながらまとめて書きました。的外れの感想もあると思いますが、今から全部聴き返すのは大変なので(カーリング女子3位決定戦も観なくてはならないし)、これで許してください。


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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
マックス・エマヌエル・ツェンチッチ(ボーイ・ソプラノ)
デレク・リー・レイギン(カウンター・テノール)
ミヒャエル・クナップ(テノール)
ゴットホルト・シュヴァルツ(バス)
ウィーン少年合唱団
コルス・ヴィエネンシス
ウィーン・フォルクスオーパー管弦楽団
ペーター・マルシック(指揮)
1994年10月3-6日
ウィーン,コンツェルトハウス,モーツァルトザール

【お薦め】
ウィーンの演奏家による「レクイエム」です。ただし女声は参加しておらず、ウィーン少年合唱団が女声パートを歌い、女声独唱パートももボーイ・ソプラノとカウンター・テナーが歌っています。なお、コルス・ヴィエネンシスはウィーン少年合唱団のOB合唱団だそうです。
ウィーン少年合唱団は、ギレスベルガー盤よりも上手になっており、ボーイ・ソプラノも貫禄の歌唱を聴かせます。ペーター・マルシックの指導の賜物でしょう。管弦楽にも不満はありません。マルシックは随所でこだわりを見せ、また、全体に速めのテンポを採用していますので、音楽に推進力があります。
アヴェ・ヴェルム・コルプス K.616 や、ブルックナーのモテットが併録されているのもうれしいところです。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ランドン版]
Marie-Louise Gasser(ソプラノ)
カテリーネ・マルグリス(メゾ・ソプラノ)
Francis Gasser(テノール)
Michel Ormieres(バス)
Maitrise des petits chanteurs
ニュー・パレ・ロワイヤル管弦楽団
ジャン=フィリップ・サルコス(指揮)
1994年11月

隠れ名演を期待したいところですが、知られていない演奏というのはそれなりの理由があるようです。まず、第1曲 Requiem aeternam のソプラノ独唱がいけません。録音の残響も多過ぎです。第2曲 Kyrie に聴く合唱のアルトはアマチュアというか、基礎的な発声の訓練をしていないようです。第3曲 Dies iræ もただでさえ調子外れなトランペットをさらに強調して減点です。第4曲 Tuba mirum における各独唱は、アマチュアの域を出ないと思います。(聴くのがつらくなってきたので途中で終了しました。)



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
アンナ・マリア・パンザレッラ(ソプラノ)
ナタリー・シュトゥッツマン(アルト)
クリストフ・プレガルディエン(テノール)
ネイサン・バーグ(バス)
レザール・フロリサン
ウィリアム・クリスティ(指揮)
1994年11月 パリ、サル・ベルティエ

【お薦め】
1979年にウィリアム・クリスティが設立した「レザール・フロリサン」は、オリジナル楽器のオーケストラと合唱団です。フランスの団体。某オン・ラインCDショップで検索してみたら、96件もヒットしました。そんなに録音があったのか!と驚きました。主要なレパートリーが、モンテヴェルディ、ヘンデル、シャルパンティエ、ラモー、リュリ、パーセル等ですから、あまり馴染みがないかもしれません。モーツァルトもレパートリーの一部で、「魔笛」の優れた録音を残しています。
この「レクイエム」も気持ちの良い演奏です。古楽器オーケストラを敬遠される方もいらっしゃいますが、冒頭こそ古楽器の響きがしますけれど、その後はあまり意識させない演奏です。合唱も良いのですが、ラテン語のディクションがいま一つなのが惜しまれます。バスの一部の責任感ある団員だけが、語尾の子音を立てているのはよろしくないです。でも【お薦め】です。



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モーツァルト:レクイエム
[バイヤー版]
エフラト・ベン=ヌン(ソプラノ)
エリーザベト・グラーフ(アルト)
ジェフリー・フランシス(テノール)
マルコス・フィンクス(バス)
ローザンヌ声楽アンサンブル
ジュネーヴ室内管弦楽団
ミシェル・コルボ(指揮)
1995年9月24日(ライヴ)フリブール・フェスティバル

コルボ指揮のモーツァルト「レクイエム」は2種類だと思っていたら、3種類でした。オケの違いで記すと、リスボン・グルベキアン管&合唱団を指揮した1975年盤(既出)と、ローザンヌ器楽アンサンブルを指揮した1990年盤と、ジュネーヴ室内管を指揮した1995年盤(本盤)です。版の違いで言えば、1975年盤はジュスマイヤー版、1990年盤と1995年盤はバイヤー版です。2番目の録音の存在を知りませんでした。
それで、コルボ指揮の演奏では、どれが最も優れた演奏かというと、リスボン・グルベキアン管を指揮した1975年盤が良いという意見が多いようです。続けて聴き比べたわけではありませんが、私もリスボン・グルベキアン管のほうが完成度が高かったと思います。ローザンヌ声楽アンサンブル&ジュネーヴ室内管は、時代を反映してか、ピリオド・スタイルっぽくなりましたが、コルボのスタイルには合っていないような感じもしました。けして悪い演奏ではないのですが、旧盤が第一選択肢と思います。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
ステファニー・コピニツ(ソプラノ)
ガブリエラ・ベッセニェイ(アルト)
ゲルハルト・ヘール(テノール)
ヤヌスツ・モナルチャ(バス)
クルジュ=ナポカ国立フィル合唱団
ヨーロッパ・シンフォニー
ヴォルフガング・グレース(指揮)
1996年1月

ヴォルフガング・グレースという指揮者も、ヨーロッパ・シンフォニーというオーケストラも、クリュー・ナポカ国立フィル合唱団という合唱団も初めて聴く演奏家ばかりですが、とにかく聴いてみます。
第1曲 Requiem aeternam は重い足取り。第2曲 Kyrie も同様です。第4曲 Tuba mirum は、トロンボーンの音程が怪しいのが気になります。独唱は珍しくバスがいただけなく、ソプラノにも不安を感じます。第5曲 Rex tremendæ も遅いです。それでも聴き続けてしまうのは、技術的に一流ではなくても一生懸命演奏しているという気持ちが伝わるからでしょう。ただ、指揮にメリハリがなく、凡庸という印象を与えてしまうかも、です。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
ジビッラ・ルーベンス(ソプラノ)
アネッテ・マルケルト(メゾ・ソプラノ)
イアン・ボストリッジ(テノール)
ハンノ・ミュラー=ブラッハマン(バリトン・バス)
シャペル・ロワイヤル
コレギウム・ヴォカーレ
シャンゼリゼ管弦楽団
フィリップ・ヘレヴェッヘ(指揮)
1996年10月9・10日(ライヴ)モントルー,ストラヴィンスキー・ホール

【お薦め】
名称からしてお洒落なイメージがあるシャンゼリゼ管弦楽団ですが、結成は1991年と新しく、指揮者のヘレヴェッヘが設立した古楽器オーケストラです。
名称どおりの洗練された美しさと格調の高さを併せ持つ、文句なしの名演で、これを好まれる方も多いと思います。俗人の私には、優等生過ぎるような気もして、例えば、第3曲 Dies iræ など僅かにテンポが速かったら効果的だったのにと思ってしまいます。全体に品が良すぎるのです。とてもライヴとは思えません。とは言うものの、モーツァルトの「レクイエム」の理想的な演奏のひとつと思いますので、自信をもって【お薦め】といたします。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
モーナ・ユルスナー(ソプラノ)
ヴィルケ・テ・ブルンメルストルテ(アルト)
ゼーハー・ヴァンデルステイネ(テノール)
イェレ・ドレイエル(バス)
オランダ室内合唱団
ユーヘイン・リヴェン・ダベラルド(グレゴリオ聖歌指揮)
18世紀オーケストラ
フランス・ブリュッヘン(指揮)
1998年3月20日(ライヴ)東京芸術劇場

ピリオド・スタイルによるものの、重たく、悲劇性が強い演奏です。3回聴いてみたのですが、聴くたびに疑問が生じます。もしかすると、ブリュッヘンはモーツァルトの「レクイエム」は、あまり得意ではなかったのかもしれません。演奏に迷いがあるように思えます。演奏者名からも判るとおり、曲間にグレゴリオ聖歌が挿入されるときがあります。ブリュッヘンは、熟考の末にそのような方法を採用したのかもしれません。しかし、私は違和感を憶えました。音楽の流れも不自然に思えます。「レクイエム」の演奏自体はとても優れているので、グレゴリオ聖歌さえ無かったら【お薦め】だったのですが。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版&バイヤー版&レヴィン版]
カリタ・マッティラ(ソプラノ)
サラ・ミンガルド(メッゾ・ソプラノ)
ミヒャエル・シャーデ(テノール)
ブリン・ターフェル(バス・バリトン)
カイ・ヨハンセン(オルガン)
スウェーデン放送合唱団
マリア・ヴィースランダー(合唱指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
クラウディオ・アバド(指揮)
1999年7月16日〈ライヴ)ザルツブルク大聖堂

【お薦め】
カラヤン没後10周年のための演奏会を収録したものです。
当ブログでの[版]の記載は、基本的にはCDのブックレットに書かれているとおりなのですが、一応ネットで調べて確認しています。CDには「フランツ・バイヤー版に基づくロバート・レヴィン版」とあります。念のため、Deutsche Grammophon のサイトで調べると「reconstructions by Franz Beyer (1971/79) and Robert D. Levin (1993)」とあります。アバドが、ジュスマイヤー版、バイヤー版、レヴィン版から取捨選択して構成した演奏なのです。私みたいにいい加減なリスナーにとって、ちゃんと聴いていないのがバレてしまう恐ろしいCDです。
しかし、今までにない「版」を作り、それを演奏してしまうなんて、アバド、すごいです。ライブラリアンは大変だったと思います。
その演奏は確かに「名演」です。ただ、最初の一枚とするより、「ジュスマイヤー版」による演奏を聴き込んでから、このCDを聴いたほうが、違いが明確に分かって面白いと思います。

この名演は、「スウェーデン放送合唱団」によって成し遂げられていると言っても過言ではないのですが、この合唱団について要約コピペをします。1925年に創設され、1952年に合唱の神様であるエリック・エリクソンが首席指揮者に就任してから飛躍的な発展を遂げた。アンデシ・オルウェル、グスタフ・ショークヴィスト、トヌ・カリユステを経て、ペーター・ダイクストラが2007年9月に首席指揮者に就任。バイエルン放送交響楽団やベルリン・ドイツ交響楽団といった名門オーケストラを指揮するなど、シンフォニー指揮者としても活躍するダイクストラの統率能力と芸術性は、各方面から非常に高く評価され、再びスウェーデン放送合唱団の黄金時代を築いている。これまでに、スウェーデン放送交響楽団をはじめ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、フィルハーモニア管弦楽団、ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団等のオーケストラと、ヴァレリー・ゲルギエフ、ヘルベルト・ブロムシュテット、ダニエル・ハーディング等の指揮者と共演しているが、なかでも、クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とは厚い信頼で結ばれていた。スウェーデンの音楽を世界に広めた功績を讃え、2011年スウェーデン政府より特別名誉賞を授与された。世界最高峰の合唱団として、その名声は世界各国に轟いている。

アバドには、2012年8月のルツェルン音楽祭ライヴの映像があります。それはまた、後日ご紹介します。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
 [ランドン版]
マリーナ・ウレヴィッツ(ソプラノ)
バルバラ・ヘルツル(メゾ・ソプラノ)
イェルク・ヘリング(テノール)
ハリー・ヴァン・デル・カンプ(バス) 
テルツ少年合唱団
ターフェルムジーク
ブルーノ・ヴァイル(指揮)
1999年9月

【お薦め】
ブルーノ・ヴァイルは、カラヤンの代役として、1988年に「ドン・ジョバンニ」を指揮(オケはウィーン・フィル)するという、恵まれたデビューをした人です。その後も各地の歌劇場に登場する一方で、オリジナル楽器を使用したオーケストラも指揮しているそうです。このCDがそれですね。
いかにもバロック・オーケストラという古風な響きなのですが、ピリオド・スタイルだからといって、トランペットやティンパニを強調しないところに、指揮者の優れたバランス感覚を聴くことができます。女声合唱が(リヒター盤のような)面白い声を出すなと思っていたら、テルツ少年合唱団だったのですね。合唱がきちんとしたラテン語を発音しています。ヴァイルの指揮も快速テンポですいすい進行しますが、けして薄味ではありません。ソプラノのウレヴィッツは、巧いというわけではなりあませんが、合唱と声質が合っていて良いと思います。多くの人に薦めるわけではありませんが、興味深い演奏だったので【お薦め】にしたいと思います。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[バイヤー版]
ヴァシリカ・イェゾフセク(ソプラノ)
クラウディア・シューベルト(コントラルト)
マークス・ウルマン(テノール)
ミヒャエル・フォッレ(バス)
シュトゥットガルト室内合唱団
シュトゥットガルト・バロック管弦楽団
フリーダー・ベルニウス(指揮)
1999年11月12日(ライヴ)
シュトゥットガルト,リーダーハレ,ベートーヴェン・ザール

フリーダー・ベルニウス&シュトゥットガルト室内合唱団は、バロック音楽の声楽作品に定評があります。1970年から2年連続でヨーロッパ合唱コンクールで優勝し、1982年には第1回ドイツ合唱コンクールで第1位となったそうです。
すごく期待していたのですが、このモーツァルトの「レクイエム」は、それほどでも無かったです。ピリオド・スタイルっぽいのですが、この演奏も、トランペットとティンパニを強奏させるのです。がっかりします。合唱はさすがと思わるものがありますが、指揮は全体にこじんまりとしていて手堅い印象があり、あまり感動できませんでした。期待が大きすぎたのでしょうか。


モーツァルト レクイエム K.626 の名盤 2001年~2007年

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今回も、書いても書いても終わりません。
2001年の録音が多いのは、何かの年に当たっていたからなのでしょうか?


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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
Ingrid Kertesi, Soprano
Bernadette Wiedemann, Alto 
Jozséf Mukk, Tenor 
István Rácz, Bass
ヨーロッパ・フィルハーモニア・ブダペスト合唱団
ヨーロッパ・フィルハーモニア・ブダペスト管弦楽団
マクシミアンノ・コブラ(指揮)
2001年

第1曲 Requiem aeternam が超スローテンポで驚きます。第2曲 Kyrie もすごく遅いです。第3曲 Dies iræ でさえ非常に遅く、全曲通して聴くと81分(通常は約50分)もかかるモーツァルトの「レクイエム」です。「古典派時代の指揮法は現在と違って、タクトの一往復をもって一拍と定義していた」という「テンポ・ジュスト」という学説に基づくものなのだそうです。「レクイエム」が別の曲のように聴こえますし、このテンポで歌える独唱・合唱陣は立派だと思います。しかし、忍耐が足りず、最後まで聴きとおすことができませんでした……。



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モーツァルト:レクイエム K.626
〔ジュスマイヤー版〕
イリデ・マルティネス(ソプラノ)
モニカ・グループ(アルト)
スティーヴ・ディヴィスリム(テノール)
ワングチュル・ユーン(バス)
コルス・ムジクス・ケルン
ノイエ・オルケスター
クリストフ・シュペリング(指揮)
2001年5月

【お薦め】
このシュペリング盤もすごく遅いのです。第1曲 Requiem aeternam は先のコブラ盤とどちらが遅いのかタイムを比べたところ、コブラ盤は7分25秒、シュペリング盤は6分21秒でした。ちなみにリヒター盤は4分28秒です。第2曲 Kyrie も遅く、コブラ盤の4分14秒に対し、シュペリング盤は3分47秒、リヒター盤は2分32秒です。シュペリング盤もなかなかの遅さです。ところが、シュペリング盤は第3曲 Dies iræ がめちゃくちゃ速いのです。この変化は衝撃的です。その後は、普通もしくは快速テンポであったり、また遅かったり(第6曲 Recordare)と、いろいろです。モーツァルトの時代の緩急差の設定はこうだったという考証に則っているのだとか。そうしたテンポの格差はさておき、ドイツの指揮者であるクリストフ・シュペリングが、自ら設立した古楽器オーケストラであるノイエ・オルケスターと合唱団コルス・ムジクス・ケルンを指揮した演奏はなかなか優れたもので、その表現はロマンティックでさえあります。独唱も優れています。
さて、このCDにはオマケがありまして、モーツァルト自身が書いた楽譜(フラグメント集)のみによる演奏が収録されています。第3曲 Dies iræ、第4曲 Tuba mirum、第5曲 Rex tremendæ、第6曲 Recordare、第7曲 Confutatis、第8曲 Lacrimosa(8小節)、第9曲 Domine Jesu、第10曲 Hostias、そしてAmen fugue(16小節)です。これを聴けば「レクイエム」はここまで(こんなに)出来上がっていたのだとわかります!



