この年代から録音数が急増します。
聴くのも大変、書くのも大変なので2回に分けようかと迷いましたが、G.W.なのでペースを上げようと思います。
こんなのでいいのだろうかという感想ですが、世のため、人のために役立ってはいないような気がしています。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
西崎崇子(vn)
イェネ・ヤンドー(p)
1990年2月7-12日
Concert Hall of Czechoslovak Radio, Bratislava
西崎崇子(1944年-)は、NAXOSの創業者であるクラウス・ハイマンの奥様で、NAXOSのサイトで検索すると153件もヒットします。私が初めて購入したNAXOSのCDも西崎崇子によるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタでした。ヤンドー(1952年-)もNAXOSの代表的なピアニストで、その膨大なレパートリーは驚異的です。
そんな2人が演奏するフランクにいて語るのは少々気が引けますが、網羅的な聴き比べ「だけ」が売りの拙ブログにおいて感想を記さないのも何ですので、何か書こうと思います。
重く粘る西崎のヴァイオリンと明るく端切れのよいヤンドーのピアノが対照的です。西崎は丁寧に弾いているのですが、終始かすれた音で、もう少しヴァイオリンの音色が美しければと思います。ヤンドーは巧いですね。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
カリン・アダム(vn)
ドリス・アダム(p)
1991年5月
ウィーン
【お薦め】
これは好きな演奏、カリーン・アダム(1962年-)はウィーン生まれで、数々のコンクールに参加した後、世界各国で演奏しています。室内楽の分野では、妹のドリス・アダムとのデュオが知られています。
さて、この演奏は、第1楽章の第1主題がかすれた音色で美しくなく、この調子で全曲付き合わされるのはたまらないと思いきや、それも表現(かすれた音を用いるのは好きじゃないです)の内で、以降は豊かな音色で実によく歌うヴァイオリンとなり、最後までフランクの音楽を堪能させてくれます。このような演奏が好きなのですが、難を挙げれば、細かいヴィブラートが気になります。ここはかけなくてもいいのにと思うところでも、ヴィブラートがかかるのです。大きな欠点ではありませんが、繰り返し聴くと気になります。でも好きな演奏なのです。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
リディア・モルドコヴィチ(vn)
マリーナ・グサック=グリン(p)
1992年2月6-8日
【お薦め】
これも好きな演奏で、オイストラフの門下、ロシア生まれのモルドコヴィチ(1944年-2014年)によるフランクです。第1楽章は、師匠譲りの豊かな音で雰囲気もバッチリ、伸びやかな歌を聴かせます。やや遅めのテンポを採った第2楽章もヴァイオリンをよく鳴らし、弾き飛ばさず、じっくりと歌い上げますし、コーダの迫力も際立っています。第3楽章は悲痛なヴァイオリンで、数々の動機が思い入れたっぷりに美しく演奏されます。第4楽章のカノンも可憐で、展開部も劇的、華やかで力強く締め括ります。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
Marie Annick Nicolas(vn)
Boris Petrov(p)
1992年(リリース?)
