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Channel: 私が好きな曲(クラシック音楽のたのしみ)
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ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」の名盤(Ke~Ko)

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第8回です。
目標200枚ですから、今回が折り返し地点というところでしょうか。

さて、数ヵ月後にブログの移転について告知する予定でしたが、今回こっそりお知らせしたいと思います。

私が好きな曲(クラシック音楽のたのしみ)
ハルコウ

なぜ予定を早めたかというと、久しぶりに誰にも読んでもらえないブログの寂しさを体験したからです。完璧な姿で披露したかったのですが、見切り発車です。またイチからやり直しですね。

目新しい記事はありません(古い記事はいっぱりあります)が、今後は加速的に新しいブログにシフトしていきたいと思いますので、引き続きご愛顧くださいますよう心よりお願い申し上げます。2つのブログに新規投稿するのは、かなり面倒だということがわかりましたので、本当にお願いいたしますよ。(FC2ブログに引っ越されている方が多いようですが、半数以上の方は脱落すると思います。私も数年ぶりにHTML言語と格闘してすごく疲れました。)

さて、本題に移ります。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヨーゼフ・カイルベルト
Joseph Keilberth
ハンブルク国立管弦楽団
1956年

カイルベルトはカラヤンと同じ年の生まれなのですが、ずいぶん地味な印象がありますし、60歳で急逝してしまったので、(バイロイトの「指環」復活で一躍有名になりましたが)今となっては知らない人のほうが多いかもしれません。彼が得意としたベートーヴェンの、ゆったりとしたテンポの割に演奏時間の短い「英雄」です。オーケストラの特に木管楽器が味わい深い音色で、全体に叙情的な演奏、指揮は結構細かいところまで丁寧に指示を出しているようですが、全体的には控えめです。録音は古さを感じさせますがステレオ。提示部のリピートはなし、しかし、終止部のトランペットは楽譜どおりで、この時代では数少ない例のひとつです。15分13秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ルドルフ・ケンペ
Rudolf Kempe
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1959年9月3-5日

この時代、カラヤンは自分ではベートーヴェンを録音しませんでしたが、他の指揮者にベルリン・フィルで録音することを許していたのですね(前年はクリュイタンスが録音していました)。後述のミュンヘン・フィル盤に比べると、1分以上も演奏時間が長く、かなりゆったりしています。また、ベルリン・フィルはオーケストラに色彩感があり、この頃は既にカラヤン色に染まっていたのかな?などと考えてしまいました。ケンペの2種のうちどちらかを選ぶとすれば、ベルリン・フィル盤に軍配を上げたいと思います。それにしてもカイルベルトといい、ケンペといい、実に堅実な仕事をしていますね。提示部は長く感じますがリピートしていません。終止部のトランペットは最後まで主題を吹きます。演奏時間以上に長く感じる16分36秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ルドルフ・ケンペ
Rudolf Kempe
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
1972年6月23-26日

冒頭の2つの和音が四分音符を守ったのか、重くひきずるようで少し変わっているように聴こえるは旧録音と同様です。その後もゆったりとしたテンポで進み、オーケストラは少しくすんだ音色ですが優秀で、気持ちの良い演奏をしています。ケンペの指揮は楽器のバランスがよく、特に強音時の調整が優れているように思え、デミネンドしていくときの寂寥感など、はっとすることも少なくありません。提示部は繰り返していません。終止部のトランペットは最後まで主題を吹きます。15分28秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
パウル・ファン・ケンペン
Paul van Kempen
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1951年5月
ベルリン,イエス・キリスト教会

旧Philipsの録音ですが、少々粗っぽい音ではあるものの明晰で、この頃のベルリン・フィルのサウンドを味わうことができます。ケンペンの指揮はドラマティックで、非常に勇ましい「英雄」を聴かせてくれるのですが、とにかくオーケストラを目一杯鳴らし、豪快で元気があり、実に爽快です。この時代ですから仕方がありませんが、これもステレオ録音で聴きたかったですね。提示部の繰り返しは無し、コーダのトランペットは最後まで主題を演奏します。14分25秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
北村憲昭
Noriaki Kitamura
スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団
2017年1月7・8日
Bratislava,Slovak Philharmonic Hall

1949年12月12日神戸生まれの北村憲昭による「英雄」です。スロヴァキア・フィルからベートーヴェンらしい響きを引き出そうとしている工夫が感じられます。それほど遅くは感じられませんが、演奏タイムからすれば時間がかかっているほうであり、たっぷりとしたテンポで歩んでいきます。指揮者の意図か録音のせいかわかりませんが、木管が目立たないのが非常に残念ですけれど、金管楽器、特にホルンの音量にこだわりがあるようです。主題提示部は繰り返します。終止部のトランペットは途中で降りるので、先述のように木管は控えめですから、主題が消えたように聴こえます。18分34秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
オットー・クレンペラー
Otto Klemperer
フィルハーモニア管弦楽団
1955年10月3日

初出時のジャケットってこれで合ってますでしょうか。先に1959年の録音を聴いたのですが、こちらの1955年録音のほうが好きです。音はモノラルですが、演奏に生気が漲り、力感に富み、フィルハーモニア管もベートーヴェンにふさわしい重厚な音色でクレンペラーの指揮にゴリゴリと応えています。これはステレオ録音で聴きたかったですね。提示部の繰り返しはなく、終止部のトランペットは主題を最後まで演奏します。15分54秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
オットー・クレンペラー
Otto Klemperer
フィルハーモニア管弦楽団
1959年10月,11月

前回からわずか4年後の再録音です。ステレオ録音なのでヴァイオリン対向配置(コントラバスは向かって左側)が生きています。さて、ファンの方からお叱りを受けるかもしれませんが、クレンペラーのセッション録音のベートーヴェンは苦手(ライヴではさすがと思えるものがあります)なのです。立派な演奏だと思うのですが、なぜかあまり惹かれず、そうなると曲の長さが気になってきます。私の好みのテンポより僅かに遅いくらいですが、起伏がないというか、淡々としすぎているように思うのです。提示部の繰り返しはありません。コーダのトランペットは最後まで主題を演奏します。16分32秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
パウル・クレツキ
Paul Kletzki
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
1967年2月18-21日
【お薦め】
高音が少し強調され気味の金属的な感じがしますし、フォーカスが甘めな録音ですが、演奏は素晴らしいです。まずテンポの設定が良いです。全体に速めですが、程よい、時には大胆な緩急の差を設けており、例えば第2主題でぐっとテンポを落としてその後は自然に加速、そして減速するなど、強弱も含めてメリハリが効いています。主題提示部はリピートしません。コーダのトランペットは最後まで主題を吹きます。14分17秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
エーリヒ・クライバー
Erich Klieber
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1955年4月11-14日
ウィーン,ムジークフェラインザール

指揮者の個性に楽曲がマッチしていると思われるカルロス・クライバーの「英雄」が残されていればよかったのですが、正規録音は存在しないので、おそらくよく似た演奏であろう父クライバーの演奏を聴いてみます。これが良いのです。淡麗辛口というか、すっきりしているのにコクがあり、ダイナミックでキレの良い演奏で、コーダに向かって一直線に突き進みます。この頃のウィーン・フィルの音色も貢献しています。DECCAの録音も後で登場するモントゥーのステレオ録音より優れていると思います(もちろん父クライバーの録音はモノラルです)。提示部はリピート有りで、終止部のトランペットは最後まで主題を吹きます。
16分45秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
エーリヒ・クライバー
Erich Klieber
シュトゥットガルト放送交響楽団
1955年12月31日(ライヴ)

DECCAのセッションから約半年後のライブですが、音の状態は良くありませんので、よほどの「英雄」マニアか、父クライバー・ファン向きでしょう。演奏内容はウィーン・フィル盤とほぼ同じです。最後まで聴くことができませんでした。17分01秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ハンス・クナッパーツブッシュ
Hans Knappertsbusch
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
1953年12月17日(ライヴ)
ミュンヘン,ヘルクレスザール

冒頭の2つの和音のテンポの遅さに驚かされる幻想的な「英雄」です。大きなうねりを伴いながら、徐々にテンポを速め、巨大なクライマックスを築き上げるロマンティックな演奏です。辟易するかと思いきや、不思議と魅了されるものがあり、最後まで耳が離せません。音の状態は、父クライバーのライヴよりずっとマシですが、咳の音が大きめに入るので、客席での録音かもしれません。提示部の繰り返しはありません、終止部のトランペットは再度まで主題を吹きます。15分51秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ハンス・クナッパーツブッシュ
Hans knappertsbusch
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1962年2月17日(ライヴ)
ウィーン,ムジークフェラインザール

拍手が鳴り止まないうちに始まります。非常に遅いテンポで始まるのはミュンヘン・フィル盤と同様ですが、こちらのほうが均整が取れているように感じるのは大きなテンポの変化が激減したからでしょうか。クナッパーツブッシュらしさという点ではミュンヘン・フィル盤を取りたいと思いますが、巨大な建造物を思わせる重量感ではこのウィーン・フィル盤も引けは取らないと思います。オーケストラの魅力もありますしね。録音はモノラルで、聴きやすいほうですけれど、総合的な評価としてはクナッパーツブッシュのファン向きの録音ということになりますでしょうか。提示部の繰り返しはなく、コーダのトランペットは最後まで主題を吹きます。17分24秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
小林研一郎
Kenichiro Kobayashi
ハンガリー国立管弦楽団

小林研一郎とハンガリー国立菅は、1990年台にベートーヴェンを録音していたそうですが、お蔵入りしたそうです。理由はわかりません。この「英雄」は炎のマエストロの異名をもつ小林研一郎らしい熱く燃え上がった、と書きたいところですが、遅めのテンポ以外、どこを取っても普通の演奏です。もちろん、小林研一郎の唸り声も収録されていません。
提示部の繰り返しはありません。コーダのトランペットは最後まで主題を吹きます。なお、小林研一郎にはチェコ・フィルとの2010年録音がありますが、そちらは未聴です。16分39秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
クリストフ・ケーニッヒ
Christoph Konig
ルクセンブルク・ソロイスツ・ヨーロピアンズ
2011年1月11日
Grand Auditorium, Philharmonie Luxembourg

悪くはないです。古楽器オケを少し意識した、比較的少人数モダン楽器オーケストラによる演奏です。速めのテンポであまり緩急・強弱の変化をつけずに進んでいきますので、やや一本調子です。もう少し管楽器の音が聴こえてほしいし、ソフトな録音なので、もう少しパリっと冴えていればなお良かったです。提示部はリピート有りです。16分39秒

次回に続きます。


ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」の名盤(Ko~Li)

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第9回です。

本題に入る前に、本ブログについて(今さらなのですが)ある発見をしましたので、そのことについて簡単に触れておきたいと思います。

このブログは多い日で600人超の方が訪問されます。それは、ある一定数のファンがいらっしゃって、その方たちが毎日入れ代わり立ち代わり訪問してくださっているのだろうと考えていましたが、そういうわけではないようです。

このブログに訪れる方の多くはgoogleの検索結果に導かれています。つまり何が言いたいかというと、現在ベートーヴェンの「英雄」について書いていますが、それがお目当てではなく、ご自身の目的に合った、このブログ過去記事を読んでいただいているわけですね。「チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 名盤」で検索して訪問されているのです。

だから、新しいブログを立ち上げたからといって、いきなりそのブログに600人超の人が訪問されるはずもなく、数日で30人というところです。新しいブログはGoogleでの検索に引っかからないのです。そこまで訪問者数にこだわらなくてもとお思いになるかもしれませんが、ある程度の訪問者数がないとモチベーションが上がらないのです。大変な思いをして書いているのだから、少しでも多くの人に読んでいただきたいと考えます。

そこで考えたのは、FC2ブログを選んだのは失敗だったのではないかということ。Yahoo!推奨の移転先(アメーバ、ライブドア、Seesaa、はてな)であれば、移転後も転送が働いて過去記事を読んでいただけます。推奨先のどこかに5月9日に移転しても、12月15日までは「Yahoo!ブログのURLを移行先のブログトップへ転送する設定が可能となる予定」とのこと。それがあるのとないのとでは大違いなのでは?

それにFC2ブログは投稿が面倒なのです。Yahoo!ブログに慣れてしまった身にとって、今さらHTMLタグに戻るのはハードルが高いです。

まだ期間がありますので、熟考したいと思います。過去記事が積み上げてきたもの、その大きさを思い知りました(汗) 継続は力なりだったのですね。今さらですが、Yahoo!ブログのサービス終了が惜しまれます。

さて、本篇です。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
フランツ・コンヴィチュニー
Franz Konwitschny
シュターツカペレ・ドレスデン
1955年

コンヴィチュニーのベートーヴェンは、後述のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管とのステレオ録音が知られていますが、その5年前にはSDとの録音があります。こちらは残念ながらモノラルで残響が多く、あまり明晰ではない録音です。オーケストラが違うだけで、コンヴィチュニーの解釈はほぼ同じですから、あえて録音の状態のよくないこちらを選ぶ理由はないでしょう。あえて言うならば、こちらのほうがコンヴィチュニーの意志がはっきりしているように思われます。主題提示部の繰り返しは無し、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。16分15秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
フランツ・コンヴィチュニー
Franz Konwitschny
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
1960年3月

ずっしり重い重量級の「英雄」です。テンポも遅めです。昔ながらのベートーヴェンという感じがしますね。ひと昔前の「英雄」が皆このような演奏であったわけではなく、エーリッヒ・クライバーやカラヤンのような演奏も存在していたわけですが、なぜかこの頃のドイツの演奏をイメージしてしまいます。それだけレコード・ファンにとってコンヴィチュニーの影響が大きいということでしょう。ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管の木管の音が鄙びていて良い感じです。特別な演奏というわけではないのですが、たまにはこのような、丁寧に糸を紡いでいくような「英雄」も良いですね。提示部は繰り返されます。19分42秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ズデニェク・コシュラー
Zdenek Kosler
スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団

冒頭から元気の良い演奏です。録音がキンキンしているの難ですが、楽器のバランスは悪くありませんし、ファゴットがよく聴こえるのは貴重です。ベートーヴェンは木管が聴こえないと欲求不満になりますが、この演奏・録音は普段は目立たないファゴットでさえ、明瞭なのが新鮮です。338小節からはファゴットが結構重要なのですが、何となく聴こえます(この録音でも無理だったか)。提示部の繰り返しは無し、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。良い演奏でした。14分33秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヨーゼフ・クリップス
Josef Krips
ロンドン交響楽団
1960年1月
ロンドン,ウォルサムストウ・アセンブリー・ホール

これも良い演奏です。私の好みのテンポで、かつ木管楽器の音が大きめに録られているだけで嬉しくなります。金管楽器が煩くないのもありがたいです。何の変哲もない「英雄」ですが、この曲は素のままでも十分素晴らしいので満足です。主題提示部は繰り返しません。終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。14分50秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ラファエル・クーベリック
Rafael Kubelík
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1971年8月13日(ライヴ)

ベートーヴェン全集と同時期のライヴですが、オーケストラはベルリン・フィルではなく、ウィーン・フィルです。オーケストラの響きの差もありますが、こちらの録音のほうが私は好きです。次の録音に比べると、テンポはわずかに遅く、第2主題などかなり思い入れたっぷりに歌わせています。わずか数ヵ月の差なのにどうしてこうも違うのでしょう。ただ、ウィーン・フィルの音色の魅力があるとしても、ベートーヴェン演奏としてそれほど高い求心力があるわけではなく、いわゆる普通の演奏のようにも聴こえます。提示部は繰り返さず、終止部のトランペットは最後まで主題を吹き切ります。17分21秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ラファエル・クーベリック
Rafael Kubelík
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1971年10月20,21日
ベルリン,イエス・キリスト教会

クーベリックが世界の9つのオーケストラを指揮したベートーヴェン交響曲全集の中の一枚です。「英雄」はベルリン・フィルを選んだのはクーベリックの意思でしょうか。幸いなことに、この演奏ではジェームズ・ゴールウェイがフルートを演奏しているのです(カラヤン/ベルリン・フィルではDVDを除いて1枚もありません)。ただ、その点を除けば割と平凡な演奏であるような気もします。せっかくのゴールウェイなのだから、もっと目立つような録音であったらよかたったのに、少しピントがボケているような録音です。提示部の繰り返しはありません。終止部のトランペットは最後まで主題を吹きます。16分12秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ルネ・レイボヴィッツ
Rene Leibowitz
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1961年

爆演を期待して聴いたところ、意外に大人しく始まりました。努めて品がよくあろうとしているよな、不思議な「英雄」ですが、何か心に秘めているけれど、それを表に出してこないような不気味さがあります。抑えに抑えた演奏という感じで、このようなタイプの演奏は聴いたことがないので戸惑います。あと、この演奏というか、録音はピッチがおかしいような気がするのは私だけでしょうか。提示部のリピートはありません。13分56秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
エーリヒ・ラインスドルフ
Erich Leinsdorf
ボストン交響楽団
1962年
ボストン.シンフォニーホール

私の基準の遅からず速からずの良いテンポです。弦楽器に比重が置かれているようですが、楽器のバランスも概ね良好で、何の不満もありません。要するに非常にバランス感覚の優れた演奏で、ラインスドルフの手腕は見事という他ないのですが、あと一歩のところで一味足りないような気がします。あるいは優秀録音であったらもう少し違うイメージを持ったかもしれません。提示部の繰り返しはありません。終止部のトランペットは最後まで主題を吹きます。15分40秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ジェームズ・レヴァイン
James Levine
メトロポリタン歌劇場管弦楽団
1993年6月
ニューヨーク,マンハッタン・センター
【お薦め】
力強さと推進力が際立っており、有無を言わさず、ぐんぐん進んで行きます。ベートーヴェンの音楽を演奏する喜びに溢れ、はち切れんばかりの生命力に満ちています。普段オペラばかり演奏しているので、交響曲を演奏するのが嬉しいのかな?などと考えてしまいました。リズム感もよく、切れ味もなかなかのものですし、音の厚みも申し分ありません。レヴァインというとオペラのイメージが強いのですが、これほどまでに見事なベートーヴェンを指揮できるとは思ってもみませんでした。このコンビでのベートーヴェン交響曲全集がないのがすごく残念です。録音も程よく残響を取り入れ、各楽器が生々しく再現されています。何気にヴァイオリン対向配置、ティンパニの打撃の強さも鮮やかなサウンドの創出に貢献しています。文句無しの【お薦め】で、【決定盤】にしようか迷ってしまいました。主題提示部の繰り返しは有り、トランペットは最後まで主題を吹きます。16分50秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
エドゥアルド・フォン・リンデンバーグ
Eduard von Lindenberg
ウィーン・フォルクスオーパー管弦楽団

ウィーンのオーケストラは独特の華やかさというか、共通の雰囲気があります。テンポは遅めですが、元気がよく、溌剌としています。知らない指揮者だと思って侮っていましたが、これはなかなか良い演奏です。けして遅くないテンポなのですが、主題提示部の繰り返しが有りだとしても演奏時間が長いのが不思議です。18分07秒


ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」の名盤(Ma~Mu)

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第10回です。

ブログの移転先問題で悩んでいます。
クラシック音楽に(ある程度)テーマを絞ってブログをやっている人は、どの会社のサービスを受けているのだろうと思い、調べてみました。

某ランキング(その1)
1位 Livedoor
2位 FC2
3位 goo
4位 goo
5位 Ameba
6位 Livedoor
7位 BIGLOBE
8位 Blogger
9位 @nifty
10位 WardPress
11位 Ninja
12位 FC2
13位 Hatena
14位 FC2
15位 Yahoo!
16位 FC2
17位 WardPress

某ランキング(その2)
1位 goo
2位 FC2
3位 JUGEM
4位 (個人サイト)
5位 excite
6位 Ameba
7位 Ameba
8位 Livedoor
9位 Ameba
10位 FC2
11位 Livedoor
12位 Livedoor
13位 Ameba
14位 Ameba
15位 WardPress
16位 Livedoor
17位 JUGEM
18位 yaplog!
19位 BIGLOBE
20位 So-net

アメーバ・ブログが多いのは、プロの演奏家で利用されている人が多いからでしょう。FC2はやはり多く、Yahoo!が移転ツールを用意してくれる4つのブログの中ではLivedorrが健闘していますね。しかし、人気ブログがこのランキングに参加しているとも限らない(むしろ逆かも?)ので、あくまで「参考」程度です。同好の士が多いブログがよいと考えていますが、既に私の中では「正式な(FC2ブログではない)」移転先を決めています。またそれは後日お知らせしますね。
この件についてはこれが最後。もう書きません。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ペーター・マーク
Peter Maag
パドヴァ・ヴェネート管弦楽団

このオーケストラは、イタリア国内には数少ないコンサート・オーケストラとして1966年に設立されたのだそうです。好みのテンポで、小編成のオーケストラのようですが、それ以外にこれといった特色があるわけでもなく、どのような感想を書いたらよいのか困ってしまう演奏です。良くも悪くもないのです。提示部のリピートはありません。
15分45秒


イメージ 2

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
アンドルー・マンゼ
Andrew Manze
ヘルシングボリ交響楽団

一聴してすぐわかる弦の少なさ(ヴァイオリンは左右対向配置、低弦などもう少し人数がほしいかな)、でもピリオド楽器オーケストラではありません。マンゼは自身バロック・ヴァイオリン奏者ですが、モダン楽器オケによるベートーヴェンです。ちなみにヘルシングボリ(ヘルシンボリ)はスウェーデンの都市です。爽やかな「英雄」ですが、あまり特徴がなく、もう一味何かほしい感じがします。期待した割には、の演奏でした。主題提示部は繰り返します。終止部のトランペットは途中で降ります。16分53秒


イメージ 3

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
イーゴリ・マルケヴィチ
Igor Markevitch
シンフォニー・オブ・ジ・エア
1956、57年

マルケヴィチが私が3枚目に購入したLP(ブリテン:青少年のための管弦楽入門、素晴らしい演奏でした)の指揮者なので思い入れがあります。そのマルケヴィチが、1954年に再出発したシンフォニー・オブ・ジ・エア(前身はNBC交響楽団)を指揮しての「英雄」です。この時代であればステレオ録音であってもおかしくはないのに残念ながらモノラルです。音質的には聴き易いですけれどね。その演奏は力感に溢れつつ引き締まったもので、かつ流麗であり、トスカニーニの存在を想像させます。提示部のリピートはなく、終止部のトランペットは主題の演奏中(意外にも)途中で降りてしまいます。14分40秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ハイメ・マルティン
Jaime Martin
CSMMA Symphony Orchestra

ケビン・ジャクソン盤と演奏時間に7分も差があります。つまり最も遅い部類の演奏ということになります。こうなるとアレグロ・コン・ブリオという感じじゃないですね。このテンポでやる必然性というものがあまり感じられず、オーケストラもあまり上手じゃなくて、ただ単に演奏時間の長い録音ということになります。提示部の繰り返しが有り、トランペットは上手じゃありませんが最後まで主題を吹きます。20分55秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ロヴロ・フォン・マタチッチ
Lovro von Matacic
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
1959年3月15-18日
【お薦め】
よく聴いていたCDですが、意外に古い録音だったのですね。四分音符は鋭くも強い打撃で始まります。その後のきびきびとした演奏は、オーケストラのややくすんだ音色とともに好感触で、34歳のベートーヴェンの野心を思い起こさせます。展開部ののんびりとした雰囲気も悪くありません。特に速いテンポではありませんが、すいすいと音楽が心に入ってきます。管と弦、打のバランスが良いのも特長のひとつです。提示部のリピートは無し、終止部のトランペットは最後まで主題を吹きます。15分14秒

ところで、レパートリーが広い割にズービン・メータ(Zubin Mehta)のベートーヴェンって少ないですよね。私が聴いたことがあるのは、アシュケナージのベートーヴェン・ピアノ協奏曲全集でウィーン・フィルを指揮していた録音しかありません。「英雄」は、少なくともニューヨーク・フィル、イスラエル・フィルの2種があるようですが、どちらも入手できませんでした。忘れないように、ここにメモしておきたいと思います。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ディミトリ・ミトロプーロス
Dimitri Mitropoulos
ニューヨーク・フィルハーモニック
1955年10月1日(ライヴ)
【お薦め】
冒頭からすごい推進力。速いテンポの演奏が多くなってきたけれど、(オケの編成にもよるが)これだけ力感があるものは皆無です。速いだけではなく緩急の差が大きく取られているのですが、それが少しも嫌ではなく、ドラマティックかつロマンティックであり、実に豪快な「英雄」です。すっかり魅了されてしまいましたので、モノラル録音のマイナス面を差し引いても【お薦め】にしたいと思います。提示部の繰り返しは無し、収支部のトランペットは最後まで主題を吹きます。14分42秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ピエール・モントゥー
Pierre Monteux
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1957年12月2,3日
ウィーン,ゾフィエンザール