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
パメラ・ホイフェルマンス(ソプラノ)
バーバラ・ヴェルナー(アルト)
ロベルト・モルヴァイ(テノール)
トーマス・プファイファー(バス)
ヨーロッパ室内合唱団
南西ドイツ・プフォルツハイム室内管弦楽団
ニコル・マット(指揮)
2001年7月

某HMV & BOOKS ONLINEによると、指揮者のニコル・マットは、エリクソンとベルニウスに学んだドイツの合唱指揮者だそうです。また、ヨーロッパ室内合唱団は1997年にドイツのリューベックで創設された新しい合唱団で、最初はノルディック室内合唱団と称していた団体だとか。メンデルスゾーンやブラームスの合唱作品全集を録音していますね。あまり個人攻撃はしたくないのですが、ソプラノ独唱がいただけないです。他に歌手はいなかったのでしょうか……。南西ドイツ・プフォルツハイム室内管弦楽団(南西ドイツ室内管弦楽団)は、ピリオド・スタイルでの演奏? この録音も最後まで聴き通せなかったです……。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
幸田浩子(ソプラノ)
Monika Waeckerle(アルト)
Patrizio Saudelli(テノール)
Xiaoliang Li(バス)
インタル合唱団
Accademia di Montegral
チロル音楽祭管弦楽団
グスタフ・クーン(指揮)
2001年7月(ライヴ?)

幸田浩子さんのプロフィールに「2000年代の前半にドイツのアルテ・ノーヴァから発売されたグスタフ・クーンのいくつかの録音(ロッシーニの『ブルスキーノ氏』やモーツァルトの『レクイエム』、リヒャルト・ワーグナーの『ニーベルングの指環』など)に参加した。」とあります。オペラを得意とするグスタフ・クーンの指揮だけあって劇的であり、傾聴すべきところもありますが、全体の演奏から受ける印象として、選ぶべき水準には達していないと感じます。申し訳ない。



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モーツァルト:レクィエム ニ短調 K.626
〔レヴィン版〕
カリーナ・ゴーヴァン(ソプラノ)
マリー=ニコル・ルミュー(コントラルト)
ジョン・テシェール(テノール)
ネイサン・バーグ(バス・バリトン)
アラン・トゥルーデル(トロンボーン)
ラ・シャペル・ド・ケベック
レ・ヴィオロン・ドゥ・ロワ
ベルナール・ラバディ(指揮)
2001年9月20日(ライヴ)
ニューヨーク,トロイ・セービングス・バンク・ミュージック・ホール

【お薦め】
「レ・ヴィオロン・ドゥ・ロワ」は、カナダのモントリオールに本拠を置くバロック・オーケストラですが、録音年月日と場所が問題で、この時ニューヨークは大変なことになっていました。そんな時に演奏された「レクイエム」ですので、特別なものを感じます。大変心がこもった、真摯で丁寧な演奏による祈りと慈しみの「レクイエム」で、独唱、合唱、管弦楽のいずれも素晴らしく、別格と言ってよい奇跡的な「名演」です。また、「レヴィン版」であるのも嬉しいです。レヴィン版は、第8曲 Lacrimosa をあまり改変していないのが良く、続く Amen Fugue て締め括っているのが好きです。いや、この演奏には版の問題など些細なことなのでしょう。最後の音が消えてしばらく経ってから拍手が起こり、この録音がライヴであったことに気がつきます。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー/フロートハウス(フロトゥイス、フロスワス)版]
マリー=ノエル・ド・カラタイ(ソプラノ)
アネッテ・マーケルト(アルト)
ロバート・ゲッチェル(テノール)
ピーター・ハーヴェイ(バス)
オランダ・バッハ教会管弦楽団・合唱団
ヨス・ファン・フェルトホーフェン(指揮)
2001年10月(ライヴ)

バッハやヘンデルの声楽曲が多いフェルトホーフェンの指揮によるモーツァルトの「レクイエム」です。普通に良い演奏です。「レクイエム」だからといって、ことさら悲劇性を強調することなく、モーツァルトの合唱曲集として演奏しているみたいです。録音も優秀です。でも、一回聴けばそれでいいかな、と思ってしまう。
気になるのは「ジュスマイヤー/フロートハウス版」と書かれていることですが、
某HMV & BOOKS ONLINE によると「ベイヌムが託した「完璧な」ジュスマイヤー版、世界初録音! 1937年から、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の芸術監督をつとめたオランダの音楽学者マリウス・ヘンドリクス・フロトゥイス(1914-2001)。肩書きこそ「芸術監督」でしたが、自分で指揮するわけではなく、芸術上の表現の問題や、楽譜の問題をクリティカルな面から補佐するという立場だったとのこと。フロトゥイスはコンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者、エドゥアルト・ヴァン・ベイヌム(1901-1959)に、「レクイエム」演奏上のアドヴァイスを求められました。それは1941年に、モーツァルト没後150年のアニヴァーサリー・イヤーに彼が指揮することになっていた「レクイエム」演奏の準備段階でのことだったといいます。フロトゥイスによれば、ベイヌムはジュスマイヤー版には決して否定的ではなかったが、やはり満足できない部分がある、と漏らしていたそうです。フロトゥイスはベイヌムとディスカッションを重ね、ジュスマイヤー版から余計なものを可能な限り取り除き、よりモーツァルトらしいものにするという方針のもと、新たな改訂作業を行ったとのことです。」だそうです。 バイヤー版の校訂が1971年ですから、その約20年前に改訂作業がなされていたのですね(以上、長い解説でした)。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
エリザベス・ヴァイグル(ソプラノ)
メグ・ブラグル(メゾ・ソプラノ)
ロドリーゴ・デル・ポーゾ(テノール)
マイケル・マクマレイ(バス)
アポロズ・シンガーズ
アポロズ・ファイア
ジャネット・ソレル指揮
2002年4月26日(ライヴ)クリーブランド

女性指揮者のジャネット・ソレルは、タングルウッドでノリントンやバーンスタイに指揮を学び、アムステルダムでレオンハルトにチェンバロを師事した経歴の持ち主で、自身が1992年に創設した古楽器オーケストラであるアポロズ・ファイア(すごい名称!)を指揮した演奏です。アグレッシヴな演奏が持ち味とのことですが、破天荒な演奏を期待したところ、表現の幅はやや大きいものの、割と普通の演奏でした。少し残念です。
と思いきや、第8曲 Lacrimosa の9小節目以降は、ルネ・シファー(アポロズ・ファイアのチェロ)による補筆となっています。また、ジュスマイヤーが作曲した第11曲 Sanctus や第12曲 Benedictus をカットしています(それじゃ、ジェスマイヤー版じゃないじゃん!)。だから、第10曲 Hostias の次は、第13曲 Agnus Dei となります。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[ジュスマイヤー版]
カリス・レーン(ソプラノ)
フランセス・ボーネ(アルト)
ポール・バドレー(テノール)
マシュー・ブルック(バス)
テネブレ
ヨーロッパ室内管弦楽団
ナイジェル・ショート(指揮)
2003年4月

いきなりハイドンの曲(Insanae et vanae curae)から始まるのでビックリします。指揮者のナイジェル・ショートは、かつてキングズ・シンガーズのメンバーとして活躍した人で、今では英国合唱界の名匠的存在であり、「テネブレ」は彼が主催する合唱団です。そのせいか、とにかく「声」「声」の演奏で、合唱はちょっと乱暴(雑)な気もしますが、これだけ威勢がよいと圧倒されるものがあります。ときには合唱団の一人ひとりがソリストみたいに歌っている曲もあり、男声は体育会系のノリです。しかし、こういう演奏は嫌いではありません。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[バイヤー版]
クリスティーネ・シェーファー(ソプラノ)
ベルナルダ・フィンク(アルト)
クルト・シュトライト(テノール)
ジェラルド・フィンレイ(バス)
アルノルト・シェーンベルク合唱団
エルヴィン・オルトナー(合唱指揮)
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
ニコラウス・アーノンクール(指揮)
2003年11月27日-12月1日(ライヴ)ウィーン,ムジークフェラインザール

【お薦め】
「ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス創立50周年記念演奏会」の録音で、アーノンクールが「これまでの自分の録音の中で最高の出来」と語った(らしい)2003年のライヴです。
このCD(SACD、LP、etc.)が今回の目玉であったわけで、多くの録音を聴いてきた耳に、この演奏はどのように聴こえるだろうと、ワクワクして聴きました。
合唱団はウィーン国立歌劇場合唱団からアルノルト・シェーンベルク合唱団に変わり、独唱者も全員変わっています。「版」は前回と同じ「バイヤー版」(100%バイヤー版ではない?)です。
その特徴を書き出したら、それだけで記事が一本書けてしまうほど個性的で、圧倒的な情報量です。
アーノンクールの(細かい)指示を完璧に表現するオーケストラと合唱団は大したものですし、それを実現させるアーノンクールはやはりすごいと思いました。「これまでの自分の録音の中で最高の出来」と胸を張って言えるわけです。
その演奏に感動するかしないかは、もちろん聴く者の感性に委ねられます。私は感銘を受けましたが、どうでしょうか?



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
ミリアム・アラン(ソプラノ)
アンネ・ブター(メゾ・ソプラノ)
マルクス・ウルマン(テノール)
マーティン・スネル(バス)
ゲヴァントハウス室内合唱団、
ライプツィヒ室内管弦楽団
モルテン・シュルト=イェンセン(指揮)
2004年11月

指揮者のモルテン・シュルト=イェンセンは、チェリビダッケやエリック・エリクソン(合唱の神様)に師事し、1999年から2006年まで、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスで聖歌隊の監督をしていた人です。ゲヴァントハウス管のメンバーから成るライプツィヒ室内管弦楽団の音楽監督を2000年から引き継ぎ、2001年にはゲヴァントハウス室内合唱団を創設しました。2回聴いてみましたが、独唱、合唱、管弦楽は、少数精鋭でいずれも高い水準にあり、特にソプラノのミリアム・アランは「レクイエム」にふさわしいボーイッシュな声で、素敵だと思いました。
シュルト=イェンセンの指揮は、どの曲も早いテンポで、深刻ぶらないところが聴きやすいのですが、反面、重みや深みに欠けるような気がします。軽すぎると思いました。良い演奏なのですけれどね。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[レヴィン版]
C.Brewer(ソプラノ)
R.Donose(メゾ・ソプラノ)
J.Tessier(テノール)
E.Owens(バス)
アトランタ交響楽団&室内合唱団
ノーマン・マッケンジー(合唱指揮)
ドナルド・ラニクルズ(指揮)
2005年1月

指揮者のドナルド・ラニクルズは、Wikipediaによると、エジンバラの生まれで、ケンブリッジ大学及びエジンバラ大学に学び、フライブルク劇場でキャリアを開始し、バイロイト音楽祭に呼ばれて『タンホイザー』などを指揮する。以後ウィーン国立歌劇場・メトロポリタン歌劇場など欧米各地で定期的に歌劇場の指揮台に立つ。2001年からアトランタ交響楽団の首席客演指揮者を、2009年からはベルリン・ドイツ・オペラの音楽監督を務めているのだそうです。なかなかの経歴ですね。
歌劇場での経験が活きているのか、なかなかドラマティックでオペラみたいな演奏です。モダン楽器による管弦楽は少人数、合唱団は人数多め。某サイトでは貶されていましたが、そんなに悪くないと思います。数(70人くらい)は力です。レヴィン版を採用したのが功を奏し、楽しめる演奏となっていました。ただ、録音は不明瞭で、TELARCにしてはそれほどよいとは思えません。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
[バイヤー版]
ユッター・ベーネルト(ソプラノ)
スザンネ・クルムビーゲル(コントラルト)
マルティン・ペツォールト(テノール)
ゴットホルト・シュヴァルツ(バス)
ライプツィヒ聖トーマス教会合唱団
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
ゲオルク・クリストフ・ビラー(指揮)
2006年1月21日(ライヴ)ライプツィヒ聖トーマス教会

【お薦め】
ゲオルク・クリストフ・ビラーは、バッハ以後16代目の聖トーマス教会合唱団カントール(教会の音楽監督、現在はゴットホルト・シュヴァルツ)でした。念のために書きますが、聖トーマス教会合唱団は少年合唱団です。つまり、この演奏の合唱のソプラノとアルトは少年合唱です。こういう場合、女声合唱だったらもっと良かっただろうにと思うことも少なくないのですが、この演奏は素晴らしいです。実にしっかりと歌っており、ハーモニーが色彩豊かになった感じがします。よくある少年合唱+男声合唱(おじさん)という組み合わせではなく、変声期前の少年と変声期後の青年?によるひとつの合唱団なので、統一感があります。唯一の女声は独唱のソプラノとアルトですが、ソプラノのユッター・ベーネルトがボーイ・ソプラノを思わせるな声であり、うまく溶け込んでいます。一緒にバッハなどを演奏する機会が多いライプツィヒ・ゲヴァントハウス管との息もぴったりという感じで、この演奏はひとつの世界が形づくられています。非常に良い演奏を聴いたという満足感に浸れました。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
シビッラ・ルーベンス(ソプラノ)
リオーバ・ブラウン(メッゾ・ソプラノ)
スティーヴ・ダヴィスリム(テノール)
ゲオルク・ゼッペンフェルト(バス)
フリーデマン・ウィンクルホーファー(オルガン)
バイエルン放送合唱団
ペーター・ダイクストラ(合唱指揮)
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
クリスティアン・ティーレマン(指揮)
2006年2月(ライヴ)ミュンヘン,ガスタイク,フィルハーモニー

【お薦め?】
ペーター・ダイクストラ(合唱指揮)のバイエルン放送合唱団合唱がとても素晴らしいです。惚れ惚れとする出来栄え、完成度で、ある程度の人数を擁する合唱団のお手本になる演奏でしょう。んなに素晴らしい合唱なので、細大漏らさず聴き取りたいのですが、(録音のせいか)オーケストラの音がうるさいのです。ティーレマンは抑えるべきところは抑えているので、やっぱりマイクがオケに味方しているのでしょう。
ただ、一般的なリスナーは、オーケストラの音もしっかり聴きたいでしょうから、管弦楽と合唱が拮抗するぐらいのバランスのほうが好ましいのかもしれません。確かにそのほうが迫力がありますしね。ミュンヘン・フィルがもう少し小さな編成であったらよかったのにと思います。昔ながらのモーツァルトの「レクイエム」を好まれる方で、新しめの録音で聴きたいという人にはぴったりかもしれません。
なんだかんだ言って、今回の中では強い印象を残した演奏でした。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
クラウディア・バラインスキー(ソプラノ)
クラウディア・リュッゲベルク(アルト)
トーマス・デヴァルト(テノール)
カルステン・メーヴェス(バス)
オイローパ・コール・アカデミー
メンデルスゾーン・シンフォニア
ヨスハルト・ダウス(指揮)
2007年7月

指揮者のヨスハルト・ダウスは合唱指揮者が本業のようです。あまり情緒に溺れず、スイスイ進行していく、引き締まった演奏です。管弦楽は小編成のモダン楽器で過不足なし、合唱もよく訓練されているようです。全体的に水準以上Hの演奏なので最後まで聴き終えることができました。演奏者全員が持てる力を発揮してベストを尽くした演奏のように聴こえ、なかなか美しかったです。こういうのを隠れた名盤と言うのかもしれません。もう少し、彫の深さのようなものがあったら【お薦め】にしてもよいと思いました。



珍しく平日のこの時間に投稿していますが、事務所のパソコンを使ったのではありません。三日間風邪で寝込んでいたからです。正確に言うと、眠れなかったので、頭痛をこらえてこの記事を書いていました。こんなことをやっているから風邪が治らないのでしょう。明日は出勤できるかな?


