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ドヴォルザーク ヴァイオリン協奏曲 の名盤

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ドヴォルザークの3曲の協奏曲ではなんといってもチェロ協奏曲が有名で、ドヴォルザークの、というよりもチェロ協奏曲の名曲中の名曲なのですが、次いでヴァイオリン協奏曲がよく演奏されています。有名なヴァイオリニストが、全員とは言いませんが、録音しています。今回いろいろ聴き比べた結果、私のヴァイオリン協奏曲ランキングで急上昇し、シベリウスのヴァイオリン協奏曲と同じくらい好きになりました。取り上げるCDも最初は数枚にする予定でしたが、調子に乗って多くなってしまいました。

アントニン・ドヴォルザーク:
ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品53 B.108
第1楽章 Allegro ma non troppo
第2楽章 Adagio ma non troppo
第3楽章 Finale: Allegro giocoso ma non troppo

I:10分、II:10分、III:10分で約30分くらいの曲です。

Dvořák: Violin Concerto in A minor, op. 53
Lisa Batiashvili, violin
hr-Sinfonieorchester (Frankfurt Radio Symphony)
Conductor: Paavo Järvi
(これは名演!)


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
ダヴィド・オイストラフ(vn)
ソヴィエト国立交響楽団
キリル・コンドラシン(指揮)
1949年
【決定盤】
これは市販されているCDによって音質が異なり、劣悪なものもあります(オーケストラの音が歪みっぽく、強音時に割れるのはダメなCDです)。画像のCDは良好で、モノラルとはいえ1949年という時代を感じさせないものですし、ヴァイオリンがオンマイクで直接的な迫力があり、楽器の音色も美しく、1951年盤よりも張りがあって、こちらの方が好ましく思えます。オイストラフは速めのテンポでぐいぐいと弾き進め、歌うべきところはテンポを落としてたっぷり聴かせ、総合的には音楽の推進力が素晴らしいです。古い録音が気にならない人であれば、まずこれを選んでいただきたいと思います。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
ダヴィド・オイストラフ(vn)
モスクワ放送交響楽団
キリル・コンドラシン(指揮) 
1951年
【お薦め】
全盛期のオイストラフのなんと素晴らしいヴァイオリンでしょう。録音の古さ(次のマルツィ&フリッチャイ盤よりヴァイオリンが鮮明です)も忘れて聴き惚れてしまいました。王者の風格を持ち、太くたくましく豊かな音色でぐいぐい弾いていきますが、繊細さも持ち合わせており、切々と歌うメロディに心を惹かれ、神経質でなく、健康的なところが好ましく思えます。コンドラシンの指揮も生き生きとオーケストラを歌わせ、ヴァイオリンを盛り立てています。歴史的名盤でしょう。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
ヨハンナ・マルツィ(vn)
ベルリン・リアス交響楽団
フェレンツ・フリッチャイ(指揮)
1953年6月10-12日
ベルリン

ルーマニア出身のハンガリーで活躍した女流ヴァイオリニスト、ヨハンナ・マルツィ(1924-1979)は今でも人気があり、CDだけでなくLPも発売されています。Deutsche Grammophon盤とはいえ、レンジが狭く、さすがに録音の古さ(もちろんモノラル)を感じさせますが、マルツィの音楽へのひたむきさ・集中力が心を打ちます。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
ナタン・ミルシティン(vn)
ピッツバーグ交響楽団
ウィリアム・スタインバーグ(指揮)
1957年
【決定盤】
この演奏は「ナタン・ミルシテイン/キャビトル、EMI録音集」という8枚組BOXのCD6に収められていて、それをSportifyで聴いてみたのですが、疑問があります。HMV&BOOKSで調べると、このドヴォルザークは「1957年モノラル」と記されているのですが、左右目一杯に広げているわけではないけれど、独奏は中央、オーケストラのヴァイオリンは左側、低弦は右側から聴こえますので、これはステレオ録音では?(名曲名盤500ではステレオを示すSの文字があります) なお、テープヒスノイズは聴こえず、鮮明な録音で、もっと後の時代の録音のように思えます。今回はフリューベック・デ・ブルゴス指揮ニュー・フィルハーモニア管との1966年録音を聴くことができませんでしたが、それを上回るかもしれません。
前置きが長くなりましたが、ミルシテインのヴァイオリンが素晴らしいです。楽器を縦横無尽に操る洗練されたテクニック、楽器を目一杯鳴らした甘く美しい音色、音楽への没入の仕方等、この演奏で聴けば、この協奏曲が好きになれるはずです。ドヴォルザークらしい土臭さから離れた都会的でお洒落な演奏ですが、このヴァイオリンは凄いと思いました。ミルシテインは真に偉大なヴァイオリニストでした。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
ヨゼフ・スークvn)
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
カレル・アンチェル (指揮)
1960年9月1日
【決定盤】
1960年の録音なので古さを感じますが、歴としたステレオ録音です。ヨゼフ・スークはドヴォルザークの曾孫ですが、そうでなくてもチェコの名ヴァイオリニストであることには変わりありませんし、アンチェルが指揮するチェコ・フィルの伴奏で聴けるのがとてもありがたいです。スークのヴァイオリンは、誠実さだけでなく、この曲に関しては自信に満ち、楽器の音色も美しく、安定感が抜群です。また、人懐っこさのようなものを感じさせ、 その音楽は常に微笑んでいるようです。アンチェルが指揮するチェコ・フィルも、郷土色に寄りかからないものと言いたいところですが、やはり血は争えないというか、ドヴォルザークらしさが色濃く滲み出たものとなっています。チェコ・フィルのいぶし銀の響きが、ドヴォルザークにふさわしいのです。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
アイザック・スターン(vn)
フィラデルフィア管弦楽団
ユージン・オーマンディ(指揮)
1965年3月22日
【決定盤】
ヴァイオリン協奏曲というジャンルにおいてスターン&オーマンディ/フィラデルフィア管というブランドは私にとってかけがえのないものです。このコンビによるメンデルスゾーンやチャイコフスキーを何度繰り返し聴いたことか。CDで買い直したら、メンデルスゾーンのカップリングはドヴォルザークの協奏曲でした。興味の無い曲だったのですが、やはりこのコンビで聴くと素晴らしく、ブラームスのヴァイオリン協奏曲のように聴こえます(ちなみにブラームスが作曲されたのは1878年、ドヴォルザークは1879年で1年しか違いません)。この頃のスターンの巧いこと。甘く美しい音色、強靱さ・スケールの大きさ。私が言うまでもありませんが、古の大ヴァイオリニストにも引けを取りません。オーマンディが指揮するフィラデルフィア管弦楽団も、シンフォニックで充実した響きですが、独奏がオーケストラに埋もれないよう、録音がソロを上手に持ち上げています。そうした効果もあって、これは大変聴き甲斐のある演奏となっています。もしかしたら、これはドヴォルザークらしくない演奏なのかもしれないけれど、らしさを求めるのであれば、ヨゼフ・スーク&カレル・アンチェルをお薦めします。これはこれで名盤です。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
イツァーク・パールマン(vn)
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
ダニエル・バレンボイム(指揮)
1974年

パールマンの巧いこと。まさにヴァイオリンを弾くために生まれてきたような人で、身体と楽器が一体となって素晴らしい音を紡いでいます。ただ、ドヴォルザークらしさを感じさせないタイプの演奏で、その最たるものであるように思われます。バレンボイムの指揮が雄弁でなかなか良いだけに惜しいと思います。ただ、EMIの録音はこの年代にしては古めかしさを感じさせるのが困ったもので、これで録音が良ければもう少し印象が良くなったと思います。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
ヨゼフ・スーク(vn)
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
ヴァーツラフ・ノイマン(指揮)
1978年1月
プラハ,ルドルフィヌム
【お薦め】
スークの再録音です。指揮はノイマンに変わりました。録音が新しいので、オーケストラが鮮明であり、独奏は細部まで聴き取ることができて実在感があります。ただ、再生装置によってはヴァイオリンの音が神経質に聴こえ、自信と余裕に満ちた旧盤のほうが上です。スークはアンチェル盤がお薦めですが、音楽に奉仕するタイプであるスークの演奏には味わい深さがあって、初めて購入する人には、こちらのほうが良いかもしれません。第2楽章の懐かしい歌も健在ですし、第3楽章の清々しさも魅力的です。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
塩川悠子(vn)
バイエルン放送交響楽団
ラファエル・クーベリック(指揮)
1979年11月2日(ライヴ)
ミュンヘン,ヘルクレスザール

Wikipediaによれば塩川悠子は「1967年、ラファエル・クーベリックから父ヤン・クーベリックの愛器だった1715年製ストラディヴァリウス『エンペラー』の貸与を受け、2000年まで使用していた」とあります。このライヴは塩川悠子の独奏にクーベリックの指揮という貴重な記録です。クーベリックの指揮は割とあっさり目でクール、あまり情熱を感じません。塩川の独奏もマイクが遠いせいか、客観的な演奏に聴こえてしまいます。よく聴けばテンポの揺らし方など、感興が豊かであることがわかりますが、全体的にはきれいに流れる心地良い演奏という感じです。名器「エンペラー」は確かに美しい音なのですが。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
サルヴァトーレ・アッカルド(vn)
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
コリン・デイヴィス(指揮)
1979年11月
【お薦め】
「パガニーニの再来」と言われたアッカルドは確かに巧いです。この録音は独奏の音がかなり大きく拾われていて、アッカルドの名人芸を堪能できる演奏となっています。独奏の楽譜が目に浮かぶような演奏で、単に技巧が優れているだけでなく、それを十分活かした上でよく歌い、自由にテンポを揺らし、これは最後まで耳が離せない演奏でした。技巧映えのする第1楽章・第3楽章より美しい第2楽章のほうが説得力の演奏となっているのが素晴らしいです。いやぁ、それにしてもアッカルド、やっぱり巧いです。難しい箇所が難しいとちゃんと分る演奏です。
C. デイヴィスが指揮するコンセルトヘボウ管も大変素晴らしく、美しさに加え、厚みと迫力があるのですが、先述のとおり、録音ならではのバランス配分により、独奏がオケに埋もれることがなく、きちんと聴き取れるのがありがたいです。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
チョン・キョンファ(vn)
フィラデルフィア管弦楽団
リッカルド・ムーティ(指揮)
1988年

「チョン・キョンファが出産からの復帰後、再び意欲的なレコーディングを開始するきっかけとなったディスク」なのだそうです。バックがムーティ指揮フィラデルフィア管というのが豪華ですね。ゴージャスな響きがしますが、さすがにこのような力業で来る伴奏では、独奏を大きめに拾っても聴き劣りがしてしまいます。それにこの録音、独奏がピンぼけになっており、シャープではありません。これだからEMIの録音は!と言いたくなります。録音はともかくとして、チョン・キョンファの演奏、そんなに悪くないです。これより以前のピーンと張り詰めた緊張感が良い意味でほぐれてきて親しみやすい演奏になっていると思います。ただ、その弛緩が物足りなさを生んでいるのも事実で、どうしてもこれを選ばなければならないという理由が見い出せません。録音がもう少し良ければと思いますが。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
ヴァーツラフ・フデチェク(vn)
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
イルジー・ビエロフラーヴェク(指揮)
1988年12月21-22日
Dvorák Hall of Rudolfinum, Prague, Czech Republic
【お薦め】
フデチェックのドヴォルザークは複数あり、スメターチェク指揮ムジチ・デ・プラハによる1972年録音もありますが、新録音のほうを聴いてみました。チェコ・フィルのやや暗めのくすんだ響きがドヴォルザークらしくてよく、そこにフデチェクのやはり暗い情熱を秘めたヴァイオリンが絡みます。音量やテンポが落ちてしんみりとした場面がとても美しく、特に第2楽章は故郷の歌という感じです。第3楽章のリズムもチェコの演奏家ならではのノリを示します。チェコのヴァイオリニストとチェコの指揮者、チェコのオーケストラで聴きたいという人に強くお薦め。ドヴォルザークを満喫できる演奏です。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
五嶋みどり(vn)
ニューヨーク・フィルハーモニック
ズービン・メータ(指揮)
1989年5月11-13日
ニューヨーク,エイヴリー・フィッシャー・ホール
【お薦め】
五嶋みどりの「タングルウッドの奇跡」は1986年ですが、この頃は五嶋みどりが最も五嶋みどりらしかった頃の演奏かもしれません。あっさりしているようでいて、非常に内容が濃い演奏です。音楽の泉がこんこんと湧き出ているような豊かな演奏。音楽があどけないところもありますが、それだけ純粋に聴こえます。ドヴォルザークの仄暗い情熱とはちょっと違う、別の作曲家の曲のようにも聴こえますが、聴けば聴くほどすごい演奏のように思えます。3回目を聴きながら、これを書いているのですが、五嶋みどりは凄かった(今でも凄いのでしょうけれど)と思わざるを得ません。音楽の格が1ランク上がったようにさえ思えてしまう、そんな演奏です。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
パメラ・フランク(vn)
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
チャールズ・マッケラス(指揮)
1997年4月
Rudolfinum, Prague, Czech Republic

アメリカの女流ヴァイオリニストであるパメラ・フランク(1967-)は、 1999年にはエイヴリー・フィッシャー賞を女性として初めて授与され、アメリカで最も名誉ある器楽奏者の一人なのだそうです。
この演奏はなかなか良いです。それにはマッケラス指揮チェコ・フィルの魅力的な伴奏も貢献しており、管楽器をかなり大きめ(時には独奏と互角なぐらい)に拾った録音が彩りを添えています。ドヴォルザークを聴いているという気持ちにさせてくれる演奏です。パメラ・フランクは後述のムターほどでは全然ありませんが、表情づけが大きめで分かり易い演奏です。ただ、もう少し心に訴えかけてくれる何ががあればと思います。これだけの枚数を一度に聴くと、その「何か」を求めたくなるのです。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
マキシム・ヴェンゲーロフ(vn)
ニューヨーク・フィルハーモニック
クルト・マズア(指揮)
1997年10月

マズア指揮のニューヨーク・フィルは古武士のようです。ヴェンゲーロフはこの録音の10年後に右肩の故障のため、ヴァイオリニストとしての演奏活動を休止(2011年から復活)してしまうのですが、この頃は万全です。やや遅めのテンポでもって、水が滴るような艶やかで美しい音色で、ドヴォルザークの旋律を感興豊かに歌っています。この記事に登場するヴァイオリニストの多くはストラディヴァリウスを弾いているのでしょうけれど、ヴェンゲーロフも1727年製のストラディヴァリウス「クロイツェル」を弾いており、ハイフェッツが使用した弓を使っているのだとか。低音から高音までムラの無い音色で抜群の安定感があり、安心して聴くことができる反面、音楽との格闘みたいな、心の内から込み上げてくるような、ドロドロしたものを聴かせてほしいという欲求もあります。マズアの指揮同様、あまりに安全運転に過ぎやしないかと。その点、第2楽章はとても美しいです。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
ガブリエラ・デメテロヴァー(vn)
プラハ交響楽団
リボル・ペシェク(指揮)
1999年6月22-23日

彼女のHP(Gabriela Demeterovaで検索してください)に詳しく紹介されているのですが、デメテロヴァーは3歳でヴァイオリンを弾き始め、5歳で公演し、その後は多くのコンクールで受賞し、世界中のオーケストラのソリストとして活躍しているそうです。2005年2月には尾高忠明/札幌交響楽団と共演し、多くの注目を集めたのだとか。
実はあまり期待しないで聴いたのですが、これがなかなか良かったのです。録音は今ひとつ冴えない感じがしますが、ペシェク指揮のプラハ響の野太い響きのもと、デメテロヴァーが切々とドヴォルザークの美しいメロディを歌い上げています。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
諏訪内晶子(vn)
ブダペスト祝祭管弦楽団
イヴァン・フィッシャー(指揮)
1999年12月
ブダペスト

今さらですが、諏訪内晶子は1989年にエリザベート王妃国際音楽コンクールで第2位受賞、1990年に史上最年少でチャイコフスキー国際コンクールに優勝しており、そのライヴ盤を聴いてこれはすごいヴァイオリニストだと驚嘆した記憶があります。ドヴォルザークの協奏曲は「ツィゴイネルワイゼン~パッション」というアルバムに収録されており、諏訪内らしい抑制の効いたパッションでと豊かな技巧とで美しく歌い上げており、とても好感がもてます。ただ、I. フィッシャーの指揮がドヴォルザークにぴったりで素晴らしく、それに比べると諏訪内の演奏は若干聴き劣りがするようにも思えます。今回聴き比べた中では、明らかに上位だと思いますが、自信をもって「お薦め」を付けられないのは、諏訪内の演奏がまとまりが良すぎるからでしょうか。
なお、諏訪内晶子の楽器は、世界三大ストラディヴァリウスのひとつである「ドルフィン(Dolphin)」(1714年製)ですが、2000年8月からの貸与なので、この頃は別の楽器なのでしょう。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
サラ・チャン(vn)
ロンドン交響楽団
コリン・デイヴィス(指揮)
2001年

今回は意識して女流ヴァイオリン奏者を多めに取り上げています。チェロ協奏曲には及ばないけれど、ヴァイオリニストにとってこんなに大切な協奏曲なのだということを言いたいがために。
これは韓国系アメリカ人ヴァイオリニスト(ドロシー・ディレイ門下)のサラ・チャン(21歳時)による演奏です。
冒頭はデイヴィスの指揮のロンドン響の堂々たる響きが素晴らしいです。続く、サラ・チャンも苦悩する激しいヴァイオリンを聴かせて聴く者の心を鷲掴みにします。感情移入が激しいのはドヴォルザークの場合、有効に働きます。きれい事で終るものが多い中、なかなか貴重な演奏と言えましょう。いや、サラ・チャンのヴァイオリンは十分美しいのですが。第2楽章もただ甘美な音楽とするのではなく、憧れと寂しさに満ちた音楽としています。第3楽章も元気のよいオーケストラに支えられ、サラ・チャンは伸びやかに歌いますが、しかし、どこか屈折した暗さを思わせる物憂げなヴァイオリンであります。
評判のよくないEMIですが、この録音は優れていますね。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
イザベル・ファウストvn)
プラハ・フィルハーモニア
イルジー・ビエロフラーヴェク(指揮)
2003年9月
【決定盤】
今やヴァイオリン界の女王とまで言われているファウストのドヴォルザーク。ビエロフラーヴェクが指揮するプラハ・フィルのきびきびとした演奏に、この人らしい、きめの細かい感情豊かファウストのヴァイオリンがとても素晴らしいです。少なくともこれを聴いている間は他を忘れるほど見事な演奏です。この録音に使用した楽器は、1704年製ストラディヴァリウス「スリーピング・ビューティー(長く演奏されることがなかったためにこの名がついた)」でしょうか。この楽器をファウストが弾くようになったのは1996年、美しく響くようになるまで数年かかったそうで、まさにファウストが求める光り輝く音色、うっとりと聴き惚れます。とてもエレガントなドヴォルザークです。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
ジェイムズ・エーネス(vn)
BBCフィルハーモニー管弦楽団
ジャナンドレア・ノセダ(指揮)
2004年10月

「地球上に存在する完璧なヴァイオリニストの1人」(英デイリー・テレグラフ紙)と言われているエーネスのドヴォルザーク。楽器は1715年製ストラディヴァリウス「マルシック(Marsick)」。エーネスのヴァイオリンは悩める若者(この時28歳)という感じで、ナイーヴです。この協奏曲であればもっと太い音色でたくましく弾いてほしいと思うのですが、抒情的な部分が美しく、それゆえ第2楽章が最も出来がよいということになります。なよなよしたところもありますが、途中で終わりにすることができず、ついつい耳を傾けてしまいました。ヴァイオリンを歌わせるのが上手い人です。
ノセダ指揮BBCフィルの演奏が良いです。オーケストラを力いっぱい鳴らし、サウンドが立体的に構築され、大変シンフォニック。静かな場面においても木管の歌わせ方が秀逸で美しいです。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
アラベラ・美歩・シュタインバッハー(vn)
ベルリン放送交響楽団
マレク・ヤノフスキ(指揮)
2009年5月
ベルリン放送局スタジオ

ドイツ人の父親と日本人の母親との間に生まれたアラベラ・シュタインバッハーのドヴォルザークで、これは彼女の8番目のCDにあたるのでしょうか。実に堂々たる恰幅の良い演奏ですが、いささか大味に感じるところもあり、聴いていて後を引かないのが残念です。
ちなみに、アラベラの使用楽器は、日本音楽財団より貸与されている1716年製ストラディヴァリウス「ブース(Booth)」です。


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ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 Op.53
アンネ=ゾフィー・ムター(vn)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
マンフレート・ホーネック(指揮)
2013年6月
ベルリン,フィルハーモニー
【決定盤】
この演奏を初めて聴いた時には、ドヴォルザークの決定盤に巡り会ったと思い、感動しました。ムターのヴァイオリンは今回の紹介盤のどれよりも表情が濃く、悪く言えば厚化粧なのですが、この曲に馴染みの無い人が聴けば、きっと圧倒されることでしょう。私自身、改めてこれを聴き、凄いと思ってしまいました。古の大ヴァイオリニストにも引けを取らない豊かな音色と技巧をもって、自分の全てをさらけ出しているような演奏です。
ホーネックの指揮も素晴らしいです。今回聴いた中では間違いなくトップレベルでしょう。しかし、ムターはベルリン・フィルに全く引けを取らない、スケールの大きなヴァイオリンを聴かせているのです。大したものです。ムターの強烈な個性とドヴォルザークの音楽がうまく噛み合って、幸福な結果となりました。
私が購入したCDにはDVDも付いている(さっき気がつきました!)のですが、これは観たことがありません。もったいないないことです。

ハチャトゥリアン ヴァイオリン協奏曲 の名盤(1)

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ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲について書くのは、これが3度目です。

1度目はレオニード・コーガンのヴァイオリン、作曲者自身が指揮するモスクワ放送交響楽団による1951年の録音を紹介しました。

2度目はコーガンに加え、さらにダヴィド・オイストラフのヴァイオリン、コーガンと同じ伴奏の1965年盤、さらにジャン=ピエール・ランパルによるフルート版をジャン・マルティノン指揮のフランス国立放送管弦楽団による1970年録音を取り上げました。

しかし、この程度で「ハチャトゥリアン ヴァイオリン協奏曲 の名盤」を名乗るのはおこがましいというものです。書き直すことにしました。先日のドヴォルザークの協奏曲だって、数枚の予定だったのが最終的には22枚となったのです。ドヴォルザークより好きなハチャトゥリアンの協奏曲であれば、苦にならないでしょう。

なお、うちのCD棚は、作曲家の頭文字アルファベット順で整理しているのですが、いくら探してもハチャトゥリアンのCDが見つからないことがありました。ハチャトゥリアンの頭文字は、HではなくKであり、Hの棚をいくら探しても見つかるはずがなかったのです。

どうでもいいことを書いてしまいましたが、ついでに申し上げれば、Khachaturianは、アルメニア語でԽաչատրյանだし、グルジア語ではხაჩატურიანი、ロシア語ではХачатуря́н だそうです。

さて、ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲は、1940年に作曲され、翌年のスターリン賞第2位を獲得したヴァイオリン協奏曲です。演奏時間は約35分。

モスクワのソヴィエト音楽祭にてダヴィド・オイストラフのヴァイオリン、アレクサンドル・ガウクの指揮で演奏されました。

アラム・ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
第1楽章 Allegro con fermezza ニ短調 4/4拍子 ソナタ形式
第2楽章 Andante sostenuto ト短調 3/4拍子 三部形式
第3楽章 Allegro vivace ニ長調 3/8拍子 拡大されたロンド形式 

David Oistrakh - Khachaturian Violin Concerto (1st mov p1-2)

David Oistrakh - Khachaturian Violin Concerto (2nd mov p2-2)

David Oistrakh - Khachaturian Violin Concerto (3rd mov)

今までの紹介順は①録音年順、②演奏者名アルファベット順のどちらかでしたが、今回は③演奏者名五十音順(アイウエオ順)とします。理由はその方が楽だからです。あと、文体も変えます。これもその方が楽だから。では始めるぞよ。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
ジェームズ・エーネス(vn)
メルボルン交響楽団
マーク・ウィッグルスワース(指揮)
2013年4月
モスクワ,スタジオ5

品の良いオーケストラの導入の後、すぐエーネスのこれまた上品なヴァイオリン。テンポは概して遅めで、私がこの曲に期待するものは聴こえて来ない。だからと言ってこれを否定するものではないが、曲が進んでもオーケストラの熱狂、情熱的なソロが聴けないとなると、少しつらい。エーネスの音色であったらベートーヴェンやメンデルスゾーンの協奏曲は合うだろうけれど、ハチャトゥリアンはいかがなものか。なぜエーネスはこれを録音しようと考えたのだろう。この曲のバーバリアンな面に背を向け、ただ美しさを追求したかったのだろうか。そんなわけで第1楽章を聴き終えた時点で聴き比べ終了。
音は全体にソフトで、ヴェールを被ったような質感。録音が与えている印象も大きい。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
イーゴリ・オイストラフ(vn)
フィルハーモニア管弦楽団
ユージン・グーセンス(指揮)
※録音年不詳(日本では1954年頃に発売されたようだ)

Wikipediaでイーゴリのことを調べて驚いた。1931年4月27日生誕とだけ記されているので、まだ御存命ということか。それはさておき、オイストラフのご子息によるハチャトゥリアンである。録音は時代を感じさせる古いもので、当然モノラル録音である。父オイストラフとコーガンを足して二で割ったというところか。線の細さを感じさせるが、いや、立派なものである。この協奏曲の難易度がどれほどのものか私にはわからないが、まず技巧的には申し分ないだろう。第3楽章などすいすい弾きこなしている。1952年のヴィエニャフスキ国際コンクール優勝は伊達ではないということか。ただ、大ヴァイオリニストの息子という興味以上の満足は得られなかったというのが正直なところで、古い録音を我慢して聴かせるものは残念ながら(申し訳ないが)無いように思う。二人の巨匠と明らかに違うのは、スタイルの古さを覚えてしまうところ。例えばポルタメントの多用が時代を感じさせてしまうのである。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
ダヴィド・オイストラフ(vn)
フィルハーモニア管弦楽団
アラム・ハチャトゥリアン(指揮)
1954年11月26-27日
ロンドン
【決定盤】
耳慣らしということで、最初に旧EMI盤であるこのCDを聴いた。
当然モノラル録音だが、この時代はこんなものだろう。
美しく豊かな音色で一音一音をしっかり弾くのがオイストラフの特長。セッションのせいか、オイストラフはどっしりと構えて落ち着いており、緊迫感・迫真性の点で物足りなさを覚え、作曲者の指揮のほうが興奮気味で雰囲気を盛り上げている。とはいえ、大変立派な演奏であり、間違いなくこの協奏曲のベスト5のひとつであろう。第1楽章のカデンツァが終った後など、胸のすくような爽快さがあり、どうしてこんな音が出せるのかと感嘆する。
第2楽章導入の味が濃いのは作曲者自身の指揮によるところが大きいのだろう。第2楽章もオイストラフが奏でる旋律と楽器の美しさに耳を奪われっぱなしだ。
第3楽章はハチャトゥリアンらしいキレのよいリズムに始まる。続くオイストラフのヴァイオリンは素晴らしいとしか形容できない。跳ね回る音符がどれも一様に強く弾かれ、手抜かりは全くない。抜群の安定度。ただ、オイストラフのヴァイオリンには、あまり民族性が感じられず、普遍的なものとなっており、民族性そのものといったハチャトゥリアンの指揮と乖離しているようにも感じられるのが興味深い。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
ダヴィド・オイストラフ(vn)
モスクワ放送交響楽団
アラム・ハチャトゥリアン(指揮)
1965年8月3日
【お薦め】
Melodiya(ソビエト国営レコード製作機関)による録音で、この組み合わせがステレオ録音で聴けるのがありがたい。しかし、オイストラフの音が掠れ気味で、全盛期を過ぎてしまったのか、前回録音のようなゴシック調の丸みを帯びた素晴らしい音色が聴けないのが残念。いや、これは高域を強調している録音のせいかもしれない。1954年録音と比べなければ、凡百の演奏が束になってもかなわない演奏だ。
第2楽章導入の奇怪さはハチャトゥリアン指揮ならではのもの。オイストラフは一音一音を確かめるかのように丁寧に弾いている。
第3楽章は、ハチャトゥリアン自身の老いも感じられ、11年前のようなリズムの冴えは聴こえて来ない。オイストラフのヴァイオリンも同様で、音を保つのにものすごく神経を使っているように思える。痛切なヴァイオリンが心に刺さるようだ。ここにきてヴァイオリニストと指揮者(+オーケストラ)は見事な調和を果たしている。壮年期の熱狂はもはや聴こえず、諦念さえ感じられるのだ。荒涼とした世界に風が吹きすさぶように。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
ルイス・カウフマン(vn)
サンタ・モニカ管弦楽団
ジャック・ラフミノヴィチ(指揮)
1946年

某サイトで「アメリカの名手カウフマンは映画『風と共に去りぬ』での演奏で名を知られるヴァイオリニスト」と書かれている。どれ、モノは試し、ひとつ聴いてみよう。
第1楽章冒頭の管弦楽は歪んでいるが、オーケストラの音が遠く、ヴァイオリン主体の録音で、ソロは聴き易い。しっかり弓を弦に押しつけるような確かな音。テンポが遅くする場面でも速め、挑戦的で積極的、個性的なヴァイオリンである。第1楽章コーダはもっと盛り上げるかと思いきや、意外にあっさり終る。
第2楽章は濃厚な味付け、この頃の録音の特長として、まるで楽器にピックアップが取り付けられているみたいに4本の弦の音質が均質に聴こえる。G線がギスギスしているとか、E線がヒステリックということはない。しかし、それはカウフマンの音色なのかもしれず、どちらだかわからない。
第3楽章はその豊かな音色による朗々とした歌が聴き物だが、途中カットがあるようだ。
けして悪い演奏ではないが、これをもってオイストラフと同位とするのは言い過ぎではないだろうか。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲ニ短調
フィリップ・クイント(vn)
ボーフム交響楽団
スティーヴン・スローン(指揮)
2014年5月6-8日
ボーフム,Ruhrcongresse

1974年生まれのロシアのヴァイオリニスト。ジャケットの無頼な写真が気になって取り上げた。
第1楽章導入はなかなか、ヴァイオリンも上々の滑り出し。適度に熱っぽく、揺れなど、曲にふさわしいアーティキュレーション。比較的自由に振る舞うヴァイオリンに対し、スローン指揮のオーケストラはそつが無いがオーソドックスい。そのギャップに違和感を覚える。
第2楽章は一層クイントが自由に歌っているが、第3楽章は独奏も(余裕がなくなったのか)羽目を外さなくなり、オケと調和を見せ、名演に仕上がっているように思える。ヴァイオリンの豊かな音色は、2010年よりストラディヴァリウス協会より貸与された「ルビー」によるのだろう。ちなみに現存するストラディヴァリウスは500~600挺もあるそうだ。
録音は独奏は良いのだけれど、もオーケストラの音がこもっている感じがしていまいち。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲ニ短調
ボリス・グートニコフ(vn)
ソヴィエト国立交響楽団
コンスタンティン・イワーノフ(指揮)
1981年
【お薦め】
ソ連のヴァイオリニストであるグートニコフは、1956年プラハの春国際音楽コンクール第1位、1957年ロン=ティボー国際コンクール優勝、1962年のチャイコフスキー国際コンクール優勝という文句の付けようがない経歴の持ち主。一聴して、これは優勝するだろうという見事な演奏。圧倒的な美音を振りまき、スタイルに古さを感じさせつつも、卓越した技巧をもってこの協奏曲をねじ伏せている。第2楽章の寂しい表現など初めて聴く思いだ。旧ソ連にはこのような人がごろごろいて、外国で知られないうちに没して(グートニコフは50歳代半ばで没)いったのだろうか。あまり期待しないで聴いたので、演奏の見事さに対する衝撃度が大きく、何でも聴いてみるものだと思った次第。ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲を聴いてみようと考え、このCDを探す人はいないだろうけれど、この曲を愛する者には是非とも聴いていただきたい一枚。イワーノフの指揮もショスタコーヴィチの交響曲のようで面白い。録音は独奏をクローズアップしたもので、エコー過多だけど、鮮明なステレオ録音。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲ニ短調
ニコラス・ケッケルト(vn)
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
ホセ・セレブリエール(指揮)
2008年4月10-11日
ロンドン,コロセウム,タウン・ホール

DGレーベル初のベートーヴェン弦楽四重奏曲全集を録音したケッケルト四重奏団の人達と何の関係があるのかわからないが、1979年ミュンヘン生まれ、2002年にドイツ人で初めてチャイコフスキー国際コンクールに入賞したという、ケッケルト(NAXOSに録音が多いみたい)によるハチャトゥリアン。
第1楽章導入の管弦楽は締りがないが、ヴァイオリンはやや線が細いが几帳面で好感がもてる。テンポはやや遅めから少しずつ速くなり、ゆったりした第2主題で自慢のボウイングを聴かせる。ただ、第2楽章、第3楽章を通して聴いた感想としては、独奏・管弦楽共に全体をそつなくまとめたという感じで、最後まで集中してきくことができなかった。けして悪い演奏ではなく、存在を否定するつもりはないのだけれど、あえてこの盤を選ぶべき理由は見い出せない。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲ニ短調
パヴェル・コーガン(vn)
ラファエル・マンガーリャン
(Rafael Mangasryan)(指揮)
アルメニア放送管弦楽団