当時優秀録音で有名だったDECCAとはいえ、時代を(考慮しても古さを)感じさせる音質です。それでもステレオ録音なので、モントゥーのこだわりであるヴァイオリン両翼配置が楽しめ、Lさんが指摘されていたであろう展開部のヴァイオリンの掛け合いもよく聴き取れます。演奏もさすがモントゥーで、非常にバランス感覚が優れた演奏であり、聴いていて実に気持ちがよく、名演はと思うのですが、セッション録音ではコンセルトヘボウ管とのさらに優れた録音があるため、申し訳ありませんがこちらは無印としたいと思います。提示部のリピートはありません。終止部のトランペットは途中で降りるので、主題が突然消えた感じです。14分45秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ピエール・モントゥー
Pierre Monteux
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1960年(ライヴ)

この時代のライヴですから音は当然モノラルでこもった音質です。オーケストラが違えどもモントゥーの解釈にブレはないので、前のウィーン・フィル盤、次のコンセルトヘボウ管盤があるため、このライヴ録音は資料的な価値にとどまると言えましょう。それでもライヴならではの熱気もほんの少し味わえ、「英雄」第1楽章は良い曲だなと改めて思わせてしまうあたり、さすがはモントゥーです。主題提示部の繰り返しはなく、終止部のトランペットは途中で降りて主題が消えてしまうのはウィーン・フィル盤と同様です。14分52秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ピエール・モントゥー
Pierre Monteux
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
1962年6月
アムステルダム,コンセルトヘボウ
【決定盤】
これはお気に入りの一枚で、モントゥーが残した録音の中でも大好きな演奏です。すごいと思うのが演奏時間で、前2枚とほとんど変わりません。もちろんヴァイオリンが対向配置であるのもウィーン・フィル盤と共通です。この演奏って、SACDとかハイレゾで発売されていないのでしょうか。お気に入りの演奏は少しでも良い音で聴きたいです。演奏についての感想は、好きな箇所が多すぎて一部に絞って書くことができませんが、コンセルトヘボウ管の優秀なアンサンブルで、モントゥーが「英雄」を残したことに感謝したい気持ちでいっぱいです。録音はさすがに古さを隠せませんが、Philipsなので(演奏ともども)聴感上のバランスが優れているものですが、稀に聞えるずしんという重低音はモントゥーが指揮台の上で踏ん張った音なのでしょうか。主題提示部の繰り返しはありません。終止部のトランペットは前2枚同様途中で降り、後は木管が引き継ぎます。14分50秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ウィン・モリス
Whn Moris
ロンドン交響楽団
1988、1989年

ウィン・モリスがロンドン響を指揮して録音した全集(交響曲第10番第1楽章補筆完成版付きで有名)の中の一曲です。期待しないで聴き始めましたが、さすがロンドン響、巧いです。モリスの指揮も中庸という言葉がふさわしく、過ぎたるは猶及ばざるが如しで、「英雄」の場合、それがプラスに働いています。ヴァイオリンが両翼配置であることも、ポイントのひとつでしょう。少なくともこれを聴いている間は何の不満も感じず、これでいいのではないかと思いました。これ以下の演奏はいくらでもありますしね。じゃあなぜ【お薦め】にしないのかというと、私にもブランド志向というか、名指揮者による名演を紹介したいという気持ちが根強いからでしょう。録音も派手めで楽曲がわかりやすいです。主題提示部は繰り返します。17分30秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
シャルル・ミュンシュ
Charles Munch
ボストン交響楽団
1957年12月2日
ボストン,シンフォニー・ホール

何かの本でミュンシュは日本では人気が高いけれど海外では評価されていないという記述を読んだ記憶があるのですが本当でしょうか。このベートーヴェンも録音は少し古い(でもステレオ。ホールの外を走る車の音も聞こえます)ですが、素晴らしいとまでは言わないけれど良い演奏だと思います。少し速めのテンポで、ミュンシュの特長でもある楽曲への情熱が伝わってくる演奏です。ただ、全体に大雑把な印象あり、仕上げが粗く感じられます。もう少し肌理の細かさのようなものがあったらよかったと思いました。提示部の繰り返しはなく、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。14分14秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
エフゲニー・ムラヴィンスキー
Evgeny Mravinsky
レニングラード・フィルハーモニー交響楽団
1961年6月2日(ライヴ)
ベルゲン音楽祭

モノラルで録音ですが、聴くに堪えないというレベルではありません。良好でないだけです。この指揮者とオーケストラの特長であるピンと張りつめた緊張感・迫真性は伝わってきますが、あえてこれを選ぶ必要もないでしょう。これがステレオ録音だったら文句なしの【お薦め】にしたところです。提示部のリピートはなく、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。演奏時間はずいぶん短くて13分02秒です。それほど速いテンポでもないのにね。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
エフゲニー・ムラヴィンスキー
Evgeny Mravinsky
レニングラード・フィルハーモニー交響楽団
1968年10月31日(ライヴ)

録音状態はこちらのほうが良いですが、お世辞にも優秀とは言えず、残念ながらデッドなモノラル録音です。木管楽器がかなり明瞭に録音されているはありがたいのですが、それが問題となる箇所、この演奏には悪夢のような167小節目があるのです。展開部に入ってから同じ音型がオーボエ、ファゴット、フルート、第1ヴァイオリンと繰り返されるところで、なんとフルートが一小節早く演奏してしまうのです。つまり、オーボエ、フルート(ファゴット)、フルート、第1ヴァイオリンになってしまっています。鉄壁のアンサンブルを誇るレニングラード・フィルでもこのようなミスをしてしまうのですね。この箇所を聴くたびにドキっとします。演奏そのものは筋肉質で引き締まった体型のベートーヴェンですが、ふくよかさも併せ持つ、バランスの良い演奏です。提示部のリピートは無く、コーダのトランペットは最後まで主題を吹きます。13分43秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
カール・ミュンヒンガー
Karl Munchinger
シュトゥットガルト放送交響楽団
1983年
【お薦め】
ミュンヒンガーは、バロック音楽の指揮者というイメージがありますが、ベートーヴェンもなかなかのものです。これは大好きな演奏で、かつては個人的な決定盤でした。まずオーケストラきが「英雄」にふさわしい渋めの響きであり、テンポも少し遅めで、急加速&減速しないのが私の好みに合っています。それでも第2主題はさらにゆったりと演奏していますね。ただ、改めて聴いてみると、展開部はもう少し速いほうが効果的で、これだと聴く側の緊張感がもたないと思ったり、いくつか注文を出したくなりました。この方向の演奏はさらに優れたものがあるのですが、この雰囲気はやはり捨てがたいものがあり、【お薦め】にしたいと思います。最後までティンパニがいい音を出していました。主題提示部は繰り返さず、終止部のトランペットは最後まで主題を吹きます。16分24秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
リッカルド・ムーティ
Riccard Muti
フィラデルフィア管弦楽団
1986年1月10,12,17,19,21日
フィラデルフィア,フェアマウント・パーク,メモリアル・ホール

ムーティのベートーヴェンはあまり多くないと思いますが、これば交響曲全集の中の一曲で、これがなかなか良いのです。録音に日数がかかっていますが、練りに練り上げられた演奏という感じがしますし、オーケストラは明るめの響きですが技術的に申し分なく(巧い!)、テンポもちょうどよい速さです。ただ、音楽が老成してしまっているようで、もう少し新鮮さというか、若々しさのようなものがあったらよかったのにと思ってしまいました。ムーティ、考えすぎかも。EMIの録音のせいもあるのでしょうね。主題提示部は繰り返し、終止部のトランペットは途中で降りて主題が消えた感じになります。17分42秒


シェーンベルク:グレの歌 カンブルラン/読売日本交響楽団他大勢

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読売日本交響楽団第586回定期演奏会
2019年3月14日〈木〉19:00
サントリーホール

アルノルト・シェーンベルク「グレの歌(Gurre-Lieder)」

ソプラノ=レイチェル・ニコルズ
メゾ・ソプラノ=クラウディア・マーンケ
テノール=ロバート・ディーン・スミス、ユルゲン・ザッヒャー
バリトン・語り=ディートリヒ・ヘンシェル
新国立劇場合唱団(合唱指揮:三澤洋史)
シルヴァン・カンブルラン(指揮)
読売日本交響楽団

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シェーンベルクの「グレの歌」は、演奏時間約1時間50分(60分、5分、45分)で、5人の独唱及び大人数の合唱団と巨大なオーケストラによる大作です。シェーンベルクというと、無調・十二音技法を連想してしまいますが、これは(基本的には)超ロマンティックな作品です。初めて聴かれる方は、非常に短い第2部から聴くことをお勧めします。
上演に必要な演奏者は、Wikipediaによると以下の陣容です。何人必要なんだろう? 弦五部だけで80人!(実際にはステージに乗り切れないので少し縮小しているみたいですけれど。)

語り手1
ソプラノ1
メゾソプラノ1
テノール2
バス・バリトン1
3群の男声四部合唱
混声八部合唱
ピッコロ4
フルート4
オーボエ3
コーラングレ2
クラリネット(A管およびB♭管)3
バスクラリネット2
小クラリネット(E♭管)2
(以上編入楽器はすべて持ち替え)
ファゴット3
コントラファゴット2
ホルン10(うち4つがワーグナーチューバと持ち替え)
トランペット6(F管、B管、C管からなる)
バストランペット(E♭管)1
アルトトロンボーン1
テナートロンボーン4
バストロンボーン1
コントラバストロンボーン1
チューバ1
ハープ4
チェレスタ
ティンパニ6台(2人)
テナードラム
小型と大型のバスドラム各1
シンバル
トライアングル
タンブリン
グロッケンシュピール
木琴
ラチェット
チェーン
タムタム
弦楽五部(第1・第2ヴァイオリン各20、ヴィオラ16、チェロ14、コントラバス10)

【「藝大開学100周年記念演奏会」の画像を拝借】
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この画像ではハープは2台ですが、読売日本響はちゃんと4台揃えていました。

「グレの歌」とは、このような曲です。

クーベリック指揮/バイエルン放送交響楽団による演奏(対訳付き)
(すごい! こんな動画があるのですね!)

演奏会前日に次の2つの録音で予習しました。ブーレーズ盤も少し聴いてみましたが、私の好みの演奏ではありませんでした。

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シェーンベルク:グレの歌
ジェイムズ・マックラッケン(テノール)
ジェシー:ノーマン(ソプラノ)
タティアナ・トロヤノス(アルト)
デイヴィッド・アーノルド(バリトン)
ヴェルナー・クレンペラー(語り)、他
タングルウッド祝祭合唱団
ボストン交響楽団
小澤征爾(指揮)
1979年4月(ライヴ)
ボストン,シンフォニー・ホール

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シェーンベルク:グレの歌
ジークフリート・イェルザレム(ヴァルデマール王)
スーザン・ダン(トーヴェ)
ブリギッテ・ファスベンダー(山鳩)
ヘルマン・ベヒト(農夫)
ペーター・ハーゲ(道化師クラウス)
ハンス・ホッター(語り)
ベルリン聖ヘトヴィヒ大聖堂聖歌隊
デュッセルドルフ市楽友協会合唱団
リッカルド・シャイー(指揮)
ベルリン放送交響楽団
1985年6月
ベルリン,イエス・キリスト教会

シャイー盤は、以前にこのブログでもご紹介したお気に入りのCDで、録音も含めて「グレの歌」のベストワンと言える演奏だと思います。

さて、カンブルラン/読売日本交響楽団他による演奏がどうであったかというと、う~ん、一言で表現すれば「堅実」かな……。

いや、実際、良い演奏と感じました。第1部を聴き終えた時点で、私が今後接するであろう演奏も含めて実演ではナンバーワンとなるに違いないと思ったほどです。

カンルブラン/読響と言えば、レコード・アカデミー賞を受賞したメシアンの「アッシジの聖フランチェスコ」が大変評判が良く、シェーンベルク「グレの歌」も実に丁寧な演奏で、第1部のようにヴァルデマール王とトーヴェが交互に歌い、最後に山鳩の歌で締めくくられるような曲にはカンルブランの、歌曲のオーケストラ伴奏的なアプローチは功を奏していたと思います。

ちなみに、私の席は前から3列目のやや下手側で、歌手の声がビンビン伝わる場所でした。2人の女声、レイチェル・ニコルズとクラウディア・マーンケが素晴らしく張りのある声を聴かせ、オーケストラに負けていなかったのですが、声楽人で一人だけ暗譜で歌ったロバート・ディーン・スミスは、さすがに管弦楽にかき消されてしまう瞬間がたびたびありましたが、これはシェーンベルクのオーケストレーションが人間の声を考慮していないためであり、素直に熱唱を称えたいと思います。

第1部の後、休憩かと思いきや、続けて短い第2部が演奏されました。個人的には第2部と第3部を続けて演奏したほうが効果的だと思っていたので、少し戸惑いました。

第2部はヴァルデマール王が怒り狂って神を罵倒する歌なので、もっと激情を叩きつけるような演奏が好ましかったです。低音金管など空気を引き裂くようにバリバリ鳴らしてほしいし、やや遅めで品が良すぎる感じでした。

15分の休憩の後、席に戻ったら合唱団が入場していたのですが、P席を使い切っていないのが意外でした。新国立劇場合唱団なので、少ない人数でも十分なのでしょうが、女声が不足しているような気がします。

第3部の歌手は、農夫と語りがディートリヒ・ヘンシェルで、この人はまぁまぁといったところですが、道化師クラウスのユルゲン・ザッヒャーが素晴らしく、この人の歌はもっと聴きたかったですね。ヴァルデマール王のロバート・ディーン・スミスは、もう喉を温存する必要が無くなったためか、声の威力を増したようで、最後の歌唱 Tove, Tove, Waldemar sehnt sich nach dir!(トーヴェ、トーヴェ、ヴァルデマールはあなたに会いたくてたまらない!)という部分では不覚にもホロリときてしまいました(涙)

カンブルランの指揮は、コミカルな場面でもリズムが重く、表現の幅がやや狭いように思いました。他にカンブルランの実演を聴いたことがないので判断しかねますが、すごく真面目な人なのかもしれません。

「グレの歌」は最後になってやっと女声合唱団が登場するのですが、Seht die Sonne という素晴らしい混声八部合唱はやっぱり女声が少なくて物足りなかったです。また、王の家来である3群の男声四部合唱はたとえ人数が倍になったとしても、巨大オーケストラには勝てないで、この人数でOKということなのでしょうか。しかし、第一声の Holla! という叫び声はCDでも揃わない場面ですが、これがぴったり合っていたのは驚きです。ここは勇気が必要な場所。

カンブルランのサインが欲しかったのですが、次の日は重要な仕事があったので、スタンディング・オベーションに参加した後、まっすぐ家に帰りました。

なお、3月21日(木)18:30からタワーレコード新宿店で「シルヴァン・カンブルラン トーク・イベント&サイン会」があるのですが、どうしようかな?

ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」の名盤(Na~Ra)

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第11回です。

う~ん、体調不良気味です。良い睡眠が得られていないみたい。昨夜も早く寝たのはいいけれど、変な夢を見てすぐ起きてしまいました。そのせいで昼近くまで寝てしまい、大切な用事をすっぽかしてしまった散々な一日。その締めくくりに新規投稿しておきます。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
アントン・ナヌート
Anton Nanut
リューブリャーナ放送交響楽団

ナヌートは1932年スロヴェニアのカナルの生まれで、録音が多い割には実態を知られておらず、幻の指揮者とも言われていました。一聴してすぐオーケストラが非力で録音が今一つなのがわかりますが、全体から受ける印象はそう悪くありません。指揮者の実力が高いことがうかがい知れます。提示部の繰り返しは無しです。終始部のトランペットは最後まで主題を演奏します。14分33秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ウォルデマール・ネルソン
Woldemar Nelsson
バーデン・バーデン南西放送交響楽団

ステレオ録音ですが音が古い感じがします。それでもジャケットにDDDとあるからデジタル録音なのかな。明らかに情報量不足の音ですね。録音でだいぶ損をしていますが、それを割り引くと演奏はなかなかのようです。テンポも楽器のバランスも悪くなく、W. ネルソンの実力の程がうかがわれます。録音が魅力的でないのが惜しまれます。提示部の繰り返しは無しです。終止部のトランペットはなんと途中で降ります。意外でした。14分59秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
サー・ロジャー・ノリントン
Sir Roger Norrington
ロンドン古楽プレイヤーズ

ノリントンが1978年に設立し、1997年まで指揮者を務めたロンドン・クラシカル・プレイヤーズとの録音です。速いテンポとノン・ヴィブラートのいわゆるピュア・トーンによるものです。他の指揮者がぐっとテンポを落とす第2主題も速いです。あれよあれよという間に曲が進行しますが、ビートが効いているので新鮮に感じます。木管楽器、特にファゴットが明瞭に聴き取れるのがありがたく、とにかく一気に聴かせます。提示部のリピートは有りで、終止部はトランペットから木管楽器へと鮮やかに主題が移ります。15分20秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
サー・ロジャー・ノリントン
Sir Roger Norrington
シュトゥットガルト放送交響楽団

オーケストラは変わりましたがノリントンのアプローチは基本的に変わっていないようです。そうなるとより徹底していたロンドン古楽プレーヤーズとの録音のほうがよかったかなという気がしてきます。もちろんこの演奏にもノリントンらしさは随所に聴かれ、興味が尽きな演奏であることに変わりありませんが、なんだか終止せかせかしているようで落ち着きません。。主題提示部は繰り返します。終止部のトランペットは途中で木管楽器に主題を引き継ぎます。15分47秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ユージン・オーマンディ
Eugene Ormandy
フィラデルフィア管弦楽団
1961年4月
【お薦め】
これが感心するほど立派な演奏なのです。オーケストラはやや明るめですが優秀なアンサンブルで巧いことこのうえなく各パートのソロにも惚れ惚れとします、オーマンディの指揮も堂々として力感に溢れ雄渾で、誠に「英雄」にふさわしい音楽が流れています。かなり厚みのある響きですが、木管が埋没することなく聴こえるのも嬉しいです。なお、オーマンディにはデジタル録音もあるようですがそちらは未聴です。提示部のリピートは無し、トランペットは最後まで主題を堂々と演奏します。14分50秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
小澤征爾
Seiji Ozawa
サンフランシスコ交響楽団
1975年5月
【お薦め】
若々しく溌溂としていて瑞々しいベートーヴェンです。ここで小澤征爾は古くからの慣習に染まることなく楽譜から読み取れることのみを真実として「英雄」を再構築しているでようです。サンフランシスコ響も小澤征爾に心服し、申し分のない演奏を聴かせてくれます。そういう意味では人馬一体の非常に気持ちのよい演奏です。主題提示部は繰り返します。終始部のトランペットは最後まで主題を演奏します。16分57秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
小澤征爾
Seiji Ozawa
サイトウ・キネン・オーケストラ
1997年4月

サンフランシスコ響との録音とほとんど演奏タイムが変わないのが驚きですが、若々しさは影を潜め、ここではもっと成熟し、落ち着いた表現を聴くことができます。オーケストラも巧いですが、録音が残響多めでこもり気味で、演奏の素晴らしさを十分伝えきれていないように思います。ヘッドホンステレオで聴いたときは良いと思ったのですが、録音で損をしていますね。前回の爽やかさが懐かしく思えのたで、こちらは無印とさせてください。主題提示部は繰り返します。終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。16分54秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
カルロス・パイタ
Carlos Paita
スコッティツシュ・ナショナル管弦楽団

冒頭の四分音符をたっぷり鳴らし、ゆったりと始まる「英雄」です。パイタというと爆演系の指揮者とみなされることが多いようですが、ベートーヴェンに対しては自然なアプローチです。かといって全くパイタらしさがないというわけではなく、抑えた表現の中に激性を聴きとることができるでしょう。提示部の繰り返しはありません。15分03秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ウラディーミル・ペトロショフ
Vladimir Petroschoff
フィルハーモニック・フェスティヴァル・オーケストラ

レオノーレ第3番と交響曲第5番に、「英雄」の第1楽章だけが組み合わされていました。特に可もなく不可もなく(というか、オーケストラは最低限のレヴェルらし、解釈も平凡だと思う)というところで、このような演奏でも聴けてしまうところに「英雄」の奥深さがあると思います。提示部の繰り返しはありません。14分38秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ミハイル・プレトニョフ
Mikhail Pletnev
ロシア・ナショナル交響楽団
2006年6~7月(ライヴ)
モスクワ音楽院大ホール

冒頭の2つの和音は遅めで力強いのに第1主題からいきなり快速テンポとなります。その後も大胆なテンポの急加速・減速、ちょっとした間の取り方、極端なダイナミクスの変化等があり、あの手この手を使ってくるので、とても楽しめます。これだけ個性的な演奏も珍しく、私は本来このような演奏は好まないのですが、大変興味深く聴きました。まるでフルトヴェングラーの壮年期の演奏のようですが、それが感動に直結するかというと、そうでもないのですけれどね。提示部は繰り返します。終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。16分42秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
サー・サイモン・ラトル
Sir Siomn Rattle
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
2002年4月29日~5月17日(ライヴ)
ウィーン,ムジークフェラインザール

冒頭1発目の引きずるような和音の開始が印象的なラトルのベートーヴェンです。ウィーン・フィルのサウンド及びヴァイオリン両翼配置が効果的で、全体にしっかりとした骨格としなやかな歌が両立した小気味よい演奏であることが特長です。速めのテンポの中に、いろいろラトルの主張が盛り込まれていきます。その才能が少々鼻につく感じもしますが、これだけ聴かせてくれれば十分でしょう。なお、ベルリン・フィルとのベートーヴェン交響曲全集は未聴です。提示部はリピートしています。終止部のトランペットは途中で降りてしまいます。16分21秒


おまけ
興味あったらクリックしてみてください。

ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」の名盤(Re~Sa)

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第12回です。

今回は地味な回になってしまいました。【お薦め】は無しです。良い演奏に巡り合えないと、継続する気力が持続しません。「Sc」から始まる次回に期待したいところです。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
フリッツ・ライナー
Fritz Reiner
シカゴ交響楽団
1955年

この年代でも(やや不自然さがあるものの)ステレオ録音です。演奏は速めのテンポを予想していたら意外にゆったりと始まり、加速・減速を繰り返しつつ、風格のある音楽を構築していきます。迫力も十分で、録音のせいもあってか剛直な印象があります。提示部の繰り返しはなく、トランペットは最後まで主題を演奏します。14分18秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ハンス・ヴェルナー・リヒター
Hans Werner Richter
ベルリン・プロ・ムジカ交響楽団

ハンス・ヴェルナー・リヒター(1908-1993年)というドイツの作家・政治家とは別人物のようで、無名の指揮者みたいですし、バッハ演奏で高名なのはカール・リヒターです。録音はモノラルで不安定なのですが、割と鮮明に録れていてます。数ある「英雄」の録音の中からあえてこれを選ぶ必要もないのですが、悪くない演奏です。けして巧い演奏とは言いませんが、不思議とバランスが保たれていて、聴き入るに足るものがあるのです。提示部の繰り返しはありません。14分22秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヨーゼフ・ローゼンシュトック
Joseph Rosenstock
NHK交響楽団
1951年6月14-16日
東京,日比谷公会堂

冒頭にNHKのナレーションが44秒入ります。このNAXOS盤の音質はノイズが多く(エアチェック音源?)、お世辞にも良いとは言い難い(今回の聴き比べでは最悪の)ものですが、演奏の雰囲気は伝わってきます。力強く引き締まった演奏で、ローゼンシュトックの指揮のものと、N響が夢中になって熱演しているのがわかります。音質がもう少しマシだったら【お薦め】にしたでしょう。提示部の繰り返しはなく、終始部のトランペットは最後まで主題を演奏します。13分53秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
アレクサンドル・ルディン
Alexander Rudin
ムジカ・ヴィヴァ

