Quantcast
Channel: 私が好きな曲(クラシック音楽のたのしみ)
Viewing all 183 articles
Browse latest View live

フランク ヴァイオリン・ソナタの名盤(改) 1990~1998

$
0
0
この年代から録音数が急増します。
聴くのも大変、書くのも大変なので2回に分けようかと迷いましたが、G.W.なのでペースを上げようと思います。
こんなのでいいのだろうかという感想ですが、世のため、人のために役立ってはいないような気がしています。


イメージ 18

フランク ヴァイオリン・ソナタ
西崎崇子(vn)
イェネ・ヤンドー(p)
1990年2月7-12日
Concert Hall of Czechoslovak Radio, Bratislava

西崎崇子(1944年-)は、NAXOSの創業者であるクラウス・ハイマンの奥様で、NAXOSのサイトで検索すると153件もヒットします。私が初めて購入したNAXOSのCDも西崎崇子によるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタでした。ヤンドー(1952年-)もNAXOSの代表的なピアニストで、その膨大なレパートリーは驚異的です。
そんな2人が演奏するフランクにいて語るのは少々気が引けますが、網羅的な聴き比べ「だけ」が売りの拙ブログにおいて感想を記さないのも何ですので、何か書こうと思います。
重く粘る西崎のヴァイオリンと明るく端切れのよいヤンドーのピアノが対照的です。西崎は丁寧に弾いているのですが、終始かすれた音で、もう少しヴァイオリンの音色が美しければと思います。ヤンドーは巧いですね。


イメージ 17

フランク ヴァイオリン・ソナタ
カリン・アダム(vn)
ドリス・アダム(p)
1991年5月
ウィーン

【お薦め】
これは好きな演奏、カリーン・アダム(1962年-)はウィーン生まれで、数々のコンクールに参加した後、世界各国で演奏しています。室内楽の分野では、妹のドリス・アダムとのデュオが知られています。
さて、この演奏は、第1楽章の第1主題がかすれた音色で美しくなく、この調子で全曲付き合わされるのはたまらないと思いきや、それも表現(かすれた音を用いるのは好きじゃないです)の内で、以降は豊かな音色で実によく歌うヴァイオリンとなり、最後までフランクの音楽を堪能させてくれます。このような演奏が好きなのですが、難を挙げれば、細かいヴィブラートが気になります。ここはかけなくてもいいのにと思うところでも、ヴィブラートがかかるのです。大きな欠点ではありませんが、繰り返し聴くと気になります。でも好きな演奏なのです。


イメージ 16

フランク ヴァイオリン・ソナタ
リディア・モルドコヴィチ(vn)
マリーナ・グサック=グリン(p)
1992年2月6-8日

【お薦め】
これも好きな演奏で、オイストラフの門下、ロシア生まれのモルドコヴィチ(1944年-2014年)によるフランクです。第1楽章は、師匠譲りの豊かな音で雰囲気もバッチリ、伸びやかな歌を聴かせます。やや遅めのテンポを採った第2楽章もヴァイオリンをよく鳴らし、弾き飛ばさず、じっくりと歌い上げますし、コーダの迫力も際立っています。第3楽章は悲痛なヴァイオリンで、数々の動機が思い入れたっぷりに美しく演奏されます。第4楽章のカノンも可憐で、展開部も劇的、華やかで力強く締め括ります。


イメージ 15

フランク ヴァイオリン・ソナタ
Marie Annick Nicolas(vn)
Boris Petrov(p)
1992年(リリース?)

マリー=アニック・ニコラ(1956年-)というフランスの ヴァイオリニストです。1980年から1986年まで、彼女はフランス放送フィルハーモニー管弦楽団のスーパー・ソリストの地位にあったそうです。やや速めのテンポですいすい進行していくフランクで、太く丸い音でぐいぐい推していく気風のよさがあります。しかし、表現に工夫を凝らしているのはわかりますが、語りの上手さとか、深みには乏しく、あっさりしているように感じます。録音のせいか、右側から聴こえるピアノがちょっと煩くて、バランスの悪さも減点対象です。


イメージ 14

フランク ヴァイオリン・ソナタ
今井信子(va)
ロジャー・ヴィニョールス(p)
1992年1月

言うまでもなく今井信子(1943年-)は、日本が誇る世界的なヴィオラ奏者です。ヴァイオリンのために作られた曲をヴィオラで弾いているわけですが、ヴィオラはヴァイオリンより最低音が5度低いので、低音が豊かに鳴ります。しかし、最高音も低くなりますので、そこは音を下げたりと、いろいろ工夫が必要ですが、チェロ(最低音はヴィオラより1オクターヴ低い)の場合はそれほど気にならなかったのが、ヴィオラはヴァイオリンに近いせいか、少し違和感がありますね。今井の演奏も、フレーズ毎に大きな抑揚を付けたもので、少々オーバーにも感じます。けして悪い演奏ではないのですが、ヴァイオリン曲をヴィオラで弾く意義は見い出せなかったのです。


イメージ 13

フランク ヴァイオリン・ソナタ
アン・アキコ・マイヤース(vn)
ロハン・デ・シルヴァ(p)
1992年6月

マイヤース(1970年-)は、父親がドイツ系アメリカ人で母親が日本人のハーフです。このフランクの録音は、平林直哉氏が名盤として選定されていたのを覚えていますが、まず、第1楽章はポルタメントの多さに驚かされます。ポルタメントが悪いとは言いませんが、この時代にこれ程かけるのは珍しく、昔の巨匠達の演奏を意識にしたのかな?と思いました。第2楽章はなかなか良いです。しなやかで美しく、ちょっとわざとらしさを感じさせるところもありますが、第1楽章とは打って変わって瑞々しさを感じます。第3・第4楽章も良く、不思議な魅力がありました。振り返ってみれば、第1楽章はあれでよかったのでしょう。最後まで聴いてみないとわからないものです。


イメージ 12

フランク ヴァイオリン・ソナタ
エマニュエル・パユ(fl)
エリック・ル・サージュ(p)
1993年

ベルリン・フィルの首席奏者で、レ・ヴァン・フランセの一員、独奏者としても活躍しているパユ(1970年-)のフルートによるフランクです。ピアノは気ごころの知れたル・サージュ(1964年-)。フルート版ではゴールウェイ&アルゲリッチ盤が有名ですが、パユの音色はゴールウェイに及ばず、表現も割とのっぺりしているので、聴いているうちに飽きてしまいました。巧いことは巧いのですが……。


イメージ 11

フランク ヴァイオリン・ソナタ
オーギュスタン・デュメイ(vn)
マリア・ジョアン・ピリス(p)
1993年9月,10月
ミュンヘン

【お薦め】
デュメイ(1949年-)3度目のフランクで、ピアノはピリス(1944年-)です。どうでもいいことですが、ピリスのほうが年長だったのですね。
このCDは、フランクのヴァイオリン・ソナタの代表的な名盤とされているもので、名曲名盤の類では常にトップの座にあります。これ1枚で満足されている方も多いでしょうし、実際、美しい演奏と思います。楽器の音だけではなく、音楽そのものが美しいと感じます。
デュメイ&ピリス盤を聴いた後、デュメイ&コラール盤(旧盤)を聴いて、もう一度デュメイ&ピリス盤を聴き直してみました。
デュメイ&コラール盤には、ひたむきさ、一途さ、真剣さ、素直さがあり、この当時の二人が持っていた、力と技を惜しみなく注ぎ込んだ名演でした。
デュメイ&ピリス盤も、この2人ならではの、息の合ったデュオによる完成度の高い演奏なのですが、デュメイが老練になり、新鮮味が薄れてしまったように思われます。逆に、デュメイ&ピリス盤を愛聴される方にとっては、デュメイ&コラール盤は荒削りに思うかもしれません。
デュメイ&コラールの再録音も聴いておくべきでした。


イメージ 10

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ピエール・アモイヤル(vn)
パスカル・ロジェ(p)
1994年5月
チョリーウッド,バルビローリ・ホール

【お薦め】
ハイフェッツ(1901年-1987年)の愛弟子、フランスの名ヴァイオリニスト、アモイヤル( 1949年-)の演奏、ピアノも同じくフランスの名ピアニスト、盟友のロジェ(1951年-)です。 Wikipediaによれば、アモイヤルは「ハイフェッツが、その才能と技量に全幅の信頼を置いた唯一の弟子」なのだそうで、テクニックは万全、さじ加減をわきまえた上での、旋律の歌い方が洒落ていて大変雰囲気の良い演奏です。さじ加減と書きましたが、表現が絶えず大きく変化し、それは音色ではなくテンポの揺れによるもので、あくまで美音を保った上での表情付けです。ロジェのピアノも宝石のような音色で華を添えています。ご馳走も食べ過ぎると飽きてしまいますが、これだけ聴かせてくれればお薦めにしないわけにはいかないでしょう。
アモイヤルには、ミハイル・ルディのピアノで1984年にも録音(ERATO)がありますが、そちらは未聴です。


イメージ 9

フランク ヴァイオリン・ソナタ
亀井由紀子(vn)
岡城千歳(p)
1994年12月20日リリース

【お薦め】
ハイフェッツの弟子が続きます。亀井由紀子(敬称略)は、高校卒業後、ジュリアード音楽院に入学するために渡米しますが、ひょんなきっかけでハイフェッツ(1901年-1987年)と出会います。以来、ハイフェッツに師事し、彼のアシスタントを10年間務め、現在はサンフランシスコ交響楽団の第1ヴァイオリン奏者なのだそうです。
ハイフェッツに「感性で弾きなさい。しかし、感傷的であってはなりません」と教えられたそうですが、これはまさしくそのようなもので、凛とした佇まいを思わせる美しい音で端正な演奏を聴かせます。先述のアモイヤルの演奏より優れていると思いました。大きな弾き崩しがない分、楽曲の美しさを十分引き出しており、どの楽章も品のある良い出来栄えです。今回聴いた中でも特に印象に残った一枚で、もっといろいろな亀井由紀子の演奏を聴いてみたいと思いました。
ピアノの岡城千歳(おかしろちとせ)は、ご本人のウェブサイトやFacebookを拝見し、頑張っているんだなぁと、応援してあげたい気持ちになりました。


イメージ 8

フランク ヴァイオリン・ソナタ
アンネ=ゾフィー・ムター(vn)
ランバート・オーキス(p)
1995年9月
ベルリン,フィルハーモニー

ヴァイオリンの女王、ムター(1963年-)。わざとかすれた音で奏でられる第1楽章第1主題。全体に弾き崩しの多さが目立つ第1楽章ですが、変化の大きい第2楽章はそれなりに面白く聴けました。第3楽章は第1楽章ほどの違和感はありませんが、それでもムターの常套手段である、ノンヴィブラートの掠れた音で曲を閉じられると、う~んという気持ちになります。第4楽章はムターの輝かしくも強靭なヴァイオリンに耳を奪われる瞬間もありますが、やっぱり表情過多に思われます。そんなムターに1988年から付き合っているオーキスの献身的なピアノは、ムターにとって得難いものでしょう。


イメージ 7

フランク ヴァイオリン・ソナタ
Louis Pantillon(vn)
Steve Huter(p)
1995年12月12日(リリース)

【お薦め】
Louis Pantillon(ルイス・パンティリオン?)という名前は聞いたことがないのですが、第1楽章はSteve Huter(スティーブ・フター?)の静謐なピアノに始まって、なかなかよい雰囲気です。第2楽章も少々ピアノの音が大き過ぎるときがありますが、Pantillonの品の良いヴァイオリンには好感が持てます。第3楽章は繊細な表情に豊かな歌で、全楽章中の白眉とも言えます。大きな弾き崩しがないのが良いのです。第4楽章も全編に素朴さと懐かしさを感じさせる歌が溢れ、なかなか充実した演奏でした。ちょっと甘いですが、予想を裏切った演奏なので、お薦めを付けました。


イメージ 6

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ジョシュア・ベル(vn)
ジャン=イヴ・ティボーデ(p)
1996年6月1日

【お薦め】
ベル(1967年-)とティボーデ(1961年-)の(当時)若手デュオによる演奏です。ベルとティボーデでは、どちらかというと、ティボーデのほうに耳が行きがちです。ティボーデの卓越した技巧は、それは見事なもので、比重が大きいピアノ・パートを完全に表現し尽くしています。最高のフランクのピアノと言っても過言ではありません。ベルのヴァイオリンも悪かろうはずもなく、全力投球の演奏です。ただ、ベルにはどこか醒めたところがあり、常に冷静であるように聴こえます。第4楽章の小気味のよい節回しなど、惹かれるところも多く、全体としてかなりの高水準な演奏であることは間違いありませんので、お薦めにしたいと思います。


イメージ 5

フランク ヴァイオリン・ソナタ
Szymsia Bajour(Simón Bajour)(vn)
Aldo Antognazzi(p)
1997年7月4日(?)

Szymsia Bajour(1928年-2005年)は、ポーランド生まれ、アルゼンチン育ちのヴァイオリニストで、アストル・ピアソラの最初の五重奏団に参加していたのだそうです。デュオであるBajour-Antognazziとしては、1983年から1992年に活動していたそうですから、このフランクもその頃の録音なのでしょう。この録音を聴いた第一印象は、ヴァイオリンの音があまりきれいじゃないということで、技巧的にも優れているとは言い難いのですが、音楽に真摯に向き合う姿勢が感じられ、最後まで聴くことができました。


イメージ 4

フランク ヴァイオリン・ソナタ
五嶋みどり(vn)
ロバート・マクドナルド(p)
1997年6月2-4日
サフォーク,スネイプ・モールティングズ・コンサート・ホール

世界のMidori、五嶋みどり(1971年-)が26歳の時に録音したフランクです。録音の加減のせいでしょうか、ヴァイオリンの音量が小さめです。そのせいもあり、3回聴いてみたのですが、非常に慎ましい、引っ込み思案のヴァイオリンに聴こえます。う~ん、感想を書くのが難しい……。
おそらく、私が五嶋みどりに期待しているものと、この演奏(録音)は異なるのでしょう。もっと心惹かれるフランクのヴァイオリン・ソナタの録音はいろいろあって、申し訳ないのですが、この演奏はそれらに及ばない感じがしました。そう思ってしまったのだから、仕方がありません。


イメージ 3

フランク ヴァイオリン・ソナタ
Dénes Zsigmondy(vn)
Anneliese Nissen(p)
1997年12月28日(リリース)

Zsigmondy(1922年-2014年)は、ハンガリーのヴァイオリニストだそうです。フランクのソナタを聴こうとして、この録音を選ぶ人はまずいないでしょう。最後まで聴こうとしたのですが、第3楽章が始まったところで断念しました。楽曲がいくら素晴らしくても、受けつけない演奏があるということを改めて学びました。


イメージ 2

フランク ヴァイオリン・ソナタ
レナート・ドナ(vn)
アルド・チッコリーニ(p)
1998年7月4・5日
モンテベッルーナ,アウディトリウム・フェニックス

このヴァイオリン奏者も知らない人なのですが、名ピアニストのチッコリーニ(1925年-2015年)とのデュオなので、聴いてみることにしました。予想どおりチッコリーニは素晴らしく、深く沈む表現など絶品で、このピアノだけで十分という気持ちになります。ドナのヴァイオリンは硬質で神経質な音色であり、特に第2楽章の冒頭など低い音がきれいじゃないです。しかし、悪いところばかりではなく、チッコリーニのピアノに触発されたのか、ハスキー・ヴォイスのヴァイオリンは、どこか寂しげで孤独を感じさせるもので、音色の点を除けば、第3楽章、特に第4楽章など、上出来と思いました。


イメージ 1

フランク ヴァイオリン・ソナタ
イツァーク・パールマン(vn)
マルタ・アルゲリッチ(p)
1998年7月
サラトガ(ライヴ)

パールマン(1945年-)の、おそらく2度目の録音、ピアノはアルゲリッチ(1941年-)です。このCDが登場したときのことはよく覚えています。パールマンとアルゲリッチという、ヴァイオリンとピアノの最高の名手による、すごい顔合わせの演奏が登場した、と。選曲も、ベートーヴェンの「クロイツェル」とフランクのソナタで、いったいどんな演奏なのだろうと、ワクワクしました。ただ、その当時、評論家はあまり褒めていなくて、それはパールマンに原因があるような書きぶりでした。せっかくアルゲリッチが素晴らしい演奏をしているのに、パールマンはそれほどでもないというというような。
今聴いてみれば、そんなにパールマンは悪くないですよ。むしろ、アルゲリッチの大きな弾き崩しがすごく気になります。アルゲリッチが1961年にリッチと録音した、あの頃のようなピアノであれば、この演奏はもっとバランスの取れたものになったに違いありません。なぜパールマンに合わせてやれなかったのか。これでは初めてフランクのソナタを聴く人には、曲の原型がわからないと思います。まぁ確かに、このアルゲリッチの即興性に比べれば、パールマンは普通に思えます。しかし、パールマンだけ聴けば、彼としては十分過ぎるほどの熱演です。パールマンに味方したい私でした。



フランク ヴァイオリン・ソナタの名盤(改) 2000~2009

$
0
0
今回も数が多いです。22種類あるのです。
名演に出会えると、苦労が報われた気持ちになります。


イメージ 21

フランク ヴァイオリン・ソナタ
永井幸枝(p)
2000年1月

これは、コルトーの編曲によるピアノ独奏版です。フランクのヴァイオリン・ソナタは、ピアノ・パートが非常に魅力的で、ピアノだけ聴いてみたいという思いに応えてくれるものとして選んでみました。とても興味深く、特に第2楽章が面白かったです。当然のことながら、元々ピアノ・ソロとして作曲されていた部分のほうが出来が良く、ヴァイオリン部分を移したところはいま一つになっています。変わり種としてご紹介しました。


イメージ 20

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ウート・ウーギ(vn)
ブルーノ・カニーノ(p)
2000年1月 イタリア,イヴレア

【お薦め】
イタリアのウート・ウーギ(1944年-)とブルーノ・カニーノ(1935年-)による演奏です。第1楽章出だしは上々、名演の期待が高まります。美しい音による、良く歌われるメロディで、イタリアのデュオらしく、曇りのない晴れやかな演奏です。ウート・ウーギのヴァイオリンは低音から高音まで音がきれいに響いていて、気持ちがよく聴けます。第3楽章のRecitativoとFantasiaの各所の描き分けも上手で、第4楽章もただただ聴き惚れているうちに終わってしまいました。素晴らしい演奏でした。


イメージ 19

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ミッシャ・マイスキー(vc)
マルタ・アルゲリッチ(p)
2000年11月9・10日
京都コンサートホール(ライヴ)

マイスキー(1948年-)とアルゲリッチ(1941年-)、19年ぶりの再登場です。パールマンの時は、アルゲリッチの弾き崩しが気になりましたが、マイスキーとのデュオでは違和感がありません。ただし、チェロは前回のほうが美しかったすし、今回は幾分線が細くなった感じがします。しかし、第3楽章はチェロならではの味わいがありますし、アルゲリッチは全然変わっておらず、相変わらず絶好調です。
なお、マイスキーとアルゲリッチには、2011年2月9・10日のルツェルン,カルチャーコングレスセンターのライヴ映像がありますが、それは視聴していません。


イメージ 18

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ウラディーミル・スピヴァコフ(vn)
セルゲイ・ベズロドニー(p)
2001年3月19-21日
パリ,Eglise du Bon Secours

【お薦め】
ロシアの名ヴァイオリニスト、スピヴァコフ(1944年-)です。音色が低い音から高い音までバランスが良く、そして美しく、メロディはやや引き摺る傾向がありますが、ロシアの演奏家らしく濃厚な歌を聴かせ、聴き応え十分です。こんな演奏でブラームスを聴けたら、きっと素晴らしいでしょうね。



イメージ 17

フランク ヴァイオリン・ソナタ
オリヴァー・コルベントソン(vn)
エイリッヒ・アペル(p)
2002年(!?)

コルベントソン(1927年-2013年)は、アメリカ出身のヴァイオリン奏者。
これは絶対2002年の録音ではないです。Digitally Remastered と書いてあるのが怪しいし、これはモノラル録音です。リストから除外しようと思いましたが、そんなに悪い演奏でもないので、一応ご紹介しておくおとにしました。ステレオ録音でメジャーレーベルからの発売だったら、そこそこ高い評価をあげてしまったでしょう。


イメージ 16

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ヨーヨー・マ(vc)
キャサリン・ストット(p)
2003年1月、2月

【お薦め】
ヨーヨー・マ(馬友友:1955年-)は「デビュー当時のテクニックは世界最高」といわれた人ですから、このフランクも、ものすごく巧いです。ヴァイオリン曲をチェロで弾くのは難しいと思うのですが、普通のヴァイオリン奏者より巧くて美しい演奏です。巧いだけではなく、(パリ生まれだからというわけではありませんが)フランスのエスプリ的なものが漂っており、音楽が洗練されています。チェロ版では一押しで、これならチェロ・ソナタとしても立派に通用するのではと思いました。


イメージ 15

フランク ヴァイオリン・ソナタ
サラ・チャン(vn)
ラルス・フォークト(p)
2003年5月

【お薦め】
この録音時23歳のサラ・チャン(張永宙:1980年-) は韓国系アメリカ人のヴァイオリニストであり、ドロシー・ディレイ門下、パールマンや五嶋みどり、ギル・シャハム、諏訪内晶子、シュロモ・ミンツらの妹弟子なのだそうです。ピアノは指揮者としても活躍しているラルス・フォークト(1970年-)。このピアノはとってもゴージャスな響きです。
第1楽章は終始かすれ気味の音が気になりますが、これも表現のひとつなのでしょうか。それだけに強音に達したときの輝かしさが際立ちます。
第2楽章はフォークトの粒立ちのよい、ダイナミックかつ細心なピアノに惹かれますし、サラ・チャンの強くてしなやかなヴァイオリンが素晴らしいです。
第3楽章もなかなかの表現力です。前にも書きましたように、かすれた音で弾かれるのは好きではないのですが、効果的に用いていますね。
第4楽章も魅力的な音色で、高らかに歌い上げる演奏です。フォークトのピアノが煩いときもあるけれど、それにしても立派なピアノです。


イメージ 14

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ヤーノシュ・バーリント(fl)
ゾルターン・コチシュ(p)
2003年12月27-29日
Phoenix Studio

【お薦め】
ハンガリーのデュオで、バーリント(1961年-)のフルート、とコチシュ(1952年-2016年)のピアノによる演奏です。コチシュは、ラーンキ、シフとともに三羽烏と称えられた名ピアニストで、惜しくも一昨年に亡くなってしまったのですが、指揮者としても素晴らしいバルトークを残していました。
コチシュのピアノを聴きたいがために、この録音を選んだのですが、バーリントのフルートは、ヴィブラートが控えめで、あっさり吹き進めていきます。中低音では、フルートの特徴である歌口に当たる息の音があまり聴こえないのが不思議。電子楽器のようです。第2楽章はコチシュの硬質な響きのピアノが大活躍します。バーリントンは相変わらずあっさりしていますので、コチシュの強靭なピアノの方に耳が傾きがちです。とにかく凄まじいピアノです。バーリントは高音を避けないので、原曲に近いなのが好ましく、第3楽章のソロで奏でられる、いくつかの Recitativo が素晴らしいです。 Fantasia に入るとそれまでの性急な運びから一転して、情緒豊かになります。これならばフルート・ソナタとして立派に通用するでしょう。コチシュ目当ての演奏でしたが、バーリントのフルートに魅せられた1枚でした。フルート版では一押しの演奏です。


イメージ 13

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ミヒャエル・ディンネビーア(vn)
アンゲラ=シャルロット・ビーバー(p)
2004年1月25-27日
Schloßbergsaal des SWR Freiburg 

ミヒャエル・ディンネビーア(1968年-)はアルゴイ地方ケンプテンの生まれです。ピアニストについてはよくわかりません。
線の細いヴァイオリンという第一印象を受けました。内省的なヴァイオリンを演出しているのかとも思いましたが、楽章を追ってもその印象は変わりません。楽章を追うごとに、なかなかドラマティックな演奏となります。しかし、いわゆる弾き崩しがないことについてはも好感が持てるのですが、音色に魅力がないのは大きなマイナスポイントです。ちょっと残念。


イメージ 12

フランク ヴァイオリン・ソナタ
Volodja Balžalorsky(vn)
Hinko Haas(p)
2004年?
Lirica bagatela(ライヴ)

Balzzalorsky(バルザロスキー?:1956年-)、Hinko Haas(ヒンコ・ハース?:1956年-)はいずれもスロベニアの演奏家です。Balžalorskyの音色には癖があります。鼻が詰まった歌手のような感じで、訛りのように聴こえます。それが美しいと思われるときもあれば、変な音色に聴こえることもあります。それさえ気にならなければ、これはなかなかの熱演で、傾聴に値しましょう。少し荒っぽいところもありますが、なかなか良い演奏ですよ。


イメージ 11

フランク ヴァイオリン・ソナタ
堀 正文(vn)
清水和音(p)
2005年2月13-14日
埼玉,秩父ミューズパーク

【お薦め】
堀 正文(1949年-)は、富山県出身のヴァイオリン奏者です。1974年にダルムシュタット国立歌劇場管弦楽団の第1コンサートマスターに就任、1979年にNHK交響楽団と共演したのを契機に、その年の9月にN響のコンサートマスターとなり、長年ソロ・コンサートマスターを務め、現在は名誉コンサートマスターだそうです。
清水和音(1960年-)の、1981年のロン=ティボー国際コンクールピアノ部門優勝後の活躍は、ご存じのとおりでしょう。
こんな大御所二人の演奏について感想を書くなんて畏れ多いことですが、歯に衣(きぬ)着せず記します。
第1楽章序奏の段階で清水の音色にノックアウトされます。第1主題を奏でるヴァイオリンも飾り気がなく誠実なもので、好感が持てます。この段階で早くも【お薦め】決定です。
第2楽章も良いテンポです。堀のヴァイオリンは高い音になっても力強さと輝きを失わず、そして清水のダイナミックで美しいピアノが大変魅力的です。
次の楽章は、清水に比べると地味な彫のヴァイオリンですが、恰幅のよさと包容力を感じさせるもので、Recitativo と Fantasia の対比も見事であり、久々に聴かせる第3楽章でした。
第4楽章はカノンの自然な美しさ、展開部の劇性ともに申し分なく、堀の伸びやかな美しさを誇るヴァイオリンと清水のバスを強調した重厚かつ繊細なピアノがとても素晴らしかったです。


イメージ 10

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ドーラ・シュヴァルツベルク(vn)
マルタ・アルゲリッチ(p)
2005年12月10-12日
Dada Studio

大家が続きます。シュヴァルツベルクについては詳細は不明ですが、室内楽の分野では、アルゲリッチ、マイスキー、ラビノヴィッチ、ベルリンスキー(ボロディン弦楽四重奏団)、トレチャコフ、バシュメット、アファナシエフ、今井信子、コッス等、著名な演奏家と共演している人で、教師としては、1988年からウィーン国立音楽演劇大学の教授として、30人以上の弟子を国際音楽コンクールに入賞させている指導者だそうです。なお、ピアノはまたしてもアルゲリッチ(1941年-)で、これで何度目の登場でしょうか。
個性的な演奏を予想していたのですが、やっぱり非常にユニークです。
第1楽章は遅いです。ピアノによる第2主題提示までがすごく遅く、その後のかけ合いも遅く、例の奏者がしているように、シュヴァルツベルクも終始かすれた音を多用し、心に傷を負ったような苦し気な雰囲気で幕を閉じます。
第2楽章は、第1主題も第2主題も苦し気で、不安が増長して、なかなか平安が訪れません。このようなヴァイオリンですから、アルゲリッチのピアノは全く違和感がなく、アルゲリッチがいつもより控えめに思えるほどで、主導権はヴァイオリンが握っているように思えます。これはすごいこと。
第3楽章もかなり自由で濃厚な表現です。第4楽章泣き明かした目で微笑んでいるような演奏です。とにかく最後まで濃厚な表現ですが、3分45秒あたりで「うぐぁッ」という唸り声のようなものが聴こえたのには驚きました。
そんな演奏ですから、フランクのヴァイオリン・ソナタを1枚買ってみようという人にはお薦めできません。5~10枚ぐらい購入した人であれば、これを聴いているみるのも良いでしょう。何度も繰り返して聴ける演奏ではありませんが。


イメージ 9

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ヨシフ・イワノフ(vn)
ダニエル・ブルーメンタール(p)
2006年1月

JAPAN ARTSさんのサイトによると、「印象的な権威と存在感を持つ演奏家」(ザ・ストラド)、「未来のトップヴァイオリニストのひとり」(ディアパソン誌)と目され、同世代の中で最もエキサイティングなヴァイオリニストのひとりという地位を短時間で確立し。16歳でモントリオール国際コンクール第1位、2年後にはエリザベート王妃国際コンクールでも第2位と観客賞を受賞して注目を集めた、逸材だそうです。
シュヴァルツベルクの演奏を聴いた直後では、一服の清涼剤のように思えます。第2楽章は開始からテンポが速く、イワノフが本領を発揮し始め、緩急の差を大きく取った若々しい表現で魅せます。第3楽章も美しい音色による心のこもった歌を聴かせ、第4楽章は文句のつけようがない名演となりました。ただ、第1楽章がいま一つに思えたため、無印とします。


イメージ 8

フランク ヴァイオリン・ソナタ
古澤 巌(vn)
高橋悠治(p)
2006年4月16・17日
軽井沢,大賀ホール

古澤巌(1959年-)と高橋悠治(1938年-)によるフランクで、個性的な演奏が期待できそうです。
第1楽章は、何と言ったらよいのか、音をひきずる演奏が多い中で、前につんのめるような演奏です。神経質でなく、弱音に固執しない図太さが気に入りました。そういう意味では第2楽章は普通かもしれません。第3楽章も意外に端正に弾いています。第4楽章ともども旋律の歌わせ方は、なかなか感傷的なのですが、さばさばしているところもあります。全体としてドライな印象を持ちましたが、さっぱりしたフランクを聴きたい人に向いている演奏でしょう。高橋悠治のピアノも意外なくらい普通ですが、他では聴けない面白い表現も聴けます。2人とも、奇をてらわず、正攻法で臨んだようです。


イメージ 7

フランク ヴァイオリン・ソナタ
セルゲイ・ハチャトリャン(vn)
ルシーネ・ハチャトリャン(p)
2007年7月
スイス,シオン Studio Tibor Varga

【お薦め】
この姉弟を以前はハチャトゥリアンと記しましたが、レコード芸術の表記に従い、ハチャトリャンとしました。作曲家のアラム・ハチャトゥリアンと同じアルメニアの出身です。Amazonのレビューでルシーネがヴァイオリニストと勘違いしている人がいますが、弟のセルゲイ(1985年-)がヴァイオリンで、姉のルシーネがピアノのデュオです。
第1楽章は品が良く静かな音楽で、大切に丁寧に演奏しています。第2楽章も声を荒げることのない抑えた表現で、幻想抒情曲といった趣です。抑えているがゆえに、より内面性が感じられ、また、不気味でもあります。しかし、コーダでは抑えた感情が爆発します。第3楽章もソフトですが、Recitativo は鋭いです。Fantasia は瞑想的です。第4楽章は平安な気分に満ち、楽曲をいたわるような演奏です。この楽章も最後に感情が噴出するようです。全体を通してなかなかユニークな表現に感じられましたので、お薦めにします。


イメージ 6

フランク ヴァイオリン・ソナタ
リンダ・ヘドルンド(vn)
オリバー・カーン(p)
2008年(リリース?)

「フィンランド音楽界を牽引するヴァイオリニストの1人」リンダ・ヘドルンドの演奏です。ピアノは伝説のGKではありません。ベートーヴェン国際優勝のピアニストです。
第1楽章はヴァイオリンの音色があまりきれいじゃないかも。あと、低い音だと音程がぶら下がり気味になるような。第2楽章も、小さい音や低い音では音色が汚いのです。強い音だとそんなことはないので、意識してやっているのでしょうか。熱演といえば熱演です。聴かせるところもあります。第3楽章も音色がきれいじゃないけれど、なかなか美しい歌を聴かせます。ところが第4楽章は歌も音もきれいで、最も成功しており、なんだか騙された気がしますね。


イメージ 5

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ダヴィッド・ルフェーヴル(vn)
アラン・ルフェーヴル(p)
2008年

ダヴィッド・ルフェーヴルについて調べようと思って検索したら、このブログがヒットしました。コメント欄にルフェーヴルの名を書いてしまったからでしょう。つまり、それぐらい無名ということなのです。CDはそこそこ出している兄弟(?)なのですが。
第1楽章最後の音が僅かに乱れるのはご愛敬、第2楽章で音をスパッと切る箇所が面白いです。第3楽章、Recitativoの2小節目でトリラーに入るとき、なんか変だったような。第4楽章も変なポルタメントがかかった……。なんだかんだ書いていますが、この演奏は普通に良い演奏だと思います。聴き終えて清々しさが残りました。お薦めにはしませんが、一聴の価値がある演奏です。


イメージ 4

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ウリ・ピアンカ(vn)
ティモシー・ヘスター(p)
2009年2月24日

ウリ・ピアンカ(1937年-)はテルアビブ生まれで、イスラエル・フィルのコンサート・マスターでもあった人、ティモシー・ヘスターについてはよくわかりません。
ピアンカのヴァイオリンは、歌い方にちょっと癖がありますね。誕生年と録音年が正しければこの時72歳です。右手の弓捌きが衰えているのか、大事な音を外すときもあります。若かりし頃は、美音を撒き散らしながら、濃厚な歌を奏でていたのでしょう。聴きようによっては、年齢に似合わあない瑞々しい音楽を奏でるヴァイオリニストという見方もできるかもしれませんが、柔軟性に欠け、やや硬直した音楽づくりです。時おり、全盛期を想像させる立派な表現もあるのですが……。


イメージ 3

フランク ヴァイオリン・ソナタ
シルヴィア・マルコヴィッチ(vn)
ジャン=クロード・ヴァンデン・エイデン(p)
2009年3月24日(リリース?)(ライヴ)

【お薦め】
マルコヴィッチ(1952年-)はルーマニアが誇る世界的なヴァイオリニストで、容姿端麗(なのにこのジャケット?)という点でも有名だそうです。ピアニストは、何人かの日本人ピアニストに「ジャン=クロード・ヴァンデン・エイデンに師事」という略歴が見られることから、教育者として有名な人なのかもしれません。
さて、この録音、本当に2009年の録音なのでしょうか。特にピアノの音色がデジタル録音とは思えない不思議な音で鳴っています。
演奏は良いです。スタイルには若干古さを感じさせますが、第1楽章の問いかけの歌、第2楽章の迸る激情、第3楽章の昏い情熱、第4楽章の晴朗な賛歌などいずれも素晴らしいと思いますし、ヴァイオリンの音色が魅力的です。エイデンのピアノも良いです。


イメージ 2

フランク ヴァイオリン・ソナタ
トーマス・アルベルトゥス・イルンベルガー(vn)
イェルク・デムス(p)
2009年9月
ザルツブルク,Salle de musique Gneis

イルンベルガーについては調べてもわからなかったのですが、イェルク・デムス(1928年-)のピアノを聴きたかったので、この録音を選びました。デムス、この時81歳です!
フランクのソナタは、第1楽章最初のヴァイオリンが美しい音で演奏されることがあまり無いのですが、この演奏は珍しくきれいな音でした。これは名演かもしれないと思いましたが、第2楽章は美音に寄りかかり過ぎで、いささか緊張感のない演奏に聴こえますし、音程も甘いようです。デムスのピアノも細かい音がうまく弾けていません。総じてヴァイオリンとピアノがちぐはぐな印象を受けました。第3楽章、いきなりヴァイオリンの音程が低いような……。イルンベルガーは、常に低めに音を取ります。悪い演奏ではないのですが、いろいろなことが気になってしまいました。


イメージ 1

フランク ヴァイオリン・ソナタ
千住真理子(vn)
藤井一興(p)
2009年11月
草津音楽の森国際コンサートホール 

今回のラストは、千住真理子(1962年-)と藤井一興(1955年-)です。このフランクは、千住真理子の「心に残る3つのソナタ」というアルバムに、フォーレ、モーツァルト(実はあともう一人作曲家がいます)とともに収録されています。
千住真理子は「フランクのソナタは、多くのクラシックファンが熱くなる曲です。私の青春時代、博兄が絵を描きながらこの曲を大音量で家中に鳴らしていました。曲そのものも実に絵画的で、楽章ごとに物語の場面展開が感じられるのが面白いです。千住家では当時、家中でこの曲に恋をし、私がステージで弾く日を夢見て皆でフランクについて語らう日々を送りました。憧れ続けた私のバイオリン人生とともに、今も、ある曲です。」と述べています。
このアルバムに使用されている楽器は、約300年間、誰にも弾かれずに眠っていた幻の名器、1716年製のストラディヴァリウスなのでしょうか。
などと、余計なことをコピペし続けましたのは、正直なところ、この演奏についてどう書いたらよいかわからなかったからです。とにかく、独特なアーティキュレーションを身に着けている人ですよね。旋律ごとに大きく呼吸をしているような演奏です。それが聴く者の呼吸に合っているかということが、好き嫌いの分かれ道になると思います。
藤井一興のピアノが見事です。ここでは伴奏に徹し、千住真理子をよく引き立てています。


フランク ヴァイオリン・ソナタの名盤(改) 2010~2013

$
0
0
4月29日、5月1日、5月2日と、このブログにしては珍しいペースで更新しています。フランクのシリーズは、今回で終わりのはずでしたが、さすがに40種超の録音について1回で全部書くのは無理なので、2回に分けることにしました。本当は3回に分けたいくらいですが、先を急ぎます。書いても書いても終わらないので。(追記:やっぱり3回に分けます。2014年の録音が多い! 多過ぎる!)


イメージ 1

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ヴァディム・レーピン(vn)
ニコライ・ルガンスキー(p)
2010年7月10-13日
ベルリン,テルデックス・シュトゥーディオ

【お薦め】
今回は最初からレーピンです。現代のヴァイオリン界を背負って立つ感のあるレーピン(1971年-)とピアノのルガンスキー(1972年-)の豪華ロシアン・デュオ。さて、レーピン、やはり巧いです。巧さが半端じゃありません。2人の存在が輝かしいです。こういう演奏が聴けるのなら、もうしばらくこのシリーズを続けてもいいかなと思いました。
第2楽章はルガンスキーの腕の見せ所でもあります。ルガンスキーも巧い! 2人とも憎たらしいほどに余裕で弾いています。この楽章がこんなに激しく弾かれたことがあったでしょうか。
第3楽章 recitativo 部の雄弁さ、強弱記号はfffに至りますが、その力強さ。Fantasia 部の寂寥感、ほのかな明るさ、第4楽章と共通するフレーズを奏でるヴァイオリンの意志の強さ。
第4楽章は人が替わったようにコミカルな演奏となります。それでも寂しさを忘れません。そして例のフレーズはすごい迫力で演奏されます。
カロリー満点の一枚でした。


イメージ 2

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ジェラール・プーレ(vn)
ノエル・リー(p)
2010年11月16日(リリース)

【お薦め】
2枚目は、少し古めの人達が登場します。フランスの名ヴァイオリニストであり教育者であるプーレ(1938年-)で、アメリカ人ピアニストのノエル・リー(1924年-2013年)との共演です。1枚目が超弩級の人達でしたので、プーレの演奏はいかにも軽く聴こえますが、フランクのソナタは本来このように演奏されるべきなのでしょう。プーレのヴァイオリンはによく鳴りますし、音に血が通っており、人間味の豊かさを感じます。テンポを落とさずとも、雰囲気を失っておらず、総じて安心して音楽に身を任せることができる演奏です。ノエル・リーは個性を主張せず、プーレのサポートに徹していますが、それも良い結果に結びついているのでしょう。ところで、録音年はいつなのかな。


イメージ 3

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ジョシュア・ベル(vn)
ジェレミー・デンク(p)
2010年11月26-29日 アリゾナ州フェニックス,楽器博物館

【お薦め】
ジョシュア・ベル(1967年-)の再録音は、ベルの伴奏者を長年務めているジェレミー・デンク(1970年-)とのアメリカン・デュオです。交互に聴き比べたわけではありませんが、ベルのヴァイオリンは落ち着きを増し、雄弁になったようです。
第1楽章は柔らかく大きな膨らみをもって演奏されます。実はこの演奏、今回の一番最後に聴いているのですが、大家の演奏というのは安心感がありますね。コーダもなるほど、このように演奏されなければいけません。
第2楽章は速めの良いテンポです。力強さより弱音の繊細さに特長があります。この楽章ではデンクの名サポートぶりも特筆に値します。
第3楽章も同様で、少し小ぶりではりますが、Recitativo 部は緊張感を持ってそれなりに盛り上がります。ただ、聴くべきは Fantasia 部で、これこそがベルが奏でたかった音楽なのでしょう。
第4楽章も手放しでは喜べないのか、どこかベルは遠慮がちで、スケール感で勝負をする人ではないものの、クライマックスに向けての設計に、ベルの円熟味を感じました。
ところでこのフランクの後に、ラヴェルのソナタが収録されているのですが、そちらのについつい耳が行ってしまいます。佳い曲ですね。


イメージ 4

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ジェニファー・パイク(vn)
マーティン・ロスコー(p)
2010年12月14-16日
サフォーク,ブリテン・スタジオ

2002年に史上最年少の12歳でBBCヤング・ミュージシャン・オブ・ザ・イヤーに選ばれたジェニファー・パイク(1989年-)の CHANDOS デビュー・アルバム。ピアノは同じくイギリスのマーティン・ロスコー(1952年-)です。
パイクはこの録音当時20歳でしょうか。音楽が若々しいです。小細工を弄さないストレートな表現で、自らが培った技術と音楽性で勝負しているという感じです。それが非常に好ましいと思える反面、例えば第3楽章の激しい歌は聴き手を圧倒するまでには至りません。なんとなく、底が浅いと感じてしまうのです。でも、第4楽章は良い演奏でしたよ。そう思えました。


イメージ 5

フランク ヴァイオリン・ソナタ
南 紫音(vn)
江口 玲(p)
2011年4月7-9日
軽井沢,大賀ホール

【お薦め】
2005年ロン=ティボー国際音楽コンクール第2位を受賞、2015年ハノーファー国際ヴァイオリン・コンクール第2位の実力者である南紫音(1989年-)です。ピアノは江口玲(1963年-)で万全の布陣で挑むフランクとなります。
比較すべきではないのでしょうけれど、ジェニファー・パイクと比べたら、断然南紫音のほうが上だと思います。少なくとも私はそう思う。パイクでは幼いと感じられるところもありましたが、南紫音は完成されています。音色も南のほうがずっと美しく、技巧もしっかりしています。若々しさ、伸びやかさも欠けていません。初めてフランクのソナタを購入される方にもお薦めしたい一枚です。


イメージ 6

フランク ヴァイオリン・ソナタ
(ジュール・デルサール編)
アンヌ・ガスティネル(vc)
クレール・デセール(p)
2011年4月

【お薦め】
拙ブログ「シューベルト アルペジオーネ(アルペジョーネ)ソナタ イ短調 D821 の名盤で、アンヌ・ガスティネル(vc)クレール・デセール(p)の2005年録音が愛聴盤と書きました。このCDも取り上げないわけにはいかないでしょう。
デセールが良いと思うのもつかの間、やはりガスティネルは素晴らしかった。何がどうということではなく、何から何まで素晴らしいと思えてきます。前回、チェロ盤ではヨーヨー・マ盤を押しましたが、ピアノも含めた総合得点ではガスティネル盤のほうが上かもしれません。第2楽章のテンポが速いので心配になりますが、ガスティネルには問題ありません(とはいえ、パッセージは少しテンポを緩めます)。全編に渡り、チェロの豊かな音色を駆使した見事な演奏で、特に第3楽章が良かったです。でも、第4楽章はやっぱりヴァイオリンほうがいいかな。デセールのピアノも特筆もの。


イメージ 7

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ファブリツィオ・フォン・アルクス(vn)
ジュリアン・クエンティン(p)
2011年12月
スイス,ラ・ショー=ド=フォン

意味不明なブックレット。どうして海なのでしょう?
アルクスはナポリ生まれ、5歳でヴァイオリンを始め、10歳でヴィットーリオ・ヴェネト・コンクールで優勝という経歴(略歴)の持ち主です。ピアノのクエンティンはパリ生まれです。
全体にポルタメントが多めで、少し前の時代に戻ったようです。悪くはないのですが、特にここが他の盤より優れているというところが見つからない演奏です。懸命に歌おうとしているのだけれど、存外、楽曲への共感が低いのかも。


イメージ 8

フランク ヴァイオリン・ソナタ
アラベラ・シュタインバッハー(vn)
ロベルト・クーレック(p)
2012年5月
オランダ,ファルテルモント

ドイツ人の父親と日本人の母親との間に生まれたドイツのヴァイオリニスト、アラベラ・シュタインバッハー(1981年-)、日本ではアラベラ・美歩・シュタインバッハーの名で紹介されています。ピアノは、ラトビアの首都リガ生まれのクーレックです。期待の1枚!
か弱いというのが第一印象でしたが、クライマックスに向けて力強くなっていく情熱的なヴァイオリンです、が、第2楽章はあまりきれいな音じゃありません。力むと汚くなるみたいです。第3楽章も考え抜かれた解釈と推察しますが、いかんせん音がきれいじゃない。第4楽章は良いです。第1~3楽章がイマイチの場合、第4楽章が良い演奏であるケースが多いのですが、この演奏も例外ではありませんでした。


イメージ 9

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ユーチン・ツェン(vn)
インガ・ジェクツェル(p)
2012年8月23-26日

【お薦め】
ユーチン・ツェン(1994年-)は、台北生まれのヴァイオリニスト。2006年にメニューイン・コンクール・ジュニア部門で3位、2009年に第10回サラサーテ国際ヴァイオリン・コンクールで1位・サラサーテ演奏賞を史上最年少で受賞、2010年に第53回パガニーニ国際コンクールで最優秀演奏賞、2011年にユン・イサン国際ヴァイオリン・コンクールで1位、2011年チャイコフスキー国際コンクールで審査員特別賞、2015年チャイコフスキー国際コンクールでヴァイオリン部門最高位という見事な経歴の持ち主です。ピアノのジェクツェルは、このCDに参加しているということくらいしか情報がありません。
このソナタは、第1楽章の第1主題に全てがあるというのは言い過ぎですが、これをきれいに弾けない演奏は、ほんとんど例外なくNGでした。その点この演奏はOKです。はち切れんばかりのエネルギーをもった演奏に圧倒されました。秋のイメージがある曲ですが、これは夏ですね。夏の日の夕暮れ。続く第2楽章も大変エネルギッシュな演奏で、私は大満足です。、
第3楽章の情熱劇な Recitativo と夢幻の世界に誘う Fantasia の演奏、どちらも素晴らしいでが、謎を残した分、Fantasia が印象に残りました。
第4楽章は人が変わったように明るい(そういう曲だけど)ですが、ユーチン・ツェンの性格も多分に反映されているのかもしれません。とにかくすごい才能の持ち主です。


イメージ 10

フランク ヴァイオリン・ソナタ
神尾真由子(vn)
ミロスラフ・クルティシェフ(p)
2012年8月30日-9月3日

神尾真由子(1986年-)は、大阪出身のヴァイオリニストで、2007年チャイコフスキー国際コンクール優勝者です。ロシアのクルティシェフ(1985年-)は、も2007年チャイコフスキー国際コンクール第2位(1位無しの最高位)入賞者で、その縁で2013年7月8日に結婚したのだとか。
コンクールで実績のある人の演奏は、あまりハズレがありません。期待の一枚です。
第1楽章は感想を書くのが難しい曲でいつも苦労しています。演奏者も苦労しているのではないでしょうか。旋律を歌わせ過ぎると、なよなよした演奏になってしまいます。第2楽章はなかなか良かったです。感性に任せて弾き切ってくれればこの楽章はうまくいきます。なかなか迫力Tがありました。冒頭の音が汚い演奏が多いですが、これは合格点です。第4楽章もなかなか情熱的な演奏で素晴らしいと思いました。ただ、第1楽章が考えすぎてしまったように思われるので、お薦めは無しにしたいと思います。


イメージ 11

フランク ヴァイオリン・ソナタ
オーギュスタン・デュメイ(vn)
ルイ・ロルティ(p)
2012年9月24-26日
Normandy,Saint-Denis-le-Ferment