オイストラフにイーゴリという息子がいるのと同様、コーガンにもパヴェルという息子がおり、1970年のシベリウス国際ヴァイオリン・コンクールで1位になったりしている。
第1楽章は上々の滑り出し。いや驚いた。まさかこんなに弾けているとは思わなかった。パヴェルはモスクワ国立交響楽団の首席指揮者でもあり、音楽の才能に恵まれていたのだろう。ヴァイオリニストとしても、父親が得意としていたハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲をこんなにも見事に弾きこなしている。技巧的には全く問題がないし、歌い方など最近の若手よりよっぽどいい演奏じゃないかと思える。それでもこの録音は話題に全く上らない。レオニードは素晴らしいけれど、パヴェルの演奏も良いから聴いてみてよという人はだれもいない。第2楽章も父親譲りと思える美しい音で切々と歌っているし、第3楽章も確実に弾きこなしている。誰にでもお薦めするわけではないけれど、記憶に留めておきたい演奏。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲ニ短調
レオニード・コーガン(vn)
モスクワ放送交響楽団
アラム・ハチャトゥリアン(指揮)
1951年
【決定盤】
TRITONのレオニード・コーガン大全集の23枚目。全30巻で1枚2,400円なのだが、全部買っておけばよかった。それらの全部が決定的な名盤とは言わないが、これはその中の代表的なレコーディングであろう。ハチャトゥリアンはコーガンについてこう語っている。「彼とは1943年の中頃に知り合った。(略)彼ははにかみながら、私のヴァイオリン協奏曲を弾きたいのだが、作曲者の前で弾くのは気おくれがすると答えた。(略)彼は他のヴァイオリニストとは全く異質に、実に見事に演奏した。彼は人間業とは思えぬテクニックをもっていた。驚異的な演奏技術は、極限の速度での演奏を可能にした。(略)私たちは、私の作品を演奏したり音楽を楽しむなどして、多くの時を共にした。彼は私の協奏曲を国の内外で何度も演奏した……」
思いっきりソロがクローズアップされている録音で、スリリングなヴァイオリンが楽しめ、コーガン全盛期の驚異的なヴァイオリンが堪能できる。無理に比べれば、一音一音を丹念に拾っているオイストラフに対し、コーガンもそうではあるのだけれど、全体的にレガートが勝る。また、オイストラフは、客観的であり、抑制が効いているが、コーガンはより主情的で、浪漫的(悶えながらヴァイオリンを弾いているよう)だ。この域に達すると、どちらが良いという好みを超え、圧倒されるばかりであるが、ハチャトゥリアンらしさという点ではコーガンに軍配が上がろう。指揮者とオーケストラはオイストラフの1965年盤と同じだが、こちらのほうがハチャトゥリアンはアグレッシヴな音楽を聴かせる。しかし、オーケストラが遠く、焦点がボケている録音のため、だいぶ損をしている。これはコーガンを聴くための録音なので仕方がない。第3楽章を聴くたびに、先程のハチャトゥリアン評を思い出す。
(音楽配信サイトに、指揮者不詳のGrand Symphony Oechestraによる演奏があったので聴いてみたら、これだった。ヴァイオリンの音がでかいのですぐわかる。)


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲ニ短調
レオニード・コーガン(vn)
ボストン交響楽団
ピエール・モントゥー(指揮)
1958年1月12・13日
ボストン,シンフォニー・ホール
【お薦め】
名匠モントゥーとの録音。1951年の録音に慣れている耳にとっては、だいぶ印象が異なる。コーガンのヴァイオリンはよく言えば知と情のバランスが取れたスマートな演奏となっている。モントゥーの指揮がそうなので、それに合わせたのかもしれないが、私にはコーガンが小さくなり、大人しくなってしまったように感じる。大指揮者モントゥーとの協演(それにアメリカのオケとホールだ)ということで萎縮してしまったのだろうか。当時のことを考えれば、ソ連のヴァイオリニストにはいろいろと制約もあっただろう。この演奏の聴き所は第3楽章。まずモントゥーのシンフォニックなオケの鳴らし方、リズムの冴えが素晴らしい。コーガンもやや速めのテンポの中、精一杯頑張っている(なぜか余裕がないように感じられる)のが切ない。なぜか、この演奏を聴いていると胸が痛くなってくる。
なお、このディスクは、最新盤名曲名盤プラス50 & MORE50(音楽之友社)の第1位となっている。オイストラフの1954年盤が第5位というのも意外だ(逆ならわかる)が、ヴァイオリン協奏曲という作品として考えた場合、コーガンの1951年盤(無位)は異常な録音だし、これを選ばざるを得ないと言うところか。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲ニ短調
レオニード・コーガン(vn)
モスクワ放送交響楽団
アラム・ハチャトゥリアン(指揮)
1959年5月15日(ライヴ)
プラハ,スメタナ・ホール

(しまった。こんなCDが発売されているとは知らなかった。取り寄せ中なので、届き次第、聴いて感想を書きます。)


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
ヘンリク・シェリング(vn)
パリ・コンセール・コロンヌ芸術協会
ピエール・デルヴォー(指揮)
1952年
【お薦め】
まず意外に鮮明な音に驚いた。この録音もかなり独奏の音が大きいが、後述の素晴らしいヴァイオリンを楽しめるものである。演奏はシェリングが弾いているということを忘れそうになる。ポーランド生まれのシェリングは、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスを端正に弾く人というイメージが強いが、この協奏曲をこんなにも共感を込めて弾いてくれるとは思わなかった。フランスの指揮者とオケとの協演だからか、どこか洒落た感じもあり、民族色一色に染まっているわけではないが、34歳のシェリングの瑞々しい音楽性とヴァイオリンの豊かな音色(1743年製グァルネリ・デル・ジェス「ル・デューク」?)、そして全く破綻を聴かせないテクニックが素晴らしい。第2楽章も美音を撒き散らしながら伸びやかによく歌い、シェリングならではの集中力もあり、耳が離せない。第3楽章も、指がバタバタするところがあるが、洗練され、小洒落ている。
オーケストラの音色が明るめで、少しドタバタするところもあるが、名指揮者デルヴォーの元、キレのよいリズム、色彩的な演奏を聴かせてくれた。良い演奏。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
ヘンリク・シェリング(vn)
ロンドン交響楽団
アンタル・ドラティ(指揮)
1964年7月
ロンドン

シェリング12年後の録音で、ブラームスとハチャトゥリアンという不思議な組み合わせのCD(オリジナルは別のLPであろう)。もちろんステレオ録音で、マーキュリー・リヴィング・プレゼンスなのだけれど、音質面での感動はあまりない。むしろ逆で、1952年盤のほうが独奏は良かった。あのシェリングの音は情報量の少なさゆえだったのだろうか。そういえばオイストラフでも後のステレオ録音では同じような感想を持った。こちらがシェリング本来の音ということなのか?としばし考え込む。前の録音に比べれば線が細く神経質な音(ギスギスしている)に聴こえないでもないが、それを忘れればシェリングは相変わらず端正で美しい音色を奏でている。オーケストラの音がよく聴こえるのもありがたい。古い録音ばかり聴き続けていたので、ここではこんな楽器が鳴っていたのかと、目から鱗状態である、と書いたものの、全体の感銘度は旧録音のほうが断然高かった。ドラティの指揮も立派ではあるが、共感に乏しいような気がするのである。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
ユリアン・シトコヴェツキー(vn)
モスクワ放送交響楽団
アラム・ハチャトゥリアン(指揮)
1956年(ライヴ)
【お薦め・決定盤】
1925年に生まれ1958年に没した短命のヴァイオリニストで、ベラ・ダヴィドヴィチの夫君。1947年のプラハのユース・フェスティヴァルのコンクールで、レオニード・コーガンと第1位を分け合った実力の持ち主。
勢いのよい序奏の後で、ヴァイオリンがテンポを落として入るのは白けるが、その後は火の玉のように情熱的で、コーガンの表現をさらに極端にしたような演奏は聴き物。カデンツァなど妖気が漂っているよう。第2楽章の冒頭の管弦楽もお化けが出て来そうな雰囲気であるが、シトコヴェツキーの感情移入が凄まじく、オケの迫力と共に、こんなに味の濃い第2楽章もないだろう。第3楽章も限界までテンポを上げ、オケの方が悲鳴を上げそうだが、胸のすく快演と言える。この録音の指揮者・作曲者も、ここまで全力で弾いてもらえればきっと満足したに違いない。間違いなく、この協奏曲のベスト5に入る演奏である。
録音は古いが、ヴァイオリンとオーケストラはかなり鮮明に録れている。CDによってはステレ感を加えたものもあり、そちらはあまり感心しない。演奏の開始前のざわめき、終演後の拍手入り。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
アラベラ・美歩・シュタインバッハー(vn)
サカリ・オラモ(指揮)
バーミンガム市交響楽団
2003年8月14・15日(ライヴ)
バーミンガム,シンフォニー・ホール

以前にも書いたが、アラベラ・美歩・シュタインバッハーは、外国語表記だと Arabella Steinbacher であり、Mihoの文字が見られないのが寂しい。それに、1981年生まれだからもう37歳なので驚いた。少女だと思っていたら、いい歳になってしまっていた。でも、これは22歳の時の録音。若い(若めの)女流ヴァイオリニストでこの曲を録音する人は少ないから、貴重である。
第1楽章はオラモの引き締まった指揮とシュタインバッハー(長いので、以下、彼女と略す)の独奏に始まる。彼女のヴァイオリンはやや遅めのテンポで丁寧にじっくり仕上げている感じ。オラモの指揮は情感たっぷりで好感触。ピント張り詰めた緊張感もあるし、良い演奏だとは思う。オイストラフのような脂っ気やコーガンの剃刀の切れ味は期待するのが無理というもの。演奏してくれるだけでも感謝しなければいけない。
第2楽章はやはりオラモの指揮が雰囲気がよく素晴らしい。彼女もよく旋律を歌わせようと努力しているのが伝わってくる。正直、熱演だと思う。
間髪入れず第3楽章が始まる。録音なのだから、もう少しヴァイオリンの音量を上げてもよかった。そうすればもう少し聴き映えしただろう。自然過ぎるのも考えものである。小綺麗にまとめたという印象に留まってしまった。これではお薦めをつけることができない。残念である。
(続く)

ハチャトゥリアン ヴァイオリン協奏曲 の名盤(2)

ハチャトゥリアン ヴァイオリン協奏曲 の名盤(2)

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(続き)
1回ではアップし切れなかったので、2回に分けた。
そんな制限があるとは知らなかったよ~。

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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
ゲルハルト・タシュナー(vn)
ベルリン放送交響楽団
アルトゥール・ローター(指揮)
1947年9月24日

もうだいぶ以前(20年位前?)のこと、クラシック音楽のフォーラムがあって、そこで私はハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲はコーガンの演奏が素晴らしいと語ったところ、タシュナーもいいですよ、とのレスをいただいた。そこで今回はゲルハルト・タシュナーの2種の録音を聴いてみようと思う。タシュナーは、1941年から1945年にかけて、フルトヴェングラー時代のベルリン・フィルのコンサートマスターを務めていた人だが、出身はチェコである。ハチャトゥリアンの録音が2種も残っているというのは、この曲に共感するものがあったのだろう。
最も速いテンポかもしれない第1楽章、タシュナーは(録音のせいもあって)か細い音色だが、緩急の差をはっきりつけてキリりと引き締まった演奏を聴かせるし、確かな技術の持ち主で速いテンポをものともしない。カデンツァが終った後はさらに速くなるが、オケも弾き切れてはいない。コーダはスリリング。第2楽章はヴァイオリンとオーケストラのピッチが合っていないのが気になるが、わざとやっているのだろうか。タシュナーのヴァイオリンは自由自在に振る舞い、感情移入が非常に強い。第3楽章は再び速いテンポ。タシュナーはそれが当然というように弾きまくっている。全く大したものである。最初は線が細いと思っていた音色は第2楽章の頃から全く気にならなくなった。伴奏指揮は大味なところがあり、木管楽器が煩くて独奏が聴き取り辛いところがある。
音質はこの年代相応のもの。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
ゲルハルト・タシュナー(vn)
北ドイツ放送交響楽団
ハンス・シュミット=イッセルシュテット(指揮)
1955年5月8,9日(ライヴ)

前回はすごく速いテンポに驚いたが、今回は普通に戻り、安心して聴くことができる。タシュナーは基本は端正、しかし大きくテンポを揺らし、思い入れたっぷり弾いている。コーダになるとテンポが速くなり否が応でも興奮させられる。第2楽章、タシュナーは前回ほどではないにしろ、ピッチを高めに保つようだ。旋律をねっとりと歌わせ、違う国の、例えばアラビアの音楽みたいだ。第3楽章は生きの良い導入に期待が高まるが、なぜかタシュナーは控えめな音。もしかして録音レヴェルを音量が大きいオーケストラに合わせてしまったたようだ。音量だけでなくタシュナーの表現も大人しめとなり、人が変わってしまったみたい。
名匠イッセルシュテットの指揮もオーケストラから立派な響きと躍動感のある音楽を引き出しているが、第3楽章はオケを鳴らしすぎと思う時もある。
録音はさすがに前回より改善している。技術が確実に進歩しているのを実感した。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲二短調
イツァーク・パールマン(vn)
イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
ズービン・メータ(指揮)
1983年
【お薦め】
メータの直線的な指揮による導入部の後、すぐにパールマンの素晴らしいヴァイオリン。全体に速めのテンポ。その後の第2主題でもあまり民族性を感じさせない演奏。都会風に洗練されているというのも違っていて、なんとも微妙だが味は濃い。威勢の良いオケに抜群の巧さを誇るヴァイオリン。こういうのを聴いていると、つくづくパールマンがヴァイオリンを弾くために生まれてきた人なのだなと思ってしまう。リッチもそうだけれど、パールマンの場合は技巧が有り余っているので、それに説得力が加わっている。なんとも豊かなヴァイオリンだ。
第2楽章は、カッチリしたメータの指揮をバックに、パールマンが惜しげも無く美音のヴァイオリンを鳴らしながら切々と歌う。立派な音楽だけれど、なぜか単調にも思えてしまう金太郎飴的な演奏。
元気のよいオーケストラの導入の後に、第1楽章同様速めのテンポでヴァイオリン登場。鳥のさえずりのように自由に歌っている。後半は速めのテンポゆえにパールマン大忙しだが、破綻しないところがすごい。
録音は旧EMIの常として不満があり、全体に籠もった感じの音であるが、聴き辛いというほどのものではない。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲
セルゲイ・ハチャトゥリアン(vn)
エマニュエル・クリヴィヌ(指揮)
シンフォニア・ヴァルソヴィア
2003年7月(ライヴ)
ポーランド放送
【お薦め】
セルゲイ・ハチャトゥリアン(ハチャトゥリャン)によるハチャトゥリアンである。綴りが微妙に異なるし、作曲者との血縁関係はないらしい。いま思い出したのだが、サントリー・ホールで聴いたのは、この人の演奏ではなかったか。あの日初めて御一緒したS氏(本名)は感動に胸を震わせ、CDを購入すると言っていたが、きっとまだ買っていないと思う。
まず名匠クリヴィヌ指揮のシンフォニア・ヴァルソヴィアの響きが素晴らしい。ハチャトゥリアンは自分の音を確かめながら弾き始めているよう。線は細いがリズム感は争えないものがある。そう、他者にはないものがこの人にはある。クリヴィヌ指揮の名伴奏に支えられ、ヴァイオリンは若い感性を存分に羽ばたかせているように聴こえる。カデンツァ以降は自信が漲っている。楽器の音色も美しい。
第2楽章の導入もオケが良い。独奏も美音を活かしてレガートでスマートに旋律を奏でていく。あぁいい音楽だなと素直に思える演奏。
この録音も間髪入れず第3楽章に突入するタイプ。独奏にはもう少しスケール感とか、ひと工夫がほしいと思うところも無きにしも非ずなのだが、これはこれでうまくまとまっているし、作曲者と同じ(ような)名前でもあるのでおまけして【お薦め】。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
ユリア・フィッシャー(vn)
ヤコフ・クライツベルク(指揮)
ロシア・ナショナル管弦楽団
2004年5月12・13日
モスクワ,DZZ第5スタジオ
【お薦め】
ユリア・フィッシャーはドイツのヴァイオリニスト兼ピアニスト。一晩の演奏会でサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番とグリーグのピアノ協奏曲を演奏したこともあるそうだ。
「最新版名曲名盤プラス50&MORE50」の第2位。ここ20年くらいの録音では「ぱっとした演奏」が無いので、この録音には期待が大きかった。
第1楽章導入部はクライツベルク指揮するロシア・ナショナル感なかなかよい雰囲気を醸し出し(録音も優秀)、フィッシャーのソロも出だしは上々、誠実で美しいヴァイオリン。オケのノリの良さも特筆もので楽しい。オイストラフの時代の脂ぎった個性的な演奏群に比べれれば、ずいぶん洗練された表現であるが、それがちっとも嫌ではなく、美しい場面の多い曲であることを再認識。カデンツァも申し分のない巧さで、それに続く音楽もオーケストラともども(抑制が効いた中で)熱っぽい演奏を聴かせてくれ、他盤を大きく引き離している印象。コーダもスリリングで十分満足させてくれる。
第2楽章もクライツベルクが引き出す色彩的なオーケストラをバックに、自由に羽ばたいている。冷たい風がピューピュー吹いている冬の音楽。自然は厳しいけれど、風景は美しい。時に絶望的になるが、日はまた昇る。
第3楽章導入部のオーケストラは生きが良く切迫感があり求心力がある。フィッシャーのヴァイオリンには意志の強さがあると同時に躍動感があり、オーケストラとの掛け合いが面白く、管弦楽との一体感を感じる。全体を通じて気持ちよくハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲を楽しむことができたので【お薦め】。
なお、この当時のフィッシャーのヴァイオリンは、ストラディヴァリウス1716年製「ブース」で、日本音楽財団から貸与されていた楽器である。それ以降はジョバンニ・バッティスタ・グァダニーニを購入、現在では2011年製フィリップ・アウグスティンを使用。昔の名器にこだわないところも良いではないか。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
イダ・ヘンデル(vn)
シュトゥットガルト放送交響楽団
ハンス・ミュラー=クライ(指揮)
1962年2月5日(放送用セッション)
シュトゥットガルト、ゼンデザール・ヴィラ・ベルク
【お薦め】
Wikipediaによるとイダ・ヘンデルは「鋭いテクニックと、ニュアンスに富んだ音色が特徴的だが、気品よりは感情表出の激しさによって、女性ヴァイオリニストの中でも一頭地を抜いている」そうで、「マルツィやヌヴーと同世代の伝説の女性ヴァイオリニスト」なのだとか。(このジャケットはひどくないか?)
第1楽章は、第1主題の始め部分をを少し聴いただけで、独奏が普通ではないことがわかる。これからすごいものを聴かされるという期待が高まる。第2主題は癖のある表現で、相当粘る。確かに「感情表出の激しい」ヴァイオリンだ。好き嫌いが分かれそうだが、ハチャトゥリアンのような曲にはその強烈な個性が合っているとも言える。また、独特の音色である。歌手で言えば、マリア・カラスのような声で、演目は「カルメン」を連想する。自由奔放な女流ヴァイオリンがジプシーの音楽を思わせるのだ。
第2楽章を聴いてやっと気がついたが、これは(ステレオっぽい)モノラル録音だった。それはさておき、この楽章は素晴らしい。しばしば単調に陥りやすい音楽だが、イダ・ヘンデルはぎりぎりのところで踏みとどまって限界まで感情移入を施している。指揮もそんなヘンデルによく合わせたもので、変化に富んでいる。
第3楽章も奔放なヴァイオリンは変わらず、卓越した技巧と凄まじい集中力により、縦横無尽に弾きこなしている。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲ニ短調
アラ・マリキアン(vn)
エストレマドゥーラ交響楽団
ヘスス・アミーゴ(指揮)
2008年3月26・27日
Palacio de Congresos de Badajoz Manuel Rojas, Madrid, Spain

ジャケット画像に引かれて聴いてみることに。某サイトによるとアラ・マリキアンは「現在スペインで最も人気のあるヴァイオリニスト。レバノン出身で、アルメニア人の家庭に生まれました。幼少期よりヴァイオリンを始め、早くから才能を認められていましたが、戦争のため防空壕の中での勉強を強いられました」とのこと。
風貌と同じくらい個性的なヴァイオリンで、なんとも形容しがたいのだが、くねくねしているというか、悶えまくっているというか、とにかく感情移入の強いヴァイオリンである。これを聴いていると曲のイメージまで変わってしまいそうだ。アルメニアというよりスペイン、フラメンコを連想させる。まぁフラメンコにもいろいろあるが。腕が立つのは確かだが、巧いのかどうかもよくわからない。現在の写真からすると、アブナイ人のように見え、お上品なヴァイオリニストではないことだけは確かかも。あと、ノリがよい。これは言える。小綺麗にまとめた演奏よりはよっぽど聴き甲斐がある。
第2楽章はマリアキンが真骨頂を発揮している。こんなに感情が移入された第2楽章も珍しいかもしれない。血は争えないということか。途中で聴くのを止めようと思ってもついつい先が聴きたくなってしまう。
第3楽章は、演奏の善し悪しがはっきり出てしまう楽章。あまり演奏者が好き勝手に出来ない音楽なのだ。この楽章でのマリアキンは残念ながら水準止まりと言ったところか。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲ニ短調
ミハエラ・マルティン(vn)
ウクライナ国立交響楽団
テオドレ・クチャル(指揮)
2001年12月 25・27日
Grand Concert Studio of the National Radio Company of Ukraine, Kiev
【お薦め】
ミハエラ・マルティンは、ルーマニア出身の女流ヴァイオリン奏者で、19歳の時にチャイコフスキー・コンクールで第2位に入賞という経歴を持つ。しかし、日本では無名に近いかも。今井信子らと結成したミケランジェロ弦楽四重奏団の第1ヴァイオリン奏者としてのほうが知られているのかもしれない。
第1楽章、マルティンは歌い方になんともいえない懐かしさを感じさせるし、クチャル指揮のウクライナ国立響も民族的な迫力がある。といっても、ルーマニアとウクライナ、アルメニアの地理的位置がわかっていなかったので、地図で確認した。アルメニアの位置が想像していたのと全く違う場所にあったのでびっくり。音楽に対するイメージも変わってしまう。
演奏の感想に戻るが、これはなかなか良い演奏で、楽器がマイクに近いせいもあり、微妙な演奏のニュアンスもよく伝わってくる。第1楽章コーダのワクワク感も十分。
第2楽章もマルティンは豊かな音色で表情豊かに歌っていく。この楽章にはこのような演奏が望ましい。これであれば最後まで集中力を維持して聴くことができる。
第3楽章導入部の迫力も理想的で、マルティンのヴァイオリンも感興豊か、かつ、理知的なヴァイオリンでもある。演奏効果について考え抜かれた演奏であるように思われる。
充実している時間を過ごせたという実感のある演奏。


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ハチャトゥリャン:ヴァイオリン協奏曲 二短調
リディア・モルドコヴィチ(vn)
ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団
ネーメ・ヤルヴィ(指揮)
1990年

女流ヴァイオリニストであるモルドコヴィチはオイストラフの弟子らしい。2014年に70歳で亡くなっているということは、この録音当時は46歳であろうか。
父ヤルヴィの平凡な導入に始まり、モルドコヴィチのヴァイオリンはなるほどオイストラフにヴァイオリンを思い出させるところがある。地に足ががっしり付いていて、一本の真が通った
美しい音色で丁寧に弾いている。録音がもう少し独奏を大きく拾ったものであったら、聴き映えがしたかもしれない。この録音だとモルドコヴィチのヴァイオリンが地味に聴こえ、曲も長く感じる。逆に父ヤルヴィの指揮は曲が進むにつれ、立派なものに思えてくる。
第2楽章は「トゥーランドット」を連想させるオーケストラで開始され、モルドコヴィチのヴァイオリンも持ち前の豊かな音色で旋律をたっぷり歌わせており、外連味のないところが好感がもてる。表現の縦の幅・横の幅が広く、じっくりと聴かせてくれる。
第3楽章は、やや派手めのオーケストラ、誠実なヴァイオリン。真面目という意味より、音楽に真摯に取り組んでいる。けして悪い演奏ではないのだけれど。


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ハチャトゥリャン:ヴァイオリン協奏曲 二短調
キム・ユンニ(vn)
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
バリー・ワーズワース(指揮)
2013年4月19・20日
Cadogan Hall, London, United Kingdom

知らないヴァイオリニストだが、隠れ名盤の可能性があるので、とりあえず聴いてみよう。
第1楽章、導入部のオーケストラ、独奏ヴァイオリン、悪くない。真剣に感想を書くためというより、聴き流すのであれば申し分のない演奏と思ったが、聴き進めるうちに、ワーズワースの指揮がよく、オーケストラの扱いが上手で、キム・ユンニは丁寧に音を紡いでいくヴァイオリンで、聴いていて気持ちが良いという印象に変わる。
第2楽章導入はおどろおどろしさがよく出ている。どうでもいいことだが、Wikipediaでは「短い導入」とあるが長いと思う。この楽章も良い感じ。見事な、とか、素晴らしいというものではないのだけれど、これで十分とも思わる豊かなものがある。
第3楽章も最後までしっかり聴くことができた。これはよい演奏である。この先、自分が何回この演奏を聴くかわからないし、誰にでもお薦めするわけではないけれど、感心したのは事実。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
ネマニャ・ラドゥロヴィチ(vn)
ボルサン・イスタンブール・フィルハーモニー管弦楽団
サッシャ・ゲッツェル(指揮)
2018年5月
イスタンブール

今年(2018年)の5月の録音で、1985年セルビア(旧ユーゴスラヴィア)生まれのラドゥロヴィチによる演奏。風貌からしてハチャトゥリアンに合いそうな気がする。
第1楽章第1主題は快速テンポで鋭く切り込んでいく。第2主題はこんなのは聴いたことがないというユニークなもの。ふわふわしていて浮遊感のある演奏。ただものではない。第1主題に戻り、ゲッツェルの指揮がヴァイオリンを煽る。それに応えるラドゥロヴィチも涼しい顔をして風にそよぐ柳の枝のような、そよそよとした演奏。激しいカデンツァを経、再び飄々としたソロが始まる。名演なのか判断がつかないが、超個性的であることだけは確か。コーダはソロ・オケ共に血湧き肉躍る音楽を聴かせて終る。
第2楽章はどうだろう。いろいろ考えて演奏しているようだけれど、どこか底が浅いように感じられる。むしろ、ゲッツェルの指揮のほうが単純明快な演奏で好ましい。
第3楽章は直球勝負のオーケストラに対し、変化球主体のヴァイオリニスト。面白い演奏ではあるが、どうしても深みに乏しいように感じられてしまう。
期待外れの一枚。なお、このCDはレコード芸術今月号(2019年1月号)月評で紹介されているが、私はまだ読んでいない。


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ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲ニ短調
ルッジェーロ・リッチ(vn)
ロンドン交響楽団
アナトール・フィストゥラーリ(指揮)
1956年7月2・3日

巾広いレパートリーを誇るルッジェーロ・リッチによる演奏。指揮はバレエの神様(と呼ばれる人は何人もいるが)フィストラーリである。懐かしい名前。思い出はないけれど。さて、これもまず音質に驚いた。さすが英DECCA、この年代とは思えない優秀録音。ただ、これも怪しいレーベルのCDだとかなり違って聴こえるので、DECCAのCDを選んでいただきたい。フィストラーリのSACDが中古高値で取引きされていたことがあったが、理由がわかった。
フィストラーリ指揮のロンドン響の土俗的な迫力が凄まじいし、夢見るよう美しさも併せ持つ。リッチは低い方の弦を美しく響かせないし、シャキッとしない(甘い)ところもあるが、思い入れたっぷりに歌い上げ、ヴァイオリンを弾くのが楽しくてたまらないという演奏。こういう演奏は聴く者を幸せにする。第1・3楽章よりも、感情のこもった第2楽章が良かった。


2018年の投稿は、これが最後となります。
大勢の方にご訪問いただき、心から感謝申し上げます。
1年間にありがとうございました。

ハチャトゥリアン レズギンカの名盤&ぐるぐる忘年会2018

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ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲を2018年の最終記事にしたのですが、秘密結社ぐるぐる団の幹事会で「きれいにまとめ過ぎる」との批判をいただきました。じゃあもうひとつアップしておきましょう。

その幹事会ですが、開催を決めたのが17日(月)で、実行が25日(火)。都合のつく団員は少なく、3人だけ。場所は「御茶ノ水」駅近辺というのが例年のパターンだったので、今回もそれに倣いました。

極めて高水準の音楽談義でした、例えばこんな会話。
私「(ウェーバー序曲集を見て)『魔弾の射手』が入ってないよ
G「カラヤンの全曲盤があったよね。あれは名演だったなぁ♪
私「カラヤンは全曲を録音していないと思う
G「テノールの、ほら、なんとかレイミーが歌ってるやつだよ
JH「レイミーはバス。ひょっとして『ドン・ジョバンニ』のことか

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パトリス・シェローを語るJHさん

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うまか~を連発する暴飲暴食のG氏

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JHさんから頂いたCDと最近購入したCDなど

さて、本題。

アラム・ハチャトゥリアン:
レズギンカ~バレエ「ガイーヌ(ガヤネー)」

ハチャトゥリアンの曲では何と言っても「剣の舞」が有名で、彼の楽曲だけでなく、クラシック音楽の名曲として広く知られているのですが、「レズギンカ」もよく聴かれる曲。

ロシアの指揮者フェドセーエフがアンコールに取り上げることが多く、例の打楽器奏者(アレクサンドル・サモイロフ)が嬉々としてスネアを叩いていたのが印象に残っています。

なお、「レズギンカ(Lezginka/Lezghinka)」とは、コーカサス地方の民族舞踊・伝統音楽・舞曲のことで、ダゲスタンやアゼルバイジャンの人々「レズギン」から発祥したとされているのだとか。

「一般的に、大勢の男女が民族衣装に身を包み、男性は小剣を腰に備え、小刻みなステップで力強く俊敏な動きで踊る。女性は長めの白いドレスを身にまとい、まるで床の上に浮かぶかのように滑らかに軽やかに踊る」のだ

ひとつひとつの演奏については軽く触れるにとどめ、ジャケット画像も最低限、演奏年月日や録音会場のデータ集めもしておりませんし、中には演奏者がわからないものもあります。また、紹介順は「演奏時間が短い順」です。短い曲なので感想を書き終わらないうちに曲が終わってしまう。「師走」という忙しい時期にふさわしい曲ではないかと思って取り上げた次第です。

Khachaturian - Lezginka (from Gayane Ballet)
Khachaturian conductor - 1964
作曲者がバレエを指揮している貴重な映像?

[1991 Live] "Lezginka" - 
Moscow Radio Symphony Orchestra, 7th Jun 1991 Japan
フェドセーエフのレズギンカ。サモイロフのスネア!!