アレクサンドル・ルディン(1960年-)は、ロシアのチェロ奏者ですが、指揮もします。この「英雄」はモダン楽器オーケストラによるもののようですが、ピリオド楽器奏法の影響がうかがえますし、減の人数を絞っているようで、どの楽器がどんなことをやっているかがわかる見通しの良さがあります。快速テンポでぐんぐん進んでいくのが心地よいのですが、もう少し何かないの?と言いたくなるのも事実。提示部の繰り返しは行います。終止部のトランペットは途中で主題を演奏しなくなります。15分11秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
リコ・サッカーニ
Rico Saccani
ブダペスト・フィルハーモニー管弦楽団

ゆったりとしたよいテンポですが、一音一音を十分伸ばす演奏なので、常に音を引きずっているような鈍い印象があります。ただ、聴き始めてしまえば、そんなに気にならなくて、木管楽器がよく聴こえる気持ちのよい爽やかな音楽に浸ってしまいました。提示部の繰り返しは有り、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。18分39秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ミヒャエル・ザンデルリング
Michael Sanderling
ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
2016年6月
ドレスデン,ルカ教会

クルト・ザンデルリンクの息子であるミヒャエルの指揮による「英雄」です。ショスタコーヴィチの第10番との組み合わせなのがユニーク。力押しせず、微妙なニュアンスを付けながら華麗かつ繊細に歌い上げています。普段聴こえない音型をさりげなく強調したりなど小技もあります。これで風格・貫禄といったものがあったら申し分なかったでしょう。全体的に小奇麗にまとめたという印象があるのです。それでも素直に良い演奏だと思えたのも事実。提示部の繰り返しが有ります。終止部のトランペットは途中まで主題を演奏します。17分20秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ユッカ・ペッカ・サラステ
Jukka-Pekka Saraste
スコットランド室内管弦楽団

ミヒャエル・ザンデルリンク盤と演奏時間がほとんど一緒なのに、こちらのほうが速く聴こえます。テンポの変化を大きく取っているとかそういうことがないのにです。不思議です。この演奏も全体にきっちりまとめていると思いますが、小粒な印象は拭えず、物足りなさを覚えます。けして悪い演奏ではないのですが……。主題提示部は繰り返します。終止部のトランペットは途中まで主題を演奏します。17分15秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ジョルディ・サヴァール
Jordi Savall
ル・コンセール・デ・ナシオン
1994年1月
カルドナ

古楽器を用いるスペインの室内楽団による「英雄」です。速いテンポであれよあれよという間に提示部が終わります(繰り返し有りです)。弦の人数が少なく、さらに鳴らない楽器であるためか、響きが地味です。木管楽器には鄙びた味わいがあり、金管楽器は時に強烈に響きます。しかし、指揮のサヴァールは素晴らしい音楽家ではあるけれど、これは良い演奏なのでしょうか。少なくとも私が求める「英雄」ではありません。一番最初に聴いた演奏がこれだったら「英雄」を好きになれなかったかも。15分23秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
Michael Saxon
The Classical Orchestra

よくわからない指揮者とオーケストラによる録音です。いや、オーケストラじゃないですから(MIDIです)。マクシミアンノ・コブラ/ヨーロッパ・フィルハーモニアと同じ路線ですが、あちらはただ単に遅かったのに対し、こちらは緩急の差がはっきりしています。3拍子が面白いです。オーケストラ演奏では聴き取り辛い和声がきちんと聴けるので勉強にはなりますね。第2楽章なんか別の曲のようです。しかし、「英雄」ならなんでも聴くという聴き方を改めざるを得ないかなって思ったりもします。18分10秒


ちょっと試してみました。こんな具合です。
新しいブログに挑戦するのってなんだか疲れますね。

ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」の名盤(Re~Sc)

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第13回です。なかなか終わりませんね。
念のためにもう一度書いておきますが、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」の第1楽章だけを聴き比べしています。全曲を聴いていないのは手抜きではありませんから!


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ゲルト・シャラー
Gerd Schaller
フィルハーモニー・フェスティヴァ
2014年5月25日
エーブラハ,シトー会修道院「皇帝の間」

ブルックナー交響曲他全集で有名なシャラーの「英雄」です。会場が少し響くのが私の好みではないのですが、美しい響きがし、演奏も優れています。まず遅からず速からずのテンポ設定が実に心地よく、堂々たる風格を感じます。やや弦の編成が大きめですが、モダン楽器オーケストラによる「英雄」はこんなものでしょう。ブルックナーのようなベートーヴェンですが、なんだか久しぶりにまともな「英雄」を聴いたような気もしました。主題提示部は繰り返します。17分42秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルマン・シェルヘン
Hermann Scherchen
ウィーン国立歌劇場管弦楽団
1951年1月

シェルヘンの1枚目はモノラル録音なのが惜しまれます。怪演を期待していたところ、これが至極真っ当な演奏だったので拍子抜けしてしまいました。いや、それはシェルヘンに失礼でしょう。ベートーヴェンに敬意を払った丁寧な演奏であり、テンポを大きく動かしたり、激しい強弱を付けたりなどしない、ゆったりとしていて大船に乗ったような気のする、立派で風格のある演奏です。提示部の繰り返しは無く、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。14分46秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルマン・シェルヘン
Hermann Scherchen
ウィーン国立歌劇場管弦楽団
1958年9月18日
【お薦め】
シェルヘン/ウィーン国立歌劇場管の「英雄」は2種類あるのですが、古い雑誌などを読むとそれらを混同しているようで、モノラル・ヴァージョンとステレオ・ヴァージョンがあるように書かれていますが、そもそも録音年代が違うのです。前回とは人が変わったようにテンポがかなり速くなり、細かいことを気にせず音楽をぐいぐい推進していく演奏で、こちらのほうが私のイメージのシェルヘンらしい演奏です。とにかく生命力に溢れ、聴いているこちらも元気になってきます。ひたすらオーケストラを叱咤激励して追いまくっている感じですね。激烈なだけでなく、ふっと抒情的になるところなど、この指揮者の感情の豊かさを感じます。録音はWestminsterだけあってこの年代としては優秀で、オーケストラの各楽器が実在感をもってリアルに響きます。なお、ヴァイオリンは両翼配置でコントラバスは上手に置かれています。提示部は繰り返します。終止部のトランペットは意外にも最後まで主題を演奏しないで途中で降ります。これらも前回と違うのはどのような風の吹き回しによるのでしょう。14分39秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルマン・シェルヘン
Hermann Scherchen
ルガノ放送交響楽団
1965年2月12日(ライヴ)

ある評論家が絶賛したことで有名になったベートーヴェン交響曲全集の中の一曲です。録音はシェルヘンの3種類の中で最も良いのですが、その分オーケストラの粗さも目立ちます。弦楽器なんて揃っていないくて、ピッチのおかしい管楽器があったりと、ローゼンシュトック/N響のほうが上手かったと思い返したくらいです。でもそれを問題視するのは野暮というもので、シェルヘンの棒に必死でついていこうとするルガノ放送響を称えるべきでしょう。ぶっつけ本番的な即興味があり、スリル満点です。今回は提示部は繰り返しませんし、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。一貫していませんね。14分05秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ハインリヒ・シフ
Heinrich Schiff
ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン
1994年

名チェリストでもあるシフは、1990年から指揮活動にも取り組むようになったそうです。オーケストラは現在パーヴォ・ヤルヴィが音楽監督を務めるカンマーフィルハーモニー・ブレーメンです。演奏はオーケストラが同じせいか、P. ヤルヴィ指揮に似ている(あの演奏は指揮者ではなくオケの個性によるものなのだろうか?)ように思い、シフの先進性を感じました。颯爽とした速いテンポですいすい進んでいく、順風満帆という言葉を連想させる演奏で、風のようにそよぐ木管楽器が心地よいです。ただ、あまりにも流麗過ぎてコクに乏しい感じも否めません。主題提示部は繰り返します。コーダのトランペットが主題を演奏するのは途中までです。16分26秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
マクス・フォン・シュリングス
Max von Schillings
シュターツカペレ・ベルリン

Wikipediaによると、マックス・フォン・シリングス(1868年-1933年)は、ドイツの作曲家・指揮者で、1919年から1925年までベルリン国立歌劇場の首席指揮者を務め、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーの師としても知られている、のだそうです。これは相当古い録音のようですが、不思議と聴きやすい音質です。かといって、演奏の優劣を述べるような代物ではなく、最後まで聴くのはやめておきます。あくまでご参考として掲げておきます。提示部の繰り返しは有りません。終止部のトランペットは主題を最後まで演奏します。14分15秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
フリッツ・シュライバー
Fritz Schreiber
ドレスデン国立管弦楽団

全く知らない指揮者なので、相当古い録音かと思いきや、なんと良質なステレオ録音であり、意外に良い演奏だったので驚きました。ただ、Wikipediaによると「フリッツ・シュライバー指揮、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団」というのは架空の指揮者による演奏なのだそうで「ベートーヴェンの交響曲第3番のレコードは『本当はフルトヴェングラー指揮のラジオ放送用録音なのではないか』という憶測を呼び、中古レコード市場で1万円を超える値がついたこともあった」のだそうで、もっとも有名な正体不明盤なのだとか。ステレオ録音ですし、どう聴いてもフルトヴェングラーの演奏には聞こえませんけれどね(もしかして、シュライバー名義の録音は数種類ある?)。演奏者がはっきりしていれば【お薦め】にしたかもしれません。提示部の繰り返しは無しで、終止部のトランペットは高音危なかっかしいけれど最後まで主題を吹きます。13分50秒



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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
カール・シューリヒト
Carl Schuricht
シュトゥットガルト放送交響楽団
1952年2月29日(ライヴ)

ここからシューリヒトの録音が続きますが、次から次へとライヴ録音が発売されてきたので混乱しています。もしかしたら間違って違う演奏の感想を書いてしまうかもしれません。まず録音は当然モノラルなのですが、意外に優れた音質で鑑賞に不足はないでしょう。セッションでもこれ以下のものはあります。しかし、オーケストラはあまり上手くないですね。あまりリハーサルの時間が取れなかったのでしょうか、少々雑です。肝心の指揮はというと、あまりテンポを揺り動かさず、淡々と進めていく印象があり、音楽自らに語らせているようで、そこに物足りなさを感じる人もいるでしょうし、これを指揮者の風格と捉える人も少なくないでしょうが、私は前者のほうです。提示部の繰り返しは有りません。終止部のトランペットは最後まで主題を吹きます。13分58秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
カール・シューリヒト
Carl Schuricht
パリ音楽院管弦楽団
1957年12月18,20,23日
パリ,サル・ワグラム

ほぼ同時期のクリュイタンス/ベルリン・フィルの全集はステレオ録音なのに、シューリヒト/パリ音楽院管はモノラル録音なのが解せませんが、何はともあれセッションによる交響曲全集の一曲です。これは良い演奏。「英雄」にふさわしい覇気と熱気、前へ前へと進もうとする推進力が演奏にあります。パリ音楽院管の音色も香り立つような色彩と気持ちの良い響きで聴き手を魅了します。シューリヒトの指揮も、何か特別なことをしているわけではないのだけれど、「英雄」の場合、音楽が充実し切っているのでそれがプラスに働きます。提示部の繰り返しはありません。コーダのトランペットは最後まで主題を吹きます。14分14秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
カール・シューリヒト
Carl Schuricht
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1961年8月23日(ライヴ)
ザルツブルク祝祭大劇場
【お薦め】
モノラルですが、すごく鮮明な録音なのがありがたいです。優秀録音と言っても差し支えないものです。セッションより遅めのテンポで、緩急の差も大きく、ちょっとした箇所の表情づけも豊かであり、シューリヒトを聴くならこちらでしょう。前2種とあまりにも違う濃い味付けに、ウィーン・フィルがシューリヒトをリードしているのでは?と思ってしまいました。それくらいウィーン・フィルが羽を伸ばした演奏を行っており、常に金管の強奏が効いています。提示部の繰り返しはありません。終止部のトランペットは最後まで主題を吹きます。総じて誠にダイナミックな演奏でした。15分21秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
カール・シューリヒト
Carl Schuricht
フランス国立放送管弦楽団
1963年5月14日(ライヴ)
パリ,シャンゼリゼ劇場

良質なステレオ録音です。シューリヒトが得意としたという「英雄」をステレオで聴けるとはなんたる幸せ。テンポの伸縮はさらに大きくなり、ロマンティックな解釈に変わっています。バランスは弦主体でフルートなど小さめ、ウィーン・フィルの時のような金管の強奏はありませんが、代わりに弱音時の抒情性に聴くべきところがあります。総じてウィーン・フィル盤ほどの感銘は得られなかったのですが、老いてなおダイナミックな指揮は変わっていないようです。提示部の繰り返しは有りません。終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。15分06秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
カール・シューリヒト
Carl Schuricht
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1964年10月(ライヴ)
ベルリン,フィルハーモニーザール

録音状態が前3種に劣っていて、情報量が少ないため、あまりベルリン・フィルらしく聴こえないのですが、カラヤン時代のBPOをシューリヒトが指揮した貴重な記録です(それ以上のものではないと思います)。ベルリン・フィルを起用した録音は1970年代初め頃までイエス・キリスト教会が使われていましたから、フィルハーモニーザール(1963年竣工)での録音というのも珍しいかも。演奏はシューリヒトの録音の中では最も堅固な印象で、録音がもう少し良ければ聴き映えがしたでしょうね。提示部は繰り返されず、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。15分12秒

ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」の名盤(Sh~Sz)

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第14回です。
この回は「(私的)決定盤」が含まれますので、私にとって重要な回となっています。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ラン・シュイ
Lan Shui
コペンハーゲン・フィルハーモニー管弦楽団
2012年11月
コペンハーゲン,デンマーク王立音楽院コンサート・ホール
【お薦め】
速い、速いです。聴感上の速度では最速の部類です。ただ速いだけでなく、鮮烈な印象があり、清新という言葉が似合う演奏でもあります。それは、細かいオーケストラ・コントロールがあってこその成せる業であり、ラン・シュイはただものではありません。聴く前は大して期待していなかったのですが、聴くほどに魅了され、ずっと浸っていたいと思うようになりました。時間を作ってラン・シュイのベートーヴェン交響曲全集を聴きたいと思います。提示部の繰り返しは有り、終止部のトランペットは途中で降りてしまいます。14分36秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
スタニスワフ・スクロヴァチェフスキ
Stanisław Skrowaczewski
ザールブリュッケン放送交響楽団
2005年1月15,16日(ライヴ)
ザールブリュッケン.コングレスハレ

オーソドックスな解釈ですが、ヴァイオリンが対向配置であり、木管楽器のハーモニーが美しく、オーケストラの響きが魅力的なベートーヴェンで、スクロヴァチェフスキのこだわりを感じます。ただ、聴いているうちになぜか飽きてしまって、スピーカー(自作バックロードホーンからKEFのブックシェルフ型へ)の交換作業を始めたりする始末。辛抱が足りませんね。提示部の繰り返しは有ります。終止部のトランペットは途中で降りてしまい、主題が消えます。16分14秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
スタニスワフ・スクロヴァチェフスキ
Stanisław Skrowaczewski
読売日本交響楽団
2002年9月26日&28日
東京芸術劇場

スクロヴァチェフスキはこだわりの人と認識していたので、前と違ってこの録音の主題提示部が繰り返されないのが気になります。しかし、終止部のトランペットは楽譜どおりです。そういうところが気になります。それにしても、どうも私とスクロヴァチェフスキは相性がよくないみたいで、聴いているうちに退屈してしまい、他のことを始めてしまいます。しかし、録音がもう少し鮮明だったらなおよかったのだけれど、そのせいで地味に聴こえてしまう読売日本響は良いオーケストラだと思いました。13分58秒

スクロヴァチェフスキ指揮 NHK交響楽団 2004年4月9日 東京,NHKホールの録音およびスクロヴァチェフスキ指揮 読売日本交響楽団 2012年9月29日 横浜みなとみらいホールは未聴です。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
サー・ゲオルグ・ショルティ
Sir Georg Solti
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1959年
ウィーン,ゾフィエンザール

1958年から59年にかけて、ショルティはウィーン・フィルをベートーヴェンの第5番、第7番、第3番を録音したのですが、ちょうどこの頃にワーグナー「ラインの黄金」が録音されており、あれは当時の技術の粋を結集したような録音でしたので、同じ録音会場で行われたベートーヴェンの交響曲も当然優秀録音ということになります。当時の本を読むと、演奏よりも鮮明なステレオ録音(ffss録音)が絶賛されており、これらを当時ステレオで聴いた人は「ステレオはロンドン」と大満足したことでしょう。
テンポはかなりスローなほうで演奏タイムも19分を軽く超えています。ただ、演奏はこれより後のシカゴ響との録音に比べると、楽曲解釈がまだこなれていない感じがしますし、ウィーン・フィルも全て納得して演奏しているわけではないような表情が聴こえ、違和感を覚えないではありません。演奏が精彩を欠いているように思えるのです。それでもffss録音は今聴いてもあまり古さを感じさせませんし、ウィーン・フィルもダイナミックな演奏を披露しています。主題提示部はリピートします。終止部のトランペットは後2種と異なり、最後まで朗々と主題を演奏します。19分18秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
サー・ゲオルグ・ショルティ
Sir Georg Solti
シカゴ交響楽団
1973年
シカゴ,メディナ・テンプル
【決定盤】
あれは中学生1年生の頃、FM放送を録音したカセット・テープを整理していた時のことです。そのうちの一本に、録音した記憶が全くない曲が入っていたのですが、私はその曲に夢中になってしまったのでした。これほど中身の詰まった、内容が濃い、充実し切った(長い)音楽はそれまで聴いたことがありませんでした。ある日、名曲中の名曲であるベートーヴェンの交響曲第3番が放送(マズア/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管だったと思う)されるというので聴いてみたところ、謎のテープの正体が「英雄」だったということがわかって大変驚きました。全く予備知識なし(厳密に言えば、そのテープを録音した時点では、「英雄」だとわかっていたはずなのだけれど)で、ベートーヴェンの「英雄」の素晴らしさを理解することができたことで、自分に自信をもったのです。やがてそのテープの演奏者もわかりました。ショルティ指揮シカゴ交響楽団の1973年録音です。偶然だったのですが、最初に買ったLPがそれで、聴いてすぐに同じ演奏であることに気がつきました。そんな思い入れがある演奏です。
シカゴ響の逞しい和音の後、ウィーン・フィル盤同様遅めのテンポで始まりますが、ウィーン・フィルと異なるのは、シカゴ響が実に伸びやかに演奏していることで、ショルティもどっしりと腰を据えて指揮をしており、構成力が高くなっているので聴き応えがあります。中学生の私はここに魅了されたのでしょう。また、ウィーン・フィルが頑張って出していた強音もシカゴ響にはゆとりがあり、その分厚い響きと相俟ってベートーヴェンらしい重厚な音響を創出しています。この録音も演奏タイムは19分を超える長いものですが、私には少しも長さを感じさせません。いつまでもこの音楽に浸っていたいと思わされます。ただ、CD(私が持っているのは全集BOX輸入盤)はLPに比べて音が硬い感じがし、できればSACD、ハイレゾでこれを聴きたいというのが切なる思いです。
主題提示分の繰り返しはあります。終止部のトランペットは途中で主題を吹くのを止め、あとは木管楽器が引き継ぎます。19分39秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
サー・ゲオルグ・ショルティ
Sir Georg Solti
シカゴ交響楽団
1989年11月14-16日
シカゴ,オーケストラ・ホール
【お薦め】
前回録音から16年後、ショルティの再々録音はデジタル収録です。前2種の録音よりテンポが速くなっており(それでも一般的には普通の速さ)、普遍的な名演に仕上がりました。ショルティも再々録音なので前と同じでは意味がないと思い、違う演奏を試みたのでしょうか。この演奏も大編成なのですが、各パートが明瞭に聴きとれる録音であるのは前回と同様、内声部の充実がぎゅっと詰まった響きを生み出しており、聴いていて実に心地よいです。ただ、旧録音のような明るさや伸びやかさがない分、どこか余裕がない感じもして、落ち着いて聴けないのが欠点です。主題提示部はリピートしています。終止部のトランペットが途中で主題を木管楽器に譲るのは旧録音と同様で、ここはショルティのこだわりなのでしょう。17分57秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ペーター・シュタンゲル
Peter Stangel
タッシェン・フィルハーモニー
2014年1月23日・7月2日
ミュンヘン

史上最小のオーケストラと言われているタッシェン・フィルハーモニーによる「英雄」です。編成がわからないのですが、聴感上は弦楽器などかなり少なめ(各パート1人?)で、室内楽を聴いているような感覚です。全てのパートがきちんと聴こえ、発見もありますが、音が大きくなる箇所では弦の少なさが災いしてあまり盛り上がりません。主題提示部は繰り返します。終止部のトランペットは途中で木管に主題を譲りますが、期待したほどスムーズな受け渡しではなく、やはりここはベートーヴェンの作曲に無理があったのだなと思いました。14分32秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ホルスト・シュタイン
Horst Stein
バンベルク交響楽団
1984年4月
【お薦め】
これは私のお気に入りの演奏で、取り出すことが多いCDです。特に強い個性がある演奏ではないけれど、全ての部分が申し分なく、安心して聴くことができます。特に素晴らしいのがオーケストラの各楽器のバランスで、木管楽器が明瞭に聴こえるのが良く、特にフルートがよく聴こえるところがポイント高いです。テンポも速からず遅からずでちょうどよい加減であり、大きく揺らすことがなく、指揮者の主観は控えめで楽曲の素晴らしさをそのまま伝えてくれるところがありがたいです。初めは【決定盤】にしようと思っていましたが、あまりにも中庸過ぎるので、【お薦め】どまりにしたいと思います。主題提示部は繰り返します。終止分のトランペットは最後まで主題を演奏しています。17分42秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ホルスト・シュタイン
Horst Stein
ベルリン・ドイツ交響楽団
2000年4月24日(ライヴ)
ベルリン,コンツェルトハウス(シャウシュピールハウス)

バンベルク響との録音を「中庸過ぎる」と書いてしまいましたが、こちらはさらにオーケストラが地味めな音色であり、聴いた後、あまり印象に残らない演奏でしょう。テンポもぐっと遅くなり、そうなると曲の長さが気になってしまいます。とはいえ、シュタインの持ち味のひとつであるバランスの良さは変わらずで、録音がもう少し明晰にオケの響きを捉えていたならば、もう少しイメージが変わったかもしれません。だいぶ大人しい録音です。提示部の繰り返しがあり、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。19分16秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ウィリアム・スタインバーグ
William Steinberg
ピッツバーグ交響楽団
1963年
ピッツバーグ,軍人会館

1961年から65年にかけて録音した交響曲全集の中の一曲です。高音が強調された録音が気になります(入手した音源がモノラル録音なのががっかりです)が、それはさておき、やや遅めの良いテンポの「英雄」です。一音一音をしっかり弾かせているという感じで、その他に書くべきこともなく、困ってしまう演奏です。もう少し録音がよかったら印象も変わったでしょう。提示部の繰り返しはなく、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。14分58秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
レオポルド・ストコフスキー
Leopold Stokowski
ロンドン交響楽団
1974年

