貪欲にクラシック音楽のレパートリーを広げていた頃、名曲ガイドや名盤本に頼らず、全く先入観なしで聴いて気に入った初めての曲がチャイコフスキーの交響曲第4番でした。テレビでNHK交響楽団のコンサートを視聴し、第1楽章の第2主題が忘れられなくて、早速地元のレコード店でシルヴェストリ指揮の廉価盤を購入したのでした。
ピョートル・チャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調 作品36
第1楽章
Andante sostenuto - Moderato con anima - Moderato assai, quasi Andante - Allegro vivo ヘ短調、序奏付きのソナタ形式
第2楽章
Andantino in modo di canzona - Più mosso 変ロ短調、三部形式
第3楽章
Scherzo: Pizzicato ostinato. Allegro - Meno mosso ヘ長調、スケルツォ(三部形式)
第4楽章
Finale: Allegro con fuoco ヘ長調、自由なロンド形式
チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
ピエール・モントゥー
ボストン交響楽団
1959年
ボストン,シンフォニー・ホール
第1楽章、運命のファンファーレから第1主題への移行が雰囲気たっぷりでさすがです。第1主題から経過部は速めのテンポですっきりしていますが、ベトつかない演奏が好みの人には歓迎されるでしょう。第2主題もあっさりしているようでなにやら諦念が感じられます。対向配置のヴァイオリンが効果的。クライマックスの迫力も申し分ありません。展開部は低弦の響きが常に美しく、トゥッティではこの頃のボストン響の優れた合奏力を堪能できます。再現部の第2主題はドライな感じがしますが、デッドな録音にもよるのでしょう。最後のクライマックスもキリリとしています。
第2楽章も速めのテンポですが、第1部はボストン響の弦が美しいアンサンブルを聴かせ、第2部もかなり速く、あれよあれよという間に終わってしまう感じです。モントゥーの常で木管楽器がよく聴き取れます。この楽章の演奏時間は9~11分程度だそうですが、この演奏は8分10秒で駆け抜けます。
第3楽章もヴァイオリン対向配置の面白さがあり、トリオはがらりと雰囲気を変えますが、それも束の間、再びスケルツォに流れ込みます。僅かに木管が遅れ気味?
第4楽章のロンド主題はまばゆいばかりに輝かしいです。第2副主題(ロシア民謡)ではテンポがぐっと落ちますが変奏するにつれ速くなり、三度演奏されるロンド主題は立派です。副主題の再現も情感があり、第2副主題の再現も手に汗握るようで、運命のファンファーレの後の力が抜けた雰囲気も巧く、コーダへの流れ込みも上手で、力強く締め括ります。
チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
エフゲニー・ムラヴィンスキー
レニングラード・フィルハーモニー交響楽団
1960年9月
ロンドン,ウェンブリー・タウン・ホール
ムラヴィンスキーがDGにステレオで録音したチャイコフスキーの3つの交響曲は名盤として有名ですが、ムラヴィンスキーは第4番があまり好きではなかったようで、同じDGに録音したモノラルのチャイコフスキーは第4番のみザンデルリンク指揮となっています。ESOTERICのSA-CDで聴いてみます。
第1楽章のファンファーレはレニングラード・フィルの強力な金管で厳かに遅めのテンポで演奏され、第1主題はささやくように始まり、壮大なクライマックスに導かれますが、演奏は若干単調なような。第2主題はメロディの歌い方がこの曲にふさわしく、さすがと言いたいところで、金管楽器が朗々と歌うクライマックスも盛り上がりに欠けていません。この演奏では常にファンファーレが強靭な音色で演奏され、さすがレニングラード・フィルといったところです。ただ、もう少し第1楽章全体に渡って変化があるとなお良かったかもしれません。
第2楽章は、主要主題がしっとりと演奏され、テンポの緩急の付け方や歌い回しが見事。この楽章はムラヴィンスキーが共感をもって指揮しているのがよくわかります。