【お薦め】
デュメイ(1949年-)4度目の録音、ピアノはフランス系カナダ人のロルティ(1959年-)で、万全の体制で臨んでいます。
第1楽章、初めはデュメイも枯れてしまったのかと思いましたが、最初のffには全盛期を思わせる力強さを発揮します。デュメイはきれいな音を保ったままで、いろいろなモティーフを歌い上げています。ここまで大きな弾き崩しも無く、好印象です。さすがです。
第2楽章も圧倒的な貫禄を見せつけます。初心に帰って演奏しているようで、コラールとの録音を思い起こさせます。今回はそれに近い演奏と感じました。
第3楽章・第4楽章も全く老いを感じさせず、健在ぶりをアピールしています。前回のピリス盤よりも楽曲に対する共感が一層深まり、技巧の衰えも無く、円熟の境地と言ったらよいのでしょうか、素晴らしい演奏でした。


イメージ 12

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ソレンヌ・パイダシ(パイダッシ)(vn)
ローラン・ヴァグシャル(p)
2012年11月
パリ,サン=マルシェ寺院

【お薦め】
2010 年のロン=ティボー国際コンクールで成田達輝が第2位というニュースがありましたが、第1位はフランスのパイダシ(パイダッシ)でした。その実力の程を確かめてみたいと思います。
第1楽章が良い演奏はなかなかないのですが、堂々とした演奏です。弱音に固執せず、強い弓捌きが音楽の豊かさを醸しています。
第2楽章も力づくで曲をねじ伏せているような感じもありますが、単調さの一歩手前、ストレートな音楽運びは若さの特権と思います。その強い音は聴いていて快感を覚えます。
第3楽章前半のfffに至る部分も思い切りの良い強音です。後半の心のこもった歌を聴かせます。
第4楽章もやや速めのテンポですっきりしていますが、味が薄いということはありません。実に力強い、というより、高らかといったほうが良いかもしれませんが、輝かしく歌い上げて終わります。
ヴァグシャルというピアニストはよくわからないのですが、なかなかの実力の持ち主とみました。抒情的な表現が特に優れており、指回りもよく、そのセンスの良さにすっかり魅了されてしまいました。


イメージ 13

フランク ヴァイオリン・ソナタ
マリア・バックマン(vn)
アダム・ニーマン(p)
2012年12月

【お薦め】
ヴァイオリンは,アメリカの女流ヴァイオリン奏者、マリア・バックマンです。ピアノは、1995年ギルモア・ヤング・アーティスト・アワードを歴代最年少で受賞し、1996年YCA国際オーディションで優勝したニーマンです。
第1楽章第1主題は合格です。この辺り、第2主題までが大変難しい曲なのですが、バックマンは良いですね。名演を予感させます。デリケートな歌い方ですが、神経質に聴こえないのは美徳と思います。ピアノがちょっと煩いかな。
第2楽章は汚い音になるかならないかのギリギリのところで力強い表現を行っています。その思い切りのよさ、音楽への踏み込みがが素晴らしいと思いました。熱演です。
第3楽章のヴァイオリンの recitativo がなかなか素晴らしいです。微妙なニュアンスをよく音に出しています。Fantasia 部もよく歌っています。最後の音もよく伸ばしました。
第4楽章も前3楽章と同様です。強い音がもう少し太い音色だったらとも思いますが、これだけ弾ければ上出来でしょう。
ピアノにもう少しデリカシーがあったらもっと良かったのですが。


イメージ 14

フランク ヴァイオリン・ソナタ
リサ・ヤーコブス(vn)
クセニア・コウズメンコ(p)
2013年7月

ヤーコブスは、2005年の第2回ヤッシャ・ハイフェッツ国際ヴァイオリン・コンクールで最高位を受賞したオランダのヴィルトゥオーゾ・ヴァイオリニストだそうです。ヴィルトゥオーゾなんて言葉を気安く使ってよいのだろうかと思います。クセニア・コウズメンコ(1971年-)は、ソ連(当時)のミンスク(現在はベラルーシ共和国の首都)生まれの女流ピアニストです。
第1楽章はブックレットの写真に反しておっととしたヴァイオリンが意外です。ずいぶんのんびりしていますが、こういう雰囲気も悪くありません。ちょっと焦点がぼけているような気もしますが、音がきれいなのがありがたいです。
第2楽章もやや音を引きずるような弾き方です。伸びやかですが緊迫感に欠けるような……。他の演奏のような激しさはありません。コーダはさすがに緊迫した表情を聴かせます。
ヤーコブスのこうした音楽づくりが効果を発揮するのは、第3楽章でしょう。でも同じ調子が続いたので飽きてしまいました。逆に第4楽章は素晴らしかったです。美しい音色がプラスに働き、平穏な中にも喜びを感じさせる音楽となりました。


イメージ 15

フランク ヴァイオリン・ソナタ
Krzysztof Jakowicz(vn)
Waldemar Malicki(p)
2013年8月1日(リリース)

ポーランドの名ヴァイオリニストである Krzysztof Jakowicz(1939年-)と同じくポーランドのピアニスト、Waldemar Malicki(1958年-)の演奏です。録音年不詳ですが、ブックレットの写真やJakowicz の生年からすると、割と年を取ってからの録音ということになりますか。
第1楽章第1主題のリズムの取り方が独特です。テンポが速いだけかもしれませんが。ピアノは立派ですが、ヴァイオリンは枯れています。弓捌きが闊達とはいかない感じ。これは聴いていてつらいかも。
第2楽章も音量控えめなヴァイオリンでダイナミックレンジが狭いです。逆にこれだけ弾けるのはすごいことなのかもしれません。弱音時は聴かせるものがあります。
第3楽章も枯れた演奏です。昔取った杵柄と言いたいところですが、もう少し若い頃に録音してほしかったですね。ただ、その表現はさすがと思える箇所も少なくないです。ピアノに負けていますが。
第4楽章は速めのテンポ、相変わらず音量小さめです。総じて若かりし頃はさぞやと思わせる演奏でした。


イメージ 16

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ジーナ・シフ(vn)
キャメロン・グラント(p)
2013年11月

カリフォルニア生まれのジーナ・シフについて詳しいことはわかりませんが、カーティス音楽院のイワン・ガラミアン門下であり、ハイフェッツにも師事したことがあるそうです。ピアニストのグラントについては全くわかりません。
冒頭からしっかりと弾かれているので期待が高まります。この第1楽章は考え過ぎの演奏が多いのです。弱音に固執したり、かすれた音で演奏したりで、がっかりさせられることが多いですから。よく訓練されたヴァイオリンです。
第2楽章も落ち着いた表現で、丁寧に弾かれています。しかし、こんなに冷静な演奏でよいのかという疑問もあります。ストレッタで一瞬燃え上がりますが、再現部では醒めた演奏に戻ります。巧いことは巧いです。コーダはなかなかの迫力です。
第3楽章もテンポが遅めです。聴く方も緊張を維持するのが大変です。第4楽章も遅いですが、この楽章が悪い演奏にはなかなか出会わないです。ジーナ・シフは割と自由に弾いていますが、どの楽章も同じように弾いているので、飽きてしまいました。描き分けというか、もう少し変化が必要でしょう。繰り返しになりますが、巧いことは巧いのです。


イメージ 17

フランク ヴァイオリン・ソナタ
上里はな子(vn)
松本和将(p)
2013年11月月29・30日
茨城県,T-TOC STUDIO

【お薦め】
愛知県生まれの上里はな子(1976年-)は「史上二人目となる全日本学生音楽コンクール小中学生の部全国第1位」という経歴の持ち主で、その後も多彩な活動を行っていることはご存知のとおりです。岡山県生まれの松本和将(1979年-)は、上里や向井航と2010年にピアノ・トリオを結成していますので、気心の知れた仲間なのでしょう。
不思議な魅力がある演奏です。解釈が普遍的で、万人に受け入れられやすい演奏でしょう。現代的というより、ひと昔前の名人の表現に似ています。そういう人達の演奏をよく研究したのでしょうか、よく歌う演奏です。自力でこの境地にたどり着いたのだとしたら、大した音楽性の持ち主と言えます。技術に癖があるように思われ、ちょっと甘いかもしれませんが、【お薦め】を付けたいと思います。
松本和将のピアノはタッチがとても美しく、他のピアニストと比べても全く遜色がないどころか、上回っているとさえ思いました。


各感想をもっと簡潔に書こうと思ったのに、結局、長くなってしまいました。以前のYahoo!ブログだったら文字数制限でアウトです。
振り返れば、ちょっと【お薦め】が多くなりましたが、それだけ演奏技術が向上し、また録音も優秀になっているということでしょう。


フランク ヴァイオリン・ソナタの名盤(改) 2014~2018

$
0
0
G.W.最終日に思い切ってオーディオ機器の配置を変更した。2013年6月1日以来の変更だ。スピーカー(スタンド込みで一本58.4kg)、アンプほどではないが、CDプレーヤーが意外に重くて(21.8kg)、全身筋肉痛になってしまった。一週間経ってようやく回復したが、年齢を感じてしまう。

配置を変更した理由は、左右のスピーカーの設置環境を揃えたかったのと、オーディオ・ラックが横長タイプであるため、ケーブルの脱着や端子のクリーニングが困難であったからだ。

半日の作業を終え、音出しをした。従前より良い音がするはずだった。ヨーヨー・マのチェロで、コダーイの無伴奏チェロ・ソナタのSA-CDをかけてみた。良い音になった気がするのだが、何かおかしい。2本のスピーカーの中央にチェロが定位しない。FM放送のニュースを聴いても、アナウンサーの声がまとまらない。ステレオ再生とは、かくも難しいものであると思い知った次第。

さて、標題のとおり、フランクのソナタであるが、8回目となる。あともう1回で終了する予定であったが、頑張って今回で終了させよう。ひとつの記事は4,000文字という制限があったのだが、現在は20,000文字(原稿用紙50枚分)に変更されたようで、画像も「1つの記事につき、縮小後のサイズで合計20MB以内です。たとえば、縮小後のサイズが約500KBの画像では、1つの記事に合計40点まで掲載できます。」となっていた。つまり、残り全部の演奏について一つの記事で書いてしまうことができるということ。あとは根気だけ。

前置きが長くなった。シリーズの最後なので、気分転換に文体も変えてみた。敬体の文書は、何かと都合がよかったのだが、気分転換に常体を用いてみた。少しは新鮮味が出るだろうし、マンネリを打破することができるかもしれない。それでは早速。


イメージ 1

フランク ヴァイオリン・ソナタ
戸田弥生(vn)
アブデル=ラーマン・エル=バシャ(p)
2014年2月6-8日
神奈川県,相模湖交流センター

戸田弥生(1968年-)の受賞歴では、1993年エリザベート王妃国際音楽コンクール第1位が光っている。彼女が現在使用している楽器は、上野製薬から貸与されている1740年製ピエトロ・グァルネリだそうだ。1978年エリザベト王妃コンクール優勝のアブデル・ラーマン・エル=バシャ(1958年-)のピアノで聴く。
ゆったりしたテンポの第1楽章で、引き摺り気味のせいか、狂おしいという言葉が似合いそうなヴァイオリンである。第2楽章は、エル=バシャのピアノに惹かれる。戸田のヴァイオリンは第1楽章と同様だが、こちらの方が感情の振幅が大きく感じられる。感情の込め方が半端ではない。第3楽章は Fantasia 部でやっと一息というところ。熱のこもったヴァイオリンに、ようやく平穏が訪れたようだ。第4楽章も前3楽章の延長上にある演奏である。統一感はあるものの、この楽章では吹っ切れた明るさを期待したいところだが、戸田の集中力は途切れず、一音たりともおろそかにしないという決意が伝わってくる。


イメージ 2

フランク ヴァイオリン・ソナタ
カリュム・スマート (vn)
ゴードン・バック(p)
2014年2月19日(リリース)

2010年に13歳で BBC・ヤングミュージシャン・コンクールに入賞したカリュム・スマートは、同年のメニューイン国際コンクールで1位を獲得している。17歳のスマートがどのようなフランクを演奏しているのか興味が湧く。
第1楽章はまだこなれていないものを感じるが、逆にその素直さが好印象でもある。第2楽章も深みや味わいには乏しいかもしれないが、このような演奏は貴重とも思うし、わかりやすいとも言える。フランクのヴァイオリン・ソナタはこのような曲であったのだと、改めて感じさせる演奏。楽曲の有様を私心無く再現していると言えばよいのだろうか。第3楽章もヴィブラートは控えめ、音の美しさで勝負しているようなところろがあり、スマートの誠実さが伝わってくる。第4楽章も、そう、こういう演奏を聴きたかったのだと思わせる。ゴードン・バックのピアノも、スマートをよくサポートしている好感の持てるものであった。
(追記:次のCDが素晴らしかったため、思わず当盤の【お薦め】を取り消してしまった。ごめん、スマート!)


イメージ 3

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ペイジュン・シュー(va)
パウル・リヴィニウス(p)
2014年3月
ヴッパータール、インマヌエル教会

【お薦め】
次世代のヴィオラの女王と言われるペイジュン・シュー(徐沛珺)を聴いた。シューは、今井信子やタベア・ツィンマーマンに師事し、2010年のユーリ・バシュメト国際ヴィオラ・コンクールで優勝している実力の持ち主だ。
第1楽章は予想していたヴィオラの音ではなかったので、少し面喰ったが、ヴィオラにもいろいろあるようだ。割とヴァイオリンに近い音色である。ヴィオラだからということではなく、この演奏には新鮮な感動を覚えた。第2楽章はヴィオラの豊かな音色を活かした主題提示に魅了される。ヴィオラで演奏することの違和感をあまり感じない。Tempo I allegro の Recitativo などすごい迫力で、シューは信じられないくらい巧い。楽器の種類を超えて、これだけ聴かせる第2楽章は本当に久しぶりという気がする。鳥肌が立った。第3楽章も見事で言葉を失う。技術が高いはもちろんだが、シューの音楽性が優れているからここまで心を打つのだろう。驚きの連続だ。良い演奏は時間が経つのが早い。第4楽章の、あの素晴らしいカノン主題をこのように演奏した人はいなかった。
シューは、次世代の女王ではなく、疑いもなく現代のヴィオラの女王だ。


イメージ 4

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ルノー・カピュソン(vn)
カティア・ブニアティシヴィリ(p)
2014年4月28-30日

【お薦め】
人気ヴァイオリニストのルノー・カピュソン(1976年-)には、アレクサンデル・ギュルニングとのデュオの、LUGANO FESTIVAL 2002 がある(はず)だが、それは入手していないので、この録音だけを取り上げる。なお、カピュソンが使用している楽器は、1737年製グァルネリ・デル・ジェス「パネット」で、アイザック・スターン(1920年-2001年)が約半世紀にわたって使用し、その録音のほぼすべてに使用した楽器なのだそうだ。
ピアノは個性的な演奏で人気があるブニアティシヴィリ(1987年-)だ。
感想だが、シューの次に聴いたCDがカピュソン盤で良かった。シューの後には、他のどのヴァイオリニストの録音を持ってきても霞んでしまったであろう。この演奏にはブニアティシヴィリ(当時27歳)という超強力な共演者を得ていることも大きい。
第1楽章はまず美しいヴァイオリンの音色と歌に酔いしれる。今回の最高のヴァイオリンと言っても良いだろう。第2楽章はブニアティシヴィリのピアノがエキサイティングだ。第1楽章・第2楽章ともに雰囲気に流されているようなところもあるのだが、今どきこれだけ艶やかで美しく、バランスの良いヴァイオリンもないと思うので、全然OKだ。フランス系のヴァイオリン・ソナタはかくあるべしといった感のある演奏。第3楽章も、これを聴いている間は、もうこれでいいんじゃないかと思わせる演奏だ。欠点があるとすれば、カピュソンのヴァイオリンが美し過ぎて、それがだんだん鼻に付くことだろうか。第4楽章もほぼ理想的な演奏。こういう演奏に対して、主題が、展開が、コーダがと書いてもしょうがない気がする。ただ、ひたすら美しい演奏と録音を楽しめばよいのだ。


イメージ 5

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ジェイムズ・エーネス(vn)
アンドルー・アームストロング(p)
2014年5月19-21日
サフォーク州,ポットン・ホール

【お薦め】
カナダのエーネス(1976年-)とアメリカのアームストロング(1974年-)のデュオ。実は、あまり期待していなくて、よくなかったら適当に飛ばして終りにしようと思っていたら、これがなかなか優れた演奏だった。第1楽章第1主題は細心の注意を払って弾かれているのがよくわかる。その微妙な匙加減が素晴らしいし、音色も美しい。第2主題を奏でるピアノも同様だ。もうこの段階で【お薦め】決定なのだが、もう少し書こう。第2楽章は速め。カピュソンのような耽美的な音色の美しさはないが(それでも十分美しい)、その分、内面を深く掘り下げているように思う。この辺りまで聴くと、カピュソン盤よりエーネス盤の方が好きかもしれないと考えるようになる。コーダの悲痛なヴァイオリンも印象的で、情熱的な演奏であった。満足。第3楽章は最弱音でも、音がかすれないのが素晴らしい。あまり一生懸命聴き過ぎて感想を書くのを忘れてしまったくらい。第4楽章のカノンも気持ちよく流れるが、表面的ではなく、各主題や各動機が意味深く演奏される。全体として大変充実した演奏だった。


イメージ 6

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ジョヴァンニ・グッツォ Giovanni Guzzo(vn)
Anne Lovett(p)
2014年7月8日

【お薦め】
ベネズエラ生まれのジョヴァンニ・グッツォ(1986年-)とフランス生まれのピアニスト兼作曲家であるアン・ロヴェットによる演奏。
グッツォの楽器は、1759年製のニコラ・ガリアーノとのこと。明るい音が出るそうだが、本当に明るい明るい美しい音色だ。グッツォは、この楽器の特性を最大限活かし、朗々とメロディを歌わせている。低音は巾が広い太い音色で、最高音はも輝かしい。あっという間に第1・2楽章が終わり、第3楽章。ここでテンポをぐっと落とし、さらに演奏が丁寧になり、各フレーズを慎重に提示している。大きな崩しがなく、楽譜に忠実に演奏しているのが良い。第4楽章は打って変わって速めのテンポだが、拙速という感じはなく、フィナーレにふさわしい華やかな演奏で幕を閉じる。全体に明る過ぎるような気がしないでもないが、これだけの立派なヴァイオリンを【お薦め】にしないわけにはいかないだろう。


イメージ 7

フランク ヴァイオリン・ソナタ
五嶋龍(vn)
マイケル・ドゥセク(p)
2014年9月
ニューヨーク,アメリカ文芸アカデミー

五嶋龍(1988年-)とドゥセク(1958年-)のデュオ。この録音に用いた楽器は、2013年12月から日本音楽財団が貸与している1722年製ストラディヴァリウス「ジュピター」であろう。
五嶋龍の演奏について語ろうとするとき、偉大な姉である五嶋みどりを意識してしまう。ましてや、フランクのソナタは五嶋みどりも録音しているから、、それと比較しないわけにはいかない。しかし、正直な話、これだけいろいろな演奏を聴いた後では、お姉ちゃんの演奏の細かいところまで記憶に残っていないのである。端正な演奏であったような?
名曲中の名曲だから、丁寧に弾いているのがわかる。そしてそれは良い結果を生み出しているのだろう。ゆえに第1楽章はまずますの出来で、第2楽章も poco piu lento のフレーズなど美しく弾いると思う。レシタティーボ風のヴァイオリンの箇所も電のように響く。再現部になってからの切迫感もなかなかのものだ。第3楽章の Recitativo も熱っぽい演奏を聴かせるし、Fantasia のメロディも気持ちが入っている。第4楽章も、荒削りながら思い切りよく弾いていて、聴き応えがある。お姉ちゃんのフランクも、このぐらいの思い切りがあったら良かったのにと思う。
ドゥセクのピアノも優れていて、ツボを押さえたピアノであった。
続く、ヴィエニャフスキ「創作主題による華麗なる変奏曲」も(こちらの方がより)熱演だった。それでは、なぜ【お薦め】にしないのかというと、発展途上な印象が常にあり、よく言われているように「将来に期待したい」という月並みな感想をもってしまったからでだ。先入観を覆せなかったということか。


イメージ 8

フランク ヴァイオリン・ソナタ
Patrycija Piekutowska(vn)
Anna Miernik(p)
2014年11月11日

ポーランド生まれの Patrycija Piekutowska(1976年-)とAnna Miernik のデュオ。経歴がわからないと聴く側の思い入れが低くなり、あまり期待しないで聴区ことになるのだが、これがなかなか良かった。概ね楽譜どおりであまり変なことをやっていないのが良い。第2楽章もTempo I allegroで本格的な展開部になってからは、なかなか鮮やかである。再現部も気持ちのこともった演奏には迫力があり、コーダも激しい。これだけやってくれれば大満足。第3楽章を聴いてようやく気がついたのだが、Piekutowska って割と感情的な表現をする人だった。大きな踏み外しがないから、違和感なく聴ける。ちょっとがちゃがちゃした印象もあるけれど、これもなかなか佳い演奏だったよ。


イメージ 9

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ミシェル・ベネデット(vn)
アニー・ダルコ(p)
2015年(リリース)

フランスのマルセイユ生まれ同士のデュオ。ベネデットについて詳細はわからなかったが、エルネスタ・フランチェスカッティ門下で、ピアノのダルコの甥にあたるそうだ。1967年から1975年までパリ管弦楽団のヴァイオリン奏者を務めた」ともある。
ダルコ(1920年-1998年)は、パリ音楽院でマルグリット・ロンに学んだそうで、1946年ジュネーヴ国際音楽コンクール・ピアノ部門で二位入賞を果たし、室内楽奏者・独奏者として活躍した人とのこと。
だから、2015年録音のはずがないし、マスター・テープに起因すると思われる周期的なノイズ(もしかして板起こし?)が聴こえる。ただ、録音データ不詳でボツにするにはもったいない演奏だったので、取り上げることにした。フランスの演奏家によるフランクは妙に馴染むものがある。第1楽章で割と大きな表情を付けても、ちっとも違和感がない。必要だから当然行っているということだろう。第2楽章も理想的な表現だし、第3楽章の洗練された抒情が素晴らしい。第4楽章もこれでいいのだと納得させられる。録音はイマイチだけれど、充実した好演。


イメージ 10

フランク ヴァイオリン・ソナタ
スタインバーグ・デュオ
ルイザ・ストーンヒル Louisa Stonehill(vn)
ニコラス・バーンズ Nicholas Burns(p)
2015年(リリース)
Canada,Banff Centre

スタインバーグ・デュオ(Steinberg Duo)という名前は、Louisa Stonehillの父親がポーランド人だったときの姓に由来しているそうで、2007年からデュオとして活動しているとのこと。詳細は、以下のURLをご覧いただきたい。
第1楽章は悪くないのだけれど、ちょっと違うという感じがする。あちこちに書いているように、この楽章は難しい。第2楽章も僅かに違和感がある。第3楽章は序奏からして、やっぱり違う。あえて指摘すると、ニコラス・バーンズのピアノが良くない。変な表情づけが曲の美しさを損ねていると思う。ヴァイオリンもそう。これだったら忠実な再現のほうが有難い。第4楽章が最も出来が良いのは、変な節回しが無かったから。けして悪い演奏ではなかったのだけれど、私には合わなかった。


イメージ 11

フランク ヴァイオリン・ソナタ
フレデリック・ベッドナーズ(vn)
平塚夏生(p)
2015年2月21・22日
Montreal,McGill University Music Multimedia Room

カナダ人ヴァイオリニストのベッドナーズと平塚夏生の夫妻デュオ。この二人に関しては、実はよく知らないし、某通販サイトで検索しても1枚もヒットしない。だからと言って、このフランクが悪い演奏ということはない。第1楽章はブラームスを聴いているような感じ。第2楽章もしっとりとした落ち着いた演奏だが、クライマックスではそれなりに力強さをみせる。ベッドナーズは、卓越した技巧の持主というわけではなさそう(難しい箇所が本当に難しそうに聴こえるし、音程が甘いところもある。それも味わい)だが、旋律の歌わせ方など、なかなかのものである。演奏から受ける印象として、バッハなど弾かせたら存外上手いのかもしれない。この演奏も前2楽章より第3・4楽章が優れていると感じた。
平塚のピアノは、終始控えめだが、しっとりとした音色がとても美しく、ベッドナーズをよく支えていると思う。この演奏の成功の、少なく見積もっても半分以上は、平塚のピアノが貢献している。


イメージ 12

フランク ヴァイオリン・ソナタ
オーガスティン・ハーデリッヒ Augustin Hadelich(vn)
ジョイス・ヤン Joyce Yang(p)
2015年6月11-14日
ニューヨーク州立大学パーチェス校,
パフォーミング・アーツ・センター

【お薦め】
ドイツ出身の両親のもと、イタリアで生まれ、ジュリアード音楽院ではジョエル・スミルノフ氏に師事したハーデリッヒ。彼は、全身に負った大火傷を克服し、2006年インディアナポリス国際ヴァイオリンコンクールに優勝、2016年グラミー賞最優秀クラシック・インストゥルメンタル・ソロ賞受賞のヴァイオリニストである。
韓国生まれの女性ピアニストであるジョイス・ヤン(1986年ー)については、以下のURLを参照されたい。
第1楽章は、ヴァイオリンもピアノも好演。このソナタの第1楽章は難しい。デリケートな曲なのだ。これぐらいのアゴーギクがちょうどよいと感じる。第2楽章も、気持ちが入っているけれど大仰な表現にならないのは好ましいこと。佳い演奏だ。第3楽章も同様。前2楽章より出来がよいと感じる。各フレーズの描き分けが的確で、特に71小節以降は上々。第4楽章は、やや速めのテンポで美しい歌を聴かせる。重要な143小節からのffも感情が籠っており、それ以降も感動的だ。ピアノもなかなか良い。
ところで、この録音はヴァイオリニストの呼吸がやや大きめに入っている。気になるというほどではないが、歌みたいに、ここでブレスをしてはいけないんじゃないか?などとついつい考えてしまう。


イメージ 13

フランク ヴァイオリン・ソナタ
諏訪内晶子(vn)
エンリコ・パーチェ(p)
2016年1月26-29日
 パリ,ノートルダム・デュ・リバン

諏訪内晶子(1972年-)は、1989年エリザベート王妃国際音楽コンクール第2位(第1位はヴァディム・レーピンだから仕方がない)受賞後、1990年に史上最年少でチャイコフスキー国際コンクールに優勝し、その後の活躍はご存知のとおりである。ピアノはイタリア生まれのエンリコ・パーチェ(1967年-)で、1987年のストレーザ国際ヤマハ・コンクール、1989年の第2回国際フランツ・リスト・ピアノコンクールで優勝をきっかけに本格的な演奏活動を始めた人。
諏訪内の楽器は、世界三大ストラディヴァリウスの一つである「ドルフィン(Dolphin)」(1714年製)で、かつてハイフェッツ(1901年-1987年)が使用していた楽器を、日本音楽財団は諏訪内に2000年8月から貸与している。(ちなみに、三大ストラディヴァリウスの残りの2挺は、「アラード=バロン・ヌープ(1715年製)」と「メサイア(1716年製))
諏訪内の人気からすれば、フランクのソナタをもっと早く録音していてもおかしくはないのだが、2年前の録音である。
すっかり前置きが長くなってしまったが、このCDについてどう書いたらよいか迷ってしまい、都合4回も聴いてしまった。それで、書くには書いたのだけれど、どうも気に入らないので、このCDについては感想を保留とさせてください。


イメージ 14

フランク ヴァイオリン・ソナタ
タスミン・リトル(vn)
ピアーズ・レーン(p)
2016年4月25-27日
サフォーク州,ポットン・ホール

【お薦め】
イギリスのタスミン・リトル(1965年-)とオーストラリアのピアーズ・レーン(1958年-)のデュオ。リトルの経歴やレパートリーの広さからすれば、もっと多くの録音があって然るべきなのだが、新作とか忘れ去られた作品に力を注いでいるせいか、注ぎ某通販サイトでは12件しかヒットしない。諏訪内晶子でも23件なので、そんなものなのかもしれないが。ピアノのレーンも広範なレパートリーを誇るので、似た者同士のデュオということなのかも。
第1楽章は少し遅めのテンポを採用、太めの美音を用いてメロディを情感豊かに歌い上げている。本当に良く鳴るヴァイオリン。第2楽章も力強い。弱音でも音が痩せない(わざとやるときは別)。リトルの楽器は、1757年製のガダニーニとストラディヴァリウス「リージェント」だそうだが、この録音はどちらを使用しているのだろう。後者かな? ヴァイオリンの豊かな音だけで【お薦め】に値し、このような演奏を実演で聴いてみたいものである。だから第3楽章や第4楽章が悪いわけがない。
技術と表現の見事さで、なかなかこれをしのぐ演奏はないと言いたいぐらい。


イメージ 15

フランク ヴァイオリン・ソナタ
イザベル・ファウスト(vn)
アレクサンドル・メルニコフ(p)
2016年6,9月
ベルリン,テルデックス・スタジオ

【お薦め】
ドイツのファウスト(1972年-)とメルニコフ(1973年-)による演奏だが、カップリングのショーソン「コンセール」が素晴らしい演奏で、ファウストとメルニコフに加え、サラゴン四重奏団(クリスティーヌ・ブッシュ(vn)、リサ・インマー(vn)、セバスティアン・ヴォルフファース(va)、ジェシーヌ・ケラス(vc))が演奏している。昨年度の第55回レコード・アカデミー賞を受賞(室内楽曲部門)も頷ける。以前から好きな曲だったけれど、こんなに美しい曲であったかと改めて思ったくらい。
さて、ファウストは、1710年製ストラディヴァリウス「ヴュータン」、メルニコフは、1885年頃製エラール(Erard)を使用。このピアノの音色が、これまでの演奏と一味違う雰囲気を醸し出している。その木質的な響きが実に上品で風雅、心地よい。
現代ヴァイオリン界の女王とまで言われ始めたファウストだが、第1楽章は弱音主体の繊細な表現で、この人らしい内省的な演奏。再生装置によっては線が細く、神経質に聴こえるかもしれず、もしかしたら好みが分かれるかもしれないが、強い音に達するときには迫力も十分となっている。第2楽章は最初から力強いがpoco piu lento では再び第1楽章のような演奏となるが、その後の展開部や再現部はなかなか情熱的で表現の巾も大きく、こうでなくてはと思わせるものがある。第3楽章もエラールの雅やかな音色が好ましく、ファウストのヴァイオリンも負けず劣らず、素晴らしい音色で Recitativo を弾いている。Fantasia は、弱音がか細く演奏され、もう少し太い音色が好みなのだが、奥行きのある表現は白眉とも言える。コーダの最後の音をここまで伸ばすのも技術があってこそ。第4楽章はもの悲しさを感じさせる寂しい歌。他の演奏が俗っぽいと思えるほど高雅な歌を聴かせて幕を閉じる。


イメージ 16

フランク ヴァイオリン・ソナタ
千々岩英一(vn)
上田晴子(p)
2016年7月27-29日
神奈川県,相模湖交流センター

【お薦め】
千々岩英一(1969年-)は、フランス政府給費留学生としてパリ国立高等音楽院に学び、審査員全員一致の一等賞を得て卒業、同音楽院第三課程も修了し、1998年よりパリ管弦楽団の副コンサート・マスターを務めているそうだ。楽器は、1740年製のオモボノ・ストラディヴァリ(アントニオ・ストラディヴァリの次男)製作のもの。上田晴子は、1995年に日本国際ヴァイオリンコンクール最優秀伴奏者賞受賞という経歴がある。
第1楽章を少し聴いただけで【お薦め】の予感がする演奏。千々岩は「日本を発つときから、将来はいずれフランスで仕事を見つけて食べて行こうと思っていた」そうで、「個性というのは、無理矢理見つけなくても自分の中から滲み出てくるものだと思います。だから、普通に自然体でやっていくのがいいと思います」と述べているが、そのとおり、自然に音楽が流れていく演奏で無理がなく、フランスでの生活が長いせいか、雰囲気がとても良い。美しく豊かな音色で、佳い演奏だと思って聴いているうちに終わってしまう。続くフォーレの第2番も美しい。もっとこの人の演奏を聴いてみたいと思った。


イメージ 17

フランク ヴァイオリン・ソナタ
テディ・パパヴラミ(vn)
ネルソン・ゲルナー(p)
2016年10月29日~11月3日
ベルリン,テルデックス・スタジオ

パパヴラミ(1971年-)はアルバニアのヴァイオリニストで、名フルート奏者アラン・マリオンとの出会いにより、フランス政府給費留学生として1982年(11歳!)に招かれて渡仏、15歳で卒業している。その少し前に母と2人でフランスに亡命しているのだが、アルバニアに残された家族には社会的制裁が下され、なかなか大変だった模様……。パパヴラミには「ひとりヴァイオリンをめぐるフーガ」山内由紀子訳の著作もあり、読んでみたい。
パリ音楽院では、ピエール・アモイヤル(1949年-)に師事したそうだから、その薫陶を得ているという理解でよろしいだろうか。
ゲルナー(1969年-)は、アルゼンチン出身のピアニストで、1990年ジュネーブ国際音楽コンクールのピアノ部門の第1位を受賞している。
この演奏は、後半楽章の方が断然優れ鋳ている。前半はパパヴラミの音色が安定しておらず、音が汚いとまで思ってしまったのだが、もしかしたらそれは演出であったのかもしれない。


イメージ 18

フランク ヴァイオリン・ソナタ
フランチスカ・ピーチ Franziska Pietsch(vn)
デトレフ・アイシンガー Detlev Eisinger(p)
2016年11月22-24日
ベルリン,イエス・キリスト教会

東ドイツ生まれで、ジュリアード音楽院にてドロシー・ディレイ(1917年-2002年)に師事し、またルッジェーロ・リッチ(1918年-2012年)からも指導を受けたフランツィスカ・ピーチ(1969年ー)は、ソリストとして活躍する他、1998年から2002年までヴッパータール交響楽団の第1コンサート・ミストレスも務めていた。
デトレフ・アイシンガー(1957年-)のピアノで聴く。
第1楽章は繊細かつ小さな範囲でのアゴーギク。大きく崩さないところが好印象。ちゃんとそこをわきまえている。大きくいじれば台無しになってしまう音楽。第2楽章の poco piu lento は祈りの音楽だ。これにはどきっとした。第3楽章もこれ以上やったら神経質と眉をしかめる寸前のところで立ち止まっている。第4楽章についても同様。悲しい音楽に聴こえてくるから不思議。これは【お薦め】にしようか迷う。演奏内容は濃く充実しているのだが、やっぱり【保留】というところか。


イメージ 19

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ブロフィー・シスターズ The Brophy Sisters
Linnaea Brophy(vn)
Maeve Brophy(p)
2017年(リリース)

The Brophy Sisters については、以下のサイトをご参照いただきたい。
心のこもった、誠実な演奏だ。ただ、ヴァイオリン、ピアノに、あまり魅力が感じられない。特にピアノがよくなくて、素人っぽいのが残念。ヴァイオリンには光るものもあるけれど、全体に一本調子に陥っているように思われる。つまり、聴いていて飽きてしまうのだ。残念。


イメージ 20

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ガブリエル・チャリク(vn)
ダーニャ・チャリク(p)
2017年2月10,11日
パリ,サル・コロンヌ

ロシアの血を引く、フランスの音楽家兄弟ガブリエル&ダーニャ・チャリクによる演奏。アルバム・コンセプトは、プルースト「失われた時を求めて」の架空の作曲家であるヴァントゥイユのヴァイオリン・ソナタ。プルースト自身がサン=サーンスのヴァイオリン・ソナタ第1番だと示唆したともいわれ、また譜例として示されたものがフランクのソナタだという説もあるそうだ。。またプルーストの相方レイナルド・アーンが登場人物スワンのモデルとも言われている。このアルバムでは、それら3つのソナタを収録している。そういうことを抜きにしてもなかなか選曲がよいと思う。
肝心の演奏は、熟成していない、練れていない、ような気がする。楽曲に対して小細工を弄せず、ストレートな表現を行っているのは好ましいが、発展登場であり、録音として広く世に問うのであれば、もう少し時間が必要と考える。ただ、けして悪い演奏ではないということを付け加えたい。


イメージ 21

フランク ヴァイオリン・ソナタ
デュオ・ビリンガー Duo Birringer
レア・ビリンガー(vn)
エステル・ビリンガー(p)
2017年2月6-9日
Saarländischer Rundfunk, Großer Sendesaal

ドイツの姉妹デュオ、レア・ビリンガーとエスター・ビリンガーの演奏。
ビリンガー姉妹は、グリーグとフランクはもちろんのこと、それぞれと交流をレア・ビリンガーは、2008年のブラームス国際コンクールで最高位を受賞、エステル・ビリンガーは、第6回ヨハン・セバスティアン・バッハ国際コンクールで第1位という経歴の持ち主。世の中にはいろいろなコンクールがあるものだ、と意地悪くなってしまう。
演奏は、ピアノに比してヴァイオリンが大きめの音量で捉えられている録音だが、それゆえか、ヴァイオリンの表情がつぶさに分かり、なんだか不安定な感じがする。それは音程とか速度ではなく、ひとつのフレーズを歌うときに、歌い切れていないような気がする第1楽章。それもひとつの演出だと思ったのは、第2楽章がそうではなかったから。第1楽章とは逆のストレートなヴァイオリンで、もう少し何かしたほうがよいのではと思ったくらい。しかし、これはこれで、この情熱的なヴァイオリンは魅力的でもある。尻上がりに好調となるデュオ・ビリンガーの第3楽章は、これに力点を置いていたようで、優れた演奏となった。ここには不足するものがない。第4楽章は美しい。第1楽章のぎこちなさとは、えらい違いである。第3学長と第4楽章だけだったら十分【お薦め】にできたのだが。
エステル・ビリンガーもなかなか見事なピアノを聴かせていたことを追記しておく。


イメージ 22

フランク ヴァイオリン・ソナタ
デュオ・ガッツァーナ Duo Gazzana
ナターシャ・ガッツァーナ(vn)
ラファエラ・ガッツァーナ(p)
2017年3月27-29日
ルガーノ,オーディトリオ・ステリオ・モロ

ガッツァーナ姉妹であるナターシャとラファエラは、ローマ近郊のソラで生まれ、1990年代半ばにDuo Gazzanaを結成した。これも詳しくは以下のサイトをクリックしてくださいということになる。それにしても今回は兄弟・姉妹デュオが多いような気がするのだが、気のせいか。
第1楽章は遅め。どこかのんびりしているし、常に音楽が微笑んでいるようだ。こういう雰囲気も悪くない。結婚祝いのための曲だったら、こう弾くべきなのだろう。第2楽章もこんな曲だったっけ?と思うほどに明るい。quasi lento では掠れた音で表現する人が多いが、ナターシャはそんなことはなしない。Tempo I allegro からでも悲劇性を強調することなく、(五月の)風を切り、胸を張って歩いているような、自信に溢れた演奏だ。美しいヴァイオリン。第3楽章もゆったりしたテンポ。この楽章でようやく寂しい音楽となるが、ほのかな明るさをもった寂しさであるか。メリハリが付いていないので聴く方の集中力も途切れがちとなってしまう。しかしラストは素晴らしい。第4楽章も急がず慌てずで、最後までじっくりである。


イメージ 23

フランク ヴァイオリン・ソナタ
ジェスパー・ガッセリング Jesper Gasseling(vn)
サニー・リ Sunny Li(p)
2017年5月19日(リリース)

ガッセリング(1991年-)については、
サニー・リ(李:1991年ー)については、
をクリックしていただければ、詳細を知ることができる。
この録音は、私がご紹介したどの録音よりも衝撃的だった。これを初めて聴いたとき、この録音の製作意図を知りたいと思った。なぜ、こんなことをする必要があったのか、ということを。サニー・リのサイトで聴くことができるので、興味を持たれた方は、挑戦していただきたい。第2楽章か第4楽章を聴けば、私が言いたかったことを瞬時に理解できるはずだ。聴かない方が幸せと思うが。
ガッセリングの使用楽器は、ジョヴァンニ・パオロ・マッジーニ(1581年-1632年)製作の「ボリショイ」らしいが、この録音のプロデューサーにとって、ヴァイオンやピアノが何であれ誰であれ、どうでもよかったのだろう。実際、演奏はたいしたことがないのだけれど。


イメージ 24

フランク ヴァイオリン・ソナタ
周防亮介(vn)
三又瑛子(p)
2017年9月19-21日
埼玉県,富士見市民文化会館(キラリふじみ)

【お薦め】
「レコード芸術」3月号に周防亮介(1995年-)のインタヴューが掲載されているが、あれはピアニストの反田恭平(1994年-)のと同じくらい、特別な印象を与えるのであった。いや、余計なことを書いた。お二人とも、素晴らしい経歴の持ち主だ。このようなインタヴューによって、演奏に先入観を持つのはよくない。
このCDは周防のデビュー盤である。デビューにフランクのソナタを持ってくるなんて、なかなかできることではない。
第1楽章の序奏が終わり、ヴァイオリンが登場して間もなく、これは【お薦め盤】だと判る。やはり、人は見かけで判断してはいけない。これだけよく歌っている第1楽章は、数えるぐらいしかない。第2楽章もよいテンポだ。これ以上、速くても遅くてもいけない。各主題が絶妙なテンポで演奏されており、第1楽章同様、旋律の歌わせ方にこだわりが感じられる。その抑揚はかなり大きいのだけれど、このソナタの場合、これぐらい有ってもよいと思い直す。第3楽章は、Recitativo 前半の、たびたび訪れる静寂(休符)がキリキリしていて、その緊張感が半端ではない。59小節からの、あの素晴らしいテーマ(dociss. espress. tranquillo)も理想的で、71小節からの重要な主題も同様。ヴァイオリンの最後の音を可能な限り長く伸ばすのも嬉しい。第4楽章は若さがはち切れている好ましい演奏、いや、素晴らしい演奏。これがデビュー盤だなんて恐れ入る。
最後になってしまったが、ピアノの三又瑛子は、桐朋学園大学音楽学部演奏学科ピアノ科を首席で卒業した人。


イメージ 25

フランク ヴァイオリン・ソナタ
キョンファ・チョン(vn)
ケヴィン・ケナー(p)
2017年10月31日-11月7日
サフォーク州,ポットン・ホール

今回の曲のように全ての演奏を聴き終えるのに時間がかかると、困ったことが生じる。ひとつは、新譜が発売されてしまう(聴かなければならない音源が増える)ことであり、もうひとつは、レコード芸術に「月評」が掲載されてしまうということ。それを読んでしまったが、極力思い出さないようにして感想を書きたい。
前回が1977年だったので、なんと40年ぶりの、チョン・キョンファ(鄭京和:1948年-)の再録音。ピアノはアメリカのケヴィン・ケナー(1963年-)が務めるが、ケナーは、1990年チャイコフスキー国際コンクール第3位入賞、同年のショパン国際ピアノコンクールで最高位の第2位という実力の持ち主である。
チョンの気力は全く衰えておらず、第1楽章から付点の音価を変えてみたりと、積極的なアプローチを示す。謙虚な演奏であった40年前とは随分異なる印象だ。最後の音を長く伸ばすのは賛成だが、あともう少しのところでピッチが乱れてしまうのは惜しい。ここは難しいのである。第2楽章は最もチョンにふさわしいと思われる音楽で気合が入っている。ピッチが怪しいところも無きにしも非ずだが、そんなことは些細なことであろう。第3楽章も流されず、速めのテンポの中で常に変化を求める姿勢だ。落ち着きがないとも言えるが、チョンの健闘を湛えるべきであろう。第3楽章でも積極性は変わらず、他のヴァイオリニストが大事に大事に弾いているフレーズでも大胆なアゴーギクを採る。全体を通して最も成功しているのは第4楽章であるかもしれない。今のチョンの持てる力を出し切っている。
なお、この録音でのチョンの楽器は、1735製グァルネリ・デル・ジェスではなく、1702年製ストラディヴァリウス「キング・マキシミリアン」だとか。


イメージ 26

フランク ヴァイオリン・ソナタ
鈴木理恵子(vn)
若林 顕(p)
2018年1月16-18日
神奈川県,相模湖交流センター

鈴木理恵子は、23歳で新日本フィルハーモニー交響楽団副コンサート・ミストレルに就任(1997年に退団)、2004年から2014年2月まで読売日本交響楽団の客員コンサート・ミストレルであった人で、若林顕(1965年-)との夫婦デュオによる演奏。
第1楽章はかなり遅めのテンポによりポルタメントが目だってしまう。せっかく美しい音色を持っているのだから、ポルタメント無しでもよいのでは? まぁ演奏者の自由なのだが。第2楽章も遅めだが、もう少しテンポにメリハリを付けたほうがよいと感じる。このテンポだと1回目はいいけれど、繰り返し鑑賞するのはつらいかもしれない。さすがにコーダは速くなる。第3楽章は他の演奏も遅いのが常なので、それほど気にならない、かな? そもそもフランクってこういう音楽だっただろうか? Recitativo が速いほうが、後半の Fantasia が引き立つのでは? いや、Fantasia も速いほうが好きなんだけれど。最後の音は長く伸ばす、私が好きなパターン。第4楽章はOKです。カノンが天高い秋の空に吸い込まれていくようなイメージだ。それでもやっぱり遅くて時にピアノとずれてしまうことも。鈴木理恵子という人は、とても信念の強い人なのだろう。なぜかコーダは普通のテンポなのが意外だった。


イメージ 27

フランク ヴァイオリン・ソナタ
松田理奈(vn)
清水和音(p)
2018年2月20-22日
埼玉県,コピスみよし

【お薦め】
このブログの過去記事で、イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタのブックレットが話題となった松田理奈(1985年-)。2006年ニュルンベルク音楽大学(ドイツ)に編入し、2008年に首席にて卒業、同大学院も2010年に首席で修了したという実力の持ち主。ピアノは清水和音(1960年-)という万全の布陣。
第1楽章は丁寧な表現を心掛けているようで好感が持てる。第1楽章で無理をしてはいけない。台無しになってしまう。第2楽章も同様だが、安全運転というわけではなく、自身の節度の範囲内できっちり表現している。再現部からコーダにかけての情熱はなかなかのもの。第3楽章、recitativo 部の第2部の古典的(バロック的?)なプロポーションが美しく、Fantasia 部ではさらに素晴らしく、目を閉じるように曲が終わる。第4楽章は全曲で最も松田の長所が発揮されている。この曲のお手本のような演奏で、文句の付けようがない。使用楽器は、1752年製ジェーピー・ガダニーニであろうか。
清水の好サポートぶりも特筆される。

ヴァイオリン・ソナタ イ長調 FWV 8の名盤(改 )1929~2018
ちょうど100枚の紹介でした。それではごきげんよう!