マリー=アニック・ニコラ(1956年-)というフランスの ヴァイオリニストです。1980年から1986年まで、彼女はフランス放送フィルハーモニー管弦楽団のスーパー・ソリストの地位にあったそうです。やや速めのテンポですいすい進行していくフランクで、太く丸い音でぐいぐい推していく気風のよさがあります。しかし、表現に工夫を凝らしているのはわかりますが、語りの上手さとか、深みには乏しく、あっさりしているように感じます。録音のせいか、右側から聴こえるピアノがちょっと煩くて、バランスの悪さも減点対象です。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
今井信子(va)
ロジャー・ヴィニョールス(p)
1992年1月
言うまでもなく今井信子(1943年-)は、日本が誇る世界的なヴィオラ奏者です。ヴァイオリンのために作られた曲をヴィオラで弾いているわけですが、ヴィオラはヴァイオリンより最低音が5度低いので、低音が豊かに鳴ります。しかし、最高音も低くなりますので、そこは音を下げたりと、いろいろ工夫が必要ですが、チェロ(最低音はヴィオラより1オクターヴ低い)の場合はそれほど気にならなかったのが、ヴィオラはヴァイオリンに近いせいか、少し違和感がありますね。今井の演奏も、フレーズ毎に大きな抑揚を付けたもので、少々オーバーにも感じます。けして悪い演奏ではないのですが、ヴァイオリン曲をヴィオラで弾く意義は見い出せなかったのです。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
アン・アキコ・マイヤース(vn)
ロハン・デ・シルヴァ(p)
1992年6月
マイヤース(1970年-)は、父親がドイツ系アメリカ人で母親が日本人のハーフです。このフランクの録音は、平林直哉氏が名盤として選定されていたのを覚えていますが、まず、第1楽章はポルタメントの多さに驚かされます。ポルタメントが悪いとは言いませんが、この時代にこれ程かけるのは珍しく、昔の巨匠達の演奏を意識にしたのかな?と思いました。第2楽章はなかなか良いです。しなやかで美しく、ちょっとわざとらしさを感じさせるところもありますが、第1楽章とは打って変わって瑞々しさを感じます。第3・第4楽章も良く、不思議な魅力がありました。振り返ってみれば、第1楽章はあれでよかったのでしょう。最後まで聴いてみないとわからないものです。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
エマニュエル・パユ(fl)
エリック・ル・サージュ(p)
1993年
ベルリン・フィルの首席奏者で、レ・ヴァン・フランセの一員、独奏者としても活躍しているパユ(1970年-)のフルートによるフランクです。ピアノは気ごころの知れたル・サージュ(1964年-)。フルート版ではゴールウェイ&アルゲリッチ盤が有名ですが、パユの音色はゴールウェイに及ばず、表現も割とのっぺりしているので、聴いているうちに飽きてしまいました。巧いことは巧いのですが……。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
オーギュスタン・デュメイ(vn)
マリア・ジョアン・ピリス(p)
1993年9月,10月
ミュンヘン
【お薦め】
デュメイ(1949年-)3度目のフランクで、ピアノはピリス(1944年-)です。どうでもいいことですが、ピリスのほうが年長だったのですね。
このCDは、フランクのヴァイオリン・ソナタの代表的な名盤とされているもので、名曲名盤の類では常にトップの座にあります。これ1枚で満足されている方も多いでしょうし、実際、美しい演奏と思います。楽器の音だけではなく、音楽そのものが美しいと感じます。
デュメイ&ピリス盤を聴いた後、デュメイ&コラール盤(旧盤)を聴いて、もう一度デュメイ&ピリス盤を聴き直してみました。
デュメイ&コラール盤には、ひたむきさ、一途さ、真剣さ、素直さがあり、この当時の二人が持っていた、力と技を惜しみなく注ぎ込んだ名演でした。
デュメイ&ピリス盤も、この2人ならではの、息の合ったデュオによる完成度の高い演奏なのですが、デュメイが老練になり、新鮮味が薄れてしまったように思われます。逆に、デュメイ&ピリス盤を愛聴される方にとっては、デュメイ&コラール盤は荒削りに思うかもしれません。
デュメイ&コラールの再録音も聴いておくべきでした。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
ピエール・アモイヤル(vn)
パスカル・ロジェ(p)
1994年5月
チョリーウッド,バルビローリ・ホール
【お薦め】