第3楽章の弦のピッツィカートはモントゥー/ボストン響は乱れ気味だったのですが、レニングラード・フィルはきっちり揃っていて気持ちがよいです。中間部では靄が晴れ光が差すような印象の木管と、金管による行進曲が絶品と言いたい出来栄え。スケルツォへの移行も実にスムーズ。メリハリが聴いていてこれも心地良い演奏です。
第4楽章はこのオーケストラの機能性の高さを再認識させられる演奏で、運命のファンファーレまで一気に持って行きます。その後も圧倒的な演奏が続きます。
チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
ロリン・マゼール
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1964年9月,10月
ウィーン,ゾフェインザール
第1楽章序奏部の運命のファンファーレはステレオ効果を発揮した録音。第1主題に移行する際にも工夫があり、ウィーン・フィルの音色が鮮烈でゾクゾクするような提示部です。第2主題もあちらこちらにマゼールの才気が発揮され、内容が濃い音楽となっています。再登場する運命のファンファーレが楽し気に聴こえてしまうのが玉に瑕ですが、ウィーン・フィルが楽しんで演奏しているのかも。不思議なくらい幸福感に満ちた第1楽章となっています。
第2楽章は先ずウィンナ・オーボエの音色が耳を引きます。弦の旋律と同じくらいの強さで木管を吹かせたりと、いろいろ新しい発見があります。第2部は速めのキリリとした冴えた表現でウィーン・フィルの高弦が美しく、第3部は低弦が美しいです。
第3楽章は、奇をてらったところのない音楽です。トリオのウィーン・フィル特有の木管楽器がチャーミングで、金管楽器による行進曲もあっという間に通り過ぎ、再びスケルツォ。ピッツィカートがよく揃っていて気持ちの良い演奏です。
第4楽章は、ロンド主題及び副主題のオケのバランスが最上に保たれ、その後も一音たりとも疎かにしないという姿勢で演奏されているようです。マゼールらしさを期待すると肩透かしをくらいますが、これはこれで立派な演奏です。
チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
小澤征爾
パリ管弦楽団
1970年
パリ,サル・ワグラム
小澤征爾指揮の第4番は複数あるのですが、今回は彼が35歳のときのパリ管との演奏を選びました。小澤征爾が最も小澤征爾らしかった頃?の録音です。小澤が得意としたチャイコフスキー。
第1楽章序奏部のファンファーレは十分重苦しく、これが運命のファンファーレであることを改めて認識します。大きく間を取った後、第1主題がやや粘り気のある表現で演奏されます。重厚で重苦しい雰囲気が楽想にぴったり。第2主題も仄暗く、これが曲想にジャストフィット。クライマックスも抑制が効いており、絶叫型にならないは良しとしましょう。展開部も終始重く、悲壮感が漂っています。再現部も哀愁を帯びた木管の歌わせ方が最高。速めのテンポで演奏されるコーダも説得力があります。
第2楽章も暗く重く、しっとりとしています。第2部は明るい曲想なのですが悲劇性が保たれています。第3部もしめやかに音楽が進んで行き、パリ管の木管陣の優秀さを堪能できます。
第3楽章は、強く弦をはじかせていないため、ざわざわした感じがあります。トリオの木管が巧く、金管の行進曲も落ち着いたものです。全体的に丁寧な演奏。
第4楽章はロンド主題が十分輝かしいのですが、それでも抑制を残したままです。第2副主題は幾分テンポを落とし悲し気に歌われます。全体に重苦しさが曲を支配している感じで、第1楽章冒頭の再現場面を頂点としているようです。それでも最後は力強く幕を閉じます。
チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1971年9月16-21日
ダーレム,イエス・キリスト教会
【決定盤】
この演奏はチャイコフスキーの交響曲第4番の名盤としてトップに挙げられることが多いのですが、良くも悪くも録音に難があります。良い点は(よく言われることですが)まるでライヴ録音のように白熱した演奏に聴こえること、悪い点は録音に使用したテープに欠陥があり、強音時に音が歪むことです。EMIのSA-CDハイブリッド盤で聴いてみます。