私は一度も使ったことがありませんが、演奏批評に「外連味」という言葉が用いられることがあります。外連味とは「 ハッタリやごまかしを利かせた様」のことで、「外連味たっぷり」とか「外連味のない」と言ったりします。何が言いたいかというと、ストコフスキーという指揮者に対して私が抱くイメージは「外連味」であり、この演奏は「外連味のない」演奏であったということです。かといって無味乾燥したものではなく、遅めのテンポでたっぷりとメロディを歌わせています。ただ、それ以上の何かがあるかというと、ストコフスキーでなければならないものはなく、私の乏しい語彙ではうまく表現できないのですが、至極真っ当な「英雄」らしい演奏でありました。ところで、現代オーケストラの楽器配置はストコフスキーが考案したそうですが、この演奏はヴァイオリン対向配置(コントラバスは向かって右側であることを付け加えておきます。主題提示分の繰り返しはなく、終止部のトランペットは堂々と主題を演奏します。15分38秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
オトマール・スウィトナー
Otmar Suitner
シュターツカペレ・ベルリン
1980年6月23-25日(ライヴ)
東ベルリン.キリスト教会
【お薦め】
このCDは購入した記憶がないので、おそらく「ぐるぐる」なる交換会で譲り受けたものでしょう。頂いたCDにケチをつけるわけにはいきませんが、これがなかなか良い演奏で、思わず聴き入ってしまいました。まず響きがベートーヴェンに良く合った、ちょっとくすんだ感じのする色合いで、重厚さ・迫力も十分、楽器のバランスも良好、旋律はよく歌われ、どこもかしこも申し分のない演奏です。指揮者にもう少し個性を求めたくなりますが、それはないものねだりかもしれません。この演奏も控えめなヴァイオリン対向配置(バスは右側奥)でした。主題提示部の繰り返しはありません。終止部のトランペットは木管に主題を譲ります。14分59秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ジョージ・セル
George Szell
クリーヴランド管弦楽団
1957年
クリーヴランド,セヴェランス・ホール
【決定盤】
故吉田秀和先生が「LP300選(新潮文庫)」の中で「ベートーヴェンの交響曲全曲盤は、(略)私が揃えるとしたら、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団のセットにするだろう。こんなにベートーヴェンの仕事を私心なく、しかも完全に音に入れ込んでいるものはないと思う。」と述べられていたことを思い出します。だからというわけではありませんが、この「英雄」は私の愛聴盤のひとつです。指揮者もオーケストラも楽曲を理想的に再現することに(5分2秒で指揮者の唸り声のようなものが聴こえるけれど)専念しており、ただただ音楽の素晴らしさだけが伝わってくるという演奏です。ただ単に正確に演奏すればよいというものではなく、セル/クリーヴランド管だからこそ到達できた世界でしょう。このCDの唯一といっていい欠点は録音が古いことですが、これ以下の録音はいっぱいありますので、不満というほどのことはありません。主題提示部の繰り返しは無く、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。14分54秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ジョージ・セル
George Szell
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
1963年
ザルツブルク音楽祭

1963年にザルツブルク音楽祭にチェコ・フィルが初めて登場したときのライヴです。オーケストラは違えどもセルの基本的な解釈は変わっていません。クリーヴランド管との録音で書いたことが、そのまま当てはまりますが、世界最高のアンサンブルと言われたクリーヴランド管に比べると、チェコ・フィルは演奏精度が劣りますし、ミスもあります。その分、人間らしいというか、人懐っこい響きには味わい深いものがあります。また、ライヴ録音なので指揮者ともども感興の豊かさがあり、傾聴するに足る演奏と思います。残念ながらモノラルですが、鑑賞には差し支えない程度の録音です。提示部の繰り返しは無く、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。15分20秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ジョージ・セル
George Szell
クリーヴランド管弦楽団
1967年5月11日(ライヴ)
クリーヴランド,セヴェランス・ホール

クリーヴランド管とのステレオ・ライヴということで注文したのですが、いつ届くのかわかりません。入手したら感想を追記したいと思います。


ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」の名盤(Te~Vr)

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第15回です。
「英雄」第1楽章の聴き比べも、あともう少しで終わります。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
クラウス・テンシュテット
Klaus Tennstedt
北ドイツ放送交響楽団
1979年7月3-6日(ライヴ)
ハンブルク,北ドイツ放送スタジオ10
【お薦め】
後述するロンドン・フィルとのセッションより、こちらのライヴのほうが録音が優れているように思えるので、演奏の印象もすこぶる良いです。オーケストラも北ドイツ放送響のほうが優秀で、木管楽器の美しい音色に心を奪われます。Wikipediaによると、テンシュテットは特にドイツ・オーストリアの楽団との折り合いが悪く、北ドイツ放送響の音楽監督に就任するも、楽団員・事務局との関係が険悪であったとのこと。しかし、この演奏はそんなことを微塵も感じさせない力演です。テンシュテットの解釈自体はロンドン・フィルとのものと基本的に変わっていないので、そちらもご参照ください。主題提示部の繰り返しはなく、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。14分42秒

なお、ウィーン・フィルとの1982年8月29日(サルツブルク,祝祭劇場)ライヴは未聴です。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
クラウス・テンシュテット
Klaus Tennstedt
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
1991年9月・10月(ライヴ)
【お薦め】
すぐにこれは良い演奏とわかります。少し遅めのテンポが良いですし、細部も程よく彫琢されていて気持ちのよい演奏です。バランスが整っているというのは「英雄」の演奏にとって重要なことだと思います。しかし、一本調子ではなく、時には金管が叫びますし、ティンパニがここぞというときにちゃんと鳴ってくれます。これで録音がもう少しさっぱりとした響きであったならなおよかったと思うのですが、ややソフトでこもった感じがするが残念です。主題提示部の繰り返しはありません。終止部のトランペットは朗々と主題を演奏しています。15分05秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
クリスティアン・ティーレマン
Christian Thielemann
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
2009年3月(ライヴ)
ウィーン,ムジークフェラインザール

ブルーレイで視聴。高画質・高音質でベートーヴェンの交響曲を鑑賞したくて、飛びついて購入(中古ですけれどね)したものの、一回しか再生していません。今回、久しぶりに視聴したのですが、画像は美しいと思うものの、演奏はあまりよいとは思えませんでした。この録画に限らず、ティーレマンが指揮した演奏に感動した経験がないのです。オーケストラは昔ながらのベートーヴェンで、編成が大きく(ヴァイオリン両翼配置・コントラバスは最後列に8挺!)、リタルダンドをかけてテンポをぐっと落とすやり方が古風な感じがして、それが悪いとは言わないし、この時代では貴重な演奏なのかもしれないけれど、なぜかティーレマンの指揮だと抵抗があるのです。私とは相性が悪いとしか思えません。提示分は繰り返し有り、トランペットは最後まで主題を演奏します。19分24秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ピーター・ティボリス
Peter Tiboris
ボフスラフ・マルティヌー・フィルハーモニック

知らない指揮者に知らないオーケストラです。遅めのテンポと、両翼配置、しっかり打ち込まれるティンパニ以外は特筆すべきことがない実直な演奏で、録音もいまひとつ冴えないのですが、それでも最後まで(なんとか)聴くことができるのは、「英雄」が偉大な作品で(今回の聴き比べが第1楽章だけで)あるからでしょう。提示部の繰り返しは無く、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。15分58秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
マイケル・ティルソン・トーマス
Michael Tilson Thomas
セントルークス管弦楽団
1986年

マイケル・ティルソン・トーマス(以下、MTTといいます。)は大好きな指揮者です。これはMTTがイギリス室内管弦楽団 、セントルークス管弦楽団 、ロンドン交響楽団の3つのオーケストラを指揮したベートーヴェン交響曲全集の一曲です。小編成オケならではの見通しのよさ(もっと木管楽器は聴こえてほしいが)、瑞々しい響きが魅力的ですが、これより編成が大きいオケでのアプローチをそのまま持ってきた、ただ単に編成が小さいだけの演奏にとどまっているところが、ピリオド・オケの演奏に比べて中途半端な印象を与えます。この時代としては先駆的であったのかもしれませんが、今聴くと、そう思ってしまうのです。録音も細部を克明に捉える方向であったら、この演奏の良さを発揮できたでしょう。主題提示部はリピート有り、終止部のトランペットが最後まで主題を吹いてしまうのも感心しません。16分51秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
マイケル・ティルソン・トーマス
Michael Tilson Thoman
サンフランシスコ交響楽団
2004年5月13-15日
サンフランシスコ,デイヴィス・シンフォニー・ホール
【お薦め】
かなりテンポが速くなりました、前回と演奏時間はそれほど変わりません。MTTの解釈も大きく変わっていないのですが、今回はかなりデッドな響きと細部まで聴きとれる録音が効果的です。SFSの室内楽的精度の磨き上げられたアンサンブルが心地よく、配置も前回と同じ両翼配置(コントラバスは向かって右側)なのが、展開部では有効です。表現は、前回は全体に単調だったのですが、今回は速度や強弱の変化が大きくなり、いわゆる巨匠風の音楽づくりとなっています。このコンビによるベートーヴェンの交響曲が(現時点では)全集化されていないことを心から惜しみます。提示部は繰り返し有り、終止部のトランペットは途中で主題の演奏を止めますので、主題が消えて無くなります。16分39秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ゲオルク・ティントナー
Georg Tintner
ノヴァ・スコシア交響楽団
Symphony Nova Scotia
1988年5月(ライヴ)

わが国ではブルックナー指揮者として一躍有名になったティントナー指揮の「英雄」です。力強くキレのよい和音の後、すごくのんびりしたムードで第1主題が奏でられます。一音たりともおろそかにしないという感じですね。ヴァイオリンは左右両翼配置(バスは向かって左側)ですが、このテンポだと聴き取りやすいですね。ただ、あまりに遅いので、聴いている間、いろいろ考え事をしてしまいました。カッコに入る前、他の演奏に比べて1小節多く聞こえるのですが、主題提示分は繰り返しは有りです。終止部のトランペットは途中で主題を降りて木管に譲ります。19分42秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
アレクサンドル・ティトフ 
Alexander Titov
サンクトペテルブルク音楽院管弦楽団

録音は少し古めのステレオ録音ですが、悪くありません。演奏はなかなか良いと思います。デュナーミク、アゴーギク、アーティキュレーション、いずれも大きくはみ出さず、かといって消極的でもなく、それでいて違和感がありません。全く期待しないで聴き始めたので、思わぬ拾い物をしたという気分です。、提示部の繰り返しはなく、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。15分01秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
アルトゥーロ・トスカニーニ
Arturo Toscanini
NBC交響楽団
1949年11月28日・12月5日
ニューヨーク,カーネギー・ホール
【決定盤】
大指揮者トスカニーニが残した「英雄」は複数あって手持ちに加えて何点か音源を入手できたのですが、どれがいつの録音だかよくわからないのです。したがってトスカニーニ・ファンの方には申し訳ないのですが、録音年月日がはっきりわかる、これのみを取り上げることにしました。トスカニーニは私が最も尊敬している指揮者でもあるので心苦しいです。
冒頭の和音からエネルギーに満ちた白熱のライヴが始まります。和音の連続は渾身の打撃、ティンパニは慟哭のように打ち込まれます。変ホ長調の曲なのになぜか悲劇的、短調になると壮絶な悲愴感に支配されます。他の演奏が生ぬるく思えてしまうほど、並々ならぬ気迫に溢れた演奏に圧倒される時間。こうなると録音がどうとかどうでもよいことのように思われます。これが「英雄」の真の姿なのかも。
提示部は繰り返していません。終止部のトランペットは主題を叫び続けます。大変充実した14分10秒でした。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
タマーシュ・ヴァーシャーリ
Vásáry Tamás
ハンガリー放送交響楽団
(ライヴ)

ハンガリー読みではヴァーシャーリ・タマーシュですが、素晴らしいピアニストであったのに、指揮者としての活動が多くなってしまったようで、個人的にはとても残念に思っています。とはいえ、指揮者としてのヴァーシャーリはけして捨てたものではなく、この「英雄」も小細工なしの正統派路線で立派な音楽を作り上げています。録音会場が少し響き過ぎてもやもやしているのが難点で、もう少し残響時間が短かったら、印象が変わったでしょう。提示部は繰り返しておらず、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。15分13秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヤン・ヴィレム・デ・フリエンド
Jan Willem de Vriend
ネザーランド交響楽団
(ヘット・オーステン管弦楽団)
2010年
【お薦め】
フリエンドには斬新な何かを期待してしまいますが、コンバッティメント・コンソート・アムステルダムによる演奏ではなく、モダン・オケを指揮しての演奏となります。音楽が実にフレッシュで、軽快でフレッシュなサウンドに魅了されます。予想に反してピリオドっぽい演奏ではなく、あくまで現代のオーケストラによる理想的なベートーヴェンを目指したというところでしょう。テンポも妥当なところで、木管や金管と弦・打楽器のバランスにも入念な注意が払われおり、バランスが良好です。録音が優秀なのも嬉しいです。主題提示部は繰り返し、終止部のトランペットは途中で主題を木管に譲ります。16分47秒

ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」の名盤(Wa~Zi)

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「英雄」第1楽章のみの聴き比べ、最終回です。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
若 杉  弘
Hiroshi Wakasugi
シュターツカペレ・ドレスデン
1985年6月
ドレスデン,ルカ教会
【お薦め】
まず、オーケストラの音色・ホールの響きが魅力的です。若杉弘もこの名オケ・名録音会場を得て、恰幅のよい堂々たるベートーヴェンを繰り広げています。このサウンドに浸りきっているだけでもう十分で、私にとっては大変なご馳走なのですが、あまりに正統派過ぎて、もう少し若杉弘ならではの何かがないのかと贅沢なことを言いたくなってきます。しかし、演奏は立派なもので、これだけのベートーヴェンはなかなか聴けるものではありません。主題提示部は繰り返し、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。18分28秒

なお、若杉弘/ケルン放送交響楽団(1977年10月28日ライヴ)は未聴です。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ブルーノ・ワルター
Bruno Walter
ニューヨーク・フィルハーモニック
1949年3月21日、4月16日、5月4日
ニューヨーク,コロンビア30丁目スタジオ

さすがニューヨーク・フィル、力強く風格のある響きがします。後年のコロンビア響との演奏より重く引きずる感じがありますが、粘る箇所は同じですね。ただ、ワルターがニューヨーク・フィルを統制し切れていないのか、僅かにもたつく、微妙にテンポのズレのようなものがある場面が気になるところです。ワルターの基本的な楽曲解釈はコロンビア響とのステレオ録音とほとんど変わりませんので、(オーケストラが劣るとしても)ワルターを聴くならそちらを選ぶべきと思います。録音はこの時代ですから当然モノラルで、全合奏時にキンキン鳴りますが、聴き辛いというほどのことはありません。提示部のリピートは無し、終止部のトランペットは高らかに主題を演奏します。14分47秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ブルーノ・ワルター
Bruno Walter
シンフォニー・オブ・ジ・エア
1957年2月3日(ライヴ)
【お薦め】
以前にも書きましたが、シンフォニー・オブ・ジ・エアは、旧NBC交響楽団のことで、トスカニーニの芸術が染み込んだオーケストラをワルターが指揮すればとてつもない名演が出来上がるに違いないと思ってCDを購入したところ、録音の悪さにがっかりした記憶があります。今回聴いてみたら録音はそんなに悪くなく、先のニューヨーク・フィル盤よりも良いと思いました。テンポはやや遅めに変わり、よりいっそう旋律を歌う演奏となっていますので、ワルター/コロンビア響はオーケストラが物足りないと感じている人(私はそれほど不満を覚えないけれど)には、こちらをお薦めしたいと思います。鳴りのよいオーケストラをたっぷり歌わせたワルターの「英雄」です。主題提示部は繰り返しません。終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。16分06秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ブルーノ・ワルター
Bruno Walter
コロンビア管弦楽団
1958年1月20,23,25日
ハリウッド,アメリカン・リージョン・ホール
【決定盤】
ワルターの人間性を感じさせる大らかな演奏です。故吉田秀和先生が著書「LP300選」でベートーヴェン『第3番交響曲変ホ長調』は、このレコードを掲げていました。だからというわけでもないのですが、この「英雄」は初めて聴いた時から私のお気に入りで、繰り返し聴き続けてきたものです。音楽が若々しく清新で、晴れ渡った青空を思わせる演奏であり、何度聴いても素晴らしい演奏だと思います。弦の数が少なめなのも現代風で古臭さを感じさせまんし、コロンビア響はクリーヴランド管みたいに巧くないかもしれないけれど、ワルターの指揮に忠実で、気持ちの良い演奏を聴かせてくれます。少しでも音質の良いCDが欲しかったので、何度も買い直し、今は「ベートーヴェン:交響曲全集、ヴァイオリン協奏曲、リハーサル(7CD)」に落ち着いています(SACDで出ていないか検索したら自分のブログがヒットしてしまい恥ずかしい)。提示部の繰り返しはありません。終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。16分08秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ギュンター・ヴァント
Gunter Wand
北ドイツ放送交響楽団
1984年11月28-30日、12月1,3,6日
ハンブルク,フリードリヒ・エーベルト・ハレ
【お薦め】
ヴァントのベートーヴェンは食わず嫌いというか、最初に買ったのが交響曲第1番と第2番で、これがあまり良いとは思えなかったため、それ以後、入手に努めていないのです。そのようなわけであまり期待しないで聴いたこの録音ですが、なかなか良いですね。大きめの編成のオーケストラをよく鳴らし(内声部の充実)、旋律を伸びやかに歌わせ、ヴァントらしく細かいところまで神経の行き届いた、気持ちのよい「英雄」です。厚めの弦に程よく管楽器がブレンドされ、ティンパニは深い響きで打たれます。もはやこれは職人芸の世界ですね。主題提示部はリピートし、終止部のトランペットは主題の演奏を途中で降り、木管楽器に引き継ぎます。18分06秒

なお、ヴァント/北ドイツ放送響の1989年12月10日~12日(ライヴ)及びベルリン・ドイツ響の1994年2月15日(ライヴ)は残念ながら未聴です。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ブルーノ・ヴァイル
Bruno Weil
ターフェルムジーク・バロック・オーケストラ
2012年5月24-27日(ライヴ)
トロント,ケルナー・ホール

名前にバロックを付けているくらいですから、ピリオド楽器オーケストラによる演奏です。弦は少なめノン・ヴィブラート、管楽器も飾り気のない素朴な音色です。ヴァント指揮北ドイツ放送響の分厚い響きを聴いた直後では、弦楽合奏が栄養失調気味で痩せているように聴こえます。もっと速いテンポにすればよかったのに、中庸のテンポを採用しているので、響きの薄さが気になってしまうのです。このタイプの演奏であれば、モダン楽器オーケストラのほうがふさわしいでしょう。主題提示部はリピートし、終止部のトランペットは最初から目立たたず、木管楽器主体で推移していきます。これは新しい発見。17分05秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
フェリックス・ワインガルトナー
Felix Weingartner
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1936年5月22日・23日

ワインガルトナーは、他にもロンドン響、ブリティッシュ響、ロイヤル・フィルを指揮してベートーヴェンの全交響曲を録音していますが、これは第1・7・8・9番と同じウィーン・フィルを指揮したものです。録音は音の揺れに時代を感じますが、聴く前に想像したより鮮明な音です。自由にテンポを動かしている演奏で速度がコロコロ変わりますが、フルトヴェングラーのように大きなうねりとならず、少しせわしない感じがします。提示部の繰り返しは無く、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏しているように聴こえます。14分24秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
デイヴィッド・ジンマン
David Zinman
チューリヒ・トーンハレ管弦楽団
1997&98年
【お薦め】
ベーレンライター社刊行の「新全集版を使用」という触れ込みで話題を集めた全集でしたが、これを初めて聴いた時は、今まで聴いていたベートーヴェンは何だったのか?と本当に驚いたものでした。それらの驚きは、実は新全集版の楽譜がそうなっているからではなく、ジンマンや奏者のアイディアによるものだと知ったのは後のことでしたが、騙されたと怒って中古ショップに叩き売った人もいます。買い叩かれて2度怒ったそうです。でもね、それを差し引いてもこのベートーヴェンは魅力的だと思うのです。テンポは時代考証型で速いですし、少なめの弦により木管楽器が浮き上がってクリアな響きを確保していますし、ティンパニも元気です。音楽が生き生きとしていて新鮮で、オーケストラがこれが自分達のベートーヴェンだと言わんばかりに溌剌と自発的に演奏しているのがわかります。主題提示部は繰り返します。終止部のトランペットは途中で降りて主題を木管に譲ります。15分34秒

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これでひとまず終了です。目標の200枚には達しなかったかもしれません。

最近はYahoo!ブログ終了に伴う、引っ越し問題が悩ましいです。ブログの移転は単純なことではないということがわかってきました。Yahoo!ブログ提供予定の「他社ブログへの移行ツール」を使用すると「移行元のYahoo!ブログは閲覧・更新できなく」なるのですが、その理由を確かめるために、次回の記事はひとつ実験をしてみたいと思います。お時間のある方はご協力くださるようお願い申し上げます。

グリーグ 弦楽四重奏曲 ト短調 作品27 の名盤

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実験記事を書くつもりでしたが、書きかけの文章があったので、それを元に一本アップします。以前に弦楽四重奏曲を連続して取り上げていた時期にボツにした原稿の再利用です。

曲は、ノルウェーの作曲家、グリーグが唯一完成させた弦楽四重奏曲。

エドヴァルド・グリーグ:弦楽四重奏曲 ト短調 作品27

第1楽章 Un poco Andante - Allegro molto ed agitato
第2楽章 Romanze Andantino
第3楽章 Intermezzo Allegro molto marcato 
第4楽章 Lento - Presto al Saltarello

Wikipediaのこの曲の「曲の構成」には「全楽章は切れ目なく演奏される。」とありますが、各楽章はきちんと完結しています。たぶん、この曲を聴いたことがない人が書いたのでしょう。

Grieg String Quartet, 1st Mov - Pt. 1 (Orlando Quartet)

Grieg String Quartet, 2nd Mov (Orlando Quartet)

Grieg String Quartet, 3rd Mov (Orlando Quartet)

Grieg String Quartet, 4 Mov (Orlando Quartet)

Edvard Grieg - String Quartet No. 1 in G Minor, Op. 27
Copenhagen String Quartet 


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アンフィオン弦楽四重奏団
Amphion String Quartet
2014年2月6-9日
【お薦め】
このクァルテットについて詳しいことは知らない(ベルギーの四重奏団? アンフィオン管楽八重奏団のほうが有名?)のですが、なかなか素晴らしい演奏を聴かせてくれます。
第1楽章冒頭はなかなか分厚いハーモニー、主部に入ると、遅すぎず速すぎずのちょうどよいテンポで、緩急の差も適切、特に弱音が最高、奏者個々の演奏能力が高いため、かなり聴き甲斐がある演奏です。
第2楽章もアンサンブルが美しく、グリーグの旋律を豊かに歌っています。この弦楽四重奏曲の特徴である突然の感情の変化にも追従できています。
第3楽章はこのクァルテットの持ち味である重厚な音色が効いています。
第4楽章を聴いても、つくづく巧いクァルテットであると思います。これを聴いている間は他の四重奏団の演奏を忘れることができます。これほどの技量をもつ団体でも、弦楽四重奏団という地味なジャンルなので無名に近いのは、いろいろ考えさせられるものがあります。
録音がとても優秀なのがありがたいです。ヴォルフ、ヤナーチェク第2番との組み合せです。


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アウリン四重奏団
Auryn Quartet

アウリンQは1981年創立のドイツの弦楽四重奏団です。ハイドンの弦楽四重奏曲の録音でも知られていますね。
第1楽章は感情のこもった序奏に始まり、四人の技術が拮抗しているのが充実した響きの基となっています。激情に訴えるというより、一歩下がって抑制を効かせ、品が良い演奏を繰り広げています。けして大人しい演奏ではなくダイナミックではあるのですが、その点が好き嫌いが分かれるかもしれません。暗く沈んだ曲想になったときの瞑想的な雰囲気がなかなか良いです。私はもっと感情の赴くままに弾いてくれたほうが好きですが。
第2楽章は、懐かしい歌を美しく柔らかく演奏しているのが印象的です。曲想が変わっても、とげとげしくならず、あくまで品を保つアウリンQです。
第3楽章も四人のバランスが上々で、メロディを受け渡していくところでも、あるパートが突出しているということがないのが良いです。
第4楽章も緊密なアンサンブルでグリーグの昏い情熱をよく表現していると言えます。全体を通じて良くも悪くも真面目な演奏でした。
録音がちょっとこもった感じがあって各楽器の分離がよくないのが残念。グリーグの1892年の弦楽四重奏曲(第1楽章と第2楽章のみ)との組み合わせです。


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ブダペスト弦楽四重奏団
Budapest String Quartet
1955年

20世紀を代表する弦楽四重奏による演奏です。演奏は独特な熱気と高揚を湛えたもので、この頃はメンバー全員がロシア人だったからでしょうか、チャイコフスキーかボロディンの曲を聴いているみたいです。第1楽章などカロリーが高く、濃い表情づけに聴きごたえがあります。第2楽章もゆったりとしたテンポを採用して深々と歌います。曲が動き出す頃になると俄然色彩感が出てきて、これがステレオ録音だったらと残念な思いがします。第3楽章も人懐っこい歌が独特です。第4楽章も速いテンポで手に汗握る白熱した演奏。
さすがに1955年の録音なので当然モノラルですし、古めかしい音がして時代を考慮してもそれほど良い録音だとは思えないのですが、演奏の良さを損なうほどのことはありません。シベリウスの弦楽四重奏曲ニ短調との組み合わせです。