クルレンツィス&ムジカエテルナの3公演(2119/2/10(日)~2/13(水))S席セット券を取り損ねました。ショックです。夢も希望もありません。


モーツァルト レクイエム K.626 の名盤 2010年~2017年

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ついに最終回です!


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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
セイラ・マクリヴァー(ソプラノ)
サリー=アン・ラッセル(メゾ・ソプラノ)
ポール・マクマホン(テノール)
テディ・ローズ(バス・バリトン)
ナイジェル・クロッカー(トロンボーン)
カンティレーション(合唱)
アンティポデス管弦楽団
アントニー・ウォーカー(指揮)
2010年(?)

最終回のトップバッターは、アントニー・ウォーカー指揮の合唱と管弦楽です。でも、アントニー・ウォーカーって誰? アンティポデス管弦楽団ってどこの国のオケ? 「アンティポデス」で検索したところ、「一般的には、地球の対蹠点に住む人々のこと」を指すらしいです。
確かに言えることは、お薦めの演奏ではないということです。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版/校訂:T.クルレンツィス〕
ジモーネ・ケルメス(ソプラノ)
ステファニー・ウゼール(アルト)
マルクス・ブルッチャー(テノール)
アルノー・リシャール(バス)
ニュー・シベリアン・シンガーズ(ノヴォシビルスク歌劇場合唱団)
ムジカエテルナ(古楽器使用)
テオドール・クルレンツィス(指揮)
2010年2月 シベリア,ノヴォシビルスク歌劇場

【お薦め】
今回の「レクイエム」の聴き比べで、一番最後に聴いたCDです。つまり、このCDについて書きたかったので、「レクイエム」の聴き比べを行ったのです。「さぁ書くぞ~」と意気込んだのですが、ふと、それは「ネタバレ」ではないかと思いました。
例えば「直前のppppppから展開部のffへは、CDの限界に挑んだ壮絶な音量変化を聴くことができる」というようなことを書いたら、これから聴く人の心に、準備や覚悟が生じてしまいますよね。知らないで聴くから、新鮮な驚きや発見があり、それは感動につながるかもしれません。
アーノンクールの1981年盤には衝撃がありましたが、このCDはそれ以上です。アーノンクールの2003年の再録音では、合唱と管弦楽がアーノンクールの意図を完全に表現していましたが、ムジカエテルナには指揮者への絶対的な奉仕(服従)があります。そして、この合唱団と管弦楽団にはそれを可能とする万全な技術とセンスがあります。全く凄い演奏です。
ところで、レコード芸術3月号巻頭には「ピリオド演奏が拓く オーケストラ新時代 HIP(歴史的情報に基づく解釈)最前線を追う」という特集がありました。しかし、クルレンツィス/ムジカエテルナの名前が全然出て来ないのです。このコンビは、ピリオド楽器でパーセルやラモーを演奏してきた団体なのに不思議です。わざと避けているように思えたのですが、案の定、最後の頁で鈴木淳史氏が「クルレンツィスはHIPなのか?」と題して書いていました。副題が「正真正銘の"ヒッピー"にして恐るべき"バロック野郎"」です。言い得て妙な気もするし、いや、少し違うんじゃないか?とも思いました。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
オックスフォード・ニュー・カレッジ合唱団
エイジ・オブ・インライトゥメント管弦楽団
エドワード・ヒギンボトム(指揮)
2010年6月

【お薦め】
オクスフォード・ニュー・カレッジ合唱団による演奏で、1976年から音楽監督を務めているヒギンボトムによる演奏です。ヒギンボトムは、英国ケンブリッジ大学、コーバス・クリスティ・カレッジ大学院を修了し、フランス・バロック音楽で博士号を取り、ニュー・グローブ音楽辞典のフランス音楽の項目の執筆も担当しているのだそうです。
合唱のソプラノとアルトは少年合唱で、テノールとアルトは変声期後の青年、独唱者も、ソプラノはボーイ・ソプラノ、アルトはボーイ・アルト(と言うのだろうか?)、テノールとバス(というよりハイ・バリ?)は変声期後の青年です。
これがなかなかの美演で、「レクイエム」のソプラノとアルトは、少年に限るとさえ思ってしまったくらい。高音のきつさや音程の不安定さには多少目をつぶるとして。エイジ・オブ・インライトゥメント管弦楽団のピリオドの響きも(時に煩く)美しく聴き惚れてしまいました。
なお、ヒギンボトムとオクスフォード・ニュー・カレッジ合唱団には、1996年にリリースされた「AGNUS DEI」という、バーバーの「Agnus Dei」をメインに据えたヒーリング・アルバムがあって、世界中でヒットしたそうですが、私は全く知りませんでした。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
マリネッラ・ペンニッキ(ソプラノ)
グロリア・バンディテッリ(メゾ・ソプラノ)
ミルコ・グァダニーニ(テノール)
セルジオ・フォレスティ(バス)
コロ・カンティクム・ノウム・ディ・ソロメオ
アッカデミア・バロッカ・ウィレム・ヘルマンス
(コンサートマスター:エンリコ・ガッティ)
ファビオ・チオフィーニ(指揮)
2010年7月6-8日 イタリア,ソロメオ,聖バルトロメオ教会

「バロック・ヴァイオリンの名手エンリコ・ガッティが2006年からコンサートマスターとして参加しているイタリアのピリオド・オーケストラ、アッカデミア・ヘルマンス入魂のモツレク。ガッティを迎え、近年進境著しいアッカデミア・ヘルマンスのモーツァルトの『レクィエム』が、イタリア、ペルージャ近郊の小さな村ソロメオの聖バルトロメオ教会を神聖な響きで包み込みます(東京エムプラス)。」だそうです。指揮者のファビオ・チオフィーニは、鍵盤楽器奏者としてのほうが有名かもしれませんが、彼が設立した合唱団であるコロ・カンティクム・ノウム・ディ・ソロメオを指揮しての演奏です。期待が高まります。
と思ったら、確かに管弦楽の響きは良い(というか、少々やかましい)なのですが、合唱団が非力です。エコーをかけてごまかしているようにも聴こえます。練度が足りない合唱で残念でした。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔独唱、合唱と、カール・ツェルニーによる4手ピアノ編〕
アンジェラ・ニシ(ソプラノ)
ガイア・ペトローネ(コントラルト)
マッシモ・ロンバルディ(テノール)
アントニオ・マソッティ(バス)
アルス・アンティカ合唱団
アレッサンドロ・マランゴーニ(ピアノ)
マルコ・ヴィンセンツィ(ピアノ)
マルコ・ベッリーニ(指揮)
2011年2月11-13日 Auditorium di Mortara

「レクイエム」には弦楽四重奏版(声楽なし)がありますが、それは今回の聴き比べの対象から外しています。このCDも伴奏がピアノなので趣が違うのですが、なかなか面白いのでご紹介することにしました。
まず、合唱と独唱が管弦楽にマスキングされることがないので、よく聴こえます。発音もすごくはっきりしていて、これは意識したのかもしれません。いい加減な演奏をすると、すぐ見破られてしまうからです。各声部の動きが明快なのもありがたいです。独唱も合唱も特に優れているわけではなく、練習に付き合わされている感じもしますが、でも新鮮でしたよ。
ところでツェルニーのピアノ編曲なのですが、ピアノがあまりモーツァルトらしくないんですね。バッハを聴いているようでもあり、シューマンのようでもあり、不思議な音楽です。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
エリザベス・ワッツ(ソプラノ)
フィリス・パンチェッラ(メゾ・ソプラノ)
アンドルー・ケネディ(テノール)
エリック・オーウェンス(バス・バリトン)
ヘンデル&ハイドン・ソサエティ
ハリー・クリストファーズ(指揮)
2011年5月(ライヴ)ボストン,シンフォニー・ホール

ヘンデル&ハイドン・ソサエティ(ピリオド・オーケストラ&合唱団)という、いかにも由緒正しそうな団体名ですが、1815年3月24日設立(拠点はボストン)ですから、200年以上の歴史があります。その第13代音楽監督であるハリー・クリストファーズ(ザ・シックスティーンの指揮者です。そちらの方が有名かも)指揮による「レクイエム」はどうであったか?
意外にも、Ave verum corpus K.618 から始まります。
「レクイエム」はしっかりとした足取り。合唱団がアマチュアっぽい……、いや、独唱も含めてきちんと発音されています。クリストファーズの指導の賜物でしょうか。全体に力んでいるというか、体育会系の声楽陣のようで、それが効果的な曲もありますが、繊細な表現が必要な曲はどうも苦手なようです。乱暴に聴こえてしまうのです。全体に速めのテンポなのが救いかも。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
イーリン・メナハン・トーマス(ソプラノ)
クリスティーヌ・ライス(メゾ・ソプラノ)
ジェイムス・ギルクリスト(テノール)
クリストファー・パーヴス(バス)
ケンブリッジ・キングス・カレッジ合唱団
エンシェント室内管弦楽団
スティーヴン・クレオベリー(指揮)
2011年6月26-27日、9月27日 ケンブリッジ,キングズ・カレッジ聖堂

本記事の3枚目はオックスフォード・ニュー・カレッジ合唱団でしたが、当盤は有名さで勝るとも劣らない名門ケンブリッジ・キングス・カレッジ合唱団による演奏です。合唱のソプラノとアルトを少年(変声期前)、テノールとバスを青年(変声期後)が歌っています。その印象を漢字二文字で表現しろと詰め寄られたら、断腸の思いで「下手」と答えるしかありません。この少年達と青年達は、遊び、いや、勉学に忙しくて練習をしているヒマがないのでは?
このSACDにはオマケがありまして、Amen fugue(モーンダー版)、第11曲 Sanctus(レヴィン版)、第12曲 Benedictus(ドゥルース版)、第14曲 Lux aeterna~Cum Sanctis tuis(レヴィン版)、第8曲 Lacrimosa(フィニスィー版)が収録されています。しかし、このような企画は、お手本となる合唱団が演奏してこそ意味があると思うのです。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
ゲニア・キューマイアー(ソプラノ)
ベルナルダ・フィンク(コントラルト)
マーク・パドモア(テノール)
ジェラルド・フィンリー(バス)
オランダ放送合唱団
ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団
マリス・ヤンソンス(指揮)
2011年9月14-16日 アムステルダム,コンセルトへボウ

マリス・ヤンソンスが2004年から2015年まで首席指揮者を務めていたロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団と、オランダ放送合唱団による「レクイエム」です。現代の名指揮者と人気オケによる演奏というのは珍しいような気がしますね。
さすがにオーケストラは素晴らしいです、が、ヤンソンス、鳴らし過ぎです。モーツァルトなのですから、少し考えていただきたいものです。この強力なオケにはもう少し人数の多い合唱が必要だったのかもしれません。独唱は第4曲 Tuba mirum のバスにビックリです。こんなのは初めて聴きましたが、それに続く他の歌手は普通だったので安心しました。独唱陣はなかなか優秀です。
いや、それにしてもオランダ放送合唱団って優秀ですね。男声は立派だけれど女声は線が細いというのが第一印象でしたが、いや、繊細さと力強さを兼ね備えた立派な合唱でした。



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モーツァルト:レクィエム ニ短調 K.626
[バイヤー版&レヴィン版]
アンナ・プロハスカ(ソプラノ)
サラ・ミンガルド(アルト)
マクシミリアン・シュミット(テノール)
ルネ・パーペ(バス)
バイエルン放送合唱団
スウェーデン放送合唱団
ペーター・ダイクストラ(合唱指揮)
ルツェルン祝祭管弦楽団
クラウディオ・アバド(指揮)
2012年8月(ライヴ)ルツェルン音楽祭

Blu-ray 又は DVD で入手可能な映像作品ですが、以前BSプレミアムで録画したものを視聴しました。途中で2回ほど画像と音声が飛びました。今までそんなことはなかったのに、貴重な記録が……。
気を取り直して、まず、合唱は旧盤のスウェーデン放送合唱団に加えてバイエルン放送合唱団が参加しており、合唱はペーター・ダイクストラ、独唱の4人も充実したメンバーです。オーケストラも名手揃いのルツェルン祝祭管弦楽団ですし、これ以上の演奏者は望めないでしょう。
そんな豪華な布陣の「レクイエム」ですが、「版」の問題はさておき、この演奏は、作為とは無縁の演奏で、あまりにも自然過ぎることから物足りなさを感じる人がいても不思議ではありません。
演奏を終え、聴衆に背を向けたまま、しばらく身動きしない指揮者。2014年に世を去るアバドが、彼自身のために演奏した「レクイエム」のように思えました。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔レヴィン版〕
ヌリア・リアル(ソプラノ)
マリー=クロード・シャピュイ(メゾ・ソプラノ)
クリストフ・プレガルディエン(テノール)
フランツ=ヨーゼフ・ゼーリヒ(バス)
バイエルン放送合唱団
ミヒャエル・グレーザー(合唱指揮)
ミュンヘン室内管弦楽団
アレクサンダー・リープライヒ(指揮)
2012年12月20-22日 ミュンヘン,ヘルクレスザール

【お薦め】
2006年から2016年まで芸術監督兼首席指揮者を務めたミュンヘン室内管弦楽団を
リープライヒが指揮した演奏で、合唱は既に「レクイエム」の名唱を聴かせてくれているバイエルン放送合唱団です。この演奏は【お薦め】にしようか迷い、何度も聴きました。小編成のオケに合唱団という、このようなスタイルの演奏が多くなった昨今ですが、優秀な演奏を聴かせてくれるものの、これでなくてはというものがあまり感じられなかったからです。ただ、「レヴィン版」の録音ですし、リーブライヒの小気味良い指揮もあって、最終的には良い演奏と判断しましたので、ちょっと甘いけれど【お薦め】としました。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
ハンナ・デイヴィー(ソプラノ)
サラ=ジェーン・ルイス(コントラルト)
クリストファー・ターナー(テノール)
フレイザー・スコット(バス)
OSJヴォイセズ
エミリー・ホワイト(トロンボーン)
セント・ジョンズ管弦楽団
ジョン・ラボック(指揮)
2013年5月30日(ライヴ)St John's, Smith Square, London, United Kingdom

第1曲で、もういいかなと思ったのですが、第2曲も聴いてみました。
自主レーベルであっても、こういう演奏は世に出してはいけないと思います。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔アイブラー&ジュスマイヤー、鈴木優人補筆校訂編〕
キャロリン・サンプソン(ソプラノ)
マリアンネ・ベアーテ・キーラント(アルト)
櫻田 亮(テノール)
クリスティアン・イムラー(バス)
バッハ・コレギウム・ジャパン
鈴木雅明(指揮)
2013年12月 神戸松蔭女子学院大学チャペル

最終回でようやく日本人指揮者による演奏が登場しました。日本人指揮者による「レクイエム」は、無いわけではないのですが、非常に数が少ないです。小澤征爾による録音もありそうでないですよね。
鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパンは、18年もかけてJ.S.バッハの教会カンタータ全集を録音した、世界的に有名な指揮者と団体さんですから、この「レクイエム」も悪かろうはずがありません。オケも声楽も非常に優秀で格調が高く、立派な演奏です。日本人による演奏のせいか(?)、几帳面さ(?)が演奏に表れています。ただ、なんだろう、なぜか心惹かれないのです。十分【お薦め】に値する演奏ではあるのですが。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
サンドリーヌ・ピオー(ソプラノ)
サラ・ミンガルド(アルト)
ヴェルナー・ギューラ(テノール)
クリストファー・ピュルヴ(バス)
アクサンチュス
インスラ・オーケストラ
ロランス・エキルベイ(指揮)
2014年2月 ヴェルサイユ宮殿内王室礼拝堂