第1楽章冒頭のファンファーレは他のどの演奏よりも強烈に響きます。すすり泣くような第1主題に息を呑みます。提示・確保後も重苦しく息苦しい音楽が続き、カラヤンならではのチャイコフスキーを聴かせてくれます。第2主題も蠱惑的で、その後の壮大なクライマックスもカラヤン/ベルリン・フィルならではのゴージャスな音響を楽しめます。展開部もねっとりとした熱を帯びた進行ですが、この曲はこれくらいやってくれないと冗長に感じます。コーダも圧倒的な迫力で終わります。もっと音が歪んでいるかと思いましたが、第1楽章の何度か訪れるクライマックスはなんとか持ちこたえている感じです。
第2楽章も重々しい演奏です。非常に洗練され彫琢された演奏ですが、録音のせいで生演奏を聴いているような臨場感があります。第2部も濃厚なチャイコフスキーの世界を満喫することができます。クライマックスで音が歪むのが難点ですがそれほど気になりません。第3部は時おり聴こえるジェームズ・ゴールウェイのフルートが美しいです。もちろん他の木管楽器も同様です。
第3楽章はしっかりと強く弾く重心の低いピッツィカートが印象的です。トリオの変化も巧みなテンポ設定で文句なしの演奏となっています。スケルツォに戻ってからがこれまた圧倒的。
第4楽章は渾身の力を込めたロンド主題(さすがに音が歪んでいる)で始まり、副主題も絢爛豪華な音の饗宴となっています。第2副主題で落ち着きますが、熱は収まらず、3度目のロンド主題と第2の経過句は圧倒的です。その頂点は第1楽章冒頭の再現でこれはかなり強烈です(他の演奏もこうだったら良いのに)。その後もベルリン・フィル全開の白熱した演奏が続き、圧倒されっぱなしのまま曲が終わります。
なお、今回は視聴しませんが、1973年12月フィルハーモニーザールでの映像収録もこれと同様の演奏であったと記憶しています。また、私は長い間、チャイコフスキーの第4番はカラヤン/ベルリン・フィルの1975年の演奏を愛聴していましたが、LPはとても良かったのですが、CD化されて普通のマスタリング(LPはティンパニなど壮絶な音を出していました)になってしまい、魅力が半減しました。
チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
サー・ゲオルク・ショルティ
シカゴ交響楽団
1984年5月
予想どおり、第1楽章序奏部の金管によるファンファーレが強力で、さすがはシカゴ響の金管セクションです。ただ、それだけではなく、それと対比するような第1主題の柔和な表情、経過部の木管・弦、金管のしっかりとしたアンサンブルなど大変立派です。第2主題も素晴らしいです。オーボエのちょっとした表情づけが心憎いです。ティンパニが心臓の音のように響いてその後のクライマックスの壮絶さを予感させます(が、それ程ではなく抑制の効いたものでした)。オーケストラを絶叫させることがないのが、円熟期のショルティです。再現部も第2主題が絶品。こういうところが本当に巧いです。第1主題の変形である行進曲ではアクセルを踏んでコーダに流れ込みますが、これもオケの厚みは十分であるものの、品が良い演奏です。
第2楽章は、仄暗い演奏で弱音時の表現が素晴らしいです。この録音は木管楽器がよく聴き取れるのがありがたいです。トリオも弦と木管の対比、バランスが優れており、上出来です。それにしてもシカゴ響は巧い。
第3楽章は、シカゴ響の弦セクションの優秀さを聴くことができ、またトリオの管楽器のアンサンブルも素晴らしいです。万事控えめな感じがしますが、この楽章にはそのようなスタイルが合っているともいえます。
第4楽章ロンド主題は厚みをもって力強く演奏されますが、トゥッティでのエネルギー管は解放された自由さがあります。第2副主題もクライマックスにおいてバランスに留意しているようです。第1楽章序奏部の再現も大音響を期待してしまいますが、ショルティのコントロールが行き届いています。その後は速めのテンポによるヴィルトゥオーゾ・オーケストラならではの音の饗宴が繰り広げられます。満足しました。
チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