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ダヴィド・オイストラフ弦楽四重奏団
David Oistrakh String Quartet
2015年7月24-27日
ブリュッセル.スタジオ4

20世紀最高のヴァイオリニストのひとりの名前を使用する栄誉を受けて2012年に結成したロシアのクァルテットです。第1楽章は、第1ヴァイオリン(アンドレイ・バラノフ:2012年のエリザベート王妃国際コンクールで優勝)の線が太く朗々と歌う演奏が目立ちますが、それはけしてマイナスではありません。四重奏団としての演奏は重厚で粘り、あまりグリーグらしくないとも言えますが、そのひたむきさ・熱っぽさに惹かれるものを感じます。 第2楽章も第1ヴァイオリンと他3人の技量に差がある感じで、他のパートが旋律を弾いているときでもファーストは目立っています。まるでロシア民謡のように歌っており、暖炉の前に座っているような暖かさを感じさせる演奏です。第3楽章は良い出来です。ここでもアンドレイ・バラノフのヴァイオリンが他の3人を牽引する形で力強い演奏を繰り広げています。第4楽章も線が太く、エネルギッシュな演奏を楽しむことができます。
録音は少々聴き疲れがしますが良い音です。メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第1番、他との組み合わせです。


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エンゲゴール四重奏団
Engegård Quartet
2015年4月
Bryn Church, Bærum
【決定盤】
第1楽章序奏はエネルギー感に満ち、名演への期待が高まります。少し柔らかめ抑えた感じで第1主題が奏でられ、それが徐々に盛り上がっていくにつれ、この演奏に引き込まれていきます。そう、この曲はこれくらいやってくれないと。第2主題の北欧っぽい寒々とした感じもよく出ています。その後も鮮烈でダイナミックで、リズムの切れもよく、この曲を聴く醍醐味を味わうことができます。一人ひとりの技術がしっかりとしていて、かつ突出しておらずバランスが保たれているのにも好感がもてます。再現も音色を変化させてみたりと至れり尽くせりで、技のデパートを聴く思いがします。第2楽章も表情が豊かで優雅で、グリーグの抒情性もよく表出されており、この弦楽四重奏団の演奏能力の高さを思い知った次第です。思い切りの良さが幸いしてダイナミックな名演に仕上がっています。素晴らしい演奏でした。これほどの弦楽四重奏団であっても日本ではあまり知られていないのですね。
録音はとても優秀で美しい音響です。シベリウスの弦楽四重奏曲、他との組み合わせです。


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グァルネリ四重奏団
Guarneri Quartet
1989年
【お薦め】
これは聴き始めてすぐ名演とわかる演奏です。キリっと締まった速めのテンポと、遅い部分の対比、緊密なアンサンブルが心地よく、音色に厚みもあり、弦楽四重奏曲を聴く楽しみを味わうことができます。この曲の第1楽章はスポーツ的な爽快感があるのですが、そういう部分をうまく表現していると思います。第2楽章も心のここもった歌を聴くことができますし、優雅で洗練されています。第3楽章も筋肉質の引き締まった合奏です。この楽章は途中から人懐っこい、おどけた調子に変わりますが、そのような曲想でもグァルネリQは柔軟に対応し、上手にまとめています。第4楽章もただ単にメカニックが優れているだけでなく音楽性が豊かで、グリーグの音楽の民族性というか、郷土色のようなものがさり気なく表現できていて舌を巻きます。第3楽章も鮮烈であり、情熱的ではありますが、北欧の情感のようなものはよく出ていて「北国の春」といった感じです。フレーズの切り上げ方などちょっとしたところにもセンスの良さを感じ、緩急の差が大きいのもプラスに働いて、演奏効果が高いと思います。第4楽章は繊細に開始、やや感情を抑えているかと思うと、それが爆発的に膨れ上がっていく様がなんとも言えずカッコいいです。
左右にめいっぱい広げた感じのステレオ録音ですが、もう少しパリっと冴えた音を望みたいところです。シベリウスの弦楽四重奏曲との組み合わせです。


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ハーゲン四重奏団
Hagen Quartett
2011年6月
DLFカンマームジークザール

以前弦楽四重奏曲を聴き比べを連続して書いていたことがあり、当然グリーグの曲も登場する予定だったのですが、結局ボツになってしまいました。その理由のひとつは、私が好きなハーゲン四重奏団の演奏があまりよくなかったからです。ハーゲンQは長い間Deutsche Grammophonから録音を出していましたが、2011年にmyrios classicsに移籍し、これはその頃の録音となります。
第1楽章は重厚ですが少々崩れた感じがします。第1主題も重く引きずる感じで、切れ味が鈍いです。第2主題もどこか中途半端です。ヴェロニカのヴィオラとクレメンスのチェロは健在ですが、ルーカスの第1ヴァイオリンに往年の勢いがないように感じられ、10年早く録音してくれたらと思ってしまうのです。悪いところばかりではなく、抒情的な部分に静謐な美しさや、4人の息の合ったアンサンブルを聴ける場面もあるのですが、全体的に音楽が枯れているように思われます。第2楽章も最初のうちは良いのですが、ルーカスのヴァイオリンに切れ味が不足していて、たどたどしく聴こえてしまうのです。第3楽章も同様で、ルーカスがもう少し頑張ってくれたらと思います。第4楽章も最初は良いのですが、もう少しエネルギーというか、勢い・若々しさがほしい楽章です。年寄り臭い演奏になってしまいました。
録音は優秀でSACDでの発売です。ブラームスのクラリネット五重奏曲との組み合わせです。


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ジャン・シベリウス四重奏団
Jean Sibelius Quartet
【お薦め】
目が覚めるような音で第1楽章が始まります。その後はおずおずと始まりますが、烈しい気迫がこもった演奏に変化します。第1ヴァイオリンとその他3人というタイプですが、それがちっとも嫌ではありません。そのように書かれている楽章ですからそういう演奏がふさわしく、この第1ヴァイオリンはそれに応えていると言えます。録音特性のせいもあり、リズムの切れ味がよく、少々荒っぽいところがあるにせよ、とにかくカッコいい演奏です。第2楽章はもう少し透明感のある美しさがグリーグの音楽に似つかわしいとも思いますが、わずかに遅めのテンポによる、よく歌う演奏となっています。第3楽章は鮮烈であると同時に、抒情的な部分と陽気な部分との対比がうまく描き分けられています。第4楽章も鮮やかで生命力に満ちていますが、全曲を通じてあまりに気合の入った演奏に少々聴き疲れてしまいました。
ハイ上がり気味、高音を強調している録音です。シューベルトの弦楽四重奏曲第13番D804との組み合わせです。


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オスロ四重奏団
Oslo Quartet
【決定盤】
ノルウェー王国の首都であり最大の都市であるオスロの名を冠する弦楽四重奏団による演奏です。第1楽章序奏から思いが詰まっており、音楽に対する共感に並々ならぬものを感じます。曲がいったん鎮まると、優しい労りの音楽、そして再び盛り上がっていくのですが、この過程が非常に上手で、表現の巾・感情の振幅が大きく、強く惹き込まれるものを感じます。それらが実に自然に演奏されるのです。オスロの名前は伊達ではありません。素晴らしい演奏です。第2楽章もチェロ、ヴァイオリンにより、のどかに、しかし細心の注意を払って懐かしい歌が演奏をされるのを聴くと、この曲のこれ以上の表現は考えられないと思ってしまいます。第3楽章も良い演奏です。他の演奏では弾き飛ばされてしまうような箇所でも丁寧に、祖国の大作曲家であるグリーグへの共感をもって演奏されています。四人の技術も音色もバランスが取れていて、素直に弦楽四重奏曲を楽しむことができます。第4楽章も素晴らしく、全ての部分が適切に演奏されています。喜びに溢れた輝かしい演奏。この弦楽四重奏曲の理想的な再現と言っても過言ではないでしょう。
Naxosの録音はやや高音がきつめですがメリハリがはっきりしていて悪くはありません。組み合わせは、グリーグの未完の弦楽四重奏曲、その他(知らない作曲家)です。


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ペーターゼン四重奏団
Petersen Quartet
1993年5月24日
Saal 1, Funkhaus Berlin, Germany
【お薦め】
この曲の第1楽章はカッコいいので、勢いがあればそれだけで聴けてしまうところがあるのですが、ペーターゼンQの演奏はそれに加えて繊細で抒情的で素敵です。少し神経質な感じがしないでもないですが、スッキリした現代的なセンスによる演奏に心惹かれます。終止部など「遥かなる遠い呼び声」と評したくなります。第2楽章は緩急自在で、何とも言えない懐かしさと躍動感が同居しており、第3楽章も同様で、瑞々しい音楽を聴かせてくれます。四人の音質上のバランスが好ましく、統制が取れており、密度の濃い合奏を聴かせてくれます。鮮やかなものです。第4楽章は切れ味が鋭く、シャープでダイナミック、華やかな演奏を聴かせてくれます。
録音は優秀で他の演奏もこれぐらいの水準であったらと思わせるものです。グリーグの2楽章だけの四重奏曲とシューマンの弦楽四重奏曲第1番との組み合わせです。


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ラファエル四重奏団
Raphael Quartet

第1楽章はまず暗く悲劇性を感じさせ、重く引きずります。切れ味は少々鈍く、ぎこちなさが感じられ、曲想の変化にうまく追従できていないように思われますが、もしかしたら外面的な効果に背を向けているのかもしれません。静かな場面では清楚な美しさあるのですが。第2楽章もある一定水準の技巧は確保されているものの、どこか弾き込みが足りないように感じられます。第1ヴァイオリンがもう少し線は太く朗々と旋律を奏でてくれれば印象は違ったものとなったでしょう。第3楽章も悪くないのですが、どこか表面的で浅く感じられてしまうのです。あるいはこのクァルテットの限界なのかもしれません。第4楽章は全曲で最も成功している演奏でしょう。相変わらず練られておらず不完全燃焼気味ですが、この楽章はある程度勢いで済ませられます。
録音は悪くありません。グリーグの弦楽四重奏のためのフーガ ヘ長調、ピアノ三重奏曲アンダンテ・コン・モートと、補筆完成されたもう1曲の弦楽四重奏曲との組み合わせです。


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上海クァルテット
Shanghai Quartet

第1楽章は速いテンポで一筆書きのように駆け抜けます。遅くなる部分との対比もきちんと描き分けられていますし、演奏者個々の技術がしっかりしているので、安心して聴ける良さがあります。もう少したっぷりと聴かせてほしいと思うときもあり、比較的スイスイと進んでしまうのですが、この運動能力の高さは魅力です。終止部は感情がこもっていてなかなか良いと思います。打って変わって第2楽章は遅めの速度で旋律をよく歌い、表情豊かです。抒情性も十分に表出されており、この第2楽章は名演と思いました。第3楽章も良い出来です。グリーグの音楽のもつ愉しさ、躍動感、抒情性がよく表現できていると思います。ただ、私がこの弦楽四重奏曲に聴き飽き始めてしまったためか、それともこの演奏の録音が今一つのせいか、最後まで集中して聴くことができませんでした。第4楽章もこのクァルテットの表現力の高さを堪能できる演奏です。ころころと変わる曲想に完全に追従できている立派な演奏です。
前述のとおり録音は音がこもっていて分離が悪く明晰ではありません。録音が優秀だったら【お薦め】にしたでしょう。メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第2番との組合せです。


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ヴェルターヴォ四重奏団
Vertavo String Quartet
【お薦め】
第1楽章は厳かに粛々とした序奏で開始されます。知らない弦楽四重奏団ですが、レコーディングできるということは一定水準を超えているということなのでしょう。第1主題の後に大きめに間をとって厳かに第2主題を演奏し、その後に徐々に盛り上がっている場面もやや表情がオーバーですが、未知の団体としてはこれくらいやってくれたほうがインパクトがあるというものです。その後もアグレッシブな演奏が続き、飽きることがありません。感情の込め方が半端ではなく、この曲の最も劇的な演奏のひとつと言いたいほどです。第2楽章も旋律がよく歌い込まれ、緩急の差を大きく設けられたドラマティックな演奏です。抒情的な部分がとても美しいです。第3楽章も堂々としています。この団体はこの四重奏曲の演奏経験が豊富なのでしょう。これを生演奏で聴いたらきっと感動したと思います。四人の技量も揃っていて、メロディの受け渡しにも違和感がありません。誰が目立つということがない演奏です。第4楽章も繊細に開始され、最初は抑え気味ですが、次第に豪壮な音楽となっていきます。これだけ聴かせてくれれば満足です。知らないクァルテットということで侮っていました。カロリー満点の演奏でした。
もう少し鮮明なほうが私の好みですが、雰囲気が良い録音です。ドビュッシーの弦楽四重奏曲との組み合わせ。

少年王者舘 1001

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毎日大勢の方がご訪問くださり、感謝しております。

このブログは2008年12月7日開設ですが、2013年10月5日投稿のガーシュウイン「ラプソディ・イン・ブルー」の名盤から、しばらくお休みをいただき、2017年5月21日投稿のワーグナー「さまよえるオランダ人」で(奇跡の)復活を遂げました。休止期間が生じた理由は、それにはいろいろな原因があるのですが、私生活に大きな変化があったことが一番大きな要因です。

拙ブログは、Gさん曰く「全方位的なブログ」とのとおり、クラシック音楽のジャンルを問わない名盤聴き比べがひとつの特長となっているのですが、この聴き比べは私にとって大きな負担です。これまでは、名曲名盤本を参考にしつつ、私が入手できたCDの比較でよかったのですが、ストリーミング配信によって膨大な音源が入手可能となり、1曲について書くのにすごく時間がかかっています。とても1回の記事では書ききれませんので数回に分けて書いています。

私は文章を書くのは好きですが、得意というほどではありませんので、ひとつの記事を書くのに膨大な時間とエネルギーを要します。今から考えればよくあれだけの量をこなしたと思う曲もあります。例えばムソルグスキー「展覧会の絵」とか、マーラーの「巨人」「復活」とか。もちろん量が苦にならない曲もあり、ベートーヴェンの「英雄」は楽しんで書いていましたが。

その後、ちょっとマイナーな、グリーグの弦楽四重奏曲を経て、次の曲も決まっており、リストも作成し終えていたのですが、どうしても文章が書けません。演奏を聴いた後に、いろいろ感想が思い浮かぶのですが、気持ちが上向きにならず、文章を書くエネルギーがありません。(アンプが故障して修理に出していたということもありますが。)

クラシック音楽もあまり聴かなくなっています。スマホにはバッハの無伴奏とかベートーヴェンの弦楽四重奏曲が入っているのですが、テレビのサントラ(2119)とか、英会話の学習教材、宇多田ヒカルを聴いています。

記事を書くエネルギーが欠けているというか、他にやるべきことがあるじゃないかという思いに支配されており、それは来月まで続くでしょう。今月をなんとか退き切れば楽になれるのではないかという気がしていますが。


昨日、久しぶりに演劇を観に行きました。少年王者舘を新国立劇場で観ることができるなんて、行くしかないじゃないですか!

少年王者舘 1001
2019年5月18日(土)18:00〜
東京◎新国立劇場
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(以下、HPよりコピペ)
少年王者舘は1982年3月に旗揚げして以来、現在に至るまで、約50本の作品を創ってまいりました。それらの作品たちに通低する姿勢は、「このセカイやこのウチュウは一体何なのだろう?」「それは、何故あるのだろう、または、ないのだろう?」という、余りにも根本的で、余りにもとりとめのない茫漠とした興味です。 
「存在」してしまう「ナニカ」が醸し出す、えもいわれぬなつかしさ、気付いたりコトバにした途端、溶けて何処かに消えてしまう「未来の残り香」のような、始まりも終わりもないような、昨日と明日、彼方と此方、アナタとワタシが混じり合い、区別がつかなくなるような、すべての事象が通低しているような、「根源的郷愁」とコトバされるようなある感覚を「エンゲキ」という器を借りて紡いで参りました。映画でもなく、読み物でもなく、音楽でもなく、ひょっとするとエンゲキでもない、しかし、エンゲキでしか絶対あらわせないナニカを、「はじまりのまえ」や「おわりのあと」まで、時空間を工夫しながら創って参りました。 

1001 
1、ある・0、ない・0、ない・1、ある、 
あるけどない、ないけどある。 
二進法に置き換えられた世界。 
生死を賭けて終わりなき物語を紡ぎ続けたシェヘラザードの話法を借り、少年王者舘が今まで吐き出した数々のエレメントを、撹拌させ、混沌させ、融合させ、分裂させ、物語の中の物語の中の物語の中の物語の中に詰め込んで、ヒトのまばたく間に現出させる、魔法のような、量子論的千夜一夜物語。

出演
 珠水 
 夕沈 
 中村榮美子 
 山本亜手子 
 雪港 
 小林夢二 
 宮璃アリ 
 池田遼 
 る 
 岩本苑子 
 近藤樺楊 
 カシワナオミ 
 月宵水

 井村昂

 寺十吾 
 廻飛呂男 
 海上学彦 
 石橋和也 
 飯塚克之

 青根智紗 
 石津ゆり 
 今井美帆 
 大竹このみ 
 奥野彩夏 
 小野寺絢香 
 小島優花 
 小宮山佳奈 
 五月女侑希 
 相馬陽一郎 
 朝長愛 
 中村ましろ 
 新田周子 
 一楽 
 野中雄志 
 長谷川真愛 
 坂東木葉木 
 人とゆめ 
 深澤寿美子

作・演出
 天野天街 
美術
 田岡一遠 
美術製作
 小森佑美加/岡田保
映像
 浜嶋将裕 
照明
 小木曽千倉 
音響
 岩野直人 
振付
 夕沈/池田遼 
音楽
 珠水 
チラシ原画
 アマノテンガイ 
衣裳
 雪港 
衣裳協力
 いしだかよこ/がんば/安野富久美 
小道具
 る 
演出助手
 山田翠 
舞台監督
 大垣敏朗 
制作
 少年王者舘 
主催
 新国立劇場

協力
 小堀純 うにたもみいち 望月勝美 サカイユウゴ 羽鳥直志 山崎のりあき 吉永美和子 早馬諒 原田瞳

杉浦胎児 虎馬鯨 白鷗文子 サカエミホ ☆之 水元汽色 
水柊 藤田晶久 街乃珠衣 篠田ヱイジ

STAGE OFFICE tsumazuki no ishi 有限会社ザズウ 株式会社ダックスープ かすがい創造庫 
演劇組織KIMYO 株式会社巣山プロダクション 劇団キリンバズウカ 劇団天動虫

運営
 一般社団法人 箱の中の箱


少年王者舘の芝居について書くのは難しいです。3人で観に行ったとき、1人は感動していましたが、もう1人は2度と観ないと言っていました。私は演劇や文学に非日常を求める者なので、少年王者舘の芝居に感激しました。

それで今回の「1001」なのですが、新国立劇場ということもあったのか、少年王者舘はかなり力を入れて臨んだと思うのです。出演者も多かったしね。いつものより洗練されていたましたが、その分エネルギー感が低かったような気がしないでもありません。お客さんが爆笑するシーンも無かったしなぁ。

再びクラシック音楽を聴き始める

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先週の金曜日は、喉が痛かったのです。早めに仕事を切り上げ、しかし帰宅せず、S社のTさんと上野でご一緒してしまいました。お会いしたのは10年ぶりくらいでしょうか。時が経つのが早い年齢になってしまいました。

翌日の土曜日、起きた瞬間、風邪をひいているのがわかりました。熱っぽいし、喉は痛みを増しています。お医者さんに行って薬をもらい、日曜日も家で大人しくしていました。

寝たり起きたりの生活でしたが、起きているときに音がないのはさびしい。しばらく前からクラシック音楽を聴きたくないモードになっているので、ジャズを聴いていました。それもピアノ・トリオばっかり。

私が聴くピアノ・トリオは、いわゆるジャズの名盤、または寺島靖国さんが何かの本で褒めていたCDばかりで、ご紹介するまでもないのですが、とにかくひたすら聴きまくっていました。

以前はピアノ・トリオのCDをせっせとネット・ショッピングで集めていた時期がありましたが、今は聴きたいCDをSpotifyなどで簡単に聴けるようになりました。便利な世の中になったものです。

そして月曜日。風邪が治っていません。この日は午後からずっと会議なのです。数分で決めました。今日は「自宅作業」の日にしようと。明日、S市に提出しなければならない書類があるから、それを作っちゃおう。

ピアノ・トリオを聴きながらせっせと仕事をしていました、が、何が私に降りたのか、突然CDのストップ・ボタンを押し、BGMをクラシック音楽に変更しました。

曲は、ドビュッシーの前奏曲集第1巻・第2巻。ピアノはモニク・アースです。久しぶりに聴くドビュッシーのピアノ曲に思わず聴き惚れてしまいました。

続きは、ラヴェルのピアノ曲全集で、まずミケランジェロ・カルボナーラのCD、そしてスティーヴン・オズボーン、今はロベール・カサドシュです。仕事の能率が上がります。

ラヴェルのピアノ曲全集で持っているCDはいずれも名演ばかりなのですが、カサドシュ盤は1951年のモノラル録音なので、あまり聴き返すことがありませんでした。しかし、これが良かった。どう良かったのかをうまく書くことができないのですが、どの曲もそれにふさわしい表現がなされていて、聴いていて心地よかったのです。いや、「水の戯れ」はテンポが速すぎるかな。

移動時間中もラヴェルのピアノ曲を聴いていました。レコード芸術6月号(特大号という割には往年の厚みに至らない頁数)の「定番名曲 平成の名盤(この特集は曲が限定され過ぎているものの選ばれているCDはどれも聴いてみたいと思えるものばかりで上出来と思います。)」でも紹介されていたロジェ・ムラロ(ミュラロ)の録音。しかし、これは私のラヴェルに対する思いとちょっとイメージが違う感じ。ファツィオリという楽器のせいか、線が細く感じられるのが苦手。

続けて往年の名ピアニスト、サンソン・フランソワもつまみ食いしてみたのですが、以前は名演と思えていたのが今回は大味な演奏に聴こえてしまう始末。

(ここで上原ひろみの「Another Mind」に浮気し、この頃のHIROMIのエネルギーの凄まじさに圧倒されました。)

帰宅してからの約1時間は、ピエール=ロラン・エマールのピアノで、ドビュッシーの前奏曲集第1巻・第2巻を。これは2012年度のレコード・アカデミー賞大賞銀賞で、先述のレコ芸でも第1位に選出されている名盤です。これは精緻な演奏でとても良かった。少なくともこれを聴いている間は、これが最高の演奏ではないだろうかと思ったくらい。さすが、ブーレーズやリゲティに認められた人は違う。これはお薦めです。

電車の中で、ヘッドホンで聴くよりも自宅のオーディオ装置で聴くほうが、ゆったりとした気持ちで聴けますので、そのせいもあったのかもしれません。

ドビュッシーの前奏曲集第1巻・第2巻では、クリスティアン・ツィメルマンもお気に入りのCDです。こちらはもっとかっちり弾いていて、ピアノに適度な重量感があり、安心して音楽に身を任すことができます。私が最も信頼しているピアニストの演奏だけのことはありました。

そして今は青柳いづみこさんのピアノで「ドビュッシーの時間」というアルバムを聴いています。ドビュッシーへの愛が感じられる素敵なピアノを堪能できます。(追記:青柳いづみこさんのドビュッシーを聴いてみたいという人には、「ロマンティック・ドビュッシー」というアルバムをお薦めします。そちらのほうが「ベルガマスク組曲」とか収録されていて、馴染みやすい選曲になっていますので。)

久しぶりにクラシック音楽を聴いたという報告の記事でした。

なお、風邪は水曜日になっても治っていません。ごほん、ごほん。


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モニク・アース(ドビュッシー)

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ミケランジェロ・カルボナーラ(ラヴェル)

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ロベール・カサドシュ(ラヴェル)

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ロジェ・ミュラロ(ラヴェル)

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サンソン・フランソワ(ラヴェル)

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上原ひろみ(アナザー・マインド)

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ピエール=ロラン・エマール(ドビュッシー)

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クリスティアン・ツィメルマン(ドビュッシー)

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青柳いづみこ(ドビュッシー)

メシアン:トゥーランガリラ交響曲 P. ヤルヴィ/NHK交響楽団

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不思議です。なぜ自分がこのチケットを取ったのか全く憶えていません。トゥーランガリラ交響曲は特に好きな曲というわけでもないし、パーヴォ・ヤルヴィの才能は認めますが、特に好きな指揮者というわけでもないのです。しかも家から遠いオーチャードホールです。