【お薦め】
ひとつ前に聴いたCDがダメダメな演奏でしたので、これを聴いたときは、普通に良い演奏であったのでホッとしました。当たり前のことですが、合唱がきちんとハーモニーを創り出していたのです。念のため、聴き直してみましたが、普通どころか、これは「名演」ではないかと思うようになりました。ロランス・エキルベイと彼女が結成したヴォーカルアンサンブルであるアクサンチュス、そしてやはりエキルベイが設立した古楽器オケであるインスラ・オーケストラが奏でる演奏は、不思議と心に沁みて来るものがあるのです。また、独唱、特にソプラノのサンドリーヌ・ピオーが「レクイエム」にふさわしい良い声です。録音会場が非常によく響く場所ですが、(オーディオ的に問題があっても)少なくとも演奏にとってはマイナスになっていないと思いました。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
オルガ・パシェチニク(ソプラノ)
アンナ・ルバンスカ(メゾ・ソプラノ)
クシシュトフ・シュミト(テノール)
クシシュトフ・ボリシェヴィチ(バス)
ルーカシュ・ホドル(トロンボーン)
シンフォニア・アマビーレ合唱団
シンフォニア・アマービレ管弦楽団
ピオトル・ヴァイラク(指揮)
2014年4月 Norbertine Sisters Church, Salvator, Cracow, Poland

調べてもわからない指揮者と合唱団&オーケストラ。嫌な予感がします。
その予感は見事に当たりました。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版に基づくデュトロン補完版 2016〕
ゾフィー・カルトホイザー(ソプラノ)
マリー=クロード・シャピュイ(アルト)
マキシミリアン・シュミット(テノール)
ヨハネス・ヴァイサー(バリトン)
RIAS室内合唱団
フライブルク・バロック・オーケストラ
ルネ・ヤーコプス(指揮)
2017年7月 テルデックス・スタジオ・ベルリン

ルネ・ヤーコプスは私が紹介するまでもない有名な人ですよね。カウンターテナーとして名指揮者の録音に参加していましが、指揮者としても活躍しています。でも廃盤になったものが多いみたいです。そのヤーコブスが「レクイエム」を録音し、版も「ジュスマイヤー版に基づくデュトロン補完版 2016」という珍しいものを採用したので、ちょっと話題になりました。声楽出身の指揮者の演奏は声楽陣が充実しているので期待がもてます。少数のオケと合唱によるピリオド・スタイルの演奏は、見通しがよく、清々しさを感じさせます。第1曲 Requiem aeternam は100%モーツァルトなので変えようがありませんが、第2曲 Kyrie からオケに聴き慣れない響きが聴こえます。優秀な合唱ですが、オケが気になって集中できません。第3曲 Dies iræ ではソロや重唱が入ります。第4曲 Tuba mirum ではオケのやや饒舌なアレンジが気になります。第5曲 Rex tremendæ も管弦楽に大きな変更があります。第6曲 Recordare の重唱は美しいです。第7曲 Confutatis の荒々しさと優美さの対比も巧いです。第8曲 Lacrimosa は重唱と合唱が交互に演奏されるのがやや不自然かも。後半は意外性もあります。第9曲 Domine Jesu は速めのテンポ。合唱の巧さが光ります。これも途中から変化があります。第10曲 Hostias は良いテンポ、と思ったら合唱ではなく重唱。第11曲 Sanctus はジュスマイヤー作曲なのでいじりやすいのでしょう。曲の単調さを回避するいろいろな工夫があります。第12曲 Benedictus も別の曲になってしまったかのよう。Hosanna が面白いです。第13曲 Agnus Dei もいろいな変化を見せ、第14曲 Lux aeterna は普通に良い演奏だと思ったら最後にまた驚かされます。
この指揮者に独唱陣・合唱団・管弦楽団であれば、ジュスマイヤー版でも名演になったでしょう。それをこんなヘンテコリンな版を使って!と嘆く人(怒る人)もいると思います。でも、私は最後まで面白く聴けました。【お薦め】にはしませんが、「レクイエム」は聴き飽きたという人に、是非聴いていただきたい演奏です。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
ザルツブルク大聖堂聖歌隊
ザルツブルク大聖堂ソロイスツ
ザルツブルク大聖堂管弦楽団
ヘリベルト・メッツガー(オルガン)
ヤーノシュ・シフラ(指揮)
録音年不詳
Live recording, Salzburg Cathedral, Salzburg, Austria

これも昔ながらのスタイルの「レクイエム」です。聴衆の咳が入るのでライヴということがわかります。大聖堂らしく残響豊かな録音で、演奏の粗が目立ちません。この盛大な残響が問題で、響きが常に混濁しており、聴くのがつらいです。
このライヴは、残す価値があったのでしょうか。



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モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
Teresa Hopkin
Valerie Walters
Bradley Howard
Kenneth Shaw
アトランタ歌劇場管弦楽団&合唱団
ウィリアム・フレッド・スコット(指揮)
録音年不詳

ウィリアム・フレッド・スコットは、1981年から1988年までアトランタ交響楽団の指揮者、1985年から2005年までアトランタ歌劇場の芸術監督と首席指揮者を務めた人ですから、その頃の録音なのかもしれません。また、かの有名なシャンティクリア( Chanticleer とは、サンフランシスコに拠点を置く男声アンサンブルグループ)の5番目の音楽監督でもあります。それだけ声楽に精通している人ということですね。オルガン奏者としても知られている人です。
昔ながらの重厚な「レクイエム」で、重く引きずる演奏です。と思ったら第3曲 Dies iræ は意外なほど速く、緩急の差を設けた巨匠風の解釈のようです。オケの伴奏を止めて合唱だけを聴かせたりと、他の版からの応用も聴かれます。合唱はかなり人数が多く、数は力となっており、残響の多さも手伝って量感たっぷりの美しい歌声を聴かせます。重唱も同様です。オケも巧いです、が、どこか残響の多さにごまかされているような気もします。総じて良い演奏だと思いますが、名盤が多い中で、これでなくてはならないという魅力に欠けるように思います。



明日から「レクイエム」を聴かなくてもいいんですよね?



フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)を聴く(その1)

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やっとモーツァルトの「レクイエム」から解放され、いろいろな曲を聴こうと思った今週ですが、仕事が忙しかったんですよ。金曜日までに終わらなかったので、家に持ち帰り、土・日曜日に仕上げようと考えたのですが、どうもやる気が起きません。それに、なんだかすごく眠いのです。ブログも一週飛ばそうかと思いましたが、少し書いてみます。ブログのトップ・ページに「レクイエム」のタイトルが3つ並んでいるのも、何やら不吉な感じがしますしね。

最近あちこちでフランソワ・グザヴィエ・ロトの名前を見かけます。レコード芸術3月号の表紙はロトで、特集「ピリオド演奏が拓くオーケストラ新時代」も扉はロトの写真、ロトへのインタビューも4頁あります。

HIP(歴史的情報に基づく解釈)の代名詞的存在にまで駆け上がったロト。しかし、私は今までロトの指揮による演奏を聴いたことがありません。その理由は、ロトのCDが高いからです。(R. シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語り」と「アルプス交響曲」は安くなったようです。)

フランソワ・グザヴィエ・ロト(Francois-Xavier Roth)について紹介します。いろいろなところから寄せ集めてつくりました。

1971年11月パリ生まれ。
父は作曲家であり、教育者としても高名なオルガニストのダニエル・ロト。
パリ音楽院でフルートをアラン・マリオンに、指揮をヤーノシュ・フュルストに師事。
ロンドンのドナテッラ・フリック指揮コンクールで第1位を獲得。この受賞により、ロンドン交響楽団のアシスタント・コンダクターに任命され、ジョン・エリオット・ガーディナーのアシスタント・コンダクターも務めることになる。
これに並行して、ロトはアンサンブル・アンテルコンタンポラン、カーン劇場と密接な関係を築き、さらにトゥールーズ・キャピトール管弦楽団、マリインスキー劇場管弦楽団、パリ管弦楽団とも関わりを深め、2003年9月にパリ音楽院の指揮科教授となる。
2003年、作曲当時の様式に合わせてモダンとピリオド両方の楽器を用いるオーケストラ、「レ・シエクル」を結成。
2011~2016年バーデン=バーデン・フライブルクSWR交響楽団(←2016年7月17日に最終公演)の首席指揮者。
2015年よりケルン市音楽総監督(GMD)としてケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団及びケルン歌劇場を率いる。
2017年9月よりロンドン交響楽団首席客演指揮者。
2017年レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエ受賞。


ロトといえばレ・シエクル、レ・シエクルといえばロトというように、この名コンビが評判になっているわけですが、フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮のレ・シエクルの録音がどれだけあるのか、調べてみました。



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ショパン:ピアノ協奏曲第2番ヘ短調 Op.21
ショパン:ピアノ協奏曲第1番ホ短調 Op.11
ドニ・パスカル(ピアノ/プレイエル)
レ・シエクル
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
2005年 フランス,Theatre Imperial de Compiegne



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ベルリオーズ:幻想交響曲 op.14a
レ・シエクル
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
2009年8月30日 ラ・コート・サンタンドレ,シャトー・ルイXI



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サン=サーンス:
交響曲第3番ハ短調 op.78「オルガン付き」
ピアノ協奏曲第4番ハ短調 op.44
ダニエル・ロト(1862年カヴァイエ=コル製オルガン)
ジャン=フランソワ・エッセール(1874年エラール製ピアノ)
レ・シエクル
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
2010年5月16日 パリ,サン・シュルピス教会
2009年6月16日 オペラ・コミーク座



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マルタン・マタロン:
トラムIV (2001) ~ピアノと11楽器のための
トラムII (1999) ~クラヴサンと6楽器のための
トラムVIII (2008) ~マリンバと6楽器のための
フローランス・チョッコラーニ(ピアノ)
モード・グラットン(チェンバロ)
南恵理子(マリンバ)
レ・シエクル
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
2009年11月20日 ロシェル,ラ・クルシヴ
2009年11月15日 アルル,メジャン教会



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グラズノフ:
バレエ音楽「ライモンダ」第2幕より「サラセン人の入場」「東洋の踊り」
グラズノフ:
バレエ音楽「四季」より「秋のバッカナール」
シンディング/チャーリー・パイパー編:
東洋舞曲 Op.32-5
アレンスキー:
バレエ音楽「エジプトの夜」より「エジプト女の踊り」「蛇のシャルムーズ」「ガジーの踊り」
グリーグ/ブルーノ・マントヴァーニ編:
小妖精 Op.71-3(抒情小曲集より)
ストラヴィンスキー:
バレエ「火の鳥」全曲 (1910)
レ・シエクル
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
2010年10月2日 パリ,シテ・ド・ラ・ミュジーク
2010年10月9日 ラン大聖堂



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デュボワ:
フリチョフ序曲 (1880)
ピアノ協奏曲第2番 (1897)
十重奏曲 (1909)
ヴァネッサ・ワーグナー(ピアノ/1880年製エラール)
レ・シエクル
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
2011年



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デュカス:
交響詩「魔法使いの弟子」 (1897)
カンタータ「ヴェレダ」 (1888)
「ポリュークト」序曲 (1891)
シャンタル・サントン(ソプラノ:2)
ジュリアン・ドラン(テノール:2)
ジャン=マニュエル・カンドノ(バリトン:2)
レ・シエクル
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
2011年4月12日 ヴェネツィア,スクオーラ・グランデ
2012年5月31日 ラベイ・ド・レポー



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リスト:
ダンテ交響曲(ダンテの「神曲」による交響曲
交響詩「オルフェウス」
カーン聖歌隊
レ・シエクル
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
2011年9月9日 パリ,ラン大聖堂
2011年12月4日 カーン劇場



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ドビュッシー:
管弦楽組曲第1番 (1882)
「海」~3つの交響的スケッチ
レ・シエクル
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
2012年2月2日 パリ,シテ・ド・ラ・ミュジーク
2012年4月13日 ローマ,聖チェチーリア音楽院



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シャブリエ:狂詩曲「スペイン」
マスネ:歌劇「ル・シッド」~バレエ組曲
ラヴェル:道化師の朝の歌
ドビュッシー:管弦楽のための「映像」~イベリア
レ・シエクル
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
2012年8月24日 ラ・シューズ・デュー音楽祭
2013年2月9日 パリ,サル・プレイエル
2014年3月28日 ペルピニャン,ラルシペル



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ストラヴィンスキー:
バレエ「春の祭典」(1913年初版)
2013年5月14日 メス・アルセナル
2013年5月16日 グルノーブルMC2
2013年9月29日 フランクフルト旧オペラ座
バレエ「ペトルーシュカ」(1911年初版)
2013年5月14日 メス・アルセナル
2013月16日 グルノーブルMC2
レ・シエクル
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)


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ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」全曲
アンサンブル・エデス
レ・シエクル
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
2016年
フィルハーモニー・ド・パリ
シテ・ド・ラ・ミュジーク・ド・ソワソン
コンピエーニュ帝国劇場
セナール劇場
アミアン・カルチャーセンター(以上、フランス)
ライスハレ(ハンブルク)
スネイプ・モルティングス・コンサートホール(オールドバラ)



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リゲティ:
6つのバガテル (1953)~木管五重奏のための
室内協奏曲 (1970)
10の小品 (1968)~木管五重奏のための
マリオン・ラランクール(フルート)
エレーヌ・ムロ(オーボエ)
クリスティアン・ラボリ(クラリネット)
ミカエル・ロラン(バソン)
ピエール・ルジェリ(ホルン)
レ・シエクル
フランソワ=グザヴィエ・ロト
2016年4月12-14日
アルル,メジャン礼拝堂
パリ,シテ・ド・ラ・ミュジーク



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メサジュ:歌劇「お菊さん」より「Le jour sous le soleil beni」
ドビュッシー:歌劇「ペレアスとメリザンド」より「Mes longs cheveux descendent」
ドリーブ:歌劇「ラクメ」より「若いインドの娘はどこへ?」
ドラージュ:「4つのインドの詩」
ドビュッシー:「アリエルのロマンス」
ドリーブ:歌劇「ラクメ」より「おいで、マリカ」
ストラヴィンスキー:「夜鳴きうぐいす」より「Ah, joie, emplis mon Coeur」
トマ:歌劇「ハムレット」より「A vos jeux, mes amis」
ベルリオーズ:「オフェリアの死」
マスネ:歌劇「タイス」より「Celle qui vient est plus belle」
ケクラン:「ヴォヤージュ」
ドリーブ:歌劇「ラクメ」より「Tu m'as donne le plus doux reve」
サビーヌ・ドゥヴィエル(ソプラノ)
マリアンヌ・クレバッサ(メゾ・ソプラノ)
ジョディー・デボス(ソプラノ)
アレクサンドル・タロー(ピアノ)
レ・シエクル
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
2017年2~3月



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ラヴェル:
バレエ「マ・メール・ロワ」
「シェエラザード」序曲
組曲「クープランの墓」
レ・シエクル
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
2016年10月31日 フィルハーモニー・ド・パリ
2016年11月2日 ロンドン,サウスバンク・センター
2016年11月4日 シテ・ド・ラ・ミュジーク・ド・ソワソン
2017年5月20日,9月9,17日 フィルハーモニー・ド・パリ
2017年8月13日 ブローニュ=ビヤンクール,ラ・セーヌ
※2018年4月10日発売


完全ではないかもしれませんが、ざっとこんなところです。結構いっぱいあります。ピリオド楽器オーケストラといっても、バッハやモーツァルトを演奏するのではなく、100年ぐらい前の曲から現代曲までがレパートリーの中心のようです。やはり、フランス物が多いですね。そのうちの数点が日本で高い評価を得ました。実は、ロトの録音はこれだけではなく、別のオーケストラを指揮した録音も多いのです。それについては後で触れますが、まずはロト指揮のラ・シエクルの演奏を聴いてみたいと思います。

1枚目は、2014年度の第52回レコード・アカデミー賞「大賞」を受賞した、ストラヴィンスキーの「春の祭典」(1913年初版)、「ペトルーシュカ」(1911年初版)です。

これは「ペトルーシュカ」が面白かったです。その理由はおそらく、私が所有しているCDの多くが「1947年販(3管編成)」であり、このCDは「1911年販(4管編成)」であることから、新鮮に聴こえたのだと思います。このCDの「1911年販(4管編成)」は大編成なのに「地味な印象がある」とWikipediaに書かれていますが、ピリオド楽器オーケストの「レ・シエクル」だと、いっそう地味に聴こえます。また、キングインターナショナルさんは「通常の交響楽団がこの版をとりあげると、もっさりと重くなりますが」と書いていますが、レ・シエクルのほうが「もっさり」しているのでは?