ムソルグスキー「展覧会の絵」の名盤 1930ー1957

$
0
0
ワーグナー「さまよえるオランダ人の名盤」という記事でブログを再開したのが、2017年5月21日なので、ちょうど1年が経過しようとしています。1年も続けられるとは思っていなかったので感無量です。本当に皆様のおかげです。

さて、再開1周年記念というわけでもないのですが、「管弦楽曲」の書庫にこの曲がないのは寂しいと常々思っていましたので、取り上げることにしました。全く書かなかったわけではなく、小澤征爾の録音を取り上げたことがあったのですが、複数の演奏を聴き比べるのは今回が初めてです。

実は、この曲に対して若干の苦手意識があり、これまで積極的に聴いてこなかったのです。しかし、この一週間、これだけを聴き、素晴らしい作品と思うようになりました。そのようなわけで、今回は力を入れて取り組もうと考えています。(今週も忙しく、仕事が煮詰まると、頭の中に「古城」や「ビドロ」が響くほどに聴きこみました。)

下調べのために、いろいろなサイトを覗いてみたのですが、有名曲だけあって、語り尽くされていますね。録音数も非常に多く、多くの指揮者が取上げていますし、何度も繰り返し録音している人もいます。この曲には、演奏者にとっても、魅力的なのでしょう。

原曲であるピアノ版の録音もすごく多いのですが、今回はラヴェルの管弦楽曲編曲版を中心に聴きたいと思います。(ラヴェル以外の管弦楽編曲版も取上げます。)

【作曲者】
モデスト・ペトローヴィチ・ムソルグスキー
Моде́ст Петро́вич Му́соргский 
Modest Petrovich Mussorgsky
1839年3月21日(生)- 1881年3月28日(没)

【タイトル】
展覧会の絵(日本語)
Картинки с выставки(露語)
Pictures at an Exhibition(英語)
Tableaux d'une exposition(仏語)
Bilder einer Ausstellung(独語)

【組曲の構成】
・各プロムナードは1曲として数えない(ようです)。
・各プロムナードと直後の曲は、アタッカで繋げられる。
・ラヴェル管弦楽編曲版では、第5プロムナードは省略される。
・「リモージュの市場」から「死せる言葉による死者への呼びかけ」まで、
 「バーバ・ヤガー」と「キエフの大門」もアタッカで繋ぐ指示あり。
・「カタコンベ」と「死せる言葉による死者への呼びかけ」は、
 1曲として数える。
(「死せる~」は、第6プロムナードだと思っていました。)

第1プ ロムナード
 (Promenade)
01 グノム
 (Gnomus)
第2プロムナード
 (Promenade)
02 古城
 (Il vecchio castello)
第3プロムナード
 (Promenade)
03 テュイルリーの庭-遊びの後の子供達の口喧嘩
 (Tuileries, Dispute d'enfants apres jeux)
04 ビドロ
 (Bydlo)
第4プロムナード
 (Promenade)
05 卵の殻をつけた雛の踊り
 (Ballet des poussins dans leurs coques)
06 サミュエル・ゴールドベルグとシュミイレ
 (Samuel Goldenberg et Schmuyle)
第5プロムナード
 (Promenade)
07 リモージュの市場
 (Limoges, Le marche)
08 カタコンベ - ローマ時代の墓
 (Catacombae, Sepulcrum romanum)
    死せる言葉による死者への呼びかけ
 (Con Mortuis in lingua mortua)
09 鶏の足の上に建つバーバ・ヤガーの小屋
 (La cabane Baba-Yaga sur des Pattes de poule)
10 キエフの大門
 (La grande porte de Kiev)

イメージ 11


イメージ 10

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
セルゲイ・クーセヴィツキー
ボストン交響楽団
1930年10月28-30日
ボストン,シンフォニー・ホール

【お薦め】
名指揮者クーセヴィツキー(1874年-1951年)の依頼により、「オーケストレーションの天才」「管弦楽の魔術師」と呼ばれるモーリス・ラヴェル(1875年-1937年)が管弦楽曲に編曲したのが1922年、同年10 月19日にパリ・オペラ座でクーセヴィツキー指揮により初演され、彼が常任指揮者を務めていたボストン交響楽団が演奏したのは1924年11月7日のことでした。そして、初めての録音されたのは1930年、つまりこの演奏となります。
録音というのは大変ありがたいもので、クーセヴィツキーの指揮で聴けるという、それだけで感動してしまいます。
気になるのは音質で、歴史的な価値はあるものの、鑑賞用にはならないというのが通常のオチなのですが、この1930年の録音のあまりの高音質に驚きます。もちろん「当時としては」という前提条件付きですが、この時代に大規模管弦楽曲をこの水準で録音できたなんて奇跡のようです。NAXOSの復刻だと針音が上手にカットされていますので、お薦めです。
演奏は、現在のものには聴かれないテンポ・ルバートがあったりしますが、初演の指揮者だけあって、手慣れたものを感じますし、各曲の性格描写が巧みで、後の世の規範となる演奏でしょう。「展覧会の絵」が好きな人の必聴盤です。
クーセヴィツキーには、さらに複数(4種類?)の録音がありますが、それらは未聴です。


イメージ 9

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
アルトゥール・トスカニーニ
NBC交響楽団
1952年1月7日(モノラル)
ニューヨーク,カーネギー・ホール

【お薦め】
これを初めて聴いたとき、これはあらゆる管弦楽曲のあらゆる録音の中で最高位に属するものだと感動しました。かつて、これほどの指揮者と管弦楽団が存在していたのです。これは少しでも良い音で聴きたいと思い、「XRCD24」(最もオリジナルなアナログ・マスターテープを探し、細心の注意を払ってマスタリングされたCD)を購入しました。
トスカニーニ(1867年-1957年)は、クーセヴィツキーの独占演奏権が切れた直後の1930年に、ニューヨーク・フィルを指揮して初めて「展覧会の絵」を演奏しました。以来、たびたび取上げ、ラヴェル編曲版を「オーケストラ編曲における偉大な論文の一つ」と高く評価していたそうです。
演奏は、凄まじいエネルギーを放出し、かつ、繊細なもので、一見オーソドックスでありながら、細部にまで神経が行き届いたものとなっています。「キエフの大門」など圧倒的。
実は、ラヴェル編曲をトスカニーニが変更している箇所があるのですが、それがどこだか判る人はさすがです。


イメージ 8

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
イーゴリ・マルケヴィチ
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1953年2月21-25日

【お薦め】
マルケヴィチ(1912年-1983年)には1973年の録音もありますが、まずはこの演奏から聴きます。このマルケヴィチ盤からいろいろ個性的な名演が登場するようになります。第1プロムナードのベルリン・フィルのブラス・セクションの美しい響き、「グノム」の壮絶な演奏で心惹かれ、以降最後の曲まで耳が離せません。この曲にこんな表現が可能であったのかという驚き、新鮮な発見が続く、とても興味が尽きない演奏なのです。とても楽しい! この頃のベルリン・フィルのサウンドも素晴らしいと思います。
録音はモノラルですが、聴き易い(優秀なモノラル録音)もので、問題はありません。


イメージ 7

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
グィード・カンテッリ
ニューヨーク・フィルハーモニック
1953年3月20日(ライヴ)
※3月29日のライヴもある?
ニューヨーク,カーネギー・ホール

カンテッリ(1920年-1956年)は、36歳で飛行機事故により亡くなった指揮者で、先に紹介したトスカニーニ(1867年-1957年)が「私は長い経歴の中で、これほど才能のある若者に出会ったことがありません。彼はきっと成功します」と評価したほどの人でした。カンテッリが残した「展覧会の絵」は複数ありますが、この演奏を聴いてみます。
個性豊かなマルケヴィチ盤の後では、オーソドックスな演奏に思われますが、ニューヨーク・フィルを完璧にドライヴしており、若くして既に巨匠の風格が感じられます。
録音はモノラルのライヴであり、まぁこんなものだと思いますが、1951年のものよりこちらの方が録音も演奏も優れているようです。


イメージ 6

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ヘルベルト・フォン・カラヤン
フィルハーモニア管弦楽団
1955年10月11・12日・1956年6月18日
ロンドン,キングズウェイ・ホール

ライヴや映像も含めると、7種類(?)あるカラヤン(1908年-1989年)の「展覧会の絵」の一番最初の録音です。聴き始めて少し経ってから、これがれっきとしたステレオ録音であることに気がつきます。「展覧会の絵」のような作品はやっぱりステレオ録音で聴きたいですね。演奏自体は次のミラノRAI交響楽団の方が面白いのですが、録音も含めた総合的な完成度ではこちらのほうが上で、カラヤンの語り口の巧さが光る演奏です。この頃のフィルハーモニア管弦楽団の金管セクション(「ビドロ」のソロは除く)も聴き物と言えるでしょう。


イメージ 5

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ヘルベルト・フォン・カラヤン
ミラノRAI交響楽団
1956年3月7日(ライヴ)

カラヤン(1908年-1989年)の1956年ライヴです。若い(といってももう48歳)カラヤンの創意・工夫を至る所に聴くことができ、なかなか興味深い演奏です。全体に遅めのテンポでゆったりと旋律を歌わせているのですが、「卵の殻をつけた雛の踊り」「リモージュの市場」のような曲の瑞々しい表現は、バレエ音楽を聴いているようで、とても楽しいです。
音質は歪みっぽいのですが、ステレオ録音(!)ですので、「バーバ・ヤガー」に効果的です。「キエフの大門」も迫力満点で、ステレオ録音のありがたみを感じます。


イメージ 4

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
アンタル・ドラティ
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
1956年9月10-15日
アムステルダム,コンセルトヘボウ

【お薦め】
膨大な録音を残し、また、オーケストラ・ビルダーとして名高いドラティ(1906年-1988年)の、数種類ある「展覧会の絵」のひとつで、名門コンセルトヘボウ管を指揮した演奏です。まず「グノム」のロシア的な表現に心を奪われます。速めの「古城」も情緒豊か、弦を強く弾かせた「テュ イルリー」が楽しく、重戦車のような「ビドロ」、チャーミングな「卵の殻~」、レチタティーヴォ風の「サミュエル~」、爽やかな「リモージュの市場」など、特徴を挙げればキリがありません。重厚かつリズムの切れが良い「バーバ・ヤガー」は最高です。
原盤はPHILIPSだと思いますが、残念ながらモノラル録音なのが惜しまれます。これがステレオ録音だったら……。


イメージ 3

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ユージン・グーセンス
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1957年9月26・28日

グーセンス(1893年-1962年)の指揮です。イギリスの指揮者はたいてい「サー」の称号を与えられるのですが、グーセンスはいろいろあってもらえなかったようです。だからと言って、この「展覧会の絵」が悪いということはなく、むしろ好演です。「古城」など、イギリスの指揮者ならではの叙情味がある表現です。オケがロイヤル・フィルであるのは、サー・トーマス・ビーチャム(1879年-1961年)の配慮でしょうか。
それにしても、この年代でもまだステレオ録音は普及していなかったのかな。残炎ながらモノラル録音です。


イメージ 2

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
セルジュ・チェリビダッケ
RAIローマ交響楽団
1957年12月4日(ライヴ)

録音嫌いなのに、「展覧会の絵」がやたらと多い(7種?)チェリビダッケ(1912年-1996年)の、おそらく最も古い録音です。この頃から遅めのテンポを採る(半分は普通のテンポの曲もある。「ビドロ」や「バーバ・ヤガー」、特に後者はかなり速い)人だったのですね。チェリビダッケならではの表現を聴くことができますが、録音状態が不安定なので、お薦めにはできません。それにしても不思議な録音です。第1プロムナードのトランペットが右から聴こえてきたと思ったら、センターに移動します。また、デッドな録音であるのにもかかわらず、常に最後の音には残響が付帯します。


イメージ 1

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
フリッツ・ライナー
シカゴ交響楽団
1957年12月7日
シカゴ,オーケストラ・ホール

【お薦め】
「展覧会の絵」の録音が多いオーケストラのひとつであるシカゴ交響楽団の名演の中でも、最高の一枚は、このライナー(1888年-1963年)のものでしょう。「展覧会の絵」の全録音の中でもベストを争う演奏と言っても過言はないと思います。各曲を個性的に表現する演奏は、これまで、そして今後も多いのですが、ライナーほど(少なくとも私の感覚に)ぴったり嵌る指揮者はいないと思います。「古城」をはじめとして総じて抒情的な曲が良く、「古城」のアルト・サクソフォーンの太い音色が魅力的で、木管楽器はいずれも優秀です。また、シカゴ響が誇る金管群も素晴らしく、トランペット・ソロは、シカゴ響に53年間も在籍し、2004年からは名誉首席奏者であったアドルフ・ハーセス(1921年-2013年)です。この盤に限らず、いずれの「展覧会の絵」もハーセスが吹いているのですが、それも聴き物のひとつでしょう。「バーバ・ヤガー」の打楽器群も良いですし、弦楽器は言うに及ばずです。
この名演が RCA Living Stereo の優秀なステレオ録音で残されたことに感謝したいです。

※RCAは、1953年10月よりステレオ録音の実験を開始し、1954年3月、ライナー=シカゴ響のセッションにおいて実用化のめどをつけた。1958年にステレオLPの技術が開発され、RCAはついに「リビング・ステレオ」LPを発売した。「リビング・ステレオ」とは、この時期にRCAが発売したステレオ・レコードに付けられていたロゴで、いわば「生き生きとした、生演奏のようなステレオ」という意味である。


なかなか1950年代が終わらないので、今回はここまでにしたいと思います。
次回はクリュイタンスとアンセルメから始められるので、区切りが良いのです。
1950年代の録音が多いというのは、LPの普及と関係があるのでしょうか。


ムソルグスキー「展覧会の絵」の名盤 1958ー1963

$
0
0
早くも第2回となります。
先を急ぐのは、飽きっぽい私の集中力が途切れないうちに、聴き比べを完了したいからです。


イメージ 1

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
アンドレ・クリュイタンス
ケルン放送交響楽団
1958年2月24日(ライヴ)

クリュイタンス(1905年-1967年)に対する思いは、後で登場する正規録音に任せるとして、名指揮者ですから需要が多いのでしょう、6種類ぐらいが存在するようです。その最初の録音を聴いてみます。盛大な拍手から始まります。音質は意外に悪くありませんが、高い音で歪みが出ます。「展覧会の絵」は「組曲」であったということを再認識させられる演奏です。クリュイタンスは曲間で休憩を入れるのですが、その間にお客さんは一生懸命咳をします。それが、すごく興醒めするのです。アタッカでない部分でも、わずかの瞬間でもお客さんは咳をしようとします。演奏は良いのですが、客席ノイズ(子供の叫び声?も聴こえる)が多いのが残念でした。


イメージ 2

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
エルネスト・アンセルメ
スイス・ロマンド交響楽団
1958年4月
ジュネーヴ、ヴィクトリア・ホール

かつて英DECCAの看板指揮者であったアンセルメ(1883年-1969年)には、4種類の「展覧会の絵」があるようです。
1947年1月29日 ロンドン交響楽団 
1953年12月 スイスロマンド管弦楽団
1958年1月24日 スイスロマンド管弦楽団
1959年1月26日 スイスロマンド管弦楽団
このうち、ロンドン交響楽団との演奏は、あまり評判がよくないようなので、割愛しました。1953年盤も、後の1958年と1959年のステレオ盤があるからいいかな、と。
私がCDで持っているのは1958年盤で、LPは1959年盤です。この記事を書くまで、同じ録音だと思っていましたが、音質が違うので調べてみたら違うことが分りました。
アンセルメは、どうしてこんなに早く再録音したのでしょう。
まず、録音ですが、たった1年の違いですが、1959年盤のほうが優秀で、こちらの1958年盤はそれに劣るように聴こえます。ただ、例えば「グノム」の大太鼓はこちらのほうがずしんと響き、好ましいと思えます。以下、1959年盤は爽やかすぎるので、総じてこちらのほうが良いと思える曲が多いです。「バーバ・ヤガー」「キエフの大門」も大太鼓の量感がすごくて、ヴォリュームを上げて聴いたら近所迷惑になりそうです。完成度はきっちり整理整頓された1959年盤のほうが断然上ですが、響きの厚みや打楽器の迫力などの点で、こちらの1958年盤のほうが私の好みと言えます。


イメージ 3

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
アンドレ・クリュイタンス
パリ音楽院管弦楽団
1958年4月17-21日

【お薦め】
私が初めて買ったラヴェルのレコードは、クリュイタンス(1905年-1967年)指揮のパリ音楽院管弦楽団による演奏で、中でも「クープランの墓」がお気に入りでした。その指揮者とオーケストラによる「展覧会の絵」ですから、期待しないほうがおかしいというものです。なお、録音は非常にモノラルで、分離が悪く、明快とは言えない残念な録音です。
演奏は素晴らしいです。重厚かつ軽快、繊細なもので、「プロムナード」の輝かしい金管、「グノム」のおどろおどろしさ、「古城」のよく歌う旋律、「テュイルリー」の優美さ、「ビドロ」のロシア風の重厚さ、「卵の殻を~」の軽妙さ、「サミュエル~」「リモージュの市場」は普通、かな、「カタコンベ」と「死せる~」の重厚さと繊細さ、「バーバ・ヤガー」「キエフの大門」の壮麗さなど、演奏者の熱気を感じさせるもので、「展覧会の絵」のお手本のような演奏です。
繰り返しになりますが、低音が膨れて中音域をマスキングしているような録音が残念です。


イメージ 10

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
レナード・バーンスタイン
ニューヨーク・フィルハーモニック
1958年10月

【お薦め】
バーンスタイン(1918年-1990年)は、1958年から1969年までニューヨーク・フィルハーモニックの常任指揮者だったので、この録音はその最初の年に行われたことになります。まだ30歳の若いバーンスタインの才気溢れる指揮と、それに応えてやろうというニューヨーク・フィルによる充実した演奏です。作曲家でもあるバーンスタインですから、事前にスコアを入念に確認したのでしょうけれど、一気呵成に演奏されているような印象もあります。まさにこの頃のこのコンビにふわさしい曲で、次の曲はどんな演奏をしてくれるのだろうと楽しみながら聴くことができました。細部の仕上げが粗いと思われる箇所があっても、そんなことは大した問題ではないのです。
なお、念のために書いておきますが、録音はステレオです。


イメージ 4

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
アンタル・ドラティ
ミネアポリス交響楽団
1959年4月21日

コンセルトヘボウ管との録音は1956年でしたが、レーベル(前回はPHILIPS)が異なるとはいえ、ずいぶん早いドラティ(1906年-1988年)再録音です。オケは、1949年から1960年まで首席指揮者であったミネアポリス響(現在はミネソタ管弦楽団)です。
なんだか不思議な演奏です。ドラティの基本的な解釈は、前回と変わっていないと思うのですが、受ける印象はだいぶ異なります。この演奏はもっと軽やかで機能的で、ムソルグスキーの音楽とはだいぶ違う方向に来てしまったようです。ラヴェルに近いような。そのようなことを考えなければ、これはこれで名演と思うのですが、最後まで違和感が拭えませんでした。それでも「バーバ・ヤガー」や「キエフの大門」はさすがと思える演奏でしたよ。
高音質で知られた Mercury の録音ですが、オーケストラの音がやや古めかしく聴こえますね。


イメージ 5

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ヘルベルト・ケーゲル
ライプツィヒ放送交響楽団
1959年5月28日

今でも根強いファンのいる、ケーゲル(1920年-1990年)が音楽総監督を務めていた(1962年-1977年)、ライプツィヒ放送交響楽団との録音です。ケーゲルには同じオケを指揮した1968年の録音や、N響との1980年の録音、ドレスデン・フィルとの1981年の録音もありますが、今回入手できた音源はこれだけです。これをもってケーゲルを判断するのはどうかと思いましたが、取上げることにしました。
速めのテンポ、ドイツ風のきびきびした「プロムナード」「グノム」は今ひとつだったのですが、ほの暗い情感を漂わせた「古城」は弱音を大事にした、しんみりとした表現が素晴らしいと思いました。続く「テュイルリー~」も情感たっぷりでいい感じです。一歩一歩踏みしめていくような「ビドロ」も良く、意外なほど愛らしい「卵の殻~」、表情付けの巧みな「サミュエル~」、色彩感が愉しい「リモージュの市場」、重厚な「カタコンベ」、しっとりとして柔和な「死せる言葉~」です。「バーバー・ヤガー」「キエフの大門」は軽量級で、やや期待外れといったところでしょうか。
左右めいっぱい広げた感じのステレオですが、優秀な録音だと思います。


イメージ 6

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
エルネスト・アンセルメ 
スイス・ロマンド管弦楽団
1959年11月

私が初めて買った「展覧会の絵」(ラヴェル管弦楽編曲版)です。初めて聴いたときは、当時の私が理想とするオーケストラの響きとスイス・ロマンド管の音色が異なっているなど、かなり物足りなさを感じ、友人が買ったカラヤン指揮ベルリン・フィルのレコードが羨ましかったのを憶えています。そうしたこともあって「展覧会の絵」という楽曲にはマイナス・イメージがつきまといます。
この演奏は、爽やかなプロムナードで始まります。以降も爽やかで透明感のある演奏が続きます。水彩画の「展覧会の絵」といった趣で、「卵の殻をつけた雛の踊り」「リモージュの市場」のような曲は良いのですが、全体的に物足りなさを感じました。
録音はとても優秀です。


イメージ 7

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ルネ・レイボヴィッツ
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1962年1月17日

「リーダーズ・ダイジェスト・レコーディングスによって頒布されたベートーヴェンの交響曲全集が著名」と必ず書かれてしまうレイボヴィッツ(1913年-1972年)の指揮です。
なんだか一風変わった、形容しがたい「プロムナード」で始まり、地鳴りがすごく、怪奇的な「グノム」に驚き、ものすごくよく歌う「古城」「テュイルリーの庭」、地響きを立てて通り過ぎる「ビドロ」、木管楽器を前面に押し出した「卵の殻~」、大仰な「サミュエル~」、管弦楽の醍醐味のような「リモージュの市場」、金管の強奏が凄まじい「カタコンベ」、しみじみと聴かせる「死せる言葉~」、ここまで聴いて演奏の予想がついてしまう「バーバ・ヤガー」、前曲に引き続き大太鼓の量感がすごく、打楽器大活躍で強弱が極端な「キエフの大門」と、非常にユニークな演奏で、最後まで楽しめました。
録音はステレオですが、高域にシュルシュルというノイズが常に乗っており、遠局のFM放送を聴いてみたいで、オリジナル・マスターがかなり劣化しているようです。なんだかカセット・テープみたいな音質。せっかくの「怪演」なのに惜しいですね。
さて、レイボヴィッツ指揮で、本当にすごいのはリムスキー=コルサコフ編曲の「禿山の一夜」です。モノラル録音なのが残念ですが、とにかくやりたい放題で、これは「レイボヴィッツ編」と記すべきでしょう。最後の最後まで予想がつかない「とんでもない演奏」です。


イメージ 8

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
アンドレ・クリュイタンス
RAIミラノ交響楽団
1962年2月3日(ライヴ)

名指揮者クリュイタンス(1905年-1967年)が残した「展覧会の絵」の、おそらく最後のもので、ありがたいことに良質なステレオ録音です。パリ音楽院管弦楽団との録音はモノラルでしたので、ステレオ録音でなければ嫌だという人にお薦めします。
とてもエレガントな演奏で、リズム感の冴えた「グノム」、久しぶりに「らしい演奏」を聴いた「古城」の最後の音は、どこまでも伸び続けます。「テュイルリーの庭」の品のある表現、茫洋とした開始に惹かれる「ビドロ」、繊細な「卵の殻~」は最後がとても可愛らしく、珍しく居丈高ではない「サミュエル」、色彩が美しい「リモージュの市場」、もの悲しい「カタコンベ」、速めのテンポですが、癒やしの音楽となっている「死せる言葉~」、意外なほどの迫力を聴かせる「バーバ・ヤガー」、格調の高さを感じる「キエフの大門」と、充実した演奏でした。
RAIミラノ交響楽団にはさらに洗練された響きとアンサンブルを求めたくなりますが、指揮者の意図を懸命に反映しようとしている演奏を讃えるべきでしょう。


イメージ 9

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ジョージ・セル
クリーヴランド管弦楽団
1963年10月3日

【お薦め】
セル(1897年-1970年)の指揮です。クリーブランド管弦楽団がとても巧くて、ここまで聴いてきたオーケストラの中では間違いなく最高と思いました。一糸乱れない正確無比なアンサンブルは聴いていて実に気持ちが良いですね。
大仰な表現でなくても十分(本来そういう曲であったかという議論は抜きにして)グロテスクな「グノム」、洗練美の極致の「古城」、同じく美しさの極みの「テュイルリーの庭」、これも美しさ再発見の「ビドロ」、鉄壁のアンサンブルの「卵の殻~」、トランペットが完璧で弦も美しい「サミュエルと~」、優秀な合奏力で聴かせる「リモージュの市場」、金管が最上のバランスの「カタコンベ」、優美とさえ言える「死せる言葉~」、オーケストラを聴く醍醐味の「バーバ・ヤガー」、品格のある「キエフの大門」でした。
特筆すべきは、各プロムナードが素晴らしいことです。各奏者の技術的な水準の高さは元より、各曲の性格づけが実に巧みです。
以上、泥臭さとは無縁の「展覧会の絵」ですが、ここまで磨き上げられた演奏は、後にも先にも無いでしょう(たぶん、きっと)。


ムソルグスキー「展覧会の絵」の名盤 1964ー1975

$
0
0
やっと3回目です。
今回も、ショルティやジュリーニ、アバドやムーティ、デュトワやシャイーは登場しません。その一つ前の時代なのです。
あの指揮者、この指揮者と、どんどん増やしていくうちに、途方もなく多くなってしまい、当初予定していた回数(4回ぐらい)を大幅に超えてしまいそうです。
しかし、なんだかんだいって、管弦楽曲の聴き比べは楽しいのです。


イメージ 1

「展覧会の絵」(ラヴェル編)より「古城」
アンドレ・クリュイタンス
パリ音楽院管弦楽団
1964年5月10日(ライヴ)
東京文化会館大ホール

前回、クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団の演奏は、1958年なのに残念ながらモノラル録音と書いたところ、L氏よりステレオ録音があるとのご指摘を受けました。確かにこれはステレオ録音です。「古城」だけだけどね……。これだけだと、名演なのか判断がつきません。雰囲気の良い演奏であることだけは確かです。


イメージ 2

「展覧会の絵」(ストコフスキー編)
レオポルド・ストコフスキー
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
1965年9月 ロンドン 

やっとラヴェル版以外の版が登場しました。ストコフスキー版です。
「音の魔術師」の異名を持つストコフスキー(1882年-1977年)は、ラヴェルの管弦楽編曲に満足しておらず、よりスラヴ的なサウンドが必要と考え、自分で管弦楽編曲を行いました。その際、フランス的であるという理由から「テュイルリーの庭 」と「リモージュの市場」を省略しています。

【ストコフスキー版の構成】
01 プロムナード 
02 グノムス 
03 プロムナード 
04 古城
05 プロムナード 
06 卵の殻をつけた雛の踊り
07 サミュエル・ゴールデンベルクとシュムイレ 
08 カタコンベ - ローマ時代の墓
09 死せる言葉による死者への呼びかけ
10 鶏の足の上に建つ小屋 - バーバ・ヤガー
11 キエフの偉大な門 

2回聴きましたが、ラヴェル編ばかり聴いていたせいか、容易にこれを受け入れることができませんでした(心が狭い?)。ストコフスキー編は、「よりスラヴ的」というより、ゴージャス路線に走ったように思うのです。私にはラヴェル版がちょうどいいです。「テュイルリーの庭」や「リモージュの市場」がカットされていますし、「サミュエル・ゴールデンベルクとシュムイレ 」の次の曲が「カタコンベ」なので、聴くたびにびっくりします。
リムスキー=コルサコフ(1844年-1908年)による管弦楽編曲版があったらよかったのにと常々思います。


イメージ 3

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
セルジュ・チェリビダッケ
フェニーチェ歌劇場管弦楽団
1965年10月31日 ヴェネツィア(ライヴ)

チェリビダッケ(1912年-1996年)のライヴです。正直に言えば、このオーケストラは巧くないです。ステレオ録音ですが、今ひとつぱっとしません。昔の怪獣映画のサウンド・トラック版を聴いているような感じです。チェリビダッケの「展覧会の絵」では、後年のミュンヘン・フィルとのライヴが有名で、それを愛好する方が、もっとチェリビダッケを聴いてみたいということで、参考程度に聴くのがよろしいと思います。オケの技倆はともかくとして、解釈自体は後年より普遍的であり、遅すぎるテンポが苦手な人には聴き易いでしょうし、曲の解釈は傾聴に値するものもあります。ただ、最後まで聴くのがしんどかったので、参考盤としてあげるにとどめます。


イメージ 4

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1965年11月4,9日
ダーレム,イエス・キリスト教会

【お薦め】
ベルリン・フィルを指揮しての最初のカラヤン(1908年-1989年)盤です。中学生の頃、友人が所有していて、それがすごく羨ましかったので、大人になって中古LP(輸入盤)を買いました。ジャケットがすごく懐かしくて、所有する喜びを味わっております(実は一度しか聴いていない)。今回一度目はあまりよい印象を抱かなかったので、音量を上げてもう一度聴き直しました。二度目に聴いた感想を記します。
「第1プロムナード」はやや遅めのテンポ、柔らかく美しい響きです。「グノム」はイエス・キリスト教会の残響で低弦の音程がはっきり聴こえませんが、不気味な感じはよく出ています。ラストの迫力がすごいです。「第2プロムナード」は静かで落ち着い良いた感じ。木管楽器が美しいです。「古城」のアルト・サクソフォーンは控えめで、木管楽器のひとつという位置づけでしょうか、他の木管とのバランスが良好です。また、弱音の弦が美しいです。大きな呼吸の「第3プロムナード」は歩みが遅いです。「テュイルリーの庭」も遅めで繊細、ベルリン・フィルが誇る木管陣が活躍します。そして「ビドロ」ですが、ベルリン・フィルの巾広いダイナミック・レンジを発揮した演奏となっています。「第5プロムナード」は木管の清々しい響きが美しく、「卵の殻を~」はここで初めて速めのテンポを採用し、ベルリン・フィルの妙技を聴かせます。「サミュエル~」はこのオケらしく重厚で、「リモージュの広場」はこのような曲に強みを発揮するカラヤンの特長が出ています。「カタコンベ」はブラス・セクションが重厚で見事な合奏を聴かせ、「死せる言葉~」も弱音主体の美しい演奏、「バーバ・ヤガー」はベルリン・フィルらしい重厚な演奏、それに加えて「キエフの大門」は大変華やかでゴージャスな音絵巻です。曲によっては物足りなさもありますが、これほどの演奏であれば【お薦め】でしょう。


イメージ 14

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ユージン・オーマンディ
フィラデルフィア管弦楽団
1966年4月21日&1968年6月18日
フィラデルフィア,タウン・ホール

【お薦め】
オーマンディ(1899年-1985年)も「展覧会の絵」が多い指揮者なのです。どれも手兵のフィラデルフィア管弦楽団という、華麗で色彩的な音色が身上のオーケストラを指揮した録音なのですが、オーマンディのレパートリーにふわさしい曲と言えます。
「第1プロムナード」は良いです。理想のテンポ、響きです。「グノム」も低弦の響き、鋭いリズム、その後との対比など、巧みな設計です。こういうのが聴きたかったのです。この段階で早くも【お薦め】決定。「第2プロムナード」の、のどかで落ち着いた感じも素敵です。「古城」のサクソフォーンも、良い雰囲気を醸し出しています。オケの木管群も負けてはいません。「第3プロムナード」もOKです。「テュイルリーの庭」は、物語を読んで聴かせるような優しい表現で、こういうのを語り上手というのでしょうか。同じように「卵の殻をつけた雛の踊り」も、すごく愉しいです。普通そうでいて、いろいろ工夫しています。「サミュエル・ゴールデンベルクとシュムイレ」も二人の位置づけが明確、「リモージュの広場」が悪いわけがなく、「テュイルリー」「卵の殻~」よりさらに優れています。「カタコンベ」はフィラデルフィア管のブラス・セクションの見事な演奏、「死せる言葉~」もしっとりと歌い上げていますが、やはり「バーバ・ヤガー」はやってくれました。オーマンディ/フィラデルフィア管に期待するのはこのようなメリハリのある演奏なのです。「キエフの大門」についても同様です。
ただ、録音は古くなってしまったようで、やや混濁気味の音質でした。


イメージ 5

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
小澤征爾
シカゴ交響楽団
1967年7月18日
シカゴ,メディナ・テンプル

現役指揮者が初めて登場しました。小澤征爾(1935年-)32歳の時の録音です。小澤征爾は、1964年のラヴィニア音楽で音楽監督(マルティノン (1910年-1976年)の代役)を務め、それが縁でシカゴ交響楽団といくつかの録音を残したのですよね。
落ち着いた「プロムナード」で始まります。トランペットに限らず、立派な金管陣です。「グノム」は、オフマイクの録音のせいか、低弦抑え気味で、おとなしく感じます。その代わり「第2プロムナード」や「古城」はしみじみとした情感がよく出ています。「テュイルリーの庭」も遅めでしっとり、「ビドロ」は冒頭から異様な低音で、音圧圧縮のせいか、意外に盛り上がりません。「卵の殻を~」は速めで、シカゴ響の優秀な木管陣による演奏を味わえます。録音のことばかり言って申し訳ないのですが、「サミュエル~」もソフトな音と低音の膨らみが気になります。涼やかな弦による爽やかな「リモージュの市場」を経て、金管の響きが美しい「カタコンベ」、「死せる~」も美しく、「バーバ・ヤガー」「キエフの大門」は、若い小澤征爾が巨匠風の音楽を堂々と響かせます。
録音は、最強音が歪んでいるのが惜しいです。


イメージ 6

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
カレル・アンチェル
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
1968年6月3日

【お薦め】
チェコの名指揮者アンチェル(1908年-1973年) の「展覧会の絵」です。この録音が行われた1968年は、チェコスロバキアにとって大変な年で、1950年からチェコ・フィルの常任指揮者であったアンチェルはアメリカに亡命し、小澤征爾の後任としてトロント交響楽団の常任指揮者に就任したのでした。アンチェルは、最後までチェコ・フィルと演奏を続け、名演を録音してほしかったですね。この「展覧会の絵」も、アンチェルの指揮にチェコ・フィルが渾身の力演で応えていますし、この頃のチェコ・フィルの音色が良いです。
アンチェルが指揮すると、なぜかヤナーチェクのように聴こえる「プロムナード」、「グノム
」は筋肉質で、リズムが鋭いです。「第2プロムナード」は懐かしさを感じさせ、「古城」はいにしえの物語調、「テュイルリーの庭」は意外に愛らしい演奏で、「ビドロ」は一転して重々しく、低弦がギーギー、リズムを刻んでいます。「卵の殻を~」は色彩的で、木管の音色が愉しく、「サミュエル~」はやや速めでトランペットがきつそうですが、それゆえ二人の登場人物の性格描写が巧みです。鮮やかな「リモージュの市場」、「カタコンベ」は金管のバランスが良く、「バーバ・ヤガー」動・静・動の対比が素晴らしく、「キエフの大門」は迫力と同時に格調の高ささえ感じます。
録音はやや古さを感じさせるものの、それなりに鮮明です。


イメージ 7

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
サー・ジョン・プリッチャード
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
1970年7月19・22日

プリッチャード(1921年-1989年)の指揮による演奏ですが、演奏は悪くないです。演奏会に出かけ、これぐらいの「展覧会の絵」を聴ければ、満足して帰れると思います。ただ、CDとして何度も聴く演奏としてはどうでしょう。一曲一曲について特徴を上げようとしても、なかなか言葉が思いつきません。いわゆる、普通の演奏なのです。これだけ多くの「展覧会の絵」を聴くと、その演奏ならではの何かを期待したくなります。その何かが無い指揮であり、オケであり、録音でした。


イメージ 8

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
イーゴリ・マルケヴィチ
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
1973年5月14-18日
ライプツィヒ贖罪教会

【お薦め】
ベルリン・フィルとの録音が素晴らしかったマルケヴィチ(1912年-1983年)の再録音で、オーケストラは、ゲヴァントハウス管に変わります。「第1プロムナード」の足取りからして他とは格が違います。続く「グノム」の衝撃、「第2プロムナード」の美しさ、「古城」はサクソフォーンの音が大き過ぎますが、弦や木管は心がこもった演奏です。元気の良い「第3プロムナード」に、テンポの揺れが絶妙な「テュイルリーの庭」、「卵の殻を~」も色彩感が愉しいです。「サミュエル~」のトランペットがちょっと変わった音を出していて、「リモージュの市場」も冴えた響きが素晴らしく、「カタコンベ」のブラス・アンサンブルも良いです。「死せる言葉~」のほのかな明るさ、突然始まる「バーバ・ヤガー」は迫力満点、「キエフの大門」の輝かしさ、壮麗さ、木管楽器だけになったときの素朴さが素晴らしいです。打楽器の使い方が上手いですよ。
録音も優れていますし、これはムソルグスキーの「展覧会の絵(ラヴェル編)」の、そしてマルケヴィチの名演として「決定盤」クラスの演奏です。


イメージ 9

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
サー・チャールズ・マッケラス
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
1973年7月
ロンドン,オール・ハロウズ教会

【お薦め】
ヤナーチェクのオペラ(だけではないけれど)で有名なマッケラス(1925年-2010年)です。この演奏ですごいのはグランカッサで、「グノム」のズドンという強打がすごいです。「バーバ・ヤガー」では左のティンパニ、右のグランカッサというように、打楽器群を左右に振り分けているのは効果的で、「キエフの大門」も同様です。もちろん、それだけでなく他の曲もマッケラスならではの小粋な演奏が聴けますが、録音のおかげでスペクタクル路線の曲の方が、楽しく聴けます。


イメージ 10

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
エフゲニー・スヴェトラーノフ
ソ連国立交響楽団
1974年3月22日

今でも人気があり、通販サイトでは決まり文句のように「爆演」と評されてしまうスヴェトラーノフ(1928年-2002年)の「展覧会の絵」、オーケストラは、1965年から首席指揮者を務めてたソ連国立交響楽団(現ロシア国立交響楽団)です。全体に悠然としたテンポで、じっくりと腰を落ち着けて演奏したムソルグスキーという感じです。全体で36分40秒の演奏ですが「古城」が終わった時点で、10分46秒が経過しています。「テュイルリーの庭」も遅いですが、その分情緒豊かと言えます。「ビドロ」は、ソ連のオーケストラらしい重厚さを聴かせますが、やや単調かもしれません。ネタバレとなりますが、すごいのは「カタコンベ」です。えっ、こんなのアリ?と思いました。びっくりしますが、曲想から離れているように思います。この指揮者とオケであったら、「バーバ・ヤガー」と「キエフの大門」はもっとすごい演奏ができると思うのですが、肩すかしでした。なお、同オケとの1989年は入手できませんでした。聴いてみたいのはそちらの方だったのですが。


イメージ 11

「展覧会の絵」(冨田勲編)
冨田 勲(シンセサイザー)
1974年

冨田 勲(1932年-2016年)が1975年2月に発表した「展覧会の絵」は、1975年8月16日付けのビルボード・キャッシュボックス、全米クラシックチャートの第1位を獲得し、1975年NARM同部門最優秀レコードを2年連続で受賞し、1975年度日本レコード大賞・企画賞も受賞したそうです。懐かしかったので取上げてみましたが、旋律を容易に聴き取れない箇所もあって、原曲を知らない人が聴いて理解できるのかなと思いました。


イメージ 12

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
エド・デ・ワールト
ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団
1974年12月

エド・デ・ワールト(1941年-)が、1967年に指揮者に任命され、1973年から1985年まで音楽監督を務めたロッテルダム・フィルとの「展覧会の絵」です。ワールトに対するイメージは、オーケストラ・ビルダーとしての能力と、規模の大きい管弦楽作品で手腕を発揮する指揮者です。
そのようなわけで、期待して聴きました。
丁寧に奏される「第1プロムナード」を経て、打楽器が炸裂する「グノム」、綿々と歌われる「古城」はなかなか良いです。素朴な「テュイルリーの庭」、低弦の重厚なリズムが好ましい「ビドロ」、軽快でチャーミングな「卵の殻を~」、「サミュエル~」は普通、再び軽快な「リモージュの市場」、息の長い歌を聴かせる「カタコンベ」「死せる言葉~」。打楽器(グランカッサがすごい)を鳴らす「バーバ・ヤガー」と「キエフの大門」はワールトの面目躍如というところでしょう。


イメージ 13

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
レナード・スラットキン
セントルイス交響楽団
1975年

【お薦め】
スラットキン(1944年-)は、「展覧会の絵」を得意としているようで、この後も1985年(ナショナル・フィル)、2004年(ナッシュビル響:後日取上げます)の録音もあります。他にもありそうですし、新しい録音が出る可能性もあります。
この「展覧会の絵」は、実に鮮やかで見事です。この名演には、スラットキンが1979年から1996年まで音楽監督の任にあった、セントルイス交響楽団の技術の高さも貢献しています。
安定した「第1プロムナード」、腹に響く大太鼓がすごい、表現も理想的な「グノム」、伸びやかな「第2プロムナード」、「古城」はサクソフォーンのヴィブラートが気になります。意気揚々とした「第3プロムナード」、懐かしさを感じさせる「テュイルリーの庭」、力一杯の盛り上がりを聴かせる「ビドロ」、もの悲しい「第4プロムナード」、アンサンブルの妙を聴かせる「卵の殻~」、抑揚が巧みな「サミュエル~」、華やかで色彩的な「リモージュの市場」
、セントルイス響の金管セクションの優秀さを聴かせる「カタコンベ」、荘厳かつ壮麗な「バーバ・ヤガー」、落ち着いた足取りのテンポもよろしく、フィナーレにふさわしい盛り上がりの「キエフの大門」と、完成度の高い充実した演奏でした。
各楽器を明確に捉えた録音が効果的でした。


ムソルグスキー「展覧会の絵」の名盤 1976ー1982

$
0
0
4回目です。この時代になると、個性的な名演が少なくなり、オーソドックスな解釈をオーケストラの技術の高さで聴かせる演奏が中心になってきます。
それでも、フェドセーエフやアシュケナージの指揮には、強烈な主張がありました。


イメージ 9

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
カルロ・マリア・ジュリーニ
シカゴ交響楽団
1976年4月

【お薦め】
ショルティよりジュリーニが、先にシカゴ響と「展覧会の絵」を録音していたのですね。意外でした。このジュリーニ盤も「展覧会の絵」の名盤としてよく聴かれているものです。久しぶりに聴きますが、どうでしょう。
「第1プロムナード」は微妙な差ですが、ジュリーニ盤が好きかもしれません。金管が巧く感じるし、ラストの迫力もあります。「グノム」はショルティ盤共々低弦にもう少し音程が出ていればと思うのですが、グロテスクな感じはジュリーニ盤の方がよく出ています。デリケートな「第2プロムナード」を経て、ショルティ盤と同等、もしくはそれ以上によく歌う「古城」でした。オケの響きが素晴らしい「第3プロムナード」の次は、やや遅めの「テュイルリーの庭」で、中間部の弦とハープが美しいです。「ビドロ」は重厚さと色彩感を併せ持つ表現で、盛り上げ方もなかなかのものです。不安を煽る「第4プロムナード」を経て、「卵の殻を~」も繊細で見事、「サミュエル~」「リモージュの市場」は、ジュリーニとシカゴ響の技倆を考えたら、これぐらい当然かも。「カタコンベ」は金管の威圧感がすごいです。分厚い音。「死せる言葉~」はさめざめとした音楽、ティンパニとグランカッサその他打楽器の迫力がすごい「バーバ・ヤガー」は、繊細な中間部も素晴らしく、「キエフの大門」も品格と迫力を兼ね備えた壮麗な演奏でした。この演奏も、特に新しい発見はないものの、シカゴ響の金管を始めとした技術の高さに裏付けられた素晴らしい演奏でしたので【お薦め】にしたいと思います。昔からの名盤ですしね。


イメージ 8

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ウラディーミル・フェドセーエフ
Moscow Radio S.O.
1976年1月
Moscow RTV S.O
1976年10月10日
Moscow Radio S.O.
1989年7月
Moscow Radio S.O.
1993年8月29-31日
Wiener S.O.
2001年5月18-20日

【お薦め】
フェドセーエフ(1932年-)指揮「展覧会の絵」の音源を3種類入手したのですが、それがどれに該当するのか(ウィーン響ではないことは間違いない)わかりません。3種類とも同じ演奏に聴こえますが、おそらく1976年10月の演奏であろうと推測します。Moscow RTV S.Oと表記されているからです。Moscow RTV S.Oとは、フェドセーエフが1974年から音楽監督及び首席指揮者を務めるモスクワ放送交響楽団(現在はチャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ)です。
ラヴェル編曲でもこれだけロシアっぽい演奏ができるのだというお手本のような演奏です。この演奏は、ある曲で驚かされるのですが、それを書いてしまったら、これから聴く人の楽しみを奪うことになるでしょう。だから、どの曲がどうとは書きません。この曲にこんな表現が可能であったのか、こんな演奏は聴いたことがないと、私は驚きました。
録音は、作り物っぽい響きがしますが、それでもこれは聴いていただきたい演奏です。


イメージ 7

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
リッカルド・ムーティ
フィラデルフィア管弦楽団
1978年9月2日

【お薦め】
1980年から1992年までフィラデルフィア管弦楽団の音楽監督であったムーティ(1941年-)指揮による「展覧会の絵」です。「第1プロムナード」から、このオーケストラならではの豊かな響きを聴くことができます。シカゴ響より潤いがある感じです。続く「グノム」は速めのテンポながら低弦をはっきりと聴かせ、切れ味鋭い打楽器でメリハリを付けています。さすがです。「古城」もフィラデルフィア管の美しい弦が効果的で、アルト・サクソフォーンも巧いです、「テュイルリーの庭」は、速めのテンポが好ましく、中間部の弦の濃厚な歌が面白いです。「ビドロ」はなかなか良い演奏に出会えません(ラヴェルの編曲が単調?)が、きちんと盛り上げます。「テュイルリーの庭」も速めに駆け抜け、爽快感があります。フィラデルフィア管の巧さを思い知ります。低弦の量感がたっぷりでレシタティーヴォ調の「サミュエル~」が良く、「シュムイレ」のトランペットも巧いですね。「リモージュの市場」もテンポが好ましく、鮮やかなものです。「カタコンベ」は期待どおりで、金管の分厚いハーモニーが素晴らしいです。「死せる言葉~」も神経質でないところが良いです。「バーバ・ヤガー」もわくわくする音楽で、フィラデルフィア管の魅力が溢れています。弾力性のあるリズムと華麗な響きを聴くことができます。推進力のある「キエフの大門」も良いです。「華麗なるフィラデルフィア・サウンド」を心ゆくまで楽しむことができるでしょう。
シカゴ響とのジュリーニ、ショルティが名盤とされていますが、私はムーティとフィラデルフィア管の演奏のほうが好きです。
ムーティにはフィラデルフィア管との再録音があるのですが、いや、もうこれで十分ではないかと思います。(でも、後日取上げます。)


イメージ 6

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
サー・コリン・デイヴィス
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
1979年11月

デニス・ラッセル・デイヴィス(1944年-)、サー・アンドルー・デイヴィス(1944年-)ではなく、サー・コリン・デイヴィス(1927年-2013年)による「展覧会の絵」です。オケは名門コンセルトヘボウ管という楽しみな一枚です。
「グノム」は低弦の音程が明確なのと、量感たっぷりのグランカッサ、間の取り方など、デイヴィスの語り上手な特長が良く出ている好演です。「古城」は、コンセルトヘボウ管の木管と弦の巧みさが聴き物です。「テュイルリーの庭」はちょっとした表情づけが実に効果的、「ビドロ」はずしんと響くグランカッサを始めとして重厚でOK、「卵の殻を~」は木管がすごく巧い、「サミュエル~」はトランペットがやっぱり巧い、当然「カタコンベ」のブラスも巧いです。デイヴィスは間を取ることが多いのですが、その一瞬の沈黙が良いと感じます。ここまでの抑制の効いた指揮からは、とっても意外な迫力の「バーバ・ヤガー」ですが、同じコンセルトヘボウ管を振って「春の祭典」の名演(1978年録音)を聴かせたデイヴィスですから当然と言えましょう。


イメージ 5

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
1980年5月
シカゴ,メディナ

「展覧会の絵」にふさわしいオーケストラをひとつ挙げるとすれば、シカゴ交響楽団が浮かびます。指揮者もこの曲にふさわしいショルティ(1912年-1997年)です。
「第1プロムナード」は毎度おなじみのあの人のソロで始まります。「グノム」はもう少し低弦の量感がほしいと思いますが、グランカッサの思い響きと炸裂するパーカッションが迫力あります。静かな佇まいの「第2プロムナード」、見事なサキソフォーンを聴かせる「古城」はニュアンス豊かな名演、「第3プロムナード」もそつなくこなし、「テュイルリーの庭」はシカゴ響のとっても優秀な木管陣と美しい弦による演奏、なかなか納得のいく演奏がない「ビドロ」は、グランカッサの重低音をバックに、それなりの盛り上がりを聴かせます。木管が美しい「第3プロムナード」の次は、完璧な木管合奏の「卵の殻を~」で、弦も相変わらずきれいです。「サミュエル~」も水準以上の出来で、「リモージュの市場」の艶やかな明るい弦が見事、「カタコンベ」の金管はもっと見事で、これほど強力な「カタコンベ」はそう聴けるものではありません。最後にすごい重低音が入りますが、あれは何の楽器だろう?(バーバ・ヤガーの中間部でも聴こえます。重低音木管楽器?)そしてついに「バーバ・ヤガー」でシカゴ響全開です。その迫力と言ったら……。しかし「キエフの大門」は品格を備えた演奏で、曲が進むにつれて色彩と迫力を増していきます。
シカゴ響は管、弦、打楽器の全てが相変わらず素晴らしいのですが、全体的にはオーソドックスな名演で、新しい発見はありません。でも【お薦め】にしないわけにはいかないでしょう。


イメージ 4

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
カルロス・パイタ
ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団
1981年

個性的な指揮者(爆演系)として知られたパイタ(1932年or1937年-2015年)です。不安と期待が入り交じりますが、とにかく聴いてみます。「第1プロムナード」はあっさりしているくらいで拍子抜けします。大きくテンポを動かす「グノム」で、なかなか効果的ですが、このような演奏が過去になかったわけではありません。澄み切った叙情性が美しい「第2プロムナード」と「古城」です。なんだか長閑な演奏。「第3プロムナード」、「テュイルリーの庭」は普通に良い演奏。ところで、この録音、低い震動音が気になります。指揮者が指揮台で動いている音なのでしょうか。「ビドロ」も期待したほどの盛り上がりは聴こえません。「卵の殻を~」はなかなか楽しい演奏、「サミュエル~」は低弦の量感があって良いです。「リモージュの市場」も快速テンポで楽しいです。それにしてもゴロゴロ聴こえる音はなんだろう。「カタコンベ」「死せる言葉~」も普通の出来かな。ここまで聴いてきた中で最も速い「バーバ・ヤガー」は盛大に打楽器を鳴らし、迫力ある演奏ではあります。「キエフの大門」も同様で迫力だけはすごいです。


イメージ 3

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
クラウディオ・アバド
ロンドン交響楽団
1981年11月
ロンドン,キングスウェイ・ホール

【お薦め】
ロッシーニやムソルグスキーの演奏に情熱を傾けたアバド(1933年-2014年)の「展覧会の絵」、最初の録音です。アバドが1979年に首席指揮者、1983年に音楽監督となった、ロンドン響との演奏です。
落ち着いた表現の、品のある「第1プロムナード」からして素晴らしく、早くも名演の予感がします。速めのテンポできびきとした「グノム」も良いです。リハーサルではほとんど言葉を発しなかったそうですが、どうしてこのような細やかな表現が可能なのでしょう。静かな「第2プロムナード」から物悲しも優しい「古城」へと続きます。ロンドン響の響きが美しい「第3プロムナード」、「テュイルリーの庭」は憂愁の美、遅めの「ビドロ」は悠然とした足取りです。寂しい「第4プロムナード」、ファンタスティックな「卵の殻を~」、なめらかな「サミュエル」と、あまり神経質でない「シュムイレ」は旋律を歌わせることを重視しているようです。軽快な「リモージュの市場」はこのコンビならではの爽やかな演奏、「カタコンベ」も威圧的でなく、シャープなロンドン響の金管陣が見事です。「死せる言葉による死者への呼びかけ」は白眉かもしれません。とても美しい演奏です。ここまでの演奏からして意外なくらいの迫力で始まる「バーバ・ヤガー」、端正で品格があり、エネルギー感も十分な「キエフの大門」でした。
アバドとロンドン響が残した録音の中でも出色の出来と言ってよいでしょう。録音も優秀です。


イメージ 2

「展覧会の絵」(アシュケナージ編)
ヴラディーミル・アシュケナージ
フィルハーモニア管弦楽団
1982年9月

【お薦め】
アシュケナージは、「展覧会の絵」のピアノ版と管弦楽版を1982年に録音しており、管弦楽版は自身の編曲によるというこだわりです。
「第1プロムナード」は、一瞬ラヴェル編曲と思いますが、ラヴェル版を下敷きにしたアシュケナージ版と言うべきでしょう。「グノム」は色彩的なラヴェル版より、色数を抑え、パーカッション多めのものとなります。「第2プロムナード」はとても優しい感じ、「古城」ではアルト・サクソフォーンが登場しません。その他の木管と弦楽合奏が美しい歌を奏でる素敵な編曲。「第3プロムナード」はラヴェル編より押し出しの強いもの、「テュイルリーの庭」は、より叙情性が強い感じ、「ビドロ」はムソルグスキーの原点版どおり強音で始まります。単調さを避けるため、いろいろ変化を付けていますね。「第4プロムナード」は弦主体の繊細な編曲、「卵の殻を~」もラヴェルとは異なった色彩感が楽しめます。「サミュエル~」は「シュムイレ」がヴァイオリン独奏となり、対比がより明確となりました。ラヴェル版にはない「第5プロムナード」は「第1」と似たアレンジで堂々とした編曲、「リモージュの市場」も一層賑やかとなり、「カタコンベ」は楽器の増強でさらに荘重で悲劇的です。「死せる言葉~」もしっかり慰めの音楽となっています。「バーバ・ヤガー」も興味深い編曲で、ロシア風です。「キエフの大門」の好ましく、最初は金管ではなく木管に、木管ではなく弦にメロディを任せ、積極的な打楽器の活用など、叙情性と壮麗さを両立させています。
ラヴェル版あってのアシュケナージ版という気がしますが、センスの良さを思わせるものですので、これは一聴の価値ありと思うので【お薦め】にします。


イメージ 1

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ギュンター・ヴァント
北ドイツ放送交響楽団
1982年9月19、20日(ライヴ)
ハンブルク,ムジークハレ

【お薦め】
1982年から1991年まで北ドイツ放送交響楽団の首席指揮者であったヴァント(1912年-2002年)による「展覧会の絵」です。ヴァントは「展覧会の絵」がよほどお気に入りだったようで、あと2回ぐらい登場します。
ゆったりと滑らかな「第1プロムナード」は強弱の変化が巧みで良い雰囲気、「グノム」は緻密な設計で緊迫感があります。「古城」もノスタルジック、弦の弱音が美しく、サックスが再登場するときに、ぐっと音を落とすのが特徴です。「テュイルリーの庭」も遅めで木管のハーモニーがきれい。柔らかい弦も良い感じ。「ビドロ」は荘厳でもの悲しく、「卵の殻を~」も精緻な演奏、「サミュエル~」はトランペットが壮絶な感じで、「リモージュの市場」で初めて速めのテンポを採用し、「カタコンベ」も荘厳ではあるけれど、威丈高にならないのが好ましく、「死せる言葉に~」も優しい音楽を聴かせます。そして「バーバ・ヤガー」、さらに「キエフの大門」もなかなか壮大です。
とにかく精緻な表現なのですが、オケが萎縮することはなく、ヴァントの指揮に共感して立派な演奏を成し遂げていることに感銘を受けました。北ドイツ放送響って良いオーケストラですね。
ところで、カップリングはチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番で、ピアノがホルヘ・ボレット(1914年-1990年)なんです。こちらもお薦め!