А. Хачатурян. Лезгинка
CM入り。YouTubeにアップされている映像では最も美しい。

Tomomi Nishimoto
Khachaturian : Lezginka From the Ballet 「Gayane」
指揮者中心の映像で、打楽器や木管は全く映らない。

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ロリス・チェクナヴォリアン
アルメニア・フィルハーモニー管弦楽団
2分23秒
ハチャトゥリアンを得意とした指揮者による演奏で、めちゃくちゃ速い。スネアも正確に叩けていないのでは? いや打楽器だけでなく他の楽器も勢いだけで演奏している感じだが、ここまで徹底しているともはや圧巻という他はない。スリル満点の演奏。

アラム・ハチャトゥリアン
オーケストラ不詳
2分25秒
作曲者自身の指揮だが、これもすごく速い。スネア奏者が巧いのか、音はよく判別できる。圧倒されているうちに終わる。

The Royal Norwegian Air Force Band
打楽器は原曲のままに、あとは管楽器だけで演奏したもの。ずいぶんイメージが変わってしまうが、演奏が良いので最後まで聴ける。

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ユーリ・テミルカーノフ
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
2分31秒
この短い曲で、たった6秒の差は大きい。打楽器に自由度が加わり、オケも表現の可能性が高くなる。つまり、いろいろ出来ることが多くなるということ。

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アンタル・ドラティ
ロンドン交響楽団
2分33秒
録音が優秀。前3者に比べ打楽器は控えめ。メロディ優先で優雅な様相がわずかに増える。ただ、あまり面白い演奏ではないような気がしないでもないが、立派な演奏ではある。これだけ聴くのであればご満足いただけるのではないか。

ユーリ・テミルカーノフ
サンクトペテルブルク・フィルハーモニー管弦楽団
2分37秒
だいぶ遅くなった感じがするが、これでもまだ速いほう。しかしいろいろな楽器の「音色」が聴き取れるようになってきた。全体にソフトな感じがして迫力は物足りないが、音楽性は高いと思う。こういう曲だったのかという感じ。

アラム・ハチャトゥリアン
ウエストミンスター交響楽団
2分38秒
平べったくてキンキンしてうるさいがステレオ録音。作曲者自身の指揮は手慣れた感じがするし、すごい迫力。細かいニュアンスよりもとにかく勢いが大事なのだろう。

アラム・ハチャトゥリアン
ロンドン交響楽団
2分39秒
ハチャトゥリアン指揮としては大人しく、大人の音楽となっている。それだけに物足りなさもある。なんだかあまり面白くない。最後は大見得を切る余裕も見せるのだが。

アラム・ハチャトゥリアン
フィルハーモニア管弦楽団
2分39秒
これはよい演奏。勢いもあり、迫力もあり、熱気もあり。音質はモノラルっぽいだが、全然問題ない。このぐらいの速さでもオーケストラは大変そうで、悲鳴を上げているよう。

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アラム・ハチャトゥリアン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
2分41秒
これは名盤として知られているもの。目いっぱい左右に音場を拡げた録音。ウィーン・フィルのDECCA盤。ウィーン・フィルの音色が素晴らしく、この曲のお手本的な演奏。何度聴いても良い演奏に思えるし、飽きが来ない。速いテンポの中でも歌おうという姿勢があり、さすがと思える。

アラム・ハチャトゥリアン
USSR State Academic Symphony Orchestra
2分42秒
冒頭の打楽器の迫力がすごいが、いささか単調にも感じられるのは録音のせい? ロシアン・ブラスは威力がある。(拍手あり)

アーサー・フィードラー
ボストン・ポップス管弦楽団
2分43秒
打楽器を追加しているのか、オリジナルなのか。別物のように聴こえる。録音が良いので目立たない弦もきちんと聴こえるのがありがたい。名演。本来はこれぐらいのテンポで演奏するのが正しいように思う。

ネーメ・ヤルヴィ
スコテッシュ・ナショナル管弦楽団
2分43秒
全体に大人しく品が良い演奏で、この曲の荒々しさはあまり伝わってこない。美しいと思える瞬間があるのはこの演奏が初めて。

指揮者不詳
ボストン・ブラス
2分44秒
別の曲(チャイコフスキー)かと思った。打楽器なしののどかでとぼけた演奏だが、すごく巧いので最後まで思わず聴いてしまう。

アナトゥール・フィストラーリ
ロンドン交響楽団
2分44秒
これも品が良く録音もよい。だが、単調に思えてしまうのが楽曲のせいか。

エフレム・クルツ
ニューヨーク・フィルハーモニック
2分45秒
モノラル録音。打楽器控えめ。至極無難な演奏。クルツはバレエ音楽に定評があったが、この音楽との相性がよいとは思えない。

アレクサンドル・ラザレフ
オーケストラ不詳
2分48秒
重戦車のような迫力を期待してしまったが、割とおとなしい演奏。打楽器がよくわかる(小太鼓は複数を叩いている)が、弦と管がなぜか遠めに聴こえる。

Zdenek Charabara
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
2分50秒
チェコ・フィルだからというわけでもないが、土の香りがする。それ以外はこれといった特徴のない演奏。打楽器が重く、バス・ドラムを意識したのはこれが初めて。

アラム・ハチャトゥリアン
ボーンマス交響楽団
2分51秒
冒頭はすごい迫力だが、その後はホールがよく響くのでサウンドが混濁気味。とにかく力押しの演奏。

ホルスト・シュタイン
ベルリン放送交響楽団
2分56秒
冒頭にどかーんと来ない重厚なリズムとサウンド。とにかく重々しい。いかにもドイツの演奏という感じで興味深いが、曲のイメージからは少し遠くなった。

スタンリー・ブラック
ロンドン交響楽団
2分56秒
左右にめいっぱい拡げた派手めの録音で、ポピュラー名曲の演奏という感じ。

エフゲニー・スヴェトラーノフ
ボリショイ劇場管弦楽団
2分56秒
これも重いリズム。スヴェトラーノフ指揮としては割と普通の演奏。

アルフレッド・ニューマン
ハリウッド・ボウル管弦楽団
2分57秒
軽めのリズムセクション。あっけらかんとした演奏。テンポが遅くなるにつれ、いろいろなことがわかってくる。ここでこの楽器はこういうことをしているのだと。

シプリアン・カツァリス&広瀬悦子
3分2秒
ピアノ・デュオによる演奏。この曲に飽きてきた耳にすごく新鮮に響く。ピアノの高音とピッコロは音が似ていると思った。この曲の和声が把握できてありがたい。

ウラディーミル・ゴルシュマン
ウィーン国立歌劇場管弦楽団
3分3秒
柔らかく優しい音楽。ニュアンス豊だが安全運転すぎる。

Fabien Sevitzky
インディアナポリス交響楽団
3分6秒
昔の録音。これといった特徴のない演奏。

ヘルマン・シェルヘン
ウィーン国立歌劇場管弦楽団
3分9秒
硬めの打楽器が特徴的。シェルヘンだからなにか特別なことをやってくれるのではないかと期待は裏切られる。最後まで普通。

Orford Six Pianos
3分17秒
6台のピアノによる演奏なのだろうか。これならばカツァリス&広瀬悦子のほうが数段上だ。

アラム・ハチャトゥリアン
Karlovy Vary Sympohny Orchestra
3分34秒
最後に拍手が入っているので演奏時間が長かった。

今度こそ、平成30年の最後の記事です。明日から実家に帰ります。

一年間、まっこてあいがとさげもした!

(NHK大河「西郷どん」サイト内の『国父チャンネル』が好き)

モーツァルト 協奏交響曲 変ホ長調 K.364の 名盤(1)

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モーツァルト 協奏交響曲 変ホ長調 K.364 の名盤

遅ればせながら
あけましておめでとうございます
本年もよろしくお願いいたします

他の人は、2019年の聴き初めに大曲を選ばれているようですが、私の場合は宇多田ヒカルの Play A Love Song でした。スマートフォンにヘッドホンを取り付けたとたん、いきなりこの曲がかかってしまったのです。これも神のお告げと思い、記念すべき平成31年最初の曲をしっかりと聴きました。他の方々のように「バッハの……」と書きたいところですが、好きなのだから仕方がありません。

宇多田ヒカル Play A Love Song
(↑は隠し撮りっぽいので削除されるかも。)

さて、拙ブログの新年最初の曲は、リクエストをいただきながら書けずにいた、この曲です。

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K.364

第1楽章 アレグロ・マエストーソ 変ホ長調 4分の4拍子 協奏風ソナタ形式
第2楽章 アンダンテ ハ短調 4分の3拍子 ソナタ形式
第3楽章 プレスト 変ホ長調 4分の2拍子 ロンド形式

モーツァルトのもう一曲の協奏交響曲 変ホ長調 K.297b (K.Anh.C14.01)は既に記事にしていますが、この曲は書くのが難しく思われ、躊躇していました。書けるようになるほど聴き込んだわけではないのですが、新春にふさわしい曲と思い、取り上げることにしました。

Julia Fischer and Gordan Nikolic recording Mozart
レコーディング風景? ユリア・フィッシャーってこんなに魅力的だったんだ。でもヴィオラに隠れてしまうシーンが多いのが残念。第1楽章しか残っていないのだろうか。もっと観たい、いや聴きたい!

ユリア・フィッシャーの動画がもうひとつあったのでご紹介します。

Edvard Grieg / Piano Concerto in Aminor,op.16
Julia Fische
才能のある人には何をやらせても上手くいくのですね。

tzhak Perlman, Pinchas Zukerman, Zubin Mehta
Mozart Sinfonia Concertante


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
ダヴィド・オイストラフ(ヴァイオリン)
イーゴリ・オイストラフ(ヴィオラ)
ダヴィド・オイストラフ(指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1970年~1972年
ベルリン、ツェーレンドルファー・ゲマインデハウス

ベルリン・フィル全盛期(指揮は父オイストラフの弾き振り)の厚く流麗なサウンドに乗ってオイストラフ父子が競演します。
息子にヴァイオリンを譲ると思いきや、イーゴリがヴィオラです。商業的にはダヴィドでないと成り立ちませんからね。なんといっても父オイストラフのヴァイオリンが素晴らしく、モーツァルトを太く艶やか音色で高らかに歌い上げています。それに比べると弾き難そうにしているイーゴリのヴィオラが何とも言えず地味で暗いのですが、健闘しているほうで、父子の息のぴったり合った演奏を褒め称えるべきでしょう。第2楽章になると、イーゴリが父譲りの美音を聴かせるようになり、互角とまではいきませんが、豊麗な美しさのある音楽となりました。第3楽章も父オイストラフの力強く輝かしいヴァイオリンが印象的です。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
ジュリアーノ・カルミニョーラ(ヴァイオリン)
ダニューシャ・ヴァスキエヴィチ(ヴィオラ)
モーツァルト管弦楽団
クラウディオ・アバド(指揮)
2007年11月
ボローニャ

イタリアのジュリアーノ・カルミニョーラは、モダンとバロック双方のヴァイオリンの演奏により知られているそうですが、ここではモダンです。アバドがHIP(Historically Informed Performance)の要素を積極的に取り入れた、モダン楽器による演奏で、新鮮な反面、やや中途半端にも感じますが、こうした演奏が多く現れつつあります。名手二人の独奏及び管弦楽は優秀で何の不満もなく、爽やかなモーツァルトです。ただ、もう一歩踏み込みが足りないような気もするのです。演奏者が自発的に演奏しているのはよいのですが、どこか気持ちが空回りしているようで、アバドの統率力が低下しているように思えてならないのです。第2楽章も若干速めのテンポで淡々と進んでいき、無機的な印象を与えますが、あるいはこれが彼岸の美というものなのかもしれません。しかし、第3楽章はモーツァルトの愉悦間がよく出ていてなかなか良い出来です。二人の独奏者はきれいにまとめている感じで、もう少しはじけた演奏を希望したいのですが、悪くはありません。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
フランコ・グッリ(ヴァイオリン)
ブルーノ・ジュランナ(ヴィオラ)
パドヴァ・エ・ヴェネト室内管弦楽団
ブルーノ・ジュランナ(指揮)
1987年4月
パドヴァ

グッリ(1926-2001)もジュランナ(1933-)も共にイタリア出身です。ジュランナはムターの旧盤と共通ですが、当盤のほうが音ばきれいと思いました。第1楽章はオーケストラが少し大人しいですが、独奏二人に派手さがない分、釣り合いが取れているのかもしれません。ヴァイオリンがやや軽め、ヴィオラが少々重めなですが、美しいアンサンブルで、どちらかと言えば指揮も兼ねているジュランナのヴィオラが主導権を握っているような演奏です。オケも含めて演奏者の強い個性を感じさせない分、楽曲に浸ることができるとも言えます。けして悪くはないのですが、総じて無難な演奏でしょう。それでも第3楽章は高揚感がありました。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
ライナー・クスマウル(ヴァイオリン)
ヴォルフラム・クリスト(ヴィオラ)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
クラウディオ・アバド(指揮)
1991年
【お薦め】
ライナー・クスマウルは、1993年から98年までベルリン・フィルの首席コンサートマスターを務めていた人です。また、古楽奏法の研究に熱心に取り組んいた人でもあります。ヴィオラのユルゲン・クスマウルはラルキブデッリの一員でもありました。しかし、2人の演奏からそのようなことを全く感じさせません。普通に良い演奏です。ベルリン・バロック・ゾリステンが創設されたのは1995年ですから、まだ意識的にピリオド・スタイルを用いていなかった時代の録音なのかもしれません。二人ともまろやかな美しい音色で瑞々しくモーツァルトを奏でていますし、オーケストラも少し部厚過ぎるけれどモーツァルトにふさわしい響きを確保しています。第2楽章は二人の個性がよく出ていました。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
キム・カシュカシアン(ヴィオラ)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ニコラウス・アーノンクール(指揮)
1983年10月
ウィーン,ムジークフェラインザール
【お薦め】
ウィーン・フィルからやや尖った鮮烈な響きを引き出しているアーノンクールの指揮は溌剌としていて私は好きです。考え抜かれた表現のクレーメルのヴァイオリンに理知的なカシュカシアンのヴィオラがよく合っていると思います。ちょっとしたアドリブも飛び出します。第2楽章もウィーン・フィルの音色が美しく、独奏者二人も真に感情の籠った演奏です。第3楽章の愉悦感も申し分なく、独奏もチャーミングに弾きこなして楽しいのですが、クレーメルの音色が細身なのが惜しいところ。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
アルテュール・グリュミオー(ヴァイオリン)
アッリゴ・ペリッチャ(ヴィオラ)
ロンドン交響楽団
サー・コリン・デイヴィス(指揮)
1964年5月
ロンドン
【お薦め】
グリュミオー&デイヴィス指揮のモーツァルト:ヴァイオリン協奏曲集は、グリュミオーだけではなくモーツァルトの名曲の名盤中の名盤とされていますので、この演奏が悪かろうはずがありません。デイヴィス指揮するロンドン響の厚く引き締まったサウンドにモーツァルトの魅力を感じます。グリュミオーは音色がもぎたての果実のようにフレッシュで美しく、気品があります。細身に聴こえることがあるグリュミオーですが、この録音では豊麗なヴァイオリンです。ヴィオラのペリッチャはグリュミオーとの共演のみで名が知られていますが、ヴァイオリンとの息もぴったりです。でも、ヴァイオリンに主導権を握られているようなヴィオラで、思わずそんなことを書いてしまうほどにグリュミオーが素晴らしいのです。このデュオが始まってしまうと、オケの存在を忘れそうになりますが、デイヴィスの指揮もよく二人を盛り立てており、見事なものです。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
五嶋みどり(ヴァイオリン)
今井信子(ヴィオラ)
北ドイツ放送交響楽団
クリストフ・エッシェンバッハ(指揮)
2000年9月&10月
ハンブルク
【お薦め】
五嶋みどりと今井信子の協演という、日本を代表する弦楽器奏者による、なんとも贅沢な一枚です。エッシェンバッハが指揮する北ドイツ放送響のぶ厚い響きに乗って集中力のある独奏が登場します。特に五嶋みどりのヴァイオリンのひたむきさは胸を打ちます。それに比べると今井信子のヴィオラは豊かであり余裕を感じさせます。五嶋みどりに余裕がないというわけではないのですが、杖に切羽詰まった緊迫感があり、こちらも姿勢を正して聴かねばという気にさせられるのです。とはいえ、二人の目指す方向は同じであり、音楽的にも音量的にもバランスの取れた演奏と言うことができます。第2楽章はいっそうその感が強くなります。ここでは今井信子の包容力のあるヴィオラが素晴らしいです。ムードに流される演奏が多い中、これだけ彫の深い第2楽章も少ないでしょう。快速テンポの第3楽章は、オケの響きがもう少し軽いほうが好みですが、独奏二人は非常に充実した演奏を繰り広げています。五嶋みどりのヴァイオリンがいつも悲しげなのが興味深いですが、それだけ一生懸命弾いているということなのでしょう。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
ヨゼフ・スーク(ヴァイオリン)
ミラン・シュカンパ(ヴィオラ)
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
クルト・レーデル(指揮)
1961年
【お薦め】
指揮はバッハ、ハイドン、モーツァルトの演奏に定評がある、ドイツのクルト・レーデルで、第1楽章の管弦楽を聴いただけでこれは名演と思いました。独奏とオケはチェコ勢力ですが、スークのヴァイオリンの品格のある音と心のこもった歌、スメタナ四重奏団のヴィオリストであるシュカンパも豊かな音と歌を響かせてくれ、ヴァイオリンと同等以上の存在感を示します。この曲はヴィオラに注文を付けたくなることが少なくないのですが、シュカンパはさすがですね。これは本当に素晴らしい演奏で、豊かで充実した時間を過ごすことができました。個人的には【決定盤】と呼びたい演奏です。録音年は古いですが、二人の独奏(特にヴィオラ)を大きめに捉えた録音も良好、もちろんステレオです。
最近のHIPスタイルのモーツァルトには馴染めないという人に特にお薦めしたい演奏です。
なお、スークにはヴィオラのヨゼフ・コドウセクとの1970年代の録音もありますが、そちらは未聴です。
今回最も印象に残った一枚でした。


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モーツァルト:協奏交響曲変ホ長調K.364
アイザック・スターン(ヴァイオリン)
ウィリアム・プリムローズ(ヴィオラ)
ペルピニャン音楽祭管弦楽団
パブロ・カザルス(指揮)
1951年

カザルスらしい抑揚が大きく勇壮で重厚な(ベートーヴェンみたいな)管弦楽で始まります。全盛期のスターンは音の美しさと抜群の安定感を誇ります。ヴィオラのプリムローズ(1904-1982)はトスカニーニのNBC交響楽団首席奏者で、ソリスト&室内楽奏者としても活躍した人。この人もスターン同様、安心して聴ける人で、ヴァイオリンとヴィオラが拮抗しているのが好ましく思えます。第2楽章もカザルスの指揮だと葬送行進曲のようで、スターンとプリムローズがカザルスに従ってしずしずと演奏しています。第3楽章も重いですが愉悦感は相応にあります。低弦中心のピラミッド型のオーケストラなので、かえって独奏が目だってよいのかもしれませんが、終始カザルスのペースなので、好き嫌いが分かれるとと思います。
録音はモノラルですが、聴き辛いというほどではありません。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
アイザック・スターン(ヴァイオリン)
ピンカス・ズーカーマン(ヴィオラ)
イギリス室内管弦楽団
ダニエル・バレンボイム(指揮)
1971年
【お薦め】
スターンは、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲の第1・3・5番をセル指揮、第2・4番をシュナイダー指揮で録音しておちいずれも名盤ですが、協奏交響曲K,364に関しては先述のカザルス指揮のものと、当バレンボイム指揮の2種ではなかったでしょうか。
やや粘る傾向にあるバレンボイムの指揮のもと、すーっとスターンとズッカーマンが入ってきて、清々しい演奏を繰り広げ、その演奏は陰影が細かく表現され、味わい深いものとなっています。ここでのスターンは協調性を重んじているようで、いつも雄弁さは控えめであり、この録音でもヴィオラに回ったズッカーマンの豊麗な音と、室内楽的な調和の取れたものとなっています。バレンボイムの指揮とともに第2楽章の濃厚な表現とコクが特に印象に残りました。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
ウラディーミル・スピヴァコフ(ヴァイオリン)
ユーリ・バシュメット(ヴィオラ)
イギリス室内管弦楽団
ウラディーミル・スピヴァコフ(指揮)
【お薦め】
やや鈍さ・重さを感じさせるオーケストラの導入です。スピヴァコフとバシュメットの演奏は、この曲にありがちな幸福感とは少し異なり、第1楽章の変ホ長調という調性にもかかわらず、どこか暗さを感じさせます。凍てついた大地に春がやってきた、そんな演奏です。独奏の二人とも各楽器での名人ですから、演奏は格調が高く、すこぶる充実したものとなっています。ただ、若いモーツァルトの音楽の愉悦感・幸福感といったものをこの第1楽章の演奏に求めると、なんだかちょっと違うというような気になります。そういう意味ではしっとりとした第2楽章が良く、演奏スタイルが曲にマッチしており、味わいが濃く、しんみりとした気分。 第3楽章は二人の名人芸を聴かされているようで、圧巻です。全体を通じて私の好みには合わないのですが、これはこれで大変優れた演奏を思いますので、【お薦め】にしたいと考えます。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
フランク・ペーター・ツィンマーマン(ヴァイオリン)
アントワーヌ・タメスティ(ヴィオラ)
バイエルン放送室内管弦楽団
ラドスラフ・スルク(指揮)
2015年6月28日
ミュンヘン、ヘルクレスザール
【お薦め】
ムターと共にドイツ・ヴァイオリン界を引率するF.P.ツィンマーマンと、現代きってのヴィオリストであるアントワーヌ・タメスティ(2018年度レコード・アカデミー賞 現代曲部門受賞)の協演です。この二人の協演ですから、聴く前から名演であろうと察しが付きます。指揮はバイエルン放送交響楽団のコンサート・マスターであるラドスラフ・スルク。二人の独奏はたまにアドリブも交えながら軽妙洒脱な演奏を繰り広げます。オーケストラ共々演奏する喜びに満ち溢れているような幸福な演奏です。とにかく新しい演奏(録音)が聴きたいという人には一番のお薦めです。
なお、ツィンマーマンには女流ヴィオラ奏者の名手であるタベア・ツィンマーマンとの1990年録音もありますが、残念ながらそちらは未聴です。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
トーマス・ツェートマイヤー(ヴァイオリン)
ルース・キリウス(ヴィオラ)
18世紀オーケストラ
フランス・ブリュッヘン(指揮)
2005年10月(ライヴ)
オランダ,ユトレヒト

ブリュッヘンが指揮する18世紀オーケストラがゆったりとして長閑でよい感じで、独奏もおおむねその方向です。独奏二人が自己主張してくるタイプではなく、オーケストラと一体となり、文字通り協奏交響曲を演奏しているという雰囲気です。美しいけれど全体にソフトなタイプで、ついつい聴きながら他のことを考えてしまいました。B.G.M.にはよいのかもしれません。第3楽章は速めのテンポですが、残念ながら印象を覆すほどではありませんでした。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
寺神戸亮(ヴァイオリン)
シギスヴァルト・クイケンヴィオラ)
シギスヴァルト・クイケン(指揮)
ラ・プティット・バンド
1995年5月
オランダ、ハーレム、ドープスゲツィンデ教会
【お薦め】
名手シギスヴェルトがヴィオラと指揮、寺神戸のヴァイオリンによる協奏交響曲、もちろんピリオド・スタイル(このような演奏様式を最近は「HIP(Historically Informed Performance)」と称するらしい)です。寺神戸のヴァイオリンが明るく美しく屈託のない音色でモーツァルトを歌い上げれています。シギスヴァルトのヴィオラはくすんだ音色で少し地味ですが、寺神戸を聴くものと割り切りましょう。小回りの利く小編成のオーケストラによる愉悦感が楽しく、時間が経つのを忘れて聴いてしまいました。

(次の記事に続きます)

モーツァルト 協奏交響曲 変ホ長調 K.364の 名盤(2)

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(前の記事からの続きです)

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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
オーギュスタン・デュメイ(ヴァイオリン)
ヴェロニカ・ハーゲン(ヴィオラ)
オーギュスタン・デュメイ(指揮)
ザルツブルク・カメラータ・アカデミカ
2000年2月
ザルツブルク
【お薦め】
人気ヴァイオリニストのデュメイと、ハーゲン四重奏団のヴェロニカさんの協演です。私はヴェロニカさんのファンなので聴くのが楽しみな一枚、期待のCDです。決定盤の予感がします。二人の音が聴こえ始めたときからくぎ付けです。なんて美しい音、音楽なのでしょう。やはりデュメイのヴァイオリンが主役です。持ち前の美音を駆使して表現の限りを尽くしています。それに比べるとヴェロニカさんは若干引っ込み気味、控えめですが、モーツァルトも内省的なヴィオラの音色を意識して書いているのでしょうから仕方がないところ。子供のように燥いで無邪気に振舞うヴァイオリンに対し、大人の雰囲気が漂うヴィオラです。とはいえ、息もぴったりで、デュメイが弾き振りする、生き生きとしたオーケストラ共々聴き映えのする演奏に仕上がっていると言えます。ただ、オケは常識的な範疇に留まっているので、アーノンクールあたりが指揮したらさらによかったかもしれません。第2楽章もデュメイが巧いです。デュメイのヴァイオリンは低域の音も豊かで、ヴィオラと変わらない音色を出すことも可能であり、表現の巾の広さを見せつけます。第3楽章も愉悦間に溢れた演奏ですが、どうしてもデュメイのほうが一枚上手のように思われ、ヴェロニカさん贔屓の私としては面白くないところです。デュメイのヴァイオリンが光り輝いているように聴こえます。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
イツァーク・パールマン(ヴァイオリン)
ピンカス・ズーカーマン(ヴィオラ)
イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
ズービン・メータ(指揮)
1982年12月13-20日
テル・アヴィヴ,フレデリック・R・マン・オーディトリアム
【お薦め】
パールマンの天真爛漫なヴァイオリンに、ヴィオラ奏者としても一流のズーカーマンのヴィオラです。パールマンの全身で喜びを表しているような底抜けに明るい音がモーツァルト23歳の作品にとてもふさわしく、それとは対照的な憂いを帯びたズーカーマンの音が加わり、この曲の理想的な再現であると言ってよいと思います。特に、最上の美音の持ち主である二人が切々と(甘く)歌い上げる第2楽章は、この曲の最も美しい再現でしょう。第3楽章も元気溌剌で、若々しく張りと艶のある音色で高らかに歌い上げています。メータ指揮のイスラエル・フィルも少し鈍重な気がしますが、好サポートであると思います。
それにしてもズーカーマン、なまじヴィオラが弾けてしまうために、重宝されているような気がしてならないのは私だけでしょうか。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
ヤッシャ・ハイフェッツ(ヴァイオリン)
ウィリアム・プリムローズ(ヴィオラ)
RCAビクター交響楽団
アイズラー・ソロモン(指揮)
1956年
【お薦め】
クラシック音楽史上、最も巧いヴァイオリニストであろうハイフェッツにとって、この曲は簡単過ぎるのかもしれませんが、モーツァルトの音楽を心から楽しんでいるかのような演奏であり、名手プリムローズとの協演です。
やや速めの颯爽たる管弦楽と独奏が魅力的です。この演奏は、スタイリッシュなハイフェッツのヴァイオリンもさることながら、プリムローズの豊麗なヴィオラにも惹かれました。いや、それにしてもハイフェッツ、巧いです。さすがです。ハイフェッツの要求によるものと思いますが、第2楽章も速めで8分46秒であり、旋律が浮かび上がっていますので、初めてこの曲を聴く方には分かり易い演奏なのかもしれません。第3楽章も5分53秒で駆け抜け、全曲をハイフェッツが支配しているかのようですが、大変楽しく聴くことができました。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
レジス・パスキエ(ヴァイオリン)
ブルーノ・パスキエ(ヴィオラ)
リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団
ピエール・バルトロメー(指揮)
1994年1月,1996年7月
【お薦め】
有名なパスキエ・トリオは父のピエールと叔父のジャン、エティエンヌの3人による三重奏団で、このK.364の録音は、父ピエールの2人の息子であるレジス(兄)とブルーノ(弟)が独奏を務めています。バルトロメーの指揮するリエージュ・フィルの演奏ですが、このK.364が意外(失礼!)に良いのです。これは最初に聴いたときから良い演奏だと思って3回聴きました。中庸の美とでもいうのでしょうか、独奏もオーケストラも他より抜きんでて優れているとは思えないものの、全てがバランスよく、気持ちよく聴くことができ、これで十分ではないかと思わされてしまいます。兄弟だけあって息もぴったり、音色も似通っており、親密性を感じます。全体に開放的で明るく、青春を謳歌しているという感じがしますね。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
ワルター・バリリ(ヴァイオリン)
パウル・ドクトール(ヴィオラ)
ウィーン国立歌劇場管弦楽団
フェリックス・プロハスカ(指揮)
1951年

今でも根強いファンの多いバリリ四重奏団のワルター・バリリについてWikipediaで調べたところ、没年が記されていませんでしたが、1921年6月16日生まれ(うちの弟と一緒の誕生日)のバリリは今でも存命の人なのだろうか? バリリはウィーン・フィルのコンサート・マスターや楽団長を務めた人でしたが、ヴィオラのドクトールもウィーン生まれで、楽友協管弦楽団の首席であった人です。そのつながりの人選なのでしょうか。
第1楽章はオケも独奏もアンサンブルの精度という点では現代の演奏のほうが勝っていると思いますが、雰囲気の良さ、音楽の生き生きとした表現は代え難いものがあります。オーケストラの弦が大きな編成のように聴こえ、その厚ぼったさが気になりますが、好みの問題かもしれません。そんなことよりも、バリリとドクトールの深みとコクがある馥郁たる香り高い演奏が素晴らしいと思います。第2楽章も味が濃く、ゆったりとしたテンポでしっかりと歌っており、表現の奥深さに魅せられます。第3楽章も第1楽章と同様で、粗っぽさもありますが、うまみ成分が凝縮されている感じです。
この年代ですから当然モノラル録音であり、録音の古さを差し引いて無印にしましたが、一度は聴いておきたい演奏のひとつと思います。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
ヤン・ビョーランゲル(ヴァイオリン)
ラース・アネルス・トムテル(ヴィオラ)
ヤン・ビョーランゲル(音楽監督)
1B1
2016年3月18,19日
スタヴァンゲル・コンサートホール
【お薦め】
オーケストラは「1B1」です。ノルウェーの北海沿岸に位置する港湾都市であるスタヴァンゲルのビェルグステ1番地(Bjergsted 1)を本拠とすることから「1B1」という名称にしたのだそうです。スタヴァンゲルが2008年の「ヨーロッパ文化の首都」に選ばれた際、スタヴァンゲル大学で教える音楽家と最優秀の学生たちにスタンヴァンゲル交響楽団のメンバーを加えて創設されたのだとか。ヴァァイオリンのヤン・ビョーランゲルは1B1の音楽監督、ヴィオラはノルウェーを代表する奏者であるラース・アネルス・トムテルです。前置きが長い理由は、私がこの1B1という室内管弦楽団を気に入ったからで、今後は積極的に紹介していきたいと思います。
演奏は、オーケストラの清楚で生き生きとした演奏に惹きつけられます。この曲にはこのぐらいの編成が管と弦のバランスがちょうどよいです。その中からすーっと独奏が現れます。これもオーケストラのバランスが適切で大変気持ちが良いです。いい演奏だなぁ。全員が音楽を、モーツァルトを楽しんで演奏しているように聴こえ、心が和みます。これでこそモーツァルトの音楽が生きるというものでしょう。二人の独奏も本当に立派で、充実した時を過ごすことができました。なお、1B1はモダン楽器アンサンブルです。念のため申し添えておきます。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
ユリア・フィッシャー(ヴァイオリン)
ゴルダン・ニコリッチ(ヴィオラ)
オランダ室内管弦楽団
ヤコフ・クライツベルク(指揮)
2006年3月
【お薦め】
この記事の最初のほうでYouTubeによるこの録音風景をご紹介しましたが、私なんか単純なものであれでころっと参ってしまって、ユリア・フィッシャーの大ファンになってしまいました。ヴィオラのニコリッチもロンドン交響楽団のコンサート・マスターとオランダ室内管弦楽団の音楽監督を兼任する名手なのだそうです。演奏はまずクライツベルク指揮の管弦楽が清々しく躍動的でモーツァルトの魅力を十分に湛えており出色の出来と言えます。そしてフィッシャーとニコリッチの独奏が鮮やかに登場します。フィッシャーがモーツァルトの光の部分を、ニコリッチが陰の部分を鮮やかに描き分けています。第2楽章も繊細な表現が素晴らしく、モーツァルトのやるせない気持ちが十分伝わってきます。第3楽章は再び活動的となり、オーケストラの充実した響きに埋没することなく、二人の独奏者が伸びやかにしっかりと自己主張しながらも協調性豊かにモーツァルトを歌い上げていきます。ペンタトーンの録音も非常に良く、文句なしのお薦めです。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
トッド・フィリップス(ヴァイオリン)
モーリン・ギャラガー(ヴィオラ)
オルフェウス室内管弦楽団
1989年12月

かつてDeutsche Grammophonから多数の録音を送り出していたオルフェウス室内管弦楽団は、最近では自主制作リリースを行っているようです。2012年・2010年録音のベートーヴェン:交響曲第7番・第8番が気になるところですが、これはかつての録音です。独奏者二人の詳細はわからないのですが、オルフェウス室内管の人たちなのでしょうか。ゆったりとしたテンポで始まる第1楽章は、このオケならではの生き生きとした表現を聴きとることができます。二人のソリストは独奏というよりもオケのソロ・パートといった趣で、全体に落ち着いた雰囲気もあります。第2楽章のカデンツァなど心のこもった演奏が印象に残りました。二重協奏曲というより協奏交響曲的な演奏でした。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
ヴィルデ・フラング(ヴァイオリン)
マキシム・リザノフ(ヴィオラ)
アルカンジェロ
ジョナサン・コーエン(指揮)
2014年4月
【お薦め】
ノルウェーの女流ヴァイオリニスト、フラング(1986年-)によるモーツァルトです。ヴィオラはバシュメットに「私の好敵手」と言わせたリザノフですが、詳しくは知りません。コーエンが指揮するアルカンジェロは優秀な奏者の集団のようです。演奏スタイルはもちろんHIPですが、モーツァルトの場合、特に気にはなりません。むしろそのソフトな風合いが気持ちよいくらいです。二人の独奏は音色が艶やかで美しく、感興豊か(ノリが良いの)でとても魅力的です。協奏曲として聴くならば、これぐらい弾いていただきたいと思います。第2楽章もHIPスタイルがうらぶれた感じを醸し出していますがが、このオーケストラ伴奏に乗ってフラングとリザノフが切々と旋律を紡いでいきます。第3楽章は早めのテンポが小気味よく、都会風に洗練されている印象があります。自然と女性的なヴァイオリンと男性的なヴィオラという描き分けがなされ、それがぴたりとはまっていて、絶妙なバランスを保っているます。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
トーマス・ブランディス(ヴァイオリン)
ジュスト・カッポーネ(ヴィオラ)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 
カール・ベーム(指揮)
1964年12月
ベルリン,イエス・キリスト教会
【お薦め】
第1楽章はベームらしいすっきりとしたオーケストラの演奏が耳を引きます。ヴァイオリンのブランディスはベルリン・フィルの第1コンサートマスターで、ヴィオラのカッポーネもベルリン・フィルの首席で、オーケストラとの調和はばっちりです。二人とも美しい音でモーツァルトの音楽を麗しく奏でていますが、全体を支配しているのはベームでやや遅めのテンポでドイツ風の堅固な音楽づくりが堅苦しく感じられますが、格調の高さは比類がないとも言え、このようなモーツァルトを好む方も少なくないでしょう。第2楽章も悲壮な美しさ。ベルリン・フィルの重厚な弦楽合奏を背景に、彼らのトップであるブランディスとカッポーネが淡々とモーツァルトを語っています。第3楽章も中庸のよいテンポです。ベームの設計の堅実さが表れていますが、もう少し愉悦間があったらとも思います。しかし、このまとまりの良さは捨てがたいものがあり、なんだかんだ言ってこれを【お薦め】にしないわけにはいかないと感じてしまいました。



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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
ヴォルフガング・シュナイダーハン(ヴァイオリン)
ルドルフ・シュトレング(ヴィオラ) 
カール・ベーム(指揮)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1969年8月6日(ライヴ)
ザルツブルク音楽祭 