さて、来日公演でも演奏する「春の祭典」ですが、「キングインターナショナル」さんは、このCDについて重要なことを書いていますので、再び引用させていただきます。「まず冒頭のファゴット(1900年ビュッフェ・クランポン製バソン)の音から未知のもので衝撃度満点。また小型のフレンチ・チューバ、小トロンボーンも新鮮で、ピストン・ホルン8本の響きも独特。ロシア的な重量感あふれる音で奏されるのが常ですが、この明るいフランス的音色こそまさに初演時の音。目から鱗が落ちる衝撃度です。また「春の祭典」初演時1913年版楽譜は自筆のままでパウル・ザッハー財団が所蔵していますが、ロトはこれと1922年ロシア音楽出版社初版のスコア、モントゥー所蔵の1920年代初頭の楽譜を検討、音の間違いとストラヴィンスキーが改訂した箇所をはっきりさせ、1913年5月29日初演時の音の再現を試みました。」とあります。

「春の祭典」全曲を聴くなんて、本当に久しぶりです(来週の火曜日に実演を聴く予定ですが。)。

簡単に書くつもりの記事が、ここまででだいぶ長くなってしまいましたので、ここからペースを早めます。早く終りにして仕事をしなければ! 焦ります。

「ペトルーシュカ」もそうだったのですが、「春の祭典」でもロトの優れたリズム感覚に感心しました。聴いていて気持ちが良いのです。聴きながら、ふと思ったのですが、これが現代の楽器による演奏でああれば、もっと優れた、素晴らしい演奏になったのではないか、と。(これがレコード・アカデミー賞大賞受賞?という気がしないでもありません。)

このCDのこだわりのひとつである「版」についてですが、「1913年5月29日初演時の音の再現」としています。これについては信じるほかありませんし、今回の来日公演も「100名のオリジナル楽器オーケストラで蘇る初演の響き」という触れ込みですから、本当なのかもしれません。

この「版」の問題については、ブログ生命をかけて取り組んでいる方がいらっしゃいますので、そちらを参照していただければと思いますが、「春のきざし」のリズムのきざみが急に弱くなったり、「春のロンド」の終り頃の一瞬の空白など、聴いたことがない箇所がありました。

次にですね、端折って書きますが、同じストラヴィンスキーの「火の鳥」(全曲)も聴きました。これも、1910年6月のピエルネ指揮パリ・オペラ座での初演された際の再現というこだわりのCDです。

ストラヴィンスキーのオーケストレーションの妙やメロディの美しさに心を奪われる瞬間がたびたびあるものの、この年齢になると全曲聴くのはしんどいです。早く「魔王カスチェイの凶悪な踊り」にならないかなと、辛抱して聴きました。

「火の鳥」もずいぶん長いこと全曲盤を聴いていなかったのですが、そのせいか、レ・シエクルの演奏は違和感なく聴くことができました。ロトの指揮、楽曲解釈は変わらず優れたもので、テンポ設定は常にドンピシャという感じです。

その次は、ドビュッシーの「海」です。ロト&ラ・シエクルに最初に興味を持ったのがこの曲の録音でした。ドビュッシーの時代の響きとはどんなものだったのでしょう。これは、聴き比べをしようと思い、このCDを用意しました。

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ドビュッシー
「海 - 管弦楽のための3つの交響的素描」
「夜想曲」
フィルハーモニア管弦楽団
マイケル・ティルソン・トーマス(指揮)
1982年 ロンドン,EMIスタジオ

これはもう、久しぶりに聴いたMTTの「海」が素晴らしくて、そちらの方がメインの試聴になってしまったのですが、ざわざわっとした感じのレ・シエクルも悪くはなかったです。ただ、現代オーケストラ(といっても、もう36年前の録音になってしまいましたが)の機能的な響きにはかなわないような気がします。


そして、デュカスの交響詩「魔法使いの弟子」ですが、これも次のCDと聴き比べてみました。

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シャブリエ:楽しい行進曲
デュカス:交響詩「魔法使いの弟子」
シャブリエ:狂詩曲「スペイン」
サティ:2つのジムノペディ(ドビュッシー編)
サン=サーンス:バッカナール
ビゼー:小組曲「子供の遊び」
トマ:歌劇「レーモン」序曲
イベール:喜遊曲
モントリオール交響楽団
シャルル・デュトワ(指揮)
1987年10月 モントリオール

デュトワの名盤です。ただ、CDの劣化(不良品?)に気づいてしまい、ちょっと残念でしたが、非常に洗練された美しい「魔法使いの弟子」を聴くことができました。これに比べると、やはりロト&レ・シエクルは、音色・色彩の点で劣るように思われました。

ロト&レ・シエクルもけして悪くはないです。ただ、比較に用いているのが名盤なので、分が悪いというところでしょうか。

ロトはオーケストラ・コントロール&ドライヴという点において、過去の指揮者に比べても、かなりの実力の持主と見ましたので、現代楽器のオーケストラとの再録音を期待したいところです。

とはいうものの、何度も聴くと、ラ・シエクルの響きに慣れてしまい、それはそれで繰り返し聴きたくなる魅力を放っていますので、不思議なものです。頭が混乱します。


ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」全曲も聴きましたが、これは期待したほどではなかったので、感想を省略します。むしろ、4月10日発売の「クープランの墓」他が楽しみです。


さて、後で触れると書いた、ロトが別のオーケストラを指揮した録音です。この勢いで書いてしまうと考えましたが、もう力が残っていません。来週に送りたいと思いますが、ガラリとレパートリーが変わって、リヒャルト・シュトラウスの管弦楽曲と、マーラーの交響曲を指揮した演奏になります。


ああっ、もうこんな時間!

ユジャ・ワン ブラームス: ピアノ協奏曲第1番 ニ短調

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それは2017年11月1日のことでした。

「11/24公演 ソリスト変更のお知らせ」
11月24日(金)公演に出演を予定しておりましたラン・ランは、かねてより治療を行っていた左腕の腱鞘炎の回復が思わしくなく、11月のアジア・ツアー(日本公演を含む)までに完治する見込みが立たないため、出演が不可能となりました。代わって、ユジャ・ワンが出演いたします。曲目の変更はございません。

このコンサートです。

2017年11月24日(金) 19時開演 サントリーホール(プログラム②)
TDKオーケストラコンサート2017
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
サイモン・ラトル(指揮)

<プログラム②>
R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」 Op.20
バルトーク:ピアノ協奏曲第2番 ト長調 Sz.95
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 Op.98

このコンサートのチケットは取っていなかったのですが、ピアノがユジャ・ワンだと知っていたら、行きましたよ!(ラン・ランのファンの皆様、ごめんなさい。ラン・ラン、心配ですね。)

その後、ユジャ・ワンが2018年3月13日(火)に再び来日すると知り、今度は迅速かつ確実にチケットを入手しました。

しかし、チケットを取ったことで満足してしまった私は、この演奏会の曲目はおろか、協演者さえ知らなかったのです。そのことの優先度が低かったのですね。

JHさんのブログで、このコンサートが以下の内容であることを初めて知りました。ユジャ・ワンに加えて「春の祭典」まで聴けるなんて、とてもラッキー!


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2018年3月13日(火) 19:00開演 サントリーホール
ブラームス: ピアノ協奏曲第!番 ニ短調 op.15
ストラヴィンスキー: バレエ「春の祭典」
ユジャ・ワン(ピアノ)
ニューヨーク・フィルハーモニック
ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン(指揮)

このコンサートは昨日だったのです。もちろん行きました。事務所を出るとき、外出先の上司から電話がありました。「△△△の□□□さんの資料をメールで送ってほしいんだけれど……」「そんな人、知りません(ガチャッ!)」
コンサートに遅刻したら、どうしてくれるんだ!です。

今年初めてのサントリーホールです。ソールド・アウトとのことで、2階席の一番後ろまでお客さんが入っています。いい感じです。

側に座っていたお姉さんは、クラシックのコンサートが初めてなのか、スマホでステージ(ニューヨーク・フィルの練習風景)を撮影していましたが、突然「あっ指揮者だ!」と小さく叫びました。ズヴェーデンではなく、指揮者の譜面台にスコアを置きに来たオジサンでした……。

客席の照明が落ち、ユジャ・ワンとズヴェーデン(本物です)が登場します。ユジャ・ワンの衣装は、彼女としては普通で安心しました。

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以前もらったサインを再掲(この衣装ではありません。)

ヨハネス・ブラームス
ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15

第1楽章:実演で聴くのは初めてかも? 第1主題が始まります。この曲は独奏ピアノが登場するまでが長いです。若書き(24歳の時の作品)ですから、オーケストレーションが薄い感じがします。
やっとピアノ・ソロが始まります。オケの伴奏がずれているような……。でも、こんなにもブラームスらしく弾けるようになったユジャ・ワンの成長を心から嬉しく思いました。
この楽章には、ブラームス・トリルという「オクターブを親指と薬指で弾きつつ、薬指と小指でトリル」という、想像がつかない難所があるのですが、さすがのユジャ・ワンも大変そうです。「〇〇さんもここは全然弾けてなかったなぁ」と、以前実演で聴いた記憶がやっと蘇りました。

第2楽章:この楽章が一番良かったかもしれません。切々とした歌とピアノの高音の美しさが際立っていました。いつまでも聴いていたかったです。ブラームスがクララに「あなたの穏やかな肖像画を描きたいと思って書いた」と気障なことを述べたという音楽。次の楽章は、間を置かずに開始されるであろうという予感がしました。

第3楽章:お客さんに咳をする暇も与えず、ピアノが疾走します。後はフィナーレまで一直線。

約50分という長くて短い時間が終わり、盛大な拍手。何度も呼び戻されたユジャ・ワンのアンコールは、彼女の定番「シューベルト/リスト編曲:糸を紡ぐグレートヒェン」でした。

「春の祭典」目当てのお客さんばかりで、これで拍手が終わってしまうかと思ったら、まだまだ拍手は続き、2度目のアンコールが始まります。ノリのいいお客さんでよかった。「メンデルスゾーン:無言歌集 op.67-2 失われた幻影

オケのメンバーが退場し始めて、やっと拍手が終わります。

ところで、ブラームスのピアノ協奏曲第1番は、既に記事を書いています。
2009年9月20(日)の記事です。今年は2018年ですよ。喜びも悲しみも幾歳月。

これでまたしばらくユジャ・ワンのピアノが聴けなくなると思うと、寂しくなりましたが、今年の12月1日と2日に再び彼女がサントリーホールにやって来るのです。

12月1日(土)サントリーホール
ブラームス: ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 op.83 
マーラー: 交響曲第1番 ニ長調 「巨人」

12月2日(日)サントリーホール
プロコフィエフ: ピアノ協奏曲第3番 ハ長調 op.26 
ブルックナー: 交響曲第9番 ニ短調

えーと、指揮とオケは、ゲルギエフでミュンヘン・フィルです。

話は戻り、後半のストラヴィンスキー「春の祭典」、とても素晴らしい演奏でした。CDや映像で観聴きするのと違って、やっぱり「生春」は視覚効果が絶大ですね。そちらの感想は、一家言をもつGM氏が詳しく書かれているので、私は遠慮します。

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なお、アンコールは、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」でした。「ニーベルングの指環」を香港フィルと全曲録音しているズヴェーデンらしい選曲でした。「春の祭典」の後では、このぐらいの曲でないと締まらないのでしょう。

終演後、ぐらごるみささんと会食しました。ぐらごるみささんと初めてご一緒したのはサントリーホールで、その後に行ったのも同じ店でした。すっかり帰りが遅くなってしまいましたが、コンサートの翌朝に感想をアップしている、ぐらごるみささんの睡眠時間が心配です。


フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)を聴く(その2)

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今回登場するオーケストラについて整理しておきたいのですが、このオケは、いろいろな事情によって名称が変わっていきます。

バーデン=バーデン市立療養地交響楽団 ⇒ 南西ドイツ放送管弦楽団 ⇒ 南西ドイツ放送大楽団 ⇒ 南西ドイツ放送交響楽団 ⇒ バーデン=バーデン・フライブルクSWR交響楽団⇒ 南西ドイツ放送交響楽団(SWR Sinfonieorchester)という具合に。

フランソワ=グザヴィエ・ロトは、2011年から2016年まで、バーデン=バーデン・フライブルクSWR交響楽団の首席指揮者の任にありました。短い間でしたが、名演を残しています。今回はそれを聴きました。


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マーラー:交響曲第1番 ニ長調「巨人」
ヴェーベルン:大管弦楽のための牧歌「夏風のなかで」
バーデン=バーデン・フライブルクSWR交響楽団
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
2011年10月29日、11月2,3日 フライブルク,コンツェルトハウス

マーラーはけして嫌いな作曲家ではないのですが、ここのところ、年に数回しか聴いていません。中でも「巨人」は聴く機会が少ない交響曲です。
しかし、この演奏は何度も繰り返し聴いてしまいました。他の演奏と聴き比べをしていないので、あまり詳細について書くことはできないのですが、音楽が大変瑞々しく、清々しく、美しく、色彩的で、よく歌い、弾みます。「巨人」ってこんなに佳い曲だったっけ?と思いました。もしかしたら、この演奏は結構個性が強いのかもしれませんが、「巨人」はこれぐらいやってくれたほうが聴き甲斐があります。
モダン・オケ(それもドイツの)を振らせてもロトは、優れた指揮者であることを実感しました。これは「巨人」の演奏について語るとき、外してはならない名演でしょう。録音も優秀です。
ロトというと、ピリオド&モダン・オーケストラである「レ・シエクル」との録音が有名ですが、現代オーケストラを指揮させたらどうなのかという問いに対する答えがここにあります。


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リヒャルト・シュトラウス:
交響詩「英雄の生涯」Op.40
交響詩「死と変容」Op.24
クリスティアン・オステルターク (ヴァイオリン)
バーデン=バーデン・フライブルクSWR交響楽団
フランソワ=グザヴィエ・ロト (指揮)
2012年11月7,8日 2012年6月26~28日 フライブルク,コンツェルトハウス

冒頭で息を吸い込む音が聴こえます。臨場感があって良いです。リヒャルト・シュトラウスは好きな作曲家ですが、私の場合、聴く曲が限られていて、好きな指揮者の演奏による「英雄の生涯」であっても、滅多に全曲通して聴くことはないのですが、これは最後まで聴けました。面白く、楽しく聴くことができたのです。これはすごいことだと思います。「死と変容」も名演です。

リヒャルト・シュトラウス:
交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」Op.28
2012年6月23-29日 フライブルク,コンツェルトハウス
交響詩「ドン・キホーテ」Op.35
2012年12月20日 マンハイム,ローゼンガルテン
2012年12月21日 フライブルク.コンツェルトハウス
交響詩「マクベス」Op.23
2013年3月14,19日 フライブルク,コンツェルトハウス
フランク=ミヒャエル・グートマン(チェロ)
ヨハネス・リューティ(ヴィオラ)
バーデン=バーデン・フライブルクSWR交響楽団
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)