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第104回 オーチャード定期
2019年6月22日(土)15:30開演
Bunkamuraオーチャードホール
ロジェ・ムラロ(ピアノ)
シンシア・ミラー(オンド・マルトノ)
NHK交響楽団
パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)

ヤルヴィ/N響は、6月19・20日の第1917回定期公演Bプログラム(サントリー・ホール)でもトゥーランガリラ交響曲を演奏しており、本公演が3日目となります。

結論から申し上げれば、私の、この音楽に対する理解があと一歩だったので、ヤルヴィ/N響の演奏がよかったのかどうかわかりませんが、おそらく名演であったのでしょう。少なくとも「第6楽章 愛のまどろみの庭」はとても美しかったです。実演で「トゥーランガリラ交響曲」を聴くという貴重な経験を得ることができました。

以下、楽曲紹介はWikipediaによります。

オリヴィエ・メシアン
トゥーランガリラ交響曲(La Turangalîla-Symphonie)

Messiaen: Turangalîla-Sinfonie ∙ hr-Sinfonieorchester
Paavo Järvi

第1楽章 序章 Introduction
第2楽章 愛の歌1 Chant d'Amour 1
第3楽章 トゥーランガリラ1 Turangalîla 1
第4楽章 愛の歌2 Chant d'Amour 2
第5楽章 星たちの血の喜悦 Joie du Sang des Étoiles
第6楽章 愛のまどろみの庭 Jardin du Sommeil d'Amour
第7楽章 トゥーランガリラ2 Turangalîla 2
第8楽章 愛の敷衍 Développement d'Amour
第9楽章 トゥーランガリラ3 Turangalîla 3
第10楽章 終曲 Final

木管楽器:
ピッコロ1、フルート2、オーボエ2、コーラングレ1、クラリネット2、バスクラリネット1、ファゴット3

金管楽器:
ホルン4、ピッコロトランペット(D管)1、トランペット(C管)3、コルネット(B♭管)1、トロンボーン3、チューバ1

独奏楽器:
ピアノ、オンド・マルトノ

鍵盤楽器:
ジュ・ド・タンブル(=鍵盤式グロッケンシュピール)、チェレスタ、ヴィブラフォン、チューブラーベル

※演奏会では、最前列に右からオンド・マルトノ、ピアノ、チェレスタ、ジュ・ド・タンブルが並んでいました。チェレスタとジュ・ド・タンブルは見ただけでは区別がつきません。同じような音色だし。

打楽器:(8人の打楽器奏者で分担)
第1奏者:バスドラム
第2奏者:プロヴァンス太鼓、スネアドラム
第3奏者:テンプルブロック3、マラカス
第4奏者:マラカス、トライアングル、タンブリン
第5奏者:タンブリン、ウッドブロック
第6奏者:クラッシュシンバル、サスペンデッド・シンバル
第7奏者:サスペンデッド・シンバル、小シンバル、チャイニーズ・シンバル
第8奏者:小シンバル、チャイニーズ・シンバル、タムタム

※オーケストラの最後列にずらりと打楽器奏者が並んでいるのはなかなか壮観です。

弦楽器:
1stヴァイオリン16、2ndヴァイオリン16、ヴィオラ14、チェロ12、コントラバス10

予習のため、以下の4種類の演奏を聴きました。

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メシアン:トゥーランガリラ交響曲
イヴォンヌ・ロリオ(ピアノ)
ジャンヌ・ロリオ(オンド・マルトノ)
パリ・バスティーユ管弦楽団
チョン・ミュンフン(指揮)
1990年10月
パリ,バスティーユ歌劇場

Wikipediaによると「1990年に一部が改訂された。これは、自分の死後も作品が『正しく』演奏されるように、とのメシアン自身の意向から、指揮者への指示の書き込みを中心とした加筆である。チョン・ミョンフン指揮パリ・バスティーユ管弦楽団による同曲のレコーディングにアドヴァイザーとして参加したことがそのきっかけといわれている。この改訂に基づき、出版譜も直ちに改訂版に差し替えられた」のだそうです。つまり、作曲者メシアン監修の演奏ということになるのでしょうか、そのような信頼感もあり、この曲はこう演奏すべしというお手本のような演奏になっています。色彩感も十分で、まずはこのCDを選べば間違いないというところです。


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メシアン:トゥーランガリラ交響曲
ジャン=イヴ・ティボーデ(ピアノ)
原田 節(オンド・マルトノ)
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
リッカルド・シャイー(指揮)
1992年3月
アムステルダム,コンセルトヘボウ

オーケストラの性格なのか、チョン・ミュンフン盤に比べるとかっちりしている印象があります。シャイーはシェーンベルクの「グレの歌」でも見事な演奏を聴かせてくれた指揮者ですから、トゥーランガリラ交響曲もお手の物です。DECCAの録音がこの曲のオーケストレーションの隅々まで捉えているので予習にぴったりでした。この曲に関してはチョン・ミュンフン盤と双璧と言いたい出来栄えです。

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メシアン:トゥーランガリラ交響曲
ミシェル・ベロフ(ピアノ)
ジャンヌ・ロリオ(オンド・マルトノ)
ロンドン交響楽団
アンドレ・プレヴィン(指揮)
1977年7月
ロンドン、アビー・ロード第1スタジオ

プレヴィンはこのような曲を指揮させても上手ですね。語り口の巧さが光ります。惜しいのは録音で、せっかくベロフを起用しているのに、ピアノの音が遠く感じることです。この曲はピアノとオンド・マルトノのための協奏曲といった性格もあるので、ピアノの音が小さいのは減点です。この頃のベロフのピアノをもっと聴きたかった。

以上が「最新版 名曲名盤500」のベスト3です。

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メシアン:トゥーランガリラ交響曲
イヴォンヌ・ロリオ(ピアノ)
ジャンヌ・ロリオ(オンド・マルトノ)
トロント交響楽団
指揮:小澤征爾
1967年12月
トロント,マッシー・ホール

若き小澤征爾の代表的な録音のひとつと思うのですが、「最新版 名曲名盤500」には登場しません。ピアノとオンド・マルトノは初演者の2人で申し分ありませんでし、聴いておきたい名盤としてご紹介することにしました。しかし、さすがに1967年の録音は古さを感じさせますし、「トゥーランガリラ交響曲」の改訂版は1990年に出版されているので、この曲を聴くのであればそれ以降に録音されたCDを選ぶのがよいのかもしれませんね。

ピアノ・トリオを聴き続けています(その他)

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Googleで「ピアノ・トリオ」を検索するとWikipediaの「ピアノ三重奏曲」と「ピアノ・トリオ(ジャズ)」がヒットします。ピアノ三重奏曲とは「通常はピアノ、ヴァイオリン、チェロの三重奏による楽曲」だそうで、主な作曲家は、
F・J・ハイドン - 48曲
モーツァルト - 6曲
ベートーヴェン - 番号付きが7曲(第7番『大公』が有名)、番号なしが5曲、未完が3曲。このほか他人による編曲が1曲。
フンメル - 9曲
シュポーア - 5曲
シューベルト - 2曲(第1番変ロ長調D.898 (op.99)、第2番変ホ長調D.929 (op.100))
メンデルスゾーン - 2曲(第1番ニ短調、第2番ハ短調)+未出版1曲
ショパン - 1曲
シューマン - 3曲
フォルクマン - 2曲
ラフ - 4曲
フランク - 4曲
ラロ - 3曲
スメタナ - 1曲
ブラームス - 3曲
ボロディン - 1曲
サン=サーンス - 2曲
チャイコフスキー - 『偉大な芸術家の思い出に』
ドヴォルザーク - 4曲(第4番『ドゥムキー』が有名)
リムスキー=コルサコフ - 1曲
フォーレ - 1曲
フィビフ - 2曲
ヤナーチェク - 1曲
ショーソン - 1曲
マルトゥッチ - 2曲
アレンスキー - 2曲(第1番ニ短調op.32が有名)
ドビュッシー - 1曲
シベリウス - 1曲
ルクー - 1曲
ラフマニノフ - 2曲(どちらも『悲しみの三重奏曲』の標題を持つ)
ラヴェル - 1曲
ブリッジ - 2曲
ヴィラ=ロボス - 3曲
マルティヌー - 3曲
ショスタコーヴィチ - 2曲(第1番ハ短調op8、第2番ホ短調op67)
なのだとか。F・J・ハイドンの48曲というのはすごいですね。

ピアノ・トリオ(ジャズ)だと「現代では通常、ピアニスト、ダブルベースプレーヤー、ドラマーからなるグループのことを指す」とのこと。寺島靖国さんの「JAZZ ピアノ・トリオ 名盤500(だいわ文庫)」(名盤でないものも紹介されているけれど)の「はじめに」では、冒頭で「ピアノ・トリオに始まってピアノ・トリオで終わるのがジャズ・ファンです。」と言い切っています。すごい!

「ベートーヴェンの交響曲に始まってベートーヴェンの交響曲で終わるのがクラシック音楽ファンです。」なんて言う人はいないでしょう。

「とっつき易さでいったら、ピアノ・トリオにかなうものはありません。」「ピアノ・トリオはジャズ演奏の根本システムなのです。」とも。最後に「どうか、本書を片手にレコード店を歩いてください。」とありますが、この本で特に推薦されているCDをショップで探すのは結構大変です。よほどの名盤でない限り、売っていないCDが多いのです。

私はHMV & BOOKS onlineを活用し、寺島靖国さんが絶賛していたCDを片っ端から注文しました。ビル・エヴァンスは寺島さんはあまり褒めていないのですが、ほとんど集めましたよ。(ロックの名盤集めをしていた時代もあるのですが、それはまた別の機会のお話。)

そうして集めた約100枚前後のJAZZのCD。ピアノ・トリオとジャズ・ヴォーカルが中心です。

クラシック音楽を聴く気分ではないとき(時期)は、それらを片っ端から聴きます。

今では、Spotifyのおかげで、購入しなくても多くの録音を聴くことができます。音質も私の耳にはCDと変わらないように聴こえます。ちなみにPCオーディオは、VAIO PROにRMEのADI-2 DACをつないで聴いています(以前より確実に進化しています。)。

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Spotifyのプレイリストが増えました。これだけの録音数を聴くのは大変ですが、2周目に突入しています。とにかく聴きまくっているのです。なお、ピアノ・トリオではないものもあります。

これはいいなと思うものもあるし、そうでないものもあります。感想を書けたらよいのですが、まだ自信がありません。以前、Yahoo!ブログに「ピアノ・トリオの部屋」という人気ブログがありましたが、尊敬しちゃいますね。的確な表現で述べておられ、私には到底マネできません。

さて、Yahoo!ブログですが、8月31日をもって記事やコメントが書けなくなります(少しだけ延長されたような?)。ブログの移転は、Yahoo!が移行ツールを提供する4つのブログから選ぼうと思っていたのですが、やはりどれもいまひとつ。コメントが20までという制限はあるものの、とりあえずFC2ブログに移転し、このブログは自分で削除しようと考えています。

この世に同じブログは2つあっても意味がないからです。古いブログが存続している限り、検索エンジンでは新しいブログの過去記事はヒットしません。そのようにできているらしいです。考えてみれば当たり前ですね。独占状態を避けるためなのでしょう。現在、2つのブログに並行して記事をアップされている方がいらっしゃいますが、新しい方に専念されたほうがよろしいかも、ですよ。

ブログ移転の前に、新しいブログの名前を記事に記しますので、その後はそちらのブログをよろしくお願いします。ブログ名は現在考え中で、もちろん今のブログとは違う名前にします。このブログは利用停止にしてしまいますので閲覧できなくなります。

と、ここまで書いて、私はブログを続ける意思があるのだろうかという疑問もあるのです。理由のひとつは、8月から生活環境が変わるということもあるのですが、それはさておき、ブログをやっていて一番楽しかった時期がずいぶん前に終わってしまったからです。

その頃は拙いながらも一生懸命記事を書き、他の方のブログにも必ずコメントしていたのですが、ブログの友人達は一人去り、二人去りで、ずいぶん多くの人がブログをやめてしまいました。

クラシック音楽が好きで、愛好家同士で語り合えたらどんなに楽しいだろうと思って始められたのでしょうけれど、好きな曲、好きな演奏には限りがあって、語り尽くしてしまうのですよね。

今、私がジャズのピアノ・トリオばかり聴いているのも、そういう時期なのかもしれません。

しかし、ようやくレコード芸術の7月号を読み始め、ロリン・マゼール指揮読売日本交響楽団他によるマーラーの「復活」、アリーナ・イブラギモヴァ率いるキアロスクーロ四重奏団のシューベルト「死と乙女」他、カティア・ブニアティシヴィリのシューベルト第21番D960など、心から聴いてみたいと思うようになりました。

古い名盤を聴くのもよいですが、新しい録音を積極的に紹介していかなくちゃと思います。そういう意味ではレコード芸術6月号の特集「定番名曲 平成の名盤」は参考になりました。「21世紀の名盤」だったらもっと面白かったかもしれません。

とりとめのない記事となってしまいましたが、まぁ、そういうことです。

この記事とは直接関係がありませんが、再び増え過ぎたスピーカー群。これらのスピーカーを取り替えながらピアノ・トリオを聴いています。不思議なもので、以前はダメだと思っていたスピーカーが良くて、お気に入りのスピーカーがいまひとつだったりします。自作スピーカーづくりは楽しいですが、置き場所がない……。

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ブラームス 交響曲第4番の名盤

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ジャズのピアノ・トリオばかり聴いていた私ですが、クラシック音楽のスイッチが入ったので、気が変わらないうちに記事を書きたいと思います。
鉄は熱いうちに打てですよ!

曲は、ブラームスが「自作で一番好きな曲」「最高傑作」と言った交響曲第4番です。

ヨハネス・ブラームス:交響曲第4番ホ短調作品98
第1楽章 Allegro non troppo ホ短調 2/2拍子 ソナタ形式
第2楽章 Andante moderato ホ長調 6/8拍子 展開部を欠いたソナタ形式
第3楽章 Allegro giocoso ハ長調 2/4拍子 ソナタ形式
第4楽章 Allegro energico e passionato ホ短調 3/4拍子 パッサカリア

これも名盤と言われるものがいっぱいあって、それら全部を聴くことはできないので、名曲名盤500等を頼りに、ベスト5に挙げられているものだけを聴くことにします。


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ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1948年ライヴ

古いライヴ録音ですが、意外に聴きやすい音質(デッド)です。第1楽章は幻想的と言ったらよいでしょうか。冒頭のやや伸ばし気味のHの音がすすり泣くようです。音楽に従ってテンポが非常に速くなり、またはかなり遅くなり、著しい緩急の差が劇的な効果をあげています。ここぞというときの和音の踏み締めも効いています。音の塊が熱気となって押し寄せてくるようです。第2楽章はホルンと木管のぶっきらぼうな演奏に始まりますが、それにより直後に訪れる優しさが際立ちます。ヴァイオリンの第1主題の変奏のところの高揚感が素晴らしいし、チェロによる第2主題も豊かな歌に溢れています。再現部の重厚な弦楽合奏も聴きものですし、迫力、熱気も十二分です。第3楽章は速めのテンポによる豪快な演奏ですが、第2主題になると長閑で落ち着いた表現となります。展開部、再現部は手に汗握る熱演でした。第4楽章も変化が大きく、それらをいちいち挙げていたらキリがありません。第12-15変奏とそれに続く第16変奏以降の気持ちの切り替えがすさまじいです。コーダも白熱的で、こんな演奏は


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ブルーノ・ワルター指揮
コロンビア交響楽団
1959年
【決定盤】
もう20年ぐらい前のことですが、クラシック音楽のフォーラムがあって、そこで「ブラームスの第4でワルター/コロンビア響以外の名演を挙げよう」というお題があり、私は小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラと答えていましたっけ。もうひとつ思い出があり、それは社会人になってから最も厳しい仕事をし、精神体調ともに最低の状態にあって音楽に興味を失ってしまったときでも、なぜかワルター/コロンビア響のブラームス第4だけは繰り返し聴くことができたのです。
第1楽章は第1主題からして最高です。見事なバランス。弱弱しくなる一歩手前の柔らかさ。旋律の歌わせ方が絶妙です。第2主題の滑らかさも絶品。三連音の動機も高らかに演奏されます。展開部の哀愁、再現部に至ってはますます寂しさを増しているように感じられます。ワルターの優しさが滲み出た名演でした。第2楽章も管・弦のピッツィカートのバランスは最上に保たれ、ヴァイオリンが第1主題を変奏し始めると幸せな気持ちになります。チェロの第2主題の哀愁もこれ以上のものはないと感じさせるくらい心がこもったものです。八声部の弦楽合奏はこれより美しい演奏もありますが、私にはこの演奏が一番しっくり来ます。第3楽章は演奏によってはやかましく感じるものもあるのですが、この演奏は落ち着いており、かつ十分快活で瑞々しく生き生きして輝かしいものです。第4楽章は悲劇的になり過ぎない節度が好ましく、各変奏をじっくりと描いていきます。第12変奏のフルート・ソロもこれが最高に思えます。


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カール・シューリヒト指揮
バイエルン放送交響楽団
1961年

少々古い録音の中から柔らかく抒情的な第1楽章が聴こえてきて、あぁ良い演奏だなと思います。どこまでも滑らかで優美で、三連音の楽句も刺々しく鳴りませんが、それもやや遠く感じる録音のせいなのかも。コーダも劇的ではあるものの抑制が効き、走りすぎることはなく、この指揮者の美質を感じさせます。第2楽章は冒頭から鐘の音を模したという動機が美しく、旋律は滞りなく流れ、全体にこの楽章特融の若干古びたイメージをよく表現した演奏で、これで録音が良ければベストと言いたいところです。第3楽章もシューリヒトらしい重厚ではあるがキレの良さを感じさせる演奏で、雄渾で華やかです。第4楽章も前3楽章について述べてきたことが当て嵌まります。作為めいたところがなく自然に音楽に語らせているような演奏。第12-15変奏が夕映えのように美しく、それ以降は一層音楽が充実しているように感じられます。


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カルロス・クライバー指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1980年

C. クライバーが残した代表的な録音のひとつで、今回一番最後に聴いた演奏です。なぜ一番最後にしたかというと、ファンの方は憤慨されるかもしれませんが、実はこの演奏に一度も感動したことがないからです。レコード芸術の「最新版 名曲名盤500」でも第1位なので改めて聴いてみることにしました。
第1楽章はこれ以上ないというくらい彫琢された演奏という印象を持ちました。ただ、違った聴き方をすれば、ウィーン・フィルがこれくらい出来て当たり前とでも思っているかのようにも感じられ、どうもしっくり来ません。これは録音のせいなのかもしれませんが、どうもクライバーが空回りしているように感じられてならないのです。第2楽章も細部まで目が行き届いた美しい演奏です。これほどの完成度の高い第2楽章もなかなか無いと思います。ただ、時にウィーン・フィルが機械的に演奏しているようにも聴こえてしまうのです。クライバーの指揮に雁字搦めとなって自発性を欠いているような演奏のように思われる箇所があります。これほど完成度の高い演奏も無いのですが、私にはどうしてもそのように聴こえてしまう。第3楽章はウィーン・フィルの響きが鮮烈で気持ちよく聴くことができます。クライバーはこういう曲を振らせたら本当に上手く、文句なしです。オーケストラも水を得た魚のように生き生きとしています。第4楽章は指揮者とウィーン・フィルが完全に一体化し、ブラームスの情念のようなドロドロしたものを一掃した、きびきびとした音楽づくりが心地よく、結果的にはこの演奏は名演という結論に達しました。今後は努めてこの録音を聴くようにしたいと思います。



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カルロ・マリア・ジュリーニ指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1989年ライヴ

この指揮者らしいやや遅めのテンポ(思ったほど遅くはありまませんが)で細部まで彫琢された第1楽章で、秋の気配を感じます。ウィーン・フィルの弦や木管が美しいです。終始ゆったりと落ち着いていて品格のある演奏。場面が移り変わるところで絶妙な表現を聴かせます。第2楽章も冒頭のホルンの音色に魅せられ、落ち着いた速度でじっくりと音楽が語られていきます。しとやかなで、この楽章も細かいところまで目が行き届いた演奏です。第3楽章も中身がぎっしり詰まった充実した響きですが、微に入り細を穿つ表現は変わりありません。第4楽章も実によく歌う演奏なのですが、この演奏を最後まで集中して聴くのはなかなか大変です。このテンポで一切手抜きなしですから聴き手もそれなりの覚悟が必要です。ただ単に私の注意力が持続しないだけかもしれませんが。


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ギュンター・ヴァント指揮
北ドイツ放送交響楽団
1990年ライヴ

これは一般に出回っている1996-97年録音の前のライヴです。第1楽章は堅固な造形美、一点も揺るがせず、テンポの揺れも抑え、厳しい表情を聴かせます。ヴァントの指揮に渾身の演奏で応える北ドイツ放送響の熱演。第2楽章は朴訥な管からヴァイオリンに第1主題が受け継がれていく箇所、一気に華やかになるところが素晴らしいです。再現部の大きくうねる波のような重厚さ、弦楽合奏の立派さががブラームスらしくて素敵です。この演奏の白眉と言ってよいかも。第3楽章も理想的なテンポと華やかさ、賑々しさがあり、トライアングルがきちんと聴こえるのも◎です。演奏に覇気があり音楽が瑞々しく枯れていないのが良いですね。第4楽章も各変奏が力強く、全体が大きな生き物のようです。


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ベルナルト・ハイティンク指揮
ボストン交響楽団
1992年

第1楽章第1主題は、この曲にふさわしい哀愁に満ちた表現でボストン響のシルクのような弦が美しいです。各楽器のバランスもよく保たれており、申し分のない仕上がりなのですが、全体に安全運転に終始しているようにも聴こえ、もう少し痛切な表現があったらもっとよかっのにと贅沢な感想を持ちました。第2楽章も雰囲気がよく、暖かみのある音楽を聴かせてくれ、仕上げの丁寧さが心地よいです。オルガンのような厚みのある充実した響きです。第3楽章はおおっとりとした演奏と思いきや意外に活発で、これもブラームスらしい重厚な響きが味わえる立派な演奏となっています。第4楽章も各変奏の的確な表現による抜群の安定感と完成度を誇る名演となっています。


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パーヴォ・ベルグルンド指揮
ヨーロッパ室内管弦楽団
2000年ライヴ

比較的小編成、左右対向配置のオーケストラを指揮していて、隅々まで見通しが良く、木管楽器がよく聴こえるのがありがたい演奏です。テンポは速め、スイスイと進行します。小編成ゆえにここ一番の迫力に欠けます。また、全体に即物的であっさりしている印象があります。ただ、響きは新鮮で聴きなれたこの曲に新しい発見があるかもしれません。第2楽章は一層その感が強くなり、第1楽章以上に成功していると思います。管と弦の繊細な美しさに聴き惚れます。管楽器が主役の楽章ですが、八声部に分かれた弦楽合奏も聴きものです。この楽章でも速めのテンポでもたれることなくスムーズな音楽の運びが心地良いです。第3楽章はキレの良いリズムが爽快です。ここでも隅々まで聴き取れるのが楽しくて思わず聴きいってしまいました。愉しい演奏です。第4楽章も管楽器がよく聴き取れるため、他の演奏よりわかりやすい音楽となっています。展開部(第16変奏~)以降ももなかなかの迫力です。非常に充実した演奏で感銘を受けました。


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サー・ジョン・エリオット・ガーディナー指揮
レヴォリューショネル・エ・ロマン・ティーク
2008年ライヴ

第1楽章冒頭から惹き込まれます。編成は小さめなのでしょうが量感と重さがありロマンティックでよく歌われています。ベルグルンド盤同様、常に管楽器がよく聴こえるのもう嬉しいところ。ピリオド楽器とそのスタイルによる演奏なのでしょうけれど、あまりそうしたことを感じさせない演奏です。コーダはたたみかけるように終わります。第2楽章も良いテンポで全体に古雅な趣があり、よく歌われています。第3楽章は一転して速めのきびきびした演奏で、あっという間に終わる印象があります。第4楽章はこの楽章の性格と演奏スタイルがよく合っています。第12変奏のフルートの雅やかなフルート独奏が美しいです。とにかく各変奏がその性格に従って鮮やかに演奏されていく様は高級な織物を眺めているようで、実は私はこの楽章が少々苦手なのですが、最後まで飽くことなく聴くことができました。