ヘルベルト・フォン・カラヤン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1984年9月
ウィーン,ムジークフェラインザール
6(7)度目となるカラヤンの最後の録音です。同時期に収録された映像もあります。
第1楽章冒頭の金管楽器がウィーン・フィルらしい音色。第1主題は弱々しくおずおずと演奏され、木管に主題が移っても変わりありません。悲劇的要素たっぷりです。最初のクライマックスもうるさくなく、どこか客観的です。皮相的な第2主題も上手に導き出されます。この辺の語り口は絶品と言ってよいかも。第2主題のクライマックスも演出過剰にならず自然な盛り上がりを聴かせます。再現部ではやはり第2主題が素晴らしく、ウィーン・フィルの木管には何とも言えない味わい深さがあります。3度目のファンファーレの後の子守唄のような楽句もデリケートに歌われています。コーダは迫力がありますが、あくまで自然な感情の発露に聴こえます。
第2楽章は、マゼール盤同様、ウィーン・フィルのオーボエの魅力に耳を奪われます。続く弦も心を込めて弾いているのがよくわかります。第2部はカラヤンらしく滑らかなに演奏されていますが、それがちっとも嫌ではありません。第3部も彫琢された歌を聴くことができますが、それもあくまで自然にそうなったと言うしかない演奏です。
第3楽章は、ウィーン・フィルの弦の木の香りがするようなピッツィカートが耳に心地よいです。トリオの木管合奏も美しく、金管楽器とティンパニによる行進曲も木管の彩が素晴らしいです。スケルツォに戻りますが、木管が加わったコーダがやはり見事な出来栄えです。
第4楽章は、ロンド主題が力強く演奏され、副主題を挟み、エネルギー感が十分です。第2副主題はテンポを落とし、切々と歌われます。第2の経過句も丁寧な演奏で、3度目のロンド主題ではアクセルを踏み、B及びCの再現の切迫感、第1楽章冒頭のファンファーレの再現の緊張感は半端ではありません。Aの経過句は喜びを抑えられずに始まるといった様子で、ウィーン・フィルの演奏にノリが感じられます。迫力満点のコーダでした。
チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
レナード・バーンスタイン
ニューヨーク・フィルハーモニック
1989年10月
バーンスタインは1990年10月に亡くなっているので、ちょうどその1年前の録音となっています。ニューヨーク・フィルとの旧録音もありますが、最晩年のバーンスタインを新たな気持ちで聴いてみます。
第1楽章冒頭は予想どおりの遅いテンポで冒頭にして最後という感じがします。音楽が止まりそうなくらい遅くなってから第1主題の提示部が始まり、少しずつテンポが速くなっていきますが重厚感は失われていません。再び音楽が非常に遅くなり第2主題の提示はお化けが出そうな感じです。徐々に加速していき、クライマックスや冒頭のファンファーレの再現は他の演奏と変わらない速度となります。その後は一つ一つ念を押しながら進めていくようなテンポなので今一つ緊張感や高揚に足りない感じがし、やや冗長な展開、クライマックスに近づくと加速するのがパターンとなっています。三度目のファンファーレは普通のテンポですが、その後はすぐ遅くなり、猛烈に加速してまた遅くなるという繰り返しです。
第2楽章は、やはり遅めのテンポ設定ですが、それが良い方に働いています。一音一音を噛み締めるように歌わせており、それがこの楽章にマッチしているのです。止まりそうなテンポになってから第2部はいきなり加速しますが、やがて遅くなり、設計どおりなのか、感情の赴くまま(気分次第)の指揮なのかよくわからなくなってきます。
第3楽章も遅いかと思いきや、他よりいくらか速いくらいのテンポなのが意外です。行進曲は速いです。
速いとか遅いとかばかり書いていますが、この演奏はテンポの設定が不可解なのです。第4楽章は普通のテンポで始まります。第2副主題では遅くなりますが次第に加速し、ロンド主題に戻ります、と、いくら書いてもキリがないのですが、この楽章も緩急差を大きく取った楽章であったということです。それが劇的な効果を上げているかというと「?」です。なんだかもう一歩踏み込みが浅いような気がするのです。コーダはとても速いです。
チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
マイケル・ティルソン・トーマス
サンフランシスコ交響楽団
2002年5月30-31日(ライヴ)
サンフランシスコ,デイヴィス・シンフォニー・ホール
第1楽章は意外でした。序奏部のテンポが遅いのです。MTトーマスはもっと普遍的な演奏をする指揮者だと思っていました。ただ遅いだけではなく、随所にちょっとした味付けがあります。第1主題も次に何が起こるのか予想がつかない面白さがあります。第2主題の歌わせ方も弾むようなリズム感覚もユニークです。他の指揮者がさらっと流してしまうようなところでも細かな表情を付けたりしていて、一風変わっているというか、小技のデパートのような指揮です。オーケストラを自分の手足のように操っているのがさすが。
第2楽章もオーボエの主要主題からして表情豊かです。第2部は幾分速度を上げますが、旋律をよく歌わせているのは第1部と同じで、非常に洗練されているという印象があります。ファゴットが主要主題を吹くあたりは瞑想的ですらあります。
第3楽章は軽妙なフットワークで魅せます。トリオはぐっとテンポを落とし、行進曲で速めるという定石どおりの指揮です。安心して聴ける演奏でした。
第4楽章は期待どおりの輝かしいAとBです。Cも極端に遅くせず、音楽の流れが自然です。キレのよい2度目のBを経、3度目のAも喜びそのものといった演奏。二度目のCは物悲しく、弱音も効果的で表情豊か、第1楽章冒頭の再現はやっぱり遅いのですが、これも必然という感じがします。その後はゆっくりと、徐々に加速しながらコーダに流れ込み、スピード感のある終結となります。拍手が収録されています。
チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
ワレリー・ゲルギエフ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
2002年10月(ライヴ)
ウィーン,ムジークフェラインザール
【お薦め】
ゲルギエフにはマリインスキー劇場管弦楽団との2010年の再録音もありますが、より評価の高いウィーン・フィル盤を聴いてみます。
第1楽章は暗くて重たく、理想的な序奏部から始まります。十分な間を取って第1主題が始まりますが、これも序奏部同様で重く引き摺るような演奏です。低弦が大きめに録音されており、ピラミッド型の音響となっています。演奏によってこんなに印象が変わるものかと改めて思いました。第2楽章も重ためで、知らないで聴いたらウィーン・フィルとは思わなかったでしょう。コデッタに至ってもちっとも輝かしく響かないのです。展開部はいっそう重苦しく息苦しく、再現部の第1主題がトゥッティで演奏されるところはもう少し盛り上がりがほしいような気がしますが、そのような録音なのでしょう。第2主題の再現も暗いまま終結し、コーダも重厚に終結します。
第2楽章は、軽やかに始まりますが、この物悲しさは他の演奏では聴くことができません。重荷を背負って坂道をのぼっているような気分です。第2部はやっとウィーン・フィルらしさ(優美さ)が垣間見えますが、それも束の間で、第3部は再び重苦しい雰囲気に支配されます。これほど味の濃い第2楽章もないかもしれません。
第3楽章は、変な言い方ですがウィーン・フィルが一生懸命弦を弾いてるのが伝わって来ます。トリオの木管、金管でもウィーン・フィルからこれほど重い音色を引き出すなんて、この頃のゲルギエフはすごい人だったのですね。しかし、このような演奏に接すると、この交響曲においてこの第3楽章は異質な存在に思えてきます。
第4楽章もロシアのオーケストラのような重厚な演奏が続きます。気がついたことをひとつひとつあげていたらきりがありませんが、これは名演ですよね。感動しました。
チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
サー・アントニオ・パッパーノ
ローマ聖チェチーリア国立音楽院管弦楽団
2006年7月3-15日(ライヴ)
ローマ,アウディトリウム・パルコ・デラ・ムジカ,サラ・サンタ・チェチーリア