このCDに収められている曲は、特に私が聴かない曲ばかりです。「ティル」なんて、少なくとも10年以内に聴いたことはないはずです。中学生の頃は「ドン・ファン」とともに、ショルティ/シカゴ響の演奏で親しんだ曲だったのですが。
それにしても、バーデン=バーデン・フライブルクSWR交響楽団ってよいオーケストラですね。ベルリン・フィルやシカゴ響の演奏だと、4管編成のオケの響きだけでお腹いっぱいになってしまうのですが、この演奏はR.シュトラウスの巧みなオーケストレーションを楽しむ気持ちになれます。これも名演。
故吉田秀和氏が評価していた「ドン・キホーテ」も快演です。ロトの指揮によるオーケストラが実に活き活きと演奏しています。このオケで「春の祭典」を録音してくれたら……。


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リヒャルト・シュトラウス:
交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」Op.30
交響的幻想曲 Op.16「イタリアより」
イェルモライ・アルビケル(ヴァイオリン)
バーデン=バーデン&フライブルクSWR交響楽団
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
2013年9月4,5日 2014年2月17,18日 フライブルク,コンツェルトハウス

冒頭のオルガンの重低音がすごいです。このCDも素晴らしい録音です。また、ティンパニがカラヤン/ベルリン・フィルのオスワルト・フォーグラーのようだと言ったら言い過ぎでしょうか。「アルプス交響曲」もそうですが、ティンパニがいい音を出しています。この「ツァラトゥストラ」も非常な名演で、私は長いことカラヤン/ベルリン・フィルによるいくつかの録音や映像が最上と思っていましたが、もしかしたら、これはそれを上回るかもしれないと感じました。また、全体の構成がカラヤンと似ているとも思いました。カラヤンよりも彫琢した表現がロトによる演奏の特徴でしょうか。


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リヒャルト・シュトラウス:
アルプス交響曲 Op.64
2014年11月5,6日 フライブルク,コンツェルトハウス
交響詩「ドン・ファン」Op.20
2014年9月28日 フランクフルト,アルテ・オーパー
バーデン=バーデン&フライブルクSWR交響楽団
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)

夜(Nacht)~日の出(Sonnenaufgang)~登り道(Der Anstieg)を聴き、なんて立派な「アルプス交響曲」という言葉が思わず出てしまう演奏です。これは演奏・録音ともに「アルプス交響曲」の最上のひとつに数えられます。少なくとも、これを聴いているときは、ベストワンではないかと思いました。私が好きな「アルプス交響曲」のCDはこれ1枚で足りると断言したくなったくらい。この大曲の、ほんの細かいところまでロトの意思が浸透し、それを体現するオケの優秀さに感服します。そしてそれを余すところなく伝えてくれる録音の優秀さ。雷雨と嵐、下山( Gewitter und Sturm, Abstieg)他で聴けるティンパニがカッコイイです。スペクタクルな音響だけでなく、日没(Sonnenuntergang)~終末(Ausklang)~夜(Nacht)のしみじみとした表現も見事です。
また「アルプス交響曲」の実演を聴きたくりなしましたが、理想的な編成だと150人くらい必要なので、そう簡単にはいかないのでしょうね。
「ドン・ファン」は、「ティル」と同じで、中学生の頃にはよく聴いたのですが、全曲を聴くことは十数年なかったと思います。これは冒頭だけ聴けばいいやと思ったのですが、演奏の見事さに、全曲聴いてしまいました。


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リヒャルト・シュトラウス:
家庭交響曲 Op.53
メタモルフォーゼン~23の独奏弦楽器のための習作
バーデン=バーデン&フライブルクSWR交響楽団
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
2014年9月9-11日,2015年3月6日

リヒャルト・シュトラウスは好きな作曲家ですが、全部好きというわけではなく、この「家庭交響曲」のように、通して聴いたことが数回しかないという曲もあります。演奏自体は素晴らしいのですが……。
併録の「メタモルフォーゼン」のほうが楽しめました。もっとも、この曲は「取りかえしのつかない消失についてのなげき」「現実の死、一つの国家の死を描いた悲痛きわまりない死の音楽」という内容なので、楽しむと書くのは不謹慎なのかもしれません。


以上のように、非常に素晴らしいマーラーやリヒャルト・シュトラウスを聴かせてくれたフランソワ=グザヴィエ・ロトとバーデン=バーデン&フライブルクSWR交響楽団ですが、このオーケストラはシュトゥットガルトSWR交響楽団(シュトゥットガルト放送交響楽団)に吸収合併され、南西ドイツ放送交響楽団になってしまいました。ロトの首席指揮者としての地位もそこで終わってしまったようです。残念ながら。


今回2番目に登場するケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団は、ケルン歌劇場の専属オーケストラで、前回書きましたとおり、ロトは、2015年からケルン市音楽総監督としてケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団及びケルン歌劇場を率いています。その最新録音です。


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マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調
ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
2017年2月20-22日 ケルン、シュトールベルク街スタジオ

レコード芸術2月号 181頁で「驚異の耳!超絶エレガンス!ロトの真価漲る決定的マラ5」と題し、舩木篤也氏が絶賛した演奏です。
この演奏は数回聴きました。演奏の方向性はバーデン=バーデン&フライブルクSWR交響楽団とのものとは変わらないと思います、が、私が受けた印象はだいぶ異なります。なんというか、ぎこちなさを感じるのです。ロトの意図を表現し切れていないように思えてならないのです。
例えば第1楽章の第1トリオ「突然、より速く、情熱的に荒々しく」、第2楽章終わり近くの「金管の輝かしいコラールがニ長調で現れる」、第3楽章の「コーダ」など、ロトであれば、もっと効果的に、感動的な演奏ができたのではないでしょうか。ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団との演奏は不完全燃焼に終わっているように思ってしまいます。
とはいえ、第4楽章の7分ぐらいのところからの、思わず息を呑むような美しさとデリカシーは全曲の白眉ですし、全曲を俯瞰すれば、なかなかこれほどの演奏には巡り合えないであろうという感慨もあります。

追記:なお、この曲に限らず、ロトはヴァイオリンの対向配置がお好みのようで、それを聴き取るのも楽しみのひとつです。


フランク ヴァイオリン・ソナタの名盤 1929年~1959年

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リクエストをいただきましたので、お応えしようと思います。ただし、この曲については既に書いています。当時としては頑張って書いたほうですし、感想を書いたCDも21枚ですので、この頃としてはかなり多いほうでしょう。しかし、限られた人向けの、ブログの友達に読んでもらうための記事でした。今となっては、恥ずかしくて読み返す気にもなれません。

2010/2/27(土) 午後 11:14
フランク「ヴァイオリン・ソナタ」【1923年~1970年】

2010/2/28(日) 午後 3:49
フランク「ヴァイオリン・ソナタ」【1971年~1990年】

2010/3/1(月) 午後 10:33
フランク「ヴァイオリン・ソナタ」【1991年~2007年】

8年も経っているので当時と今回では感想が違うと思います。それにしても、8年ですよ! 信じられまぜん。

今回、改めてフランクのヴァイオリン・ソナタについて書くことにしたのは、以前は入手が難しかったCDが容易に聴けるようになり、飛躍的に枚数が増えたことが大きいです。人気曲であり、録音が非常に多いため、録音日時がわからないものはカットしました。その録音年月日ですが、今回はあまり正確ではありません。参考ということでご容赦ください。

また、外国人演奏者名をカタカナで記すことができないCDも原則としてカットしており、カタカナ表記は、名・姓の順としています。例えば、チョン・キョンファはキョンファ・チョンです。日本人演奏者の場合は、姓・名の順です。漢字で表記するのに、わざわざ逆にすることもないですから。

あと、ヴァイオリン以外の楽器で演奏しているものも原則としてカットしています。

セザール・フランク
ヴァイオリン・ソナタ イ長調 FWV 8(1886年)
第1楽章:Allegretto ben moderato 8分の9拍子 イ長調
第2楽章:Allegro 4分の4拍子 ニ短調
第3楽章:Recitativo-Fantasia (ben moderato) 2分の2拍子
第4楽章:Allegretto poco mosso 2分の2拍子 イ長調

ヴァイオリン・ソナタの名曲中の名曲、傑作中の傑作。フランクはこの一曲でベートーヴェンに並んでしまいました。


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ジャック・ティボー(vn)
アルフレッド・コルトー(p)
1929年

Wikipediaでフランクのヴァイオリン・ソナタを調べると「古今東西、名だたるあらゆる演奏家たちがレコーディングを遺しており、数多くの名演に恵まれている。古い時代の名盤として知られているものの1つに、ジャック・ティボー(ヴァイオリン)とアルフレッド・コルトー(ピアノ)によるものがある。」と書かれています。
ティボー(1880年-1953年)とコルトー(1877年-1962年)による録音は少なくとも2種類あり、演奏自体は1923年盤が優れているという意見と、録音も含めて1929年盤が総合的に良いという意見があり、結論としては1929年盤のほうを選択すべきでしょう。
それにしても古い録音が多い今回の中でも、壮絶な針音がする当盤のノイズの多さに驚きますが、演奏に集中しているときは気にならなくなるから不思議です。音量を上げれば意外に生々しいヴァイオリンとピアノの音です。
どちらかというと、コルトーのほうが自由に振る舞っており、ファンスティックなピアノです。ティボーは折り目正しい演奏で、よく言われることですが、品格が感じられます。そしてスタイルの古さをあまり感じさせません。それが現代でも聴かれている理由なのでしょう。特に第3楽章が絶品と言えます。

【1923年】
Thibaud/Cortot - Franck: Violin Sonata in A, 1923 (entire)

【1929年】
César Franck - Sonate pour violon et piano - Jacques Thibaud Alfred Cortot
(冒頭にCMが入りますので、5秒後にスキップしてください。)


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ユーディ・メニューイン(vn)
ヘフシバ・メニューイン(p)
1936年1月6・7日パリ

今回一番興味をもって聴いたのがメニューイン(1916年-1999年)です。メニューインは名ヴァイオリニストということになっていますが、協奏曲や室内楽のCDを購入しようとするとき、メニューインを選ぶことは非常に少ないでしょう。第二次世界大戦以降のメニューインは、好不調(不調が圧倒的に多い?)の差が大きく、メニューインは「神童」であった頃、または戦前の録音を聴くべきと言われています。10代とすると1935年ぐらいまで、戦前では1939年まででしょうか。そういうことを知っていて聴くのと、知らないで聴くのとでは、当然感想が変わるのですが、メニューイン神童時の演奏は、とにかく凄かったようです。このフランクは、戦前のメニューインによる演奏で、ピアノは妹のエフシバが弾いています。
この古い録音からでは、メニューインの音色を脳内で補完して再現するしかないのですが、美しい音色を有していると思います。第1楽章はゆったりしたテンポによるシリアスな表現、第2楽章は苦み走った表情と伸びやかな歌の対比が見事、第3楽章の瞑想的な表現が心を打ち、感動的です。終楽章も明るさの中に憂いを湛えた表現は素晴らしいと思いました。ヘフシバのピアノも幻想的な雰囲気を醸し出し、なかなかのものです。この演奏の成功の半分はヘフシバによるものでしょう。
フランクの後にはルクーのソナタが収録されていますが、そちらはさらに素晴らしい演奏です。


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ヤッシャ・ハイフェッツ(vn)
アルトゥール・ルービンシュタイン(p)
1937年4月3日
ロンドン,アビー・ロード第3スタジオ

ヴァイオリンの王と称されたハイフェッツ(1901年-1987年)ですが、私は苦手です。なぜかというと、ハイフェッツが残したベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームス、チャイコフスキーの協奏曲はいずれも名盤とされていますが、私にはその良さがよくわからないからです。シベリウスの協奏曲は素晴らしいと感じるし、ツィゴイネルワイゼンみたいな曲はハイフェッツの独壇場と思いますが、それ以外は、巧いことは巧いのですが、スッキリし過ぎていて、箸が進まないというか、後を引かないのです。このフランクも同じでした。録音がもう少し良ければ印象が変わるかもしれません。ルービンシュタインのピアノは最高なのですが……。



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ジノ・フランチェスカッティ(vn)
ロベール・カザドシュ(p)
1946年4月10・26日

Wikipediaによると、フランチェスカッティ (1902年-1991年)も「5歳でリサイタルを開く」ほどの神童で、「超絶技巧の演奏家」であり、「輝かしさと歌うような音色」が特長のヴァイオリニストだそうです。クラシック音楽のCDを購入し始めた頃、フランチェスカッティが弾くメンデルスゾーンやチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を聴いてみたいとずっと思っていましたが、なぜか値段が高めでずっと見送ってきました。きっと振幅の大きな音楽を流麗なフレージングで抜群のテクニックと美音をもって聴かせる演奏なのでしょう。これはまさしくそのような感じの演奏です。ただ、聴いているうちに飽きてくるのも事実で、なんだか底が浅いようにも感じらるのです。なお、カザドシュのピアノは文句なく素晴らしいです。


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ゲルハルト・タシュナー(vn)
ヴァルター・ギーゼキング(p)
1947年4月10日ベルリン

タシュナー(1922年-1976年)は、一時期、ベルリン・フィルのコンサートマスター(1941年-1945年)であった人。ギーゼキング(1895年-1956年)は、モーツァルト、ドビュッシー、ラヴェルの録音が今でも聴き継がれている人。どちらかと言えば、ギーゼキングがどのようにフランクを弾いているかということに興味がありますが、まずタシュナーの演奏について書きます。一回目に聴いたときは、ポルタメントが気になって仕方がありませんでした。この時代、ポルタメントの多用は当たり前なのですが、タシュナーの場合、それがすごく意識的に行われているように感じられ、聴いていてつらかったです。すごく目立つのですよ。何度か聴くうちに慣れまして、ギーゼキングのピアノ共々、はっとするような美しい瞬間もあり、これはこれで良い演奏かなと思うようになりましたが、今回聴いた中では最も古風な印象を受けました。



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ダヴィッド・オイストラフ(vn)
ヴラディーミル・ヤンポリスキー(p)
1954年6月8日 ストックホルム

【お薦め】
オイストラフ(1908年-1974年)のフランクは、今回ご紹介の2種のほか、ピアノがリヒテル(1915年-1997年)の名盤(次回登場)もあります。その演奏には、ヴァイオリンの王者のような存在感があり、この盤も素晴らしい演奏です。モノラルとはいえ、オイストラフの豊かな音と演奏を鑑賞するのに不足はありません。今回聴き比べた中では、疑いなくベストと言え、何度聴いても飽きることがあきない名演です。技術が完璧で、低音から高音まで均質の太く美しい音色、感情表現も熱情に走ることがなく、常にバランスが保たれています。とにかく理想的な演奏で、リヒテル盤だけでなく、このヤンポルスキー盤ももっと聴かれてしかるべきと思います。
ヤンポリスキー(1905年-1965年)はオイストラフ専属のピアニスト。フランクのソナタは、ヴァイオリンとピアノが対等に書かれているのですが、ヤンポリスキーは伴奏に徹し、オイストラフをよく引き立てています。ピアノとヴァイオリンがそのような録音バランスになっているせいで、そう感じるのかもしれません。


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クリスティアン・フェラス(vn)
ピエール・バルビゼ(p)
1957年5月15-19日
パリ,サル・ワグラム

フェラス(1933年-1982年)というと、私は、カラヤン指揮ベルリン・フィルと録音したブラームス、シベリウス、チャイコフスキー、ベートーヴェン、バッハの協奏曲が思い浮かぶ(美音の持ち主だが少々物足りないイメージがある)のですが、それ以前から活躍していた人でした。フランクのソナタは、3種の録音があり、これは2番目(3番目は次回)となります。ピアノはフェラスと長く協演していたピエール・バルビゼ(1922年-1990年1月18日)です。共にフランスの演奏家です。
悪くない演奏なのですが、今回取り上げた録音がいずれも個性の強いものばかりだったので、それらに比べると少々弱い印象があります。美音に頼りすぎている(汚い音を出さない)ようで、音楽に抑揚がない、もしくは、表現の幅が少ないのです。女優さんで、美人だけれど演技が大根という、そんな感じ。と思いきや、突然情熱的なヴァイオリンになったりと、よくわからない人です。もう少し吹っ切れれば、なお良かったと思うのですが。バルビゼのピアノは文句なしで素晴らしいです。