ハイフェッツ(1901年-1987年)の愛弟子、フランスの名ヴァイオリニスト、アモイヤル( 1949年-)の演奏、ピアノも同じくフランスの名ピアニスト、盟友のロジェ(1951年-)です。 Wikipediaによれば、アモイヤルは「ハイフェッツが、その才能と技量に全幅の信頼を置いた唯一の弟子」なのだそうで、テクニックは万全、さじ加減をわきまえた上での、旋律の歌い方が洒落ていて大変雰囲気の良い演奏です。さじ加減と書きましたが、表現が絶えず大きく変化し、それは音色ではなくテンポの揺れによるもので、あくまで美音を保った上での表情付けです。ロジェのピアノも宝石のような音色で華を添えています。ご馳走も食べ過ぎると飽きてしまいますが、これだけ聴かせてくれればお薦めにしないわけにはいかないでしょう。
アモイヤルには、ミハイル・ルディのピアノで1984年にも録音(ERATO)がありますが、そちらは未聴です。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
亀井由紀子(vn)
岡城千歳(p)
1994年12月20日リリース
【お薦め】
ハイフェッツの弟子が続きます。亀井由紀子(敬称略)は、高校卒業後、ジュリアード音楽院に入学するために渡米しますが、ひょんなきっかけでハイフェッツ(1901年-1987年)と出会います。以来、ハイフェッツに師事し、彼のアシスタントを10年間務め、現在はサンフランシスコ交響楽団の第1ヴァイオリン奏者なのだそうです。
ハイフェッツに「感性で弾きなさい。しかし、感傷的であってはなりません」と教えられたそうですが、これはまさしくそのようなもので、凛とした佇まいを思わせる美しい音で端正な演奏を聴かせます。先述のアモイヤルの演奏より優れていると思いました。大きな弾き崩しがない分、楽曲の美しさを十分引き出しており、どの楽章も品のある良い出来栄えです。今回聴いた中でも特に印象に残った一枚で、もっといろいろな亀井由紀子の演奏を聴いてみたいと思いました。
ピアノの岡城千歳(おかしろちとせ)は、ご本人のウェブサイトやFacebookを拝見し、頑張っているんだなぁと、応援してあげたい気持ちになりました。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
アンネ=ゾフィー・ムター(vn)
ランバート・オーキス(p)
1995年9月
ベルリン,フィルハーモニー
ヴァイオリンの女王、ムター(1963年-)。わざとかすれた音で奏でられる第1楽章第1主題。全体に弾き崩しの多さが目立つ第1楽章ですが、変化の大きい第2楽章はそれなりに面白く聴けました。第3楽章は第1楽章ほどの違和感はありませんが、それでもムターの常套手段である、ノンヴィブラートの掠れた音で曲を閉じられると、う~んという気持ちになります。第4楽章はムターの輝かしくも強靭なヴァイオリンに耳を奪われる瞬間もありますが、やっぱり表情過多に思われます。そんなムターに1988年から付き合っているオーキスの献身的なピアノは、ムターにとって得難いものでしょう。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
Louis Pantillon(vn)
Steve Huter(p)
1995年12月12日(リリース)
【お薦め】
Louis Pantillon(ルイス・パンティリオン?)という名前は聞いたことがないのですが、第1楽章はSteve Huter(スティーブ・フター?)の静謐なピアノに始まって、なかなかよい雰囲気です。第2楽章も少々ピアノの音が大き過ぎるときがありますが、Pantillonの品の良いヴァイオリンには好感が持てます。第3楽章は繊細な表情に豊かな歌で、全楽章中の白眉とも言えます。大きな弾き崩しがないのが良いのです。第4楽章も全編に素朴さと懐かしさを感じさせる歌が溢れ、なかなか充実した演奏でした。ちょっと甘いですが、予想を裏切った演奏なので、お薦めを付けました。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
ジョシュア・ベル(vn)
ジャン=イヴ・ティボーデ(p)
1996年6月1日
【お薦め】
ベル(1967年-)とティボーデ(1961年-)の(当時)若手デュオによる演奏です。ベルとティボーデでは、どちらかというと、ティボーデのほうに耳が行きがちです。ティボーデの卓越した技巧は、それは見事なもので、比重が大きいピアノ・パートを完全に表現し尽くしています。最高のフランクのピアノと言っても過言ではありません。ベルのヴァイオリンも悪かろうはずもなく、全力投球の演奏です。ただ、ベルにはどこか醒めたところがあり、常に冷静であるように聴こえます。第4楽章の小気味のよい節回しなど、惹かれるところも多く、全体としてかなりの高水準な演奏であることは間違いありませんので、お薦めにしたいと思います。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
Szymsia Bajour(Simón Bajour)(vn)
Aldo Antognazzi(p)
1997年7月4日(?)