パッパーノと聖チェチーリアのオーケストラの組み合わせは、非常に良い印象があります。
第1楽章序奏部は、ファンファーレが適度に重く悲劇性も十分で、先ずは上々の滑り出し、録音も良い感じです。第1主題も暗い響きでよく歌わせており、指揮者の音楽センスが高いのでしょう、その端正な演奏には好感が持てます。第2主題は特徴的な歌い方により速く感じられ、木管が面白い効果を上げています。展開部はやや軽めで曲が冗長に感じられてしまうのが惜しまれます。それでも再現部の第1主題など壮絶ではあります。以降も凄みはないのですが、清々しささえ感じる抒情的な演奏が続きます。もちろんここぞというときには踏ん張りを効かせています。
第2楽章のほうがパッパーノとこのオーケストラには向いています。本当に丁寧に丁寧に演奏しているのがよくわかりますし、第2部の軽やかさや明るさに生かされています。第3部はヴァイオリンの再弱音で開始され、第1楽章第2主題を思い起こします。木管楽器などこれ以上ないというくらいに歌っていますよ。
第3楽章も好演でチャイコフスキーのバレエ音楽を聴いているようです。軽やかさがプラスに働いているのです。トリオはパッと日が差すように明るく見通しの良い感じで、行進曲のキレも良いです。再びスケルツォに戻り、よく訓練されたオーケストラのピッツィカートは大きなギターによる演奏を聴いているみたいです。
第4楽章はスケールの大きな響きですが、重心は低くありません。第2副主題は切迫感を伴ったもので三度目のロンド主題は相応のエネルギー感があります。このあたりの緊張感はなかなかのもので見事に第1楽章冒頭が導き出されます。その後も白熱した盛り上がりを聴かせ、力強く終わります。なかなか聴き応えのある演奏でした。
チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
アンドリス・ネルソンス
バーミンガム市交響楽団
2011年6月1-4日(ライヴ)
バーミンガム,シンフォニー・ホール
【お薦め】
第1楽章序奏部の運命ファンファーレは、音色が重く暗く響きで、名演の予感がします。第1主題も流麗でありますが、悲劇性はちゃんと確保されていて、これも良い出来。第2主題はやや素っ気ない感じで木管楽器が演奏しており、ここはもう少し豊かな歌が欲しかったところです。コデッタは明るく力強くて◎。冒頭のファンファーレが登場し、展開部となる場面の雰囲気はカラヤン指揮の演奏によく似た感じです。再現部第1主題も迫力があり、第2主題のファゴットもいい味を出しています。3度目のファンファーレが演奏されてコーダが始まると、演奏も勢いを増し、力強く第1楽章を終えます。
第2楽章は、遅すぎない、よいテンポで始まります。この楽章も適度な重みがあり、かつ流麗です。ネルソンスはカラヤンのCDを聴いて予習したのではないかと思ってしまうほどです。第2部は幾分テンポを速めるので、一層スムーズに音楽が流れていきます。第2部の終わりははっと息を呑むほどに美しいです。ここでもファゴットが思い入れたっぷりに旋律を奏でる箇所が良かったです。
第3楽章は、トリオで木管が登場するとぱっと視界が開けたようでとても鮮やかです。スケルツォのピッツィカートは、あまり演奏による差が出ないのですが、木管楽器が加わると途端に色彩感が増します。ピッツィカートだけだと音量が出ないのでしょう。
第4楽章はグランカッサが効いている爆発的なロンド主題で始まります。理想的な響きと言ってよいでしょう。第2副主題も後ろから追われているように先を急ぎます。この辺りの切迫感はなかなか大したもので、運命のファンファーレまで一気に駆け抜ける感じがあります。コーダになって勢いが戻り、熱狂のうちに曲が終わります。最後に拍手が収録されています。チャイコフスキーの交響曲第4番の普遍的な名演としてお薦めしたい録音です。
手あたり次第聴いて感想を書いているように思われるかもしれませんが、第1楽章を聴いてこれはダメだと思った演奏については書いていないのです。
何度も書いているようにYahoo!ブログは9月1日から新規投稿ができなくなります。残された日々はあとわずか。あともう1曲、なにか書けたらよいのですが、これはと思う曲がありません。