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ダヴィッド・オイストラフ(vn)
ヴラディーミル・ヤンポリスキー(p)
1958年9月20日
ブカレスト・エネスコ音楽祭

【お薦め】
ライヴ録音です。録音の状態は先の1954年盤が優れており、オイストラフ&ヤンポリスキー盤の至芸を楽しむのであれば、そちらが良いと思いますが、この録音も悪くはありません。演奏も、ライヴならではの感興の豊かさがあり、ヴァイオリンとピアノのバランスも、当盤が正解と思います。それにしても、なんと立派なヴァイオリンなのでしょう。演奏だけを純粋に比較するなら、この1958年ライヴのほうが良いかもしれません。手に汗握る緊張感が漂っていますし、オイストラフも時には羽目を外して力強い表現を試みます。


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アイザック・スターン(vn)
アレクサンダー・ザーキン(p)
1959年

【お薦め】
Googleで「franck violin sonata」を検索すると、YouTubeのこの演奏がトップに表示されます。視聴回数34万回でトップだからでしょうか。
ハイフェッツより、そしてオイストラフよりも好きでした。私にとってスターン(1920年-2001年)は、協奏曲の録音で、まず最初に選ぶべき存在だったのです。今でもスターン全盛期(複数録音がある場合、最初のステレオ録音のほう)の演奏は素晴らしいと思っています。
このフランクは、第1楽章ですぐにスターンの立派な音と表現に心を奪われますが、次第にピアノのザーキンが気になってきます。第2楽章はスターンと張り合って、思いの丈をぶつけ合っているようです。以降の楽章も同様。第4楽章のあの主題を演奏するスターンの音色の美しいこと!
ピアノのザーキン(1903年-1990年)は、1940年にアメリカに移住してアイザック・スターンと出会い、1977年までスターンの伴奏者として活躍した人だとか。これぐらい個性の強いピアニストのほうが聴き甲斐があるというものです。
なお、今回初めてのステレオ録音でした。

フランク ヴァイオリン・ソナタの名盤 1961年~1968年

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仕事が忙しいです。残業がものすごく多い!というわけではないのですが、頭をフル回転させないとこなせない量なので疲れます。疲れてしまったのか、なんだかすごく眠くて文章が書けません。

話は変わり、久しぶりにCDを購入しました。ベートーヴェン、ドビュッシーの新譜、ラヴェルの新譜、マーラー、その他が届き、重複買い防止のための所有盤データベースに登録し始めたのですが、なんと既に登録されてるCDがあるじゃないですか! データベースの意味がないじゃん! でもまぁ聴いた記憶が全くないわけですから、初めて買ったCDも同然ということですよね?

気を取り直して、フランクのヴァイオリン・ソナタの名盤(改)、第2回です。

かなりの数をご紹介する予定なのですが、1960年代は意外に少ないです。入手できなかった録音もありますが、高名なヴァイオリニストでも、この曲を録音していない人がいますよね。私が知らないだけかもしれませんが、ミルシテイン、シェリング、アッカルドといった人達による録音はあるのでしょうか。


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ヨセフ・スーク(vn)
ヤン・パネンカ(p)
1961年1月25・27,30・31日

スーク(1929年-2011年)は「ボヘミア・ヴァイオリン楽派の継承者として美しい音色と気品ある歌いぶりで評価」された人です。第1楽章は、音色があまり美しくないし、神経質でお堅い感じで、ちょっと抵抗があったのですが、楽章を追うごとに徐々に変化し、第2楽章は昏い情熱を秘めた緊張感ある歌、第3楽章も節度を保ちつつ「幻想的な叙唱」を披露し、第4楽章はまさに「美しい音色と気品ある歌いぶり」となり、やや線の細さを感じるものの、高らかに輝かしいフィナーレを歌い上げます。終楽章に重点を置き、最も感動的になるようスークが設計したのでしょうか。
ピアノは、室内楽演奏に強みを発揮したパネンカ (1922年-1999年)ならではの、美しいものです。


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ルッジェーロ・リッチ(vn)
マルタ・アルゲリッチ(p)
1961年4月22日
レニングラード
フィルハーモニー大ホール(ライブ)

ヴァイオリンのために書かれた曲であれば、何でも演奏すると言われているルッジェーロ・リッチ(1918年-2012年)によるフランクです。ピアノは、マリア・マルタ・アルゲリッチ(1941年-)。この録音時、リッチは43歳、アルゲリッチはなんと20歳です。アルゲリッチはこの後、チェロ盤やフルート盤も含めて多くの録音を残し続けていますが、これが最も古い記録でしょう。リッチとも1979年に再録音していますが、この頃のアルゲリッチは、大きな弾き崩しがなく、直線的に弾き進む演奏で、その若々しい表現に好感が持てます。
肝心のリッチですが、初めは古い演奏スタイルだし、音も綺麗じゃないし、技巧も抜群に優れているとは思えないしと、あまり良い印象を受けなかったのですが、何度も聴くうちに、リッチのひたむきさと情熱を傾注した演奏に圧倒されるようになりました。録音状態は、この頃のライヴとしては、こんなものでしょう。鑑賞に支障はありませんが、良好な録音とも言い難いので、音質を気にされる方は避けたほうがよろしいかも。


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アルテュール・グリュミオー(vn)
イシュトヴァン・ハイデュ(p)
1961年12月
オランダ

【お薦め】
グリュミオー(1921年-1986年)は、フランコ=ベルギー派の正当な後継者と紹介されることがありますが、「フランコ=ベルギー派」については、ここに書いてありますので、興味がある方はご覧ください。
今回、フランクのソナタについて書くために、まず10種程聴いてみたのですが、その中で最も感銘を受けたのは、グリュミオーの演奏でした(だいぶ前のレコ芸21世紀の名曲名盤300ではグリュミオー盤は一つも選ばれていません。信じられない……)。グリュミオーには1961年盤(当盤。ピアノはハイデュ)と1978年盤(ピアノはシェベック)がありますが、ピアノはハイデュのほうが素晴らしく、グリュミオー自身も40歳と、最も充実しているときの録音のため、1961年盤が良いと思います。今回の年代はいずれも演奏スタイルにどこか古さを感じさせるところがあるのですが、グリュミオーにはそれがほとんどありません。
グリュミオーの演奏は、過度な表現を避けた穏当なもので、ひたすら美しく歌い上げているのですが、それでいて音楽がちっとも浅くならないのです。その演奏は、常に芳香を放っているようであり、ノーブルでもあり、聴く者の耳に自然と曲の素晴らしさが入り込んでくる、何度聴いても飽きない演奏です。


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クリスチャン・フェラス(vn)
ピエール・バルビゼ(p)
1965年10月
ベルリン

フェラス(1933年-1982年)とバルビゼ(1922年-1990年)による再録音で、レーベルはDeutsche Grammophonに変わりました。録音はこちらの方が優れているので、フェラス&バルビゼのフランクを聴くのであれば、DG盤を選ぶべきでしょう。第1楽章から美音を振りまき、フェラスなりに感情を込めた表現なのですが、なぜか心惹かれない、聴いているとき、他のヴァイオリニストのことを考えてしまいます。けして悪い演奏ではないのですが、なんだか底が浅い感じがして、音楽にもう少し見込みがあればと思うのです。どうせなら、もっと悶えるような表現にしてみれば、興味深く聴けたと思います。バルビゼのピアノが良いだけに、勿体ないです。


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エリック・フリードマン(vn)
アンドレ・プレヴィン(p)
1966年4月8日
ハリウッド,RCAスタジオ

「名曲名盤」の類で、このCDが挙がることはないでしょう。私も、プレヴィン(1929年-)のピアノが目当てで購入し、フリードマン(1939年-2004年)の演奏は古風な感じがしてあまり好きになれなかったのです。しかし、今回繰り返し聴くにつれ、前述のルッジェーロ・リッチ同様、ヴァイオリニスト魂のようなものをフリードマンに感じるようになり、これは良い演奏だと思うようになりました。何気に二人共ノリが良い演奏で、知らず知らずのうちに耳を奪われ、一生懸命聴いている自分を発見します。フリードマンのキャッチフレーズである「ハイフェッツの後継者」「20世紀最高のアメリカ生まれのヴァイオリニスト」というキャッチフレーズは、存外、誇大広告でもないように思います。プレヴィンのピアノは、特に第2楽章が面白く、センスの良さを改めて感じました。


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レオニード・コーガン(vn)
ナウム・ワルテル(p)
1967年12月27日
モスクワ音楽院大ホール(ライヴ)

【お薦め】
コーガン(1924年-1982年)のボーイングの何たる素晴らしさ。楽器が自分の体の一部であるかのようで、自由自在に音を操っています。ヴァイオリニストによっては、わざとかすれた音や汚い音を出して、表現の巾を広げようとする人がいますが、コーガンは美しい音の範囲内で、非常に多彩な表現を可能としています。かつて私が一番好きなヴァイオリん奏者は、コーガンだったのですが、EMIでのレコーディングは今一つコーガンの魅力が伝わらないようにに思われ、コーガンを聴くならMELODIYAによる録音に限ると思っていました。1996年にコーガンの遺族の協力と監修のもと、TORITONのレーベル名でで発売された「レオニード・コーガン大全集(全30巻)」は、当時興味があるものしか購入しなかったのですが、全部買うべきでした。
ところで、ピアノのナウム・ワルテル(ワルター)は、コーガンと一緒によく演奏していたピアニストということ以外わかりません。不満はありませんが、コーガンとの協演が少なくなかったギレリスだったらもっと凄かったかも。


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イツァーク・パールマン(vn)
ヴラディーミル・アシュケナージ(p)
1968年10月
ロンドン,デッカ・スタジオ No.3

【お薦め】
パールマン(1945年-)とアシュケナージ(1937年-)という、美音ご技巧を兼ね備えたコンビによる演奏です。第1楽章冒頭の甘く蕩ける音色を聴いただけで、早くもピアノの美しい響きに心を奪われます。このソナタのピアノ・パートがこれだけ美しい音で弾かれたことは、それまで、そして、それからも無かったのでは。そしてパールマンのヴァイオリン。レオニード・コーガンを聴いた直後では、それに比ぶべくもないものの、右手のボーイングはさすがです。膨大な録音がありそうなパールマンですが、録音は1966年から開始したそうで、このCDはパールマン初期のものと言えます。アメリカ全土、そしてヨーロッパの主要都市で演奏し、国際的な名声を確立した頃のパールマンは、その後のどこか楽天的に思える演奏とはやや趣を異にし、もう少し緊張感と切実さのあるものでした。ちょっと点が甘いですが、お薦めにしたいと思います。
なお、パールマンには、1998年にアルゲリッチと協演したライヴ録音があります。


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ダヴィッド・オイストラフ(vn)
スヴャトスラフ・リヒテル(p)
1968年12月28日
モスクワ音楽院大ホール(ライヴ)

私が所有している音源では、オイストラフ(1908年-1974年)のフランク、最後の録音です。ピアノは、20世紀を代表するピアニストのひとりであるリヒテル(1915年-1997年)で、ブラームスのソナタと共に、名盤と言われているものです。
二人の演奏者には真剣性分のような緊張感が漲っており、聴く方も集中力を必要とされます。少しでも気を抜くと大事な部分を聴き逃してしまうような気がして、緊張が強いられます。そのようなことから、気楽に聴ける演奏ではないため、聴くのをためいますが、聴けば大変な充実感を得ることができます。
とはいうものの、全盛期の豊麗なヴァイオリンに比べれば、オイストラフはやや枯れているようにも感じられ、前回ご紹介したヤンポリスキーとの1954年盤が懐かしく思れます。この録音は、オイストラフ晩年の彫の深さを味わうべきでしょう。

フランク ヴァイオリン・ソナタの名盤 1971年~1979年

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今週も忙しかったんですよ。いや、仕事が暇なときなんて無かったですね。おまけに部下のN崎君が事務所を辞めることになり、彼の仕事を誰かが引き継がなければなりません。困ったものです。

さて、フランクのソナタの録音の多さに、ヴァイオリン以外の楽器を用いた録音は原則として取り上げない!と書きましたが、全く無いのも寂しいので、ヴィオラ版、チェロ版、フルート版のいくつかについても感想を書くことにしました。


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フランク ヴァイオリン・ソナタ
ジャクリーヌ・デュ・プレ(vc)
ダニエル・バレンボイム(p)
1971年12月,1972年10月
ロンドン,アビー・ロード・スタジオ

チェロのデュ・プレ(1945年-1987年)が病気に気がついたのは1971年(26歳)、引退したのは1973年(or1975年)ですから、これは最後期の録音で、後はラロのチェロ協奏曲(1973年1月4・6日のライヴ)ぐらいでしょうか。
第1楽章のデュ・プレは、一音一音を確かめるように弾いています。その音楽は微笑まず、第2楽章では感情の奔流が慟哭を思わせ、全体に憂い・諦念に満ちたチェロです。弱音はすすり泣きのようで、こちらまで苦しくなってきます。終楽章でもそれは変わりません。そのように思ってしまうから、そう聴こえてしまうのかもしれませんが、聴き終えて、なんだかすごいものを聴いてしまったという感想をもちました。
ピアノは、バレンボイム(1942年-)ですが、とても素晴らしいです。繊細かつ雄弁で美しく、理想的なフランクのピアノです。デュ・プレと向いている方向が違うようにも聴こえますが、このピアノに救われている部分も多いです。
これは貴重な記録であり、お薦めとかそういうレベルで語ることができる演奏ではないのですが、一度は聴いていただきたいと思い、ご紹介します。


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フランク ヴァイオリン・ソナタ
サー・ジェームズ・ゴールウェイ(fl)
マルタ・アルゲリッチ(p)
1975年5月20・21日
ロンドン,キングスウェイ・ホール

黄金のフルートをもつ男・ゴールウェイ(1939年-)によるフランクで、その屈託のない音色と演奏に、戸惑いを覚えます。陰影に富んだヴァイオリン属と異なり、明るく伸びやかなフルートは、楽天的に思え、フルートが好きな私でも抵抗を感じました。それも束の間、フランス系の音楽にフルートの音色はよく合いますから、ゴールウェイの演奏を楽しもうと割り切れば、これはこれでなかなかのCDです。
このソナタを得意とするアルゲリッチ(1941年-)のピアノが良好な録音で聴けますので、アルゲリッチ・ファンにも評判のよいCDです。


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フランク ヴァイオリン・ソナタ
オーギュスタン・デュメイ(vn)
ジャン=フィリップ・コラール(p)
1976年7月,1977年2月
パリ

【お薦め】
知らなかったのですが、デュメイ(1949年-)とコラール(1948年-)によるフランクのソナタは、2種類あるのですね。一つは当CDで、フランク尽くしの1枚であり、もう一つは1989年の録音で、マニャールのヴァイオリン・ソナタとの組み合わせです。デュメイには、ピリスとの1993年の録音、ロルティとの2012年の録音もあります。
Wikipediaによると「師事したアルテュール・グリュミオーを受け継ぐフランコ・ベルギー派の正統な後継者」なのだそうですが、その演奏はグリュミオーよりも個性(or癖)を感じさせるもので、美音を振り撒きつつ、伸びやかに歌い上げています。美音中心というわけでもなく、時には汚い音・掠れた音を出すのも厭わず、表現の幅を非常に大きく取るのも特徴です。まだ20代の2人が聴かせる熱っぽい演奏は、なぜ再録音が必要であったのかと思うほど、充実したものになっています。
コラールの卓越したテクニックと響きの美しいピアノが魅力的で、このソナタはやっぱりピアニストが巧くなくてはと改めて思いました。


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フランク ヴァイオリン・ソナタ
キョンファ・チョン(vn)
ラドゥ・ルプー(p)
1977年5月
ロンドン,キングスウェイ・ホール