ムソルグスキー「展覧会の絵」の名盤 1985ー1990

$
0
0
第5回になりますが、あと2回は必要です。
小林研一郎だけで3種類もあり、ヴァント、ゲルギエフも各2種類あるのです。
定盤や最新録音は入れておきたいし、例えばインマゼールのような人が指揮しているともなると、これは感想を書かなくてはという気になって、リストが減りません。


イメージ 1

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
アンドレ・プレヴィン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1985年4月18-23日(ライヴ)

この録音時では56歳でしたが、プレヴィン(1929年-)は今や89歳です。ウィーン・フィルによる「展覧会の絵」は、この後ゲルギエフ(1953年-)の演奏が控えていますが、とにかくプレヴィンです。良くも悪くもウィーン・フィル、他のオーケストラとは、ひと味違います。「第1プロムナード」は脱力した感じ、「グノム」も緊迫感がないようにも聴こえます。牧歌的(のんびり)な「第2プロムナード」を経て「古城」は曲がウィーン・フィルに合っていて良い感じです。木管と弦が美しい「テュイルリーの庭」、えっちらおっちらとい感じの「ビドロ」です。「第3プレリュード」「卵の殻を~」は良いテンポで、これも曲想がウィーン・フィルに合っています。「サミュエル~」は、ちょっと違和感があり、「リモージュの市場」はOKで、「カタコンベ」もこういう曲だったかなという思いがあるものの、柔らかい金管が美しく、「死せる言葉~」も木管と弦がきれいです。打楽器おかげで「バーバ・ヤガー」も出だしは好調、「キエフの大門」はウィーン・フィルなりの壮麗さを出していますが、ちょっと長く感じてしまいました。


イメージ 2

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
シャルル・デュトワ
モントリオール交響楽団
1985年10月
モントリオール,聖ユスターシュ教会

【お薦め】
デュトワ(1936年-)がモントリオール交響楽団の音楽監督であったのは1977年から2002年までの25年間ですが、その後のデュトワもモントリオール響も、今ひとつぱっとしないと思うのは私だけでしょうか。それくらい幸福な関係であり、産み出された録音はいずれも高い評価を受けるに値するものばかりだったのですが、楽団員との確執があってデュトワは辞任してしまいます。
前置きが長くなりましたが、「第1プロムナード」はDECCAの録音のおかげもあって、モントリオール交響楽団の艶やかな管・弦を楽しむことができます。間髪入れず「グノム」が始まりますが、低弦・打楽器の迫力、テンポも絶妙で、素晴らしい演奏です。管が巧い「第2プロムナード」の後の「古城」は、デリケートな弦と木管がとても美しいです。生き生きとした「第3プロムナード」の後の「テュイルリーの庭」も理想的な仕上がりです。「ビドロ」は低弦の刻みからして重厚であり、併せてラヴェル編の華やかさも表出しています。不安を感じさせる「第4プロムナード」とは打って変わって愉しい「卵の殻をつけた雛の踊り」も理想的な名演。「サミュエル・ゴールデンベルクとシュムイレ」も、この曲のお手本のような演奏で、ここでもしっかりした低弦が効果を上げています。「リモージュの市場」も素晴らしく、「テュイルリーの庭」と「卵の殻を~」の2曲と同様、テンポも色彩感もよろしく、嬉しくなります。「カタコンベ」は、モントリオール響のブラスはこんなにも素晴らしかったのかと改めて思うほど隙の無い演奏で、「死せる言葉に~」も美しい演奏、「バーバ・ヤガー」の冒頭はこの楽団の底力を改めなければと思うほどの迫力で、一区切りついた後の各楽器のバランスが絶妙、その後は再び迫力満点、そして「キエフの大門」も完璧で、ひとつひとつの楽器の意味深さ、ラヴェル編を十分に生かし切った名演です。これはもう【決定版】ですね。凄い演奏でした。


イメージ 3

「展覧会の絵」(フンテク編)
レイフ・セーゲルスタム
フィンランド放送交響楽団
1986年2月17, 19日
Kultturitalo, Helsinki, Finland

Wikipedia によれば、レオ・フンテク(1885年-1965年)は、オーストリア・ハンガリー帝国出身のスロベニア人の指揮者で、生涯の大半をフィンランドに過ごし、フィンランド歌劇場の指揮者も務めた、のだそうです。そのフンテクによる管弦楽編曲版をセーゲルスタム(1944年-)の指揮で聴きました。
「第1プロムナード」は弦で始まります。それに管が加わり、そしてティンパニと、次第に厚みと壮麗さを増していきます。「グノム」は重厚なラヴェル編と異なり、もっと軽く飛び回る感じですが、中間部はおどろおどろしいです。「第2プロムナード」は弦と木管によります。「古城」のメロディ楽器はコーラングレ、そして弦。ティンパニがリズムを刻んでいます。ちょっと淡泊な感じ。「第3プロムナード」は弦とホルン、「テュイルリーの庭」はピッコロが目立ち、「ビドロ」は重厚ではありませんが、打楽器が盛大に打ち鳴らされます。「第4プロムナード」は、最初は木管、途中からラヴェル編によく似たアレンジ。「卵の殻を~」もラヴェル版に似ていますが、もう少しおどけた感じ。「サミュエル~」も弦で始まり、「シュムイレ」は木管と木琴。原典どおり「第5プロムナード」が演奏されますが、弦と金管です。「リモージュの市場」も、どうしても似てしまうのか、ラヴェル版を思い出させますが、もっとふざけた感じです。「カタコンベ」は金管にタムタムが加わります。「死せる言葉~」も弦の伴奏でホルンや木管が旋律を歌います。「バーバ・ヤガー」もラヴェル編を下敷きにして、もう少し色彩感を増したような印象ですが、ラヴェル編と同じ箇所が多いです。「キエフの大門」の最初は金管のみ、やがて木管、そしてティンパニが加わり、と、きりが無いのでもう終わりにしますが、この「キエフの大門」のオーケストレーションは、なかなか興味深かったです。


イメージ 4

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
リッカルド・シャイー
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
1986年8月

【お薦め】
この年代になってくると、演奏がパターン化され、画一的になり、名演が生まれ難くなるのではないかと考えましたが、前述のデュトワ指揮の録音といい、良いものは良いのですね。各プロムナードは、シャイーの指揮あってなのでしょうけれど、コンセルトヘボウ管の音色、巧さに魅了されます。「グノム」の迫力(打楽器がすごいのです)、奇怪さは申し分なく、「古城」もやや速めのテンポによりもたれることがなく、物懐かしさも十分表出しています。「テュイルリーの庭」の素朴な感じ、「ビドロ」の重厚感、「卵の殻を~」の木管と弦、「リモージュの市場」の金管と弦の妙技、「カタコンベ」の金管のハーモニー、「バーバ・ヤガー」はまずティンパニとグランカッサの強打に耳が行きがちですが、やはりコンセルトヘボウの合奏能力の高さが物を言います。素晴らしいです。遅めのテンポでじっくりと音の大伽藍を聴かせる「キエフの大門」も見事です。


イメージ 5

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1987年12月
ベルリン,フィルハーモニー・ザール

【お薦め】
ライヴや映像まで含めると何種類あるのかわからないカラヤン(1908年-1989年)の指揮です。前回(1965年)の録音よりも格段に優れているのではないでしょうか。「第1プロムナード」はいぶし銀の響き、続く「グノム」は重心が低く、荒涼とした感じがあります。「第2プロムナード」もしみじみとしてうて、「古城」のアルト・サクソフォーンやその他の木管や弦も美しいです(カラヤン・ゴールドのCDで聴いているのですが、低音が膨らみ気味なのが気になりますが。)。「第3プロムナード」からは予想できない「テュイルリーの庭」の良いテンポ、「ビドロ」はソロがこれだけ小さな音で始まるのは初めて聴きました。木管が愛らしいけれど、弦が不安な感じをよく表現している「第4プロムナード」を経て、「卵の殻を~」も絶妙なタイミング。「サミュエル~」はカラヤンらしい音価を十分保った(レガートな)弦とトランペットのソロの対比が興味深く、「リモージュの市場」の色彩感の表出、いかにもベルリン・フィルの金管といった「カタコンベ」、ゆったりと語られる「死せる言葉に~」、分厚い響きで重量級だけれど意外に快速な「バーバ・ヤガー」、朗々と歌われる「キエフの大門」など、久しぶりに聴いて、この年齢にあってもカラヤンはカラヤンであったのだと感銘を受けました。


イメージ 6

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
マリス・ヤンソンス
オスロ・フィルハーモニー管弦楽団
1988年8月
オスロ,コンセルトフス

「グノム」は打楽器の切れ味も鋭く(と言っても鋭くない演奏は少ないけれど)、グランカッサも量感があって楽しめます。「古城」も雰囲気の良い演奏です。「テュイルリーの庭」は珍しくテンポが速い演奏で、木管楽器がちょっときつそう。「ビドロ」はリズムをはっきり刻む弦が面白です。「卵の殻を~」も速いテンポが慌ただしい感じで楽しい演奏、「リモージュの市場」も同様です。ヤンソンスにはこういう曲が向いているのでしょうか。「バーバ・ヤガー」「キエフの大門」も良いのですが、もはやこれぐらいの演奏は当たり前の年代となっています。


イメージ 7

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ユーリ・テミルカーノフ
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1989年9月19,22,25日

「第1プロムナード」が好演なので、期待が高まります。「グノム」はテンポの変化を大きく取った演奏、「古城」は割とすっきりとした感じで、私は好きです。「テュイルリーの庭」も上々の出来、「ビドロ」もなかなか重厚です。「卵の殻を~」も十分コミカルで美しくもあり、「サミュエル~」もよく歌う演奏、「リモージュの市場」も弦の響きが爽やか、「カタコンベ」も殺伐とした感じが良いです。「バーバ・ヤガー」が予想外の迫力でこれは楽しめました。「キエフの大門」は余裕のあるテンポでじっくりと盛り上げる演奏でした。


イメージ 8

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ネーメ・ヤルヴィ
シカゴ交響楽団
1989年11月27、28日
シカゴ,オーケストラ・ホール

とにかく録音が多い父ヤルヴィ(1937年-)ですが、「展覧会の絵」に名盤を残しているシカゴ響との録音です。「グノム」は変化が面白く、「古城」は速めのテンポが好ましいです。「テュイルリーの庭」は緩急の付け方に特徴があり、「ビドロ」は普通かな? 「卵の殻を~」はちょっと切れ味が鈍く引き摺る感じです。この録音ではやはり「バーバ・ヤガー」以降が良く、この曲の演奏で最も速いと思われるテンポでぐいぐい進みますが、中間部は急に速度を落としてしまったのが残念です。「キエフの大門」もシカゴ響らしい絢爛たる演奏で、この曲が白眉でした。せっかくのシカゴ響だったのですが、総じてまとまりの悪さのようなものを感じてしまいました。


イメージ 9

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ジュゼッペ・シノーポリ
ニューヨーク・フィルハーモニック
1989年12月
ニューヨーク,マンハッタン・センター

「アイーダ」の指揮中に倒れて亡くなってしまったシノーポリ(1946年ー2001年)の「展覧会の絵」です。他の指揮者とはちょっと変わったことをやってくれるのでは?という期待をしてしまうのですが、どうでしょうか。
「第1プロムナード」は最初は清々しいのですが、内省的な面も漂わせます。続く「グノム」は大仰にならないバランスを保ちつつ、ラヴェル編のグロテスクな雰囲気を醸し、良い出来です。「古城」は老いた人が語る昔物語のようで、まどろみながら音楽が進行していくよう。「テュイルリーの庭」は、遅めのテンポも多い中、ちょうど良いテンポで美しいです。「ビドロ」も力押しせず、虚無感さえ漂う演奏になっています。「卵の殻を~」も速めで駆け抜け、前後の曲との対比が上手です。「サミュエル~」も威丈高にならない賢人のようで、かえって「シュミイレ」の卑屈さが目立ちます。「リモージュの市場」も快速で走り回ります。「カタコンベ」はニューヨーク・フィルの金管の響きが良いです。「死せる言葉~」は夢見るような美しい音楽。「バーバ・ヤガー」も勢いで演奏しているのではなく、よく考えたうえでの表現だと思います。「キエフの大門」も同様で、落ち着いた運びです。この曲は起伏が大きいうえに長いので、聴いているうちに疲れることがありますが、抒情的な部分を大切にした演奏と感じました。シノーポリらしい演奏ですが、最後の2曲を物足りないと思う人もいるでしょうから無印としました。


イメージ 10

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
カルロ・マリア・ジュリーニ
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1990年2月17・19日

シカゴ響との録音が名盤の誉れ高いジュリーニ(1914年-2005年)ですが、76歳での再録音です。オーケストラはベルリン・フィル、レコード会社はSONY CLASSICALに変わります。
「第1プロムナード」はベルリン・フィルが艶っぽくて輝かしい響きを聴かせますが、「グノム」はお爺さんのようです。「古城」はこの頃のジュリーニにマッチした曲想なので、文句なしです。「テュイルリーの庭」はやっぱり遅かったですが、管も弦も優美です。「ビドロ」は普通、かな? 木管が美しい「第4プロムナード」を経て、予想に反して軽快な「卵の殻をつけた雛の踊り」が嬉しく、ベルリン・フィルの巧さが光ります。「サミュエル・ゴールドベルグとシュミイレ」は、今ひとつ。「リモージュの市場」もしっかり弾かせるので少し重め、「カタコンベ」より「死せる言葉による死者への呼びかけ」のほうが良い出来です。ここまでで、ジュリーニの統率力に翳りが見えるときがあったのが少々残念で、「バーバ・ヤガー」はテンポが遅いのが気になり、「キエフの大門」も壮麗ではありますが、このテンポでは少々つらいものを感じました。


イメージ 11

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
リッカルド・ムーティ
フィラデルフィア管弦楽団
1990年10月

【お薦め】
ムーティ(1941年-)の再録音、管弦楽は同じフィラデルフィア管弦楽団です。やはり、このオーケストラの華麗な響きは、「展覧会の絵」によく合っており、「第1プロムナード」から魅了され(以降の「プロムナード」も全て良い出来です)、早くも【お薦め】当確の予感です。続く「グノム」も理想的で最初から最後まで素晴らしいです。しっとりとした「古城」も良く、テンポ感が優れています。曲の長さを感じさせない、このぐらいがちょうど良いのです。「テュイルリーの庭」には寂寥感さえ漂います。「ビドロ」はなかなかよい演奏に巡り会えない曲ですが、これは申し分なしで、「卵の殻を~」も楽しく美しい演奏です。「サミュエル~」も巧いですね。「リモージュの市場」も嬉しい演奏、「カタコンベ」の艶やかな金管、「死せる言葉~」の情感など、フィラデルフィア管は本当に素晴らしいです。「バーバ・ヤガー」「キエフの大門」の迫力は言うに及ばずです。


イメージ 12

「展覧会の絵」(ゴルチャコフ編)
クルト・マズア
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
1990年12月

管弦楽編曲者のセルゲイ・ゴルチャコフ(1905年-1976年)に関して詳しいことはわからないのですが、モスクワ音楽院作曲科教授だった人らしいです。指揮はクルト・マズア(1927年-2015年)です。マズアというと、私にはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者(1970年-1996年)というイメージがあり、同オケによる映像収録(1993年)もあるのですが、今回はロンドン・フィルによる演奏だけを聴きました。
「第1プレリュード」はトランペットで始まるところはラヴェル編と同じですが、弦楽器と交互にメロディを受け持ちます。続く「グノム」で鳴らされる打楽器はウッドブロクだそうで、これが目新しいのですが、ラヴェル編と共通する部分が多いですね。でも、なかなか良い編曲です。「第2プロムナード」は別の曲を聴く趣があり、「古城」はもちろんアルト・サクソフォーンではありませんが、この曲はやっぱりラヴェル編のほうがいいかな。「テュイルリーの庭」は木管偏重です。ゴルチャコフ編のほうが素朴さが出ています。ffで始まる「ビドロ」はホルンのユニゾンが雄々しい感じで、ただでさえ重苦しい曲が息苦しく感じます。「卵の殻を~」はヒヨコが増えたようで、「サミュエル~」はラヴェル編とよく似ていますが、「シュミイレ」はトランペットではなくソプラノ・サクソフォーンです。ここでラヴェル編ではカットしている「第5プロムナードが復活します。元気が良いアレンジ。「リモージュの市場」は一層せわしない感じ、「カタコンベ」はシンプルなラヴェル版に対し、打楽器・弦楽器を追加してドラマティックに仕立てています。「バーバ・ヤガー」はなんとも形容しがたいですが、成功しているか否かはともかくとして、オーケストラ曲としては面白いです。「キエフの大門」も同じです。演奏はマズアのうなり声も聴こえる熱演で、これはラヴェル版で聴いてみたかったですね。



ムソルグスキー「展覧会の絵」の名盤 1993ー2007

$
0
0
イメージ 1

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
クラウディオ・アバド
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1993年5月、9月(ライヴ)
ベルリン,フィルハーモニー

【お薦め】
ロンドン響との録音から12年ぶり、アバド(1933年-2014年)がカラヤン(1908年-1989年)の後任としてベルリン・フィルの芸術監督に就任してから4年目に録音した「展覧会の絵」です。アバドとってムソルグスキーは特別な作曲家なのですが、私は長い間、この演奏が好きではありませんでした。物足りなさを感じていたのが理由ですが、今回は再評価の意味も込めて聴いてみたいと思います。
ゆったりとして丁寧な「第1プロムナード」、「グノム」はもう少し低弦がほしいですが、リズムが明快でなかなか良いです。繊細で管が巧い「第2プロムナード」、続く「古城」はアルト・サックスが浮いておらず、オケの一員として溶け込んでいます。このソロにたまに違和感を覚えることがありますので、結構重要なポイントです。悠然とした足取りの「第3プロムナード」を経て、「テュイルリーの庭」はテンポの変化が非常に効果的、ソロが巧い「ビドロ」ですが、オケを煽ることもなく、淡々とした足取りです。チャーミングな木管と弦が美しい「第4プロムナード」、「卵の殻を~」はアンサンブルが見事、「サミュエル~」も弦楽合奏が美しく、やはりソロが巧いです。「リモージュの市場」も賑やかで、「カタコンベ」は金管セクションの整ったハーモニー、「死せる言葉に~」は弦がここまで弱音で弾くのは聴いたことがありません。心がこもった音楽です。「バーバ・ヤガー」はベルリン・フィルの威力を聴かせてくれ、「キエフの大門」も感動的な演奏です。
アバドが真摯にムソルグスキーの音楽に向き合っているのが感じられます。アバドに敬意を表して【お薦め】にしようと思います。


イメージ 2

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
セルジュ・チェリビダッケ
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
1993年9月24・25日(ライヴ)
ミュンヘン,ガスタイクザール

チェリビダッケ(1912年-1996年)とミュンヘン・フィルの「展覧会の絵」ライヴは少なくとも2種類あり、ひとつはミュンヘン・フィル創立百周年記念演奏会の一環として、1993年9月24・25日に本拠地のガスタイクで収録された本盤、もうひとつはHMVのレビュー数が非常に多い1986年10月14日の昭和女子大学人見記念講堂ライヴで、これは未聴です。覚悟を決めてガスタイクザールのライヴを聴いてみます。
「拍手」から始まります。「第1プロムナード」はこれまで聴いてきた中で最も遅いテンポです。ここまで遅くしなければならない意味は? 「グノム」も緩急の差はあるにせよ、遅いですね。瀕死状態のグノムです。テンポが遅いからといって味付けが濃いわけではありません。「古城」はスローテンポが合う曲でもあるので、違和感はありませんが、な浮遊状態にあるような、なんだか不思議な感覚です。「テュイルリーの庭」も遅く、こうした曲だと思って聴けば、これはこれで良いのかもしれません。「ビドロ」も重々しい足取りで、いつまでも見送っている感じです。「卵の殻を~」は意外なことに普通のテンポで驚きます。だからと言って、何がどう変わるものではありません。「サミュエル~」「リモージュの市場」は普通の出来、「カタコンベ」は良い出来です。「死せる言葉に~」も、他の「プロムナード」は遅くて閉口しましたが、曲が曲なので気になりません。「バーバ・ヤガー」は新鮮でした。抑揚を大きくつけた「キエフの大門」もユニークで、音量が控えめな部分は聖歌、賛美歌を聴いているようです。


イメージ 3

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ギュンター・ヴァント
ベルリン・ドイツ交響楽団
1995年2月19日(ライヴ)
ベルリン、フィルハーモニー

ヴァント(1912年-2002年)がベルリン・ドイツ響に客演したときのライヴです。くすんだ音色にドイツのオケを感じます。「グノム」は後半のアッチェル(アラルガンド)に驚きます。嵐が去った後の静けさのような「第2プロムナード」を経て、落ち着いた「古城」はしなやかな表現も聴かせます。「テュイルリーの庭」はまどろむような演奏、「ビドロ」は悲劇的行進曲のようです。「卵の殻を~」はこの老巨匠に意外なほど可愛らしい演奏、「サミュエル~」は抑揚をはっきりつけたもの、「リモージュの市場」は爽やか、「カタコンベ」は金管の柔らかなハーモニーが哀愁を帯びており、「死せる言葉に~」も優しい音楽となっています。「バーバ・ヤガー」は効果を追求しないまじめな演奏、「キエフの大門」も時には速めのテンポを用い、すっきりと仕上げています。
曲によってはアンサンブルの若干の乱れもあり、ヴァントの「展覧会の絵」では、より一層練られている北ドイツ放送響とのものを選ぶべきでしょう。


イメージ 4

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
大植英次
ミネソタ管弦楽団
1996年10月

【お薦め】
大植英次(1956年-)が1995年から2002年まで音楽監督を務めたミネソタ管弦楽団(旧ミネアポリス交響楽団)を指揮しての「展覧会の絵」です。
しっかりとした足取りの「第1プロムナード」で始まります。「グノム」は緩急の変化が見事です。ここ一番の打楽器の強打が迫力を産んでいます。「古城」はやや速めのテンポなのでもたれません。「テュイルリーの庭」は名演、やはり緩急の差が巧みで、柔らかな弦の表現が絶品です。「ビドロ」はレガートな歌が特徴的、「卵の殻を~」の滑稽さ、「サミュエル~」の豊かな歌、「リモージュの市場」の色彩感、「カタコンベ」の荘厳さ、「死せる言葉に~」の繊細さなど、どの曲も素晴らしい出来です。「バーバ・ヤガー」はティンパニ、グランカッサの強打が効いており、爽快な演奏です。「キエフの大門」も品格があり、フィナーレにふさわしい演奏です。
なお、大植英次には2008年の録音もありますが、そちらは未聴です。


イメージ 5

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ギュンター・ヴァント
北ドイツ放送交響楽団
1999年2月21-23日(ライヴ)
ハンブルク,ムジークハレ

ヴァント(1912年-2002年)が1991年まで首席指揮者の任にあった北ドイツ放送響とのライヴです。この時、ヴァントは87歳ですよ。
ぐっと色彩を抑えた感じの落ち着いた「第1プロムナード」で、「グノム」は独特なアーティキュレーションが興味深いです。「古城」はサックスの音色により異国情緒が漂う感じで、弱弦の響きと歌が切ない秀演です。「テュイルリーの庭」も素朴で優しく、「ビドロ」はクライマックス前後の音楽づくりが巧みと思います。「卵の殻を~」は意外なほど若々しく瑞々しい表現で、「サミュエル~」にもありきたりの表現に陥らない工夫があり、「リモージュの市場」もテンポが速いうえに色彩的、「カタコンベ」も強弱変化が上手で、最後のタムタムの一撃も効いています。「死せる言葉に~」も心がこもっています。ティンパニの強打がめざましい「キエフの大門」はしっかりと弾かせ、弱音の時の音裁きも丁寧です。「キエフの大門」でもテンポを落とさず、最後まで意思に強い音楽づくりなのが立派です。


イメージ 6

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
小林研一郎
日本フィルハーモニー交響楽団
1999年8月22日(ライヴ)
東京,サントリー・ホール

小林研一郎(1940年-)が当時常任指揮者(現在は桂冠指揮者)を務めていた日フィルとの「展覧会の絵」です。今回の聴き比べでは国内オケ初(にして最後の)登場です。
「第1プロムナード」ではソロに不安がありますが、まずまずの出来、早速指揮者のうなり声が聴こえてきます。「グノム」は素晴らしいです。曲を知り尽くしている者の表現でしょう。「第2プロムナード」は安定しており安心して聴けます。「古城」すっきりしたテンポの中に詩情が漂いいます。「第3プロムナード」「テュイルリーの庭」も良い出来で、後者の繊細な表現が良いです。「ビドロ」もしっかりした演奏で重厚さがよく出ています。「第3プロムナード」も美しく、「「卵の殻を~」も快速テンポで鮮やか、うなり声が目立つ「サミュエル~」は最後にソロの人が大変そうで、「リモージュの市場」はもうちょっと引き締まっていると尚よかったかもしれません。「カタコンベ」の金管、「死せる言葉~」も良い出来です。「バーバ・ヤガー」「キエフの大門」もなかなかのものでした。炎のコバケンの健闘と日フィルの熱演を讃えるべきでしょう。


イメージ 7

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ヴァレリー・ゲルギエフ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
2000年4月28~30日,12月22日(ライヴ)
ウィーン,ムジークフェラインザール

【お薦め】
意外に少ないウィーン・フィルによる演奏で、ゲルギエフ(1953年-)の数種類のうちの最初の録音です。「グノム」でも、ウィーン・フィルの弦は魅力的です。曲の最後の迫力がすごいです。「古城」も優美でしなやかな、弱音が美しい演奏です。「テュイルリーの庭」も柔らかい弦が絶妙です。「ビドロ」は重厚ではありませんが、ソロも巧く、ウィーン・フィルの艶やかな弦が美しいです。「卵の殻を~」は今まで聴いた中で最速かも。いくらなんでも速すぎると思いますが、これをきちんと演奏できるオーケストラが素晴らしいです。「サミュエル~」はトランペットが巧く、ゲルギエフの語り上手な指揮も見逃せません。「リモージュの市場」も最速の部類で驚きます。「カタコンベ」の金管はとても力強く、「死せる言葉に~」も美しい演奏です。ゲルギエフ指揮ということで期待してしまう「バーバ・ヤガー」は想像どおりの凄まじい演奏で、ロシアのオーケストラだったらさらに豪快なのでしょうか。そのままなだれ込む「キエフの大門」もすごい迫力で期待を裏切りません。個性的な指揮ですが、普通の名演に飽き足らない人に【お薦め】です。


イメージ 8

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
シルヴァン・カンブルラン
バーデンバーデン・フライブルクSWR交響楽団
2003年12月31日
バーデン・バーデン,祝祭劇場

フランスの指揮者、カンブルラン(1948年-)が、バーデンバーデン・フライブルクSWR交響楽団の首席指揮者であった頃の録音です。なお、カンブルランは、2010年4月から読売日本交響楽団の常任指揮者、2012年からシュトゥットガルト州立歌劇場の音楽総監督を務めています。
「グノム」は良いテンポですが、低弦がおとなしい感じがしますね。過度な思い入れを廃した客観的な表現のようです。「古城」もスマートでプロポーションの良い演奏です。「テュイルリーの庭」は最初はとても速いです。中間部はぐっとテンポを落とします。「ビドロ」もきびきびとしたテンポで、最速の部類でしょう。あっという間に通り過ぎていく感じです。ゆったりとした第3プロムナード」と打って変わって「卵の殻を~」も快速テンポです。カンブルランは楽器のバランスを保つのが上手で、精巧な機械による演奏を聴いているみたいです。「サミュエル~」はトランペット・ソロのバックで演奏している木管を浮かび上がらせているのが新鮮です。「リモージュの市場」はラヴェルの編曲を最大限に生かした演奏、「カタコンベ」は金管のハーモニーが濁って聴こえますが迫力はあります。「バーバ・ヤガー」は打楽器の強打もあり、意外な迫力です。それまで抑えていたものが全開になったようで、中間部はやはり楽器のバランスに注意を払った演奏です。「キエフの大門」も同様で壮大な音の伽藍を聴く思いがします。


イメージ 9

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ズデニェク・マーツァル
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
2007年1月18・19日
プラハ,「芸術家の家」ドヴォルザーク・ホール

アンチェル(1908年-1973年)の名盤以来のチェコ・フィルです。指揮者のマーツァル(1936年-)は、2003年にチェコ・フィルの首席指揮者に就任しましたが、2007年9月8日に退任しています。ずいぶん短かったのですね。
「グノム」は打楽器を抑え気味ですが、この曲の不気味さ・怪奇さは表出されています。「古城」は色気の無いサックスですが、これはこれでよいかもしれません。指揮も速めのテンポで淡々と進めますが、詩情はあります。「テュイルリーの庭」も抒情的な演奏で、「ビドロ」も録音のせいか、打楽器は割と抑え気味ですが、それなりに迫力はあります。
「卵の殻を~」は愉しい演奏で、チェコ・フィルの木管と弦の特長をよく活かしています。「サミュエル~」「リモージュの市場」「カタコンベ」「死せる言葉~」は水準の出来、かな。しかし「バーバ・ヤガー」は羊の皮をかなぐり捨てて本領発揮といわんばかりの迫力です。「キエフの大門」も良い出来ですが、全体として標準的な演奏に留まっているように思います。
なお、マーツァルがニュージャージー響を指揮した1996年録音は未聴です。


イメージ 10

ムソルグスキー「展覧会の絵」
 第1プロムナード(D.W.オコーア編)
 小人(S.ゴルチャコフ編)
 第2プロムナード(W.ゲール編)
 古城(E.ナウモフ編)
 第3プロムナード(G.V.コイレン編)
 テュイリーの庭(G.V.コイレン編)
 ビドロ(V.アシュケナージ編)
 第4プロムナード(C.シンプソン編)
 卵の殻をつけた雛のバレエ(L.カイエ編)
 サミュエル・ゴールドベルクとシュミイレ(H.ウッド編)
 第5プロムナード(L.レオナルド編)
 リモージュの市場(L.フンテク編)
 カタコンベ(J.ボイド編)
 死せる言葉による死者への呼びかけ(M.ラヴェル編)
 バーバ・ヤガー(L.ストコフスキー編)
 キエフの大門(D.ギャムレイ編)
レナード・スラットキン
ナッシュビル交響楽団
2007年6月21日(ライヴ)
ナッシュヴィル

スラットキン(1944年-)は、「展覧会の絵」が大好きなようで、15編曲の組み合わせという、需要があるとは思えない録音をしています。セールス的にどうだったのか気になるところです。
「第1プロムナード」のオコーア編は最初シンセサイザーによる演奏かと思いましたが、面白い編曲で一聴の価値ありです。「グノム」のゴルチャコフ編についてはマズアの録音で述べたとおりで、ラヴェル編を色濃く残したものです。ゲール編の「第2プロムナード」は室内楽みたいです。ナウモフ編の「古城」にはピアノまで登場します。コイレン編の「第3プロムナード」もラヴェル編によく似ていますが、「テュイルリーの庭」は少し違います。アシュケナージ編の「ビドロ」も編曲者自身の指揮による録音で紹介済みですが、原典をアシュケナージなりに解した名編曲だと思います。シンプソン編の「第4プロムナード」はハーモニーが面白く、カイエ編の「卵の殻をつけた雛の踊り」は親鳥と雛鳥を表現しようとすると、こうならざるを得ないというところでしょうか。ウッド編の「サミュエル・ゴールデンベルクとシュムイレ」はずいぶんシンプルな音楽と思ったら、冗談のような編曲でびっくりします。レオナルド編の「第5プロムナード」は華やかなもの、フンテク編の「リモージュの市場」もセーゲルスタム盤で述べたとおりで、ラヴェル編を下敷きに色彩的に直したようなもの、ボイド編の「カタコンベ」は金管に打楽器を加えており,壮絶です。「死せる言葉による死者への呼びかけ」は聴き覚えがあると思ったらラヴェル編でした。一番目立たない曲に最も有名なラヴェル編をあてたというところでしょうか。そうした中にあってストコフスキー編の「バーバ・ヤガー」は独自性を強く打ち出しており、すごいと思いました。ギャムレイ編の「キエフの大門」は合唱やオルガン(ペダル音を加えるのは昔からありました)まで加わります。最後は(それを書くとネタバレ?)。


イメージ 11

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
小林研一郎
アーネム・フィルハーモニー管弦楽団
2007年12月3-6日
アーネム,ムシス・サクルム,コンサート・ホール

小林研一郎(1940年-)が常任指揮者を務めるアーネム・フィル との録音です。「第1プロムナード」を聴いた限りではアーネム・フィルは普通のオーケストラのように思われましたが、「グノム」では低弦が速いテンポについていけていない感じがします。とはいえ、この曲は良い出来です。指揮台を踏みならす音やうなり声も聴こえないですし。「古城」は丁寧な演奏です。「テュイルリーの庭」も良いテンポです。「ビドロ」はゆったりとしており、次第に盛り上げていく過程が素晴らしいです。弦バスを大きめに弾かせているのも良いです。「卵の殻を~」も好演、「サミュエル~」は水準の出来です。アーネム・フィルは技術は高くないと思うのですが、それが初々しさを感じさせます。「リモージュの市場」も最後のテンポはこれが限界なのでしょう。「カタコンベ」「死せる言葉に~」はまずまずの出来です。さすがに「バーバ・ヤガー」「キエフの大門」になると、危なっかしい箇所もあり、また、もう少し洗練された音色を求めたくなります。


イメージ 12

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
サー・サイモン・ラトル
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
2007年12月29-31日(ライヴ)
ベルリン,フィルハーモニー

【お薦め】
少々意外なことに、ラトル(1955年-)の初めての録音になります。さすがにベルリン・フィルは巧いです。「プロムナード」は総括しますと、いずれも非常に水準が高く、これ以上望むものはないという出来映えです。「グノム」は申し分のない模範的な演奏、「古城」はアルト・サックスが美しいです。きっとそれなりの人が吹いているのでしょう。弱音の弦も驚くほど美しいです。「テュイルリーの庭」はアーティキュレーションが美しい演奏です。「ビドロ」はカラヤン盤同様、ソロが小さな音で出てきます。これは難しいのでは? 艶やかな弦が美しく、少しあっさり気味ですが、ラヴェル編がそのように書かれていることもあり、これはこれで良いと思います。「卵の殻を~」はベルリン・フィルの妙技を楽しむことができ、「サミュエル~」も2人の登場人物の性格分けが上手です。「リモージュの市場」も胸のすくようなアンサンブルで、「カタコンベ」も優秀な金管陣に惚れ惚れです。「死せる言葉に~」もようやく聴こえるほどの最弱音で始まる美しい演奏。「バーバ・ヤガー」はこのオーケストラらしい機動性と重厚な音色をを聴かせてくれます。「キエフの大門」も同様です。
幾分あっさりとしているという印象もありますが、飽きの来ない名演というのはこのような演奏を指すのかもしれません。


ムソルグスキー「展覧会の絵」の名盤 2008ー2017

$
0
0
最終回です。
意外に長くかかってしまいました。
これで「展覧会の絵」から解放されます。
さぁ次の曲を仕込まなければ!


イメージ 11

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
マリス・ヤンソンス
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
2008年5月22、23日、8月29日(ライヴ)

マリス・ヤンソンス(1943年-)、2度目の登場です。あともう1回登場しますが、「展覧会の絵」が好きなのか、レコード会社の需要によるものなのか。
「第1プロムナード」は元気が良いです。「グノム」も表現意欲はを感じるのですが、リズムの扱いが気にもなります。「古城」は旋律をよく歌わせていますが、たまに独特の節回しがあって、やはりそれが気になってしまいます。他の指揮者の場合、個性を評価したくなるのに、ヤンソンスは鼻につくから不思議です。「テュイルリーの庭」も同様ですが、良いテンポです。「ビドロ」は単調な演奏が多いので、逆にこれぐらいやってくれなければと思います。「卵の殻を~」は文句なしで、十分楽しい演奏、「サミュエル~」も変化を求めたい曲なのでOKですが、少しアレンジしている? 「リモージュの市場」も色彩感がよく出ています。「カタコンベ」もタムタム他の打楽器を加えていますよね。金管だけじゃ物足りないと思ったのかな。「死せる言葉に~」はOK、「バーバ・ヤガー」はコンセルトヘボウ管全開といった感じです。「キエフの大門」もたっぷりと音の洪水に浸れます。


イメージ 10

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
チョン・ミョンフン
フランス放送フィルハーモニー管弦楽団
2008年12月

【お薦め】
チョン・ミョンフン(鄭明勳 1953年-)の「展覧会の絵」です。チョンはこのような曲を演奏させたら本当に上手いです。「第1プロムナード」から神経の行き届いた演奏で、続く「グノム」は切れが良く、大太鼓の量感も申し分なく、この曲の焦燥感のような感じをよく描き出しています。管楽合奏の美しい「第2プロムナード」を経て「古城」は個人的には演奏による差があまり出ない曲だと思っていますが、この演奏の中では普通の出来かもしれません。力加減のバランスのよい「第3プロムナード」に、かちっとした「テュイルリーの庭」は中間でぐっとテンポを落としてよく歌います。「ビドロ」もきちんと盛り上げます。がらっと雰囲気を変えた「第3プロムナード」の後には、楽しい演奏の「卵の殻を~」です。速めのテンポできりっと仕上げています。「サミュエル~」も表情づけが巧みです。「リモージュの市場」のような曲はチョンは本当に上手です。奏者が生き生きと演奏しているのがわかります。こういう演奏は聴いていて気持ちがよいものです。「カタコンベ」は金管にもう少し洗練された響きがあったらよいと思いますが、悪くないですよ。「死せる言葉に~」は亡き友に語りかけるかのような音楽。「バーバ・ヤガー」はオーケストラの力奏が迫力を生み、中間の朴訥とした表現も良いと思います。「キエフの大門」もこれでもか!というぐらいに盛り上げてくれました。


イメージ 9

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ジョス・ヴァン・インマゼール
アニマ・エテルナ・ブリュッヘ
2013年1月17,19日
ブリュッヘ,コンセルトヘボウ

インマゼール(1945年-)指揮、アニマ・エテルナ・オーケストラによる「展覧会の絵」です。どの程度ピリオド楽器を使用しているのかはわからないのですが、「第1プロムナード」のトランペットの音色からして違います。「グノム」は木管楽器や打楽器(迫力がすごい)が目立ちます。とにかく新鮮な響きに目から鱗が落ちる思いがします。「古城」もヴィブラートをかけない弦が薄手に聴こえますが、見通しのよい響きです。ラストが意表をつきます。「テュイルリーの庭」も木管主体の雅やかな演奏です。「ビドロ」もひと味違う演奏で、重厚さとは無縁の演奏です。「卵の殻を~」はこのオーケストラの特長が最もよく出た演奏かもしれません。「サミュエル~」は叙唱風に始まり、シュミイレの部分ではトランペット・ソロよりバックの管楽器のほうが音が大きいくらいです。「リモージュの市場」も管楽器と打楽器主体に聴こえますね。「カタコンベ」はモダンオケの金管のほうが好きかも、です。「死せる言葉に~」は主題を奏でる木管合奏が面白い響きです。「バーバ・ヤガー」は打楽器・管楽器が中心で、弦の存在感が薄いです。「キエフの大門」は軽快で華やかです。ユニークな演奏ではありました。


イメージ 8

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
エマニュエル・クリヴィヌ
ルクセンブルク・フィルハーモニー管弦楽団
2013年4月30日~5月5日
ルクセンブルク・フィルハーモニー、グランド・オーディトリアム

【お薦め】
フランスの指揮者、クリヴィヌ(1947年-)は、2017年9月からフランス国立管弦楽団の音楽監督を務めていますが、この録音時はルクセンブルク・フィルの音楽監督でした。
軽やかな「第1プロムナード」で始まります。わざとレガートで演奏していないようです。「グノム」は速めのテンポですが、細かいところまで指揮が行き届いている感じがします。「古城」も速めであっさりしているようですが、色合いが豊かな好演といえます。「テュイルリーの庭」も自然と顔がほころぶような演奏です。微妙なテンポの動かし方が巧みです。「ビドロ」は明るめの色調ですが、低音セクションのリズムの刻み方が効果的です。「卵の殻を~」は快速テンポで駆け抜ける愉しい演奏、「サミュエル~」は丁寧によく歌う演奏ですが、「シュミイレ」が登場すると速くなります。「リモージュの市場」も「卵の殻を~」と同様、色彩的で、クリヴィヌは本当にセンスが良い指揮者だと再認識しました。「カタコンベ」も金管の出し入れが上手です。「死せる言葉に~」も瞑想的な美しい音楽。「バーバ・ヤガー」も楽器のバランスが最上に保たれたうえでの迫力に感心します。中間部も漫然とせず、積極的な表現です。「キエフの大門」も空を仰ぎ見るような壮大さと深く沈む叙情性を兼ね備えた素晴らしい演奏と思いました。
クリヴィヌには、国立リヨン管弦楽団との1993年の録音もあるのですが、そちらは未聴です。


イメージ 7

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ワレリー・ゲルギエフ
マリインスキー歌劇場管弦楽団
(旧キーロフ歌劇場管弦楽団)
2014年6月,10月
サンクト・ペテルブルク,マリインスキー・コンサート・ホール

【お薦め】
FJさんお薦めのウィーン・フィルとの録音から14年後、ゲルギエフ(1953年-)による再録音です。この間、2002年にロッテルダム・フィル、2011年にウィーン・フィルとのライヴ映像が発売されているのですが、これは演奏はゲルギエフが1988年より芸術監督・総裁を務めているマリインスキー歌劇場管弦楽団による録音で、気心の知れたコンビによるロシア風の演奏が期待されます。
「第1プロムナード」から重厚な趣があります。「グノム」の出だしはもっと凄まじいかと思いきや、以外に大人しく、打楽器も派手に打ち鳴らされませんが、ただならぬ緊迫感はあり、内面を掘り下げた演奏のようです。「古城」は最近は速めのテンポが多くなっていますが、これはゆったりとしたテンポで5分26秒を要しており、その遅いテンポの中に無類のニュアンスを注ぎ込んでいます。久しぶりに聴き応えがある「古城」を聴きました。「テュイルリーの庭」も甘く美しく、ロシア風です。当然「ビドロ」も暑苦しい響きで始まり、その遅めのテンポも相俟って、息苦しい行進を続けます。この曲は後半、急に盛り下がってしまう演奏が多いのですが、ゲルギエフは音量の落とし方が上手ですね。「卵の殻を~」はマリインスキーのオケの技術力の高さを聴かせ、まさにバレエ音楽を聴くようです。「サミュエル~」はあまり奇をてらわず、正攻法で行ったようです。「リモージュの市場」はマリインスキー管の限界に挑んだようなスピードで、ゲルギエフの鼻歌も聴こえてきます。「カタコンベ」のロシア風ブラスも素晴らしく、最弱音から始まる「死せる言葉に~」も美しさの限りです。「バーバ・ヤガー」はグランカッサの響きもすさまじく、色数は少ないのですが、直線的な迫力はあります。「キエフの大門」は華々しさと、叙情性がうまく両立している演奏と思いました。