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リッカルド・シャイー指揮
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
2013年

第1楽章はまずは申し分のない第1主題の歌に始まります。表情に起伏があり十分劇的なのですが、あまりにもスムーズでスイスイ曲が流れていくので、いつの間にか終わってしまいます。優等生的な演奏を言うべきでしょうか。第2楽章もこの曲の最も美しい演奏ではないかと思います。八声部に分かれる弦楽合奏などとてもきれいです。第3楽章は元気いっぱいでこれもあっという間に終わってしまいます。第4楽章はシャイーが最も力を入れたであろう演奏となっており、各変奏の描き分けが見事です。
さて、この録音にはおまけとして「第1楽章冒頭部分の異稿」が付いており、これは「初演後の1886年2月には、ヨーゼフ・ヨアヒムが曲の冒頭部分を改訂するようにすすめ、そのときはブラームスも同意して4小節の短い導入部を書いた。しかし、後日これはブラームスが抹消し、当初の構想は変えられなかった(Wikipedia)」というものなのですが、この導入部は無くて正解だと思いました。

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久しぶりに聴き比べの記事を書いたので疲れてしまいました。

今後について

Yahoo!ブログのサービス終了により、2019年9月1日以降は、記事・コメント等の投稿および編集ができなくなります。それまではあと何本か聴き比べの記事を投稿し、8月31日にこのブログを自ら削除する予定です。

移転先は、20という制限付きではあるもののコメントも記事と一緒に移転できる唯一のブログであるFC2にいたします。

移転と同時に当ブログを利用停止にしますので、記事で移転先のリンクをお知らせすることができませんが、新ブログタイトルを「クラシック音楽・名曲名盤500」(←某誌の真似)に改めますので、それで検索してお越しいただければ幸甚です。

覚えてくださいね。「クラシック音楽・名曲名盤500」です。

ジョスカン・デ・プレ ミサ・パンジェ・リングァ

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クラシック音楽スイッチが入ったままなので、早速次の曲の選定に取りかかりましたが、ブラームス、シューマン、メンデルスゾーン、モーツァルト、シューベルトその他を聴いて、どれもしっくりと来ず、「私が好きな曲」なのだから本当に自分が好きな曲を取り上げようと思い直しました。当たり前のことなのですが、どうも皆が好きな曲にこだわってしまっていたようです。今月末で新規投稿ができなくなるので、残された日々はこだわりの名曲について書きます。

そんなわけで、
ジョスカン・デ・プレ:ミサ「パンジェ・リングァ(舌もて語らしめよ)」
です。

Josquin des Prez (c.1450-1521)
Missa Pange Lingua
1. Kyrie
2. Gloria
3. Credo
4. Sanctus・Benedictus
5. Agnus Dei I.II & III

 ジョスカン・デ・プレは、ネーデルランド楽派の巨匠たちのなかでも、ひときわ高く聳える、大家中の大家である。彼の音楽は対位法的技法を精緻複雑に駆使しながらも、非常に強い表現性をたたえていて、一聴しただけでも、深い印象を残さずにはおかない。ということは、また、非常に個性的な音楽家であったということでもある。マルチン・ルターは「ほかの大家たちは音符に支配されているが、ジョスカン・デ・プレは音符を支配する」といったといわれる。彼は生きていた当時から、すでに、あらゆる音楽家中のプリンスとよばれた。幸い、古くから彼のミサ曲の最高傑作とされてきた《MIssa Pange Lingua》がレコードに入っているから、それをとろう。この曲ではグレゴリオ聖歌による旋律が主題的断片として分割され、四つの声部にわたって模倣作法的に処理される。吉田秀和 LP300選(新潮社)より

皆川達夫先生の解説


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ピーター・フィリップス
タリス・スコラーズ

この曲の模範的な名演であるタリス・スコラーズの演奏です。この録音は、HMV & BOOKS によると「1987年度のGramophone Awardの声楽部門を制覇するばかりか、Disc of The Year(年間最優秀大賞)まで受賞した名盤中の名盤」なのだそうです。このCDを今は無き六本木WAVEで見つけた時のワクワクした気分は今でも忘れられません。
他の盤同様、グレゴリオ聖歌「パンジェ・リングァ」をテノールが歌うところから始まります。この曲はキリストの聖体の祝日にうたわれるヒムヌス(讃美歌)だそうです。
Kyrieは、バスの声が硬いような気がしますが、ソプラノ、カウンターテノール、テノール、バスの各声部2名ずつ計8名のタリス・スコラーズの合唱はバランスに優れ、見通しの良いものです。完璧です。
Gloriaは、透明感のある合唱が虚空に響くようで聴き惚れてしまいますし、はっとするような美しさも随所に聴くことができます。
Credoは、長いのですが、タリス・スコラーズの演奏はちっとも飽きません。声を聴いているわけでも幸せな気持ちになれます。Et incarnatus est de spiritu sancto ex Maria virgine:の優しさ、祈りに満ちた表現が素晴らしく、歌手の一人ひとりがジョスカンの音楽に共感し切って歌っています。欲を言えば、Kyrieから気がついていたことですがタリス・スコラーズはあまり子音を立てないので、通常文とはいえ歌詞が聴き取りづらいのです。ハーモニー重視なのでしょうか。
Sanctusもソプラノの清楚で若々しい声が素敵です。pleni sunt caeli et terra gloria tua.のソプラノとカウンターテノールの二部がとても美しい。
Hosanna in excelsis.もタリス・スコラーズは精緻な合唱を聴かせてくれます。
Benedictusは、Kyrieのときには硬いと思ったバスが柔らかい声となり、テノールともに共感に満ちた歌を聴かせます。
第1Agnus Deiは、平穏な気分に支配され。第2Agnus Deiはさらに一層透明感が増した感じです。qui tollis peccata mundiがとても美しい。第3Agnus Deiは再び四部に戻り、糸を紡いでいくような合唱です。


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Bernard Faber-Garrus
Ensamble a Sei Voci
A Sei Voci

最初のAppel des clocesというトラックは。教会の鋭い鐘の音です。タリス・スコラーズと同じくグレゴリオ聖歌「パンジェ・リングァ」から始まり、最初は女声(やや音程が甘い?)と男声が交互に歌い、最後は混声となります。タリス・スコラーズより人数が多いです。
Kyrieは、教会の豊かな響きのせいもあり、豊かな声量を感じます。各節の歌い始めは独唱でいくつかの声部が重なる部分になると人数が増えるようですが女声のほうが人数が多いようです。
Gloriaは各パートのソロから始まり次第に声が増え、ハーモニーに厚みが増していきます。この曲はソロとゾリの使い分けが巧みです。音量が上がるところは人数が増して自然に盛り上がります。
間にPlain-chant:Nos autemが歌われます。後半の女声ソロが魅力的です。
Credoは、Et incarnatus est de spiritu sancto ex Maria virgine:の崇高な美しさが素晴らしく、人数の多さが厚みを生み出しています。この曲を初めて聴く方にはタリス・スコラーズよりも聴きやすいかもしれません。
Sanctusも女声は人数が多いけれど、男声は人数が少ないようで、Hozannaは弱声から始まり、終始声を張り上げるところがないのは好感がもてます。
Benedictusの男声二人の歌唱も優れています。再びHozanna。
第1Agnun Deiも豊かな声が悠久の時を奏でます。第2Agnun Deiはカウンターテノールとテノールの二重唱です。第3Agnun Deiはしっかりとした合唱を聴かせてくれます。

(ここまで書いて保存したらなぜか文字化けしてしまい、もう一度書き直しています。同じ文章を2度書いて疲れました。)


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Ludwig Böhme
Josquin des Prez Chember Choir

この演奏もまずグレゴリオ聖歌「パンジェ・リングァ」がゆったりとしたテンポで演奏されています。まず男声、次いで女声、そして混声のユニゾン。
kyrieのテンポも遅く、なかなか豊かなハーモニーです。
Gloriaも同様で、録音会場の豊かな響きのせいもあり、美しいのですが、いつまでも同じ調子なので少々飽きてきます。しかし、Qui tollis peccata mundi, suscipe deprecationem nostram.などとてもきれいです。
Credoも、この合唱団の特徴である若々しく瑞々しい声で、献身的な演奏を聴くことができます。この演奏でもEt incarnatus est de spiritu sancto以下が素晴らしい。ただ、残響の多さが気になってしまい、この合唱団くらい歌えるのであれば、残響の助けなど不要ではないかと思ってしまいます。
Sanctusも同じような調子で進むのか、少々飽きてきたなと思いきや、pleni sunt caeli et terra gloria tua.からがらっとテンポを変え、これはこれでよいと思ったのですが、Hozannaの新鮮味が失われているようにも思われました。
Benedictusは、男声による素朴な歌が印象に残ります。混声によるHozannaが繰り返されます。残響が多すぎてハーモニーがやや混濁気味です。
第1Agnun Deiは、平穏な気分に満ちた演奏。第2Agnun Deiの二部合唱も同様。第3Agnun Deiは再び四部となり、やや力強さを増し、厚みのあるユニゾンで締めくくられます。
と思いきや、再びグレゴリオ聖歌「パンジェ・リングァ」が混声ユニゾンで演奏されます。


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Maurice Bourbon
Ensemble Metamorphoses de Paris

この演奏はグレゴリオ聖歌「パンジェ・リングァ」から始まらず、いきなりkyrieです。しかもホルンみたいな楽器の音がします。さらにKyrie eleison.が終わった後、しばらく弦楽合奏が続き、そのあとにChriste eleison.です。合唱のあとは古楽器らしい金管の合奏があります。そしてKyrie eleison.は金管の伴奏付きです。
Gloriaも申し訳程度ですが伴奏付きで、別の曲を聴いているような気がします。新鮮といえば新鮮ですが、違和感があります。
CredoもGroia以上に目立つ金管伴奏が気になって合唱に集中できません。合唱は悪くありませんが、今までに聴いた3つの録音に比べるとテノール系があまり上手くなく、ソプラノも素人っぽいです。指揮はもう少し強弱のメリハリがあったほうがよいと思います。最後は快速テンポで駆け抜けます。
Sanctusは弦楽合奏で始まり、ひと通り演奏した後、無伴奏で合唱がSanctusを演奏しますが、途中から控え目に楽器も加わります。続いてpleni sunt caeli et terra gloria tua.を金管が一回演奏し、次にソプラノのみで演奏、Hozannaも伴奏付き。頭が混乱します。
Benedictusは男声が枯れた感じで歌っています。もちろん伴奏付きです。そのあとはまた弦の合奏が入り、これまた伴奏付きのHozanna。速めのテンポなので歌うのが大変だったかも。
第1Agnun Deiは、あまり平和的な気分ではなく、この曲にふさわしい表現とは言えません。何気なく弦の伴奏が付いています。第2Agnun Deiはまず弦のみの合奏で、もういいよという気分になります。合唱だけで勝負してほしい。合唱が始まっても管弦の伴奏付きなのが気になって仕方がありません。第3Agnun Deiは声楽のみかと思いきや、これもまた伴奏付きです。


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Noël Akchoté

ギターによる演奏でした(意味ある?)。2本(台)なので多重録音かな。


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Machaut Machine

テノール独唱によるグレゴリオ聖歌「パンジェ・リングァ」から始まります。
kyrieを聴きましたが、4人で歌っているようですが、終始音程が悪く、全然ハモっていなくて気持ち悪いです。聴く価値なしで終了。


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Graham Ross
Choir of Clare College, Cambridge

レーベルがハルモニア・ムンディなので期待大です。
ソプラノ独唱によるグレゴリオ聖歌「パンジェ・リングァ」かと思ったらすぐに混声ユニゾンに変わりました。ちょっとした演出です。残響過多なのが気になりますが、まずは上々の滑り出し。
kyrieは厳かに始まり、若々しくて瑞々しい声とハーモニーが魅力的。
Gloriaも爽やかなハーモニーが心地よく、この演奏に限ったことではありませんが、ソロとゾリの使い分けが効果的と思いました。ただ、ソプラノとテノールが高音になると苦しそうに歌うのが少し気になりました。
Credoもソプラノが愛らしい声で歌っています。クレア・カレッジ, ユニバーシティ・オブ・ケンブリッジということは学生合唱団? 揃っていなくて残響に救われている部分もありますが、適度に訓練された声を聴かせてくれます。指揮者のセンスも良いと思います。
Sanctusはハーモニーが美しいです。pleni sunt caeli et terra gloria tua.はデュエットですが、これも美しい。Hozannaは合唱でテンポが走っておらず、しっとりとした合唱です。
Benedictusもデュエットで、繰り返されるin nomine domini.が耳に残ります。再びHozannaで、この曲に限らずSの子音が立っているのが心地良いです。
第1Agnun Deiはソプラノの高音が詰まったような声なのが気になりますが、大きなマイナスではありません。第2Agnun Deiはデュエット。これも良い。間を置かずに合唱で第3Agnun Deiが開始、これも美しいです。
全体として現代的なセンスで心地よく聴くことができました。こんな演奏ばかりだったら良いのに。


この記事を書くまで、「パンジェ・リングァ」は「パンジェ・リングヮ」だと思っていました。「ヮ」ではなく「ァ」なのでした。それにしても大きな「ワ」ではなく小さい「ヮ」ってどういうときに使うカタカナなのでしょう。小さい「ヮ」を用いる作曲家名や曲名って無いですよね?

木下牧子 混声合唱組曲「ティオの夜の旅」

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何度も書いたことですが、Yahoo!ブログは9月1日以降は「記事・コメント・トラックバックの投稿および編集ができなく」なってしまいます。つまり投稿できるのは8月31日なのだけれど、なぜ8月なのだろう。夏休みと関係があるのでしょうか。

8月になると思い出す曲があります。それはこの組曲の第2曲「環礁」に「夏の朝の成層圏」という歌詩があり、それが私にとってとりわけ印象深い言葉だからなのですが、これは「海」「夏の海」の組曲ですね。

「ティオの夜の旅」は、今やわが国の声楽界の重鎮となられた木下牧子先生の2作目の混声合唱組曲(1作目は「方舟」)です。指揮者の鈴木成夫先生の委嘱を受け、木下牧子先生が大学院卒業間近という時期に作曲に取りかかり、池澤夏樹氏の詩集「塩の道」に巡り合ったことで作曲が進められました。1983年12月21日に東京外国語大学混声合唱団コール・ソレイユが初演。

作曲:木下牧子 詩:池澤夏樹
混声合唱組曲「ティオの夜の旅」
1.祝福
2.海神
3.環礁
4.ローラ・ビーチ
5.ティオの夜の旅

池澤夏樹の詩集「塩の道」では、
(略)
「祝福」
(略)
「海神」
(略)
「環礁」
(略)
「ティオの夜の旅」
「ローラ・ビーチ」
(略)
の順で登場します。

詩集を読んだ印象は、「塩の道」だけにしょっぱいというか、硬派な感じがするのですが、それをこんなにもメルヘンチック&ロマンティックで色彩的な組曲に仕立ててしまうなんて、木下牧子先生も女の子だったのだなと思います。

いや、褒めて、称賛しているのです。「方舟」を作曲したよりも、技法がこなれて自由となり、世界が大きく広がっている感じがします。ハーモニーもメロディーも美しく、「ティオの夜の旅」を聴くたびに私はちょっぴり切なくなります。特に「海神」と「ローラ・ビーチ」が好きなのですが、ジョギングをしているときは「環礁」がずっと頭に鳴り響いています。


夢見る、ティオの島」関屋晋先生による解説(無断転載!)
(以下、YouTubeの音源も併せてご紹介しますが、画像は見ないようにして音だけに集中するのが良いと思います。視覚による情報は絶大なものがあって曲に対する感想を左右しかねないほどだからです。)

第1曲 この曲だけが無伴奏曲だ。「光あれ」スケールの大きなメロディーが、アルトとバスで歌われると、ソプラノとテノールのハミングが光の瞬きを予感させる。男女交互に横に流れるハミングは色彩的だ。人間の声だけで表現する広がりと深さ。無限の楽しさがある。

祝福(「ティオの夜の旅」)

第2曲 ピアノのアルペッジョに引き出されるように「海が神だとは思えない」決然と歌いだす。この楽章では、私は詩の内容と同じように動き回っていく。「鳥の小さな~」の部分では空に舞い上がるようで、いい気分になってしまう。

海神(「ティオの夜の旅」)

第3曲 オクターヴの力強いピアノが余韻を持って歌われた後、ファンタスティックに揺れるようなピアノに続く女声合唱がおシャレだ。男声がそれを繰り返すとffまで高まって止まる。一瞬の空白の後「静かだ」と歌い出す男声、それを彩る女声の「静かだ」が神秘的だ。「落下する陽光が」以後の長い長いffのクライマックスを歌うのは快感だ。ffのコーラスがppに消えると、ピアノも静かにフェードアウトしていく。

環礁(「ティオの夜の旅」)

第4曲 「人の目が見ていなくても、風景はあるものだろうか」素敵な言葉だ。私たちはこういうメロディーに出会うと夢中になってしまう。「波がひたす、時が満たす ゆっくりと日時計」なんて雄大な風景だろう。「潮の暦日」の所が効果的だ。作曲者木下牧子は「第1・3・5曲がメインで、第2・4曲は間奏的役割を果たしているわけですが、それだけに、第2・4曲の扱いが全体の成果を左右する鍵となります」と言われているが、そのとおりで私も第2・4曲が大好き、気持ちを込めている。

ローラ・ビーチ(「ティオの夜の旅」)

第5曲 南の島を思わせるピアノに、ソプラノ、テノール、アルトが語りかける。突然弾けるように快適なテンポの音楽に変わる。夢見心地と言うのはこういうことなのだろうか。覚めてしまう不安の中で「安定軌道に乗った」夢飛行のスピード感はたまらない。一気にクライマックスを駆け上がって全曲が終わる。

ティオの夜の旅
(しかし、この高校生合唱団上手だな!全曲聴きたかったよ)

CDは以下の2種類が発売されました。

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鈴木成夫(指揮)
東京外国語大学コール・ソレイユ
山内知子(ピアノ)
ライヴ録音(データ記載なし)

委嘱者にして初演者の録音であり作曲者の指導もなされているのであろう貴重な記録。
「祝福」は、後述の湘南市民コールの重量感のある合唱に比べると軽量級で、「ひかりあれ」のアルトの音程が悪かったりしますが、大きな疵ではありません。どのパートも「ひかり」のHの子音をもう少し強めに立ててほしいと思うときがあります。「いかり」に聴こえてしまう。言葉は大切なのでしっかり歌ってほしいです。
「海神」は、速めのテンポでさくさくと進みますが、フットワークが軽い感じでノリの良さを感じます。
「環礁」も、もう少し言葉に気をつけてほしかったです。歌詩がきちんと聴き取れません。例えば「こわだかに」のKの子音などきちんと発音していただきたいです。
「ローラ・ビーチ」も、Kの子音が聴こえないのに不満を覚えますが、豊かな旋律の歌わせ方は素晴らしいです。
「ディオの夜の旅」は、テンポの緩急の付け方が絶妙です。ラストに向けて速度がだんだん速くないっていくのですが、そのスピード感が素晴らしいです。
なんだかいろいろ文句を書いてしまいましたが、全体的にテンポの良さがあり、爽やかかな印象を残す演奏で「ティオの夜の旅」を聴こうと思うときに取り出すことが多いCDです。同じ作曲家の「方舟」や「夢みたものは」が組み合わされているのもポイントが高いのですが、「方舟」は大阪ハインリッヒ・シュッツ合唱団や合唱団京都エコーのような重鎮合唱団の演奏が出ているので、少々分が悪いです。



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関屋 晋(指揮)
湘南市民コール
高岡立子(ピアノ)
1994年5月28日
パルテノン多摩

「祝福」は、湘南市民コールの合唱が立派です。ソプラノからバスまでどのパートも水準が高いです。特にバスは大学男声合唱団のバス(ベース)みたいで重厚感があります。関屋先生はたっぷりとメロディを歌わせており、スケール雄大です。
「海神」は、メロディが美しいこともあり、僅かに遅めのテンポを採用、抒情的な歌となっています。
「環礁」は、特に特定の子音を強調するということはやっていないのだろうけれど、歌詩が聴き取りやすいです。ffも立派でハーモニーけして崩れることがありません。
「ローラ・ビーチ」は魅力的な旋律を魅力的な声で歌っており魅了されますが、もう少し濃いめの表現でもよかったかも。少し客観性が勝った感じ。
「ティオの夜の旅」も素晴らしい演奏です。この合唱組曲のCDは少ないのですが、この録音があれば不要でしょう。これ以上のものが現れるとは思えませんし。
全体に大変立派な合唱で、模範となる演奏といっていいでしょう。
このCDの欠点はカップリングで、「花に寄せて(星野富弘・詩、新実徳英・作曲)」、「カムイの森で(萩原貢・詩、廣瀬良平・作曲)」との組み合わせ、演奏者も関谷晋/松原混声合唱団、宍戸悟郎/札幌放送合唱団と、バラバラなのです。
東京外国語大学コール・ソレイユのように、混声合唱組曲「方舟」と「夢見たものは」との組み合わせだったら文句なしだったのですが。


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ローラ・ビーチ

朴葵姫(パク・キュヒ)ギター・リサイタル 2019/08/17

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ダ・ヴィンチ音楽祭 in 川口 Vol.1 2019
朴葵姫(パク・キュヒ)ギター・リサイタル
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2019年8月17日(土)13:00-
川口総合文化センター・リリア 音楽ホール
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本日の演奏会の趣旨を演奏会の後で知りました。こういうことなのだそうです。

2019年、没後500年を迎えるレオナルド・ダ・ヴィンチにちなみ、川口総合文化センター・リリアにおいて、彼の名を冠した「ダ・ヴィンチ音楽祭 in 川口」が始まります。

ダ・ヴィンチは、美術のほか、建築・解剖学・自然科学・天文学・物理学・土木工学など、様々な分野に業績を残しています。そして更に、リラを片手に即興で歌ったり、楽器の発明や改良を行い、音響や音声を研究し、イべントプロデューサーを担うなど、音楽の分野でも高い評価を得ていました。

その精神に倣い、多くの才能が新しいことに挑戦し、互いに研鑽し合える場を作りたい。その思いで音楽祭は誕生しました。「ダ・ヴィンチ音楽祭 in 川口」ならではの熱いコラボレーションを、ぜひ体感してください。

音楽祭芸術監督/アントネッロ代表 濱田芳通

ギターにとって本当は、ルネサンス・バロックはレパートリーの宝庫。ところが実際にはそれらを披露する機会は少ない。そのなかで朴葵姫は、このルネサンス・バロック期のレパートリーを最良の師から学び、今後もそれをさらに深めようとしている。いよいよ本フェスティヴァルにおいてその成果の一端が披露され、それは継続される予定。本ホールの音響はギターソロにも極めて有効で、拡声しない生音で存分に朴の美音を味わっていただける。


曲目

ジョン・ダウラント(1563-1626)
 ハンスドン夫人のパフ
 涙のパヴァーヌ
 蛙のガリアント

ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685-1750)
 シャコンヌ

(休憩)

ドメニコ・スカルラッティ(1685-1757)
 ソナタK208、K32、K322、K178、K391

ベンジャミン・ブリテン(1913-1976)
 ノクターナル~ジョン・ダウランドの「来たれ、深き眠りよ」による Op.70
  1. 瞑想するように
  2. 非常に興奮して
  3. 休み無く
  4. 不安げに
  5. 行進曲の様に
  6. 夢見る様に
  7. 優しく揺れて
  8. パッサカリア
  9. ゆっくり、そして静かに

(アンコール)

フランシスコ・タレガ(1852-1909)
 アルハンブラの思い出

私にとってギターは最も身近な楽器であり続けていましたが、クラシック・ギターの演奏会は、村治佳織さんと朴葵姫さんしか行ったことがありません。朴葵姫さんのコンサートはこれで何回目になるのでしょう。いつものことながら非常に丁寧に一音一音を紡ぐ美しい演奏でしたが、できればもっと小さいホールで聴きたかったです。CDだと目の前で演奏されているのに、最前列とはいえギターが遠く感じます。

朴葵姫さんによると、ダウラントとブリテンは今回初めて弾いたそうです。ブリテンのノクターナルは最も好きな曲と語るギタリストが多いのだとか。名ギタリストのジュリアン・ブリームが1964年に初演した曲ですが、一回聴いただけでは理解できなかったので、解説を読みながらゆっくり聴きたいと思いました(朴葵姫によるレコーディングを望みます)。D.スカルラッティとバッハ以外は少々ぎこちなさを感じたのは、初公開だったからなのでしょうか。

終演後はいつもサイン会に並んでいましたが、今回ももちろん並びましたよ。ファンですからね。(みなさん、当たり前のように写真を撮っていらっしゃったので、私も撮ってしまいました)。

いただいたサインです。
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ユジャ・ワンみたいに同じCDが増えつつあるので、そろそろニュー・アルバムを録音していただきたいものです。DENONさんお願いしますよ!

チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調 の名盤

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貪欲にクラシック音楽のレパートリーを広げていた頃、名曲ガイドや名盤本に頼らず、全く先入観なしで聴いて気に入った初めての曲がチャイコフスキーの交響曲第4番でした。テレビでNHK交響楽団のコンサートを視聴し、第1楽章の第2主題が忘れられなくて、早速地元のレコード店でシルヴェストリ指揮の廉価盤を購入したのでした。

ピョートル・チャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調 作品36
第1楽章
Andante sostenuto - Moderato con anima - Moderato assai, quasi Andante - Allegro vivo ヘ短調、序奏付きのソナタ形式
第2楽章
Andantino in modo di canzona - Più mosso 変ロ短調、三部形式
第3楽章
Scherzo: Pizzicato ostinato. Allegro - Meno mosso ヘ長調、スケルツォ(三部形式)
第4楽章
Finale: Allegro con fuoco ヘ長調、自由なロンド形式


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チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
ピエール・モントゥー
ボストン交響楽団
1959年
ボストン,シンフォニー・ホール

第1楽章、運命のファンファーレから第1主題への移行が雰囲気たっぷりでさすがです。第1主題から経過部は速めのテンポですっきりしていますが、ベトつかない演奏が好みの人には歓迎されるでしょう。第2主題もあっさりしているようでなにやら諦念が感じられます。対向配置のヴァイオリンが効果的。クライマックスの迫力も申し分ありません。展開部は低弦の響きが常に美しく、トゥッティではこの頃のボストン響の優れた合奏力を堪能できます。再現部の第2主題はドライな感じがしますが、デッドな録音にもよるのでしょう。最後のクライマックスもキリリとしています。
第2楽章も速めのテンポですが、第1部はボストン響の弦が美しいアンサンブルを聴かせ、第2部もかなり速く、あれよあれよという間に終わってしまう感じです。モントゥーの常で木管楽器がよく聴き取れます。この楽章の演奏時間は9~11分程度だそうですが、この演奏は8分10秒で駆け抜けます。
第3楽章もヴァイオリン対向配置の面白さがあり、トリオはがらりと雰囲気を変えますが、それも束の間、再びスケルツォに流れ込みます。僅かに木管が遅れ気味?
第4楽章のロンド主題はまばゆいばかりに輝かしいです。第2副主題(ロシア民謡)ではテンポがぐっと落ちますが変奏するにつれ速くなり、三度演奏されるロンド主題は立派です。副主題の再現も情感があり、第2副主題の再現も手に汗握るようで、運命のファンファーレの後の力が抜けた雰囲気も巧く、コーダへの流れ込みも上手で、力強く締め括ります。


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チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
エフゲニー・ムラヴィンスキー
レニングラード・フィルハーモニー交響楽団
1960年9月
ロンドン,ウェンブリー・タウン・ホール

ムラヴィンスキーがDGにステレオで録音したチャイコフスキーの3つの交響曲は名盤として有名ですが、ムラヴィンスキーは第4番があまり好きではなかったようで、同じDGに録音したモノラルのチャイコフスキーは第4番のみザンデルリンク指揮となっています。ESOTERICのSA-CDで聴いてみます。
第1楽章のファンファーレはレニングラード・フィルの強力な金管で厳かに遅めのテンポで演奏され、第1主題はささやくように始まり、壮大なクライマックスに導かれますが、演奏は若干単調なような。第2主題はメロディの歌い方がこの曲にふさわしく、さすがと言いたいところで、金管楽器が朗々と歌うクライマックスも盛り上がりに欠けていません。この演奏では常にファンファーレが強靭な音色で演奏され、さすがレニングラード・フィルといったところです。ただ、もう少し第1楽章全体に渡って変化があるとなお良かったかもしれません。
第2楽章は、主要主題がしっとりと演奏され、テンポの緩急の付け方や歌い回しが見事。この楽章はムラヴィンスキーが共感をもって指揮しているのがよくわかります。
第3楽章の弦のピッツィカートはモントゥー/ボストン響は乱れ気味だったのですが、レニングラード・フィルはきっちり揃っていて気持ちがよいです。中間部では靄が晴れ光が差すような印象の木管と、金管による行進曲が絶品と言いたい出来栄え。スケルツォへの移行も実にスムーズ。メリハリが聴いていてこれも心地良い演奏です。
第4楽章はこのオーケストラの機能性の高さを再認識させられる演奏で、運命のファンファーレまで一気に持って行きます。その後も圧倒的な演奏が続きます。


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チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
ロリン・マゼール
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1964年9月,10月
ウィーン,ゾフェインザール

第1楽章序奏部の運命のファンファーレはステレオ効果を発揮した録音。第1主題に移行する際にも工夫があり、ウィーン・フィルの音色が鮮烈でゾクゾクするような提示部です。第2主題もあちらこちらにマゼールの才気が発揮され、内容が濃い音楽となっています。再登場する運命のファンファーレが楽し気に聴こえてしまうのが玉に瑕ですが、ウィーン・フィルが楽しんで演奏しているのかも。不思議なくらい幸福感に満ちた第1楽章となっています。
第2楽章は先ずウィンナ・オーボエの音色が耳を引きます。弦の旋律と同じくらいの強さで木管を吹かせたりと、いろいろ新しい発見があります。第2部は速めのキリリとした冴えた表現でウィーン・フィルの高弦が美しく、第3部は低弦が美しいです。
第3楽章は、奇をてらったところのない音楽です。トリオのウィーン・フィル特有の木管楽器がチャーミングで、金管楽器による行進曲もあっという間に通り過ぎ、再びスケルツォ。ピッツィカートがよく揃っていて気持ちの良い演奏です。
第4楽章は、ロンド主題及び副主題のオケのバランスが最上に保たれ、その後も一音たりとも疎かにしないという姿勢で演奏されているようです。マゼールらしさを期待すると肩透かしをくらいますが、これはこれで立派な演奏です。


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チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
小澤征爾
パリ管弦楽団
1970年
パリ,サル・ワグラム

小澤征爾指揮の第4番は複数あるのですが、今回は彼が35歳のときのパリ管との演奏を選びました。小澤征爾が最も小澤征爾らしかった頃?の録音です。小澤が得意としたチャイコフスキー。
第1楽章序奏部のファンファーレは十分重苦しく、これが運命のファンファーレであることを改めて認識します。大きく間を取った後、第1主題がやや粘り気のある表現で演奏されます。重厚で重苦しい雰囲気が楽想にぴったり。第2主題も仄暗く、これが曲想にジャストフィット。クライマックスも抑制が効いており、絶叫型にならないは良しとしましょう。展開部も終始重く、悲壮感が漂っています。再現部も哀愁を帯びた木管の歌わせ方が最高。速めのテンポで演奏されるコーダも説得力があります。
第2楽章も暗く重く、しっとりとしています。第2部は明るい曲想なのですが悲劇性が保たれています。第3部もしめやかに音楽が進んで行き、パリ管の木管陣の優秀さを堪能できます。
第3楽章は、強く弦をはじかせていないため、ざわざわした感じがあります。トリオの木管が巧く、金管の行進曲も落ち着いたものです。全体的に丁寧な演奏。
第4楽章はロンド主題が十分輝かしいのですが、それでも抑制を残したままです。第2副主題は幾分テンポを落とし悲し気に歌われます。全体に重苦しさが曲を支配している感じで、第1楽章冒頭の再現場面を頂点としているようです。それでも最後は力強く幕を閉じます。


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チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1971年9月16-21日
ダーレム,イエス・キリスト教会
【決定盤】
この演奏はチャイコフスキーの交響曲第4番の名盤としてトップに挙げられることが多いのですが、良くも悪くも録音に難があります。良い点は(よく言われることですが)まるでライヴ録音のように白熱した演奏に聴こえること、悪い点は録音に使用したテープに欠陥があり、強音時に音が歪むことです。EMIのSA-CDハイブリッド盤で聴いてみます。
第1楽章冒頭のファンファーレは他のどの演奏よりも強烈に響きます。すすり泣くような第1主題に息を呑みます。提示・確保後も重苦しく息苦しい音楽が続き、カラヤンならではのチャイコフスキーを聴かせてくれます。第2主題も蠱惑的で、その後の壮大なクライマックスもカラヤン/ベルリン・フィルならではのゴージャスな音響を楽しめます。展開部もねっとりとした熱を帯びた進行ですが、この曲はこれくらいやってくれないと冗長に感じます。コーダも圧倒的な迫力で終わります。もっと音が歪んでいるかと思いましたが、第1楽章の何度か訪れるクライマックスはなんとか持ちこたえている感じです。
第2楽章も重々しい演奏です。非常に洗練され彫琢された演奏ですが、録音のせいで生演奏を聴いているような臨場感があります。第2部も濃厚なチャイコフスキーの世界を満喫することができます。クライマックスで音が歪むのが難点ですがそれほど気になりません。第3部は時おり聴こえるジェームズ・ゴールウェイのフルートが美しいです。もちろん他の木管楽器も同様です。
第3楽章はしっかりと強く弾く重心の低いピッツィカートが印象的です。トリオの変化も巧みなテンポ設定で文句なしの演奏となっています。スケルツォに戻ってからがこれまた圧倒的。
第4楽章は渾身の力を込めたロンド主題(さすがに音が歪んでいる)で始まり、副主題も絢爛豪華な音の饗宴となっています。第2副主題で落ち着きますが、熱は収まらず、3度目のロンド主題と第2の経過句は圧倒的です。その頂点は第1楽章冒頭の再現でこれはかなり強烈です(他の演奏もこうだったら良いのに)。その後もベルリン・フィル全開の白熱した演奏が続き、圧倒されっぱなしのまま曲が終わります。
なお、今回は視聴しませんが、1973年12月フィルハーモニーザールでの映像収録もこれと同様の演奏であったと記憶しています。また、私は長い間、チャイコフスキーの第4番はカラヤン/ベルリン・フィルの1975年の演奏を愛聴していましたが、LPはとても良かったのですが、CD化されて普通のマスタリング(LPはティンパニなど壮絶な音を出していました)になってしまい、魅力が半減しました。


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チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
サー・ゲオルク・ショルティ
シカゴ交響楽団
1984年5月

予想どおり、第1楽章序奏部の金管によるファンファーレが強力で、さすがはシカゴ響の金管セクションです。ただ、それだけではなく、それと対比するような第1主題の柔和な表情、経過部の木管・弦、金管のしっかりとしたアンサンブルなど大変立派です。第2主題も素晴らしいです。オーボエのちょっとした表情づけが心憎いです。ティンパニが心臓の音のように響いてその後のクライマックスの壮絶さを予感させます(が、それ程ではなく抑制の効いたものでした)。オーケストラを絶叫させることがないのが、円熟期のショルティです。再現部も第2主題が絶品。こういうところが本当に巧いです。第1主題の変形である行進曲ではアクセルを踏んでコーダに流れ込みますが、これもオケの厚みは十分であるものの、品が良い演奏です。
第2楽章は、仄暗い演奏で弱音時の表現が素晴らしいです。この録音は木管楽器がよく聴き取れるのがありがたいです。トリオも弦と木管の対比、バランスが優れており、上出来です。それにしてもシカゴ響は巧い。
第3楽章は、シカゴ響の弦セクションの優秀さを聴くことができ、またトリオの管楽器のアンサンブルも素晴らしいです。万事控えめな感じがしますが、この楽章にはそのようなスタイルが合っているともいえます。
第4楽章ロンド主題は厚みをもって力強く演奏されますが、トゥッティでのエネルギー管は解放された自由さがあります。第2副主題もクライマックスにおいてバランスに留意しているようです。第1楽章序奏部の再現も大音響を期待してしまいますが、ショルティのコントロールが行き届いています。その後は速めのテンポによるヴィルトゥオーゾ・オーケストラならではの音の饗宴が繰り広げられます。満足しました。


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チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
ヘルベルト・フォン・カラヤン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1984年9月
ウィーン,ムジークフェラインザール

6(7)度目となるカラヤンの最後の録音です。同時期に収録された映像もあります。
第1楽章冒頭の金管楽器がウィーン・フィルらしい音色。第1主題は弱々しくおずおずと演奏され、木管に主題が移っても変わりありません。悲劇的要素たっぷりです。最初のクライマックスもうるさくなく、どこか客観的です。皮相的な第2主題も上手に導き出されます。この辺の語り口は絶品と言ってよいかも。第2主題のクライマックスも演出過剰にならず自然な盛り上がりを聴かせます。再現部ではやはり第2主題が素晴らしく、ウィーン・フィルの木管には何とも言えない味わい深さがあります。3度目のファンファーレの後の子守唄のような楽句もデリケートに歌われています。コーダは迫力がありますが、あくまで自然な感情の発露に聴こえます。
第2楽章は、マゼール盤同様、ウィーン・フィルのオーボエの魅力に耳を奪われます。続く弦も心を込めて弾いているのがよくわかります。第2部はカラヤンらしく滑らかなに演奏されていますが、それがちっとも嫌ではありません。第3部も彫琢された歌を聴くことができますが、それもあくまで自然にそうなったと言うしかない演奏です。
第3楽章は、ウィーン・フィルの弦の木の香りがするようなピッツィカートが耳に心地よいです。トリオの木管合奏も美しく、金管楽器とティンパニによる行進曲も木管の彩が素晴らしいです。スケルツォに戻りますが、木管が加わったコーダがやはり見事な出来栄えです。
第4楽章は、ロンド主題が力強く演奏され、副主題を挟み、エネルギー感が十分です。第2副主題はテンポを落とし、切々と歌われます。第2の経過句も丁寧な演奏で、3度目のロンド主題ではアクセルを踏み、B及びCの再現の切迫感、第1楽章冒頭のファンファーレの再現の緊張感は半端ではありません。Aの経過句は喜びを抑えられずに始まるといった様子で、ウィーン・フィルの演奏にノリが感じられます。迫力満点のコーダでした。


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チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
ナード・バーンスタイン
ニューヨーク・フィルハーモニック
1989年10月

バーンスタインは1990年10月に亡くなっているので、ちょうどその1年前の録音となっています。ニューヨーク・フィルとの旧録音もありますが、最晩年のバーンスタインを新たな気持ちで聴いてみます。
第1楽章冒頭は予想どおりの遅いテンポで冒頭にして最後という感じがします。音楽が止まりそうなくらい遅くなってから第1主題の提示部が始まり、少しずつテンポが速くなっていきますが重厚感は失われていません。再び音楽が非常に遅くなり第2主題の提示はお化けが出そうな感じです。徐々に加速していき、クライマックスや冒頭のファンファーレの再現は他の演奏と変わらない速度となります。その後は一つ一つ念を押しながら進めていくようなテンポなので今一つ緊張感や高揚に足りない感じがし、やや冗長な展開、クライマックスに近づくと加速するのがパターンとなっています。三度目のファンファーレは普通のテンポですが、その後はすぐ遅くなり、猛烈に加速してまた遅くなるという繰り返しです。
第2楽章は、やはり遅めのテンポ設定ですが、それが良い方に働いています。一音一音を噛み締めるように歌わせており、それがこの楽章にマッチしているのです。止まりそうなテンポになってから第2部はいきなり加速しますが、やがて遅くなり、設計どおりなのか、感情の赴くまま(気分次第)の指揮なのかよくわからなくなってきます。
第3楽章も遅いかと思いきや、他よりいくらか速いくらいのテンポなのが意外です。行進曲は速いです。
速いとか遅いとかばかり書いていますが、この演奏はテンポの設定が不可解なのです。第4楽章は普通のテンポで始まります。第2副主題では遅くなりますが次第に加速し、ロンド主題に戻ります、と、いくら書いてもキリがないのですが、この楽章も緩急差を大きく取った楽章であったということです。それが劇的な効果を上げているかというと「?」です。なんだかもう一歩踏み込みが浅いような気がするのです。コーダはとても速いです。


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チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
マイケル・ティルソン・トーマス
サンフランシスコ交響楽団
2002年5月30-31日(ライヴ)
サンフランシスコ,デイヴィス・シンフォニー・ホール

第1楽章は意外でした。序奏部のテンポが遅いのです。MTトーマスはもっと普遍的な演奏をする指揮者だと思っていました。ただ遅いだけではなく、随所にちょっとした味付けがあります。第1主題も次に何が起こるのか予想がつかない面白さがあります。第2主題の歌わせ方も弾むようなリズム感覚もユニークです。他の指揮者がさらっと流してしまうようなところでも細かな表情を付けたりしていて、一風変わっているというか、小技のデパートのような指揮です。オーケストラを自分の手足のように操っているのがさすが。
第2楽章もオーボエの主要主題からして表情豊かです。第2部は幾分速度を上げますが、旋律をよく歌わせているのは第1部と同じで、非常に洗練されているという印象があります。ファゴットが主要主題を吹くあたりは瞑想的ですらあります。
第3楽章は軽妙なフットワークで魅せます。トリオはぐっとテンポを落とし、行進曲で速めるという定石どおりの指揮です。安心して聴ける演奏でした。
第4楽章は期待どおりの輝かしいAとBです。Cも極端に遅くせず、音楽の流れが自然です。キレのよい2度目のBを経、3度目のAも喜びそのものといった演奏。二度目のCは物悲しく、弱音も効果的で表情豊か、第1楽章冒頭の再現はやっぱり遅いのですが、これも必然という感じがします。その後はゆっくりと、徐々に加速しながらコーダに流れ込み、スピード感のある終結となります。拍手が収録されています。


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チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
ワレリー・ゲルギエフ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
2002年10月(ライヴ)
ウィーン,ムジークフェラインザール
【お薦め】
ゲルギエフにはマリインスキー劇場管弦楽団との2010年の再録音もありますが、より評価の高いウィーン・フィル盤を聴いてみます。
第1楽章は暗くて重たく、理想的な序奏部から始まります。十分な間を取って第1主題が始まりますが、これも序奏部同様で重く引き摺るような演奏です。低弦が大きめに録音されており、ピラミッド型の音響となっています。演奏によってこんなに印象が変わるものかと改めて思いました。第2楽章も重ためで、知らないで聴いたらウィーン・フィルとは思わなかったでしょう。コデッタに至ってもちっとも輝かしく響かないのです。展開部はいっそう重苦しく息苦しく、再現部の第1主題がトゥッティで演奏されるところはもう少し盛り上がりがほしいような気がしますが、そのような録音なのでしょう。第2主題の再現も暗いまま終結し、コーダも重厚に終結します。
第2楽章は、軽やかに始まりますが、この物悲しさは他の演奏では聴くことができません。重荷を背負って坂道をのぼっているような気分です。第2部はやっとウィーン・フィルらしさ(優美さ)が垣間見えますが、それも束の間で、第3部は再び重苦しい雰囲気に支配されます。これほど味の濃い第2楽章もないかもしれません。
第3楽章は、変な言い方ですがウィーン・フィルが一生懸命弦を弾いてるのが伝わって来ます。トリオの木管、金管でもウィーン・フィルからこれほど重い音色を引き出すなんて、この頃のゲルギエフはすごい人だったのですね。しかし、このような演奏に接すると、この交響曲においてこの第3楽章は異質な存在に思えてきます。
第4楽章もロシアのオーケストラのような重厚な演奏が続きます。気がついたことをひとつひとつあげていたらきりがありませんが、これは名演ですよね。感動しました。


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チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
サー・アントニオ・パッパーノ
ローマ聖チェチーリア国立音楽院管弦楽団
2006年7月3-15日(ライヴ)
ローマ,アウディトリウム・パルコ・デラ・ムジカ,サラ・サンタ・チェチーリア

パッパーノと聖チェチーリアのオーケストラの組み合わせは、非常に良い印象があります。
第1楽章序奏部は、ファンファーレが適度に重く悲劇性も十分で、先ずは上々の滑り出し、録音も良い感じです。第1主題も暗い響きでよく歌わせており、指揮者の音楽センスが高いのでしょう、その端正な演奏には好感が持てます。第2主題は特徴的な歌い方により速く感じられ、木管が面白い効果を上げています。展開部はやや軽めで曲が冗長に感じられてしまうのが惜しまれます。それでも再現部の第1主題など壮絶ではあります。以降も凄みはないのですが、清々しささえ感じる抒情的な演奏が続きます。もちろんここぞというときには踏ん張りを効かせています。
第2楽章のほうがパッパーノとこのオーケストラには向いています。本当に丁寧に丁寧に演奏しているのがよくわかりますし、第2部の軽やかさや明るさに生かされています。第3部はヴァイオリンの再弱音で開始され、第1楽章第2主題を思い起こします。木管楽器などこれ以上ないというくらいに歌っていますよ。
第3楽章も好演でチャイコフスキーのバレエ音楽を聴いているようです。軽やかさがプラスに働いているのです。トリオはパッと日が差すように明るく見通しの良い感じで、行進曲のキレも良いです。再びスケルツォに戻り、よく訓練されたオーケストラのピッツィカートは大きなギターによる演奏を聴いているみたいです。
第4楽章はスケールの大きな響きですが、重心は低くありません。第2副主題は切迫感を伴ったもので三度目のロンド主題は相応のエネルギー感があります。このあたりの緊張感はなかなかのもので見事に第1楽章冒頭が導き出されます。その後も白熱した盛り上がりを聴かせ、力強く終わります。なかなか聴き応えのある演奏でした。


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チャイコフスキー 交響曲第4番ヘ短調
アンドリス・ネルソンス
バーミンガム市交響楽団
2011年6月1-4日(ライヴ)
バーミンガム,シンフォニー・ホール
【お薦め】
第1楽章序奏部の運命ファンファーレは、音色が重く暗く響きで、名演の予感がします。第1主題も流麗でありますが、悲劇性はちゃんと確保されていて、これも良い出来。第2主題はやや素っ気ない感じで木管楽器が演奏しており、ここはもう少し豊かな歌が欲しかったところです。コデッタは明るく力強くて◎。冒頭のファンファーレが登場し、展開部となる場面の雰囲気はカラヤン指揮の演奏によく似た感じです。再現部第1主題も迫力があり、第2主題のファゴットもいい味を出しています。3度目のファンファーレが演奏されてコーダが始まると、演奏も勢いを増し、力強く第1楽章を終えます。
第2楽章は、遅すぎない、よいテンポで始まります。この楽章も適度な重みがあり、かつ流麗です。ネルソンスはカラヤンのCDを聴いて予習したのではないかと思ってしまうほどです。第2部は幾分テンポを速めるので、一層スムーズに音楽が流れていきます。第2部の終わりははっと息を呑むほどに美しいです。ここでもファゴットが思い入れたっぷりに旋律を奏でる箇所が良かったです。
第3楽章は、トリオで木管が登場するとぱっと視界が開けたようでとても鮮やかです。スケルツォのピッツィカートは、あまり演奏による差が出ないのですが、木管楽器が加わると途端に色彩感が増します。ピッツィカートだけだと音量が出ないのでしょう。
第4楽章はグランカッサが効いている爆発的なロンド主題で始まります。理想的な響きと言ってよいでしょう。第2副主題も後ろから追われているように先を急ぎます。この辺りの切迫感はなかなか大したもので、運命のファンファーレまで一気に駆け抜ける感じがあります。コーダになって勢いが戻り、熱狂のうちに曲が終わります。最後に拍手が収録されています。チャイコフスキーの交響曲第4番の普遍的な名演としてお薦めしたい録音です。


手あたり次第聴いて感想を書いているように思われるかもしれませんが、第1楽章を聴いてこれはダメだと思った演奏については書いていないのです。

何度も書いているようにYahoo!ブログは9月1日から新規投稿ができなくなります。残された日々はあとわずか。あともう1曲、なにか書けたらよいのですが、これはと思う曲がありません。

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