【お薦め】
やっぱりチョン・キョンファ(鄭京和;1948年-)と書いたほうがしっくりきますね。ピアノは「千人に一人のリリシスト」と呼ばれたルプー(1945年-)です。この時、チョン・キョンファは二十代の終りですが、曲との相性が良かったのか、意外なほど内面的な演奏を聴かせます。チョン・キョンファのDECCA録音に共通した、あの白熱的な表現は影を潜め、外面的な効果を追求せず、もっと深く沈み込んだ演奏となっています。再生装置によっては大人しく聴こえ、期待外れに思う人もいらっしゃるかもしれませんが、感情豊かな演奏を聴かせるチョン・キョンファの長所は十分生きていますし、当盤の節度のある表現には好感を持てます。ルプーと組んだのが良かったのかもしれません。
なお、チョン・キョンファの2017年再録音は、当ブログのフランクのヴァイオリン・ソナタの最後の記事の、一番最後のCDになりそうです。


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フランク ヴァイオリン・ソナタ
アルテュール・グリュミオー(vn)
ジェルジ・シェベック(p)
1978年5月
ロンドン,ヘンリー・ウッド・ホール

ステレオ録音のグリュミオー(1921年-1986年)のもう一つのほうで、ピアノはシェベック(1922年-1999年)に変わり、グリュミオー57歳、シェベック56歳の時の録音です。シェベックの名を初めて知ったのはブラームスのチェロ・ソナタのCDで、シュタルケルのチェロにシェベックのピアノでした。キングインターナショナルさんによると、シェベックは実演を聴いた人々から「音楽史上最も偉大なピアニスト」(!)と激賞されたそうです。前回、ピアノはシェベックよりハイデュのほうが巧いなどど安易に書いてしまったことが悔やまれますが、でもそう思ったのですから仕方がありません。
このCDを聴いて、まず最初に感じたのは残響の多さです。この残響の多さに惑わされますが、美しい響きではあります。しかし、例えば第2楽章は「きわめて情熱的な楽章」であるのに、シェベックのピアノは穏当過ぎるように思われます。グリュミオーのヴァイオリンの方が情熱的です。
グリュミオーに関しては前回と同じ感想が当てはまりますが、今回は表現がより内省的になった反面、技術の衰えを感じる箇所もあります。
グリュミオーのフランクは、イシュトヴァン・ハイデュとの1961年盤がよろしいと思います。


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フランク ヴァイオリン・ソナタ
ルッジェーロ・リッチ(vn)
マルタ・アルゲリッチ(p)
1979年10月20日
ニューヨーク,カーネギー・ホール(ライヴ)

リッチ(1918年-2012年)とアルゲリッチ(1941年-)のコンビ、前回はレニングラードでの1961年ライヴでしたが、今回はニューヨークです。リッチは61歳、アルゲリッチは38歳になりました。リッチのスタイルは基本的に変わっていないのですが、音が終始かすれ気味で、強音時に響きが濁り、熱演ではあるものの、技術の衰えを隠せないのが残念です。
アルゲリッチの打鍵は強力です。リッチを庇うかのような繊細かつ豪快な演奏を聴かせ、リッチの音を掻き消さんばかりです。
第2楽章が終わると拍手が起こり、リッチの健闘が称えられ、終演後の聴衆の熱狂も凄まじく、聴衆に大変愛されていたヴァイオリニストだったのだということがよくわかります。でも、これはお薦めできないです。


フランク ヴァイオリン・ソナタの名盤 1980年~1985年

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Wikipedia
同郷の後輩であるヴァイオリニスト、ウジェーヌ・イザイに結婚祝いとして作曲され献呈された。

音楽之友社
友人のヴァイオリニスト、イザイの結婚式に出向けなかったフランクが、彼と花嫁のために献呈したロマンティックな逸品。

ららら♪クラシック
1886年の夏。フランクは、63歳にして初めてバイオリン・ソナタを作曲します。それを知った友人が、ソナタをイザイの結婚祝にしたいと、フランクに申し出たのです。フランクは「心から喜んで、イザイの結婚祝のプレゼントにしましょう!」と、出来上がったばかりのバイオリン・ソナタを友人にあずけたのでした。イザイは、一目でこの曲を気に入りその場ですぐに演奏。そして「これは私だけのものではありません。全世界への贈り物です。私の役目は全身全霊をささげ、この曲のすばらしさを伝えることです。」とスピーチし、その言葉通り、世界中で、生涯にわたってこの曲を演奏し続けたのです。

「結婚祝いとして作曲され」たのではなかった?


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フランク ヴァイオリン・ソナタ
カヤ・ダンチョフスカ(vn)
クリスティアン・ツィメルマン(p)
1980年7月
ミュンヘン,ヘルクレスザール

ダンチョフスカ(1949年-)とツィメルマン(1956年-)のポーランド・デュオによる録音で、ジャケットの写真がなんとも初々しいです。ツィメルマンがすごく若く見えますが、この時は24歳なので本当に若いのです。
最初にツィメルマンの演奏から書きますが、献身的なピアノです。知らないで聴いたら、ツィメルマンとは気がつかなかったでしょう。巧いことは巧いのですが、伴奏に徹しているせいなのか、それともこの頃はまだ大家ではなかったのか、ツィメルマンらしさがあまり現われていません。
ダンチョフスカは、丁寧に弾いているのですが、よく言えば楽曲に奉仕している演奏、そうでなければ無難な演奏です。
聴くたびに印象が変わるのですが、今日は素敵な演奏と思いました。感想を書くのが難しいCDです。


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フランク ヴァイオリン・ソナタ
ヴァーツラフ・フデチェック(vn)
ペトル・アダメツ(p)
1981年(リリース?)

フデチェク(1952年-)は、チェコのヴァイオリニストで、そのイケメンぶりから一時期は日本でも人気があったと記憶しています。今回すごく久しぶりに名前を見つけましたので取り上げることにしました。第一印象としては大先輩のヨゼフ・スークに似ているように思いましたが、あれ程の存在感はなく、線が細く弱々しい感じがします。ヴァイオリンの音があまりきれいじゃないのです。ヴァイオリンがマイクに近いせいか、直接音が多く、ギスギスした音に聴こえます。そのようなことから、あまり気乗りがしなかったのですが、次第に引き込まれるものを感じました。真摯に音楽に向き合う姿勢があり、集中力・緊張感があります。とはいえ、これだけいろいろな録音がある中で、心に訴えかけてくるものが少ないのも事実です。


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フランク ヴァイオリン・ソナタ
ローラ・ボベスコ(vn)
ジャック・ジャンティ(p)
1981年9月
埼玉県,新座市

ボベスコ(1921年-2003年)のフランクは、5種類の録音があるようです。DECCAのモノラル録音(1949年(1950年?))、DECCAのステレオ録音(?)、日本初来日公演ライヴ(1980年)、PHILIPSの録音(1981年:当盤)、PAVANEの録音(1982年:後述)です。ピアノは、ジャック・ジャンティ(1921年-2014年)(1980年盤のみ小松(澤)美枝子)で、長く(私生活は短く)ボベスコのパートナーをつとめた人です。
この数行を書くために1時間以上を費やしてしまいました。DECCAのステレオ録音なんて存在するのでしょうか?

さて、このCDは好きだったのです。持ち味があり、ボベスコの癖らしきものもプラスに働き、良い演奏だと思っていました。ただ、今回のようにいろいろな名演を聴いた後では、ボベスコの限界のようなものを感じてしまいます。それは音程であったり、ややのっぺりした表情であったり。もしかしたらボベスコは、この録音では、あまり乗っていなかったのかもしれません。そのようなことから、1年後の演奏をお薦めします。


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フランク ヴァイオリン・ソナタ
ミッシャ・マイスキー(vc)
マルタ・アルゲリッチ(p)
1981年12月29-31日

チェリストのマイスキー(1948年-)とアルゲリッチ(1941年-)によるフランク1枚目です。マイスキーに曲が合っているのでしょう、なかなか雄弁な演奏で、チェロによるため第1楽章では少し違和感もあったのですが、第2楽章以降はなかなか聴かせるものがありました。ヴァイオリンによる演奏でも、なかなかここまで感情を迸らせる濃厚な表現には出くわしません。それにチェロの音色が美しいです。
アルゲリッチは絶好調です。ここまで毎回登場していますが、まだまだ登場します。ただ、その表現が、ときに大仰に感じられるかも、です。
マイスキー&アルゲリッチによるフランクの録音は、当盤の他、2000年の京都ライヴ(Deutsche Grammophon)など複数あり、全部でいくつあるのかわかりません。


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フランク ヴァイオリン・ソナタ
ローラ・ボベスコ(vn)
ジャック・ジャンティ(p)
1982年
ベルギー

ボベスコ(1921年-2003年)とジャンティ(1921年-2014年)による、ベルギー(製造はフランス)のPAVANE RECORDSへの録音で、どうしてこんなに早く再録音したのかわかりませんが、前述のPHILIPS盤からたった1年後です。しかし、私にはこちらのほうが良い録音、良い演奏に聴こえます。ボベスコの演奏は基本的に変わっていませんが、このCDの音が好きです。PHILIPS盤では混濁気味だったピアノも粒立ちよく、まるで別人のようです。
ヴァイオリンも間接音が少し増え、より美しくなりましたし、演奏もこちらのほうが丁寧で、あまり細かいことにこだわらないボベスコの大らかな持ち味がよく出た演奏といえます。


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フランク ヴァイオリン・ソナタ
ジャン=ジャック・カントロフ(vn)
ジャック・ルヴィエ(p)
1982年8月15、18、22日
オランダ,ハーレム・コンセルトヘボウ

【お薦め】
CDの感想を書く前にジャン=ジャック・カントロフについて書いておきます。と言っても資料が少ないので、大したことは書けない(コピペが多い)のですが。
カントロフ(1945年-)は、カンヌ生まれのヴァイオリン奏者・指揮者です。
NIPPON COLUMBIA CO.,LTDの [この一枚 No.77] ~ジャン=ジャック・カントロフ/パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番・第2番《ラ・カンパネッラ》~に次のような記述があります。

[この一枚 No.77]~カントロフ/パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番・第2番
2009年9月の「この一枚」ではジャン=ジャック・カントロフが演奏したフォーレ:ヴァイオリン・ソナタ集」を取り上げ、以下のように紹介している。「カントロフは1974年の第1回PCMヨーロッパ録音に於いて、パイヤール室内管弦楽団によるモーツァルト:2つのヴァイオリンのためのコンチェルトーネK.190の第2ソリストとして登場して以来、約20年にわたりDENONレーベルのメイン・ヴァイオリニストとして様々なヴァイオリン名曲を録音してきた。(中略) 彼の演奏は非常に繊細で、録音セッションでは、かすかなキズでもすぐに演奏を止め、再度のテイクを要求した。そのため、膨大な録音時間と録音テープが必要で、結果、多くの編集個所が録音スタッフに突きつけられた…」

確かに、彼の録音は微細なミスも許さないものであったが、同時に常にテクニックの限界に挑戦し続ける大胆さも持ち合わせている。1983年に録音された自身率いるパガニーニ・アンサンブルのアルバム「煙が目にしみる」ではカントロフはクラシツク、ポピュラーの名曲をまるで曲芸のような超絶技巧で聴かせているが、その中にパガニーニのヴァイオリン協奏曲第2番の第三楽章「ラ・カンパネラ」も収録されている。

さらに、クラシック音楽のCD紹介が充実している某通販サイトで「弦楽器奏者」をクリックし、「カントロフ, ジャン=ジャックKantorow,Jean-Jacques (vn)」を選択すると80件ヒットします。これを「発売日 新しい順」に並べ替え、カントロフがヴァイオリン奏者として最後に録音したのはいつだろう?ということを調べてみました。

最初に登場するのは、アレクサンドル・カントロフの録音で、これはジャン=ジャックの息子です。2015年にラロのスペイン交響曲やヴァイオリン協奏曲、ロシア協奏曲を録音していますが、ジャン=ジャック・カントロフは指揮者であり、ヴァイオリンは ロレンツォ・ガット、キム・ウヒョン、エリーナ・ブクシャです。ヴァイオリニストとしては、ラロのロシア協奏曲Op.29の2011年録音(ケース・バケルス指揮のタピオラ・シンフォニエッタ)が最後なのでしょうか。

以前にレコード芸術のインタビューで、自分はもうヴァイオリンを弾かない、これからは指揮に専念する、とカントロフが答えていた記憶があります。

なぜ、こんなことを長々と書いているかというと、私はカントロフを実演で聴いたことがないため、知識で補填しようと考えたからです。DENONの録音は、再生装置によっては、カントロフのヴァイオリンが、あまり美しくない音で聴こえることがあります。

以下、カントロフのヴァイオリンが美しく聴こえる再生装置での感想です。

一見(聴)、地味に思えますが、微に入り細を穿つ表現です。「かすかなキズ」「微細なミスも許さない」完璧な演奏。ヴァイオリニストやピアニストによっては大きく弾き崩す人がたまにいますが、カントロフには常に節度があります。ここを踏み越えてはいけないというラインが明確に引かれており、その範囲の中で最良の表現を心がけています。その集中力が凄く、こちらもきちんと聴かなければならない、気軽に聴き流せない、という気持ちになります。一生懸命聴けば聴くほど、カントロフの演奏の素晴らしさがわかります。第4楽章を聴き終えたとき、これだけ清々しい後味が残る演奏もありません。37歳のカントロフの美しい記録と言えます。
ピアノのジャック・ルヴィエ(1947年-)はマルセイユ生まれのピアニストで、これも素晴らしい演奏です。優れた技巧の持主であり、美しい音色で情緒豊か、かつドラマティックにフランクを歌い上げています。協演者に厳しいカントロフが選んだピアニストであり、ソロでも「ラヴェルのピアノ曲全集の録音や、ドビュッシーやラヴェルの室内楽の録音によりグランプリ・デュ・ディスクを受賞」しているだけのことはありますよ。


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フランク ヴァイオリン・ソナタ
ピンカス・ズーカーマン(vn)
マルク・ナイクルグ(p)
1984年12月

パールマン、チョン・キョンファと同じくガラミアン門下のズーカーマン(1948年-)、ピアノは作曲家兼ピアニストのマルク・ナイクルグです。このコンビは、Deutsche GrammophonやPHILIPSに、サン=サーンス、R・シュトラウス、プロコフィエフ、小曲集も録音しています。
ヴァイオリンを豊かに鳴らし、ポルタメントがやや多めの耽美的な演奏です。この頃のズーカーマンは不調で、それゆえ指揮活動(1980年から1987年までセントポール室内管の音楽監督)に力を入れていたとも言われていますが、これほどの美音で奏でられたフランクは、なかなか無いと思います。ナイクルグのピアノも作曲家らしく楽曲のツボを押さえたもので、味わい深いものです。
それではお薦めかというと、終楽章あたりで美音に飽きてしまい、楽曲に対する踏み込みがやや浅いように思えてきます。やっぱり不調だったのでしょうか。


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フランク ヴァイオリン・ソナタ
シェロモ・ミンツ(vn)
イェフィム・ブロンフマン(p)
1985年6月
スイス,ラ・ショー=ド=フォン,ムジカ・テアトル

【お薦め】
今ではそれなりの年齢に達していますが、この録音時、ミンツ(1957年-)28歳、ブロンフマン(1958年-)27歳で、若々しい感性がプラスに働き、フレッシュな名演を聴かせてくれます。第1楽章では、ブロンフマンの方にマンティックな傾向があるようで、テンポの伸縮が顕著ですが、ミンツは比較的端正な演奏です。第2楽章でもブロンフマンのテクニックは、この難曲をものともせず、鮮やかなピアニズムを発揮し、ミンツもやや線が細いですが、持ち前の美音を用いて感興豊かな演奏を聴かせます。第3楽章もミンツは静謐な中に心のこもった歌を聴かせ、第4楽章も同様に、声高になることがない、品が良く落ち着いた表現です。音色にもう少し線の太さがあればとも思いますが、これだけ聴かせてくれれば十分でしょう。


フランクのヴァイオリン・ソナタも、これで第4回になりますが、まだ3分の1も終えていません。いつになったら完了するのでしょう……。


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