1937年から1949年までウィーン・フィルのコンサートマスターであったシュナイダーハンと同団の首席ヴィオラ奏者であったシュトレングを独奏としたK.364です。演奏会場や録音技師が異なるせいもあるのでしょうが、ベルリン・フィルとウィーン・フィルとではこんなに違うものなんですね。ウィーン・フィルのほうがはるかに軽やで優美です。演奏時間が前回にほぼ同じですが、もっと遅めに聴こえ、で同じ指揮者とは思えないほどのんびりしています。前回がドイツ風、今回はウィーン風ということなのでしょうか。肩の力を抜いたモーツァルトなので、こちらのほうを好まれる方もいるでしょう。私は、私はどちらかと言えば旧録音に魅力を感じますが、当盤のリラックスしたムードを好む人がいてもおかしくありません。独奏はシュナイダーハンがやや線が細い感じ、シュトレングは恰幅のよいヴィオラです。第2楽章・第3楽章は明らかに演奏時間が長くなっており、独奏に花を持たせ、よりたっぷりと聴かせる方向にチェンジしたようです。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
ノーバート・ブレイニン(ヴァイオリン)
ピーター・シドロフ(ヴィオラ)
イギリス室内管弦楽団
アレクサンダー・ギブソン(指揮)

ブレイニン(vn)シドロフ(va)と言ったらアマデウス弦楽四重奏団ですね。気心の知れた二人を擁してのK,364です。第1楽章は落ち着いたテンポで始まり、何やら風格を感じさせます。二人の独奏者も古参の猛者といった雰囲気を醸していますが、声高にソロを主張するというタイプではありません。その辺が物足りないと言うこともできますし、二人の語り口には味わいがありますのでじっくり聴きたいという人には魅力があるかもしれません。私は先を急ぎたいタイプなので前者のほうですし、独奏二人がやりたいことと、オーケストラには隔たりがあるように感じられ、違和感を感じました。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)
ブルーノ・ジュランナ(ヴィオラ)
アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
サー・ネヴィル・マリナー(指揮)
1991年6月
【お薦め】
ムターの旧録音です。指揮はモーツァルトに定評がある名匠マリナー、第1楽章のテンポは堂に入ったもので、さすがに新盤とは貫禄が違うという感じがします。録音も新盤よりこちらのほうが私の好みです。ヴィオラのジュランナについてはよく知らないのですが、イ・ムジチの設立に参加した人で、ヴィオラの第一人者ということらしく、充実したヴィオラを聴かせています。ムターの独奏も新盤より当盤のほうがより謙虚で楽曲に奉仕していますし、豊麗な音色はそれだけで魅力的です。第2楽章は悲愴極まりないヴァイオリンをヴィオラが励まし慰め、共に歩いていく音楽となっています。第3楽章のマリナーの指揮は中庸の美。ジュランナのヴィオラは新盤のバシュメットと比較するのは気の毒ですが、それでも十分健闘しています。



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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
アンネ・ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)
ユーリ・バシュメット(ヴィオラ)
アンネ・ゾフィー・ムター(指揮)
ロンドン・フィルハーモニック
2005年7月
ロンドン,アビーロード第1スタジオ
【お薦め】
さすが女王ムターだけあり、バシュメットという豪華なお相手です。今回はムターの弾き振り。弾きながら指揮はできないだろうけれど。第1楽章はやや速めのテンポ、メリハリの効いた指揮です。オーケストラからすーっとヴァイオリンとヴィオラ独奏が分かれていく場面、2人の豊麗な音色に早くも酔いしれます。バシュメットクラスだとムターと互角に渡り合えるので、独奏二人のバランスがこれ以上ないくらいに理想的、テンポは変わらず速めで生き生き(きびきび)とした表現が魅力的。表現の幅は少し大きめ。たっぷりと聴かせ、粘りるところもありますが、一歩前で踏みとどまっている感じ。第2楽章はじっくりと聴かせます。このようなスタイルは古いのかもしれないけれど、安心してモーツァルトの音楽に浸ることができます。第3楽章は再び颯爽としたテンポで、個性的な2人ですが息はぴたりと合っています。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
ユーディ・メニューイン(ヴァイオリン)
ルドルフ・バルシャイ(ヴィオラ)
ユーディ・メニューイン(指揮)
バース・フェスティヴァル管弦楽団
1960年代

メニューインの弾き振りです。ヴィオラは今や指揮者としてのほうが有名かもしれないバルシャイです。ヴィオラ奏者としてのバルシャイは1945-1953年のモスクワ音楽院弦楽四重奏団(現ボロディン弦楽四重奏団)、1948-1956年のチャイコフスキー弦楽四重奏団でのメンバーであったのです。この演奏でまず感心するのはバルシャイのヴィオラで、しっかりと地に足がついた演奏です。どうしても耳がバルシャイのほうに向かってしまいます。バルシャイに比べると、メニューインのほうは普通に(頼りなく)思えてしまうのは先入観のせいでしょうか。


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モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.364
アラン・ラブデイ(ヴァイオリン)
スティーヴン・シングルス(ヴィオラ)
アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
サー・ネヴィル・マリナー(指揮)
【お薦め】
アラン・ラブデイという人は良く知らないのですが、マリナー指揮の何回目かの「四季」でソロを弾いていた人です。第1楽章はさすがマリナーで手慣れたものです。
ラブデイとシングルスの各独奏も悪くありません。ただ、録音が独奏をピックアップしているとはいえ、アカデミー室内管弦楽団の一部としての演奏という印象です。そのように書くと否定的なようですが、けしてそんなことはなく、十分魅力的なヴァイオリンとヴィオラです。ただ、この演奏はマリナーの指揮による協奏交響曲なのだと思います。個人的には好きな演奏で、両端楽章の生き生きとした表情や、中間楽章のしみじみとした味わいが気に入っています。
あと、演奏会場の外の道路を走っている自動車の音が時おり聴こえるのが気になります。LP時代ではそんな音まで拾っている優れた録音とされたかもしれませんが、CD時代だとSN比がよいのでそういう音が目立ってしまうのです。

(終わりです)

ハイドン チェロ協奏曲の名盤(1)

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少し前のことになりますが、「レコード芸術」2018年11月号の伊東信宏「東欧採音冒譚」の副題は「芸能の地平へ-宇多田ヒカルの行方」でした。「レコード芸術」という、今では数少ないクラシック音楽専門誌の看板連載での宇多田ヒカル論であり、よく編集部が許したものだと思う反面、伊東信宏という人が一気に身近に感じられるようになりました。

さて、ハイドンの曲です。チェロ協奏曲は数が少ないように思われていますが、実はけしてそんなことはなく、ウィキペディアの「主な作曲家と作品」における「協奏曲」「協奏的作品」では夥しい数の作品が名を連ねています。「モーツァルト:チェロ協奏曲 ヘ長調 K.206a(1775)」というのもあったようです。

ハイドンの真作とされているチェロ協奏曲は次の2曲です。

フランツ・ヨーゼフ・ハイドン
チェロ協奏曲第1番ハ長調Hob.VIIb-1
 第1楽章 モデラート、ハ長調、協奏風ソナタ形式
 第2楽章 アダージョ、ヘ長調、三部形式
 第3楽章 アレグロ・モルト、ハ長調、ソナタ形式
チェロ協奏曲第2番 ニ長調 Hob.VIIb-2 作品101
 第1楽章 アレグロ・モデラート、協奏風ソナタ形式。
 第2楽章 アダージョ、イ長調、ロンド形式
 第3楽章 アレグロ、ニ長調、ロンド形式

聴き比べは基本的に第1番のみで行っています。第2番も良い曲なのですが、第1番のみを収録しているディスクがあるためです。後述の理由で、両曲を聴いている時間がないということもあるのですが……。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番
ニコラス・アルトシュテット(チェロ)
カンマーアカデミー・ポツダム
ミヒャエル・ザンデルリング(指揮)
2008年12月14-16日

ニコラ・アルトシュテットは、2010年にクレディ・スイス・ヤング・アーティスト賞を受賞、期待のドイツ・フランス系チェリストです。
M.ザンデルリンク指揮によるオーケストラとアルトシュテットは、きびきびとしたキレのよい演奏を聴かせますが、独奏を持ち上げない録音のせいもあり、チェロは控えめで線が細い印象があります。第1楽章終わりのカデンツァは現代音楽みたいでユニークですが、違和感が残ります。第2楽章はノンヴィブラートの弱音による素っ気ない表情が面白く、このチェリストの個性を強く感じさせます。第3楽章はスピード感があり、鮮やかなもので、一気に聴かせます。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
スティーヴン・イッサーリス(チェロ)
ヨーロッパ室内管弦楽団
ロジャー・ノリントン(指揮)
1996年2月
ロンドン、ワトフォード,コロセウム
【お薦め】
イギリス生まれのスティーヴン・イッサーリスは、ガット弦を用いた1745年製ガダニーニによる個性的な音色が魅力のチェリストです。
ノリントンが指揮するヨーロッパ室内管の演奏は奇をてらったところのない誠にオーソドックスな好演で安心します。そこにイッサリースの豊かな低音を効かせたチェロが颯爽と登場、朗々とメロディを歌います。木の温もりを感じさせる楽器の音色が心地よく、カデンツァも楽器の特長を生かしたものとなっています。第2楽章もよく歌うチェロで、デリケートなニュアンスに富んでおり、美しい音色と相まって自然と耳を傾けさせるものです。第3楽章は意外にも落ち着いたテンポで曲を彫琢し尽くそうとしている感じで、細やかな表情づけが心憎いくらいですし、この速度でも十分難しい楽章であるいことがわかります。
なお、イッサーリスにはドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメンを指揮した再録音(2016年9月25-27日)があるのですが、そちらは未聴です。

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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番
岩 崎  洸(チェロ)
ポーランド室内管弦楽団
フォルカー・シュミット=ゲルテンバッハ (指揮)
1990年11月
埼玉
1960年に日本音楽コンクール第1位・特賞、桐朋学園高校を経、ジュリアード音楽院に留学後、世界中で活躍し続けてきた岩崎洸による演奏です。
どこかのんびりとしているポーランド室内管ですが、明るい解放感のある演奏です。岩洸のチェロは立派です。低音から高音までむらのない均質な音色に誠実で真摯な解釈は好感がもて、スケール感こそない(録音のせいもあり、こじんまりとまとまっているように聴こえる)ものの、安心してハイドンの音楽に浸ることができます。カデンツァも控えめで短くあっさりと終えています。第2楽章も穏やかで、木陰でそよぐ風を楽しんでいる趣。第3楽章はオーケストラの引き締まった演奏であり、チェロも渋めですがノリが良くなってきたようで堅実な技巧によって充実した演奏を聴かせてくれます。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1・2・4番
ゴーティエ・カプソン(チェロ)
マーラー・チェンバー・オーケストラ
ダニエル・ハーディング(指揮)
2002年5月・6月

カプソン兄弟の弟の方、ゴーティエのチェロです。ジャケット画像が若いですね。通奏低音付き・両翼配置・少数精鋭のマーラー室内管の軽快なオーケストラに続き、颯爽とチェロが登場します。ピリオドっぽい演奏で、素の美しさが出ています。スケールの大きさは感じませんが、オーケストラとのバランスに優れ、まとまりのよい演奏であり、室内楽的な美しさがあります。逆に、ピリオド・スタイルは苦手という人は物足りなさを感じるでしょう。第2楽章が薄味なのと、第3楽章が若干精彩を欠いているに思われたので無印です。第3楽章にははち切れんばかりのエネルギーを期待したいのですが、独奏もオケも小ぎれいにまとめたという印象が残ります。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番
アンヌ・ガスティネル(チェロ)
モスクワ・ソロイスツ
ユーリ・バシュメット(指揮)
1998年5月
モナコ
【お薦め】
ガスティネルは、1971年生まれで4歳でチェロをはじめ、10歳でソロコンサートを開き、15歳でリヨン音楽院で1等、パリ音楽院在籍中にスケヴェニンゲン国際コンクールで優勝したガスティネルは、カザルスが60年間弾いたマテオ・ゴフリッターを貸与されるほどの女性チェリストです。
第1楽章はバシュメット指揮のモスクワ・ソロイスツの充実した響きに勝るとも劣らないガスティネルのコクのある音色が素晴らしいです。やや速めのテンポですが、オケ共々肩で風を切っているような印象があります。第2楽章もやや速めですがガスティネルがなんとも清楚で瑞々しい音楽を聴かせてくれます。第3楽章は軽快なオーケストラに始まり、少し真面目過ぎるような気もしますが、この短い楽章を素晴らしい技巧をもって駆け抜けます。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番他
ソル・ガベッタ(チェロ)
セルジオ・チオメイ(フォルテピアノ)
バーゼル室内管弦楽団
アンドレス・ガベッタ(コンサートマスター)
2008年9月17,19,20日
チューリヒ,アルトシュテッテン教会
【お薦め】
ガベッタは、1981年にフランス系ロシア人の両親の下、アルゼンチンのコルドバ生まれ、1759年ジョヴァンニ・グァダニーニ製作の大変珍しいチェロを弾いているのだそうです。
やや残響の多い録音で艶やかなオーケストラの響きがバロック音楽のようで素敵です。フォルテピアノの音色も花を添えています。ガベッタのチェロは情熱的で力強く雄渾であり伸びやかです。第1楽章ではヴォルフガング・ベッチャーのカデンツァを採用しており、鮮やかな技巧を披露しています。第2楽章も揺蕩うような演奏で聞き惚れているうちに終わります。第3楽章は疾風のようなスピードでガベッタのチェロも疾駆します。個人的にはもう少し荒っぽい演奏が好みなのですが、美しい演奏で素晴らしいと思いました。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
ジャン=ギアン・ケラス(チェロ)
フライブルク・バロック・オーケストラ
ペトラ・ミュレヤンス(指揮)
2003年3月

ピリオド楽器オーケストラであるフライブルク・バロック管との協演ですが、ケラス(フライブルク音大卒)のチェロはあまりそうしたことにこだわらずに自分流を通している感じで、ケラスはあくまでケラス、自由です。もちろん、オーケストラとの協調を十分保った上ででのことですが、この録音でのフライブルク・バロック管はむしろ大人しいくらいです。ピリオドに抵抗がない私でも、この協奏曲の第2楽章をノン・ヴィブラートで弾かれると違和感を覚えないでもないのですが、ケラスのチェロは表情が豊かなので抵抗が少ないほうですね。第3楽章は快速で軽快、ケラスの指がスルスルと動いているのが目に見えるよう。鮮やかなものです。
仏ディアパソン・ドール賞受賞


今週は少なめですが、ここで終わりにします。来週に続きます。
工作をしているので、記事を書いている時間が確保できないのです……。

追記:ジャン=ギアン・ケラス盤を追加しました。

ハイドン チェロ協奏曲の名盤(コ~ハ)

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(前回からの続き)

今宵もハイドンのチェロ協奏曲第1番を中心に聴いてまいります。

YouTubeにアップされているものを適当に拾ってみました。

Haydn Cello Concerto No.1 Moderato
Jacqueline du Pré

Haydn Cello Concerto No.1 Adagio
Jacqueline du Pré 

Haydn Cello Concerto No.1 Allegro Molto
Jacqueline du Pré

Haydn - Cello Concerto No 1 in C major
Mischa Maisky, cello & conductor

Joseph Haydn - Cello Concerto No. 1
Mstislav Rostropovich

前回同様、独奏者名カタカナ表記五十音順でのご紹介となります。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
マルク・コッペイ(チェロ、指揮)
ザグレブ・ソロイスツ(ザグレブ室内合奏団)
2015年2月28日~3月3日
ザグレブ,リジンスキー小ホール
【お薦め】
ザグレブ・ソロイスツは羊腸弦を張ったアンサンブルだそうで(けしてプアではない)古風な雰囲気が何とも言えません。コッペイの音は低音が力強く、その上に張りのある中音域とまろやかな高音域で、格調高さを感じさせるものであり、その表現はやや固さを感じさせるものの、ドラマティックでさえあります。第2楽章も味が濃く、デュナーミクの巾が大きめで豊かな歌を聴かせます。第3楽章は快速の良いテンポ。ザグレブ・ソロイスツが心地よく響く中、コッペイのチェロが太目の音色で大変忙しそうに音を紡いでいく様もは思わず応援したくなる気持ちが湧きます。全体に好演でしたのでお薦めにしたいと思います。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
パヴェル・ゴムツィアコフ(チェロ)
グルベンキアン管弦楽団
エーリク・ヘイデ(コンサートマスター)
【お薦め】
輸入元情報によると、ゴムツィアコフのチェロは、ポルトガル王ルイス1世が所有していたと伝わる銘器「1725年製ストラディヴァリウス」だそうで、リスボン音楽博物館からの持ち出しが厳しく禁じられていたのを、武装警官の警護により録音会場へと運ばせ、レコーディングに使用したのだそうです。保存されていた楽器はよい音が出ないものですが、どうでしょうか。
通奏低音付きのグルベンキアン管が気持ちのよい音を出しています。1975年ロシア生まれで13歳のときに若い音楽家のための全ロシアコンクール第1位となったゴムツィアコフは、銘器の豊かな響きを駆使して過不足のない表現を繰り広げることに努めているようです。カデンツァの短さからして謙虚な人柄なのかもしれません。第2楽章も細心の注意を払った精緻かつ真摯な表現が心を打ちます。第3楽章もゴムツィアコフはよく考え抜いて演奏していると思います。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番
クリストフ・コワン(チェロ)
エンシェント室内管弦楽団
クリストファー・ホグウッド(指揮)
1982年

クリストフ・コワンは、古楽チェロの第一人者ということで、この演奏は独奏・オケ共にピリオド楽器・奏法による演奏ということになります。オケは思ったほどプアな響きではなく、華やかで典雅という表現が似合います。ヘンデルの曲を聴いているかのよう。独奏チェロもそれとよく合ったものなのですが、後に登場するヴィルトゥオーゾ達の演奏に比べると、か細くひ弱に聴こえます。そこが好き嫌いの分かれ道で、ピリオドを許容できる人には魅力的かもしれませんが、そうでない人には耐えがたい時間となるかもしれません。私にはオーケストラは素敵だけれど、独奏は物足りなく感じました。これもこの時代のひとつの代表的な録音なのでしょうけれど……。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
ハインリヒ・シフ(チェロ)
アカデミー室内管弦楽団
ネヴィル・マリナー(指揮)
1987年1月
ロンドン,セント・ジョンズ・スミス・スクエア

チェロも指揮もオケも安心して聴けそうな顔ぶれです。チェロは1951年生まれのオーストリアの名チェリスト、ハインリヒ・シフです。マリナーの指揮は手慣れたものでハイドンの音楽の陽気さと気品をよく伝えています。シフも同様で、録音のせいかややか細く聴こることもありますが、マリナーの絶妙なサポートのせいもあり、品のある美しいチェロとなっています。もう少し録音がシフを助けてあげられたらずいぶん印象が変わったでしょう。そういう意味では第2楽章がソロとオケのバランスの取れた演奏に仕上がっていました。第3楽章も悪くはないのだけれど、シフのチェロが優美過ぎ、疾風怒濤で演奏してほしいという私の欲求を満たしてはくれませんでした。そのような安っぽい感性の持ち主でなければ、この演奏を楽しむことができるでしょう。チェロ協奏曲第2番のほうがシフには合っているかもしれません。


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ハイドン:チェロ協奏曲第2番他
モーリス・ジャンドロン(チェロ)
パブロ・カザルス(指揮)
コンセール・ラムルー管弦楽団
1960年
【お薦め】
1920年生まれのフランスの名手シャンドロンが、カザルスの指揮で演奏しています。第2番のみなので、それを聴くことにします。
表現が豊かなカザルスの指揮に、ラムルー管がお洒落な雰囲気を醸し出しています。チェロも素晴らしいと思います。微妙な表情づけに富み、気品があり、自由にのびのびと歌っています。テクニックも万全・鮮やかで、カザルスの前でもちっとも萎縮していません。このような素晴らしい演奏で聴くと、やっぱり第2番は名曲だと感じます。
ただ、録音は残念ながらモノラルで、これはステレオで聴きたかったです。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番
ヤーノシュ・シュタルケル(チェロ)
スコットランド室内管弦楽団
ジェラード・シュウォーツ(指揮)
1987年・1988年
エディンバラ,クイーンズ・ホール
【お薦め】
1950年に録音したコダーイの無伴奏チェロ・ソナタでその名を世界に知らしめたシュタルケルの演奏です。田舎の結婚式のようなのんびりムードの管弦楽で始まりますが、シュタルケルの独奏が始まると思わず姿勢を正したくなります。私のような素人が言うのもなんですが、巧いですね、このチェロは! シュタルケルがこの難しい曲を「いともたやすく」弾いています。これでもう少しバックのオーケストラがきりっと冴えた演奏を聴かせてくれたらよかったのですが、これはこれで雰囲気があると言うことにしましょう。第1楽章のカデンツァも短いながら技巧を散りばめたものになっています。第2楽章は少し力が入りすぎていて、私はもう少し柔和なチェロが好みですが、しかし、立派なチェロです。第3楽章も微笑まない至極真面目なチェロですが、これだけ聴かせてくれればもう十分です。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番。第2番他
鈴木秀美(チェロ)
ラ・プティット・バンド
シギスヴァルト・クイケン(指揮)
1998年
【お薦め】
シギスヴァルトの兄ヴィーラントのバロック・チェロではなく鈴木秀美の独奏です。ヘンデルの音楽のような、ピリオド楽器オーケストラの響きの中、威圧感のない柔らかな音で鈴木秀美のチェロが登場します。チェロの音量は控えめで、オーケストラの一部のように聴こえます。チェロvsオーケストラには聴こえず、オケに埋没してしまうときもあるので、チェロ協奏曲として聴きたい人には物足りなく思えるでしょう。ただ、ラ・プティット・バンドはピリオド楽器オーケストラにありがちな、ふにゃ~っとしたプアな響きではないので、抵抗感は少ないと思います。第2楽章は美しいです。特に鈴木秀美の香気を放つチェロが素晴らしい。快速のテンポの第3楽章は鈴木秀美のチェロが唖然とするくらい巧いです。
なお、鈴木秀美の指揮&チェロ、オーケストラ・リベラ・クラシカによる2013年6月8日の録音は未聴で、そちらも是非聴いてみたいものです。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番。第2番他
ダニエル・ミュラー=ショット(チェロ)
オーストリア室内楽団
リチャード・トネッティ(指揮)
2001年10月18-22日
ノンマウスシャー,ニンバス・コンサートホール
【決定盤】
1976年11月、ドイツ・ミュンヘン生まれのダニエル・ミュラー=ショットは、同世代で最も優れたチェリストと言われています。第1楽章、チェロが登場するとすぐに心惹かれるものを感じます。このチェロもとても巧く、音がとってもきれいで、低音から高音までムラがなく、張りと艶があります。音楽性も豊かでノリの良さを感じさせます。第2楽章も音の美しさはそのままで、口笛を吹くかのように楽器と一体となって歌い込んでいます。第3楽章も完璧と言いたいくらいの技巧の冴えを聴かせ、唖然としているうちに終わります。もうこれは【決定盤】にしてもいいくらい。この先、もっと優れた演奏が出てくるかもしれませんが、文句なしのお薦め盤です。
それにしても、先の鈴木秀美盤を録音時期が3年しか違わないのに、演奏内容がこれほどまでに違うというのは驚きです。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番
ハンナ・チャン(チェロ)
シュターツカペレ・ドレスデン
ジュゼッペ・シノーポリ(指揮)
1997年9月
【お薦め】
1982年韓国生まれで、1994年にロストロポーヴィチ国際チェロ・コンベンションにおいて満場一致で第1位および現代音楽特別賞を受賞し、翌年にEMIと契約したハンナ・チャンの演奏です。チャンのデビューは、1995年のシノーポリ指揮、シュターツカペレ・ドレスデンのソウル公演で、同じ組み合わせによるハイドンです。16歳のハンナ・チャンによる演奏は、一音一音を丹念に紡いでいく印象があり、技巧をひけらかすことがなく、常に抑制が効いていて、一見地味に聴こえるかもしれませんが、非凡な音楽性を感じます。聴いていて実に気持ちのよいチェロ。バックのシュターツカペレ・ドレスデンも美しいサウンドを聴かせます。第2楽章も弱音主体の美しい歌。第3楽章はあくまで独奏優先の、シノーポリの指揮の絶妙なサポートのもと、大言壮語しない、内面が充実した演奏です。(動画を貼り付けようと思いましたが、逆効果と思い止めました。聴くだけのほうがよいと思います。)


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番
ロバート・デメイン(チェロ)
モラヴィア・フィルハーモニー管弦楽団
ジョエル・エリック・スーベン(指揮)
2009年9月8・9日
Reduta Concert Hall Orchestra, Olomouc, Czech Republic

ロバート・デメインは、1969年生まれのアメリカ合衆国オクラホマ州オクラホマシティ出身のチェリストです。それ以外のことはわかりません。指揮者とオーケストラについても知らないです。偏見をもたずに聴けてよいかもしれません。第1楽章が清々しく始まるのはいつものこと、チェロも堅実な技術による過不足のない表現で好感がもてます。もうこれで十分ではないかと思わせる演奏です。ただ、第2楽章を聴いていると、デメインのチェロに神経質な響きがあり、のどに小骨が刺さったような感じに、抵抗感を覚えなくもありません。こういうところがメジャーになれない理由なのかも。でも、カデンツァはなかなか美しくてはっとするところがありました。第3楽章はなノリがよい演奏で楽しめました。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
アレクサンドル・ドブリュ(チェロ)
Arpeggio Chamber Orchestra
ジルベール・ブーシェ(指揮)

ベルギー出身のアレクサンドル・ドブリュ(1976年~)は、「ルガーノ音楽祭」のライヴ録音で、マルタ・アルゲリッチ他によるサン=サーンス「動物の謝肉祭」のチェロを弾いていた人です。ジャケット画像の癖のありそうな顔がなにかやってくれそうな感じを出しています。聴いてみると、男っぽく逞しい、押し出しの強いチェロです。でも、高域が少しヒステリックに鳴っているところ、ガリガリ弾いてしまうところが美しくなく、なかなか雄弁なチェロだけにちょっと惜しいかな。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
ポール・トルトゥリエ(チェロ)
ヴュルテンベルク=ハイルブロン室内管弦楽団
イェルク・フェルバー(指揮)
1981年7月6-8日
ハイルブロン

フランスを代表するチェリストのひとりであるトルトゥリエ(1914-1990)の演奏です。一音一音を丹念に弾いている感じのチェロ。楽器の存在を忘れて音楽のみを感じさせます。とはいえ、トルトゥリエの演奏には尊厳を覚え、拝聴させていただく感じとなります。第2楽章も大きな揺り籠に乗せられて揺られている気分であり、抜群の安定感があります。ただ、第3楽章になると技巧の衰えのようなものを感じさせ、録音時67歳のトルトゥリエの限界が聴こえてしまうのが残念。もう少し若い頃の録音を聴くべきでした。


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ハイドン:チェロ協奏曲第2番他
アンドレ・ナヴァラ(チェロ)
ザルツブルク・モーツァルテウム・カメラータ・アカデミカ
ベルンハルト・パウムガルトナー(指揮)
1959年6月
ザルツブルグ
【お薦め】
アンドレ・ナヴァラ(1911年-1988年)は、フランスのチェリストで、フルニエ、トルトゥリエ、ジャンドロンと並ぶ、フランスのチェロ楽派の偉大な伝統の継承者だそそうです。ハイドンの協奏曲第2番を聴いてみます。最初の管弦楽は演奏団名からしてモーツァルトを連想させる演奏ですがもちろん悪くありません。チェロはもうなんと言うか、自分の音色を持っていて、音楽に対する揺るぎない自信を感じさせるチェロです。巨匠の名人芸を聴くような趣があり、背筋がぴんと伸びた演奏。カデンツァでさえも格調の高さを感じさせます。第2楽章も同様で、こんなに立派な演奏はなかなか聴けません。第3楽章はその個性的な音色と確実な技巧をもって品格のある音楽を聴かせてくれます。なお、ナヴァラのハイドン録音は他にもいろいろあります。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番他
クレメンス・ハーゲン(チェロ)
/1698年製アントニオ・ストラディヴァリウス)
1B1(室内管弦楽団)
ヤン・ビョーランゲル(音楽監督)
2016年2月15-17日
スタヴァンゲル・コンサートホール
【お薦め】
モーツァルト:協奏交響曲変ホ長調K.634で【お薦め】にしたCDの再登場です。チェロ独奏は、私が好きなハーゲン四重奏団の弟クレメンスで期待がもてる録音です。ヘンデルとモーツァルトを足して2で割ったような1B1の爽やかな響きで始まります。クレメンス・ハーゲンのソロは、このオケの響きに対してちょうどよい塩梅で、中庸の美を表出しています。低音から高音域まで滑らかで美しい音色、テクニックも申し分ありません。自己主張の強いチェロをお望みの方には物足りないかもしれませんが、私にはこれで十分です。第2楽章もしずしずと音楽が進行していき、清楚な美しさがあります。第3楽章は第1楽章と同じことが言え、もう少しダイナミックであったらと思わないでもありませんが、独奏・オケともに端正な音楽づくりには好感がもてました。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
マット・ハイモヴィッツ(チェロ)
Orchestre de Bretagne Orchestra
シュテファン・ザンデルリング(指揮)

マット・ハイモヴィッツ(1970年-)は、イスラエル出身のチェロ奏者で、Deutsche GrammophonからもCD(アンドルー・デイヴィス指揮イギリス室内管弦楽団の1989年3月録音の第1番他)が発売されていました。指揮はクルト・ザンデルリングの次男であるシュテファンで、通奏低音付きの(ピリオドっぽくない)オーケストラによります。第1楽章は、オケとチェロのバランスがよく、録音の加減か、チェロが僅かに細身に聴こえますが、まずは上々といったところです。第2楽章はぽつりぽつりと語るような朴訥なチェロがユニーク、細やかな表情づけが特徴の独奏です。第3楽章も少人数アンサンブルによる小回りの良さが効いており、響きの厚みやスケール感は望むべくもありませんが、気持ちの良い音楽を聴かせてくれます。終焉後に拍手が入ります。

(次回に続きます。)


ハイドン チェロ協奏曲の名盤(ハ~マ)

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前回の続きです。

YouTubeでチェロ協奏曲第2番の演奏をいくつか拾ってみました。

Haydn-Cello Concerto No.2-part 1 of 3 (HD)
Rostropovich

Haydn-Cello Concerto No.2-part 2 of 3 (HD)
Rostropovich

Haydn-Cello Concerto No.2-part 3 of 3 (HD)
Rostropovich

Haydn Cello Concerto No.2
Steven Isserlis
Sir Roger Norrington, conductor
The Chamber Orchestra of Europe

Haydn Cello Concerto in D major, Hob VIIb: 2
Jean Guihen Queyras
Petra Müllejans, director
Freiburger Barockorchester



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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番
リン・ハレル(チェロ)
アカデミー室内管弦楽団
ネヴィル・マリナー(指揮)
1981年10月
ロンドン,アビー・ロード第1スタジオ

1944年にニューヨークで生まれたリン・ハレルです。第1楽章はまずマリナー指揮アカデミー室内管がハイドンに理想的な響きです。ハレルのチェロもスケールがやや小さめで、もう少し大きな音が出ないものかと思いますが、朗々と旋律を歌わせて良い感じです。問題は長めのカデンツァです。途中まではいいのですが、そこから先は悪ノリに聴こえなくもありません。第2楽章は濃いめの味付けで、第1楽章のような不満はなく、第3楽章も快活なマリナー指揮とオケの絶妙なサポートのもと、ハレルも持てる力を全て注いでいます。


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ハイドン:チェロ協奏曲第2番他
リン・ハレル(チェロ、指揮)
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
1988年6月
アムステルダム

レーベルがEMIからDECCAに変わりました。この録音はチェロ協奏曲第2番で聴きます。第1楽章のオーケストラは、ぐっと引き締まってきびきびとしています。独奏チェロは弾くのが楽しくてたまらないといった感じです。それにしても第1番といい、この第2番といい、まるでモーツァルトの曲のようです。いや、モーツァルトがハイドンから影響を受けたのか。このような演奏を聴いていると、そのようなことをつい考えてしまいます。第2楽章もハレルは自分の思うままに弾いており、技術の限りを尽くしているように思えます。アシュケナージ、パールマンとのトリオでは地味なイメージがあったハレルですが、第3楽章は天衣無縫・天真爛漫な演奏を繰り広げています。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番
アンナー・ビルスマ(チェロ)
ターフェルムジーク
ジーン・ラモン(指揮)
1989年
【決定盤】
バロック・チェロの先駆者であり世界的な名手であるビルスマのハイドンです。第1楽章、ビルスマはなんと生き生きとしているのでしょう。まるで人の声のように歌うチェロであり、また、シャープなテクニックにより難しそうな箇所も難なくクリアしてみせます。第2楽章もモダン・チェロに慣れた耳には別の楽器のように聴こえますが、ビルスマは自分の身体の一部のように楽器を扱って歌わせています。ひと際速く演奏される第3楽章は、再びビルスマの卓越した技巧に驚かされます。ラモンが指揮するターフェルムジークは、ピリオド楽器オーケストラにしてはずいぶん華やかで刺激的な演奏をしますが、まぁこれぐらいやってくれたほうが面白いです。
バロック・チェロを用いた演奏では一番と思いますので【決定盤】を付けたいと思います。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
クヴェリーヌ・フィエルセン(チェロ)
キリーヌ・フィールセン
コンバッティメント・コンソート・アムステルダム
ヤン・ヴィレム・デ・フリエンド(指揮)
2006年2月8-10日
アムステルダム,Waalse Kerk