イメージ 6

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
バイエルン放送交響楽団
マリス・ヤンソンス
2014年11月13,14日(ライヴ)
ミュンヘン,ヘルクレスザール 

【お薦め】
マリス・ヤンソンス(1943年-)、3度目の「展覧会の絵」、今度はバイエルン放送交響楽団との録音です。6年後とはいえ、別の名門オケで同じ曲の録音をしてしまう、ヤンソンスの自信の高さがうかがえます。
「第1プロムナード」ではサウンドの違いが明らかで、当たり前のことですが、ドイツを感じさせるバイエルン放送響です。分厚いので「グノム」は聴き応えがありますが、基本的な解釈は同じで、例のリズムの取り方も同じです。いや、もっと濃い味付けになりましたね。「古城」もこちらのほうが良く、歌い方がより洗練されていますし、繊細な美しさがあります。「テュイルリーの庭」はさらにテンポが速くなったような。木管奏者は大変ですが、よくこなしています。「ビドロ」も重厚さが増し、聴き応えがあります。「卵の殻を~」も見事な演奏です。「サミュエル~」の打楽器の追加も同じですが、なぜかこちらは違和感がありません。「リモージュの市場」は甲乙つけがたい出来です。「カタコンベ」の打楽器の追加も変わらずで、ラヴェル編はシンプルであり、単なる慣れの問題かもしれませんが、これはやっぱりやり過ぎの感があります。「死せる言葉に~」は美しい演奏です。「バーバ・ヤガー」の迫力はコンセルトヘボウ管以上です。「キエフの大門」も壮大です。


イメージ 5

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
アンドレア・バッティストーニ
東京フィルハーモニー交響楽団
2015年9月10・11日(ライヴ)
サントリーホール(10日)
東京オペラシティコンサートホール(11日)

2016年から東フィルの首席指揮者を務めているバッティストーニ(1987年- )の「展覧会の絵」です。なぜか名前が覚えられないバッティストーニ。「グノム」は入念な演奏という感じです。よく吟味された表現ですが、もう少し変化をつけてもよかったかな。「古城」もよく歌っていて、これはなかなか良かったです。「テュイルリーの庭」も木管の一部に気になる音色がありましたが丁寧な演奏、「ビドロ」も安定感があり、オケがもう少し大きな音が出せたらと思いますが、これも良い出来です。「卵の殻を~」は東フィルのアンサンブルが美しく、秀演です。「サミュエル~」はバッティストーニの棒に食らいついていこうというオケの意気込みを感じます。ソロも上手いです。「リモージュの市場」も他の演奏と遜色はない素敵な演奏。「カタコンベ」は最後のほうで乱れを感じましたが、荘重な感じは出ていました。「死せる言葉に~」もピッチが気になる楽器が……。「バーバ・ヤガー」は迫力があり、「キエフの大門」は輝かしい演奏なのですが……。


イメージ 4

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
グスターボ・ドゥダメル
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
2016年4月
ウィーン,ムジークフェラインザール

シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラとの演奏で、有名になったドゥダメル(1981年-)は、あっという間にクラシック音楽会の寵児となりましたね。今はロサンジェルス・フィルの音楽監督なのでしょうか。2017年のウィーン・フィル、ニュー・イヤー・コンサートの指揮も務めました。相性の良いウィーン・フィルとの「展覧会の絵」です。
「第1プロムナード」はこぢんまりとしているようですが、ウィーン・フィルの音色が魅力的です。「グノム」は積極的で攻めの演奏です。でも幾分単調にも感じます。「古城」は隙のない演奏で完璧にピシッと決めていますが、すごく美しいのだけれど、曲が長く感じてしまいました。「テュイルリーの庭」はウィーン・フィルの木管を楽しむことができます。「ビドロ」は普通、かな。「卵の殻を~」も「テュイルリーの庭」と同様です。美しい弦と木管の織り成す鮮やかな演奏。「サミュエル~」もきちんとした演奏ですが、これも単調な気がします。「リモージュの市場」のような曲になると急に生き生きとしてきます。「カタコンベ」艶やかな金管、「死せる言葉に~」も美しいです。「バーバ・ヤガー」はドゥダメルの指揮なのだから、もう少しはじけたところがあってもよいと思うのですが、合奏を磨くことに重きを置いているようです。「キエの大門」は力感がみなぎり、少し取り戻したような感じがしました。ちょっと期待し過ぎたかのもしれません。


イメージ 3

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
フィリップ・ジョルダン
パリ・オペラ座管弦楽団
2016年5月20,23,24日
パリ,オペラ・バスティーユ メイン・ステージ

【お薦め】
そもそも私が「展覧会の絵」の聴き比べを思いついたのは、この録音を聴いたからであり、こういう演奏が存在するのであれば「展覧会の絵」を大好きになれるかもしれないと考えたからです。
アルミン・ジョルダン(1932年-2006年9月20日)の息子であるフィリップ・ジョルダン(1974年-)は首席指揮者を務めるウィーン交響楽団とも素晴らしい録音を残していますが、こちらはパリ・オペラ座のオケによるものです。
「第1プロムナード」から胸のすく思いがするのは、録音の優秀さと、このトランペット・ソロによるものでしょう。オーケストラが次第に厚みを増していく過程が見事です。「グノム」も速めのテンポですっきりとしていますが、低弦には威力があり、この曲のいびつな感じがよく出ています。最後のたたみかける迫力もすごいです。「古城」はセンスがよく、曲の長さを感じさせず、いつまでも聴いてみたいという気にさせられます。「テュイルリーの庭」も素朴で心温まる風景を創出しています。「ビドロ」はやや遅めであえぎながら歩を進めていく様子が目に浮かぶようです。「卵の殻を~」はユーモラスですが。繊細な美しさを併せ持ち、すぐ終わってしまうのが惜しいくらいです。「サミュエル~」はトランペットの巧さもさることながら、バックの木管の表情が美しいです。こういうところの気配りが見事なのです。押しつけるように終わります。「リモージュの市場」も良いですね。市場の賑やかさが目に浮かぶようです。音量を上げてスムーズに「カタコンベ」に続けます。厚みのある金管のハーモニーが素晴らしいです。「死せる言葉に~」は労いと労りの音楽になっています。深い眠りに連れていかれそうです。少し間を取って、意外な、本当に意外なくらいものすごい迫力で「バーバ・ヤガー」が始まるのです。「キエフの大門」も同様で、打楽器の強打が効いています。どちらの曲も叙情的な部分の表現も傑出しています。繰り返しになりますが、このセンスの良さ、バランス感覚の良さと言ったら!
21世紀の【名盤】としてお薦めしたい演奏です。カップリングのプロコフィエフ「古典交響曲」も素晴らしい演奏です。


イメージ 2

「展覧会の絵」(ラヴェル編)
小林研一郎
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
2017年4月13日
ロンドン,アビー・ロード・スタジオ

小林 研一郎(1940年-)77歳時の、おそらく3度目であろう「展覧会の絵」です。前2つの録音よりソロが安定している「第1プロムナード」に私も安心し、悠々とした足取りに身を任せます。得意としている楽曲であるだけに、「グノム」の運び方など上手です。「古城」はファゴットが面白い節回しで歌いますが、アルト・サクソフォーンは普通でした。ひたひたと進行する「古城」でした。「テュイルリーの庭」も中庸のテンポで長閑です。「ビドロ」も重厚さ十分です。ここまで指揮者のうなり声や指揮台を踏み鳴らす音は全く聞こえません。「卵の殻を~」も良いテンポです。全く奇をてらったところがない演奏です。「サミュエル~」もオーソドックスな演奏です。「リモージュの市場」はこの年代としては遅く、リズムが重いのが気になります。「カタコンベ」「死者の言葉に~」は特筆することはありません。「バーバ・ヤガー」は一瞬「炎のコバケン」という愛称が思い浮かびましたが、終始落ち着いた演奏でした。「キエフの大門」も小林研一郎にしてはずいぶんおとなしい演奏という印象を受けました。



イメージ 1

ムソルグスキー:展覧会の絵
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ストラヴィンスキー:「ペトルーシュカ」からの3楽章
カティア・ブニアティシヴィリ
2015年8月23-26日
ベルリン,フンクハウス・ナレーパシュトラッセ,ザール1

【お薦め】
もうだいぶ前のことになります。その存在を絶対に知られてはならないという鉄の規律があるので、迂闊に書けないのですが、ぐるぐる団という秘密結社の非定期総会がありました。私は、リサ・バティアシュヴィリ (1979年-) 、アリーナ・イブラギモヴァ(1985年-)、カティア・ブニアティシュヴィリ(1987年-)は、旬の演奏家だから必ず聴くようにと、特にL氏の方を向いて熱弁を振るったのですが、名前が難し過ぎたのでしょう、彼の頭の中には目の前の「もつ煮込み」以外、何も残らなかったのではないかと思料します。
いや、そんなことはどうでもいいのです。書きたかったのは、ブニアティシヴィリの「展覧会の絵」の素晴らしさです。管弦楽編曲版の聴き比べシリーズを始めたとき、ピアノ版も是非!というご意見をいただきました。「展覧会の絵」づくしになるがイヤだったのですが、「最新盤 名曲名盤500」の上位4つだけ取上げてみようという気になりました。それは、ホロヴィッツ(1951年録音)、キーシン(2001年録音)、リヒテル(1958年ライヴ)、フェルツマン(2002年録音)なのですが、いくらCD棚を探してもホロヴィッツ盤が見つかりません。
それでこの企画はボツになったのですが、少し前に発売されたブニアティシヴィリ盤は素晴らしい演奏でした。キーシンと聴き比べても、ブニアティシヴィリ盤のほうが各曲の弾き分けが上手く、テクニックも申し分なく、そして、カッコイイのです。録音も優れています。
ところで、「展覧会の絵」をユジャ・ワンが録音してくれたら嬉しいのですが、Deutsche Grammophonさんはユジャ・ワンの新録音を出す気配が全くありません。ここまで気配と期待を断つことができるなんて、普通じゃないです!

バルトーク ピアノ協奏曲第2番 Sz.95 ユジャ・ワン&ラトル/ベルリン・フィル

$
0
0
今年の3月18日の記事を一部再利用して書きます。

それは2017年11月1日のことでした。

「11/24公演 ソリスト変更のお知らせ」
11月24日(金)公演に出演を予定しておりましたラン・ランは、かねてより治療を行っていた左腕の腱鞘炎の回復が思わしくなく、11月のアジア・ツアー(日本公演を含む)までに完治する見込みが立たないため、出演が不可能となりました。代わって、ユジャ・ワンが出演いたします。曲目の変更はございません。

このコンサートのチケットは取っていなかったのですが、ピアノがユジャ・ワンだと知っていたら、行きましたよ!(ラン・ランのファンの皆様、ごめんなさい。ラン・ラン、心配ですね。)

Deutsche Grammophon がユジャ・ワンの最後の録音(ラヴェルの2つの協奏曲)を発売ししたのが2015年10月09日、間が開きすぎています。

しかし、実は、2018年5月19日にユジャ・ワンの新しい録音が、SACD Hybrid盤で発売されていたのです。以下、販売元情報です。

ベルリン・フィル来日60周年!
2017年11月に行われたラトル指揮による
来日公演のライヴ録音がSACD Hybrid盤で登場!
ブルーレイにはアジア諸都市でのライヴ映像も!
ソリストにユジャ・ワン&チョ・ソンジン!

2017年11月に行われたラトルのベルリン・フィルとの最後のアジア・ツアーの音源がはやくもリリースされます。このツアーは、アジア諸都市(香港、広州、武漢、上海、ソウル)の後、川崎、東京を巡りました。今回リリースされるのは、そのなかから、ベルリン・フィルの「第二の故郷」、サントリーホールでの2つの演奏会を丸ごと収録しています。
2017年は、ベルリン・フィルがヘルベルト・フォン・カラヤンと初来日(1957年)してから60年の節目の年に当たり、この歴史が示す通り、日本はベルリン・フィルにとって最も重要な客演地のひとつと言えます。
R.シュトラウス『ドン・ファン』、ブラームス:交響曲第4番、ストラヴィンスキー『ペトルーシュカ』、ラフマニノフ:交響曲第3番、バルトーク:ピアノ協奏曲第2番など、アンコールを含む計3時間40分の内容が、SACD Hybrid盤でリリース。バルトーク:ピアノ協奏曲第2番のソリストには、今を時めく中国のスター、ユジャ・ワンが登場。ツアー中、香港、ソウル公演で演奏されたラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調は、直前にベルリンで収録された音源が採用されています。こちらのソリストは、2015年ショパン国際コンクールの覇者、チョ・ソンジン。そしてベルリンからレーベル所属の録音プロデューサー、エンジニアがツアーに随行して収録された本格的録音。
一方ブルーレイには、アジア・ツアーの他の客演地、香港、武漢、ソウルのライヴ映像を収録。さらにボーナス映像として、アジア・ツアーの舞台裏を活写したドキュメンタリー(約30分)を併録しています。

【収録情報】
Disc1-2
1. R.シュトラウス:交響詩『ドン・ファン』 (17:35)
2. バルトーク:ピアノ協奏曲第2番 (28:27)
3. ラフマニノフ:ヴォカリーズ(アンコール) (03:35)
4. ブラームス:交響曲第4番ホ短調 (41:43)
5. ドヴォルザーク:スラヴ舞曲ホ短調 op.72-2(アンコール) (05:21)
ユジャ・ワン(ピアノ:2,3)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
サー・サイモン・ラトル(指揮)
2017年11月24日
東京、サントリーホール

Disc3-4
6. ストラヴィンスキー:バレエ音楽『ペトルーシュカ』 (38:48)
7. チン・ウンスク:『コロス・コルドン』 (12:10)
8. ラフマニノフ:交響曲第3番イ短調 (41:13)
9. プッチーニ:歌劇『マノン・レスコー』第3幕より間奏曲(アンコール) (05:36)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
サー・サイモン・ラトル(指揮)
2017年11月25日
東京、サントリーホール

Disc5
10. ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調 (21:30)
11. ドビュッシー:映像 第1集より『水に映る影』(アンコール) (05:12)

チョ・ソンジン(ピアノ:10,11)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
サー・サイモン・ラトル(指揮)
2017年11月4日
ベルリン、フィルハーモニー

録音方式:ステレオ(デジタル/ライヴ)
SACD Hybrid

【Blu-rayビデオ・ディスク:香港、武漢、ソウルのライヴ映像】
1. ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調
2017年11月10日
香港文化センター(ライヴ)

2. R.シュトラウス:『ドン・ファン』
3. バルトーク:ピアノ協奏曲第2番
4. シューベルト=リスト 12の歌曲8番『糸を紡ぐグレートヒェン』
5. ブラームス:交響曲第4番ホ短調
2017年11月13日
武漢、チンタイ・コンサートホール(ライヴ)

6. ストラヴィンスキー:『ペトルーシュカ』
7. チン・ウンスク:『コロス・コルドン』
8. ラフマニノフ:交響曲第3番イ短調
2017年11月20日
ソウル、芸術の殿堂(ライヴ)

チョ・ソンジン(ピアノ:1)
ユジャ・ワン(ピアノ:3、4)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
サー・サイモン・ラトル(指揮)

特典映像:ドキュメンタリー『ツアー日記~アジア・ツアーにおけるベルリン・フィル』(日本語字幕付き)
画面:カラー、16:9、Full HD 1080/60i
音声:2.0 PCM Stereo、5.0 DTS-HD Master Audio
Region All

以上、引用終わりです。

もちろん、予約して購入しました。定価¥11,880ですが、SACDハイブリッド盤が5枚(ただし収録時間が極端に短いディスクがあります)にBlu-ray が付いているのですから、お買い得です。ベルリン・フィルのコンサートに行くことを考えれば、かなり安いと言えましょう。

「展覧会の絵」の記事が難航していたので、なかなか Blu-ray を観ることができなかったのですが、ようやくユジャ・ワンが出演している部分だけを観ることができました。

SACDは聴きましたが、なにしろ曲がバルトークのピアノ協奏曲第2番 Sz.95、BB101ですからね。ウィキペディアによると「ピアノの打楽器的使用、短い断片的な旋律、重厚なピアノの和音塊などが特徴である。また、ピアノの演奏が特に困難を極め、数あるピアノ協奏曲の中でも最高難度に位置する作品である。」だそうです。

某オンラインCDショップで検索したところ、たった11枚しかヒットしません。人気がない曲なのです。自宅のCD棚からレイフ・オヴェ・アンスネス(ブーレーズ指揮ベルリン・フィル)、ゾルターン・コチシュ(フィッシャー指揮ブダペスト祝祭管)、マウリツィオ・ポリーニ(アバド指揮シカゴ響)を取り出して聴いてみましたが、この中ではポリーニ盤が一番良かったです。

それでユジャ・ワンの演奏なのですが、この難曲を鮮やかな技巧で弾き伏せていて、素晴らしいです。ただ、SACDで聴くよりも、Blu-ray のほうが断然わかりやすいですね。映像があると、説得力が全然違います。

それにしても、このセット、SACDは一部を除いてサントリー・ホールでの収録、Blu-ray は日本以外というのはどういう理由(思惑)によるのでしょう。観客席が気になってしまうのですが、演奏が終わっても拍手しないでスマホをいじっているお姉さんとかいて、すごく気になります。そんな場面、映さなくてもいいのにね。

ボックスの外箱
イメージ 1

ボックスの中
イメージ 2

サントリー・ホール
イメージ 3

ユジャ・ワンとサイモン・ラトル
イメージ 4

マーラー 交響曲第2番「復活」の名盤 Ab ~ Bu

$
0
0
【前口上】
モーツァルトの「レクイエム」から紹介音源が飛躍的に増えた拙ブログですが、運営上の問題が生じております。録音が古いものから順番に紹介していますが、実はこれがすごく大変なのです。

シリーズ物の記事を書くための最初の作業として、全ての音源の録音データを調べなければならないのです。こういう時、一番ありがたい、良心的なサイトは、HMV & BOOKS online さんです。きちんと録音データが書かれていることが多く、すごく助かっています。とはいえ、調べるのはやっぱり大変で、「レコード芸術 クラシック・データ資料館」のメンバー登録を更新しておくべきでした。

そこで、今回は初の試みとして、演奏者名をアルファベット順に並べて紹介していこうと思います。最初に登場する演奏者の録音データさえ調べれば記事が書けるのです。

モーツァルトの「レクイエム」やフランクの「ヴァイオリン・ソナタ」のような曲では、演奏様式という点で古い年代から開始することに意義があるのですが、今回取上げる曲は、皆無ではないものの、年代が大きな影響を及ぼすものではないだろと思料しましたし、同じ演奏家の録音が並ぶことによって(個人的な意見として)どの録音がベストかということが書けるのも大きなメリットでしょう。

なお、リクエストも頂戴していて、その曲の予習もしていたのですが、いろいろありまして(書けない曲もあるのです)選曲が二転三転し、今回取上げる曲は「交響曲」になりました。「交響曲」は書庫のトップにあるのに、なんと2013年5月18日のモーツァルト「ジュピター」を最後に投稿が途絶えています。自分で驚いているくらいですから、初めていらっしゃった方は放置ブログだと思うでしょう。

とにかくマーラーの曲を書こうとずっと以前から考えていたのです。今しかない、今ならまだ書ける、今のうちに書いてしまおう、書きいておきたい!

【曲目】
グスタフ・マーラー:交響曲第2番 ハ短調「復活」

以下、Wikipediaより抜粋しました。いつも大変お世話になっております。

【作曲年代】
1888年から1894年にかけて作曲

【楽曲構成】
第1楽章
 アレグロ・マエストーソ まじめで荘厳な表現で一貫して
 ハ短調 4/4拍子 ソナタ形式
 演奏時間は19~25分程度
第2楽章
 アンダンテ・モデラート きわめてくつろいで、急がずに 
 変イ長調 3/8拍子 ABABAの形式
 演奏時間は9~12分程度
第3楽章
 スケルツォ 静かに流れるような動きで
 ハ短調 3/8拍子 三部形式
 演奏時間は9~12分程度
第4楽章
 「原光(Urlicht)」 きわめて荘重に、しかし素朴に
 変ニ長調 4/4拍子 三部形式
 演奏時間は4~6分程度
第5楽章
 スケルツォのテンポで、荒野を進むように
 ヘ短調 - 変ホ長調 4/4拍子 拡大されたソナタ形式
 演奏時間は33~38分程度

【演奏時間】
約80分

【楽器編成】
フルート 4(ピッコロ持ち替え 4)
オーボエ 4(コーラングレ持ち替え 2)
小クラリネット 2
クラリネット 3(バスクラリネット持ち替え 1)
ファゴット 4(コントラファゴット持ち替え 2)
ホルン 10(そのうち舞台外に4)
トランペット 6 + 舞台外に4
トロンボーン 4
チューバ1
ティンパニ 2人(8台) + 舞台外に1台(計3人)
シンバル 2 + 舞台外に1
タムタム 2
大太鼓 +舞台外に1
小太鼓 1以上の複数
グロッケンシュピール
鐘(音程の定まらないもの3種)
ルーテ(むち)
ハープ 2台
オルガン
弦五部(16型)
ソプラノ独唱
アルト独唱
混声合唱

【マーラーによる解題】
第1楽章
 私の第1交響曲での英雄を墓に横たえ、その生涯を曇りのない鏡で、いわば高められた位置から映すのである。同時に、この楽章は、大きな問題を表明している。
 すなわち、いかなる目的のために汝は生まれてきたかということである。……この解答を私は終楽章で与える。
第2楽章
 過去の回想……英雄の過ぎ去った生涯からの純粋で汚れのない太陽の光線。
第3楽章
 前の楽章の物足りないような夢から覚め、再び生活の喧噪のなかに戻ると、人生の絶え間ない流れが恐ろしさをもって君たちに迫ってくることがよくある。それは、ちょうど君たちが外部の暗いところから音楽が聴き取れなくなるような距離で眺めたときの、明るく照らされた舞踏場の踊り手たちが揺れ動くのにも似ている。
 人生は無感覚で君たちの前に現れ、君たちが嫌悪の叫び声を上げて起きあがることのよくある悪夢にも似ている……。
第4楽章
 単純な信仰の壮快な次のような歌が聞こえてくる。私は神のようになり、神の元へと戻ってゆくであろう。
第5楽章
 荒野に次のような声が響いてくる。あらゆる人生の終末はきた。……最後の審判の日が近づいている。大地は震え、墓は開き、死者が立ち上がり、行進は永久に進んでゆく。この地上の権力者もつまらぬ者も-王も乞食も-進んでゆく。
 偉大なる声が響いてくる。啓示のトランペットが叫ぶ。そして恐ろしい静寂のまっただ中で、地上の生活の最後のおののく姿を示すかのように、夜鶯を遠くの方で聴く。柔らかに、聖者たちと天上の者たちの合唱が次のように歌う。「復活せよ。復活せよ。汝許されるであろう。」
 そして、神の栄光が現れる。不思議な柔和な光がわれわれの心の奥底に透徹してくる。……すべてが黙し、幸福である。そして、見よ。そこにはなんの裁判もなく、罪ある人も正しい人も、権力も卑屈もなく、罰も報いもない。……愛の万能の感情がわれわれを至福なものへと浄化する。

(以上、Wikipediaよりコピペいたしました。)

【第4楽章・第5楽章の歌詞】
第4楽章 原光
第5楽章 復活
(対訳:広瀬大介)

【各演奏に対する私の感想】

イメージ 9

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
キャロル・ネブレット(ソプラノ)
マリリン・ホーン(コントラルト)
シカゴ・シンフォニー・コーラス
シカゴ交響楽団
クラウディオ・アバド(指揮)
1976年2月
シカゴ,メディナ・テンプル

早速生じた、指揮者名アルファベット順の問題点。マーラー指揮者として評価の高いバーンスタインやアバド、ブーレーズが初回に登場してしまうのです。自分の中の基準づくりという点では、それもよいかもしれないし、もう後戻りはできません。
アバドの「復活」は複数の録音があります。ウィーン・フィルとの1965年ライヴがMemoriesから発売されていますが、シカゴ響との1976年から始めます。アバドの録音の中でも最もパワフルなオーケストラですが、あまりそういうことを感じさせない演奏です。良く言えば全体に品が良く、そうでなければ無難なのですね。ここ一番というときの迫力がなく、物足りなさも感じますが、第2楽章の端正な美しさ、第3楽章のティンパニの快音と、シカゴ響の抜群に巧い管と弦、第5楽章冒頭その他では、さすがシカゴ響といえる迫力を聴かせてくれます。


イメージ 8

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
シェリル・ステューダー(ソプラノ)
ヴァルトラウト・マイアー(アルト)
アルノルト・シェーンベルク合唱団
エルヴィン・オルトナー(合唱指揮)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
クラウディオ・アバド(指揮)
1992年11月(ライヴ)
ウィーン,ムジークフェラインザール

この頃アバドは既にベルリン・フィルの芸術監督に就任していたのですが、(あえて?)ウィーン・フィルを起用してのライヴ録音です。
これは良い演奏だと思ったのです。シカゴ響盤と比べてというより、今回こちらを先に聴いて、端正な音楽づくりに好感を持てましたし、アバドの指揮もこちらの方がより積極的ですし、オケをよく歌わせているのが何より素晴らしいと思います。もちろんウィーン・フィルの鮮やかな音色(ふるいつきたくなるような弦楽器)も貢献しています。録音による効果なのか、打楽器軍もこちらのほうが凄まじい迫力がありますよ。第2楽章もより繊細で豊かなこちらが上、第3楽章はお客さんの咳が止まないうちに始まるのが惜しいけれど、アバドはこういう曲が上手ですね。これもシカゴ響よりこちらが上です。第4楽章はマイアーで、さすが立派な歌唱と発音です。油断していると第5楽章の冒頭でびっくりします。ライヴのせいか、力がこもっていますね。この楽章ではウィーン・フィルの柔らかい音色の金管楽器も魅力的です。聴き所の Molto ritenuto. Maestoso 以降も出だしは強力ですが、追い込まないテンポのせいか、やや地縁しているようにも感じられます。ここぐいぐい押してとおころ。
高名なアルノルト・シェーンベルク合唱団が素晴らしい歌声を響かせます。マイアーとステューダーの二重唱も上々。ただ、クライマックスに向かって、壮大さが不足しているようにも思われました。


イメージ 7

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
エテリ・グヴァザヴァ(ソプラノ)
アンナ・ラーション(メゾ・ソプラノ)
オルフェオン・ドノスティアラ合唱団
ルツェルン祝祭管弦楽団
クラウディオ・アバド(指揮)
2003年8月19日、20日(ライヴ)
ルツェルン音楽祭コンツェルトザール

【お薦め】
第1楽章冒頭はルツェルン祝祭管の力強い弦に引き込まれます。掴みはOK。2000年に病に倒れたアバドですが、全然衰えておらず、ぐいぐいと進行していきます。ルツェルン祝祭管がアバドに全幅の信頼を寄せており、力演を繰り広げます。過去の2つの録音と異なり、攻めの音楽づくりを感じます。第2楽章も意外に速めのテンポで、過去の抒情性より歌謡性に解釈の重点を移したのでしょうか。第3楽章は録音の効果と申しましょうか、各楽器が明瞭で楽しいです。ルツェルン祝祭管って本当に良いオーケストラです。
ウィキペディアによれば、
2003年にクラウディオ・アバドがオーケストラの芸術監督に就任したのを期に、マーラー室内管弦楽団の団員を中核として、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーや、ザビーネ・マイヤー、コーリャ・ブラッハー、マリオ・ブルネロ、ナターリヤ・グートマン、ハーゲン弦楽四重奏団やアルバン・ベルク弦楽四重奏団のメンバーなどが参加して新たに結成され、2006年10月には来日公演も行われた。日本人ハープ奏者の吉野直子も時々参加している。
だそうです。これは映像を観なければいけませんね。
第4楽章もアンナ・ラーションが格調の高い歌唱を聴かせてくれます。第5楽章も常に弦が積極性を示し、トロンボーンやホルンのアンサンブルが秀逸、木管は美しく、打楽器の打ち込みは常に効果的です。
思い出したのですが、テレビでこの演奏を観たことがあり、ソプラノが「信じよ おまえはむなしく生まれたではない! 空しく生き 苦しんだのではない!」というところで、ポロリと涙がこぼれたのでした。
オルフェオン・ドノスティアラ合唱団も立派です。
オルガンを強調しないところも、効果をねらわないアバドらしいですが、でも、とても感動的な演奏でした。
なお、ルツェルン祝祭管とのライヴ映像もあり、このCDの翌日、2003年8月21日の収録となっています。これは購入しなくては!ですね。


イメージ 6

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ビヴァリー・シルズ(ソプラノ)
フローレンス・コプレフ(コントラルト)
ユタ大学シビック・コラール
ユタ交響楽団
モーリス・アブラヴァネル(指揮)
1967年

アブラヴァネルは、1963年から1974年にかけてマーラーの交響曲全曲録音(ヴァンガード)を行っています。第1楽章のコントラバスはずいぶん明るく、鼻歌のようで、ちょっと違うと思ってしまいます。その後もあまり深刻ぶらず、悲劇的ではないマーラーです。腰が軽いのですね。
そのような演奏ですから、第2楽章が良いのは当然で、豊かな歌が聞こえ、第3楽章も楽しく聴けました。第4楽章もコプレスの独唱が良く、第5楽章のユタ大学の合唱はずいぶん明るい声で地声に近い感じですがまぁOKでしょう。ラストはもう少し盛り上げてほしかったですね。曲の長さが目立ってしまった演奏でした。


イメージ 5

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
アニー・フェルバーマイヤー(ソプラノ)
ソーニャ・ドレクスラー(アルト)
オーストリア放送合唱団
ウィーン交響楽団
F. チャールズ・アドラー(指揮)
1956年3月29日

チャールズ・アドラー(1889-1959)は、ロンドン生まれで後に米国に移住した人ですが、ドイツ、オーストリアで多く活動した指揮者だそうです。「マーラーの弟子の一人」で、1910年の交響曲第8番の初演では合唱指揮者を受け持ちました。
この録音はオーストリア放送協会による聴衆のいない会場での録音です。
残念ながらステレオ収録ではありませんが、モノラル末期ですので鑑賞の妨げにはならない良好な録音です。この頃のウィーン交響楽団はけして優秀なアンサンブルとはいえない箇所がところどころにありますが、なんとも味わい深い演奏をしていますよ。
アドラー指揮の演奏の特長がよく出ているのは、第2楽章でなんとも懐かしい歌を聴かせてくれます。マーラー存命中の時代にはこのように演奏されていたのでしょうか。
第3楽章も良い出来で、この曲の諧謔性がよく出ています。第4楽章でソーニャ・ドレクスラーというアルトを初めて聴いたのですが、真摯な歌唱と思いました。第5楽章冒頭も録音の限界がありますが、なかなかの迫力です。オーストリア放送合唱団は民衆の合唱という感じですが、バスにすごい声の持ち主がいます。この合唱のバスパートはものすごく低い音があるのですが、ちゃんと歌っています。合唱が大きめの録音に好感触。


イメージ 4

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
シドニー交響楽団&合唱団
ウラディーミル・アシュケナージ(指揮)
2011年11月(?)
シドニー・オペラハウス,コンサートホール

【お薦め】
指揮者アシュケナージは、マーラーを好んで指揮しているようで、第3番にはベルリン・ドイツ響を指揮した1995年のライヴがあり、2010年から11年にかけてシドニー交響楽団と行った交響曲全曲コンサートの際に録音した全集があるのかもしれません。「かもしれません」と書いたのは、いくら調べてもわからないからで、この「復活」も録音データが不明です。Spotify には音源があってライナー画像も検索すれば入手できるので、発売されたことはあるのでしょう。あるけれど、あまりに売れなくてすぐ廃盤になってしまったのでしょうか。
前置きが長くなりましたが、これは名演だと思います。私が「復活」を指揮する機会があったら、このような演奏を導き出したいものだと思わせる演奏です。シドニー交響楽団、なかなかやるじゃん!という感じで、この当時、首席指揮者・芸術顧問だったアシュケナージに献身的な演奏をしています(でも、終楽章は少し冗長に感じてしまいましたが)。
録音も優秀です。こんなところでこんな楽器が鳴っていたのかと手に取るように判る録音。この演奏をCDで入手できないのがとても残念です。


イメージ 3

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
マリア・シュターダー(ソプラノ)
ジャネット・ベイカー(メゾ・ソプラノ)
聖ヘドヴィヒ教会合唱団
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
サー・ジョン・バルビローリ(指揮)
1965年6月(ライヴ)

1964年、バルビローリがベルリン・フィルの定期でマーラーの第9番を指揮したとき、その演奏のあまりの素晴らしさにベルリン・フィルが希望して急遽EMIに録音することになったというのは知られた話ですが、そのような経緯からすれば、その翌年のこの「復活」もさぞかし素晴らしい演奏なのではないかと期待に胸が膨らみます。
最初に断っておきますが、録音は残念なことにモノラルでで、レンジの狭さを感じますが、聴き易い音質ではあります。
第1楽章冒頭は出が揃いませんが、たいした問題ではありません。バルビローリは結構自在にテンポを操っていて、時に荒々しく時に優しく、変化の都度、名技集団のベルリン・フィルが懸命に棒に食らいつこうとしています。ただ、十分なリハーサル時間を確保できなかったのか、さしものベルリン・フィルでもミスがあります。いや、それもたいした問題ではないのです。
第2楽章はバルビローリらしく、良く歌う演奏。ふっと音を沈めたりするところなど表情豊か。この楽章は全曲の中では物足りなさを感じることもあるのですが、まさしくマーラーが書いた音楽なのだと実感させられます。弦のポルタメントもさりげなく、バーンスタインのようにこれ見よがしになっていないところがよいです。
第3楽章も前楽章同様です。木管楽器のふとした歌にはっとさせられり、音楽の浮沈に不思議な気持ちがします。こんな表現は誰にも出来なかったでしょう。
第4楽章はバルビローリの振幅の大きな指揮に合わせてジャネット・ベイカーが見事な歌唱を聴かせてくれます。
第5楽章はそれぞれの場面に合わせてバルビローリとベルリン・フィルが当意即妙の演奏をしています。音楽が切迫するところでは、バルビローリのうなり声さえ聴こえます。ただ、何でしょう、あまり感動的ではないのです。ベルリン・フィルの金管にミスが多いように、オケに疲れが出ているのかでしょうか。再現部に入り、いいところで子供の叫び声(?)が聞こえるのは残念。重厚な合唱を聴かせる聖ヘドヴィヒ教会合唱団の歌声が見事。この楽章は26分25秒のところで終わってもよかったのでは?と思わされます。その後は再びバルビローリのうなり声が目立つようになり、歌手を煽っているようです。ラストに向かう、たたみかかけるようなテンポも興奮を誘います。打ち鳴らされる鐘は音程が定まらないものと指定されていますが、これは定まらな過ぎて全然オケに合ってっていないような。
だらだと書いてしまいましたが、結論として、HMVレビューで絶賛されているような演奏には思えなかったのです。そういう意味では期待外れに終わったのですが、貴重な記録であることには変わりなく、ご紹介しておきたいと思います。
それにしても、やはりこれはステレオ録音で聴きたかったなぁ。これを録音したエンジニアも、まさか50数年後まで聴き継がれるとは思ってもみなかったでしょうね。


イメージ 10

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
リー・ヴェノーラ(ソプラノ)
ジェニー・トゥーレル(メゾ・ソプラノ)
カレジエート合唱団
ニューヨーク・フィルハーモニック
レナード・バーンスタイン(指揮)
1963年

【お薦め】
バーンスタインが初めて「復活」を指揮したのは1948年で、これはその15年後の演奏であり、史上初のマーラー交響曲全集の中の「復活」です。ざっと計算してみたところ、トータル演奏時間は約85分でしょうか。24年後の演奏よりメリハリが効いていて、キリッと引き締まっており、初めて「復活」を、是非バーンスタインの指揮で、という方にはこちらをお薦めします。なお、私が初めて「復活」を聴いたのはメータ/ウィーン・フィル盤で、それはまた後日書きます。
1958年に、アメリカ生まれの指揮者として史上初めてニューヨーク・フィルの音楽監督に就任すし、同フィルの黄金時代をもたらした」という、スター指揮者バーンスタインが、自分の枠の中にマーラーをねじ込み、力で(その才能で)マーラーを自在に料理しており、マーラーを指揮するのが楽しくてしかたがない、という印象を受けます。このとき既に45歳なのですが、音楽が若々しく颯爽としていますね。
第2楽章はロマンティックな解釈で、今の演奏と比べると、やや古さを感じるかもしれません。第3楽章は新盤よりやや速めで、スマートなこちらの演奏を私は好みます。
ジェニー・トゥーレルというメゾはバーンスタインのお気に入りであったようですが、この時代、ドイツ語の歌唱とはこんなものだったのでしょう。
第5楽章は再びバーンスタイン全開という感じです。特に9分26秒からは胸のすく快演でしょう。かのブルーノ・ワルターが同じニューヨーク・フィルを指揮して「復活」を録音したのが1958年、あの演奏と比べてみたくなりましたが、指揮者名ABC順なのでワルターは一番最後の方ですね。ウェストミンスター合唱団は水準が高いです。特にバスはあの低い音をよく出していますね。ラストは後年と同じくオルガンのペダル音がよく響き、満足しました。ニューヨーク・フィルも輝かしいです。
なお、バーンスタインにはロンドン交響楽団との2度目の「復活」(1973~74年録音。映像収録もあり)もあるのですが、残念ながらそちらは未聴です。


イメージ 11

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
バーバラ・ヘンドリックス(ソプラノ)
クリスタ・ルートヴィヒ(メゾ・ソプラノ)
ウェストミンスター合唱団 
ニューヨーク・フィルハーモニック
レナード・バーンスタイン(指揮)
1987年4月
ニューヨーク,エイヴリー・フィッシャー・ホール

【お薦め】
これは繰り返しよく聴いた演奏です。多いときには一日に数回聴きました。私的にはこれさえあれば他は要らないというくらいの録音なのですが、今回久しぶり(10年ぶりくらい?)に聴いて驚きました。こんなにゆったりしたテンポの演奏であったのかと。遅いところなど止まりそうです。しかし、他の演奏よりも速いところもあり、メリハリがついているとも言え、時にすごい迫力を生み出しています。第2楽章など幻想的といっても過言ではありません。第3楽章はこの演奏が大好きでした。何気にグランカッサの重低音が効いていますし、他の打楽器のタイミングもバッチリです。第4楽章は名歌手のルートヴィヒを起用していますが、このテンポだと歌うのがつらいのではないだろうかと心配になります。息が続かない?
圧巻は第5楽章で冒頭の凄まじさ、は比類がありませんが、「ディエス・イレ」を素材とした、あのテーマが奏でられるときなど、とても感動的です。真骨頂は「展開部は、第1主題の叫びで開始される。コラール主題が加わってきて行進曲調となり、勇壮華麗に展開される。頂点で急激に静まると、不安げな動機が金管に出て、トランペットのファンファーレ的な音型を繰り返しながら今度はストレッタ的に急迫していく。第1主題がすべてを圧するかのように出ると、再現部に入ったことになる」の部分でしょうか。こういうところがバーンスタインは実に上手です。
合唱がクロプシュトックの「復活」を歌い始めるところもゾクゾクします。ヘンドリックスのソプラは癖のある歌声ですが気にするほどのことはなく、やはりルートヴィヒがとても立派です。
そして最高潮に達したときにオルガンの重低音がたっぷりとした音量で加わります。大満足です。
録音も優秀で「復活」のオーケストレーションを余すところなく捕えています。


イメージ 2

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ルート・ツィーザク(ソプラノ)
シャルロット・ヘレカント(メゾ・ソプラノ)
サンフランシスコ交響合唱団 
サンフランシスコ交響楽団
ヘルベルト・ブロムシュテット(指揮)
1992年9月21-23日
サンフランシスコ,デイヴィス・シンフォニーホール

ブロムシュテット唯一のマーラーのセッションだそうです。いかにもDECCAの録音という印象で、思わず「High Fidelity(高忠実度、高再現性)」という今ではあまり使われなくなった言葉を思い出します。コントラバスのゴリゴリという音色が魅力的。第1楽章第2主題がこんなに切なく歌われるのも珍しいですが、全体に生き生きとした感じ、颯爽とした感じでカラフル、明るめですが、重低音はきちんと再生されます。なお、この楽章はマーラーにより「少なくとも5分以上の休みを置くこと」という指示があるのですが、本当に「間」があります。これを購入された方は不良品かと思わないでください。
第2楽章はブラームスを聴いているようです。なんというか、気品があるというか、格調が高い感じですね。第3楽章はやや速め、録音が全ての楽器をあますところなく伝えてくれるのが心地よいです。メルヘンチックな演奏。哀愁に満ちた第4楽章を経て、第5楽章は合唱が入るあたりからが真骨頂で、声楽陣は独唱も合唱も良い出来です。



イメージ 1

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
クリスティーネ・シェーファー(ソプラノ)
ミシェル・デ・ヤング(メゾ・ソプラノ)
ウィーン楽友協会合唱団
ヨハネス・プリンツ(合唱指揮)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ピエール・ブーレーズ(指揮)
2005年5,6月
ウィーン,ムジークフェラインザール

ブーレーズは1994年から2010年にかけて、シカゴ響、ウィーン・フィル、クリーヴランド管、シュターツカペレ・ベルリンを指揮し、マーラーの交響曲と管弦楽伴奏付きの歌曲全集を Deutsche Grammophon 録音しています。この中には交響曲第6番のように私の愛聴盤も含まれており、水準の高いものとなっています。では第2番「復活」はどうでしょうか。
第1楽章は楽譜に書かれていることが全てという、ザッハリヒ(←最近は使われない言葉)な演奏という予感がしますが、予想したとおり、ブーレーズにありがちな、分析的・解析的な指揮です。しかし、ウィーン・フィルの鮮やかな音色が救いとも言えます。
第2楽章は端正な演奏で、例えばバーンスタインのロマンティックな解釈とはずいぶん異なります。最後までそれが続きます。
第3楽章は水が高いところから低いところへ流れてくように、すいすいと進行します。
(と、ここまで書いて違う演奏を聴いていたことに気づき、慌てて聴き直し、書き直しました。曲が長いともう一度聴くのが大変!)
第4楽章はミシェル・デ・ヤングの歌唱がよく、ブーレーズも歌の伴奏に徹していました。
第5楽章も展開部などオーケストラのコントロールは楽器のバランスなど最上に保たれ、それはそれで見事ではあるものの、指揮者は熱くならず、どこか冷静です。録音が貢献しているのか、意外なほど楽友協会合唱団がも美しいです。シェーファーとヤングの声質に近いものがあり、重唱もきれいに響いています。

【次週に続きます。カエターニ(指揮)からです。】

マーラー 交響曲第2番「復活」の名盤 (Be)Ca ~Gi

$
0
0
イメージ 1

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
シーラ・アームストロング((ソプラノ)
ジャネット・ベイカー(メゾ・ソプラノ)
エディンバラ音楽祭合唱団
アーサー・オールダム(合唱指揮)
ロンドン交響楽団
レナード・バーンスタイン(指揮)
1973年8月31日、9月1日&2日
エリー大聖堂
1974年3月8日
エディンバラ、ジョージ・ワトソン・カレッジ

【お薦め】
G氏に「在庫わずかですぜ!」と指摘され、慌てて購入したのですが、これってDVDでも出ているのですよね。3枚目の画像は7月4日発売予定の2枚組DVDですが、ウィーン・フィルとの第1番と第3番も収録されていますので、3倍お得なそちらを購入するという方法もあるでしょう。私の場合、観ながらだと記事が書けないので音声だけのほうがありがたいのですが。
イメージ 2

イメージ 3


さて、この演奏は、ニューヨーク・フィルとの1963年と1987年の中間にあたるもので、この頃のバーンスタインのマーラー観が聴けるという意味でも誠に興味深い録音です。
さて、しばらく第1楽章を聴き続けて思ったのですが、この頃のロンドン響は(録音のせいか)弦が非力な印象がありますね。金管や打楽器が入るときはよいのですが、弦だけだと響きが薄いのが気になります。第2主題のすすり泣くような表現など、まさにバーンスタインの「復活」、このアクの強さは疑いなく他の演奏と一線を画くしていると言えましょう。
遅いところは遅く、速いところはより速くで非常に分かり易い演奏です。それは欠点ではなく、マーラーの音楽の本来の姿なのでしょう。
第2楽章も濃厚です。第3楽章は諧謔という意味でより的確な演奏です。第4楽章は名歌手ベイカーが聴き物で、オケも実に精妙な伴奏を付けています。
第5楽章は爆発的な冒頭で渇きを癒やされます。そうこなくちゃ!という感じ。後半で合唱が遠い録音が残念ですが、それほど上手い合唱団でもないので、これでいいのかな。
なお、この感想は一定期間後、第1回の記事に移動します。指揮者の頭文字がBeなので。


イメージ 4

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ヘレン・バーナード(ソプラノ)
モニカ・シュトラウベ(アルト)
ケムニッツ州立歌劇場合唱団
ケムニッツ州立歌劇場児童合唱団
ケムニッツ・ジングアカデミー
ロベルト・シューマン・フィルハーモニー管弦楽団
オレグ・カエターニ(指揮)
1999年11月10,11日(ライヴ)
ケムニッツ市公会堂大ホール

スイスのオペラ指揮者であるオレグ・カエターニ(1956年 ローザンヌ – )の「復活」です。
第1楽章冒頭のコントラバスの表情の付け方が面白いです。音楽の起伏・緩急をはっきりつけた演奏で、きちんと音によるドラマを仕立てており、好印象です。ちょっとした手作業のBGM代りに聴いていたのですが、第2・3楽章も気持ちのよい演奏で作業が捗りました。第5楽章も打楽器を派手に打ち鳴らし、メリハリのある音楽づくりで聴き甲斐があります。録音も弦楽器にマイクが近いのか、第1楽章冒頭から鮮明です。これで、名のある指揮者でオーケストラであったら迷わず【お薦め】を付けるところですが、少々迷います。うなり声さえ聞こえるカエターニとオケと合唱団の力演・熱演を買いたいところですが……。


イメージ 5

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
オレナ・トカール(ソプラノ)
ヘルミーネ・ハーゼルベック(メゾ・ソプラノ)
ブルノ・フィルハーモニー合唱団
フランス国立リール管弦楽団
ジャン=クロード・カサドシュ(指揮)
2015年11月20,21日(ライヴ)

【お薦め】
フランスの指揮者、ジャン=クロード・カサドシュ(1935年ー)の「復活」です。
冒頭から生々しい弦が聴けますし、どこでどのような楽器が鳴っているのか手に取るようにわかります。グランカッサの重低音も量感があります。録音が良いというのはお得です。
カザドシュは唸りながら指揮をし、すごく気合いが入っていて、演奏にもそれが反映され、こちらにも熱気が伝わってきます。
第2楽章もよく歌う演奏で、憧憬と悲劇の交錯した音楽となっています。
第3楽章良いテンポです。流線型の音楽はフランスの演奏者のなせる技でしょうか。少したどたどしいところやライヴゆえのミスもありますが、それも味というものでしょう。
第4楽章、金管のハーモニーがきれいじゃないです。第5楽章も金管が巧くない(はっきり言って下手!)です。どうして気がつかなかったのでしょう。実は粗っぽい演奏でした。次回はもっと上手なオーケストラによる再録音を望みたいです。


イメージ 6

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
メラニー・ディーナー(ソプラノ)
ペトラ・ラング(メゾ・ソプラノ)
プラハ・フィルハーモニー合唱団
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
リッカルド・シャイー(指揮)
2001年11月