Szymsia Bajour(1928年-2005年)は、ポーランド生まれ、アルゼンチン育ちのヴァイオリニストで、アストル・ピアソラの最初の五重奏団に参加していたのだそうです。デュオであるBajour-Antognazziとしては、1983年から1992年に活動していたそうですから、このフランクもその頃の録音なのでしょう。この録音を聴いた第一印象は、ヴァイオリンの音があまりきれいじゃないということで、技巧的にも優れているとは言い難いのですが、音楽に真摯に向き合う姿勢が感じられ、最後まで聴くことができました。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
五嶋みどり(vn)
ロバート・マクドナルド(p)
1997年6月2-4日
サフォーク,スネイプ・モールティングズ・コンサート・ホール
世界のMidori、五嶋みどり(1971年-)が26歳の時に録音したフランクです。録音の加減のせいでしょうか、ヴァイオリンの音量が小さめです。そのせいもあり、3回聴いてみたのですが、非常に慎ましい、引っ込み思案のヴァイオリンに聴こえます。う~ん、感想を書くのが難しい……。
おそらく、私が五嶋みどりに期待しているものと、この演奏(録音)は異なるのでしょう。もっと心惹かれるフランクのヴァイオリン・ソナタの録音はいろいろあって、申し訳ないのですが、この演奏はそれらに及ばない感じがしました。そう思ってしまったのだから、仕方がありません。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
Dénes Zsigmondy(vn)
Anneliese Nissen(p)
1997年12月28日(リリース)
Zsigmondy(1922年-2014年)は、ハンガリーのヴァイオリニストだそうです。フランクのソナタを聴こうとして、この録音を選ぶ人はまずいないでしょう。最後まで聴こうとしたのですが、第3楽章が始まったところで断念しました。楽曲がいくら素晴らしくても、受けつけない演奏があるということを改めて学びました。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
レナート・ドナ(vn)
アルド・チッコリーニ(p)
1998年7月4・5日
モンテベッルーナ,アウディトリウム・フェニックス
このヴァイオリン奏者も知らない人なのですが、名ピアニストのチッコリーニ(1925年-2015年)とのデュオなので、聴いてみることにしました。予想どおりチッコリーニは素晴らしく、深く沈む表現など絶品で、このピアノだけで十分という気持ちになります。ドナのヴァイオリンは硬質で神経質な音色であり、特に第2楽章の冒頭など低い音がきれいじゃないです。しかし、悪いところばかりではなく、チッコリーニのピアノに触発されたのか、ハスキー・ヴォイスのヴァイオリンは、どこか寂しげで孤独を感じさせるもので、音色の点を除けば、第3楽章、特に第4楽章など、上出来と思いました。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
イツァーク・パールマン(vn)
マルタ・アルゲリッチ(p)
1998年7月
サラトガ(ライヴ)
パールマン(1945年-)の、おそらく2度目の録音、ピアノはアルゲリッチ(1941年-)です。このCDが登場したときのことはよく覚えています。パールマンとアルゲリッチという、ヴァイオリンとピアノの最高の名手による、すごい顔合わせの演奏が登場した、と。選曲も、ベートーヴェンの「クロイツェル」とフランクのソナタで、いったいどんな演奏なのだろうと、ワクワクしました。ただ、その当時、評論家はあまり褒めていなくて、それはパールマンに原因があるような書きぶりでした。せっかくアルゲリッチが素晴らしい演奏をしているのに、パールマンはそれほどでもないというというような。
今聴いてみれば、そんなにパールマンは悪くないですよ。むしろ、アルゲリッチの大きな弾き崩しがすごく気になります。アルゲリッチが1961年にリッチと録音した、あの頃のようなピアノであれば、この演奏はもっとバランスの取れたものになったに違いありません。なぜパールマンに合わせてやれなかったのか。これでは初めてフランクのソナタを聴く人には、曲の原型がわからないと思います。まぁ確かに、このアルゲリッチの即興性に比べれば、パールマンは普通に思えます。しかし、パールマンだけ聴けば、彼としては十分過ぎるほどの熱演です。パールマンに味方したい私でした。