1972年アムステルダム生まれのフィエルセンは、ロストロポーヴィチ国際コンクール、ヘルシンキ国際チェロ・コンクール、チャイコフスキー国際コンクール等への入賞経歴をもちます。ピリオド・オーケストラとの協演ですが、先のターフェルムジークと比べるとオケはずいぶん洗練されています。フィエルセンのチェロは元気溌剌といった感じで、その若々しさ、瑞々しさに魅了されます。第2楽章は素朴な歌い口が良く、このスタイルならではのメリットを生かした演奏となっています。第3楽章はワクワクさせてくれるオーケストラで始まり、再び健康的なフィエルセンのチェロを聴くことができます。ただし、このCDのメインはハイドンの2つの協奏曲より、交響曲第60番「うかつ者」なのかもしれません。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
ヤン・フォーグラー(チェロ)
ヴィルトゥオージ・ザクソニエ
ルートヴィヒ・ギュトラー(指揮)
2000年
【お薦め】
1964年生まれのヤン・フォーグラーは、19歳でドレスデン・シュターツカペレの首席となり、1997年の退団後はソリストとして活躍しています。そのチェロは期待以上です。独奏・オケ共にピリオドではないのですが、スタイルより演奏がいかに重要かということを思い知らされます。それほどフォーグラーのチェロは完璧に近いと思います。美しい音で奏でられる第2楽章も単調に陥らぬよう、変化をつけて演奏しており、素晴らしいです。第3楽章はチェロが本当に楽しそうな表情をしていて、このチェロは笑顔が目に浮かぶようです。フォーグラーのチェロを録音が克明に捉えているのも嬉しいです。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
ペーター・ブルーンス (チェロ)
ライプツィヒ・メンデルスゾーン室内管弦楽団
【お薦め】
独奏者や録音年については調べてもわからなかったのですが、ブルーンスはライプツィヒ・メンデルスゾーン室内管弦楽団の芸術監督なので、弾き振りなのかもしれません。通奏低音付きの、きびきびとしたオーケストラに乗ってブルーンスのチェロが颯爽と登場します。う~ん、この演奏も思ったより悪くない、いや、なかなかいいんじゃないかと思わせるところがあります。チェロの屈託のなさ、大らかな音を聴いていると、嫌なことも忘れてしまします。第2楽章はすっきりした速めテンポですが、このぐらいのほうが両端楽章とのバランスが良いと思います。第3楽章は予想したとおりの速いテンポですが、味わい深い演奏です。知らないからと言って食わず嫌いはいけないと改めて思った演奏でした。


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ハイドン:チェロ協奏曲第2番
ピエール・フルニエ(チェロ)
シュトゥットガルト室内管弦楽団
カール・ミュンヒンガー(指揮)
1953年
ジュネーヴ,ヴィクトリア・ホール
【お薦め】
今さらですが、フルニエは1906年パリに生まれたチェリストで「チェロの貴公子」と呼ばれた人です。1923年にパリ音楽院を首席で卒業し、その後はエコール・ノルマル音楽院教授、パリ音楽院教授も務め、二人目の奥さんは日本人です。室内楽では(カザルスが抜けた後の)ティボー、コルトーとピアノ・トリオを組んでいました。つまり、フランス最高のチェリストであったということです。
オケはミュンヒンガーが手兵のシュトゥットガルト室内管弦楽団を指揮していますから、悪かろうはずがありません。ただし、私が聴いたのは1953年のモノラル録音で、曲はこの時代ですから(第1番は1961年に筆写譜が発見されたので)もちろん第2番です。第1楽章は馥郁たる香りを漂わせるオーケストラに始まり、フルニエの香気を放つ高貴な、それでいて人懐っこいチェロがなんとも言えません。全体にロマンティックな解釈で、ハイドンよりもう少し後の時代、例えばシューベルトを連想させられます。第2楽章も夢見るような美しさがあり、蕩けてしまいそうです。これがハイドンの曲かと驚かされますが、とっても良い演奏です。ここでのフルニエはチェロをヴァイオリンのように操りって自在な音楽を奏で、聴き手はひたすら聴き惚れるしかありません。第3楽章も自由に飛翔する音楽となっています。素晴らしい音楽の時間でした。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
ピエール・フルニエ(チェロ)
ルツェルン音楽祭管弦楽団
ルドルフ・バウムガルトナー(指揮)
1967年・1964年12月
チューリッヒ
【決定盤】
ミュンヒンガー盤を聴いた後でこちらの第2番を聴くと録音の進化に目から鱗が落ちます。ステレオ録音ってすごいです。伴奏は私が好きなバウムガルトナー/ルツェルン音楽祭管弦楽団で、素晴らしくて当たり前という気さえします。第2番から聴き始めたのですが、基本的にフルニエの演奏は変わっておらず、美しさはそのままに、録音の向上によりチェロの音色が克明に捉えられ、フルニエの演奏から受ける気品、表現の繊細さ、むせぶような美音をきちんと聴きとることができます。
第1番第1楽章は格調の高さを感じさせるオーケストラ演奏に、勢いのあるチェロが加わります。フルニエは元気いっぱいで、思う存分楽器を鳴らしています。とはいえ、品のある演奏なのは毎度のことで、オケ共々音楽がちっとも安っぽくならないのはさすがです。第2楽章は大らかなオーケストラに始まり、豊かな音色を生かして屈託のない歌を聴かせるチェロが心地良いです。第3楽章は活発で活動的、吹っ切れたようなフルニエのチェロで、ひたすら邁進しているという感じ。ハイドンらしい疾風怒濤さがよく出ています。大満足の第1番でした。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番、他
ジャクリーヌ・デュ・プレ(チェロ)
イギリス室内管弦楽団
ダニエル・バレンボイム(指揮)
1967年
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ハイドン:チェロ協奏曲第2番、他
ジャクリーヌ・デュ・プレ(チェロ)
ロンドン交響楽団
ジョン・バルビローリ(指揮)
1967年
【お薦め】
ジャクリーヌ・デュ・プレという姓名は、「デュ・プレ」が姓なので、前回の「コ~ハ」に入れるべきでした。ジャクリーヌの略歴では1966年末にダニエル・バレンボイムと21歳で結婚とありますから、その翌年のこの録音は最も幸せであった頃でしょうか(ジャクリーヌの体調不良は1971年から始まります。この録音時はベストであったのかも)。
第1番第1楽章は、弦の人数が多い厚めのオーケストラで、やや速めの印象。独奏は雄渾で太い音色、男性よりも男っぽいチェロで、スケール感は雄大、思いの丈をそのまま音化しており、これだけ感情移入された演奏もないでしょう。ハ長調でも笑わず、短調に転じるとますます悲痛さを増す悲劇性の強い演奏です。9分31秒。第2楽章も弦が厚く、時代を感じさせます。この楽章はヘ長調ですが、どこか不安を感じさせるチェロ、「私には安らぎなんてない」と言っているようです。この楽章も感情移入が半端ではありません。カデンツァの孤独感・寂寥感が身に沁みます。9分43秒。第3楽章アレグロ・モルトはバレンボイムの指揮がダイナミックで直線的です。独奏は豪壮な演奏ではなく、抑制されていて控えめ気味です。彼女の技巧をもってすれば容易いのでしょうけれど、あえて技術を全面に押し出さず、音量も控えめでした。録音がそのようなコンセプトなのか、楽器の特性なのか。しかし、すごい演奏であることに変わりありません。6分50秒。
第2番第1楽章は、バルビローリ指揮らしい抒情的なオーケストラで始まります。テンポはやや遅め。チェロも第1番の時とは打って変わって優しく繊細です。指揮者に従って、激情を抑制し、平穏・静かな心のうちで音楽を紡ぎだしているかのよう。しかし、平板な表情ではなく、その中には静かに情念が渦巻いているように聴こえます。
海面はあくまで静かな海なのでした。16分41秒(!)。第2楽章も静かな音楽です。独奏も指揮もハイドンの音楽を慈しんで演奏しています。チェロの繊細さは比類がありませんが、表向きは淡々と時が過ぎていくという印象、楽章全体の印象としては静謐のうちに終わったという感じです。7分9秒。雲が風で払われ、晴れ間がのぞいたような第3楽章ですが、チェロは大言壮語せず、あくまで落ち着いています。演奏ノイズが聴こえるぐらいだからマイクが楽器に近いのでしょうから、ジャクリーヌが努めて小さい音で弾こうとしているのがわかります。6分2秒。第2番の指揮がバルビローリでなければいけあなかった理由がわかります。逆に第1番はバレンボイムがふさわしかったのでしょう。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番
ズイル・ベイリー(チェロ)
フィルハーモニア管弦楽団
ロビン・オニール(指揮)
2015年11月28-30日
Trinity United Reformed Church, Mansel Road, London

このチェロ奏者について詳しいことはわからなかったのですが「DELOSレーベルでお馴染みの(アメリカの)チェロの才人」なのだそうです。第1楽章は平凡な管弦楽に始まります。チェロは悪くありません。太い美しい音色でからりと爽やかに歌い上げています。ただ、先述のフルニエを聴いた直後なので、どうしてもそれとの比較になってしまい、ベイリーに不利です。普通に聴こえてしまうのです。激情を垣間見せるカデンツァが最もこの人らしい演奏なのかもしれません。第2楽章は外連味もなく、ハイドンの音楽の美しさを優しく丁寧に引き出しており、好印象です。第3楽章は抑制が効きすぎ、あまり楽しくありません。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番他
ヴォルフガング・ベッチャー(チェロ)
ザルツブルク・カメラータ・アカデミア
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(指揮)
1973年10月19日
ザルツブルク,ORFスタジオ
【お薦め】
ベッチャーは、1935年ベルリン生まれ、ベルリン・フィルの首席チェリストを1958年から1976年まで務めた人です。現在のベルリン・フィルのチェロ・セクションの半数はベッチャーに師事しているのだとか。指揮はあのディースカウです。第1楽章は爽やかな管弦楽で開始、ベッチャーの独奏は確かにベルリン・フィルの音がします。濃厚なチョコレートのような、そんな味わいのある音色で、背筋がぴんと伸びている感じです。これはチェロという楽器を知り尽くした人ならではの演奏でしょう、実に気持ちが良い音です。多彩な音色を駆使した変化に富んだ表現には唸らざるを得ませんし、何より品があります。第2楽章は遅めのテンポを採用し、ゆったりと滑らかに歌っています。第3楽章はベッチャーの技巧が冴え、鮮やかに駆け抜けます。ディースカウの指揮が少々大味な感じがしますが、これは文句なしの【お薦め】でしょう。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番
ミクローシュ・ペレーニ(チェロ)
リスト室内管弦楽団
ヤーノシュ・ローラ(指揮)
1979年
【お薦め】
ハンガリーのチェロ奏者であるペレーニのハイドンです。
第1番の第1楽章は元気のよいオーケストラで始まり、これに負けないくらい豪壮なペレーニのチェロです。少し聴いただけでこれは【お薦め】であるという確証を得ました。そしてこの曲が難しい曲だということを改めて教えてくれる演奏です。ペレーニが弾けていないというわけではなく、難しい箇所を解きほぐし、きちんと整理して演奏してくれるので、そこが難所だということがわかるのです。常にスケールが大きく、惚れ惚れとするくらい男前のチェロです。カデンツァも力がこもっています。第2楽章も毛書体の味わいで、太い筆だけれども繊細さにも欠けていないという感じです。ただ、録音が独奏を大きめに拾っているからバランスが取れているのですが、バックのオーケストラが少々煩く聴こえるときがあるのが残念です。第3楽章は通常よりやや速めのテンポですが、ペレーニのチェロは揺るぎなく、地に足がついた力強い技巧で難なくこなしていきます。疾風怒濤のハイドンを聴く醍醐味と言えましょう。ただ、このようなスタイルは第2番より第1番のほうが合っているとも思いました。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
マクシミリアン・ホルヌング(チェロ)
カンマーアカデミー・ポツダム
アントネッロ・マナコルダ(指揮) 
2014年3月
ベルリン,イエス・キリスト教会

21歳で難関として知られるドイツ音楽コンクールで優勝し、同世代のチェリストの中で最も将来を嘱望されているという、1986年アウクスブルク生まれのマキシミリアンです。第1楽章は陰影に富んだ小編成のオーケストラに始まり、その延長線上にあるような独奏です。オーケストラの一パートであるかようなソロで、溶け込んでいますし、そのような録音となっています。つまり、チェロが出しゃばっていないということで、独奏vsオケの構図を思い描いて聴くと肩透かしを食らいます。ホルヌングの目指したものはオーケストラとの融合なのでしょう。第2楽章も美しい演奏ですが、B.G.M.時に聴こえてしまうのも事実。第3楽章は速いテンポですが、この速度で演奏できるオーケストラも大したものです。独奏チェロも卓越した技巧を駆使して鮮やかな演奏を行っています。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番
ヨーヨー・マ(チェロ)
イギリス室内管弦楽団
ホセ・ルイス・ガルシア(指揮)
1979年10月

ヨーヨー・マは、1955年10月7日生まれですから、今年で64歳になるのですね。私の中では永遠の青年チェリストですが、この録音では既に40歳になっています。せっかくのヨーヨー・マなのでチェロをもっとよく聴きたいのですが、独奏を控えめに抑えている録音なのが残念です。これもオケとソロの自然なバランスなのかもしれませんが、音量を上げて聴かなければなりません。第1楽章はめちゃくちゃ巧いです。難しそうな箇所も涼しい顔をして難なく通り過ぎていきます。第2楽章も音楽は美しく流れていき、それだけで十分なのですが、もっと他にないのかなという思いもします。第3楽章は再びヨーヨー・マの巧さに酔いしれることになります。魔法のチェロです。ヨーヨー・マで聴くと少しもこの曲が難しく聴こえてきません。
ハイドンのチェロ協奏曲について書くために、予習用にこの演奏を何度も聴いたのですが、他の演奏を聴いた後だと、聴き終えて心に残るものが少ないようにも思われました。今回の記事の中では、例えばヴォルフガング・ベッチャーの演奏が素晴らしく、あれほどの感動はこの演奏では得られなかったのです。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
ミッシャ・マイスキー(チェロ,指揮)
ヨーロッパ室内管弦楽団
1986年10月
ウィーン,コンツェルトハウス,モーツァルトザール 

1948年ラトヴィア生まれの人気チェリスト、ミッシャ・マイスキーの弾き振りです。
ヨーヨー・マ盤では録音に苦言を呈しましたが、これは独奏とオーケストラのバランスがよく合格点です。そのチェロですが、いくらか速めのテンポで端正に意外とすいすい弾き進める演奏です。この曲の古典的プロポーションを大切にした演奏ということでしょうか。逆に、第2楽章はマイスキーらしい演奏となっています。感情の揺れ巾が大きくなり、デュナーミクを工夫するなどして表現の奥行も深くしているようです。第3楽章はヨーロッパ室内管の疾風怒濤の演奏が気持ちよいです。独奏チェロは、難所が辛そうに聴こえ、あまり余裕が感じられず、音楽を感動的に聴かせるところにまでは到達していないように思われます。

次回(最終回)に続きます。

ハイドン チェロ協奏曲の名盤(マ~ワ)

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最終回です。
これまで同様、主としてチェロ協奏曲第1番で聴き比べをしています。


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ハイドン:チェロ協奏曲第2番他
アルベルト・マルトス(チェロ)
グラナダ市管弦楽団
アントニ・ロス=マルバ(指揮)
2016年6月
グラナダ,オーディトリアム「マヌエル・デ・ファリャ」

スペインのマルトス兄弟の弟(1981年生まれ)のほうです。
第2番を聴きましたが、第1楽章は通奏低音付き(←必要か?)のオーケストラの重々しい音で始まりま、独奏も同じような傾向で粘り気味、中途半端にHIPな感じです。普通のオーケストラと現代の奏法で演奏すればよいのにと思いますが、録音してしまったものは仕方がありません。第2楽章も不思議な演奏で、こういう曲だったっけ?と首を傾げたくなるほどこってりしています。その重たさは第3楽章になっても変わらずで、ただひとつ確かなのは、ハイドンのチェロ協奏曲第2番は名曲であったということです。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
アントニオ・メネセス(チェロ、指揮)
ノーザン・シンフォニア
2009年9月29-30日
イギリス,ニューカッスル,セージ・ゲイツ・ヘッド・ホール

メネセスというと、カラヤン/ベルリン・フィルのブラームスの二重協奏曲やR,シュトラウス「ドン・キホーテ」のチェロ独奏だったということ。その後はあまり名前を見かけませんでしたが、Wikipediaで大発見! メネセスは「もも」という名前の柴犬を飼っているのだそうです。うちと同じじゃないですか!
さて、この演奏ですが、モダン楽器オーケストラによる溌剌とした演奏で一安心、メネセスのチェロも以前と同じで安定した技巧と音色の美しさを備えています。それ以上の何かがあるわけではないけれど、これで十分じゃないかと思わるものがあります。第2楽章も良い演奏です。チェロの高音が僅かにヒステリックに響きますが、気にするほどのことでもないかも。第3楽章は私好みの速めのテンポで、メネセスが若い頃に国際的なコンクールで優勝していたことを思い出させる鮮やかなテクニックは健在でした。最終回の記事なので耳が肥えてしまったため、全体としては【準お薦め】と言ったところでしょうか。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
イェンス=ペーター・マインツ(チェロ)
ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン
トマス・クルーク(指揮)
2007年

マインツはドイツのチェリストで、1993年レナード・ローズ国際チェロ・コンクール第3位、スヘフェニンゲン国際チェロ・コンクール、ドイツ音楽コンクール、そして1994年ミュンヘン国際音楽コンクールで優勝している実力派です。
第1楽章は上々の滑り出しです。マインツのチェロはやや堅さを感じますが、美しい音色と品格の高さを感じさせます。ただ、オーケストラが華やかに響くのに比べ、少し地味かもしれません。質実剛健といったチェロです。第2楽章は独奏・オケ共に淡々とした歩みの中にシンプルな美しさを見出すことができます。第3楽章はとても速く、オーケストラはこれ以上速く演奏できない最速の部類だと思います。このスピードで演奏できるマインツはさすがです。難関で知られるュンヘン国際音楽コンクールの17年ぶりのチェロ部門優勝だけのことはあります。第3楽章だけでも聴く価値はありますよ。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番
トルルス・モルク(チェロ)
ノルウェー室内管弦楽団
アイオナ・ブラウン(指揮)
1991年
【決定盤】
モルクは1961年生まれのノルウェーのチェリストです。
アウフタクトが特長的な冒頭におっと思いますが、典雅な雰囲気がとても良いです。【お薦め】を付ける演奏というのはチェロが弾き始めて数小節で判断できることが多いのですが、この演奏も例外ではありません。良い演奏です。モルクのチェロは中高音が柔らかくて美しく、指揮者の手腕に負うところが大きいのでしょうが、オーケストラとの息もぴったりです。第2楽章もオーケストラがデリケートに音を紡いでいく様がとても見事です。今さらですが、この楽章はいささか単調で長く感じることが少なくないのですが、モルクの感情のこもったチェロが大変素晴らしく、なんて美しい音楽なのだろうと感動してしまいました。すごい演奏です。第3楽章は文字どおり「非常に速く」、単に技術をひけらかすだけの演奏ではなくて、中身の濃い充実した音楽を聴かせてくれます。これは是非聴いていただきたい演奏なので【決定盤】にしたいと思います。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
ウェン=シン・ヤン(チェロ)
ボルツァーノ弦楽アカデミー
ゲオルク・エガー(コンサートマスター)
2010年8月9-13日
レンクムース,フェラインスハウス「ペーター・マイール」

台湾系のウェン=シン・ヤンは1965年生まれで、24歳のときにバイエルン放送交響楽団の首席チェロ奏者となり2004年まで在籍しています。また、1991年のジュネーブ国際音楽コンクールで優勝という経歴の持ち主です。ジャケット画像は意地悪そうな顔をしていますが、根はいい人みたいです。
残響の多い録音会場です。管弦楽は普通というか、平凡な感じ。しかし、チェロは立派な音です。立派な音なのだけれど、名演奏を聴き続けてきた耳には普通に聴こえます。でも第2楽章はなかなかよい感じに仕上がっており、素朴な歌い方が気に入りました。第3楽章はやっぱり多めの残響で興ざめですが、丁寧なヤンのチェロには好感が持てました。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番
クセニヤ・ヤンコヴィッチ(チェロ)
聖ゲオルギエ弦楽合奏団
ペタル・イヴァノヴィチ(指揮)

セルビアのニシュで1958年に生まれたヤンコヴィッチのハイドンで、お客さんの咳が大きく入るライブ収録です。管弦楽もチェロも木の香りがする演奏で、悪くない感じで、難しそうなところでの微妙なテンポの伸び縮みが気になりますが、機械的ではなく感興が豊かということなのでしょう。第2楽章は、細かいことを言うようですが、音程が正確じゃないときがあるのが気になります。それが持ち味と言うこもできるのですが、個人的にそういうのは苦手です。第3楽章は熱演です。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番他
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ)
イギリス室内管弦楽団
ベンジャミン・ブリテン(指揮)
1964年7月
【お薦め】
やっとロストロポーヴィチまでたどり着きました。感慨深いものがあります。このDECCA盤は、1961年にプラハで筆写譜が発見されたチェロ協奏曲第1番の世界初録音なのだそうです。
控えめながら意外にも通奏低音付きのイギリス室内管の演奏に始まりますが、もう少し編成が小さいほうがバランスが良かったかも? この時代だから仕方がない? スケール雄大な独奏を予想していましたが、意外に軽く弾むようなチェロです。ハイドンなので必要以上に重くならないように留意したということでしょうか。とはいえ、そこかしこにロストロポーヴィチならではの豊かな表現力と技巧を聴くことができます。第2楽章も彫りの深いロマンティックな表現です。第3楽章はロストロポーヴィチに期待する演奏内容となっています。いつも不思議に思うのですが、ロストロポーヴィチの技巧は圧倒的なのに、出てくる音は他の名チェリストに比べると、美しさの点で劣るような気がするのです。それを補って余りあるものがあるのですが……。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ、指揮)
アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
アイオナ・ブラウン(リーダー)
1975年11月15-16日
ロンドン,アビー・ロード第1スタジオ
【決定盤】
ライヴ録音まで含めるといったい何種類あるのかわからないロストロポーヴィチのハイドンです。この録音の翌日11月17日から19日までは、ロンドンのヘンリー・ウッド・ホールで映像収録を行っています(DVDで発売)。
イギリス室内管に比べるとアカデミー室内管は編成が小さめで良い響きです。ロストロポーヴィチのチェロも前回の第1楽章は軽妙でしたが、こちらのほうは重心が低く、しっかりと弾かれている感じです。スケール感もあり、ロストロポーヴィチを満喫することができるでしょう。中学生のときに買ったレコードの、あの音色と同じ音をここに聴くことができます。第2楽章は静かに歩む巨人という印象があり、ゆったりと大らかに感情を込めて歌われていきます。第3楽章はアカデミー室内管の鮮烈な響きが好ましく、ロストロポーヴィチの独奏は技巧の切れ味が鋭く、牛刀をもって鶏を割くの感、無きにしも非ずですが、しかし、すごいです。他の【決定盤】では驚きと発見があって、このCDは、この程度は当然と考えてしまいましたが、その完成度の高さは他の追随を許さないものがありますので【決定盤】にしたいと思います。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
ウェンディ・ワーナー(チェロ)
シカゴ・カメラータ
ドロスタン・ホール(指揮)

第4回ロストロポーヴィチ国際コンクールで最優秀賞を受賞したシカゴのチェリスト、ウェンディ・ワーナーのハイドンです。
第1楽章は、気のせいか、オーケストラがイマイチのような気がします。ワーナーのチェロは丁寧に弾いているのはわかるのですが、ぎこちない感じがして落ち着きません。難しい箇所では音色が痩せ気味で、音程も甘く、聴き進めるにしたがってこれはまいったなという気持ちが強くなってきます。長所を発揮できたのはカデンツァで、ここだけ聴く分には合格点です。第2楽章は中途半端なピリオド奏法が気になるオーケストラに始まりますが、チェロ独奏は第1楽章のような物足りなさはあまり感じません。丹念に楽譜を追ってメロディをたっぷりと歌わせていくワーナーの姿勢に好感を覚えます。チェロの音色もふくよかで美しいです。第3楽章はウェンディ・ワーナーもオケも好調で、第1楽章が不調に思えたのは私の聴き方が悪かったのだろうか首を傾げたくなります。
カップリングのミスリヴェチェクの協奏曲ってなかなか佳い曲ですね。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番他
アリサ・ワイラースタイン(チェロ)
トロンハイム・ソロイスツ
ガイル・インゲ・ロツベルグ(コンサートマスター)
2018年4月
ノルウェー,トロンハイム,セルビュ教会

ニューヨーク州ロチェスターで1982年に生まれたワイラースタインは、13歳でクリーヴランド管弦楽団の演奏会でデビューしたほどの人です。
ワイラースタインのチェロはなかなかよいです。好みのタイプです。感情の起伏が激しく、手ぐすね引いて待ち伏せし、突然襲いかかったりします。そういうところが面白い。第2楽章も次のワレフスカにように遅くはなく、速めのテンポですいすい進みますが、美しい音色でよく歌っていると思います。第3学窓は疾風のように駆け抜ける、気持ちの良いハイドンです。この演奏を聴いている間は何の不足も感じません。水準以上の演奏です


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番
クリスティーヌ・ワレフスカ(チェロ)
イギリス室内管弦楽団
エド・デ・ワールト(指揮)
1972年1月

1948年ロサンジェルス出身、13歳でワシントン・ナショナル交響楽団の演奏会でデビューしたワレフスカです。一部ではチェロの女王という紹介もあります。
控えめな通奏低音付きの、編成が大きめのオーケストラ、ピリオドなど毒にも薬にもならないという感じの鳴らしっぷりで第1楽章は始まります。チェロはやや暗く太めの音色で浪々と歌っています。録音のせいもあり、楽器をよく鳴らすタイプではなく、その点ややスケールが小さく感じますが、巨匠風の演奏ではあります。ワレフスカの個性が最も発揮されたのはカデンツァで、ここは恰幅のよいチェロを聴くことができます。第2楽章は内省的で、深く沈み込むようなチェロです。第1楽章のカデンツァもそうだったのですが、ワレフスカのチェロは低音の量感がたっぷりですね。第3楽章は今回聴き比べた中でも最も遅いテンポのハイドンかもしれません。アレグロ・モルトなのだからこのテンポはないですよね。ワレフスカのチェロはよく言えば誠実・実直、さもなければ鈍重と言いたくなります。全体に重厚な雰囲気が漂っているハイドンで、ちょっとイメージが違います。通奏低音がなかったらもっと重苦しくなっていたかも。


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ハイドン:チェロ協奏曲第1番・第2番
ジャン・ワン(チェロ)
グルベンキアン管弦楽団
ムハイ・タン(指揮)
1998年
リスボン

1968年生まれで中国出身のチェリストであるジャン・ワンはピリスやデュメイとのトリオでも知られています。使用楽器は1622年A&H・アマティ。
第1楽章出だしのオーケストラはまずまずといったところですが、チェロは良いです。呼吸がよいというか、かなり感情が入っているのですけれど、自然で無理がないので、気持ちよく聴くことができます。テクニックも申し分ありません。第2楽章はお染めてのテンポでしっとり・じっくりと歌っています。ただ、ちょっと曲の長さを感じてしまいました。第3楽章も胸のすくテクニックで快調に弾き進めていきますが、早いパッセージがギスギスしていて、もう少し音がきれいだらなおよかったかもしれません。

「ハイドンのチェロ協奏曲の名盤」、これで終了です。

クルレンツィス初来日! チャイコフスキー 管弦楽曲の名盤

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2010年度 第48回レコードアカデミー賞
・交響曲部門
 ショスタコーヴィチ:交響曲第14番「死者の歌」
 テオドール・クルレンツィス指揮 ムジカ・エテルナ
 ユリア・コルパチェヴァ(S)
 ペトル・ミグノフ(Br)

2016年度 第54回レコードアカデミー賞
・協奏曲部門
 チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
 ストラヴィンスキー:バレエ「結婚」
 パトリシア・コパチンスカヤ(vn)
 テオドール・クルレンツィス指揮 ムジカエテルナ,他

2017年度 第55回レコードアカデミー賞
・大賞 交響曲部門
 チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」
 テオドール・クルレンツィス指揮 ムジカエテルナ
・大賞銀賞 オペラ部門
 モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」(全曲)
 テオドール・クルレンツィス指揮 ムジカエテルナ、他

2018年度 第56回レコードアカデミー賞
・大賞 交響曲部門
 マーラー:交響曲第6番「悲劇的」
 テオドール・クルレンツィス指揮 ムジカエテルナ

向かうところ敵なしといった感のあるクルレンツィス&ムジカエテルナです。

大変な才能の持ち主と思います。大指揮者・名指揮者が次々と姿を消していく中で、クルレンツィスのような人が現れるのであれば、クラシック音楽界の未来は明るいと思ってしまうほどです。

ピリオド楽器オーケストラの指揮者というわけはもなく、曲によって振り分けていますし、ムジカエテルナというオーケストラ(及び合唱団)自体が変幻自在で、ピリオドからモダンまで、あらゆる形態に対応可能なのです。

クルレンツィスをご存じない方のために、YouTuneから適当に動画を拾ってみました。オーケストラと合唱ががムジカエテルナじゃないのもあります。冒頭にCMが入る場合は少し待ってスキップしてくだい。あと、画像に表示される広告があったら右上の×をクリックして消してください。

Rameau «Orage» / musicAeterna, Teodor Currentzis

Mozart Requiem, Dies Irae
Teodor Currentzis, MusicAeterna Salzburg Festival 2017

Verdi requiem. Dies irae. Conductor - Teodor Currentzis

Sergei Prokofiev. Romeo and Juliet. Dance of the Knights
 / Teodor Currentzis, musicAeterna

Maurice Ravel. Bolero (fragment)
 / Teodor Currentzis, musicAeterna

Easter Festival 2017: Teodor Currentzis, artist-in-residence

Teodor Currentzis - Teodor Currentzis records Don Giovanni



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さて、クルレンツィスがムジカエテルナを率いてやって来ます!

遠足に行く前日の小学生のように今からワクワクしています。黒い服を着てホールに行かなければならないのだろうか……。クルレンツィスといったら「黒」ですよね?

テオドール・クルレンツィス指揮 ムジカエテルナ

2月10日(日)15時 Bunkamuraオーチャードホール
チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35
(Vn: パトリツィア・コパチンスカヤ)
チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 op.74「悲愴」

2月11日(月・祝)15時 すみだトリフォニーホール
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35
(Vn: パトリツィア・コパチンスカヤ)
チャイコフスキー:交響曲第4番 ヘ短調 op.36

2月13日(水)19時 サントリーホール
チャイコフスキー:組曲第3番 ト長調 op.55
チャイコフスキー:幻想曲「フランチェスコ・ダ・リミニ」op.32
チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」

オール・チャイコフスキー・プログラム!