【お薦め】
ポスト・カラヤン(1908年-1989年)と言われた5人の指揮者、年齢順にマゼール(1930年-2014年)アバド(1933年-2014年)、小澤征爾(1935年- )、メータ(1936年- )、ムーティ(1941年-)より、一回りも後の世代になるけれど、私はシャイー(1953年-)の好きでした。シャイーの録音にはまずハズレがないし、名盤と言われるものも多いです。カラヤンもシャイーの演奏会に行くのを楽しみにしていたそうですからね。シャイーも今やルツェルン祝祭管弦楽団音楽監督、ミラノ・スカラ座音楽総監督の地位にあり、益々の活躍が期待されるところですが、この「復活」は、1988年から2004年まで常任指揮者であったコンセルトヘボウ管との録音です。
Deccaらしい明晰な録音で第1楽章開始の掴みはOKです。管・弦を良くならし、ぐいぎ推進していきますので、こちらもどんどん引き込まれます。第2主題の吸引力も素晴らしく、その後の発展ももたれることがありません。展開部はまずさらに美しく第2首題が奏でられますが、さすがコンセルトヘボウ管といったところです。第1主題展開の力感も素晴らしいものがあります。ここまで目立つ小細工がなく、それでこれだけ聴かせるのですからたいしたものです。
第2楽章はシャイーらしい豊かな歌を満喫できます。ABABAのそれぞれにふさわしいチャーミングな表現です。
第3楽章冒頭のティンパニの響き、そのグランカッサの重さも聴いています。そして速すぎず遅すぎずの理想的なテンポ。
第4楽章はチョン・ミョンフン盤と共通のペトラ・ラングの独唱で、もう少し子音をはっきり立てたほうが言葉が美しいと思うけれど、声と表現は十分だと思います。
第5楽章は自然です。冒頭を暴力的な開始にせず、節度を保っています。この楽章は特に展開部からが優れていますね。打楽器の連打も凄まじく、圧倒的なクライマックスを築きます。
フルートとピッコロによる夜鶯の後の合唱も重厚で良い感じ、二重奏も声質が合っていてそちらも良いです。ラストも特にオルガンを強調することをせず、圧倒的なオーケストラの力により壮大に幕を閉じます。
なお、このCDのカップリング曲として、マーラーの交響詩「葬礼」が収録されています。この曲は「復活」の第1楽章を単一楽章として発表しようとしたものです。聴いてみたいですよね。第1楽章とほぼ同じタイムで、約90%同じと考えてもよいでしょう。

なおシャイーには、以下の映像作品があります。

イメージ 7

クリスティアーネ・エルツェ(ソプラノ)
サラ・コノリー(メゾ・ソプラノ)
MDR放送合唱団
ベルリン放送合唱団
ゲヴァントハウス合唱団
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
リッカルド・シャイー(指揮)
2011年5月17,18日
ライプツィヒ、ゲヴァントハウス(ライヴ)

映像作品であり、購入予定です。今回は参考としてご紹介しておきます。


イメージ 8

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
イ・ミョンジュ(ソプラノ)
ペトラ・ラング(アルト)
ソウル・メトロポリタン合唱団
韓国国立合唱団
ソウル・モテット合唱団
グランド・オペラ合唱団
ソウル・フィルハーモニー管弦楽団
チョン・ミョンフン(指揮)
2010年8月25-26日(ライヴ)
ソウル・アーツ・センター

【お薦め】
「シェエラザード」「オルガン付き」「トゥーランガリア」「展覧会の絵」等のスペクタクル名曲で強みを発揮する(←偏見?)チョン・ミョンフンによる「復活」、演奏者はペトラ・ラング(ドイツ生まれ。今はドラマティック・ソプラノ)を除いてソウル勢で占められています。
ところで、チョン・ミョンフンは、2005年から2015年までソウル市立交響楽団の音楽監督であったわけですが、ソウル・フィルとは同じオーケストラなのでしょうか?(←同じです。英語名がSeoul Philharmonic Orchestraなのです。自己解決)
それはともかくとして、まず第1楽章ですが、これだけ主題を豊かに歌う演奏が他にあっただろうかというほどの入念な指揮です。パリ・オペラ座のオケやフランス放送フィルではなく、このオーケストラだからこそ可能であったのでしょう。
第2楽章も同様です。もう少し自然な感じが私の好みですが、これだけ細やかな表情を付けられると、それはそれですごいとしか言いようがありません。
第3楽章はそれらとの対比を図るべくか、スッキリ&速めという路線で、やや物足りなさも感じます。第4楽章はペトラ・ラングのソロが良いですね。この楽章だけ世界観が違うようにも感じられました。
第5楽章はチョン・ミョンフンの面目躍如といったところでしょう。総じて指揮者も演奏者も熱演だと思いますし、特に第1楽章と第2楽章の濃厚な表現は圧巻で、全体として私には十分感動的な演奏でした。でも最後の鐘はヘンテコな音(カウベルみたい)で惜しいところです。


イメージ 9

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
シモーナ・サトゥロヴァ(ソプラノ)
イヴォンヌ・ナエフ(メゾ・ソプラノ)
フィラデルフィア・シンガーズ・コラール
デイヴィッド・ヘイズ(合唱指揮)
フィラデルフィア管弦楽団
クリストフ・エッシェンバッハ(指揮)
2007年5月(ライヴ)
フィラデルフィア,ヴェリゾン・ホール

エッシェンバッハが2003年から2008年にかけて音楽監督の任にあったフィラデルフィア管との「復活」です。Wikipediaによるとエッシェンバッハ時代から低迷とありますが、それは収入の大半を住民からの募金に頼っていたという脆弱な経営によるもので、このオーケストラの技術が低迷したわけではないでしょう。
第1楽章を聴いてすぐにフィラデルフィア管は巧いと感心します。今はどうか知りませんが、レコーディングに最もお金がかかるオケではなかったっけ? ただ、聴いているうちにちょっと飽きてしまいました。良くも悪くも、あまりにもお手本的過ぎやしないかと思うのです。2枚組ですが某サイトでは新譜時4,309円だったのが現在は990円で、人気がないのかな。
第2楽章細かい表情をつけようと腐心しているようですが、ちょっとぎこちないかもしれません。高価な楽器を使っていそうな弦や木管楽器の美しい音色やが救いでしょう。
第3楽章のティンパニは控えめ。ティンパニに限らずこの演奏は打楽器は控えめなのです。そこが物足りないです。もっとドシャーンとやってほしいです。
そのようなエッシェンバッハの音楽づくりが最も合っているのは第4楽章かもしれません。弱音がとても美しいのです。ただ、特筆すべき演奏というほどでもないかも。
第5楽章冒頭も打楽器が炸裂してくれたら聴き応えがましたでしょう。逆に打楽器が控えめであるからこそ、他の楽器がよく聴こえ、見通しのよい演奏にはなっているのですが。もちろん、良いところもあります。金管のハーモニーなど美しいですし、例の打楽器が盛大に連打されて始まるあの箇所(すみません、楽譜を見ました。すごい、こうなっていたのか。でも、段が多くてパソコンの画面では追えません。)などこんなに長く伸ばして凄いと思うですが、やっぱりどこか常識的です。合唱が入ってからは弱音主体なので、エッシェンバッハの長所が出ていますね。ラストはオルガンの音もしっかり出ていて、なかなか充実していましたよ。
録音は悪くはないのですが、もう少し生々しく、そして効果を意識して録られていたら、もっと違う感想を抱いたと思います。


イメージ 10

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
フェリシティ・ロット(ソプラノ)
ヘレン・ワッツ(コントラルト)
ブライトン・フェスティヴァル合唱団
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
ハロルド・ファーバーマン(指揮)

ファーバーマン(Harold Farberman, 1929年11月2日 - )はアメリカ合衆国の指揮者・作曲家・打楽器奏者です。
第1楽章は、なめらかによどみのない音運びが特長でしょうか。ドラマを感じない演奏です。ちょと退屈かも、です。
第2楽章は、古典的な格調に基づく演奏。第2楽章がだめな演奏というのは滅多にお目にかかれず、これも悪くはありませんが、マーラーというかブルックナーの楽章のようです。
第3楽章は、なんだかのっぺりとした印象があります。ホールトーンをやや多めに取り入れた録音にも原因があります。演奏の繊細さが伝わらないのです。
第4楽章では、ヘレン・ワッツの独唱が聴けます。ワッツは1985年に引退していますから、この録音もそれ以前のものなのでしょう。
第5楽章も、合唱は美しいし、ロットとワッツの重唱が聴きどころと言えますし、最後はなかなかの盛り上がりを聴かせますが、全体としては印象の薄い演奏でした。


イメージ 11

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ゲルトルート・ビンダーナーゲル(ソプラノ)
エミー・ライスナー(アルト)
ベルリン州立歌劇場管弦楽団
オスカー・フリート(指揮)
1924年(?)


オスカー・フリート(1871~1941)はベルリンに生まれ、ナチス政権が誕生する時期まで、同市のさまざまな交響楽団を指揮していました。1905年には作曲者マーラーの立会いで『復活』ベルリン初演も指揮しています。その後1934年にソヴィエトに渡り、晩年を同国で過ごしました。ドイツ時代の彼は大曲録音のパイオニアとしても知られ、この『復活』はマーラーの交響曲の史上初の全曲録音として有名です。」とのこと。
録音年には諸説ありますが、とりあえず1924年としておきます。それでは聴いてみます。
拙ブログの「レコードの歴史によれば、この頃は「ラッパ状のメガフォンに向かって音を吹き込み,振動板を振動させ,直接ディスクに溝を刻む」というアコースティック録音(機械式録音)で、電気録音(マイクで音を拾ってディスクに電気信号を変換して刻む)が発明されたのはその翌年です。「復活」を実演で聴かれた方はわかると思いますが、特に第5楽章冒頭の壮絶な音響は現在の技術をもってしても録音に収まるものではありません。
この録音を聴く価値は、マーラー存命中の「復活」は、おそらくこのようであったということを耳にすることができるということです。
でも、その価値を放棄してこれを最後まで聴くのはやめました。「復活」マニア向けのCDです。この演奏を聴くと「復活」はずいぶん高尚で神がかった演奏がなされるようになったのだなぁという感慨に耽ることになります。聴いてみたいという方は第3楽章から聴くといいですよ。ちょっと笑ってしまうかも。


イメージ 12

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
チェン・レイス(ソプラノ)
カレン・カーギル(メゾ・ソプラノ)
オランダ放送合唱団
クラース・ストック(合唱指揮)
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
ダニエレ・ガッティ(指揮)
2016年9月14-16日
アムステルダム,コンセルトヘボウ

2016年秋から首席指揮者の任にあるコンセルトヘボウ管を指揮しての「復活」、ガッティの指揮です。これは期待して聴きました。
第1楽章、推進力を感じさせる力強い指揮です。主旋律のバックで鳴っている楽器をさりげなく目立たせたりと小技も効いています。力感だけでなく第2主題の清楚な美しさも忘れられませんが、第1主題の動機により打ち破られるところなど、やはり力感があります。というように褒めていますが、聴いているうちになんだか音楽が単調に感じられるのも事実。各楽器のバランスなどきちんと整えられていて、聴き甲斐のある演奏なのですが。
第2楽章は品が良い舞曲のようで、コンセルトヘボウ管の弦が美しいです。木管の美しさも、もちろんで彩りを加えています。この楽章はなかなか良いですね。
第3楽章もやや速め、木管が巧いです。ここではむしろ単調さを避けるかのように、細かいところに神経が行き届いています。
第4楽章は、カーギルの表情豊かな歌唱(独語の発音が良い)と、伴奏のオーボエが美しいです。
第5楽章冒頭の壮絶な響きもなかなかのものです。分厚い金管の和声が素晴らしい。でも、展開部はもっとオケを煽ってほしいです。こういうところにガッティの物足りなさを感じてしまうのです。行進曲調と言われる部分だから歩く速さということではないでしょうに。なお、合唱はなかなか立派でした。
全体を通じて水準が高い、なかなかの演奏とは思うものの、もはやこの程度では満足しなくなっている私であります。


イメージ 13

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
エレーナ・モシュク(ソプラノ)
ズラータ・ブルィチェワ(メゾ・ソプラノ)
ロンドン交響楽団&合唱団
ワレリー・ゲルギエフ(指揮)
2008年4月20,21日
ロンドン,バービカンホール

【お薦め】
第1楽章、冒頭で名演の予感がします。弦の歯切れの良さ、グランカッサやティンパニのここ一発、その他打楽器の一撃も効いています。ゲルギエフにイメージする濃厚さがなく、必要にして十分、程よい加減の味付けが好ましく思え、さくさくとした進行には清々しささえ感じられます。
第2楽章はロンドン響の弦楽器の美しさに心洗われる思いがします。演奏から受ける印象は第1楽章と同じです。コントラバスが左側から聴こえます。つまり、古典配置(両翼配置・対向配置)というやつですね。私の好みは、左から順に第1vn、第2vn、ヴィオラ、チェロ、コントラバスで、そのほうが響きが美しく感じられるからです。別にG氏にケンカを売っているわけではないのです。
第3楽章は立派なティンパニと重々しいグランカッサ、軽妙な木管楽器、爽やかな弦で速めのテンポですいすい進みます。もたれなくていいです。
第4楽章はあっという間に終わります。こんなに短い曲だった?
そして油断していると凄まじい第5楽章の開始です。相変わらず耳と心臓に悪い曲で、「驚愕」というタイトルを進呈したいです。特にゲルギエフ盤は凄まじいです。そのほかにもこの盤でなければ聴けない表現が随所にあり、金子建志曰く「近代オーケストラの総力をあげて描いた先頭の描写」は圧巻です。そのような演奏なので、合唱が登場する場面はひときわ感動的です。ラストは盛大な音響で幕を閉じます。満足。
なお、余白には交響曲第10番より第1楽章「アダージョ」が収められているのですが、この曲の聴き比べをやればよかったのかもしれません。


イメージ 14

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
アンネ・シュヴァネヴィルムス(ソプラノ)
オリガ・ボロディナ(メゾ・ソプラノ)
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団&合唱団
ワレリー・ゲルギエフ(指揮)
2015年9月16-20日(ライヴ)
ミュンヘン,ガスタイク

ゲルギエフって再録音が多いですよね。意外にレパートリーが狭い指揮者なのでしょうか。
第1楽章冒頭はなかなか雄大です。ミュンヘン・フィルの渋めの音色がいい味を出しています。と思ったのですが、ロンドン響を思うがままにドライヴしていた旧録音と異なり、ゲルギエフはミュンヘン・フィルの格式と伝統に従い、模範となるべき演奏を残す意図としたのか、あまり「らしさ」がありません。良いところもあるのですが、ゲルギエフを聴くのだったら、ロンドン響と級録音を選ぶべきでしょう。


イメージ 15

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ジュリアン・バンゼ(ソプラノ)
コルネリア・カリッシュ(メゾ・ソプラノ)
ヨーロッパ合唱アカデミー
南西ドイツ放送交響楽団
ミヒャエル・ギーレン(指揮)
1996年6月3-7日
バーデン=バーデン,ハンス・ロスバウト・スタジオ

【お薦め】
マーラー交響曲全曲録音を行った指揮者が何人にるのかわかりませんが、ギーレンもその一人で、マーラー指揮者として高い評価を得ています。
ギーレンのマーラーは、私はあまり聴いたことがなく、今回はしっかり聴いておこうと思います。
それでその演奏は、一言で表すと「冷徹」でしょうか。マーラーの楽譜に忠実に、厳正さと共感と愛を込めて演奏をするとこのような感じになるという演奏。スコアを見ながら聴くのであれば、この演奏が最適でしょう。細部に至るまで丁寧な仕上がりでオーケストラのバランスは最上に保たれ、旋律は常に歌い込まれるという、規範になるような演奏です。
第2楽章はホールの響きが多め(このタイプの演奏であればデッドなほうがよかった)ということもあり、SWR響の弦の美しさが印象的です。
第3楽章冒頭の第1ティンパニはffの指定なのだからもっと強打させてもよいのにと思いつつ、マーラーのオーケストレーションの醍醐味が味わえる演奏の楽章となっています。それにしてもSWR響って良いオーケストラですね。アンサンブルが秀逸です。
第5楽章も楽譜が手に取るように分る明晰な演奏というべきでしょうか。ヴァイオリンが両翼対向配置なのも効果的です。提示部の「コラールと復活動機、不安げな動機が繰り返され、切迫する」箇所などなかなか感動的ですね。
展開部もやや遅め(でもこれが指定どおり?)だと音楽が地縁する印象がありますね。しかし、発見もあります。いつもなら聴き流してしまう箇所でも、ここはこうであったのかと理解できました。そして、ヨーロッパ合唱アカデミーが素晴らしい。今回初めてきちんと子音が聴こえました。やっぱり歌詞はきちんと発音してほしいですよ。


イメージ 17

イメージ 16

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ミア・パーション(ソプラノ)
リリ・パーシキヴィ(メゾ・ソプラノ)
New York Choral Artists
ニューヨーク・フィルハーモニック
アラン・ギルバート(指揮)
2011年9月22,24,27日?(ライヴ)

【お薦め】
ギルバートの「復活」は、どちらかというと「ニューヨークに捧げるコンサート- 9.11の10年忌の記憶と再生に」という映像作品(最初の画像)のほうが有名で、音声のみのCDなんてあったの?と思われる方もいるでしょう。おそらくギルバートにとってマーラーは得意とするレパートリーであり、「復活」はそのタイトルからして特別な意味をもつ曲なのだと思います。では、ギルバートの「復活」は感動的な演奏か?
第1楽章は規範的な演奏。展開部の第2主題など美しいですね。音楽が荒々しくなるおところでも、きっちり整理整頓されており、それはそれで快いものです。でも、堅苦しくなく、奏者、特にソロは割と自由にのびのびと演奏しているように感じますしね。
第2楽章も同様で、きちんとしています。そこには品格のようなものさえ漂います。
第3楽章冒頭はティンパニ、もう少し音量がほしかったです。これも実に丁寧な演奏。木管楽器をよくマイクが拾っているので、ニューヨーク・フィルの奏者の巧さ(全楽章で特にフルートの巧さ)が際立ちます。どこか哀愁を帯びた演奏、全体にもの悲しい雰囲気です。「追悼」を意識しているのでしょうか。
第4楽章のパーシキヴィは、マーラーの独唱で引っ張りだこのようですが、それだけのことはあります。声に恵まれ、深い洞察力をお持ちのように聴こえます。
第5楽章も騒がしくならず、一線を越えない演奏です。しかし、萎縮した演奏、消極的な演奏ではありません。ニューヨーク・フィルの面々が自信をもって楽しんで演奏しているのが目に見えるようです。そしてそれは大変水準の高いものなのです。
導入時に聴衆の咳が入るのが興を削ぎますが、合唱も大変優秀です。バスの最も低い音は低いB(ベー:Hのフラット)なのですが、それがきちんと聴かせるのがすごいです。パーションとパーシキヴィの重唱も立派です。
どこか違うと感じながらも、これだけの優れた演奏を【お薦め】にしないわけにはいかないと思わされるものがありました。録音も優秀です。

YAMAHA NS-2000ふたたび

$
0
0
GoogleNS-2000を検索すると、
なんと拙ブログは3番目に登場します(私だけなのか?)。

それほどまでに有名になってしまった以上、もう一度 NS-2000について書かないわけにはいきません。

NS-2000 ってなに?という方のために簡単に解説しておきます。
まず最初に NS-1000M というヤマハの非常に有名なスピーカーがありました。海外の放送局が採用したほどです。

イメージ 1

YAMAHA NS-1000M
1974年発売
方式:3ウェイ・3スピーカー・密閉方式・ブックシェルフ型
使用ユニット:低域用:30cmコーン型(JA-3058A)
中域用:8.8cmドーム型(JA-0801)
高域用:3.0cmドーム型(JA-0513)
再生周波数帯域:40Hz~20kHz
クロスオーバー周波数:500Hz、6kHz、12dB/oct
最低共振周波数:40Hz
インピーダンス:8Ω
出力音圧レベ:90dB/W/m
定格入力(JIS連続):50W
最大許容入力:100W
レベルコントローラー:中・高音、連続可変型
外形寸法:幅375x高さ675x奥行326mm
重量:31kg
¥108,000(1台、1978年頃)
¥119,000(1台、1993年頃)

国産スピーカーで、これほど多くの人が憧れ、購入し、愛用した製品はないのでは?
その一番の特長は中音用と高音用の振動板にベリリウムを採用していることです。ベリリウムを使うと何か良いことがあるの?という質問があるかもしれませんが、「ベリリウム合金は軽量かつ高剛性であることが特徴。チタンなど他の金属に比べ、音伝導性や硬さが約2.5倍、比重(軽さ)も非常に軽いという物理的性質」があり、スピーカーの振動板として最適なのです。B&Wは最高の素材として上位機種のツィーターにダイヤモンドを採用していますが、昨日お医者さんとオーディオ談義をした際、ダイヤモンドよりベリリウムのほうが上という結論に至りました。スコーカーにダイヤモンドは採用できないでしょうけれど、ベリリウムであれば可能です。
じゃあ全てのスピーカーはベリリウムにすればいいじゃん!と言われるかもしれませんが、それにはいろいろな大人の事情があり、とても難しいのです。そういうことにしましょう。
今でこそ1本10万円のスピーカーなんて珍しくありませんが、当時の私には高嶺の花でした。今でも程度の良い NS-1000M があったら入手したいと考えることがあります。うちの事務所のN君もほしいと言っていました。

2番目として NS-2000 を紹介します。

イメージ 2

YAMAHA NS-2000
方式:3ウェイ・3スピーカー・密閉方式・ブックシェルフ型
使用ユニット:低域用:30cmコーン型(JA-3301)
中域用:8.8cmドーム型(JA-0802A)
高域用:3.0cmドーム型(JA-0526A)
再生周波数帯域:28Hz~20kHz
クロスオーバー周波数:500Hz、6kHz(-12dB/oct)
最低共振周波数:33Hz
インピーダンス:6Ω
出力音圧レベル:90dB/W/m
許容入力:125W
ミュージック許容入力:250W
レベルコントロール:中音:+3dB~-∞
高音:+2dB~-∞
外形寸法:幅440x高さ752x奥行404mm
重量:47kg
価格:228,000円(1台、1982年頃)

色が黒から茶になり、エンクロージャーが一回り大きくなって、重さがすごく増えました。しかし、なんといっても目を引くのが価格が倍になっているということです。つまり、それだけ手間をかけて(開発に8年)作られたスピーカーということです。

3番目に NS-1000X というスピーカーを紹介します。
イメージ 3

YAMAHA NS-1000X
方式:3ウェイ・3スピーカー・密閉方式・ブックシェルフ型
使用ユニット:低域用:30cmコーン型
中域用:8.8cmドーム型
高域用:3.0cmドーム型
再生周波数帯域:39Hz~20000Hz
最低共振周波数:39Hz
クロスオーバー周波数:500Hz、6000Hz(12dB/oct)
出力音圧レベル:90dB/W/m
インピーダンス:6Ω
許容入力:100W
ミュージック許容入力:200W
外形寸法幅427x高さ695x奥行335mm
重量:42kg
価格:158,000円(1台、1986年頃)

NS-2000 で培った技術を投入して NS-1000M のモデルチェンジを行ったスピーカーと言うべきでしょうか。NS-1000M の音に慣れた人にとっては違和感があり、先代ほどの人気は出なかったようです。

最後はNSX-10000というスピーカーです。
NSの後ろに「X」の文字が付きました。ヤマハ創業100周年記念モデルという意味が込められた型番なのでしょう。

イメージ 4

YAMAHA NSX-10000
方式:3ウェイ・3スピーカー・密閉方式・ブックシェルフ型
使用ユニット:低音用:33cmコーン型
中音用:8.8cmドーム型
高音用:3.0cmドーム型
再生周波数帯域:35Hz~20000Hz
クロスオーバー周波数:500Hz、5000Hz(12dB/oct)
最低共振周波数:35Hz
インピーダンス:6Ω
出力音圧レベル:90dB/W/m
定格許容入力:125W
ミュージック許容入力:250W
外形寸法:幅450x高さ752x奥行410mm
重量:54kg
価格:400,000円(1台、1987年発売)

グレード(値段)が高い順に、NSX-10000、NS-2000、NS-1000X、NS-1000M でしょうか。

それでは本題に入ります。

以前、オーディオの配置を変更したと書きましたが、これは機器の裏側を手軽にいじれるようにするためであり、先週から端子磨きを開始したのです。スピーカー(YAMAHA NS-2000)裏側のターミナルを清掃していたときのこと、グラグラするので締めようと思ってターミナルを回してみました。するとさらにグラグラになり、それ以上触るのはやめたのですが、そのスピーカーからは音が出ません。ターミナルの内側の線が外れてしまったのでしょう。

1時間考えた末、このスピーカーの特長のひとつであるピュア・ベリリウム製 8.8cm ハードドーム型スコーカーを外してみました。予想どおりぎゅうぎゅうにグラスウールが詰まっており、これを取り除かない限り、ターミナルの裏側に手が届きません。

次にピュア・カーボンファイバーコーン製の30cmウーファーを外してみましたが、グラスウールが幾重にも重なっていて、これを取り出すのは容易なことではありません、というか、グラスウールのせいで露出している腕や足が痒くなってきました。眼も痒いです。リビングルームで取り出し作業をやったら住めない家になりそうです。困りました。これだけのために47kg/本のスピーカーを修理に出すのも考え物です。

修理を出すのにも問題がありました。以前は(宅急便より大きくて重い物を送れる)ヤマト便でスピーカーを修理屋さんに送ったのですが、現在はピアノと同じ扱いで、送料がすごく高いのです。往復の送料でスピーカーが買えてしまいます。

前オーナーであるPさんの助言もあり、修理は(いつか)自分で行う(ダメなら潔く諦める)ことにしました。スピーカーの修理はこれまでにもやってきたし、今回は難しくないのでなんとかなると思いました。ただし、体が痒くなるグラスウールの問題が未解決です。

ピンチヒッターを務めるスピーカーが土曜日にやってきました。NS-2000 には、一時的に主役の座から降りてもらうため、スピーカースタンドからも降りてもらったのですが、これが重労働! 2本目のときには疲れからくる雑な作業をしてしまったため、スピーカーが私に向かって倒れてきて、怪我をするところでしたよ。女性だったら真剣に受け止めるのですが、NS-2000 では痛い思いをするだけです。

代替えスピーカーの箱を開けました。
イメージ 5


箱から取り出したところです。
イメージ 6

スピーカー・スタンドに乗せてみました。
NS-2000用なので大は小を兼ねていません。
イメージ 7

試聴しているところ(その1)
イメージ 8

試聴しているところ(その2)
イメージ 9

イメージ 10

Fostex GX-100BJ
形式:2Wayバスレフ型(クロスオーバー:1.8kHz)
使用ユニット :20㎜純マグネシウムリッジドーム形状振動板ツイーター(高音用)
        10㎝アルミニウム合金HR形状振動板ウーハー(中・低音用)
再生周波数帯域:55Hz~45kHz(-10dB)
出力音圧レベル:82dB/W(1m)(2.83V入力時83.5dB/1m)
インピーダンス:6Ω(最小値:4.27Ω at210Hz)
最大許容入力:100W
外形寸法:160(W)×262(H)×231.5(D)mm(グリル含む)
総質量:5.4㎏(グリル含む)

試聴する曲は決まっています。今回はこの順序で聴きました。

中島みゆき:彼女の生き方
D. スカルラッティ:ソナタ集(クリストフ・ルセ)
コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ(ヨーヨー・マ)
バリオス:大聖堂(朴葵姫)
ラヴェル:弦楽四重奏曲(気分に応じて演奏者を選定)
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタニ長調(ムター&カラヤン/ベルリン・フィル)
サン=サーンス:交響曲第3番ハ短調「オルガン付き」(アンセルメ指揮)
ストラヴィンスキー:バレエ「春の祭典」(シャイー/クリーヴランド管)
宇多田ヒカル:タイム・リミット~SINGLE COLLECTION VOL1

途中までは良かったのです。最新のスピーカーとはこのような音がするものかと感心しました。特にスカルラッティは、プレクトラムが弦を弾くのが目に見えるようで、小型2ウェイならではの定位の良さに感動しました。サン=サーンスは第1楽章第2部をいつも聴くのですが、こんなに小さいスピーカーからこんなに低音が出るものかと感激しました。

しかし、FM放送のニュースを聞いたとき、男性アナウンサーの声が軽く、胸声が響かないことで、低音不足を実感してしまいました。そうなると、サブウーハーが欲しくなります。それも1台ではなく左右2台分。そうなるとさらに20万円かかり、小型スピーカーを導入した、いくつかの意味が失われてしまいます。
イメージ 11


そんなとき、お医者さんのあの言葉を思い出しました。
ベリリウムは最高だよ! 最高だよ!最高だよ!最高だよ!!
NS-2000 をさっさと修理することに決めました!

手袋に靴下、トレーナーにヨットパーカー、防塵用メガネに二重のマスクで完全武装します。これは写真がありません。この姿で外に出たら怪しい人と間違えられます。なお、自撮りをしなかったので画像はありません。

横に倒すのが最も作業しやすいという結論に至りました。
寝かせるのに一苦労。赤ちゃんと一緒です。いや、違うって。
イメージ 12

ウーハーを外しました。
イメージ 13

諸悪の根源であるグラスウールも取り出します。
イメージ 14

高級スピーカー(当時)なのに、線材が細いです。
ターミナル内部で線が外れたのではなく、断線していました。
これはショック!
イメージ 15

エンクロージャー内で、手探りで線を覆っているビニールを取り除き、再接続するなんて無理です。線が短くて外に出せないのです。
イメージ 16

しかし、やれば出来るもので、修理は完了しました。
はんだ付けすればよかったなと後で少し後悔……。
完全武装のため、体が汗びっしょりで早くお風呂に入りたかったのです。
ウーハーを取り付けて完成!
イメージ 17


修理は完了しましたが、新たな問題もあります。

スピーカーの配置です。

これは書き始めると大変なことになるので、今回は書きませんが、お医者さんが言うには、ホワイトノイズが最も澄んで聴こえる配置(スピーカーの置き場所)を探すのだそうです。

少し配置を変えたぐらいでは私には同じ音に聴こえます。難しい……。

マーラー 交響曲第2番「復活」の名盤 Ha ~ Ju

$
0
0
イメージ 13

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
エリー・アメリング(ソプラノ)
アーフェ・ヘイニス(アルト)
オランダ放送合唱団
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
ベルナルド・ハイティンク(指揮)
1968年5月
アムステルダム,コンセルトヘボウ

【お薦め】
映像作品まで含めると何種類あるのかわからないハイティンクの「復活」の最初期の録音です。ハイティンクは、1961年から1988年までの長きに渡り首席指揮者を務めたコンセルトヘボウ管(この当時はアムステルダム・コンセルトヘボウ管、今はロイヤル・コンセルトヘボウ管)とマーラー交響曲全集を完成させており、その中の1曲です。なお、マーラー交響曲全集は1962年から1971年までかかって完成されました。
第1楽章はこのコンビにしては意外なくらい荒々しいです。コントラバスの両巻が好ましく、これは期待できそうです。きびきびとしたテンポで、さくさくと進み、巨匠風ではない、若いハイティンクの情熱を感じます。この指揮者には穏健なイメージがあるのですが、積極的な音楽づくりですね。攻めの姿勢が感じられます。金管の咆哮、炸裂する打楽器、美しい弦と木管、私が一番好きなオーケストラはコンセルトヘボウ管なのですが、この頃の音色もなかなか良いです。
第2楽章は優雅でに彫琢された美しい演奏です。やはりコンセルトヘボウ管の弦が輝かしく美しいです。
第3楽章はこんなに深い音でティンパニが強打されたことは無かったのではないかと思いますが、続く艶っぽい木管も素晴らしく、心地良いテンポで進みます。幸福感に溢れた演奏。
オランダの名歌手アーフェ・ヘイニスの美声による第4楽章も秀逸です。
第5楽章も第1楽章とほぼ同様の感想となります。ずばり、良い演奏です。管弦楽曲を聴く楽しさを満喫できます。合唱も優秀ですが、遠くに聴こえ、量的に物足りないのが残念です。実際はこんなものなのでしょうけれど。独唱はヘイニスに加え、名歌手のアメリングという贅沢さです。


イメージ 12

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
シルヴィア・マクネアー(ソプラノ)
ヤルト・ヴァン・ネス(アルト)
エルンスト・ゼンフ合唱団
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ベルナルド・ハイティンク(指揮)
1993年1月
ベルリン,フィルハーモニー

【お薦め】
コンセルトヘボウ管とマーラー交響曲全集を完成させたハイティンクですが、今度はベルリン・フィルとの全集に着手し、1987年から1993年までに第1番「巨人」、第2番「復活」、第3番、第10番~アダージョ、第4番、第5番、第6番「悲劇的」、第7番「夜の歌」と「さすらう若人の歌」が録音されたのですが、ついに第8番「千人の交響曲」と第9番は録音されなかったのでした。完結していれば、ベルリン・フィルによるマーラー交響曲全集という貴重な録音になったでしょうに。この演奏はとても素晴らしいので、非常に残念です。
これを聴いて思うのはベルリン・フィルは本当にすごい楽団ということで、非日常的なレパートリーであったのでしょうか、嬉々としてマーラーを演奏しているように聴こえます。正規のレコーディングは、他にラトル指揮の2010年ライヴぐらいしか思い出せませんが、ベルリン・フィルは「復活」の初演を行った団体でもあるのですよね。ハイティンクも水を得た魚のようです。生き生きと指揮をしているのが目に浮かぶようです。一番凄いのは第5楽章で、ベルリン・フィルはエンジン全開です。ネスの独唱はちょっと大仰な感じ、マクネアーは可憐で良いく、エルンスト・ゼンフ合唱団は立派です。


イメージ 11

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
シャルロッテ・マルギオーノ(ソプラノ)
ヤルド・ファン・ネス(アルト)
ザクセン州立ドレスデン歌劇場合唱団
ドレスデン交響合唱団
シュターツカペレ・ドレスデン
ベルナルド・ハイティンク(指揮)
1995年2月13日
ドレスデン,ゼンパーオーパー

ハイティンクは、2002年にドレスデン国立管弦楽団の首席指揮者(オケからの要請は音楽監督だった)に就任しましたが、2004年に辞任してしまいます。理由は、楽団とザクセン州がファビオ・ルイージを音楽監督に指名したからで、ハイティンクの反対を押し切った形になりました。
それはともかく、第1楽章冒頭からこのオーケストラなではのくすんだ、いぶし銀の響きがします。ただ、なんというか、こなれていないというか、ぎこちないというか、マーラーを演奏し慣れていない感じがします。初めて演奏したような、とでも言えばよいのでしょうか、きちんと楷書体で書いたようなの演奏ですね。その不器用さが新鮮でもあるのですが、やや流動感に欠けているようにも思えます。音楽が流れず、ぎくしゃくしていて、もしかしたらリハーサル不足なのかもしれません。とはいえ、美しい瞬間も多々あり、なかなか捨てがたい味わいをもった演奏でしょう。ハイティンクの指揮はベルリン・フィルの時とさほど変わっておらず、ネスの独唱もほぼ同じ、マルギオーノはオペラティックというか、アルトが2人で歌っているみたい。2つの団体はいかにもプロの合唱団といった感じです。あまり褒めなかったですけれど、ラストは圧倒的で他と比べても遜色ない演奏でしたよ。あと、打楽器陣が終始すごかったです。


イメージ 10

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ミア・パーション(ソプラノ)
クリスティアーネ・ストーティン(メゾ・ソプラノ)
シカゴ交響合唱団
デュアイン・ウルフ(合唱指揮)
シカゴ交響楽団
ベルナルド・ハイティンク(指揮)
2008年11月20-22・25日(ライヴ)
シカゴ,シンフォニーセンター,オーケストラ・ホール

HMVさんによると、ハイティンクの「復活」は次の7種「も」あるそうです。
1968年 アムステルダム・コンセルトヘボウ管(セッション録音)※全集シリーズ
1984年 アムステルダム・コンセルトヘボウ管(ライヴ録音)※映像作品
1990年 ロッテルダム・フィル(ライヴ録音)
1993年 ベルリン・フィル(ライヴ録音)※映像作品
1993年 ベルリン・フィル(セッション録音)
1995年 ロイヤル・コンセルトヘボウ管(ライヴ録音)
2008年 シカゴ響(ライヴ録音)
(コンセルトヘボウ管が「ロイヤル」の称号を下賜されたのは1988年なので、それ以前はアムステルダム・コンセルトヘボウ管です。)
2006年からシカゴ交響楽団の首席指揮者に就任したハイティンクですが、この演奏は無我の境地に達したとでも言えばよいのでしょうか、若い頃のあの情熱的な演奏はどこへ行ってしまったのかというほど冷静な演奏になっています。シカゴ響ほどのスーパー・オーケストラからその潜在能力を全て引き出してやろうなどという意図は全くうかがえず、ひたすらマイペースです。
やはり第5楽章が最も感銘が深く、疲れを知らないパワフルかつ美しい、完璧な金管群は感動的ですらあります。やっぱりシカゴ響は巧い! そしてシカゴの合唱団も上手い!(きちんとドイツ語を発音しているし、シカゴ響と互角に渡り合っています!) でも、昏く燃える情念のようなものをこの曲に求める人は他を当たったほうがよいかも。ラストは神々しいほどのハイティンクの指揮なのですが、第1楽章~第3楽章に戸惑うほどの物足りなさを感じてしまったのです。


イメージ 9

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
オリガ・グラチェリ(ソプラノ)
ウタ・プリエフ(アルト)
リュブリャーナ放送合唱団
スロヴェニア・フィルハーモニー管弦楽団
ミラン・ホルヴァート(指揮)
1989年(ライヴ)

ホルヴァート(1919年ー2014年)は、知る人ぞ知る、クロアチアの指揮者です。
第1楽章は力と勢いを感じる第1楽章で、スロベニア・フィルは技術的にはそれほど高くない(らIイヴゆえの瑕疵があるのは仕方が無い)のでしょうけれど、指揮者ともども表現意欲は伝わってきます。そのような演奏はこちらもきちんと聴かねばと思わざるを得ません。快速テンポが心地よく、炸裂する打楽器、咆哮する金管と泣き叫ぶ木管ですが、言い換えれば粗っぽいということです。
第2楽章はしっかりした足取り(テンポ)で、歌に溢れており、悪くありません。
第3楽章もこの曲のシニカルな曲想をよく表現していると思いますが、オーケストラにはもう少し洗練された響きを求めたくなります。曲が長く感じられます。
第4楽章、間奏の金管が不安定で頼りないですが、プリエフはよく歌っていて、これはなかなか感動的な楽章となりました。
第5楽章は、いつものことながら冒頭にはびっくりします。しかし、この演奏のすごいところは展開部に入ってからで、打楽器による圧倒的な大音量後に、勇壮なマーチが繰り広げられるわけですが、その直線的な迫力が聴き物です。不安の動機が耳に残ります。ストレッタも壮絶です。
再現部に入って、合唱が登場すると安心します。オケが不安定であるため、やっと解放されたように思うからで、声楽陣は独唱も含めて水準以上と言えます。ラストも圧倒的です。
なお、ホルヴァートには同じオケを指揮(独唱や合唱団が異なる)した録音もあるようです。そちらはもっとすごいらしいです。


イメージ 8

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ヘレン・ドナート(ソプラノ)
ドリス・ゾッフェル(アルト)
ハンブルク北ドイツ放送合唱団
フランクフルト放送交響楽団
エリアフ・インバル(指揮)
1985年3月28-29日
フランクフルト,アルテオーパー

【お薦め】
世代によってマーラー指揮者と言われて思い浮かぶ人は違うと思うのですが、それはワルターであったり、クレンペラー、バーンスタイン、クーベリック、テンシュテット等々。私の場合はインバルで、フランクフルト放送交響楽団のCDが高くて買えず、レンタル店で借りてカセットテープにせっせとコピーして聴いていました。インバルはこのマーラー全集で日本のクラシック音楽愛好家に知られるようになったのではなかったでしたっけ。1974年から1990年まで音楽監督をつとめたフランクフルト放送交響楽団、この楽団は良いオーケストラですね。
今回実に久しぶりに聴いてみたのですが「B&Kマイクロフォンを使用したナチュラルな優秀録音」とのことで、ワンポイント・ステレオ録音(原則として2本のマクロフォンを一箇所に設置してステレオで録音したもの。あくまで「原則」)ということで録音も話題になりました。
全体を通じて言えることは、この演奏のデュナーミク、アゴーギク、アーティキュレーション等の全てが私の基準になってしまっていたのだな、ということ。そのような意味ではこれは私の理想の演奏であるはずなのだけれど、やっぱり今聴いても良い演奏でした。
第5楽章はインバルの鼻歌入りです。9分5秒くらいから盛大に打ち鳴らされる打楽器など、定位の良い録音のせいもあり、すごい迫力です。そう、展開部はこのテンポです。遅すぎず速すぎずでこのこれぐらいがちょうどよろしい。合唱も美しいし、インバル、歌手が歌っているときに一緒に唸っちゃダメだろう。この盤は歌手が良いのに台無し。


イメージ 7

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ノエミ・ナーデルマン(ソプラノ)
イリス・フェルミリオン(メゾ・ソプラノ)
二期会合唱団
東京都交響楽団
エリアフ・インバル(指揮)
2010年6月19日
東京,サントリーホール

【お薦め】
あえて書くほどのことでもないのですが、東京には「公益財団法人 東京交響楽団」と「公益財団法人東京都交響楽団」があって、前者は1946年、前者は後者は1965年に設立されています。略称は前者が「東響」、後者は「都響」です。どっちがどっちということもないのですが、フランクフルト放送響を指揮して、マーラー交響曲全集、ブルックナー交響曲全集を完成させたインバルが都響を指揮してマーラーを再録音しだしたのには、当時驚いたのものです。都響、そんなにすごいオーケストラだったのかって(失礼)。
残響が多いサントリーホールということもあり、オケの音が艶やかです。昔は「長い曲を演奏させると集中力が最後までもたない」と評論家に言われていた日本のオケですが、マーラーのスペシャリストであるインバルの指揮もあり、これは立派な演奏です。
インバルの指揮は基本的には旧盤と変わっていませんので、これ以上は書きませんが、一度、インバル&都響のマーラーの演奏会に行きたいと思いつつ、その願いは果たせていません。


イメージ 6

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
澤畑恵美(ソプラノ)
竹本節子(メゾ・ソプラノ)
二期会合唱団
長田雅人(合唱指揮)
東京都交響楽団
エリアフ・インバル(指揮)
2012年9月29,30日
東京芸術劇場,横浜みなとみらいホール

前録音から2年度の再録音です。これは全部は聴いていないのですが、なぜ再び録音することになったのでしょうね。なにか旧盤に不満なことがあったのか、もっと素晴らしい演奏ができたから発売することにしたのか、謎です。録音はこちらのほうが各楽器がよく聴きと取れるもので、個人的にはこちらの方が好みです。


イメージ 5

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
フェリシティ・ロット(ソプラノ)
ユリア・ハマリ(アルト)
ラトヴィア国立アカデミー合唱団
オスロ・フィルハーモニー合唱団
オスロ・フィルハーモニー管弦楽団
マリス・ヤンソンス(指揮)
1989年

【お薦め】
1979年から2000年まで首席指揮者であったオスロ・フィルとの「復活」です。気鋭の指揮者と上り調子にあるオーケストラによるフレッシュな快演。
第1楽章など快速テンポで歯切れが良く、ぐいぐい突き進む印象ですが、勢いだけでなく随所で聴かせる小技も冴えており、聴いていて実に心地良いです。個人的に第1楽章を長く感じさせる演奏は受けつけないのですが、とても楽しく聴けました。
第2楽章も全く同様で、この楽章も長く感じることが少なくないのですが、ヤンソンスの軽妙な指揮には飽きることがなく、オスロ・フィルも美しいアンサンブルでそれに応えています。旋律とバックのバランスが良いのですね。これも聴いていて実に気持ちがよいです。
第3楽章は冒頭のティンパニの音が軽くて拍子抜けしますが、演奏自体が軽妙酒脱なものです。すいすい流れる演奏で、マーラーのイメージとちょっと違う気もしないでもないですが、これも実に楽しい演奏です。こんなに可愛らしい第3楽章は初めて聴きました。
第4楽章は打って変わっての叙情的な表現に心打たれます。ハマリの独唱もぴたりと嵌っています。
そして第5楽章、これもこれまでの楽章にない激しい表情を聴かせ、押し出しの強い音楽となります。打楽器の強打もさることながら、その後のハープが終始実に効果的。とにかくカッコイイ演奏なのです。自分が指揮できるのならこのような演奏でありたいと思うくらいに。録音バランスは、弦が大きめに収録されていて、金管陣が叫んでいる箇所でもきちんと聴こえるのがありがたいです。前4楽章からこの迫力は想像できませんでした。そして美しい。ロットも可憐だし、2つの合唱団も必要にして十分な声を響かせています。。


イメージ 4

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
リカルダ・メルベート(ソプラノ)
ベルナルダ・フィンク(メゾ・ソプラノ)
オランダ放送合唱団
セルソ・アントゥネス(合唱指揮)
ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団
マリス・ヤンソンス(指揮)
2009年12月3・4日,6日
アムステルダム,コンセルトへボウ

マリス・ヤンソンスが2004年から2015年に首席指揮者であった、名門ロイヤル・コンセルトヘボウ管との「復活」、20年ぶりの再録音です。オスロ・フィルとのフレッシュな級録音はフレッシュな名演でしたが、さてこれはどうでしょう。
第1楽書冒頭は意志の強さを感じさせ、早くも名演の予感がしてまいります。コンセルトヘボウ管はマーラー縁のオーケストラですから、マーラー伝統と格式があるのでしょう、自由に弾かせても名演が生まれそうです。第1楽章もヤンソンスの個性より、どこもかしこも分厚い充実した響きで、オーケストラの巧さのほうに耳が行きがちです。ヤンソンスはオケの自発性を生かし、それを邪魔しないよう振る舞っているとしか想えません。非常にオーソドックスです。オスロ・フィルを指揮していたヤンソンスは円熟期(66歳)を迎え、無難な演奏をするようになってしまったのでしょうか、かつての冒険を聴くことができません。演奏自体は大変立派でどこに出しても恥ずかしくないものですが、ヤンソンスとコンセルトヘボウ管がマーラーを演奏したらきっとこうなるという予想どおりで、意外性が皆無なのが残念でした。なおオランダ放送合唱団は優秀です。


イメージ 3

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ナタリー・デセイ(ソプラノ)
アリス・クート(メゾ・ソプラノ)
オルフェオン・ドノスティアラ
hr交響楽団
パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)
2009年5月6-8日
フランクフルト,アルテ・オパー

【お薦め】
このオーケストラは、2005年にhr交響楽団という名前に改称したのですが、結局2015年にフランクフルト放送交響楽団に戻ったとのこと。指揮は2006年から2013年まで首席指揮者の任にあって、現在は名誉指揮者であるパーヴォ・ヤルヴィです。
演奏は、ヤンソンス指揮オスロ・フィルについて書いたことがそのまま当て嵌まります。間違えて、またヤンソンスの録音をプレイしてしまったと思って確かめたぐらいです。
その演奏を一言で表現するならば、「素晴らしい演奏」「見事な演奏」です。Wikipediaではパーヴォの指揮を「丁寧な音楽作りと柔和な表情、ニュアンスに富んだデリケートな表現、自然な息づかいと切々と訴えかけるような歌」と書いていますが、全くそのとおりなので、そのまま引用させていただきます。さらに付け加えすとすれば、「緩急自在」で「メリハリ」があり、「室内楽的な緻密さと豪快なパワー」を併せ持った指揮です。
とにかくどこもかしこも新鮮です。このような演奏が次々と登場するのであれば、昔の演奏をありがたがる必要もないかな、とさえ思うほどです。
ヤンソンス指揮オスロ・フィルを確実に上回っているのは第3楽章です。まずティンパニの音が最初から最後まで良いです。張りのある堅い音。続くグランカッサのずっしりとした量感。皮肉っぽく、金管より雄弁な木管とすいすいと流れる弦。お祭り騒ぎのような部分は早く、その後ですぐゆったりとしたテンポに切り替えてたっぷり歌うなど、表情の付け方が巧すぎます。


イメージ 2

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
シルク・カイザー(ソプラノ)
コルネリア・カリッシュ(メゾ・ソプラノ)
ジュネーヴ・モテット合唱団
ジュネーヴ大劇場合唱団
ギヨーム・トゥルニエール(合唱指揮)
スイス・ロマンド管弦楽団
アルミン・ジョルダン(指揮)
1996年(ライヴ)
ジュネーヴ,ヴィクトリア・ホール

フィリップ・ジョルダンのお父さんによる「復活」、オーケストラはアルミン・ジョルダンが1985年から1997年まで首席指揮者をつとめたスイス・ロマンド響です。
第1楽章はベートーヴェンみたいな演奏、第2楽章は叙情的でよく歌う美しい演奏、第3楽章からマーラーらしくなってきて、第4楽章はコルネリア・カリッシュが曲想にマッチした声でよいですね。第5楽想はこのオーケストラから想像できない壮絶な音響で始まります。展開部は良いテンポで、ティンパニも決まっています。ただ、どうしても響きが薄手で物足りなさを覚えてしまうのですが、それでも最後はなかなか感動的な盛り上がりを聴かせました。。


イメージ 1

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
アドリアーナ・クチェロヴァー(ソプラノ)
クリスティアーネ・ストーティン(メゾ・ソプラノ)
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団&合唱団
ウラディーミル・ユロフスキー(指揮)
2009年9月25,26日(ライヴ)
ロンドン,ロイヤル・フェスティヴァル・ホール

【お薦め】
ロイヤル・フィルとの録音を次々と世に送り出し、名前を見かけることが多くなったユロフスキーの「復活」です。以前ユロフスキー指揮ロイヤル・フィルのCDを1枚買ったことがあるのですが、あまりの物足りなさにすぐ売却してしまいました。この「復活」はどうでしょう。
なんだか元気の良い第1楽章冒頭で、弦の数を増やしているのかな。低音木管の音もよく聴こえるのが珍しいです。低弦は右だけれどヴァイオリンは左右両翼という私の好みの配置です。きびきびとした進行で、快速テンポと歯切れの良さが現代的です。でもこれぐらいやってくれないと、わざわざ聴こうという気にはなれません(生意気)。歌わせるべき箇所はぐっとテンポを落とす振幅の大きい演奏で、このような演奏だともたれずに聴くことができます。第1楽章、長いですからね。この演奏で21分16秒です。独奏楽器をピックアップして聴き易くしているのも良いです。展開部で大見得を切るようなところなど、なかなかカッコイイですし、とにかく音楽が若々しい。録音数が多いのもそういうセンスが評価されているのでしょうね。
第2楽章は弦楽合奏がブラームスを連想させる、ドイツ風の演奏です。この曲のポルタメントは古くさくを思えることもありますが、この演奏では逆に効果的でさえあります。
第3楽章冒頭のティンパニの強打は強烈でこんなのは聴いたことがありません。悪夢のように不気味で、しかし優雅でもあるワルツ。こういう表情の付け方がユロフスキーは上手です。
第4楽章も大河が流れるような雄大さと、後半の次々と変化する曲想への細やかな対応など、なかなかのものです。ストーティンもユロフスキーの意図に沿った素晴らしい歌唱と言えましょう。間髪入れずに始まる第5楽章の嵐のような冒頭にしてやられたという感じがしますが、そういうところも若さゆえ、というやつですね。この楽章も両翼配置がびしっと決まっています。それなりの音量で弾かれて(録音されて)いるので効果的なのです。展開部の怒濤の進行も、緩急差が見事。この曲で初めてブルックナー(の第5番)を連想してしまいました。こんなことは初めてです。フルートとピッコロの夜鶯の後に初めて登場する合唱は訓練が行き届いています。独唱と共に登場するフルートをこんなに目立たせているのも初めて。ストーティンは良いけれど、クチェロヴァーの泣きが入っているソロはどうだろう。でも二重唱は良い出来です。ラストも感動的に幕を閉じます。こんなに良い演奏とは思ってもみませんでした。ユロフスキー、なかなかやるな!という感じです。


マーラー 交響曲第2番「復活」の名盤 (Fi)Ka ~ Li

$
0
0
イメージ 1

【前回の追加分】
リサ・ミルン(ソプラノ)
ビルギット・レンメルト(メゾ・ソプラノ)
ハンガリー放送合唱団
ブダペスト祝祭管弦楽団
イヴァン・フィッシャー(指揮)
2005年9月
ブダペスト,パレス・オヴ・アーツ

第1楽章冒頭の低弦主題の歌わせ方が特長的です。このコンビがどんな個性的な表現を聴かせてくれるのか、早くも期待が高まります、と思ったら割オーソドックスな解釈でした。奇をてらったところがありません。しかし、オーケストラが巧く、鮮やかな響きの美しさに魅了されます。第2主題の繊細な美しさも特筆ものでしょう。小結尾の打楽器の強打も凄まじく、マーラーのオーケストレーションを堪能させてくれる演奏です。録音の優秀さのせいもあり、とても洗練された、機能美に満ちたマーラーに聴こえます。
第2楽章主部はテヌートとアクセント、スタッカート等の付け方が興味深く、両翼配置の弦楽合奏が美しいです。このオーケストラのブラームスやチャイコフスキーは素晴らしいでしょうね(既に録音がありました!)。
第3楽章は冒頭のティンパニの強打に加えて、大太鼓の地鳴りのような重量感(随一ではないか?)がすごいです。木管楽器も達者です。ただ、前述のとおり基本的にはオーソドックスな解釈なので、あまり書くことがありません。
第4楽章のレンメルトはドイツ生まれの歌手らしく、ディクションがきれいです。伴奏のオケも美しく、特にオーボエが上手いと思いました。
第5楽章の嵐のような冒頭はやはり打楽器が凄まじく、大音響マニアを満足させることでしょう。コントラファゴットのような低音楽器がよく聴き取れるのも新鮮です。展開部は熱く燃えるのではなく、どこか冷静で、アンサンブルを重視しているようで物足りなさを感じます。
合唱は美しく、よく訓練されているのがわかる声です。


イメージ 2

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ベニータ・ヴァレンテ(ソプラノ)
モーリン・フォレスター(アルト)
The Ardwyn Singers
Cardiff Polyphonic Choi
Dyfed Choir
London Symphony Chorus(amateur)Choir
BBC Welsh Chorus
ロンドン交響楽団
ギルバート・キャプラン(指揮)
1987年
St. David's Hall, Cardiff, Wales

【お薦め】
ギルバート・キャプラン(1941年-2016年)という人はWikipediaによると「大好きなマーラーの交響曲第2番『復活』を指揮することを夢見て、30代を過ぎてからゲオルク・ショルティに師事して指揮法を学ぶ。40代なかばで、自費によるコンサートをエイヴリー・フィッシャー・ホールで行い、指揮者としてデビューする。最初で最後のはずが絶賛を浴び、あちこちのオーケストラから客演の依頼がくることとなり、「復活」のみを専門に振る指揮者として知られるようになった」そうです。「好きこそ物の上手なれ」というやつでしょうか。オケは名門ロンドン響です。
聴いてみて、なるほどと思います。自分で指揮できるとしたら、このようにありたいという理想を実現した演奏であることがよくわかります。マーラー「復活」のあらゆる録音を聴き、スコアを読み込み、自分が思う最良の形で表現したのでしょう。演奏に説得力があります。ここをこうしたら演奏効果効果が出るということを熟知していて、細部にまで神経が行き届き、それがちっとも厭味にならない形で音にされていて、素人の域を遙かに超えています。聴いていて実に気持ちが良かったです。独唱は良いけれど、合唱は時に粗っぽいですが、致命的と言うほどではありません。大人数の合唱は効果的です。妥協を許さない指揮に【お薦め】を捧げます。
録音も優秀です。42トラックに分けてあるので、スコアの勉強をしたい人にも打って付けです。


イメージ 3

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
(ギルバート・キャプラン校訂版/世界初録音)
ラトーニア・ムーア(ソプラノ)
ナージャ・ミヒャエル(メゾ・ソプラノ)
ウィーン楽友協会合唱団
ヨハネス・プリンツ(合唱指揮)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ギルバート・キャプラン(指揮)
2002年12月
ウィーン,ムジークフェラインザール

【お薦め】
「復活」専門の指揮者、ギルバート・キャプランは、様々なオーケストラ(さすがにベルリン・フィル、コンセルトヘボウ管とアメリカのビッグ5は指揮できなかったみたい)との共演を重ねていきますが、今回はなんとウィーン・フィルを指揮しての録音で、しかも、自身で校訂した版を用いての演奏です。
第1楽想は力強い弦で始まります。第1主題提示においても細部まで(本当に細かいところまで)キャプランのこだわりが感じられます。ウィーン・フィルの全面的な協力があったのでしょう。録音の優秀さもあり、圧倒的です。第2主題は打って変わってウィーン・フィルらしい優美な弦です。展開部は爽やかな(しかし熱気をはらんだ)夏の朝のように始まり、緩急の差、強弱の対比が鮮やかです。つまり理想的ということです。以下、第1楽章結尾まで何も言うことはありません(聴きながらDEEZERの設定をやっていたのでよく聴いていなかった、というようなことではありません)。
第2楽章の主部もウィーン・フィルの優美な弦が耳を惹きます。中間部の木管も美しいです。
第3楽章も打楽器のバランスが適切で、マーラーの「静かに流れるような動きで」の指示を徹底しているように思われます。どこまでもなめらかな管弦は耳にご馳走です。中間部の輝かしさも全く不足していません。
第4楽章はドイツのナージャ・ミヒャエルという人が丁寧に歌っています。伴奏のオーボエが美しい……。
第5楽章冒頭の強烈な響きも申し分ありません。その後は各動機を演奏する金管楽器の柔らかい古雅な響きも見逃せません。例のトロンボーンによる「復活」の動機も美しいアンサンブルを聴かせます。第5楽章の聴き所のひとつは展開部なのですが、ここは現代オーケストラの機能美を聴きたいところで、もちろんこの演奏は素晴らしいのですが、個人的にはもう少し速いテンポで熱い演奏を聴きたいところです。ウィーン・フィルという大人のオーケストラにキャプランは遠慮したのでしょうか、どこか涼しげです。
合唱は(カラヤンとの録音ではあまり評判がよろしくない)楽友協会合唱団ですが、不足のない演奏です。ラストまで崇高な雰囲気の漂う演奏でしたが、私にはこのテンポは遅すぎで、曲の長さを感じさせてしまうものでした。
今回も42トラックです。ちょっと分け過ぎですが、便利ではあります。


イメージ 4

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
(キャプラン&マティス編曲/小編成版/世界初録音)
マーリス・ペーターゼン(ソプラノ)
ヤニナ・ベヒレ(メゾ・ソプラノ)
ウィーン・ジングアカデミー
ハインツ・フェルレシュ(合唱指揮)
ウィーン室内管弦楽団
ギルバート・キャプラン(指揮)
2013年2月17日(ライヴ)
ウィーン・コンツェルトハウス

どの程度小編成なのかわからないけれど、弦に比べて管楽器が大きめに聴こえます。あまり小編成という感じがしないですね。人数が少ない分、細部まで見通しがよい演奏ができるし、表情をたっぷりつけられるということでしょうか。しかし、響きの薄さ(空虚さ)と、各奏者の技量が気になってしまいます。下手とは言いませんが、例えば木管楽器の音色に魅力があるとかそういうことはなく、要するにあまりうまくない感じです。両翼配置にであったなら、もっと楽しめたでしょうね。とはいえ、金管楽器に隠れがちな弦楽器がこのように演奏していたのか、と発見したり、興味深い瞬間もありました。
ちょっと飛ばして第2楽章を聴きます。今回はトラックが5つなので頭出しが楽です。この楽章は結構イケると思ったのですが、やっぱり響きが薄いのが気になります。
第3楽章は面白いです。弦のピッツィカート音型とかよく聴こえて楽しいです。
小編成が効果を発揮するのは声楽が入る曲では? 第4楽章を聴きます。思ったとおりで、管弦楽がメゾ・ソプラノの邪魔をしません。それにしても上手くない金管のアンサンブルです。
第5楽章冒頭はたいしたことが無いだろうと高をくくっていたら、そこそこ迫力はありました。先を急ぎます。夜鶯の後、合唱が登場する場面です。合唱の編成はそれほど大きくないように聴こえ、ときに荒さも目立ってしまいますが。やはり管弦楽とのバランスが良いです。独唱も声を張り上げないで済むので歌いやすいでしょう。
うん、これは「復活」マニア向けのCDですね。


イメージ 5

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ヴァルダ・バグノール(ソプラノ)
フローレンス・テイラー(アルト)
ハールストーン合唱協会
シドニー交響楽団
オットー・クレンペラー(指揮)
1950年9月(ライヴ)

再生音をマイクでもう一度録音したような不思議な録音で、ノイズの入り方からしてエアチェック音源でしょうか。録音状態はけしてよくありませんが、演奏の雰囲気は伝わります。
第1楽章は後年のクレンペラーとは似ても似つかない快速テンポで今回聴いた中では最も速いです。第2主題はゆったりとしたテンポで、緩急の差を大きく取っています。この頃のクレンペラーは颯爽としていますね。シドニー交響楽団も次のコンセルトヘボウ管より巧いです。
とはいうものの、この録音状態で、この長い曲を最後まで聴くのはしんどいです。第1楽章だけの感想でごめんなさい。


イメージ 6

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ジョー・ヴィンセント(ソプラノ)
キャスリーン・フェリアー(アルト)
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団&合唱団
オットー・クレンペラー(指揮)
1951年7月12日(ライヴ)
アムステルダム,コンセルトヘボウ(オランダ音楽祭)

クレンペラー66歳の「復活」、オーケストラはマーラー縁の名門コンセルトヘボウ管、録音は当然モノラルですが、割と聴き易いものです(たまにノイズが入ったり、強音時に音が割れる等はあります)。
第1楽章はさくさく進行します。箇所によっては、後年の演奏には聴くことができない、畳み掛けるような速めのテンポも見受けられます。展開部の小結尾などすごい迫力で、その後もかなり情熱的な演奏が繰り広げられます。
第2楽章はうきうきとした表現ですが、中間部はテンポが速くなりドラマティックな色合いが濃くなります。なんだかベートーヴェンの音楽を聴いているみたいな気分です。
第3楽章はこの録音にして意外なほどのティンパニの強打に驚きます。マーラーの指定どおり「静かに流れるような動きで」さっぱりと進みますが、中間部やラストは爆発的に盛り上がります。
第4楽章はキャスリーン・フェリアーの歌唱に尽きるでしょう。彼女は2年後に41歳の生涯を終えるのですが、豊かな声と深い洞察力の持ち主でした。
第5楽章ものすごい迫力で始まります。その後、トランペットとホルンが立て続けにこけたり、フルートが間違えたりと、さしものコンセルトヘボウ管でも、この頃はそういうことがあり得るのだなと思いました。展開部も力強く、ずいぶん速く、10年後の録音とはえらい違いです。10年の歳月は人を変える。そしてフェリアーは、やはり素晴らしかったです。音楽が新しい展開を迎えるとき、クレンペラーの「んあ"ッ!」といううなり声のようなものが聴こえましたが、聴き間違いでしょうか。壮大なラストで終わります。


イメージ 7

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
エリーザベト・シュヴァルツコップ(ソプラノ)
ヒルデ・レッセル=マイダン(アルト)
フィルハーモニア管弦楽団&合唱団
オットー・クレンペラー(指揮)
1961年11月、1962年3月
ロンドン.キングズウェイ・ホール

【お薦め】
(テープの経年劣化はあるものの)これは優秀録音ですね。こんなに鮮明で生々しい録音という記憶はありませんでした。こういう録音でこそヴァイオリン対向配置が生きるというものです。
第1楽章は意外に速めのテンポで進行します。第2主題になってもテンポは落ちません。その表情はぶっきらぼうで男らしいです。展開部に入って少し落ち着きますが、それでもザッハリヒな音楽づくりは変わりません。時に荒れ狂い、思い出したように優しい表情を見せる、その演奏にぐいぐい惹き込まれるものを感じます。クレンペラーの棒のマジックでしょう。コーダは巨人の足取りのようです。
さすがに第2楽章はたっぷりしたテンポで晩年のクレンペラーに近くなります。実は「復活」の第2楽章は他の4楽章に比べ、やや劣るように感じていたのですが、クレンペラーの演奏は求心力が高いのか、最後まで一生懸命聴いてしまいました。
第3楽章はこの曲の皮相な性格がよく出ています。木管楽器を重く用いるクレンペラーの指揮と録音にマッチした曲です。中間部の爆発的な主題も立体的で迫力があります。コーダも最高です。
第4楽章はレッセル=マイダンのアルトは発音と音程がよろしくないですが、オーケストラは素晴らしいです。
第5楽章は冒頭の雷が落ちたようなオケの迫力が立派です。トロンボーンが演奏する第2主題が重厚。行進曲調の展開部はやや遅めのテンポで、その立派さ、輝かしさは比類がないものの、部分的にさらに遅くしたりするのは緊張感を削ぐのでいただけないかも。
その後は感動的な音楽となっています、が、幾分曲の長さを感じてしまったかも。


イメージ 8

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
マリア・シュターダー(ソプラノ)
ナン・メリマン(メゾ・ソプラノ)
アムステルダム・トーンクンスト合唱団
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
ラファエル・クーベリック(指揮)
録音時期:1960年7月14日(ライヴ)
アムステルダムコンセルトヘボウ,音楽堂

マーラーの生誕100年の記念年に行われたオランダ音楽祭ライヴだそうです。
モノラル録音ですが、ハイ上がりの生々しい音質で、鑑賞にはそれほど差し支えないでしょう、と思ったら、最強音時に激しく音割れがしますし、終始変なノイズも入ります。これが聴き苦しい……。
演奏は指揮者の感性をストレートに表現したものでしょうか。ライヴにこそ強みを発揮するというクーベリックの長所がよく出ています。これがちゃんとしたステレオ録音だったら名盤足り得ていたでしょう。ぐいぐい惹き込まれるものを感じます。
第2楽章は、きわめてくつろいで、急がずに、の指示どおりの演奏です。旋律をよく歌う弦楽合奏が好ましいです。
第3楽想は、この曲の皮肉っぽさがよく出ており、中間部も突然輝かしく演奏されるなど、マーラーの音楽を熟知したクーベリックならではの表現です。
メリマンはアメリカメゾ・ソプラノ。コンセルトヘボウ管とは「さすらう若人の歌」(米ぬ無指揮)での共演がありますが、マーラーはレパートリーなのでしょう。堂々としたものです。
第5楽章は展開部以降が良いです。若々しい指揮が清々しく、コンセルトヘボウ管もベストの演奏をしようという意気込みが感じられます。
合唱が入ると、録音の悪さが露見します。人の声が変な調子に変えられるのは、私にとって耐えがたいものがあります。なので、試聴は途中で終わりです。


イメージ 9

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
エディト・マティス(ソプラノ)
ノーマ・プロクター(アルト)
バイエルン放送合唱団
ヴォルフガング・シューベルト(合唱指揮)
バイエルン放送交響楽団
ラファエル・クーベリック(指揮)
1969年3月
ミュンヘン,ヘルクレスザール

【お薦め】
第1楽章、低弦の第1主題がちょっと変わっていて、どこか長閑さを感じさせます。もうちょっと緊迫感があったほうが好みです。クーベリックだからボヘミア風というわけではないのですが、田舎くさい感じがするのです。いつの間にか都会風の洗練された響きのマーラーに惹かれるようになっていたようです。展開部はスケール感がやや不足しているものの、心地良いテンポで歯切れがよく、両翼配置なので時折聴かれる第1・第2ヴァイオリンの掛け合いが面白いです。ただ、指揮者とオーケストラがなぜか不器用な感じがするのですよね。歌わせ方・歌い方がセンプレ・マルカート気味だからでしょうか。
第2楽章は、田舎の婚礼の行列みたいです。この演奏を貶しているわけではなく、素直にそのような言葉が口をついて出ました。クーベリックのマーラーが良いという人は、その素朴さ・純朴さに惹かれるのかもしれません。
第3楽章は、元からあのような曲だからクーベリックに曲想が合っていると言えます。これは違和感なく聴くことができ、バイエルン放送響の優れたアンサンブルのせいもあり、心から優れた演奏と思いました。
第4楽章は(当たり前ですが)それまでとは打って変わり、たっぷりとしたテンポによるレガートな演奏となります。このテンポで演奏するのは歌手も木管も大変なのでは。中間はやや速めで変化をつけています。
第5楽章になると前半3つの楽章に感じていた違和感が全く無くなるのが不思議。クーベリックはもったいぶらないですね。冗長に感じられる部分はすっきり流し、聴き所を上手に繋げていきます。このような演奏であったら飽きないでしょう。そのような演奏ですから展開部からが最も聴き応えがあります。バイエルン放送響のシンフォニックな響きも素晴らしく、聴き終えるのが惜しいと思ったくらい。合唱も立派です。


イメージ 10

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
エディト・マティス(ソプラノ)
ブリギッテ・ファスベンダー(メゾ・ソプラノ)
バイエルン放送交響楽団&同合唱団
ラファエル・クーベリック(指揮)
1982年10月8日(ライヴ)
ミュンヘン,ヘルクレスザール

【お薦め】
1969年のセッションと同じ会場ですあG、ヘルクレスザールの美しいホール・トーンを多めに取り入れた録音であり、気持ちの良い響きがします。演奏も前回から13年度なので、こなれてきた感じがします。前回の田舎くささから都会的な演奏に様変わりしています。クーベリックの良さが失われたわけではないのですが、前回を懐かしく思う人もいるでしょう。私はこちらのほうが好きですけれどね。
第2楽章もベートーヴェンでもブラームスでもブルックナーでもない、マーラーを感じさせる演奏で、さすがクーベリックといったところです。
第3楽章も良いテンポで、「静かに流れるような動き」をもって、この曲の諧謔性を上手に表出しています。優美過ぎるかもしれませんが。
この録音のすごいところは、ファスベンダーとマティスという2人の名歌手を揃えていることです。まずファスベンダーから聴きます。第4楽章です。第一声から素晴らしいです。この録音の価値が数段跳ね上がったように思えます。少年が歌っているようで、この声が良く、またドイツ語のディクションの確かさ、表現の深さなど言うことなしです。
第5楽章はテンションが高いです。特に展開部がよく、さすがドイツを代表するオーケストラ(のひとつ)であるだけのことはありますが、もう少しキレがあったほうがよかったかな。
重厚な合唱が立派。ファスベンダーとマティスのすごい重唱の後、感度のラストが待っています。


イメージ 11

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
キャスリーン・バトル(ソプラノ)
クリスタ・ルートヴィヒ(メゾ・ソプラノ)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ジェイムズ・レヴァイン(指揮)
1989年8月19日(ライヴ)
ザルツブルク,祝祭大劇場

録音があまりよくないように思えるのです。聴いている間にオーケストラ名が気になり、ブックレットを見て、ウィーン・フィルだと改めて知って少し驚きました。これがウィーン・フィルの音色かと。全然ウィーン・フィルの美感が生かされていないように思います。よく聴けばそんなに悪い演奏ではないのですが、その良さが伝わりにくく、第1楽章から第3楽章までは、とても長く感じました。録音目的のライヴではありませんから、録音状態は、まぁこんなものなのかも。
第4楽章は名歌手ルートヴィヒが登場しますが、この楽章も今ひとつぱっとしません。これはご紹介するまでもないCDとは思ったのですが、ところがところが、第5楽章が素晴らしいのです。正確に書くと、合唱が入るところ(21分39秒あたり)から、雰囲気が変わります。ウィーン国立歌劇場合唱団が素晴らしいのです。祈りに満ちた音楽。キャスリーン・バトルも美しいです。ルートヴィヒとの二重唱も良いです。
しかし、本当に感動的なのは、二重唱が終わってからの合唱とオーケストラで、それまで我慢して聴いた甲斐があったというものです。

Mit Flügeln, die ich mir errungen,
werde ich entschweben!
Sterben werd' ich, um zu leben!
Aufersteh'n, ja aufersteh'n wirst du,
Mein Herz, in einem Nu!
Was du geschlagen,
zu Gott wird es dich tragen!


イメージ 12

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ヘイディ・グラント・マーフィー(ソプラノ)
ペトラ・ラング(メゾ・ソプラノ)
ダラス交響楽団
アンドルー・リットン(指揮)
1998年9月(ライヴ)
ダラス,モートン・マイヤーソン・シンフォニー・センター
マクダーモット・ホール l

【お薦め】
リットンが1992年から2006年まで音楽監督をつとめたダラス交響楽団との「復活」です。リットンは今ひとつ名前が知られていない指揮者(拙ブログでは「ウォルトン:ベルシャザールの饗宴で紹介。再読したらあまり褒めていなかった)なので、この辺りで一発、大きな花を咲かせてほしいものです。それでは聴いてみます。
聴き終わりました。意外にと言ったら失礼ですが、良かったのです。リットンは何か特別なことをやっているわけではなく、あえて挙げるとすれば、旋律を非常に豊かに歌わせるのですね。
第1楽章第2主題など思い入れたっぷりです。何気に緩急の差が大きく、メリハリがあるのも良いです。展開部の第2主題がなんと美しく奏されること。速い部分の疾走感。第1主題によって平安が打ち破られるときの壮絶さ、等々、オーソドックスな解釈ではあるのですが、期待に応えてくれる演奏という点でなかなか貴重なのではないかと思います。再現部もよいテンポです。
第2楽章は、主部の舞曲風の主題をテンポやリズムを意図的に変化させ、単調に陥らないよう工夫しているのが特長で好ましいと感じます。
第3楽章は、まさに「静かに流れるような動きで」で、異国情緒が漂うような演奏です。録音が優秀なので各パートに旋律が渡されていく様子が手に取るようにわかります。中間部の輝かしい主題も抑制が効いており、全体のバランスから考えて妥当と考えますが、結尾は十分に爆発的に盛り上げ、その後の終楽章の予告も巧みに演奏されます。
第4楽章の独唱、ペトラ・ラングで、これはシャイー盤、チョン・ミョンフン盤以来の登場ですが、申し分のない歌唱を聴かせてくれます。
第5楽章冒頭の強烈な響きも十分で、各同期が適切なテンポとバランスで提示されていき。なかなか壮大な眺めです。展開部もけして急がず、遅からずの絶妙なテンポですが、ここはもう少し吹っ切れた演奏のほうが興奮させてもらえたかも。どこか冷静で抑制が効きすぎているのです。立派な演奏には違いないのですが。
クロプシュトックの「復活」賛歌の合唱も良い出来です。独唱はやっぱりランクの声が立派です。マーフィーも良いのだけれど、ちょっと神経質な感じがします。ラストはなかなか感動的です。
まとめとして、全体の解釈はオーソドックスであるものの、細部までよく検討され、リットンの意図を十二分に反映させた名演と言えるでしょう。全体を25のトラックに分割しているのも便利です。

マーラー 交響曲第2番「復活」の名盤 Ma~No

$
0
0
マーラーの第2番「復活」の素晴らしい曲目解説があったのでご紹介します。
こんな解説が書けたらいいのに。

ついでにYouTubeもいくつか。

001.2 - Brass excerpt from Mahler Symphony 2
New York Philharmonic
(これはなかなか感動的。オケを聴く醍醐味)

Mahler: Symphony No. 2: Mov. 4

Mahler: Symphony No. 2: Mov. 5 - Part 4 of 4

Mahler: Symphony No. 2 / Rattle · Berliner Philharmoniker

Gustav Mahler: Symphony No. 2 "Resurrection" 
(Lucerne Festival Orchestra, Claudio Abbado)


イメージ 1

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ジェシー・ノーマン(ソプラノ)
エヴァ・マルトン(ソプラノ)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ロリン・マゼール(指揮)
1983年
ウィーン,ムジークフェラインザール

【お薦め】
マゼールは1982~89年にウィーン・フィルとマーラー交響曲全集を録音しておりまして、その中の一曲となります。

ノーマン・レブレヒト(イギリスの音楽ジャーナリスト)は「クラシックレコードの百年史(訳 猪上杉子、音楽之友社)」においてこの録音に立ち会ったとき(1983年1月)の印象を次のように書いています。

 「真冬の土曜日の夜、ウィーン楽友協会ホールの聴衆は不安で凍りついていた。贖いの芸術作品に立ちこめた腐った空気は筆舌に尽くしがたいほど破壊的なものだった。どんなにヴァイオリンが甘く歌い、木管がハミングしても、荒涼とした雰囲気は信頼を拒絶し、二人の大きな女性(ソリスト)が立ち上がって大声を張り上げたとき、オーケストラと合唱団の誰もが、生活費を稼げる会計士や配管工をやっておくべきだったと思ったろう。誰もが当事者になりたくないというレコードがあるとするならば、これがそうだ。

いや、違う、そんなことはない、それは誤った認識だ、第一「聴衆」と書いているが、この録音はセッションだ、この人(レブレヒト)は相当耄碌しているか、ねじ曲がった性根の持ち主ではないか、私には正反対に聴こえる、私にとっての理想のマーラー指揮者(のひとり)はマゼールだ、というのは言い過ぎですが、このCDの感想を書きます。

第1楽章冒頭はごつごつとした低弦、緊張感と意志の強さを感じます。第2主題はウィーン・フィルらしく艶やか弦、その後は寄せては返す波のようで、マゼールが大きくウィーン・フィルをドライヴしています。静かな場面は優しい感情が支配しており、雅やかな木管が彩りを添えます。激しい場面は強打される打楽器と咆哮する金管により怒濤の音の洪水が押し寄せます。そのように書くと、他の演奏だってそうじゃないかと言われそうですが、マゼールは自然なアゴーギクデュナーミクにより、メリハリが付いていて、かつ、音楽がよく流れます。そして、ウィーン・フィルの鮮烈な音色が素晴らしいです。
第2楽章は法例です。ソフトで厚めの弦の響きで優美で懐かしい歌を聴かせます。主部と中間部の変化が巧みで聴いていて飽きることがないです。ボヘミアの草原が目に浮かんだくらいです。
第3楽章はティンパニがいい音を出していますが、グランカッサは控えめです。曲の面白みがよく生かされており、全体にゆったりしたテンポでグロテスクであったりユーモアたっぷりであったりしますが、マゼールであればもう少しアクの強い表現を期待したいところです。
第4楽章の独唱はメゾ又はアルトですが、この録音ではなんとソプラノ・ドラマティコのジェシー・ノーマンを起用しています。ノーマンの広い声域と豊かな声量、美声が大変魅力的で、この楽章の一、二位を争う名演ではないでしょうか。楽章の終結部は第5番アダージェットを連想させる美しさです。
第5楽章はウィーン・フィルならではの鮮烈かつ激烈な響きで始まります。「荒野に呼ぶもの」のウィンナ・ホルンの響きの美しさ、第3主題の木管の典雅さ、ティンパニの強烈な打撃、トロンボーン重奏の古雅なこと、金管によるアクセント等々、提示部のいちいちを書いていたらキリがありません。
展開部(第2部)も気持ちの良いテンポで進みます。心が弾みます。このような多彩な音楽を指揮させると本当にマゼールは上手いです。圧巻の第2部前半の後、アッチェルも凄まじく、第1主題の登場で幕を閉じます。
第3部、舞台裏の金管は本当に舞台裏で吹いているのだろうか?とどの盤でも思うのですが、そんなことはどうでもいいとして、夜鶯のフルートとピッコロの中ですごく巧い人が一人いますね。「復活の主題」を歌う国立歌劇場合唱団も立派な声です。ノーマンと同じくドラマティック・ソプラノのエヴァ・マルトンの起用も正解だと思います。二人のソプラノによる二重奏は強力です。フィナーレも感動的です。

ところで、このCDには思い出があります。家の近所に中古CDショップがあり、小さなクラシック音楽コーナー(いわゆる段ボール箱)があったのですが、そこにマゼール/ウィーン・フィルのマーラー全集(旧仕様)がバラで置かれていました。購入されることはなく、蛍光灯で背焼けし続けるCD。当時の私はこれに興味を示せず、一体誰がこのCDを売ったのだろう、誰が買うのだろうと、お店を訪れるたびに思ったものです。


イメージ 2

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ジェシカ・ジョーンズ(ソプラノ)
コーネリア・カリッシュ(メゾ・ソプラノ)
ニューヨーク・コーラル・アーティスツ
ニューヨーク・フィルハーモニック
ロリン・マゼール(指揮)
2002年から2009年にかけてのライブ録音のひとつ

【お薦め】
マゼールの「復活」は素晴らしいです。それはオーケストラがウィーン・フィルからニューヨーク・フィルに変わっても同様です。最も「復活」を演奏効果抜群に演奏できる指揮者、それがマゼールです。ニューヨーク・フィルも全力でマゼールの棒に応えています。ニューヨーク・フィルは、古くはワルター、そしてバーンスタインとマーラー指揮者による「復活」の名演奏を行ってきた、伝統と格式のあるオーケストラですが、マゼールの指揮を心酔しているかのように、嬉々として演奏しているように聴こえます。ニューヨーク・フィルってこんなに良いオーケストラだったのかと感心したくらい、輝かしいです。
それぞれの楽章の印象は前述のウィーン・フィル盤と同様ですので省略しますが。私は心から全曲を飽きることなく楽しみ、「復活」という曲には余分な箇所などないのだと思うことができました。どこを取り出しても最上の表現のひとつと言えます。ウィーン・フィル盤も良かったですが、ニューヨーク・フィルのような機能性・機動性のあるオーケストラと全集録音が残されたことに感謝したいくらいです。マゼール、凄い人だったのですね。
なお、2人の独唱者のうち、メゾのカリッシュは、強烈なrの巻き舌に驚きますが、それだけドイツ語のディクションに気を使っているということなのでしょう。巻かない人よりマシで、彼女のドイツ語は美しいです。表現は少々オーバーですけれどね。合唱も立派。ラストはオルガンがたっぷり鳴らされて満足。拍手入りです。
なお、この名演はダウンロード販売のみで、CDでは売られていないようです。


イメージ 3

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
サリー・マシューズ(ソプラノ)
ミシェル・デ・ヤング(メゾ・ソプラノ)
BBC交響合唱団
フィルハーモニア管弦楽団
ロリン・マゼール(指揮)
2011年4月17日(ライヴ)
ロンドン,ロイヤル・フェスティヴァル・ホール

フィルハーモニア管弦楽団とのマーラー全集の中の一曲です。
第1楽章は堂々たる第1主題の提示から始まります。対照的に第2主題はややテンポを落として丁寧に歌い込みます。展開部ではさらに第2主題が切々と歌われます、と言った具合にオーソドックスな解釈が続くのですが、第1主題の動機が激しく入るところなど凄まじい音ですし、展開部後半もマゼールらしい聴かせ上手な表現が聴き受けられるようになります。小結尾も大見得を切るように終わります。再現部はやはり第2主題がかなり遅めでポルタメントを交えてたっぷり歌われ、そして消えていきます。コーダも比較的遅めです。
第2楽章もやや遅めのテンポを採る時がある以外は、あまり奇をてらったところはなく、音楽自体の力で勝負している感じです。
第3楽章はマゼールが振るとコミカルな面が出てきますね。
第4楽章はミシェル・デ・ヤングというアメリカ生まれのメゾが独唱です。
第5楽章は37分23秒です。平均的なタイムでしょうか。この演奏も冒頭は凄まじいですのですが、一音一音を踏みしめるように演奏しているのが特徴です。そこはかとなく漂う色彩感がマゼールらしいです。「復活」の動機の提示は緩急・強弱を巧みに織り交ぜており、そこに輝かしさが加わります。展開部の開始は凄まじいです。あぁこういう演奏が聴きたかったのだと思いました。実に良いテンポ。これ以上遅くしたら気持ち的にダメです。再現部前の迫力もすごいです。
合唱はこのオーケストラに負けじと歌い、オーケストラは合奏をかき消さんばかりの大音響を聞かせます。


イメージ 4

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
イレアナ・コトルバス(ソプラノ)
クリスタ・ルートヴィヒ(アルト)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ノルベルト・バラッチュ(合唱指揮)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ズービン・メータ(指揮)
1975年2月
ウィーン,ゾフィエンザール

【お薦め】
「復活」の総演奏時間は平均84分(?)で、たいていの場合、CD2枚組になってしまうのですが、この演奏はCD1枚(LPでは2枚組)に収まるため、CD時代になってからしばらくは、「復活」というと、この演奏ばかり聴いていたという思い出のある演奏です。メータと言えば、1962年から1978年まで音楽監督を務めたロサンジェルス・フィルとの一連の録音が今でも人気がありますが、同時期にウィーン・フィルを指揮しての録音も、同オケとの相性の良さもあり、優れた演奏を聴かせてくれました。これはその中の一枚です。
第1楽章冒頭からもったいぶらずにストレートに情熱をぶつけてくるような演奏です。第1主題も第2主題もやや速めのテンポで、音質は明らかにハイ上がりなのですが、歯切れが良く明快で、大変元気が良い印象です。ちっとも葬送行進曲っぽくないですね。深刻ぶらない良さあって、暗いのが苦手な人には良いでしょう。
展開部はぐっとテンポを落とし、ウィーン・フィルのチャーミングな音色も相まってメルヘンチックです。ホルンやトランペットが雄叫びを上げ、ティンパニやシンバルが強打され、フルートやヴァイオリンのソロが花を添える中、再び第1主題の動機が劇的に演奏されます。とにかくテンポの伸縮が大きく、ウィーン・フィル全開という感じで、分かり易い演奏なのです。この辺りの演奏効果は抜群で、さすがメータと言いたいところです。
再現部は滑り出すように始まり、葬送行進曲は提示部と異なってテンポをぐっと落として演奏されます。
第2楽章も楽しげです。笑みが溢れているような、そんな演奏。第1トリオの「悲しげな回想」は弦が美しく、いかにもウィーン・フィルというような木管が好ましいです。主題の再現でもチェロが美しいです。第2トリオの色彩感も申し分なく、最後の主題再現もやはり楽しげで「過去の幸福な瞬間」を思い起こさせます。
第3楽章冒頭はティンパニの音が良いですね。強打しない演奏もあるのですが、なぜなのでしょう。この楽章でも終始ティンパニがものを言います。「穏やかに流れるように」というより、アクセントが効いていて快活で積極的な印象で、聴く側も楽しいです。演奏している側も楽しいのでしょう。トリオもその延長線上で、輝かしく歯切れがよいです。
第4楽章はルートヴィヒの独唱で、独語のお手本のような歌唱を聴かせてくれます。さすがです。「原光」のベストのひとつではないでしょうか。
第5楽章冒頭は録音が難しいと思いますが、なかなか上手く収めていると思います。ウィーン・フィルもこんなに凄まじい音を出せていたのですね。
第2部の冒頭の打楽器も同様で、その後の「近代オーケストラの総力をあげて描いた戦闘の描写(by金子建志)」は鮮やかの一言に尽きます。
第3部のトランペット、夜鶯のフルート、ピッコロも上々、そしてようやく合唱が始まります。歌劇場合唱団のバスは超低音を出せる人がある程度はいることに感心します。人数が揃えられていて立派な合唱です。ソプラノはコトルバスで、独唱二人が非常に優れているのも当盤の強みです。力強いクライマックス、コーダも申し分なく、初めてこの曲を聴かれる人に強引にお薦めしたいディスクです。


イメージ 5

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
キャスリーン・バトル(ソプラノ)
モーリン・フォレスター(アルト)
ニューヨーク・コーラル・アーティスツ(?)
ニューヨーク・フィルハーモニック
ズービン・メータ(指揮)
1982年3月7日(ライヴ)

ズービン・メータの2つめは、1978年から1991まで音楽監督を務めたニューヨーク・フィルとの録音です。
第1楽章は、メータの基本的な解釈は先述のウィーン・フィル盤とあまり変わっていないように思われます。ただ、録音がだいぶ異なっていて、派手めの音質のウィーン・フィル盤と比べると、こちらはだいぶ大人しく聴こえます。重心が高くて逆ピラミッド型です。ニューヨーク・フィルにも音色の魅力がありません。そうは言っても、提示部、展開部でのクライマックスは現代のオーケストラらしい機能美を聴かせます。
第2楽章になると私の耳もこの録音にだいぶ慣れてきたのですが、腰高な印象は拭えまぜん。
第3楽章は 「おだやかに流れる動きで」なのですが、テンポが速めで少しせわしない感じがします。ニューヨーク・フィルも緊張していて音楽がに堅さ(のっぺりした感じ)があるように思われます。好きな楽章ですが、あまり魅力を感じませんでした。
第4楽章の独唱は、カナダの名アルトです。キャプランの「復活」や、ワルター指揮のステレオ録音の「復活」でも歌っているマーラー歌手で、秀逸な歌唱を聴かせてくれます。
第5楽章冒頭は、録音で損をしており、強烈な響きには至っていません。以下、ずっと聴き流しているのですが、ニューヨーク・フィルの金管陣はやっぱり優秀ですね。
第2部冒頭も冴えない録音のせいで、今ひとつ響きが弱いのですが、その後の演奏自体は大したものだと思います。ここでも金管セクションがよい仕事をしています。
第3部の声楽は、ベテランのフォレスター、可憐な声で有名なバトルという布陣ですし、合唱は合唱のピントのぼけた写真のような録音なので上手下手がよくわかりませんが、OKです。

ところで、ライヴ収録であるにしても、最初から最後まで聴衆の咳がやたらと多いです。この日の聴衆は風邪をひいている人が多かったのでしょうか。ライヴで残す意味が感じられず、これはセッションできちんと録音してほしかったですよ。


イメージ 6

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ナンシー・グスタフソン(ソプラノ)
フローレンス・クイヴァー(アルト)
プラハ・フィルハーモニー合唱団
イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
ズービン・メータ(指揮)
1994年1月、2月
テル・アヴィヴ,フレデリック・R・マン・オーディトリアム

メータ3度目の復活で、1968年より音楽顧問、1977年より音楽監督、1981年より終身音楽監督(2019年退任予定)を務めているイスラエル・フィルです。今度は録音が優秀で助かります。
第1楽章提示部は録音を繰り返すたびテンポが速くなっている印象がありますが、どうなのでしょう。
第1楽章提示部は、しばらく聴いているうちにオーケストラのアンサンブルの秀逸さが感じ取れるようになりました。このオーケストラは弦が美しいことで有名であり、それはさすがなのですが、その他の楽器も巧いですね。
展開部、ティンパニの「ダンダダン」の後、徐々に強烈なクライマックスが形造られますが、イスラエル・フィルがバリバリ鳴っている感じです。
再現部に至り、メータもこの録音から巨匠風の音楽をやるようになり、若い頃の才気はどこかへ行ってしまったようだという感慨にふけるようになりました。
第2楽章も立派な表現なのですが、なぜかあまり心を打ちません。美しい音だけで勝負しているような感じがします。私自身が疲れているということもあるのでしょう。
第3楽章も申し分のない演奏ではあるのでしが、これも心を打ちません。なぜでしょう。これが他の指揮者の演奏だったら絶賛したかもしれません。それほどまでにウィーン・フィル盤は強烈な印象を残したということなのでしょうか。
第4楽章のフローレンス・クイヴァーは「復活」以外を含めてあちこちの録音で名前を見かけますが、水準の出来かと思われます。ここではむしろメーター指揮イスラエル・フィルの美しい演奏に耳を傾けるべきかもしれません。後半のブラスのアンサンブルがとても美しいです。
第5楽章、メータはアンサンブルは整えるものの、テンポの伸縮やデュナーミクの微妙な変化などの指示は出しておらず、巨匠風の音楽を聴かせるようになっています。このコンビによる「復活」の演奏会は多いのでしょう。一種のルーチンワークのようになっていて、それが演奏に安定感をもたらしているのですが、白熱感・臨場感は希薄であるように感じられます。
第3部におけるホルンのやトランペットエコー、フルートとピッコロの絡みは美しいです。その後の静謐な合唱も申し分ありません。二重奏も二人の声質が似ているので良い感じです。プラハ・フィルの合唱団(人数が多いみたい)は最後まで良く通る立派な合唱でした。最後はしっかりオルガンも響き、大団円で終わります。
こんな立派な演奏を聴いて感動できないというのは、私に問題があるのでしょう。睡眠がうまく取れないので疲れているのです。


イメージ 8

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
チェチーリア・ガスディア(ソプラノ)
クリスタ・ルートヴィヒ(メゾ・ソプラノ)
クラクフ・ポーランド放送合唱団 
アルトゥーロ・トスカニーニ協会管弦楽団 
ギュンター・ノイホルト(指揮)
(ライヴ録音)

第1楽章冒頭の低弦の図太さにおおっと思います。これはすごい演奏が始まる前触れではないかと思いました。弦の人数が多いのでしょうか。なかなかメリハリがきいていて良い感じです。迫力はあるのです。ただ、表現が一本調子で、次第に飽きてきます。もう少しなんとかならないのかって思います。第3楽章もティンパニの強打がすごく、こういうところは押さえてあるのですが、なんだかアマチュア・オーケストラによる演奏みたいでアンサンブルも今ひとつです。音楽が単調に過ぎると思います。
唯一素晴らしいと思ったのは第4楽章で、どうしたことか名歌手ルートヴィヒが参加しています。デリカシーのない伴奏に支えられながら名唱を聴かせてくれます。もったいない……。
要するにこのオーケストラはあまり上手じゃないです。合唱も。


イメージ 7

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ガブリエラ・ベニャチャコヴァー(ソプラノ)
エヴァ・ランドヴァー(アルト)
プラハ・フィルハーモニー合唱団
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団,
ヴァーツラフ・ノイマン(指揮)
1980年

これはノイマンが1976年から1981年にかけてスプラフォンにレコーディングした交響曲全集からです。ノイマンもマーラー指揮者として有名で、スメタナやドヴォルザークだけじゃないってことです。
第1楽章冒頭の低弦は意外に軽めです。チョコチョコキョロキョロしている感じです。その後はシンバルの音も鋭く、お約束どおり盛り上がります。第2主題も速めながらよく歌っています。葬送行進曲も軽め。展開部はテンポをぐっと落として第2主題を美しく歌い上げます。優美なチェコ・フィルなので今ひとつ盛り上がりきらない嫌いがありますが、ウィーン・フィルとはまた違った鮮烈さ・素朴さもありますね。ティンパニが第1主題を強打するところは迫力があります。くすんだ響きの金管も素敵です。小細工を労せずに一心に突き進むノイマンの指揮にも好感がもてます。言い換えれば幾分素っ気ないとも言えますが。
弦の国、チェコのオーケストラによる第2楽章は、こざっぱりと速めのテンポで軽く演奏されます。こんなユニークな第2楽章は初めて聴きました。スラヴ舞曲みたい。軽いと書きましたが、チェコ・フィルの弦は明るいです。
第3楽章は楽曲がノイマン&チェコ・フィルの個性にあっているのでしょう。この曲の一面であるペーソスがうまく表現できていると思います。もう少し歌って欲しいと思う箇所もなくはないですけれど。終始木管楽器が活躍しており、管だけでなく、各声部が明瞭なので、いろいろ発見もありました。
第4楽章のランドヴァーという人についてはよくわかりませんが、かなりドイツ語の発音に気を遣っているのが聴いて取れます。子音を立てすぎかもしれませんが、これぐらい発音してもらわなければとも思います。なかなかシリアスな歌唱でした。管弦楽伴奏も良かったです。
第5楽章の31分13秒は短いほうだと思いますが、あまり分離がよくない不明瞭なステレオ録音なので冒頭など効果が今ひとつです。「荒野に呼ぶもの」のホルンが巧いです。その後も割とさくさくと進行していきます。トロンボーンによる「復活の主題」も良し。その後もきりっと引き締まっており、色彩感も出ています。
第2部(展開部)も良いですね。何よりテンポが良いです。対位法がきちんと整理されている感じで聴いていて実に気持ちが良いです。頂点の築かれ方はなかなか壮大です。
第3部「偉大なる呼び声」は舞台裏がすごく大きな音で鳴っていて、舞台裏の意味があまりないような気もします。そういう録音なのでしょう。割とすぐ無伴奏の合唱(復活の主題)が始まります。ヴォリュームも十分で立派な声が好印象。独唱も合唱と同質の声でうまく溶け込んでいます。ランドヴァーは声の威力、ベニャチャコヴァーは少し癖のある歌い方をしますが、声楽陣は声が揃っているので聴き易いです。合唱がオーケストラと同等以上なのでコーダが力強く響きます。


イメージ 9

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
シビッラ・ルーベンス(ソプラノ)
イリス・フェルミリオン(メゾ・ソプラノ)
ライプツィヒ放送合唱団
シュトゥットガルト放送交響楽団
サー・ロジャー・ノリントン(指揮)
2006年7月5-7日(ライヴ)
シュトゥットガルト,リーダーハレ,ベートーヴェンザール