2月10日と11日はOKです。中学生の頃から慣れ親しんできた曲ですから、頭の隅々まで音楽が浸透しています。問題は13日のプログラム。クルレンツィスのチャイコフスキー「愛」が感じ取れる選曲ですが、私にとってなじみのない曲がありますので、予習をしなければならないと思いました。


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チャイコフスキー:組曲第3番
サー・ネヴィル・マリナー
シュトゥットガルト放送交響楽団

簡単に楽曲について触れておきます。「エレジー」「憂鬱なワルツ」「スケルツォ」「主題と変奏曲」の4つの曲から成り立っています。作曲者も語っていますが、これは交響曲といっても差し支えないで楽曲なのしょう。演奏時間も結構長くて全曲で約40分くらいかかります。1884年に書かれていますので、交響曲第4番と第5番の間、マンフレッド交響曲の前年の作曲です。
いや、それにしてもこの曲は録音が少な過ぎます。それでも5種類は聴いてみましたが、その中ではこれを選ぶべきかもしれません。
マリナー/シュトゥットガルト放送響は、第1組曲から第4組曲を録音しています。それでは聴いてみます。
第1曲「エレジー」(Élégie)」はやや速めで木管が美しいです。ロシアのオケのように人懐っこい演奏ではなく、やや素っ気なさもありますが、都会風で洗練されています。2つ目の主題の16分音符による装飾音型が愛らしい。低音部での再現はスケールが大きいです。長いクレッシェンドを経て堂々たる頂点を築いた後、抒情的に進行し、コーラングレの長い独奏の後、ヴァイオリンの独奏により静かに幕を閉じます。
10分03秒
第2曲「憂鬱なワルツ」(Valse mélancolique)
暗めのヴィオラによる主題がフルートに受け継がれて展開していきますが、低弦のピッツィカートはもう少し明確にほしいし、弦に華やかさがあればなお楽しめたでしょう。しかし、雰囲気は悪くなく、チャイコフスキーによるワルツを聴いているという実感があります。曲も短いのであっという間に終わります。
5分34秒
第3曲
「スケルツォ」(Scherzo)は、この曲も「憂鬱な~」というタイトルを付けたくなります。マリナー指揮の演奏は、リズムのキレもよろしく、盛り上がりにも欠けていません。ただ、音楽がチャイコフスキーの交響曲のスケルツォ楽章ほどの魅力がないところが残念です。交響曲になれなかった管弦楽組曲のスケルツォ。この曲も短いです。4分35秒
第4曲「主題と変奏曲」(Tema con variazioni)は全曲の半分くらいを占める長い曲で、約20分ほどです。
主題はAndante con moto 4/8拍子 ト長調で、ヴァイオリンにより提示されます。
第1変奏:Andante con moto 4/8拍子
弦のピッツィカートと木管楽器はきれいに整理されて再現されています。
第2変奏:Molto più mosso 4/8拍子
マリナーは弦の扱いが上手ですが、この曲もヴァイオリンの32分音符による変奏を鮮やかに描いています。
第3変奏:Tempo del Tema 4/8拍子
木管楽器だけとなり、フルートが主題を奏する。
第4変奏:Tempo del Tema 4/8拍子
短調となり、中間部で突然「怒りの日」が挿入されるので驚きます。マリナーの指揮は語り口が上手ですね。
第5変奏:Allegro risolute 3/4拍子
長調でフーガが展開されます。マリナーが弦セクションをきっちり締めており、心地よい弦楽合奏を聴くことができます。
第6変奏:Allegro vivace 6/8拍子
かなり活発で堂々とした変奏ですぐ終わります。
第7変奏:Moderato 2/4拍子
木管のみによるコラール風の変奏です。こういう曲はマリナーが得意とするところではないでしょうか。しみじみと聴かせる良い演奏だと思います。
第8変奏:Largo 3/4拍子
ヴァイオリンが高音で静かにトレモロを奏する中、コーラングレが変奏を歌っていく。
第9変奏:Allegro molto vivace 2/4拍子
感想を書くのがつらくなってきたので、Wikipediaそのままをコピペします。「トライアングルが加わって速度が上がり、音量を増すにつれてさらに加速してピウ・プレストに至るとヴァイオリンのカデンツァが挿入される。」という曲です。
第10変奏:Allegro vivo e un poco rubato 3/8拍子
「前の変奏からそのまま独奏ヴァイオリンが残り、ピッツィカートの伴奏に乗せて物憂げにロ短調の旋律を奏でる。木管のみの中間楽節が置かれた後、ソロヴァイオリンの歌が繰り返される。」曲です。この変奏は結構長く、ヴァイオリン協奏曲の緩徐楽章のようです。
第11変奏:Moderato mosso 4/4拍子
「ロ長調となって弦楽器と木管楽器により厚ぼったく変奏が行われる。速度を落としてフィナーレへと接続される。」とのこと。これもマリナーの聴かせ上手な手腕が際立っています。
第12変奏:Finale. Polacca. 3/4拍子
「序奏付きのポロネーズであり、祝祭的な響きに彩られている。モデラート・アッサイに始まる序奏はティンパニのロールを聴きながら少しずつ加速していき、アレグロ・モデラートとなると変奏主題も交えて一層盛り上がるとその頂点でポロネーズを導く。ポロネーズが反復されてから間に経過的エピソードを挟んで再度奏される。
中間部では新しい主題が提示される。経過を途中に挿入された後に反復され、装飾的な音型を加えて奏でられる。再び序奏が現れてポロネーズが回帰するが長くは続かず、そのままコーダに入ると勢いを減じることなく全合奏で華やかに全曲の幕を下ろす。」 チャイコフスキーのバレエ音楽のような曲です。マリナー/シュトゥットガルト放送響の演奏は、スケール感こそありませんが、その代わり小回りが利いて、各部を鮮やかに描き分けていると思います。もう少しロシアっぽかったらなお良かったと思いますが、録音も含めてまず第一に選ぶべき演奏でしょう。
18分56秒

と、組曲第3番を聴き終えて思ったのですが、しかし、これは名曲なんだろうか。いや、クルレンツィスが交響曲第5番ではなく、組曲第3番を選んだのは理由があるに違ない。組曲第3番を実演で聴くのはこれが最初で最後だと思いますが、当日は一生懸命聴きたいと思います。


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チャイコフスキー:フランチェスコ・ダ・リミニ
エフゲニー・ムラヴィンスキー
レニングラード・フィルハーモニー交響楽団
1977年

この曲は、ダンテ「新曲」中の「地獄篇」第5歌「フランチェスカ・ダ・リミニ」を素材として作られていますが、チャイコフスキー自身によれば「エピソードに刺激されて一時的なパトスで書かれた、迫力のないつまらない作品」ということになっています。1876年作曲なので、交響曲第3番と第4番の間の年に書かれました。演奏時間は約25分の比較的長い曲で、取っつき難いところがありますが、好きになると何度でも繰り返し聴きたくなる魅力を備えており、多くの名指揮者が録音しているのも頷けます。
旧ソ連の名指揮者ムラヴィンスキーにはライヴも含めて複数の録音がありますが、その中で録音がステレオのものを選んで聴いてみました。
ムラヴィンスキーの演奏は減七の和音が特に重苦しく響きます。荒涼とした世界を思わせる時間が続きます。この演奏に限らずチャイコフスキー、例えばワーグナー、初期の頃のシェーンベルクを聴かされているような気分になります。
第1部に入り、地獄の場面では、レニングラード・フィルの金管も全開、泣き叫ぶ弦楽器、悲鳴を上げる木管楽器、要所で打ち鳴らされる打楽器と、凄まじい音の世界です。
太くて丸い音色のクラリネットのレチタティーヴォから第2部に入ると、フランチェスカとパオロの恋がチャイコフスキー特有の甘いメロディが演奏されますが、ムラヴィンスキーの指揮は辛口、この恋が悲劇で終わるのを暗示しているかのようで厳しい表情。十分な劇性をもち夢幻的な演奏です。調性が不安定なので常に不安がつきまといます。最後は壮絶なトゥッティでこの恋の破滅が描かれます。
第3部は、再び第1部の主題が演奏されます。レニングラード・フィルの一糸乱れぬアンサンブルが素晴らしく、迫力も満点です。アクセルを踏み込み、ベートーヴェンなりなラストで全曲を終えます。24分08秒



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チャイコフスキー:ロメオとジュリエット
ロリン・マゼール
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1965年5月
ウィーン,ゾフェインザール

悲しみ疲れたようなクラリネットとファゴット続く、ウィーン・フィルの弦が優美で、バスのえぐりも効いています。木管とのハーモニーも美しいです。アレグロ・ジュストからもオーケストラな鮮烈な音色が印象的で、弦と管の激しい攻防戦は激情に任せず、適度に抑制があり、美しさはそのままで胸躍るダイナミズムを生み出しています。音楽は少し沈まって、コーラングレとヴィオラがこれまたとても美しく甘美です。旋律がフルートとオーボエに移ると夢のようで、ハープが彩を添えます。再び争いが始まれば、ウィーン・フィルの反応の良さが素晴らしく、同オケからこれだけの合奏を引き出すマゼールの手腕に惚れ惚れです。オーボエに続く、ドラマティックな弦楽合奏、各主題のが交錯ではウィーン・フィルがバリバリ鳴って音楽を盛り上げていきます。二人の死、慟哭、安らぎ……。一番好きな演奏。19分25秒


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チャイコフスキー:ロメオとジュリエット
レナード・バーンスタイン
ニューヨーク・フィルハーモニック
1989年10月(ライヴ)
ニューヨーク,エイヴリー・フィッシャー・ホール

マゼール/ウィーン・フィル盤は優美に過ぎるという方にもっと激情的な演奏を。テンポは遅く、クラリネットとファゴットも重苦しいです。バスのクレッシェンド&デミネンドがすごい。木管の神秘的なハーモニー、重厚な弦、全てが悲劇的。ハープが物悲しく響きます。嵐の前の静けさの後、アレグロ・ジュストも息苦しい和音が連続し、録音が少しボケ気味なのが惜しいですが、盛り上がりを見せます。ロメオとジュリエットの愛のシーンのデリケートさは言うに及びません。モンタギュー家とキャピュレット家の争いは暑苦しいまでの迫力があり、その後は怒涛のオーケストラ・サウンドを聴くことができます。2人が天国に旅立つシーンの抒情的な美しさも忘れることができません。壮大なラストで幕を閉じます。旧録音は熱い演奏です。22分40秒


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チャイコフスキー:ロメオとジュリエット
ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1966年10月13日
ダーレム,イエス・キリスト教会

チャイコフスキーを得意としていたカラヤンも聴いておきましょう。4種類の録音のうち、カラヤンが心身ともに充実していた頃の3番目を選びました。ベルリン・フィルのクラリネットとファゴットのしっとりとした音色、微光を放つ弦にうっとりします。弦のピッツィカートと木管が愛らしい。むせぶ弦とハープも引き締まった美しさです。モンタギュー家とキャピュレット家の争いは圧倒的な迫力があり、後年のふくよかさはありませんが、筋肉質で機動的なベルリン・フィルの響きが素晴らしいです。ホルンの重奏をバックに、コーラングレを全面に立てた愛のシーン、良いですね。濃厚な味わいがあります。音場感の狭さ、マルチ・マイクの不自然さが玉に瑕ですが、両家のいさかいは一糸乱れぬ弦のアンサンブルとトランペットの全開が凄まじく、耳が痛いほどです。リズムの鋭さはこの頃のカラヤンならではのもの。最後は美しい夕暮れで終わります。18分42秒


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チャイコフスキー:ロメオとジュリエット
マイケル・ティルソン・トーマス
サンフランシスコ交響楽団
2014年9月18-21日(ライヴ)
サンフランシスコ,デイヴィス・シンフォニー・ホール

新しめの録音も聴いておきたいので、大好きなティルソン・トーマス盤を手に取りました。さすがに録音が良いですね。クラリネットとファゴットや弦の音色が空気感を纏っています。サンフランシスコ響が思ったより厚みのある響きで、チャイコフスキーらしさがよく出ています。弦も木管も洗練されており、ティンパニも良い音を出してします。モンタギュー家とキャピュレット家の争いは、きちんと整理された感じで、感情の奔流のような演奏が好みですが、これはこれで立派な演奏です。ロメオとジュリエットの恋は、繊細かつ上品に描かれています。両家の対立は前より一層の迫力をもって奏され、SFSがロシアっぽい響きをよく出しており、満足させられます。対応だ、録音が鼻が詰まったような感じに聴こえ、明瞭度を欠くのが惜しまれるところです。2人の死は慟哭と浄化をもって表現されています。
20分19秒


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チャイコフスキー:ロメオとジュリエット
トーマス・ダウスゴー
スウェーデン室内管弦楽団
2011年9月
スウェーデン,ウレブルー・コンサートホール

「ロメオとジュリエット」は録音数が多く、他にも聴いておきたいCDがいっぱいあるのですが、最後に変わり種をひとつ。ピリオド奏法少人数オーケストラによる演奏、指揮はめきめきと頭角を現しつつあるダウスゴーです。クラリネットとファゴットの音が相対的に大きくなります。低弦のうねりが凄い! 木管群がよく聴こえるのも嬉しく、高弦は光彩を放っています。第1主題も緊迫感と迫力があり、モンタギュー家とキャピュレット家の諍いはスリリングです。オケの人数が少なくてもちっとも物足りなさを感じず、むしろ弦と管のかけ合いが明確で効果的で、特に弦のアンサンブルが素晴らしいです。ロメオとジュリエットの恋の第2主題はコーラングレとヴィオラが一体となって奏でられ、フルートとオーボエも明確に演奏されます。速めの速度が劇的な緊張感を維持しています。それにしても良いオーケストラですね。両家の争いの場面は血沸き肉踊ります。ロマンティックな香りも申し分ありません。終結部までの手に汗握る展開。ティンパニのロール後の物悲しい明るさ、チャイコフスキーの音楽を満喫させてくれます。最後の和音の鮮烈なこと。

19分16秒

クルレンツィスはダウスゴーを超えることができるのか! 

クルレンツィス初来日! 2月10日&2月11日

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行ってきました。テオドール・クルレンツィス/ムジカエテルナ!

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2月10日(日)15時 Bunkamuraオーチャードホール
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前に行ったのがいつなのか思い出せないくらい、すっごく久しぶりのオーチャードホール、渋谷は初来日のクルレンツィスを一目見ようとする群衆でいっぱいなのでした(そんなわけないか)。体が覚えていたので、迷わずにオーチャードホールにたどり着けました。開場時間を過ぎてもホールに入れないのは直前まで入念なリハーサルが行われていた証でしょうか。この日は前から4列目の左側、ヴァイオリンがよく聴こえそうな席を狙いました。

開演となり、ムジカエテルナが入場します。ピリオド楽器仕様ではないのですが、ヴァイオリン両翼のコントラバス左側の古典的な配置です。指揮台はありません。クルレンツィス、動き回るのだろうか?と勝手に想像します。やがてコパチンスカヤとクルレンツィスが現れます。クルレンツィスは背が高いですね。

チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35
(Vn: パトリツィア・コパチンスカヤ)

春風がそよぐような弦楽合奏に続き、全身全霊を傾けたヴァイオリン独奏。コパチンスカヤのヴァイオリンはよく通る太い音色というより、女性的で、囁くような弱音の多用に特長があります。満員の2階席や3階席の奥まで、このデリケートなヴァイオリンは届くのだろうかと心配になります。
それで演奏についてなのですが、当たり前のことながら、CDと全くと言っていいほど同じです。オイストラフやコーガン、スターンの録音を繰り返し聴き、これ以上の演奏は無いと思っていた私に、まだこの曲にこのような可能性があるのだということを教えてくれた衝撃的な演奏、あれの再現です。この演奏について書くことは、CDの感想(ブログには書いていませんが)を書くのと同じ。今さら感があって、書くのを躊躇ってしまいます。
お客さんの熱狂的な拍手に応え、独奏アンコールは3曲が演奏されました。「ムジカエテルナは、ソリストの集団と言っていいくらい優秀なオーケストラなので、アンコールはムジカエテルナの奏者と一緒に演奏したいと思います」というようなことをコパチンスカヤが前置きし、1曲目はミヨーのヴァイオリン、クラリネット、ピアノのための組曲Op.1576から第2曲が、ピアノ抜きで演奏されました。2曲目はリゲティのバラードとダンスよりアンダンテ(2つのヴァイオリン編)で、コンサートマスターとの二重奏。3曲目はホルヘ・サンチェス・キョンという作曲家の"クリン"1996という曲で、これはコパチンスカヤに捧げられた曲なのです。ぺちゃくちゃ喋りながら弾く音楽で、これは面白かったです。

チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 op.74「悲愴」

20分間の休憩の後、再びオーケストラが入場しますが、今度はヴァイオリンとヴィオラは立って演奏します。当然、譜面台が高くなりますが、入場中に譜面台がガタンと下がるアクシデントもあり、ステマネさんが駆けつけて対応していました。今度は指揮台がありますが、長身のクルレンツィスですから低めです。
録音以来、初めての演奏という「悲愴」は、ロシア国民よりチャイコフスキーを理解している(と初来日のクルレンツィスが思い込んでいる)日本人のために特別に選曲されたのだそうです。これもCDと同じで、ひとつひとつのフレーズを入念に歌いこんだ、彫琢の限界に挑んだような演奏でした。惜しかったのは展開部の終わりのPPPPPPというものすごい静寂の中で、オケの人が「ゴトン!」と大きな音を立ててしまったこと。クルレンツィスも驚いたでしょう。
「悲愴」の感想もCDと同じ演奏となります。CDの演奏を追体験しているような演奏会で、そういう意味では新しい発見がなく、少し物足りない思いがしました。
しかし、第4楽章が終わった後、クルレンツィスが全く動かず、お客さんもひたすら待ち続けるという、あの長い間。ゲルギエフがブルックナー第9番を振り終えたときも長かったですが、今回は非常に長く感じられ、実際にそうだったのだと思います。クルレンツィスは「悲愴」を指揮すると、精も根も尽き果ててしまうのだそうで、燃え尽きてしまったのでしょう。このような体験はCDでは得られないもので、素直に感動しました。盛大な拍手でしたが、アンコールはありません。
絶望的な「悲愴交響曲」を聴いた後は、サイン会も無く、感想を語り合いつつ飲食を共にする人もいなかったので、一人寂しく家に帰りました。


2月11日(月・祝)15時 すみだトリフォニーホール
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数年ぶりのトリフォニーホールですが、体が覚えていたので無事たどり着けました。いや、トリフォニーホールを迷う人はいないと思います。北口改札を出て左に曲がるだけですから。

今日も満員のお客さんで、年齢層が高いのはクラシック音楽のコンサートの常です。今日の席は真ん中の真ん中。オーケストラがよく聴こえる席を選びました。

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35
(Vn: パトリツィア・コパチンスカヤ)

それで思ったのですが、2日連続のコンサートで、曲目が重なっているというのは、集中できないものがあります。ただ、コパチンスカヤのノリが良く、アンコールの楽曲紹介も昨日より多く喋っていたように思われました(昨日と同じ3曲が演奏されました)。お客さんも盛大な拍手でそれに応えていて、良い雰囲気でした。昨日もそうでしたが、お客さんのノリが良いのが嬉しいです。

チャイコフスキー:交響曲第4番 ヘ短調 op.36

チャイコフスキーの交響曲で一番好きな曲です。これは中学生の頃にテレビでN響の演奏を聴いてすぐ好きになり、廉価盤で出ていたシルヴェストリのレコードを購入しました。録音されたものでは、カラヤン/ベルリン・フィルのCD、旧EMIの1971年の録音がベスト・ワンです。LPでは同じ演奏者の1976年盤がお薦めです。何度も書いていますが、LPとCDでバランスが大きく異なるので、演奏から受ける印象が全く違うのです。
今回、クルレンツィスが第5番ではなく、交響曲第4番を持ってきてくれたのが嬉しいです。クルレンツィスはチャイコフスキーがよく分かっている!

演奏は、う~ん、どうだろう。「悲愴」と同じで、ひとつひとつのフレーズを実に丁寧に演奏していたのですが、「悲愴」ほど徹底していなかったように思われます。良い演奏でしたが、最高とまでは言えないかもしれません。いつもの私の台詞である「思ったより普通だった」が出そうです。ムジカエテルナもベルリン・フィルやウィーン・フィル、コンセルトヘボウ管などの超一流オーケストラに比べると、特に金管が劣るように感じました。不完全燃焼のまま拍手をし、アンコールに期待します。今日はアンコールがあるのです。休憩時間の間に、交響曲第4番では使われない楽器がステージ上に用意されていたからです。私の予想は「花のワルツ」でした。しかし、違いました。なんと、

幻想序曲「ロメオとジュリエット」

だったのです! 本当に驚きました。この曲はアンコールで演奏するような曲じゃありません。約20分を要しますし、それに、13日水曜日のプログラムの一曲なのです。

演奏はとても素晴らしかったです。オーケストラがぶんぶん鳴っていたし、団員のノリがそれまでとは打って変わったように思え、お客さんも大変盛り上がっていました。これは立ち上がって拍手をしないわけにはいきません。

さすがに昨日と半分同じプログラムでアンコール無しは寂しいとクルレンツィス他の人達が考えたのでしょう。どうせなら、メインに匹敵する曲を演ってしまえ!ということで、劇的な「ロメオとジュリエット」が選ばれたのかも。

曲が終わってから、またしても沈黙の時間。フライングブラボーや拍手はありませんでした。昨日と同じで質の高いお客さん達でした。

さて、昨日と異なる点がもうひとつあって、終焉後にクルレンツィスとコパチンスカヤのサイン会がありました。既に持っているチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を(HMVさんから)購入し、1時間ほど並んでサインをいただきました。クルレンツィスは一枚一枚丁寧にサインするので時間がかかるのです。

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コパチンスカヤとクルレンツィスのサインです。二人の性格を表していますね。

明後日水曜日もクルレンツィス/ムジカ・エテルナのコンサートに行きます。今度は「ロメオとジュリエット」が重なってしまいましたが、何を演奏してくれるのか、アンコールがとても楽しみです。「花のワルツ」かな? 仕事がいそがしくなっちゃいましたが、いいんです、仕事なんて。

クルレンツィス初来日! 2月13日

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2月13日(水)19時 サントリーホール
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仕事が終わるのと同時にサントリーホールに向かいました。入口で「曲順変更のお知らせ」を受け取りました。「ロメオとジュリエット」と「フランチェスコ・ダ・リミニ」が入れ替わるとのこと。18時30分の開場でしたが、まだリハーサルを行っているようで、結局、18時45分までホールに入れませんでした。ギリギリまで練習するなんて、なんと入念なことでしょう(もしかして練習不足?)。

今日の席は、2階のRB席で、指揮者を真横から見下ろす位置です。オーケストラがよく見えるという理由で、この席を選びました。実際、いろいろ発見があって、前回、ムジカエテルナの配置についてヴァイオリンとヴィオラは立って演奏すると書いてしまったのですが、「チェロとハープとチューバ以外は立って演奏する」の間違いでした。立って演奏できる楽器は立って演奏のが原則のようです。出番が少ない奏者は座って待ちますけれど。

チャイコフスキー:組曲第3番 ト長調 op.55

第1曲「エレジー」で、ヴァイオリンが懐かさを感じさせる旋律を演奏すると同時に、感傷的な気持ちになってしまいました。3日間ほぼ毎日のようにコンサートに通ってクルレンツィス/ムジカ・エテルナを聴いてきましたが、これが最終日と思うと感慨深いものがあります。演奏は、9挺のコントラバスに支えられたピラミッド型の響きの中、相変わらずひとつひとつのフレーズを至極丁寧に演奏するもので、その集中力の高さに身が引き締まる思いがしました。曲の性格をしっかりと表現した第2曲「憂鬱なワルツ」、第3曲「スケルツォ」と聴き進め、長大な第4曲「主題と変奏曲」はムジカエテルナの優秀な各パートを堪能できる演奏となりました。また、前2日よりもホールの音響特性が優れているためか、オーケストラが数段巧くなったように感じられました。

この素晴らしい演奏に対し、お客さん達は当然熱狂的な拍手と歓声を送ります。クルレンツィスが何度か舞台に呼び戻され、20分間の休憩をどう過ごそうか考え始めたときのことでした。クルレンツィスが指揮を始めたのです。まさか、ここでアンコールを演奏するとは思いませんでしたが、選曲に大変驚かされました。なんと、

チャイコフスキー:
ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品35より第3楽章

だったのです。今日はコパチンスカヤいないじゃん!と注目していたら、コンサートマスターが独奏を弾き始めました。前2日とは違うコンマスさんで、アイレン・プリッチンという人です。コパチンスカヤとは違った渾身の独奏に胸が熱くなるを覚えました。お客さんも大喜びです。次に演奏されたアンコールは、ヴァイオリン独奏で、

イザイ:ヴァイオリン・ソナタ第3番より第1楽章

でした。これも全身全霊を傾けた素晴らしい演奏で、この人はソリストとしても十分やっていけるということをクルレンツィスが示したかったのかもしれません。第4曲の第10変奏で上手に弾けたことのご褒美でしょうか。

<インターミッション>

チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」

この曲は2日前のアンコールで聴きましたが、さらに練り上げられ、彫琢の限りを尽くした、洗練の極致のような演奏でした。この曲の演奏史上、これほど細部にこだわった演奏は無かったのでは?

チャイコフスキー:幻想曲「フランチェスコ・ダ・リミニ」op.32

曲順の変更で最後の曲となりましたが、オーケストラの編成が最も大きな曲なので、妥当な変更と言えます。「ロメオとジュリエット」のような親しみやすさはないし、チャイコフスキー自身もあまり評価していなかった曲のようですが、聴けば聴くほど味わいの増す曲でもあります。演奏は「ロメオ」と同様、彫りの深いもので、お腹一杯になりました。

演奏が終わった時は9時を回っていましたので、この後のアンコールは無しと判断しましたが、そのとおりでした。熱狂的な拍手にムジカエテルナ団員を称えることで応えるクルレンツィスなのでした。

こうして東京3公演は終わりました。演奏自体は3日目が最も優れているように思われ、アンコールに「ロメオとジュリエット」が演奏され、サイン会もあった2日目が盛りだくさんな内容でしたが、発売されているCDの追体験という1日目が少し物足りなく感じられました。

以上、駆け足のレポートでした。

ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」の名盤(Ab~Be)

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最近うまくいかないことが多くて心が痛みます。傷んだ心に滋養を与えて癒してやる必要がありますので、今回から一番好きな曲を取り上げることにしました。

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
交響曲第3番 変ホ長調「英雄」作品55
(Sinfonia eroica, composta per festeggiare il sovvenire d'un grand'uomo:英雄交響曲、ある偉大なる人の思い出に捧ぐ)

第1楽章 Allegro con brio 変ホ長調 4分の3拍子 ソナタ形式
第2楽章 Marcia funebre: Adagio assai ハ短調 4分の2拍子 葬送行進曲 
第3楽章 Scherzo: Allegro vivace 変ホ長調 4分の3拍子 複合三部形式
第4楽章 Finale: Allegro molto 変ホ長調 4分の2拍子 自由な変奏曲の形式

以前より、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄(エロイカ)」について書きたいと考えていました。

今回は、質より量を優先したいと思います。交響曲全種を100種類以上お持ちの方もいらっしゃるので、100種類以上聴きます。ただし「英雄」は長い(50分以上)ので、第1楽章だけの聴き比べにしました。この辺がいい加減です。

いや、この交響曲は大変な名曲なのですが、とりわけ第1楽章が優れていると考えているからなのです。以下、全音楽譜出版ミニチュアスコアの諸井三郎先生の解説によります。数字は小節番号、カッコ内は小節数を表します。

まず、全体は四つの部分に分けることができます。

第1部1-152(152)
第2部153-397(245)
第3部398-564(167)
第4部565-691(127)

第2部主題展開部と第4部終始部の規模が大きいのが特徴です。
第1部~第4部をさらに細かく見ていきます。

第1部 主題提示部
 序1- 2( 2)
 第1主題提示3-14(12)
 第1主題確保15-45(31)
 推移46-8338)
 第2主題提示84-91( 8)
 第2主題確保92-99( 8)
 推移100-108( 9)
 終始109-152(44)

第2部 主題展開部
 第1群153-166(14)
 第2群167-177(11)
 第3群178-220(43)
 第4群221-248(28)
 第5群249-279(31)
 第6群280-299(20)
 第7群300-322(25)
 第8群323-357(15)
 第9群358-365(26)
 第10群366-397(32)

第3部 主題再現部
 第1主題提示398-407(10)
 第1主題確保408-448(41)
 推移449-486(38)
 第2主題提示487-494( 8)
 第2主題確保495-502( 8)
 推移503-511( 9)
 終始512-564(53)

第4部 終始部
 第1群565-581(17)
 第2群582-602(21)
 第3群603-630(28)
 第4群631-672(42)
 第5群673-691(19)

音楽の泉がこんこんと湧き出るのを、片っ端からベートーヴェンが書き写しているのが目に浮かぶようです。いくら書いても書き足りないという感じ。後にも先にも、これだけ充実した音楽をベートーヴェンが書いたことはなかったのでは。作曲されたのが1804年で、1817年に「自分でどれが1番出来がいいと思いますか?」とクリストフ・クスナーに質問されたベートーヴェンが即座に「エロイカです!」と答え、「第5交響曲かと思いました」と返されても、「いいえ、いいえ、エロイカです!」と言ったそうです。音楽史において重要な交響曲ですが、ベートーヴェンにとっても大事な作品だったのですね。

ところで、第4部終結部でトランペットが655小節から主題を受け継ぎますが、楽譜どおりだと、すぐ止めてしまい、続きは木管が演奏しています。楽譜どおりに演奏している録音と、最後までトランペットに吹かせている録音がありますが、ベートーヴェンが、なぜこのように記したのかということについても、考えてみたいと思っています。

聴き比べる量が多いので、録音年月日や録音会場を記載する余裕がありません。つきましては、原則として省略しています。また、取り上げる順序は、指揮者名のアルファベット順です。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
クラウディオ・アバド
Claudio Abbado
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1985年5月,6月
【お薦め】
この録音が発売されたとき、評論家さん達が「決定盤の登場」と大歓迎していたのを憶えています。それほどまでにこの演奏は素晴らしいか。素晴らしいです。冒頭の和音からしてウィーン・フィルの鮮烈な響きに魅せられます。弦の柔和な美しさ、経過句その他に聴かれる木管の愛らしさが蠱惑的です。オーケストラの音色だけでなく、アバドの指揮も終始理想的なテンポで、オーソドックスな中にも、ちょっとした表情づけの上手なこと。全体に柔らかい表現なので、ベートーヴェンに重厚さを求める人には向きませんが、私はとても良い演奏だと思っています。時折見せる寂しさなど絶品です。提示部リピートは繰り返され、コーダでのトランペットは最後まで主題を吹きます。18分22秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
クラウディオ・アバド
Claudio Abbado
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
2000年3月

先述のウィーン・フィル盤と同じような演奏をベルリン・フィルとやってくれたら文句なしだったのですが、ずいぶん印象が異なります。テンポはだいぶ速めになり、編成を小さくしたこともあり、非常にスッキリ・爽やかです。古楽器オーケストラによる演奏の影響を受けているようですが、そこまで徹底しているわけではないので中途半端な印象もあります。ウィーン・フィル盤で聴かせたアバドの長所がだいぶ少なくなってしまっています。オーケストラはさすがベルリン・フィルで巧いものですが、ベルリン・フィルからこれだけ軽やかな響きを引き出しているというのは、ある意味すごい事なのかもしれません。提示部は反復ありです。655小節からのトランペットは途中で主題を譲ります。16分05秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
クラウディオ・アバド
Claudio Abbado
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
2001年2月(ライヴ)
ローマ,サンタ・チェチーリア音楽院
【お薦め】
映像収録されたライヴをCD化したもので、Deutsche Grammophonによる新たなマスタリングによりDVDを上回る音質になっているのだとか。アバド自身もセッションよりライヴの演奏のほうが気に入っていたようです。
冒頭の和音はセッションよりダイナミックで、セッションは借りてきた猫のようだったベルリン・フィルが、このライヴでは実に生き生きと演奏しています。そう、このような演奏が聴きたかったのです。前回から11ヵ月しか経っていませんから、アバド自体の解釈に変化はないのですが、健康状態を取り戻したためか、音楽が希望に溢れ喜びに満ちている感じがします。ベルリン・フィルも嬉しそうですが、緩みはなく常に緊張感の漲った、気迫のこもった演奏を聴かせます。主題提示部の反復あり、コーダの主題はトランペットから木管へ受け継がれます。16分56秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
エルネスト・アンセルメ
Ernest Ansermet
スイス・ロマンド管弦楽団

アンセルメの広く知られている録音レパートリーからすると、ベートヴェンやブラームスは外れているように思われますが、これが意外とよく、愛聴している人も少なくありません。英DECCAの録音の効果もあって冒頭の2つの和音など鮮烈な響きがしていますし、その後も目が覚めるような鮮やかさです。知らないで聴いたらアンセルメ/スイス・ロマンド管の演奏と当てられるでしょうか。アンセルメの指揮はベートーヴェンのツボをわきまえた解釈で、痒い所に手が届く感じです。外面的と感じられることもありますが、自然なテンポの伸縮もあり、感興の豊かさを感じます。これだけ聴かせてくれれば十分でしょう。提示部の反復はありません。コーダのトランペットは派手に主題を吹き切ります。14分35秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
アタウルフォ・アルヘンタ
Ataulifo Argenta
スペイン国立管弦楽団

残響が多めで喧しく感じる録音が難点ですが、演奏は少し荒っぽいけれどなかなか良いです。水が飛沫をあげて流れ落ちるような演奏で活気と勢いがあります。元気がよい。音を引き摺り気味に演奏するのがユニークで音価を十分保っているということなのでしょうか。提示部の繰り返しは無し。コーダのトランペットは主題を吹き切ります。14分26秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
朝比奈 隆
ベルリン・ドイツ交響楽団
1989年9月24日(ライヴ)
ベルリン・フィルハーモニー

朝比奈隆の「英雄」は録音数が多く、10数種あると思いますが、この記事では2種類を取り上げることにします。理由はその2種類しか私が所有していないからです。これは朝比奈隆とベルリン・ドイツ響の共演の最終回を収録したものです。
遅いテンポでゆったりと大河のように流れる「英雄」です。オーケストラをたっぷり鳴らし、自然な息遣いで控えめに表情づけを行っています。オーケストラはとても優秀で、弦・管に不満はありませんが、朝比奈の遅いテンポに戸惑いながら演奏しているように感じるのは思い過ごしでしょうか。この演奏については新聞でも賛否が分かれたそう、私自身も聴いていてそうだろうなぁと思わせるものがあります。アバド/ベルリン・フィル盤とは対照的な演奏でした。提示部の繰り返しあり。終結部のトランペットは主題を最後まで吹きます。20分33秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
朝比奈 隆
Tkahashiu Asahina
倉敷音楽祭祝祭管弦楽団
1990年3月25日(ライヴ)

先述のベルリン・ライヴから半年後、30人超規模の倉敷音楽祭祝祭管弦楽団を指揮した朝比奈隆の「英雄」です。個人的にはベルリン・ドイツ響の演奏よりこちらのほうが好きです。少人数オケでも朝比奈の特長である重厚なベートーヴェンは十分表現できていますし、オーケストラが朝比奈隆に心服し、心を込めて演奏しているのが伝わってくるからです。遅いテンポの「英雄」は好きなのですが、その「遅さ」を感じさせてしまうのがこの演奏の欠点かもしれません。どこが良いとかではなく、この演奏に身を任せることができる人にとってはかけがえのない名演なのでしょう。主題提示部の反復あり。トランペットは主題を最後まで吹きます。19分50秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ウォルター・アタナシ
Walter Attanasi
カメラータ・カッソヴィア