速いテンポのノン・ヴィブラートによるベートーヴェン交響曲全集で賛否を巻き起こしたノリントンですから、きっとこのマーラーでもなにかやってくれるに違いないと信じていました。しかし、これは全く普通の演奏じゃなですかね。けして居丈高にならないクリアなサウンドに欲求不満を感じます。良いところがないわけじゃやないのです。第5楽章第2部(展開部)は「第1主題と第3主題の多彩な展開で、さまざまな対位法の技法が駆使されている」のですが、そういうところが実にわかりやすい。でも、これは私のイメージじゃない。彼がホルストの「惑星」を指揮したときにも同じ失望感を味わい、すぐ売却してしまったのを思い出しました。


イメージ 10

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
レグラ・ミューレマン(ソプラノ)
アンナマリア・キウーリ(メゾ・ソプラノ)
トリノ・レージョ劇場管弦楽団&合唱団
ジャナンドレア・ノセダ(指揮)
2015年10月24日(ライヴ)
トリノ,レージョ劇場

ミラノ生まれのノセダは、マリインスキー劇場をゲルギエフとともに支えており(首席客演指揮者)、2007年からはトリノのレージョ劇場の音楽監督でもあります。
マーラーは、このオーケストラにとって日常的なレパートリーではないのかもしれませんが、予想に反してずっしりした響きを聴かせてくれます。第2主題も濃厚な歌です。ただ、1973年4月に再建されたレージョ劇場は音響面での評価は良くないそうで、この録音も響かない、潤いのない音響がマイナスとなっています。そうは言うものの、この曲を取上げるからには期すものがあったのでしょう。不器用ながらもオケの頑張りが聴こえ、そういうところに人は感銘を受けたり、感動したりするものです。
第2楽章も洗練されておらず、がさがさしている感じですが、歌劇場のオケらしく、歌おうとする姿勢が感じられます。豊かな歌です。
第3楽章冒頭は精一杯のティンパニ。管楽器がオンマイクの録音なので、この楽章は面白く聴けます。この楽章はなかなか良いです。なによりテンポ感が優れています。
第4楽章のキウーリの独唱はなかなか良いと思います。独語の発音が良ければ尚良かったかも。
尻上がりに好調になる「復活」ですが、第5楽章は彼らの集大成という観があります。特にトロンボーンによる「復活の主題」以降の盛り上がり、第2部の小太鼓のロール以降は彼らの真骨頂でしょう。
第3部の合唱は歌劇場の合唱団らしい発声です。独唱二人もなかなかのものです。全管弦楽と合唱と独唱によるクライマックスはなかなか圧巻で、素直に感動しました。振り返ってみればこれはなかなか良い演奏でした。


イメージ 11

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
アンネ・シュヴァネヴィルムス(ソプラノ)
リオバ・ブラウン(アルト)
バンベルク交響楽団合唱団
ロルフ・ベック(合唱指揮)
バンベルク交響楽団
ジョナサン・ノット(指揮)
2008年3月14,15日
バンベルク,ヨゼフ・カイルベルト・ザール

【お薦め】
ジョナサン・ノットは1962年生まれのイギリスの指揮者です。2000年から2016年までバンベルク交響楽団の首席指揮者でしたが、日本では東京交響楽団の音楽監督(2014年~)としてのほうが有名でしょう。
第1楽章は冒頭の低弦の勢いとキレ、量感が素晴らしいです。やや速めの葬送行進曲ですが、表情にメリハリがあって盛り上がりにも欠けていません。第2主題は繊細な歌を聴かせます。聴き惚れているうちに提示部が終わってしまいます。
展開部第1部の第2主題は(そういうスコアになっているのですが)一層繊細です。ひとつひとうの音型が実に丁寧によく歌われていることに感心します。迫力にも凄まじいものがあり、ティンパニの強打が常に効果的です。
短い第2部はフルートやヴァイオリン・ソロが美しく、すぐに壮絶な第3部となり、ここまで来ると、これは「復活」の名盤の中でも上位に位置するものだと確信するに至ります。
再現部は管弦打のバランスが理想的で、第2主題も夢見るような美しさです。不安に満ちた葬送行進曲の後、速度を上げて第1楽章が幕を閉じます。
第2楽章はゆったりとしたテンポで始まりますが、微妙な表情の付け方など細部の彫琢に感心します。チェロによる主題再現はすごくきれい、第2トリオは情熱的、心がざわつきます。最後は優美な音楽を聴かせてくれます。
第3楽章は冒頭のティンパニの音の堅さに驚きます。流麗でありながらメロディがよく歌われ、木管楽器がすごく魅力的に聴こえます。クライマックスの音響も壮絶を極めます。
第4楽章の独唱は、ドイツ生まれのリオバ・ブラウンですが、ノット指揮の演奏があまりにも素晴らしいため、もう少し上のランクの歌手だったら、なお素晴らしかっただろうにと惜しまれます。
第5楽章は34分34秒で平均的なタイムです。第1部冒頭は予想どおりの迫力です。一区切りついた後の「荒野に呼ぶもの」の動機のホルン、木管による第3主題も、これまで同様に丁寧に演奏されますが、トランペットが不安定な箇所があるのが残念です。ぽつりぽつりと語られる第4主題ではノットのうなり声も(微かに)聴こえ、その後の聴かせどころである盛り上がりも過不足のない出来です。
第2部冒頭の小太鼓のロール他の打楽器が凄まじく、続く展開部はほど良いテンポで緩急の差も理想的です。対位法が駆使されていることからか、なんとなくブルックナーの第5番終楽章を思い出してしまいました。それくらい鮮やかな演奏ということです。
第3部「偉大なる呼び声」の部分は厳粛な感じ、無伴奏の合唱が美しく、続く管弦楽のみの場面も清々しく演奏されます。弦楽器の伴奏による合唱は柔らかく暖かみのある感じです。アルト独唱はこの楽章では良く、第4楽章録音時には疲れていたのかもしれません。ただ、今度は続くソプラノがいただけないです。オルガンも加わったクライマックスも素晴らしいです。
独唱に物足りなさがあったものの、これは21世紀の名演と言って差し支えないでしょう。

マーラー 交響曲第2番「復活」の名盤 Oo~St

$
0
0
イメージ 1

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
スーザン・シルコット(ソプラノ)
ヴィオレッタ・ウルマーナ(アルト)
ベルギー王立歌劇場管弦楽団&合唱団
大野和士(指揮)
録音時期:2002年(ライヴ)
録音場所:ブリュッセル,パラ・デ・ボザール

大野和士は、1988年にザグレブ・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者に就任、音楽監督も兼務して1996年まで在任。1996年-2002年にはカールスルーエ・バーデン州立歌劇場の音楽総監督、2002年- 2008年にはベルギー王立歌劇場(モネ劇場)の音楽監督。2008年からはフランス国立リヨン歌劇場において、首席指揮者として活躍している人です。国内では1992年から2001年まで東京フィルハーモニー交響楽団の常任指揮死者、現在は桂冠指揮者、2015年4月から東京都交響楽団の音楽監督です。
第1楽章冒頭は押しつけがましくなく、自然な開始ですが、金管やシンバルが加わる頃の盛り上がりは十分です。第2主題も非常に丁寧に歌われ、最後は悲劇的になります。全体によく引き締まっており、贅肉を落とした感じの演奏です。
展開部の第2主題は切々と歌われます。第1種台が勢力を増す頃のシンフォニックな表現も良いです。ティンパニが第1主題の動機を強打するところは、もう少し強く欲しいところ。迫力はあるものの、スケール感が不足していおり、こぢんまりとした印象があります。
再現部もゆったりしたテンポで丁寧に演奏されているのですが、曲の長さを感じてしまいました。
そのような演奏なので、予想どおり第2楽章が良い出来です。こういう響きでベートーヴェンの光交響曲第9番を聴いたら気持ちがよいだろうと想えるような演奏。
第3楽章は冒頭のティンパニがもう少し大きな音がほしいです。その後は気持ち速めのテンポで旋律がよく流れます。ただ、他にないもの、この指揮者とオーケストラならではの何かを求めようとすると物足りなさを感じてしまいます。
第5楽章第1部は各主題を的確に描き分け、なかなか聴かせるものがあります。
第2部は冒頭の打楽器がとりわけ凄まじく、文字通り主題が多彩に展開されていきますが、オーソドックス、悪く言えば常套的でしょうか。
第3部は独語らしく聴こえないけれど合唱は立派ですし、独唱2人も悪くありません。クライマックスとコーダもなかなかの盛り上がりを聴かせます。
総じてよく整理整頓された演奏とは思うものの、前述のようにこの演奏ならではというものが見いだせなかったので無印としました。


イメージ 2

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
キリ・テ・カナワ(ソプラノ)
マリリン・ホーン(メゾ・ソプラノ)
タングルウッド祝祭合唱団
ジョン・オリヴァー(合唱指揮)
ボストン交響楽団
小澤征爾(指揮)
1986年12月
ボストン,シンフォニー・ホール

【お薦め】
以下、HMVさんより引用しました。
小澤征爾がPHILIPSレーベルで制作したマーラー交響曲全集の最初の録音となったのは、ボストン交響楽団創立100周年を記念してつくられた第8番「千人の交響曲」でした。1980年にセッション・レコーディングされ、翌年すぐに発売されたこのLPは各国で高い評価を受けますが、当時、PHILIPSレーベルにはすでにハイティンクによるマーラー交響曲全集があったため、まだまだ市場価格が高額だったマーラーの全集制作がすぐに開始されることはありませんでした。
しかし、1986年12月に録音された小澤征爾の得意曲でもある交響曲第2番「復活」が高い評価を得ると、一気に全集制作の流れとなり、翌1987年10月に第1番「巨人」、翌月に第4番、翌1988年12月に第7番「夜の歌」を録音。その後、PHILIPSはライヴ録音での制作に方針転換し、1990年4月に第9番と第10番アダージョ、同年10月に第5番、1992年初頭に第6番、翌1993年4月に第3番を収録して全集を完成しています。(引用終わり)
そのような経緯による小澤/ボストン響のマーラー全集ですが、名盤として取上げられることが少ないです。その理由も含めて改めて聴いてみたいと思います。
第1楽章、ボストン響の重厚なアンサンブルに惹かれます。こんなに良い演奏だったっけ?というのが正直な感想で、比べればわかる(なぜ今までわからなかったのか?)小澤/ボストン響の素晴らしさです。全集録音の契機となっただけのことはあります。「復活」はかくあるべしというような、お手本のようなテンポの設定と管弦打のバランス、そしてとても優秀な録音です。
第2楽章も、ボストン響の弦はしなやかで、主題とトリオの対比が絶妙です。これ以上求めるものは何もないと言いたくなる演奏。
第3楽章も、この曲の理想的な名演です。他の楽章と共通している事項ですが、テンポが心地良く、しっくり来るのです。
第4楽章は、名歌手マリリン・ホーンを起用しており、スケールの大きな歌唱ですが、私の好みだともう少し地味でもいいかなというところです。
第5楽章も、例えば第1部の第3主題後半、トロンボーンによる「復活の主題」から第1部終わりまでの金管の素晴らしさ、第2部の積極性(テンポの速さ)、それに応えるボストン響のアンサンブルの鮮やかさと言ったら。
そして第5楽章第3部で、ようやく合唱が入りますが、タングルウッド祝祭合唱団はホールの響きもあり、豊潤な印象を与えます。それに加わるソプラノ独唱は、キリ・テ・カナワという豪華さです。二重唱はホーンに負けていません。合唱とオーケストラ、オルガンによるクライマックスも圧倒的で、これほど壮麗な演奏は数えるほどでしょう。
私は次のサイトウ・キネンO.との録音を絶賛していますが、完璧さと壮大さの点で、ボストン響との演奏が一枚も二枚も上手です。最近の指揮者による演奏に勝るとも劣らない名演でした。


イメージ 3

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
菅 英三子(ソプラノ)
ナタリー・シュトゥッツマン(コントラルト)
晋友会合唱団
関屋 晋(合唱指揮)
サイトウ・キネン・オーケストラ
小澤征爾(指揮)
2000年1月2-5日
東京文化会館

【お薦め】
第1楽章は素晴らしい弦楽合奏で始まります。木管による主題からの盛り上がりもなかなかです。第2主題も繊細かつ優美。再び始まる第1主題は理想のテンポの葬送行進曲となります。
展開部第1・2部は各主題が細心の注意をもって演奏され、いずれも激しい第1主題によって打ち破られるのですが、最初から第1主題で始まる第3部は強烈に始まり、強力な加速によって盛り上がります。この辺りの迫力もさすが。
再現部は常に木管が悲しげで、全体に悲壮感が色濃く漂っています。
第2楽章は相変わらずの惚れ惚れとする弦楽合奏で、デュナーミクが絶妙です。とりあえず日本人らしい繊細な表現としておきましょうか。
第3楽章はティンパニの強打で目が覚めます(寝てた?)。このような曲はサイトウキネンO.が得意とするところではないでしょうか。フルートに工藤重典、オーボエに宮本文昭、クラリネットにカール・ライスター、ホルンにラデク・バボラークを要していたスーパー・オーケストラですから、このぐらいは出来て当然?
第4楽章はナタリー・シュトゥッツマンが美しい声で名唱を聴かせます。この「原光」もベストを争うものでしょう。彩りを添える木管楽器やヴァイオリン・ソロもとても美しいです。
第5楽章は録音の優秀さもあり、聴き甲斐があります。
第1部は次々に現れる独奏楽器がいずれも素晴らしく、第3主題から自然に盛り上がっていく様も自見事です。
そして凄まじいのが第2部の冒頭。小澤征爾がオケを煽っている姿が目に浮かぶような、快速テンポで進行しますが、音量は控えめで常に余力を残しており、ここぞ!というときには爆発的な威力があります。
第3部の私的な聴き所は、晋友会による合唱でしょうか。実際、他の「復活」に比べても全く遜色がありません。もちろん菅英三子とシュトゥッツマンの独唱も素晴らしいです。オルガンが加わってからのクライマックス及びコーダも感動的で、これは数ある「復活」の、そして小澤征爾の録音の中でもベストと言える名盤ではないでしょうか。今さらですが、小澤征爾はサイトウ・キネンO.を得て初めて自己の芸術を表現する術を得たと言っても過言ではないでしょう。


イメージ 4

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
アーリーン・オジェー(ソプラノ)
ジャネット・ベイカー(メゾ・ソプラノ)
バーミンガム市交響楽団合唱団
サイモン・ハルジー(合唱指揮)
バーミンガム市交響楽団
サー・サイモン・ラトル(指揮)
1986年4月27日,5月30日,6月1日
ロンドン,ワトフォード・タウン・ホール

ラトルは、バーミンガム市交響楽団と1986年から2004年まで17年もかけてマーラー交響曲全集を録音しており、高い評価を受けました。この第2番「復活」は、その最初の録音となります。
第1楽章は23分52秒(小澤盤は20分56秒)で粘ります。巨人が足を引きずるような表現です。これほどテンポが遅い「復活」は初めて聴きました。このテンポが維持されるわけではなく、第1主題提示の後半はむしろ速いくらいでしが、終りは元に戻ります。
展開部第1部も始めは遅いものの、次第に勢いを増します。つまり、終始、緩急の差が著しい演奏なのです。第3部のティンパニによる第1主題以降は遅くなり、また速くなるといった具合にクライマックスに合わせて伸縮します。これが他の指揮者だったら個性的な表現と賞賛するのでしょうが、ラトルだと行き過ぎと思うのはなぜでしょう。
第2楽章も濃厚な表現で、ホールの豊かな残響と相まってバーミンガム市響の弦が美しいです。主要主題は心持ち遅いくらいのテンポですが、トリオになると速くなる、緩急の差の設け方は第1楽章同様です。
第3楽章は良いですね。この曲のお手本たり得る名演です。テンポは適切、楽器間のバランスが最上に保たれ、非常に洗練されています。
第4楽章の独唱は今回何度目になるかわからないジャネット・ベイカーです。もはや「復活」のスペシャリストですね。
第5楽章冒頭は予想したとおりの壮絶な響きで始まります。第1楽章で印象的だった意識的な緩急差、テンポの伸縮は目立たず、管楽器が美しく、全体は自然で伸びやかな演奏です。
第3部の合唱は少し遠いですが、なかなか良く、それに被せるようにまずオジェーが歌います。独唱者二人が揃っているのがこのCDの売りのひとつでもあります。ベイカーとの重唱も素晴らしいです。バランスとしてもう少し合唱が大きいほうが好みですが、壮大なクライマックスを聴かせてくれました。
なお、ラトル盤は次のベルリン・フィル番を【お薦め】にしたいと思います。


イメージ 5

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ケイト・ロイヤル(ソプラノ)
マグダレーナ・コジェナー(アルト)
ベルリン放送合唱団
サイモン・ハルジー(合唱指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
サー・サイモン・ラトル(指揮)
2010年10月28-30日
ベルリン,フィルハーモニー

【お薦め】
第1楽章冒頭は、ベルリン・フィルの強力な低弦に始まります。ちなみにこの楽章のタイムは24分24秒で旧録音より若干遅くなっています。当盤でも全体の表現は同様で、テンポの緩急・伸縮差は大きめですが、もっと自然なものとなっており、ラトルの円熟が聴き取れます。それゆえ演奏時間が長くなっているのでしょう。バーミンガム市響の演奏も良かったのですが、第2主題提示などさすがベルリン・フィンと言える美しさですし、第3部開始時の第1主題などすごい迫力です。それにしてもバーンスタイン新盤並みの遅さでした。バーンスタインはもっと遅いのですけれどね。
第2楽章も濃厚でロマンティックな味付けで、やはり緩急の差が大きいです。ベルリン・フィルの巧さが際立っています。
第3楽章冒頭は、ティンパニの強打がもの凄いです。デュナーミクの巾が大きく取られているのも当盤の特徴なのです。バーミンガム市響との録音を「お手本」と書きましたが、さらに洗練された表現に魅了されます。木管楽器を抑え、弦とのバランスを取り、また、トリオとの対比が際立つようにしています。まさに「おだやかに流れる動きで」演奏されているのがわかります。
第4楽章の独唱は、ラトルの奥さん(2008年結婚)のコジェナーです。素晴らしい歌唱です。魅力的な声に加え、独語が完璧です。
第5楽章第1部の冒頭はベルリン・フィルならではの壮絶な音響。続く第2主題(慰めの主題)のホルンや「復活の主題」のトロンボーンの美しいこと。ティンパニは堅く力強い音で存在感をアピールしています。
第2部開始の長い打楽器の後、ベルリン・フィルが高い技術を駆使しての展開部となります。
第3部は舞台裏の金管さえ素晴らしく、夜鶯のフルートとピッコロも素晴らしいです。
ベルリン放送合唱団は人数が少ない感じですが、そのせいで声質や音程が揃っており、美しいです。途中からロンドン生まれのソプラノ:ケイト・ロイヤルが加わります。少々堅さがありますが、良く通る美しい声の持ち主です。コジェナーに似た声なので、違和感無く聴くことができます。
クライマックスは声と楽器による音の饗宴に圧倒されました。


イメージ 6

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ミミ・ケルツェ(ソプラノ)
ルクレツィア・ウェスト(メゾ・ソプラノ)
ウィーン・アカデミー合唱団
ウィーン国立歌劇場管弦楽団
ヘルマン・シェルヘン(指揮)
1958年6月

シェルヘン(1891年-1966年)の「復活」がWestminsterレーベルによる良質なステレオ録音で楽しめるとはありがたいです。
第1楽章提示部はしばらくは真っ当な解釈ですが、大きな抑揚と叩きつけるような感情の爆発もあります。
展開部第2主題は夢見るような美しさで、その後もまどろむように進行しますが、次第に第1主題が勢力を強めます。この辺りの語り口が上手です。第2部は快速テンポで巧いフルートのソロにより始ますが、それを打ち破るはずのティンパニが強打ではなく優しく叩かれるのは驚きです。そこからテンポを少しずつ速め、凄まじいクライマックスに導かれます。
再現部は非常にゆったりです。葬送行進曲は時には止まりそうな速度になります。この先には何が待ち受けているのだろう?と思わせます。それだけに半音階風の下降が際立ちます。
第2楽章は一見優雅ですが、巨人の足取りを思わせる表現もあれば、チャーミングでもあります。
第3楽章は12分31秒(小澤盤で10分21秒)です。冒頭は少し重いティンパニで始まり、テンポも重いのがユニークです。タムタムの音が大きかったけれど、あれはスコアにあるのかな? トリオはそれほど遅くはなくその匙加減が絶妙です。クライマックスは壮絶でした。
第4楽章も遅めで、ルクレツィア・ウェストの暗めの声質もあり、逝ける者への哀歌のような曲になっています。中間部でドタドタ聴こえるのはシェルヘンの足音でしょうか。ちょっとうるさい。
油断していたら、第5楽章第1部の冒頭でやられてしまいました。これは凄まじい! その後は普通の速度なのがかえって新鮮です。
第2部にはいってから「荒野に呼ぶもの」あたりから、いきなりテンポを速めるのも意外でした。
第3部に入ったところではパーカッションが強打されます。常にシンバルが強打されますが、これも聴き慣れない響きです。展開はむしろ速めのテンポで行われます。クライマックスは巨大ですが、もう少し音量がほしいところ。ダイナミックレンジが狭いです。
第3部の合唱はバスにすごい人がいます。もはやその一部の人しか出せない音域ですが、その人さえも出せないくらい低い音が出てくる合唱なのです。大勢いるのでしょう、たっぷりした合唱です。その後は非常にゆっくりした足取りで進み、壮大なコーダに至ります。


イメージ 7

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ハンニ・マック・コサック(ソプラノ)
ヘルタ・テッパー(アルト)
SWRヴォーカル・アンサンブル
シュトゥットガルト・バッハ合唱団
シュトゥットガルト放送交響楽団
カール・シューリヒト(指揮)
1958年4月17日(ライヴ)

シューリヒト指揮の「復活」には、エディット・ゼーリヒ(ソプラノ)、ユージニア・ザレスカ(アルト)、RTF合唱団、フランス国立放送管弦楽団による1958年2月20日(グスタフ・マーラー・フェスティヴァル)という音源もあるのですが、入手できたのは4月17日のほうです。
第1楽章は淀みなくスムーズな進行で気持ちよいです。味が薄いというわけではなく、第2主題など実に表情豊かに歌われますが、ここぞというときの迫力にも欠けていません。とはいえ、この頃ですから録音は当然モノラルです。貴重な録音とはいえ、「復活」のような規模が大きくて長い曲をモノラル録音で聴き続けるのはつらい(弦楽器のコルレーニョとかほとんど聞こえません)ものがありますが、続けます。指揮に起因するのかもしれませんが、結構荒っぽいところもある演奏で、金管楽器の縦の線が揃っていなかったりしますが、それが迫力を生み出してもいます。最後の半音階は急速で下降します。
第2楽章は弦楽器をたっぷり鳴らし、かつよく歌わせた演奏。常にチェロが大きいのは録音のせい? 第2トリオでは感情の奔流のような切迫した表現も聴かせます。
第3楽章はやや速めのテンポでよく流れる演奏です。トリオへの意向もスムーズ、ファンファーレは元気が良いです。聴いていて楽しく、シューリヒトの芸風がよく出た楽章と言えましょう。
第4楽章は往年の名歌手ヘルタ・テッパーの歌を聴くことができます。声に表現力と威力があります。
第5楽章冒頭はまさしく切れば血が出るような響きです。どの部分にも血が通っており、人間性を感じさせる音楽となっています。草書体のマーラーという感じで、音楽が向かおうとしている方向に自然と合わせているようです。
第2部の、さすがにこのテンポは少し遅いと感じますが、逆にこのテンポだから、度々落ちそうになるトランペットにはもう少し頑張っていただきたいものです。合奏の乱れもありますので、リハーサルの回数が少なかったのかな。それとも本番のテンポが異なっていた(この頃のシューリヒトは毎回同じテンポで振らなかったらしいです)とか。
第3部の無伴奏の混声四部合唱の最中で変な音(ヒューヒューという口笛のような音)が聴こえるのはなんだろう? それはさておき、大人数の合唱と大管弦楽がつくり出すクライマックスはこの演奏にあっても圧巻でした。


イメージ 8

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ロザリンド・プラウライト(ソプラノ)
ブリギッテ・ファスベンダー(メゾ・ソプラノ)
フィルハーモニア合唱団
フィルハーモニア管弦楽団
ジュゼッペ・シノーポリ(指揮)
1985年9月
ロンドン,ワットフォード・タウン・ホール

第1楽章提示部は、数ある録音の中でも最速の部類ではないでしょうか、と思ったら第2主題以降は遅くなって結果的に普通のタイムでした。
展開部第1部はまず第2主題、これがとても美しく演奏されます。第1主題が支配するようになるとテンポが速まり、聴く側もワクワクさせられます。
第3部はなんと言っても第1主題。シノーポリはクライマックスの築き方が上手ですね。
再現部も第2主題になると、ぐっとテンポを落としてロマンティックに歌うところが提示部・展開部と同様で、葬送行進曲も遅めです。緩急の差が大きい第1楽章でした。
第2楽章は、主題がゆったりしたテンポで奏でられるのに対し、トリオになると急に音楽が動き出し、その描き分けが(シノーポリ盤に限ったことではないのですが)上手です。第1楽章同様、ヴァイオリン両翼配置も効果的でしたよ。
第3楽章は木管楽器への指示が興味深く、こんな響きは初めて聴きます。不思議な哀愁に満ちた楽章となりました。また、弦楽器や金管楽器も、ちょっとしたことで随分印象が異なるものだと感心しました。やり過ぎの部分もありますけれどね。
第4楽章は、名歌手ファスベンダーの登場ですが、珍しいのでは。表現がやや大仰に傾くところがあり、嘆願の歌という感じですが、独語はさすがです。弱音主体で美しい管弦楽伴奏も良いです。
第5楽章第1部は、第2主題のバックにある低弦が寄せては返す波のようです。いろいろ細かいところに気配りがあり、いちいち挙げていたらキリがないです。それにしてもフィルハーモニア管は金管の弱音がきれいですね。さすがです。
第2部はもう少しテンポが速いほうが好みですが、ひとつひとつ念を押しながら進行していくので、マーラーが技法を尽くした対位法がよく分ります。クライマックスは壮絶です。
それに比べると第3部は遅めのテンポでじっくり取り組んでいますが、シノーポリにしては、いささか普通であったかも。崇高な曲に余計なことはすまいと思ったのか。面白かったのはソプラノとメゾに声質の差があまりなかったこと。ファスベンダーはソプラノでも通用しますね。


イメージ 9

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ヘザー・ハーパー(ソプラノ)
ヘレン・ワッツ(コントラルト)
ロンドン交響楽団&合唱団
サー・ゲオルグ・ショルティ(指揮)
1966年5月
ロンドン,キングズウェイ・ホール

ロンドン交響楽団は「オーケストラ・ランキング 2017」(レコード芸術2017年3月号)で、第8位の名門オケです。歴代の首席指揮者もそうそうたる面々が名を連ねていますが、この録音が行われた当時はイシュトヴァン・ケルテスが首席指揮者(前任はモントゥーで後任はプレヴィン)でした。ショルティも大作「ニーベルングの指環」を録音し終え、心身共に充実していた頃でしょうから、この演奏も再録音のシカゴ響盤と肩を並べる名演なのではないかと期待してしまうのですが、どうでしょうか。(1度目に聴いた印象と2度目がかなり異なってしまったので戸惑っています。)
第1楽章提示部はDECCAの録音らしく、低弦のゴリゴリ感や高弦・金管のシャープさで、元気溌剌といった感じです。元気が良いだけでなく、第2主題は常にしみじみと丁寧に歌われますし、いくつかのクライマックスは常にドラマティックに、と、表現の幅も大きいです。要は、録音・演奏共に聴いていてスカッとする演奏なのですね。このような演奏は嫌いではありません。
しかし、第2楽章はどうもぎこちないというか、堅苦しい感じがし、もう少し洗練された美しさを望みたいところです。でも、悪くはありません。
第3楽章は、第2楽章より上手くいっており、ロンドン響もこちらのほうが性に合っているようです。
第4楽章は、シカゴ響との再録音よりこちらの方が好きです。それは単にアルト独唱の問題とも言えますが、ヘレン・ワッツの独唱には好感が持てます。
第5楽章は、冒頭がショルティの面目躍如です。音量控えめな部分はゆったりと丁寧ですが、盛り上がる部分、特に第2部は歯切れも良く、もう少し演奏効果優先で吹っ切れたところがあっても良い気がしますが、聴いていて気持ちが良いです。
第3部の合唱は(比較するのもおかしいですが)オケよりも優れていると思います。美しさ優先で独語の発音をおろそかにしている団体が多い中、不器用ながらも発音しようという姿勢が感じられます。
ロンドン響は現在のほうが演奏技術はずっと上(この頃はあまり巧くないみたい)だと思いますが、この頃には勢いがあったような気がします。


イメージ 10

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
イソベル・ブキャナン(ソプラノ)
ミラ・ザカイ(コントラルト)
シカゴ交響楽団&合唱団
マーガレット・ヒリス(合唱指揮)
サー・ゲオルグ・ショルティ(指揮)
1980年5月
シカゴ,メディナ・テンプル

【お薦め】
HMVさんによると、ショルティとシカゴ響によるマーラーは、1970・71年に収録された第5,6,7,8番と、1980-83年に収録された第1,2,3,4,9番というグループに分かれいて、初録音が第1グループで、再録音が第2グループなのだそうです。
恐ろしく機能的な「復活」が聴けそうですが、実際そうです。第1楽章冒頭の低弦など、この頃のDECCAの録音の特徴もあり、刺々しいくらいですが、高機能な演奏が好きなので、これはこれでよいです。竹を割ったような気性の楷書体の演奏で、音楽はすいすいと進行していきます。もちろん第2主題はぐっとテンポを落とし、人が変わったような優美な音楽を聴かせます。とにかく、シカゴ響の卓越したソロと合奏が見事ですが、やはり金管セクションの音量がものすごいですね。
第2楽章で主役は弦、そして木管に移ります。シカゴ響は弦も木管楽器もすごいのです。細心の注意委を払って演奏しているようで、たまにショルティのうなり声も聴こえてきます。
第3楽章はティンパニの音が良いです。この楽章の演奏は素晴らしく、前2楽章より優れているのではないでしょうか。繰り返しになりますが、シカゴ響の木管セクションはめちゃくちゃ巧いですね。
第4楽章は、ミラ・ザカイの音程に気になるところがあり、あまり独唱がよいとは思えないのですが、指揮とオーケストラはこの曲の静謐な感じをよく出しています。
第5楽章も、シカゴ響ならではの耳にご馳走な演奏で、壮大な音による大伽藍、大パノラマを見るようです。特に第2部がそうで、快速テンポが嬉しいです。
第3部は、名合唱指揮者のマーガレット・ヒリスによる合唱が見事です。合唱に重ねてイソベル・ブキャナンが歌い出しますが声量が豊かな人という印象を持ちました。この素晴らしい合唱とスーパー軍団オケにより、実に壮麗なクライマックスが築かれ、幕を閉じます。


イメージ 11

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ステファニア・ヴォイトヴィチ(ソプラノ)
アニー・デロリー(アルト)
ケルン放送交響楽団&合唱団
ウィリアム・スタインバーグ(指揮)
1965年9月10日
ケルン,フンクハウス・ザール1

スタインバーグは、1952年から1976年までピッツバーグ交響楽団の音楽監督であり、1969年から1972年まではボストン交響楽団音楽監督(小澤征爾の前任者)も兼任していたのですが、これはケルン放送響を指揮しての録音となります。
これが意外と言ったら失礼なのですが、良かったので取上げることにしました。何が良かったかというと、さっぱりしているところ。毎日毎日「復活」ばかり聴いていると、さすがに飽きてきますし、よほどの名演でない限り、ねっとりじっとりとやられるとうんざりします。その点、スタインバーグはテンポが遅くないし、粘らないし、淡々と進めているようで、音楽にドラマがあり、哀愁ありと、気持ちよく聴くことができました。それではなぜ【お薦め】ではないかというと、長所が短所でもあり、録音のせいでもあるのですが、軽量級で重心が高い感じがして、もう少しズシンとした重みがほしいと思うときがあるからです。
そういう意味では第2楽章が良かったです。第3楽章も軽妙で、それはそれでよいのですが、大太鼓の重みも聴きたいところです。
第4楽章のアニー・デロリーはめぼしい録音が当盤ぐらいですが、少し時代がかった感じです。また、伴奏の金管があまり上手ではありません。
第5楽章は、第2部がよいテンポです。ケルン放送合唱団もアマチュアっぽく、音程と発声が気になりました。


イメージ 12

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
クリスティアーネ・エルツェ(ソプラノ)
ミヒャエラ・シュースター(メゾ・ソプラノ)
ケルン・カルトホイザーカントライ
ケルン・バッハ=フェライン
ケルン音楽大学室内合唱団
ケルン音楽大学マドリガル合唱団
ボン・フィグラルコア
ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団
マルクス・シュテンツ(指揮)
2010年10月23-27日
ケルン,フィルハーモニー

【お薦め】
先述のスタインバーグ盤同様、この録音も気持ちよく聴くことができました。しかし、同じケルンのオケでも優秀さは当盤の方が断然上です。マルクス・シュテンツは、2003年から2014年までの指揮者で、後任がフランソワ=グザヴィエ・ロトであることは別の記事に書いたとおりです。
第1楽章冒頭の低弦は、おおっ!と思わせる量感です。その後もこのオケのアンサンブルの良さ、美しさを楽しむことができます。録音も優秀ですし、これは「名演」じゃないの?と思わせる出来です。テンポの緩急が極端だと思うときもありますが、マーラーならそれもありだと思うし、そのようなところが新鮮です。
第2楽章は、やや速めのテンポによる清冽な演奏で、弦がとても美しく、この弦であればこそ両翼配置が効くというものです。
第3楽章もやや速め、すいすい流れていきますが、薄味ではありません。メリハリが効いているからです。ところによってはぐっとテンポを落としてゆったりと歌い上げています。
第4楽章のミヒャエラ・シュースターは、ウィーン国立歌劇場2016年来日公演で、フリッカを歌っていたそうですからご存じの人もいるでしょう。独語のディクションがとてもきれいな人です。
第5楽章も素晴らしいです。第1部のトロンボーンによる「復活の動機」からが聴き所です。
また長い長~い、打楽器のロールから始まる第3部はさらに傾聴に値します。このオケは第一に弦が巧いのですが、管・打もそれに劣るものではありません。そして管・弦・打のバランスが素晴らしいのです。
そして第3部。4団体の名が上がっていますが、ドイツの合唱団だけあって、小さな音のところでも、きちんと子音が発音されており、他国の合唱団とはえらい違いで、やっとまともな合唱団に巡り会えたという思いがします。独唱ではやはりシュースターが素晴らしいと思います。エルツェも悪くありません。この合唱団とオーケストラですから、クライマックスは感動的ですし、フィナーレも圧倒的でした。文句なしの【お薦め】です。
ロト指揮の「巨人」が話題となりましたが、このオケを指揮する時点で、それは約束されたものであったのかもしれませんね。

マーラー 交響曲第2番「復活」の名盤 Su~Te

$
0
0
マーラーの交響曲第2番「復活」、第7週目です。
「復活」は長い曲なので、聴き比べも大変です。それで、先週は気分を一新しようと思い、月曜日から金曜日まで違う曲を聴いていました、新しい記事もその曲について書くつもりでした。
マーラーの「復活」はどうしたんだ?という反応を期待していたのですが、いざ書こうとすると、書けないのです。
職業に貴賎が無いのと同じように、音楽にも貴賤はないはずなのですが、私に記事を書かせるだけのエネルギーが、その曲には無かったのでしょう。記事を書くにはエネルギーが要るのです。
そのような理由から、今回は少なめになりますが、マーラーの「復活」です。一週休んでもよかったのですが、何も無いよりはマシかなぁ、と。


イメージ 1

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
マクダレーナ・ハヨーショヴァー(ハヨーショバ)(ソプラノ)
ウタ・プリエフ(プリーブ)(アルト)
ベルリン国立歌劇場合唱団
エルンスト・シュトイ(合唱指揮)
シュターツカペレ・ベルリン
オトマール・スウィトナー(指揮)
1983年
ダーレム,イエス・キリスト教会

【お薦め】
第1楽章冒頭は気迫を感じさせ、ベートーヴェンの「運命」を思い出しました。続く木管は対照的に柔らかい表情で、早くもただならぬ雰囲気を感じさせる提示部です。第2主題も心と気持ちが通っています。スウィトナーというと、私など穏健な指揮者というイメージがあるのですが、さにあらずといった感じがします。
展開部は、もっと心がこもった第2主題で始まります。SDの美しい響きを鑑賞しているうちにクライマックスが訪れますが、少しの外連味もない表現です。第3部最初の打楽器も迫力があります。音楽に身を任せているうちにいつの間にか再現部となり、コーダです。
第2楽章も、SDの厚みのある弦楽合奏が美しいです。この楽章も全く自然体の演奏で、気がつくと時間が経過してしまっています。ただ大人しいというわけでもなく、第2トリオも悲劇性が強調されたものとなっています。この色彩感、同じマーラーの交響曲第4番を思い出します。
第3楽章は、滑らかな主題の滑り出しと、小粋な表現が耳に心地良いです。トリオへの移行もスムースで、ファンファーレも違和感なく演奏されます。どこかのんびりとした雰囲気に癒されますが、クライマックスはなかなか壮大です。気がつけば終わっていたという感じです。
第4楽章は、気持ち速め。アルトのプリエフは派手さはなく及第点ですが、悪くありません。むしろ素朴な歌に好感がもてるくらいです。
続く第5楽章冒頭の壮大な音響にSDの底力を聴く思いがします。スウィトナーの「復活」は第1楽章を除いていずれも気持ち速めのテンポで、音楽の進行が水が高いところから低いところへ流れていくような自然さがあり、それが薄味でないところが長所です。トロンボーンによる「復活の主題」も良い響きで、第4主題の盛り上げ方も見事です。
第2部の始めは少々せっかちな感じもしますが許容範囲で、頂点に至るまでもなかなかの迫力です。
第3部の合唱は弱音に固執せず、最初からしっかりとした声で歌っているのが良いです。神秘的な感じは薄れますが、私は良いと思いました。ただ、合唱そのものの水準はあまり高くないようです。
多くのメゾやアルトが第4楽章より第5楽章のほうが好唱を聴かせるのですが、アルトのプリエフも例外ではありません。ハヨーショヴァーのソプラノも悪くないです。二重唱もなかなか良いです。
コーダの鐘はすごく地味な響き、オルガンも控えめで、最後まで効果を狙わない順音楽的な表現でした。もう少しマーラーの毒なようなものがあったらよいと思いますが、これだけ聴かせてくれれば【お薦め】でしょう。


イメージ 2

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ティーハ・ゲノーヴァ(ソプラノ)
ヴェッセーラ・ゾローヴァ(アルト)
ブルガリア国立“スヴェトスラフ・オブレテノフ”合唱団
ソフィア・フィルハーモニー管弦楽団
エミール・タバコフ(指揮)
1987年1月

【お薦め】
ブルガリアの指揮者で作曲家のエミール・タバコフによる(史上、最も安いと言われている)マーラー全集の一曲です。
第1楽章冒頭の低弦は、厳めしい表情です。その後もかなり圭角がはっきりした感じの演奏ですが、このような演奏は嫌いではありませんし、むしろ大歓迎です。今までに聴けなかった表現に飢えていますからね。直線的でドラマティックな迫力がすごいですし、叙情的な場面はしっとりと歌わせています。安っぽい、白黒はっきり付け過ぎているとか言われそうですが、表現だけでなく、録音もハープやコントラバスがきちんと聴き取れたり、打楽器がすごい迫力だったりと、なかなか興味深いです。
第2楽章は、打って変わって落ち着いた表情で主題が奏でられます。第1楽章との落差が大きい……。タバコフ指揮のベートーヴェン全集があるなら聴いてみたい、などと思ってしまいました。
第3楽章は再びメリハリのある音楽づくりに戻ります。ローカル色豊かなようでいて、不思議と洗練された表情で魅せる演奏です。
第4楽章は、ウタ・プリエフの独唱ですが、この人はわりといろいろなオペラに端役で出演しています。ワーグナーが多いのでしょうか。独語の発音はよくないですけれど、素朴な歌い口に好感が持てます。
そしていよいよ第5楽章です。他の楽器に打ち消されて普段は聴こえないハープがよく聴こえます。ハープに限らず、何でも聴かせようという録音のようで、こういうことが新鮮で嬉しいのです。
第2部も快速テンポで興奮させられます。他の演奏もこれぐらいで演奏してくれたらいいのに。タムタムが相変わらず金属的で派手な音を響かせます。
ブルガリアの合唱というと、ブルガリアン・ヴォイスを思い出しますが、どうでしょう、、、、、普通の合唱でした。コーダはものすごい迫力で、これでもか!というぐらいに盛り上がります。ソフィア・フィルは非力という意見もありますが、これは大熱演でしょう。
「復活」は長過ぎて、という人に【お薦め】したい、わかりやすい演奏です。廃盤中のようですが……。


イメージ 3

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
ガリーナ・コヴァリョーヴァ(ソプラノ)
エフゲニヤ・ゴロホフスカヤ(アルト)
キーロフ劇場管弦楽団&合唱団
ユーリ・テミルカーノフ(指揮)
1980年5月
レニングラード,キーロフ歌劇場

テミルカーノフは、1977年から1988年までキーロフ劇場(現マリインスキー劇場)の芸術監督・首席指揮者を務めていましたが、後任のゲルギエフに比べると、地味な印象があります。1988年からはレニングラード・フィル(現在はサンクトペテルブルク・フィル)の音楽監督と首席指揮者(前任者はムラヴィンスキー)を兼務していますが、CDを何点か購入して今ひとつだった印象があります。それでも何かを期待させる組み合わせではあるので聴いてみました。
第1楽章冒頭は鋭角的で、低弦がロシアっぽくない甲高い音で響きます。その後も腰高で、金管の圧力は凄いのですが、響きが薄く、表現があっさりとしていますが、よく言えば明快で分かり易い演奏です。しかし、あまりの単調さに聴いているのがつらくなってしまいました。
第2楽章はやや速めのテンポで豊かな歌を聴かせます。この楽章は良いですね。もっとも第2楽章がダメという演奏にはなかなかお目にかかったことがないのですが。
第3楽章は独特で面白いです。相変わらず抑揚が少ない表現なのですが、管楽器ののっぺりした歌と哀愁を漂わせる弦がこの演奏ならではのペーソスな味わいを生み出しています。
第4楽章のアルトはゴロホフスカヤですが、威厳のある声ではあるものの、表情過多である部分もあり、やや古臭さを感じさせます。
第5楽章冒頭も重厚さがなく、軽いです。録音のせいなのかも。第1部のクライマックスの金管は強力ですが、表情が平板でただ時間が過ぎていくだけです。
第2部の必死の打楽器も録音のせいで迫力に乏しく、その後の展開もきちんと交通整理がされて進行しているだけで、指揮者の凡庸ぶりがうかがえます。クライマックスもあまり盛り上がった感じがしません。
第3部の合唱は人数は多いみたいですが、位置が遠いのに、突然男声合唱が大きな音で現れたりする不思議な録音です。独唱も近くなったり遠くなったりします。盛り上がりを感じさせず、いきなり全曲を終えます。期待外れな演奏と録音でした。


イメージ 4

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
エディト・マティス(ソプラノ)
ドリス・ゾッフェル(メゾ・ソプラノ)
ロンドン・フィルハーモニー合唱団
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
クラウス・テンシュテット(指揮)
1981年5月14-16日
ロンドン、キングズウェイ・ホール

【お薦め】
Wikipediaでテンシュテットの生涯を読んで、ドイツ・オーストリアのオケと折り合いが悪いという意外な一面を知ったのですが、イギリスでは高く評価され、ロンドン・フィルとは相思相愛でした。テンシュテットが最も得意としたレパートリーはマーラーの交響曲です。
第1楽章は、テミルカーノフの演奏を聴いた後でもあり、すごく生気に満ちた、きめ細やかな演奏に聴こえます。いや、実際そうなのです。第2主題提示など止まりそうなテンポでたっぷりと歌い込まれます。展開部の第2主題も同様です。ここがこんなに遅い演奏も珍しいでしょう。クライマックスに至る頃には普通以上のテンポになる、全体に緩急の差を大きく設けた表現です。
第2部はそのままの速いテンポですいすい進みます。第3部は再び遅くなりますが、壮絶なクライマックスは快速のうちに終わります。
再現部の第2主題は再び止まりそうなテンポ、葬送行進曲も足取りが重く、ラストは大見得を切るようです。テンシュテットのセッション録音がこんなに変化が大きな演奏だったとは気がつきませんでした。
第2楽章も神経質なくらい微妙なテンポの緩急を設けていますが、第1楽章ほど大きなものではなく、聴き易く、11分21秒という演奏時間を感じさせません。
第3楽章はティンパニの音も鋭く開始され、少し重いですが、なかなか小気味が良いです。トリオのファンファーレも勇ましく元気がよく楽しい演奏ですが、その後で重く引き摺るところがテンシュテット独特です。
第4楽章のメゾのゾッフェルは声を張り上げることなく、素朴で情感豊かな歌を聴かせる、好感が持てる歌唱でした。
第5楽章冒頭も良く考え抜かれたもので、実演はさぞかし凄かったのでしょう。その後も低弦のリズムの強調がユニークです。その後もテンシュテットならではの振幅の大きな演奏が続きます。
第2部は、盛大な打楽器の強奏の後、時には前のめりになりながらも、勇ましいテンポで突き進みます。指揮者の興奮が伝わってくるようで、第2部はやはりこうでなくちゃと思います。
第3部の合唱は少々荒っぽいところもありますが、よく声が出ていて概ね良いと思います。独唱では、エディト・マティスがさすがで、ドイツ語の発音がきれいでした。
ラストは盛大にオケを鳴らして終わります。
危なっかしい箇所もありますが、ロンドン・フィルの、テンシュテットへの献身ぶりが感動的な演奏でした。ただし、テンシュテット/ロンドン・フィルは、後述のライヴ盤がお薦めです。


イメージ 5

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
イヴォンヌ・ケニー(ソプラノ)
ヤルド・ファン・ネス(メゾ・ソプラノ)
ロンドン・フィルハーモニー合唱団
リチャード・クック(合唱指揮)
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
マルコム・ヒックス(舞台裏指揮)
デイヴィッド・ノーラン(コンサートマスター)
クラウス・テンシュテット(指揮)
1989年2月20日(ライヴ)
ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール

【お薦め】
セッションよりも熱く燃え上がっていると言われているテンシュテットのライヴです。
録音は1981年のセッションより鮮明で生々しく聴こえ、第1楽章展開部第2部のクライマックスなど、録音の優秀さもあり、壮絶なものとなっています。聴き始めて気がついたのは、克明な感情表現など基本的なところは変わらないものの、音楽の運び方が少し自然になったように感じられること。時間の経過により解釈が一層練られたということでしょうか。
第2楽章は、海原を進む帆船のよう。これもセッションの時のような神経質な感じはありません。雄大さを覚えるくらいです。
第3楽章は、セッションの時よりもさらに重心が低く感じられます。それが少しもイヤではなく、心地良いのですが、トリオはテンポを速め、ファンファーレが輝かしく、その後はぐっと速度を緩めるなど緩急の幅の大きな表現を聴かせます。クライマックスはたたみかけるようにテンポを速め、大変盛り上がります。
第4楽章のアルトは、ファン・ネスでドイツ語の曲、特にマーラーの交響曲のアルトとして活躍していただけあって、安心して聴ける歌唱です。
第5楽章は、僅かに遅めの冒頭も凄まじく(といってもどの演奏・録音も凄まじいのですが)、圧巻です。セッションより低音楽器を大きめに捕えた録音なので重厚さがあります。は緩急の差が大きいのもテンシュテット指揮の特徴ですが、とにかく第1部は壮大です。
第2部冒頭の打楽器が凄まじいのもセッションと同様です。いや、もっと凄いですね。ライヴゆえの感興の高まりでしょうか、これだけ熱のこもった第2部も珍しいでしょう。思わず聴き入ってしまいました。
第3部の合唱も、セッションの時はレンジが狭く、作り物のような響きでしたが、その点、ライヴは自然です。ソプラノ独唱は、シドニー出身のイヴォンヌ・ケニーという人で、少しビブラートがkつめですが、演奏を損なうものではありません。フィナーレはオルガンの重低音も申し分なく、感動的でした。聴衆の反応も相当なものですが、それはそうでしょう。


Viewing all 183 articles
Browse latest View live