この指揮者とオーケストラについては全く知識がありません。小編成のオーケストラようですが、先の朝比奈隆が重厚長大であったのに対し、こちらはずいぶん軽快に感じられます。しかし、それは欠点ではなく、管・弦・打のバランスが良いので、スコアが目に見えるようで気持ちよく聴くことができました。ただ、それ以上に何があるかというと、これが難しいところで、まぁいわゆる凡演で、曲の長さを感じさせてしまうものです。提示部の繰り返しあり。コーダのトランペットは最後まで主題を引きます。18分51秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
サー・ジョン・バルビローリ
Sir John Barbirolli
BBC交響楽団
1967年5月

名指揮者バルビローリのベートーヴェンの交響曲録音は意外なくらい少なく、これは亡くなる前年、ライヴではなくセッションでもあり、大変貴重なものです。やや腰高な響きは録音のせいでしょうか。遅めのテンポの堂々たるベートーヴェンです。いや、堂々たるという表現はちょっと違っていて、もっと人間的な細やかな情緒を感じさせるものです。ただ、聴いていてバルビローリのベートーヴェンが少ない理由がわかるような気もしました。指揮者と作曲家がうまくマッチしていないというか、指揮者の共感度が低いような気がするのです。とはいえ、旋律の雄大な歌わせ方などバルビローリの良さが発揮できている点もあり、ひとつひとつの部分はさすがなのですが、全体を俯瞰すると今一つに思えてしまうのです。提示部の繰り返しはありません。終結部のトランペットは最後まで吹き通します。16分12秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ダニエル・バレンボイム
Daniel Barenboim
シュターツカペレ・ベルリン
1999年
【お薦め】
バレンボイム/SDのベートーヴェンが好きです。響きもテンポもドイツっぽくて、美しく重厚で、堂々たる歩みの、昔ながらの(しかし古臭くはない)ベートーヴェンを感じさせます。ヴァイオリン両翼配置、コントラバスは上手(左側)の配置も気が利いています。全体における各パーツのバランスもよく、バレンボイムの構成力の上手さが光ります。そしてシュターツカペレ・ベルリンの巧いこと。オーケストラが指揮者に心服し、奉仕しているのが聴き手に安心感をもたらします。提示部の繰り返しあり、コーダのトランペットは最後まで主題を吹きます。19分10秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ダニエル・バレンボイム
Daniel Barenboim
ウエスト=イースタン・ディヴァン・オーケストラ
2011年8月

長い名前のオーケストラは、イスラエル、パレスチナ、そしてアラブ、ユダヤなど様々なルーツをもつ国々から集まった若き音楽家たちによって編成されたオーケストラによる演奏あDそうです。最初の和音がふにゃっとしていて興を削ぎますが、その後上々の滑り出しです。バレンボイムの基本的な解釈は揺るぎのないものですが、今回は録音があまり味方してくれていないようで、分離の悪い音にやや閉口します。オーケストラのアンサンブルも寄せ集め的な印象があり、積極性の無さと、まとまりの悪さを感じさせます。提示分の繰り返しは今回は無しで、コーダのトランペットは主題を最後まで吹きます。16分11秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
レナード・バーンスタイン
Leonard Bernstein
ニューヨーク・フィルハーモニック
1964年1月27日

元気が良いベートーヴェンで若々しく颯爽としており、私が期待するバーンスタインと言えます。前へ前へと進もうとする推進力が強く、聴き手を捉えて離しません。オケがニューヨーク・フィルということで都会的な雰囲気もありますが、ベートーヴェンの開放的・豪放的な性格も併せ持っています。適度に洗練されていないのが良いのです。これほどエネルギー感のあるベートーヴェンもそうないでしょう。提示部の反復なし、コーダのトランペットは主題を最後まで吹きます。なお、このCDの余白には「『英雄』のできるまで」というバーンスタインのピアノ付き解説が収録(1965年1月27日)されているのが嬉しいです。16分56秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
レナード・バーンスタイン
Leonard Bernstein
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1978年2月
【お薦め】
バーンスタイン指揮の「英雄」は、ニューヨーク・フィル盤が気に入っていたのですが、今回聴き比べてみてウィーン・フィル盤のほうが良いと思いました。ウィーン・フィルの音色の魅力によるところも大きいのですが、バーンスタインの音楽づくりが若々しく瑞々しく力強くて聴き入ってしまいました。ウィーン・フィルの伝統に寄り添った正統派スタイルに、バーンスタインの情熱がプラスされて素晴らしい結果を生み出しています。主題提示部はリピートしています。トランペットは最後まで主題を吹きます。17分37秒

(続きます)

ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」の名盤(Bi~Co)

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第2回です。
CD紹介に入る前に「英雄」(第1楽章)の予習をします。

Beethoven: Symphony No. 3 "Eroica"
Haitink · Berliner Philharmoniker
(↑提示部のみですぐ終わります)

Furtwangler Beethoven "Eroica" 1944 Mvt. 1 (1/2)

Furtwangler Beethoven "Eroica" 1944 Mvt. 1 (2/2)

Fricsay conducts Beethoven Eroica

BEETHOVEN Symphony No 3 "Eroica" 
Bruggen & Orchestra of the 18th Century

Beethoven: 3. Sinfonie (»Eroica«) 
hr-Sinfonieorchester ∙ Andrés Orozco-Estrada

Beethoven Symphony no 3. (Eroica)
DR SymfoniOrkestret - Fabio Luisi


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ベルトラン・ド・ビリー
Bertrand de Billy
ウィーン放送交響楽団
2006年
ウィーン,ORF,センデザール

ゴムのような弾力性のある不思議なオケの響きと録音です。ダイナミックレンジが狭いみたいで、pとfの差があまり無い感じがします。颯爽としていますが、機械的で整然とし過ぎているようにも思われ、聴いているのがつらくなってしまいました。提示部のリピートありで、コーダのトランペットは木管にバトンタッチします。16分09秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルベルト・ブロムシュテット
Helbert Blomstedt
シュターツカペレ・ドレスデン
1976年3月17-21日
ドレスデン,ルカ教会

速からず遅からずで丁度よく、いろいろな面でバランスが取れています。歌わせるべきところは速度を落としますが、落とし過ぎないところが良いのです(逆に中途半端であるとも言えます)。強弱の幅が狭く高音寄りの録音であるのが残念ですが、重大な欠点というほどのことではありません。ただ、ブロムシュテット指揮では、次のサンフランシスコ響との演奏が、より充実しており優れた演奏であると思います。この演奏は少し平凡で【お薦め】をつけるまでもないと思ってしまいます。主題提示部は繰り返しません。トラペットは最後まで吹き切ります。15分03秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルベルト・ブロムシュテッ
Helbert Blomstedt
サンフランシスコ交響楽団
1990年
サンフランシスコ,デイヴィス・シンフォニー・ホール
【お薦め】
最初の2つの和音を聴いただけでわかります。これは良い演奏です。テンポは少し速めで、爽やかでキレがよく、かつスムーズで心地良いですし、オーケストラも録音も優れています。夏の青空のような演奏で、これを聴くと元気が出ます。このような演奏に多言は要りません。主題提示部の繰り返しが行われ、終止部でトランペットは木管にバトンタッチします。17分38秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルベルト・ブロムシュテット
Helbert Blomstedt
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
2014年12月(ライヴ)
ライプツィヒ,ゲヴァントハウス・コンサートホール

ブロムシュテットは、先述のシュターツカペレ・ドレスデンとの全集を録音しており、これが2回目の全集となります。速度はメトロノーム記号に従ったとのことで、老境のブロムシュテット自身の解釈を聴きたかったところです。87歳のブロムシュテットは、こんな快速な演奏を一糸乱れず演奏(しかもライヴで)させるなんて、元気ですね。いつまでも現役であってほしいものです。演奏の爽やかさには、ヴァイオリン両翼(バスは上手)も功を奏しています。あまりに速いのであれよあれよという間に音楽が進行してしまいますが、情緒も十分にあり、充実したベートーヴェンと言えます。主題提示部は繰り返し有り、終止部のトランペットは途中で降ります。16分22秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
カール・ベーム
Karl Böhm
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1961年12月

カチッとした重厚なアンサンブルに、ゆったりとしたテンポで始まりますが、何気にテンポが(フルトヴェングラーほどではないにしろ)動きます。つまり各頂点に向けて加速するので、演奏タイムが短めとなっています。それにしてもこの頃のベルリン・フィルは、いかにもドイツのオーケストラを連想させる響きだったのですね。ホルンの重奏など実に美しいです。これで録音がもう少しパリっとしたものであったら、なお良かったでしょう。聴いたのはORIGINAL-IMAGE BIT-PROCESSING盤なのですが、あまりリマスタリングがうまく行っているとは思えません。提示部のリピートはなく、トランペットは最後まで主題を演奏します。14分52秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
カール・ベーム
Karl Böhm
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1972年

ウィーン・フィルでベートーヴェンを聴くのは心地良いものです。ベーム指揮の場合、いつもよりアンサンブルが引き締まっているように聴こえますが、その分、自発性というか、のびのび感が減じられているようにも思えます。カッチリしていて堅固な音楽づくりであり、音色が暗めですが、ベートーヴェンらしいドイツ風のカラーであるとも言えます。それほど速いテンポではないのですが、演奏タイムが短いのが不思議です。560-561小節のティンパニもすごく控えめで、安っぽい効果は狙わないという指揮者の意志が感じられます。提示部は2番カッコに入ります。トランペットは最後まで主題を吹きます。14分56秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
カール・ベーム
Karl Böhm
バイエルン放送交響楽団
1978年12月7,8日(ライヴ)
ミュンヘン,レジデンツ,ヘルクレスザール

私はもう少しデッドなほうが好みですが、ヘルクレスザールの豊かな残響を取り込んだ録音のせいで、冒頭の和音がよく響きます。続く第1主題が前2つの録音に比べて遅く、少しずつ加速していきます。ベルリン・フィルとともにドイツを代表するオーケストラであるバイエルン放送交響楽団の優秀さをひしひしと感じる演奏で、先のウィーン・フィル盤よりもこちらのほうが、演奏自体の出来は良いと思います。ただ、間接音の多い録音(バスルームで聴いているみたい)がどうしても気になってしまい、その点が惜しまれます。提示部の繰り返しはなく、コーダのトランペットは最後まで演奏します。15分24秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ダグラス・ボストック
Douglass Bostock
アールガウ・フィルハーモニック
Argovia Philharmonic

知られていない指揮者にオーケストラです。その演奏は意外に良いです。小細工を弄せず速いテンポで突き進む演奏ですが、ヴァイオリンも対向配置(コンバスは下手)ですし、響きも適度に重く、編成が大きいので迫力もあり、正統派の秀演といった感じを受けました。なかなかこれだけのベートーヴェンは出来るものではありません。「英雄」第1楽章を楽しむのに不足はありません。オーケストラがもっと洗練されていたら【お薦め】を付けたでしょうけれど、このオケ、なかなか頑張っていて良い味を出しています。提示部はリピート有り、コーダのトランペットは主題を木管に譲ります。スコアどおりなのが感心! 16分36秒
※リストに入れ損ねていたので追加


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
フランス・ブリュッヘン
Frans Bruggen
18世紀オーケストラ
1987年11月26日-28日
【お薦め】
ブリュッヘン/18世紀オケの第1回ベートーヴェン全集は好評でした。今聴いてもいわゆるピリオド臭さの少ない、少人数編成の見通しのよい演奏として万人向きの演奏です。これを最初に聴いたときは客観性が強すぎるように感じたのですが、今回は元気で溌剌とした楽しいベートーヴェンと思いました。テンポも中庸を保ち、ダイナミックレンジも広く、奏者も自発性があって優秀、間接音をほどほどに取り込んだ録音も自然で、文句なしです。繰り返しになりますが、これくらいの編成ですと、スコアが目に浮かぶようで、どの楽器が何をやっているのかがよく分かり、とても楽しいです。木管がオーケストラに埋没してしまうような演奏はダメです。炸裂する金管がとても効果的です。主題提示部は繰り返し有り、コーダのトランペットは木管に主題を譲りますが、このコーダは主題が浮き上がるよう、もう一工夫欲しかったです。18分22秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
フランス・ブリュッヘン
Frans Bruggen
18世紀オーケストラ
2011年10月6日

2度目の全集です。これが発売されたとき、あまりの録音の悪さに閉口したのですが、当時所有していたB&Wのスピーカーを使いこなせていなかったということも反省点でした。今回先入観を捨てて聴いてみたのですが、結果として思ったほど悪くなかったです。いや、こんなに鮮明な録音だとは思ってもみませんでした。18世紀オケはピリオド楽器オケですが、古臭さを感じさせず、小編成オケならではの長所を生かした演奏であるのは相変わらずです。前回より響きに潤いが増して弦が艶やかになり、響きが弾力的となり、よりモダンオケに近づいた感じがします。提示部は繰り返しあり、終止部のトランペットは木管に主題を譲ります。18分26秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
フリッツ・ブッシュ
Fritz Busche
トーンキュンストラ管弦楽団
1945年

フリッツ・ブッシュ(1890-1951)はドイツの指揮者で、弟にはヴァイオリンのアドルフ・ブッシュ、チェロのヘルマン・ブッシュがいます。
今回初のモノラル録音ですが、不思議な立体感があって聴きやすいものです。演奏はかなり速めのテンポで、一気呵成に仕上げていおり、直線的な迫力で勝負という感じです。提示部は反復なし、コーダのトランペットは吹き切ります。
13分26秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヨンダーニ・バット
Yondani Butt
ロンドン交響楽団

この人も認知度が低い指揮者ですが、名門ロンドン響との演奏なので、一聴に値する演奏に仕上がっています。テンポは中庸で奇をてらったところのないオーソドックスな演奏なのですが、逆に安心できる演奏と言うこともできるでしょう。このような演奏はスコアを見ながら聴くのにちょうどよいです。楽譜に印を付けながら聴いていたので演奏についてメモするのを怠りました。提示部の繰り返しはありません。コーダのトランペットは木管に主題を引き継ぎます。15分53秒
※リストに入れ損ねていたので追加


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
リッカルド・シャイー
Riccardo Chailly
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
2008年9月30日-10月4日
ライプツィヒ,ゲヴァントハウス

これもかなり速いですが、速い中にも多彩なニュアンスを盛り込んでおり、ミクロとマクロの強弱変化をきちんとつけ、歌うべき楽器は歌わせ、聴こえるべき楽器はきちんと聴かすという姿勢が嬉しく、テンポの速さがマイナスとはなっていません。同じオーケストラを指揮したブロムシュテットもメトロノーム記号の指示を守った速い演奏でしたが、こちらは小技が効いている感じがします。全体に輝かしい演奏ですが、その凝縮力に聴いていて少々疲れてしまうのも事実。提示部は繰り返されます。終止部のトランペットは最後まで吹き切ります(意外です!)。
15分10秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
セルジュ・チェリビダッケ
Sergiu Celibidache
ミラノ・イタリア放送交響楽団

録音年月日がわかりませんが、モノラル期の放送用録音かもしれません。チェリビダッケというと、遅いテンポで克明に彫琢していく演奏という印象がありますが、これはとりわけ遅いというほどではなく、普通の部類に属する演奏で、演奏内容も普通です。全体にドイツ風の厚みのある響きで、弦などしっかり弾かせており、こもったモノラル録音ではなく、明晰なステレオ録音であったのなら、印象が変わったかもしれません。提示部のリピートはなく、コーダは最後までトランペットに旋律を吹かせています。15分03秒



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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
セルジュ・チェリビダッケ
Sergiu Celibidache
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
1987年4月12,13日(ライヴ)
ミュンヘン,ガスタイク・フィルハーモニー

こちらはさすがに(残響が多くて分離の悪い)ステレオ録音ですが、チェリビダッケにイメージする遅めのテンポによるねっとりとした重く引き摺るような演奏となっています。この速さでも爽やかな演奏はいくつもあるので、個人的には抵抗があります。よく聴けば細部まで煮詰め、彫り込んだ表現が聴けるのですが、この演奏を聴いてもワクワク感がありません。私はチェリビダッケという指揮者がどうも苦手なのです。提示部の反復はありません。終止部のトランペットは主題を最後まで吹き通します。ラストまでffで進行するのですが、チェリビダッケは最後の音を力を抜いてふっと終わらせます。その意外性がユニーク? 16分35秒



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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
アンドレ・クリュイタンス
Andre Cluytens
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1958年12月
ベルリン,グリューネヴァルト教会

冒頭の和音が鮮烈です。後のベルリン・フィルの流麗な演奏と異なり、この頃のベルリン・フィルはゴツゴツしていて重厚ですが、教会の音響によりほどよくブレンドされ、色彩感も併せ持ちます。テンポは速めで颯爽としており、ベルリン・フィルが実に気持ちのよいアンサンブルを聴かせています(カラヤンもこの頃のベルリン・フィルで全集を録音してみたらよかったのに)。クリュイタンスの指揮は小細工を弄せず、正攻法で突き進む感じで、その潔さとオーケストラの鳴りっぷりが魅力的です。
このテンポであれば主題提示部をリピートしてほしいところですが、2番カッコに入ります。コーダのトランペットは吹き切ります。14分33秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
Macimianno Cobra
マクシミアンノ・コブラ
ヨーロッパ・フィルハーモニア団員

これは紹介する必要があるのかと思いましたが、誤って聴いてしまう人がいるかもしれないと思い、コメントしておきます。この「英雄」の全楽章を聴き通せる人なんているのでしょうか。まともに付き合ってくれるオーケストラが存在するわけもなく、この録音に存在価値があるのか私には判りません。いや、ないな。入手可能な「英雄」を全て集め、それでもまだ聴きたいという人が聴けばよろしいという代物です。もはやどうでもいいことですが、主題提示部は繰り返されます。終止部のトランペットと木管は判別がつきません。28分23秒!

ダグラス・ボストック(Douglass Bostock)とヨンダーニ・バット(Yondani Butt)の2つを追加しました。

(次回に続きます)




ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」の名盤(Da~Em)

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第3回です。
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」第1楽章を毎日聴き続けるという、私にとって大変魅力的な企画は、考えてみれば無謀でした。有名指揮者は必ず録音している(若干例外あり)曲ですので、1人で何度も録音しているものも含めると、録音量が膨大(400超だとか?)なのです。
第1回と第2回に感想を入れ損なったものがありましたので、ひとつの記事相当分を追加しましたが、これについては割り切りが必要です。入れ損なった録音はフォローしないというルール。ただ、入れそこなった演奏がなかなか良いものだったりするので、判断が難しいところでもあります。
さらに問題は、私自身の健康で、日曜日の激しい頭痛、木曜日からの三半規管の故障で、せっせと感想を書いているどころではないのですが、更新を楽しみにしてくださる方もいらっしゃるので、数は少なくとも(結果として多くなりましたが)アップしておこうと思います。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
トーマス・ダウスゴー
Thomas Dausgaard
スウェーデン室内管弦楽団
2002年
【お薦め】
新進気鋭の指揮者だと思っていたら、1963年生まれなのでいい歳になってしまっていたのですね。楽しみな一枚です。少人数オーケストラによる見通しがよく、テンポは速め、キリリと引き締まった演奏です。録音の良さもあり、エッジの立った表現は鮮やかそのもの。往年の巨匠によるスケールの大きな演奏を愛する人には向かないかもしれませんが、小回りが利いていて私にはとても心地の良い演奏でした。安っぽい表現ですが、カッコイイです。ヴァイオリン対向、コントラバスは上手の古典配置なのも演奏の性格に合っていると思います。主題提示部は繰り返します。終止部のトランペットは主題を木管に引き渡しますが、この処理は上手い! 今回初めて納得がいく演奏となりました。素晴らしい演奏です。15分47秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
サー・コリン・デイヴィス
Sir Colin Davis
シュターツカペレ・ドレスデン
1991年2-3月
ドレスデン,ルカ教会

誰かがコリン星人と呼んでいたほうのデイヴィスですが、大編成のオーケストラを屈託なく鳴らして伸びやかでゆったりとした「英雄」を歌い上げており、旧PHILIPSの録音のおかげもあって、聴きごたえのあるものとなっています。この方向の演奏は嫌いではなく、むしろ好みなのですが、ただ、コリン・デイヴィスの場合、あまりにオーソドックス過ぎるというか、もう少し何かないの?という感じも否めないのも事実。主題提示部は繰り返し、コーダのトランペットは最後まで主題を演奏します。18分59秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
アルバート・デランデ
Alberto Delande
南ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団

南ドイツ・フィルは、幽霊オーケストラ(怖い! 実在しないオケのこと)だそうで、バンベルク交響楽団などの団員によって設立された録音専用オーケストラとの説もあり、真偽のほどは定かではありません。ただ、その演奏は悪くなく、すっきり爽やか系で、見通しのよいものです。やや速めのテンポですが、スコアを眺めながら聴くにはちょうどよい演奏でした。主題提示部は繰り返さず、終止部のトランペットは主題を最後まで受け持ちます。14分38秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
アレクサンドル・ドミトリエフ
Alexander Dmitriev
サンクトペテルブルク音楽院管弦楽団

知らない演奏家が続きます。しかしこの演奏も悪くありません。これと言った特徴もなく、派手さはありませんが、きっちりと仕上げた過不足ない演奏で、これもスコアを眺めながら聴くには良いと思います。提示分は繰り返しません。終止部のトランペットは最後まで主題を吹きますが、後半は音量を落としており、これもひとつの見識と思います。16分30秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
クリストフ・フォン・ドホナーニ
Christoph von Dohnányi
クリーヴランド管弦楽団
198310月23日
クリーヴランド,セヴェランス・ホール

冒頭からクリーヴランド管の機能美を感じせる演奏で、やや機械的でなくもないが、巧いことは巧いです。速めのテンポであっさりすっきりしており、余計なことは一切しないという感じです。優秀録音で名高いTelarcですが、あまりよいは思えず、もう少し臨場感というか、生々しさがあったらよかったです。この演奏からはあまり得るものがありません。提示部は繰り返します。コーダのトランペットは高らかに主題を吹き通します。16分37秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
クリストフ・フォン・ドホナーニ
Christoph von Dohnányi
フィルハーモニア管弦楽団
2008年10月26日
ロンドン,ロイヤル・フェスティヴァル・ホール

今回のドホナーニは一味違います。いや、ドホナーニ自身は少しも変っていないのかもしれませんが、受ける印象はだいぶ異なります。音楽がもっと豊かなものになっています。オーケストラに自発性があり、のびのびとしていて肩が凝りませんし、録音も優秀とまでは言いませんが、オンマイクで楽器をよく捉えています。主題提示部は繰り返します。終止分のトランペットは消えて行きます。17分17秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
アンタル・ドラティ
Antal Dorati
ミネアポリス交響楽団(ミネソタ管弦楽団)
1957年3月

アンタル・ドラティの芸術という75枚組のBOXが発売されていますが、ドラティの録音量は本当に多いですね。これはドラティ51歳、当時の手兵による演奏。非常に引き締まった筋肉質の演奏で、迫力も申し分なく、Mercuryの録音も鮮烈です。一途に突き進んでいる印象がありますが、なんといっても壮年期のドラティが生み出す集中力の高さ、音楽の力強さが印象的です。主題提示部は繰り返しません。コーダのトランペットが主題を吹くあたりでは壮大なクライマックスを築きます。これくらい派手にやってくれれば効果的ですね。13分53秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
グスターボ・ドゥダメル
Gustavo Dudamel
ベネズエラ・シモン・ボリバル交響楽団
(旧シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ)
2012年3月8-15日
カラカス
【お薦め】
適度な重さのある冒頭の2つの和音から魅了され、その後の第一主題のなんと伸びやかに歌われること。どこもかしこも心がこもっていて有機的であり、機械的に演奏されているところなどどこにもありません。実にフレッシュな感性が息づいた演奏で、最後まで熱心に聴いてしまいました。強烈な個性など無いのですが、ベートーヴェンの音楽を心から愛し、奉仕しているのが伝わってくることに感心しました。良い演奏です。主題提示部は繰り返されます。終止部のトランペットは主題を吹き通します。17分35秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
マクシム・エメリャニチェフ
Maxim Emelyanychev
ニジニ・ノヴゴロド・ソロイスツ室内管弦楽団
2017年9月20-23日
Manor Rukavishnikov, Nizhny Novgorod, Russia

冒頭から決意というか、意志の強さが伝わってくる演奏です。残響が多めの録音なのが残念ですが、決定的と言えるほど悪いものではありません。ヴァイオリンに若干ピリオド奏法っぽさがありますが、基本はモダン楽器オーケストラによるものと思います。最初は良かったのですが、聴いているうちに単調さが気になってきます。この演奏ならではの何かが無いのです。弦の編成が少ないらしく、木管楽器がよく聴こえるのはありがたいですが、その他に何か特長があるかというと思いつきません。第2主題など素っ気なさ過ぎます。提示部のリピートあり、終止分のトランペットは主題を木管に譲ります。16分27秒

次回に続きます。



ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」の名盤(Fe~Fu)

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早くも第4回となりました。
前提を繰り返しておきますが、第1楽章のみの聴き比べを行っています。

さて、「英雄」を聴くたびに、故吉田秀和先生の文章を思い出します。

(略)そういう中で、格別にとりつかれたのが『第三』。『第五』よりもっと大きいと思った。『第五』の緊迫感、ずばぬけた凝縮性の強さに対し、こちらには豊かさと、悠然として迫らない大きさがあると思った。特に第一楽章がすごいと思った。コーダに入ってから、何の経過の手続きも取らずに、2度ずつ下がっていって変ホ長調から変二長調を通って、ハ長調にいったん落ちつき、そこからまたハ短調を通過して変ホ長調に戻り、あとは滔々たる大河の如きどっしりとした勢いと充実をみせながら、主題を積み重ねながら前進していく有様。音楽による天下最高の壮観だと思った。
 それから、言語を絶した第二楽章の葬送行進曲のペーソス。こういう具合に、自分の時間というものを過ごしていかれるのなら、人生に悔いはあるまい、と思った。
 この『エロイカ』は、今も私のfaibleである。現在でも、私は『エロイカ』のどこかが、どこからかきこえてくると、立ちどまらないではいられない。「この音楽をきいていられる時間、お前はここからどこにいってみたところで、これだけの豊饒な充実感を手に入れることはないだろう」と、考える。
 この音楽は、深く濃い緑とぎらぎらするような赤に染められて、人生が流れている。
(ベートーヴェン『第九交響曲』~「私の好きな曲」新潮文庫より抜粋)


この音楽をきいていられる時間、お前はここからどこにいってみたところで、これだけの豊饒な充実感を手に入れることはないだろう」という文章が頭から離れないのです。さすが吉田秀和先生!


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ウラジーミル・フェドセーエフ
Vladimir Fedoseyev
モスクワ放送交響楽団

お風呂場のようによく響く録音会場で、わんわん響いている録音です。フェドセーエフは大好きな指揮者なのですが、この録音でだいぶ損をしていますね。想像するに大変キレのよい演奏だと思うのですが、それがわからないほどライヴな音響です。ウォークマンにダウンロードして補正をかければ聴き易くなると思うのですが、それを行う気力がありません。フェドセーエフは、2004年12月にもモスクワ放送チャイコフスキー交響楽団とライヴ録音を行っており、「英雄」が名演なのだそうで(そちらを聴きたいの)すが、これはそれではないでしょう。提示部のリピートはなく、コーダのトランペットは意外なことに途中までです。おそらく大変な名演であったに違いない演奏です。14分51秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヤーノシュ・フェレンチク
Janos Feerncsik
ハンガリー国立管弦楽団
【お薦め】
次のオスカー・フリートの貧弱な音質の後に聴いたので、目が覚めるようなステレオ音響に、超優秀録音と呼びたいです。いや、録音の音質だけでなく、演奏も優れていますね。指揮者の個性より音楽のあるがままを忠実に再現した演奏と言えますが、それがこの曲の場合、必ずと言っていいくらい成功するのです。蛍光ペンを握りしめ、スコアを見ながら聴いていたのですが、充実した時間を過ごせました。つい聴き流してしまいましたが、これは素晴らしい演奏だったのではないかと思います。提示部はリピートします。コーダのトランペットは主題を最後まで吹きます。18分13秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
オスカー・フリート
Oskar Fried
シュターツカペレ・ベルリン
1925年

オスカー・フリート(Oskar Fried, 1871年8月10日-1941年7月5日)はドイツの指揮者・作曲家です。ベルリン・フィルを指揮してマーラーの交響曲を積極的に取り上げたことでも知られています。ただ、主要な活動が第一次世界大戦前なのであり、この「英雄」も電気録音以前の古い録音となります。聴き始めると信じられない音の世界が待っています。オーケストラというより器楽合奏団による演奏と呼んだほうがふさわしいでしょう。なんだかすごく懐かしいです。小学校のときに器楽部というクラブがあり、立派なオーケストラだったのですが、それが「英雄」を演奏するとこんな感じになるのかも。いや、それは器楽部に対して失礼だ。音楽を労わって演奏しているような、そんな印象です。提示部の繰り返いはありません。終止部のトランペットは主題を一応最後まで吹いています。聴き通すのが大変でした。15分04秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
フェレンツ・フリッチャイ
Frenc Fricsay
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1958年10月
ベルリン,イエス・キリスト教会
【お薦め】
後述のフルトヴェングラー/ベルリン・フィルによるライブを聴いた後だと、録音の進化に目を見張ります。たった5年でこんなにも変わってしまうものなのですね。フリッチャイの指揮は何ら奇をてらったところがなく、オーソドックスそのものですが、録音の素晴らしさと(カラヤン時代に突入した)ベルリン・フィルの優秀さのせいもあり、大変聴き応えのあるものとなっています。2番カッコに入ったときの寂しさなど、フルトヴェングラー時代を彷彿させるものがあり、あれほどのテンポの揺れはありませんが、色濃く残っているような感じがします。あまりに気持ちのよい演奏であるため、時を忘れて聴き入ってしまいました。この演奏の素晴らしさは第2楽章以降にあるような気がしますが、とりあえず今回は第1楽章のみです。提示部の繰り返しはありません。終止部のトランペットは主題を最後まで演奏します。15分40秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス
Rafael Frühbeck de Burgos
ロンドン交響楽団

前にも書きましたが、姓はBurgosでなくFrühbeckなので、この位置に置きます。これも良い演奏ですね。私が「英雄」が好きなこともあって、よほどの演奏でない限り、どれも良いと思ってしまうのですが、これもなんら奇をてらったところのない、ベートーヴェンの楽譜に主観をあまり交えず、忠実に再現した演奏ということができます。それが「英雄」の場合はマイナスにならないのです。音楽が充実し切っているので、そのまま語らせればそれだけで名演になってしまうということがあります。充実した良い演奏でした。主題提示部は繰り返します。トランペットは主題を最後まで演奏します。18分08秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ルイス・エレラ・デ・ラ・フエンテ
Luis Herrera de la Fuente
ハラパ交響楽団
Xalapa Symphony Orchestra

メキシコ出身の指揮者、メキシコのオーケストラによる演奏で、でも「英雄」は「英雄」の音がします。編成は大きめで一つ一つの音をたっぷりと長く保っているのが特徴のようで、音を引きずっているように聴こえるときもあります。フレッシュでダイナミックな演奏でした。提示部はリピートせず2番カッコへ、終止部のトランペットは最後まで主題を吹きます。


さて、いよいよヴィルヘルム・フルトヴェングラー(Wilhelm Furtwängler)です。実は、このブログではフルトヴェングラーの録音は、あまり取り上げてきませんでした。しかし、「英雄」について書く以上、避けては通ることができません。
フルトヴェングラーが指揮した「エロイカ」で録音が残されているものは、以下のとおりです。

①ウィーン・フィル1944年12月19日(放送録音)
②ウィーン・フィル1947年11月10-12,17日(セッション)
③ベルリン・フィル1950年6月20日
④ウィーン・フィル1950年8月31日
⑤イタリア放送響1952年1月19日
⑥ウィーン・フィル1952年11月26,27日(セッション)
⑦ウィーン・フィル1952年11月29日
⑧ウィーン・フィル1952年11月30日
⑨ベルリン・フィル1952年12月7日
⑩ベルリン・フィル1952年12月8日
⑪ルツェルン祝祭管1953年8月26日
⑫ウィーン・フィル1953年9月4日

その他にも、ウィーン・フィル(1949年2月15日)との第2楽章提示部だけのセッションがあるようです(他にもあるかも?)

ストリーミング音楽配信では、いろいろな録音を聴ける反面、クラシック音楽のように一人の演奏家が同じ曲を何度も録音しているような場合は、どれがどれだか判別が付き難いです。タイトルに録音年月日が記されているときも稀にありますが、楽曲クレジットには指揮者とオーケストラ名の記載しかありません。今のところジャケット画像で判断するしかなく、これがすごく面倒です。そこで、フルトヴェングラー・ファンの方々には申し訳ありませんが、手持ちのCDを中心に、ストリーミング配信で録音年月日の判別がつくものだけを取り上げることにしたいと思います。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
Wilhelm Furtwängler
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1944年12月19日(放送用録音)
ウィーン,ムジークフェラインザール

これは1953年にウラニアからLPが発売され、フルトヴェングラーが販売停止を訴えたというものです。今ではいろいろな復刻版が入手可能ですが、手持ちのうち、ノイズ・カットされて聴き易い Delta Classics DCCA-0031 を選んでみました。
むじーくふぇラインザールの豊かな残響を取り込んだ聴き易いもので、この当時のものとしては鮮明な録音でしょう。加速・減速の幅が非常に大きく、劇的な効果を生んでいます。ウィーン・フィルらしい優美さに加えて重厚感のある充実した響きがベートーヴェンにふさわしく、デモーニッシュな魅力があります。トランペットが叫んだかと思うと、瞬く間に静寂の世界に入ったりして幻想的かつロマンティック、もっともフルトヴェングラーらしい「英雄」と言えるでしょう。フルトヴェングラーの感情的な指揮にウィーン・フィルが全力で応えており、それはもう非常に感動的な演奏なのですが、私の好みはもう少し客観よりな演奏なのです。主題提示部の反復はありません。終止分のトランペットは最後まで主題を演奏します。このコーダはなかなか輝かしい演奏ですね。15分33秒
(この「ウラニアのエロイカ」のような語りつくされた演奏について書くはなかなか難しいです。)


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
Wilhelm Furtwängler
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1950年6月20日(ライヴ)
ベルリン,ティタニア・パラスト

録音はこの当時のライブ録音としては優秀なほうでしょう。よくぞこれだけの音質で残しておいてくれたと言いたいくらいです。少し引き摺るような重い和音で始まり、録音のせいもあって先のウィーン・フィルより重厚感がありますし、コントラバスなどぶんぶん鳴っています。テンポの伸縮の大きさは同様で、やっぱりロマンティックですが、どちらかと言えば、フォルテの雄渾な場面より弱音時の寂寥感のほうが印象的です。不思議なことですが、先のウィーン・フィル盤と同様で、フルトヴェングラーの指揮だと「英雄」を聴いているという気分にならないのです。「英雄」の衣をまとった別の音楽を聴いているみたい。コーダは息の長い加速&クレシェンドで猛烈に盛り上げます。主題提示部はリピートしません。終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。15分58秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
Wilhelm Furtwängler
ローマRAI管弦楽団
1952年1月19日(ライブ)

前2種に比べると録音がやや劣り、鼻が詰まったような鈍重な音質ですが、聴き辛いというほどではありません。しかし、演奏の微妙なニュアンスは伝わるものが少なめです。冒頭の和音が立派なのは先の録音と同様ですが、フルトヴェングラーの指揮には客観性が増したようで、テンポの収縮の巾が小さめとなり、逆にダイナミックスの巾が際立ちます。イタリアのオーケストラということで、指揮者との間に少し距離があるようですが、私はこちらのスタイルを好みます。ただ、そうなるとあえてフルトヴェングラー盤を選ぶ必要も少なくなってしまうので、複雑な気持ちもします。全体にゆったりとしたテンポであることから幻想的な「英雄」とも言えます。主題提示部はもちろん繰り返さず、終止部のトランペットも最後まで主題を吹きます。演奏時間も長くなって16分58秒です。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
Wilhelm Furtwängler
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1952年11月26・27日
ウィーン,ムジークフェラインザール
【決定盤】
「ヴィルヘルム・フルトヴェングラー ザ・グレートEMIレコーディングス 初回生産限定21枚組ボックス」の中の一枚であり、EMIミュージック・ジャパンのSACDシリーズのために制作されたリマスター音源を転用したものだそうです。レコード用のセッションということもあって、さすがに録音が良いですね。こんなに良い音質だったとは思いませんでした。感動的です。録音だけでなく演奏も(私なんぞが語るのもおこがましいのですが)優秀です。1944年盤のような大きなテンポの動きは影を潜め、音楽そのものに語らせるスタイルとなっており、私はそれを好みますが、先のローマRAI盤よりも一層それが徹底しているよう思えます。そしてウィーン・フィルはフルトヴェングラーの棒に全幅の信頼をもって応えていますので、大変聴き甲斐があります。ウィーン・フィルは優美なだけでなく、ここでは重厚なアンサンブルによる分厚いハーモニーを生み出しており、それがベートーヴェン演奏に大変効果的です。フルトヴェングラーの指揮もスケール雄大で、録音の生々しさのおかげもあり、彫の深さが印象的です。主題提示部は繰り返しません。終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。16分11秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
Wilhelm Furtwängler
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1952年12月8日(ライヴ)
ベルリン,ティタニア・パラスト

1952年12月6-8日に行われた演奏会の最終日で、RIAS放送が録音したもの。私が持っているのはauditeから発売された12枚組CDです。上記セッションから約半月後のライブで、オケはウィーン・フィルからベルリン・フィルに変わりました。録音もこの当時のものとしては悪くありません。セッションとライヴの差はあるにせよ、フルトヴェングラーの指揮は(全く同じではないけれど)基本的には変わっていません。演奏から受ける印象はオーケストラがベルリン・フィルであることが大きいでしょう。ベルリン・フィルの重厚なサウンドは、よりベートーヴェンにふさわしいと思えますが、そこはウィーン・フィルも負けていなかったはずで、それに加えて自然な流動感がありました。どちらかを選ぶとすれば、録音にアドバンテージのあるウィーン・フィル盤を選ぶべきであり、ファンやマニアは少なくとも両方は持つべきです(というか既に両方揃えているでしょうけれど)。主題提示部は繰り返しません。終止部のトランペットは主題を最後まで吹きますが、珍しいことにミスっています。やはりこの部分は鬼門だったのでしょうか。16分37秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
Wilhelm Furtwängler
ルツェルン祝祭管弦楽団
Schweizerisches Festspieorchester
1953年8月26日

故宇野功芳氏が「フルトヴェングラーの全名演名盤(講談社+α文庫)の中で、「五十二年のスタジオ録音の次に選ぶべきものとしては、この五三年盤を第一に、つづいては(略」と語っている演奏です。重く引きずるような和音が独特な冒頭に始まり、厳かな感じがする第1主題です。フルトヴェングラーの解釈は1952年の録音と変わっておらず、もはや1944年のウラニア盤は遠いい昔のこととなりました。この演奏は、大きな加速・減速の類は最も控えめで、音楽に奉仕する、最晩年のフルトヴェングラーの記録として大変貴重であると思います。枯淡の境地であるわけではなく、フルトヴェングラーならではのテンポの動かし方は健在です。ただ、ウィーン・フィルとの1952年11月26・27日(セッション)の印象が強烈であったため、影が薄くなってしまっています。提示部の繰り返しはありません。終止部のトランペットは最後まで主題を叫ぶように演奏します。16分27秒

次回に続きます。


ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」の名盤(Ga~Ho)

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2月28日のこと、いつかこの日が来るのではと予想していましたが、予想以上に早くやってきました。仕事の合間にブログ・マイページをチェックしたら、「Yahoo!ブログをご利用のみなさまへ重要なお知らせ」と題し、「Yahoo!ブログ サービス終了のお知らせ」と書かれていました。あまりに突然のことで、思わずYahoo!プレミアム会員を退会してしまいましたが、2019年12月15日をもってこのブログは強制終了されてしまうのです。さらに、8月31日以降は記事・コメント・トラックバックの投稿および編集機能が終了してしまうので、私の新しい記事が読めるのは最長でそこまでということになります。

昨年は訪問者数が100万人を突破しまして、この際だから200万人を目指そうと決意したばかりなのに残念です。Yahoo!からは「他社ブログへの移行ツール」が5月9日から提供されるそうですが、自分で適当な会社を見つけて転職、じゃなかった、ブログの引っ越しをしようと思います。まだ時間がありますので、このブログがいいよ!というところがあったらご紹介いただければ助かります。Yahoo!は「アメーバブログ」「ライブドアブログ」「Seesaaブログ」「はてなブログ」を移行可能なサービスとして紹介しているのですが、ちらっと見たところ、なんかイマイチ。

それまでに何としても「英雄」だけは終わりにしなければ……。

そんなこんなで第5回です。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
サー・ジョン・エリオット・ガーディナー
Sir John Eliot Gardiner
オルケストル・レボリューショネル・エ・ロマンティーク
1993年3月
スネイプ,モールティングス

次々とピリオド楽器オーケストラが登場し、ベートーヴェンの交響曲を録音していったわけですが、ガーディナー指揮の演奏は聴き易かったです。ピリオド・オケのふにゃーとした弦ではなく、よくある室内管弦楽団に近い演奏であったのが良かったのです。メトロノーム記号を遵守したのか、キリリと引き締まって実に爽やか、疾風怒濤のベートーヴェンで、今聴いてもその印象は変わりません。それにしても速いですね。いろいろなものを置き去りにして来てしまったようも思います。ライト・ウェイト・スポーツ・カーで走り回ている感じです。主題提示分はリピートます。終止分のトランペットは最初から木管の音が大きいので? スムーズにバトンタッチしているように聴こえます。15分34秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ミヒャエル・ギーレン
Michael Gielen
シンシナティ交響楽団
1980年

これも実に早い第1楽章です。先のガーディナーもそうですが、このような演奏は嫌いではありません。ただ、この速度だとどれも似通った演奏になってしまい、違いを書くのが難しいのです。強いて言えば、シンシナティ響って良いオーケストラだな、管・弦のバランスが好もしい、健闘しているな、ということくらいでしょうか。ギーレンらしい味も素っ気ないザッハリヒなベートーヴェン。主題提示部は繰り返します。コーダのトランペットは主題を堂々と最後まで吹きます。
15分27秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ミヒャエル・ギーレン
Michael Gielen
南西ドイツ放送交響楽団
1987年8月
バーデン・バーデン

ベートーヴェンの「英雄」第1楽章は大好きな曲なのですが、速いテンポの演奏が続くと、さすがにまたかという気持ちになります。目まぐるしく変わっていく景色に精神が追いつきません。ただ、オーケストラの特質にもようのでしょうが、ギーレン指揮では先のシンシナティ響の演奏よりこちらのSWR響との演奏のほうが味わい深さがあります。演奏タイムはあまり変わらないのですが、木管が表情豊かに歌うのが印象的です。主題提示部は繰り返します。コーダのトランペットは最後まで主題を吹きます。15分36秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
カルロ・マリア・ジュリーニ
Carlo Maria Giulini
ロサンジェルス・フィルハーモニック
1978年11月
ロサンジェルス,シュライン・オーディトリアム

ジュリーニのテンポ設定の遅さと言ったら、いきなり演奏時間25%増しです。速い演奏が3つ続きましたので、この落差に驚きます。この録音年、ジュリーニはロサンジェルス・フィルの音楽監督に就任したのですよね。その気合の入った演奏で、一音一音をしっかり演奏しているという感じで、テンポはほとんど動きません。スコアを見ながら聴くにはちょうどよいのですが、観賞用としてはどうでしょうか。
提示部は繰り返していませんが、繰り返していたら大変なタイムだったでしょう。終止部のトランペットは最後まで主題を吹きますが、木管も負けてはいません。20分34秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
カルロ・マリア・ジュリーニ
Carlo Maria Giulini
ミラノ・スカラ座管弦楽団
1992年

あまりアレグロ・コン・ブリオという感じがせず、ジュリーニのテンポの遅さは相変わらずですが、幾分彫が深くなったように思えるのは気のせいでしょうか。録音が今ひとつなのが残念です。しかし、これ、聴くのに覚悟が要る演奏ですよ。こうもゴリゴリやられると、聴く側の神経もすり減ってしまいます。主題提示部は繰り返します。コーダのトランペット旋律に木管が対抗するのは旧盤同様。21分08秒
※ウィーン・フィルとの1994年5月17日(ライヴ)は未聴です。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ダヴィド・グリマル
David Grimal
レ・ディソナンス
Les Dissonances

グリマルは、フランスのヴァイオリニストで、彼が結成した室内アンサンブル、レ・ディソナンスとの協演です。レ・ディソナンスはピリオド奏法を一部取りいれているけれど、モダン・オケのようです。テンポの遅いジュリーニを聴いた後だけに、印象が鮮烈。小編成ならではの見通しの良さが魅力的。弦の数が非常に少ないので管の活躍が目立ちます。元気いっぱいのオーケストラで聴いている側も元気が出ます。ただ、それだけという気がしないでもありませんが。この速度でまさかの提示部リピートなし、コーダのトランペットは木管に主題を譲ります。
16分17秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ダニエル・グロスマン
Daniel Grossmann
アンサンブル28
2003年10月3-5日

アンサンブル28のデビュー盤です。ピリオド・オーケストラであるアンサンブル28は、6国の奏者28人からなる少人数オーケストラ(弦は8-2-2-2)で、これが実に気持ちの良い響きのする演奏です。ただ、ヴァイオリンを除く弦が寂しく、これらのパートに旋律が渡ると物足りなさを覚えます。全体的に強弱(p~ff)の幅も狭く、単調に陥りがちなのはこのタイプの演奏の常なのでしょうか。提示部は繰り返します。コーダのトランペットは途中で旋律が消えるパターンです。16分32秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ベルナルト・ハイティンク
Bernard Haitink
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
1987年3-5月

良いテンポです。このくらいが私は一番好きです。ハイティンクの指揮は大きくテンポを揺り動かすこともなく、あるがままに曲を語らせている感じですが、「英雄」の場合、音楽が充実し切っているので、速度の設定が適切であれば、それだけで名演になります。でも、ハイティンクの指揮は少し物足りないです。提示分は繰り返しません。終止分のトランペットは堂々と吹き切ります。14分54秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ベルナルト・ハイティンク
Bernard Haitink
ロンドン交響楽団
2005年11月(ライヴ)
ロンドン,バービカン・センター

冒頭の和音(四分音符)をたっぷり鳴らすのが特徴的。第一主題は遅めのテンポで威風堂々という具合に演奏され、旧盤よりいっそうスケールが大きくなったようです。名指揮者には晩年になってテンポが遅くなる人がいますが、ハイティンクもその一人なのでしょうか。もたれそうですが、ロンドン響の丁寧で美しい演奏のおかげで聴きごたえがあります。ハイティンクはスフォルツァンドとかスタッカートを丸く演奏するので、ちょっとメリハリがついていないところがありますが、このテンポにはこのような表現が合っているのでしょう。全体に叙情的な「英雄」であるように思います。録音も良いと思います。ハイティンクの円熟を感じさせる演奏でした。
主題提示部は繰り返します。終止部のトランペットは最初から目立たせないやり方で主題が突然消えるのを回避しています。19分38秒

※ところでハイティンクが病気との噂がありますが、だいじょうなのでしょうか?


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ミヒャエル・ハラース
Michael Halász
スロヴァキア放送交響楽団
1988年3月2-6日
Concert Hall, Czechoslovak Radio, Bratislava

演奏タイムがすごく短いのですが、実際にテンポが速いです。木管楽器を大きめに捉えた録音が救いです。この規模の編成でこれだけ木管、特にフルートがよく聴き取れるのは珍しく、埋もれさすことなく聴かせます。それだけでもこの演奏は聴く価値があるというものです。ハラースの指揮も、速い中にも適度な緩急の差があり、機械的な演奏に陥っていません。ホルンが軽めの面白い音を出しててます。提示部は反復しません。コーダのトランペットは最後まで主題を演奏します。13分16秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ニコラウス・アーノンクール
Nikolaus Harnoncourt
ヨーロッパ室内管弦楽団
1990年(ライヴ)
グラーツ,シュテファニエンザール

これも速い演奏です。アーノンクールの場合、手兵にウィーン・コンツェントゥス・ムジクスがあるのですが、ピリオド楽器オーケストラにこだわっていないところがあって、ベートーヴェン交響曲全集もモダン・オケのヨーロッパ室内管と録音しています。ピリオド奏法を一部取りいたりしていますけれどね。ただ、この「英雄」は、アーノンクールにしては、というところがあります。モーツァルトの交響曲であれだけやりたい放題だったのに、ベートーヴェンは直球勝負で変化球はあまり投げません。極端な音量・速度変化、鋭いリズムの刻みなど、この人ならではのところがありますが、基本的に特急列車です。提示部は繰り返します。コーダのトランペットは主題の演奏を途中でやめ、主題喪失です。そういえばアーノンクールは、「トランペットの脱落を『英雄の失墜(死)』を表すと主張しているでしたっけね。考えすぎでは……。16分02秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
マルティン・ハーゼルベック
Martin Haselböck
ウィーン・アカデミー管弦楽団
2016年5月
オーストリア演劇博物館「Eroica Saal」
(旧ロプコヴィツ侯爵邸大広間)

いかにもピリオド楽器オーケストラですといった風情で始まりますが、本格的ではないようです。また、由緒正しい場所(エロイカ・ザール)での録音のようですが、薄い壁を隔てて聴いているような録音にやや閉口。あと、楽器ではいかにも吹きにくそうなホルンが目立つのが気になり、良くも悪くもこのホルンにオケが支配されているような感じがします。総じて得ることが少なく、いくら好きな曲といってもこのような演奏ばかりだと困ります。提示部のリピート有りで、コーダのトランペットは途中で降ります。17分40秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ギュンター・ヘルビヒ
Günther Herbig
ベルリン交響楽団
1982年6月1-4日

重量感のある和音と良いテンポの第一主題に期待が高まります。過度なアクセルやブレーキがないのも良く、自然な抑揚には好感が持て、何やら高貴な香りが漂ってくるようです。とはいえ、特筆すべき点があるわけでもなく、この人ならではという個性に乏しいのですが、曲本来の良さを味わうことができるという点では評価すべきでしょう。残響の多めの録音が残念です。提示部のリピートはなく、コーダのトランペットは最後まで主題を演奏します。15分23秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ギュンター・ヘルビヒ
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1994年6月

今度は残響が控えめで優秀な録音でしたので安心しました。このヘルビヒという指揮者は優れたバランス感覚の持ち主で、安心して聴くことができるのですが、よく言えば、どこまでも過不足のない表現で自然な表現、さもなければ、この盤を選ばなければならない強力な何かを持たない演奏といったところでしょうか。ヘルビヒ、地味な指揮者です。私は「英雄」が大好きなので、このような演奏でも喜んで聴いてしまうのですが。提示部のリピートがなく、コーダのトランペットが最後まで主題を演奏するのは前回同様です。14分47秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
リチャード・ヒコックス
Richard Hickox
ノ-ザン・シンフォニア・オブ・イングランド
1984年

ベートーヴェン交響曲全集の中の一曲です。最初の四分音符がすごく長いですが、このテンポなら仕方がないのかも。今回聴いた中でも最も遅い部類です。これよりほんの僅か速かったらちょうど良いテンポだったのですが、微妙なところです。音符が混み入っているところでは良いのですが、そうでない箇所はのんびりしています。「英雄」というよりは田舎のおじさんという感じ。なかなかこれはと思う演奏がないものですね。ノーザン・シンフォニアは特に木管が良い味を出しており、秀演です。主題提示部の繰り返しは有り、終止部のトランペットは途中で降ります。19分38秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
クリストファー・ホグウッド
Christopher Hogwood
アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック
1985年8月
Walthamstow Assembly Hall, London
【お薦め】
もう説明不要なピリオド楽器オーケストラとその指揮者による「英雄」です。これが今聴いてみるとなかなか良いのです。モダン・オケに慣れた耳にも違和感なく、すごく新鮮に聴こえます。理由のひとつ弦の編成がやや大きめということがあるかもしれません。逆に(楽器の性能のせいもあるkれど)木管が埋もれてしまうときがあり、そこは残念です。もうひとつの理由はテンポが速くないことでしょう。古楽器オケの指揮者は皆一様にテンポがすごく速いのですが、ホグウッドはゆったりとしており、音楽のクライマックスに向けて加速、終息時に減速しており、それが心地良いリズムを生み出しています。強弱の変化も大きいのですが、それもわざとらしくなく自然であると同時にメリハリが付いていて見事です。総じてバランス感覚に優れた「英雄」と言うことができるでしょう。提示部の繰り返しは有り、終止部のトランペットは(あまりよく聴こえないけれど)木管に譲ります。17分51秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
マンフレート・ホーネック
Manfred Honeck
ピッツバーグ交響楽団
2017年10月27-29日
ピッツバーグ,ハインツ・ホール

冒頭の和音は不思議な響きのする録音で始まります。音が曇っているように聴こえ、高音がバッサリとカットされているような、そんな(損な)録音。演奏は、ピリオド楽器オーケストラをちょっぴり意識したかのような演奏というか、ホーネックなりに楽譜に忠実であろうとしたような感じです。テンポは速いというほどではないと思ったのですが、展開部からはスピードアップしているように聴こえます。思わぬ金管の強奏などたまにはっとされるような新鮮さもあるのですが、先に述べたように録音があまりよくない(ボリュームを上げると幾分解消され、聴いているうちに気にならなくなってくるのが不思議です)ので、欲求不満が生じてきます。提示部のリピートは有りで、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。16分15秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヤッシャ・ホーレンシュタイン
Jascha Horenstein
ウィーン・プロ・ムジカ管弦楽団
1953年

おどろおどろしい感じで始まります。ゆったりとしたテンポですが、ごりごり弾いているので武骨という表現がふさわしいかもしれません。なんとも長閑ですが、こういう「英雄」も嫌いではありませんが、テンポはもう少し速いほうが好みです。ピラミッド型のずっしりとした重量感のある響きが聴きどころでしょう。普段は何気なく通り過ぎるチェロの旋律が思わぬ美しさで奏でられ、はっとする瞬間もあります。
提示部はリピートしません。終止部のトランペットは威厳をもって最後まで演奏されます。録音は当然モノラルで、レンジが狭く、この時代としてはまぁまぁというところでしょうか。17分04秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヤッシャ・ホーレンシュタイン
Jascha Horenstein
バーデン・バーデン南西ドイツ放送交響楽団
1957年

ありがたいことにステレオですが、けして優秀な録音ではありません。この時代としては貧弱な音質で、ベールを被ったような音、ナローレンジで歪みっぽいです。前回よりわずか4年後の録音ですが、テンポが少し速くなっており、全体におっとりとした感じに仕上がっています。前録音の、あの重量感はなんだったのでしょう。総じてこの演奏に長所を見出すことができませんでした。提示部は反復しません。終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。15分22秒


ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」の名盤(Is~Ka)

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「Yahoo!ブログ サービス終了」に対する皆さまの反応も、「サービス終了を嘆く人」「他社へ移行し始めている人」「全く無関心(マイペース)な人」など様々です。私も「他社探し」を始めているのですが、よそ様のブログを拝見していろいろ発見がありました。驚いたのは、文字が少ない ということでした。「アメーバブログ」のクラシック音楽の記事なんて文章がちょっぴり。私、書き過ぎていましたかね?
それで、今日、これは!と思う会社を見つけました。Yahoo!が提供してくれる移行ツールが使えない(けれど引っ越し機能があるのでだいじょうぶな)会社なので、これまで書いたものの中から、自分で気に入っている記事を移行していく形になると思います。

以前から書き直したいものがありましたので、一石二鳥というところです。

第6回になります。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ハンス・シュミット=イッセルシュテット
Hans Schmidt-Isserstedt
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1965年11月22-24日
ウィーン,ゾフィエンザール
【お薦め】
その曲の初めて買った(買ってもらった)レコードなりCDのことはあまり覚えていないのですが、ベートーヴェンの交響曲は記憶があります。第1・2・4・8番はイッセルシュテット/ウィーン・フィル、第3・5・6番がショルティ/シカゴ響の旧録音、第7番がベーム/ウィーン・フィル、第9番がクリュイタンス/ベルリン・フィルです。イッセルシュテットのベートーヴェンは偶数番号が良いというのが、当時の定説でしたし、ウィーン・フィルの魅力を余すところなく捉えたDECCAの優秀な録音のおかげもあって、大変鮮烈な印象が残っています。ウィーン・フィル初のベートーヴェン交響曲全集の奇数番号の「英雄」はどうでしょう。
やや古さを感じさせるステレオ録音ですが、ウィーン・フィルの美質はよく感じ取れます。艶やかな弦に雅やかな管楽器。音楽に勢いと力強さがあり、鮮明でダイナミックです。やや速めのテンポで間然とするところがなく音楽は進行していきます。音楽に自然と身を任していればそれでいいという感じですね。提示部のリピートは無し、トランペットは最後まで主題を演奏します。14分53秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ケビン・ジャクソン
Kevin Jackson
Harmoniae Templum Chamber Orchestra

おそらく「英雄」の第1楽章の録音の中でも最もテンポが速い部類の演奏。ただ速いでけでなく、一応緩急さも設けられているのだけれど、多くはその超快速テンポが支配しています。大変忙しい演奏で、ひと昔前であればレコードの回転数を間違えたと思うでしょう。聴いているうちにこの速さがクセになり、「英雄」は改めて懐の深い曲だと思いました。音質はステレオですが歪みっぽいです。楽器が生々しく聴こえるのが救いでしょうか。
提示部の繰り返し有り、終止部のトランペットは途中で降りて木管が主題を続けます。13分59秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
パーヴォ・ヤルヴィ
Paavo Järvi
ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン
2005年8月
ベルリン,スコーリング・スタジオ

今でも評論家さん達の支持が非常に高いパーヴォ・ヤルヴィの「英雄」です。でも、これってそんなによい演奏だったかな。ピリオド楽器オーケストラを意識したモダン楽器オーケストラによる演奏で、固く締まったキレのよさ、かなり速めのテンポ(重心は低い)が心地よく、高速道路を高性能のスポーツカーで駆け抜けていく印象があります。これが当世風のベートーヴェンなのでしょう。主題提示部は繰り返し有り、コーダのトランペットは途中で木管にバトンタッチしますが、主題が消えたような感じになります。15分21秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
マリス・ヤンソンス
Mariss Jansons
バイエルン放送交響楽団
2012年10月18,19日(ライヴ)
ミュンヘン,ヘルクレスザール

なかなか良いです。マリス・ヤンソンスが素晴らしいバランス感覚の持ち主であることがわかります。ちょっとしたことでも適切に処理され、痒い所に手が届いている演奏なのです。これには心から感心しました。ただ、何て言うんだろう、どこか優等生的な気がするのですよね。大変立派な演奏なのですが、完成され過ぎていて、近づき難い雰囲気があります。主題提示部は繰り返され、コーダのトランペットは木管とともに主題を刻みます。17分01秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
オイゲン・ヨッフム
Eugen Jochum
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1954年2月1-5,7日

フルトヴェングラー時代(最後期)のベルリン・フィルのせいか、フルトヴェングラーの影がちらつきます。もちろんヨッフムですから、急な加速・減速はなく(適度な加速・減速は多い)、音楽の進行が自然なのですが、フルトヴェングラー最晩年の「英雄」だと言われたら信じてしまいそうです。この頃のベルリン・フィルの重厚なアンサンブルも「英雄」らしくて好印象。聴き終えて、良い演奏を聴いたなという感慨の残るものです。これで録音がステレオだったら言うことなしなのですが、この時代ですから当然モノラルです。提示部のリピートはありません。コーダのトランペットは最後まで主題を演奏します。15分14秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
オイゲン・ヨッフム
Eugen Jochum
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
1969年5月21,22日

名門コンセルトヘボウ管を指揮しての再録音で。交響曲全集の中の一枚です。加速・減速はよりマイルドになり、やはり前回はフルトヴェングラー色が濃く残っていたのかと思います。一見「普通」で「凡庸な」演奏に聴こえないでもありあませんが、ヨッフムならではの絶妙なバランス感覚で磨き上げられた「英雄」であり、表現することへの「信念」と「意欲」を私は感じます。
提示部のリピートは有り、コーダのトランペットは最後まで主題を演奏します。18分26秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
オイゲン・ヨッフム
Eugen Jochum
ロンドン交響楽団
1976年7月1-3日,10月4,5日
ロンドン,キングスウェイ・ホール

名門ロンドン響を指揮しての再々録音で、交響曲全集の中の一枚です。ヨッフムはオーケストラに恵まれていますが、この「英雄」もサウンドが爽やかで耳当たりの良い演奏です。これも先述のコンセルトヘボウ管と同じく正調ベートーヴェンという感じで、なにか特別なことをやっているわけではないのですが、誠実な音楽の運び方に惹かれるものがあります。何回か後に出て来る私の愛聴盤にすごく近いものがあるのですが、微妙に何かが違います。その何かとは「テンポ」」だったり、「録音」、オーケストラの「音色」その他なのですが、この演奏はかなり近いところまで行っていなかがら、ちょっと違うのです。それをうまく説明できまないのですが、【準お薦め】にしたいほどの演奏ではあります。提示部のリピートは有り、コーダのトランペットは最後まで主題を演奏します。18分18秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
オイゲン・ヨッフム
Eugen Jochum
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
1977年4月21日(ライヴ)
【お薦め】
冒頭の渾身の和音からしてこれまでとは違うという感じがします。ひとつには適度な残響を伴いながらも録音が最も生々しくなっており、私好みの音質ということがあります。編成が大きいのに、各声部がよく聴き取れる、ありがたい録音であり演奏です。タイムは一番長くなっていますが、特にテンポが遅くなったという印象はありません。ロンドン響との録音が全体に柔和な表現だったのに対し、これは力が込められていてドイツ的な重厚感があり、「英雄」にふさわしい響きと言えます。旋律も十分歌いこまれており、ヨッフムに対するコンセルトヘボウ管の検診さが聴こえてきます。ヨッフム指揮の「英雄」を1枚選ぶとすれば疑いなくこれでしょう。主題提示部のリピートは有り、終止部のトランペットは最後まで高らかに主題を演奏します。19分06秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
フィリップ・ジョルダン
ウィーン交響楽団
2017年2月25,26日
ウィーン,ムジークフェラインザール
【お薦め】
冒頭の2つの和音に威力があり、第1主題は快速テンポで演奏されますが、ジョルダンはウィーン響から素晴らしい響きを導き出しています。ムジークフェラインザールのおかげもあり、録音も優秀です。速いテンポの中にも細やかな表現が散りばめられ、聴き惚れてしまいった主題提示部でした。ジョルダンが行っている表現をいちいち書き出すと相当な量になりそうで、申し訳ないですけれど、パーヴォ・ヤルヴィよりジョルダンのほうが好きです。展開部も素晴らしく、ベートーヴェンのあの手この手をジョルダンとウィーン響は充実の力演で再現しています。オーケストラの編成は大きめですが、各声部がきちんと聴き取れるのもありがたいです。提示部はリピートします。終止分のトランペットは木管に主題を譲ります。素晴らしい演奏でした。16分38秒
※新規投稿後に追加しました。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ウラディーミル・ユロフスキ
Vladimir Jurowski
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
2014年1月22日
ロンドン,ロイヤル・フェスティバル・ホール

近年よく見かけるようになったユロフスキです。今一番録音が多い指揮者なのでは。軽快な第1主題に始まり、このまま最後まで押し通するのかと思ったら、第2主題でテンポをぐっと落として叙情的に演奏するなどの変化もあり、只者ではありません。とはいえ、全体としては快速テンポで全曲を一気に駆け抜けている印象がありますね。後を引かないベートーヴェンです。主題提示部のリピート有り、終止部のトランペットは途中で降り、木管がなんとか主題を引き継ぎます。16分01秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヤンスク・カヒーゼ
Djansug Kakhidze
トビリシ交響楽団

ストリーミング配信の「英雄」を探すと、やたらとこの音源がヒットします。なんだか安かろう悪かろうみたいなイメージがありますが、ものは試しと聴いてみると、これがなかなかのもので、割と好きなタイプの演奏でした。ゆったりとしたテンポで包み込むような優しさがあります。唐突感がある場所もありますが、テンポも動きます。提示部は繰り返します。終止部のトランペットは高らかに主題を歌います。18分14秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
シプリアン・カツァリス
Cyprien Katsaris

フランツ・リストによるピアノ編曲版を「その後の楽器や書法の進化なども踏まえながら、さらに情報量を増やすべく手を加えた」カツァリス版です。これがなかな面白いです。ショパンとリストで味付けをしたベートーヴェンという感じです。楽器はピアノ1台しかないのに、ここではこのよいうな音が鳴っていたのかと、興味深く聴くことができました。こんな風に自在にピアノが弾けたら楽しいのでしょうね。提示部は繰り返します。終止部はトランペットが登場しないので不都合はありません。17分30秒

次回に続きます。


ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」の名盤(Karajan)

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第7回です。今回はひとりの指揮者による「英雄」第1楽章をご紹介します。

それは、ヘルベルト・フォン・カラヤンです。

私が初めてカラヤンの名前を知ったのは、レコード屋さんでどれにしたらよいか迷っている私に、母が「カラヤンにすれば?」と言ったときです。それ以来、私にとってカラヤンは特別な指揮者になりました。

ただ、カラヤン指揮のベートーヴェンの交響曲はあまり好きになれませんでした。ベートーヴェンにしてはスマート過ぎると思いました。聴き直すきっかけとなったのは、故吉田秀和先生がFM放送でカラヤン指揮ベルリン・フィルの第5番をかけたことです。あの時、吉田先生は「カラヤンのベートーヴェンを悪く言う人がいますが、とんでもないことですよ」と静かにお怒りになられていたような記憶があります。私は影響を受けやすいので、それからは努めてカラヤンのベートーヴェンを聴くようにしました。

カラヤンの「英雄」が全部で何種類あるのかわかりませんが、とりあえず私が入手している録音と映像についてそれぞれ簡単に感想を記します。


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルベルト・フォン・カラヤン
Herbert von Karajan
プロイセン国立歌劇場管弦楽団
1944年5月
ベルリン,ドイツ帝国放送協会大ホール

ドイツ帝国放送用の録音で、このオーケストラは現在のシュターツカペレ・ベルリンだそうです。カラヤンは、1941年から1945年まで音楽総監督の地位にありましたから、その頃のものです。当時の水準から考えれば意外なくらい鮮明な録音で、さすが帝国放送協会と思いました(なお、私が所有している2枚組のCDのうち、同じ年の録音であるブルックナーの第8番終楽章はなんとステレオ録音ですよ!)。後年からは想像できない強引な急加・減速もあり、元気で溌剌としていて若々しいカラヤンの「英雄」を聴くことができます。表現がややロマンティックなのは、時代を反映しているのでしょうか。囁くようなppから目いっぱい鳴らすffまで大変ドラマティックであり、とても力強い演奏です。主題提示部は繰り返しません。終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。15分15秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルベルト・フォン・カラヤン
Herbert von Karajan
フィルハーモニア管弦楽団
1952年11月20-22日,12月1日
ロンドン,キングズウェイ・ホール

カラヤンがフィルハーモニア管弦楽団を率いてヨーロッパ大陸ツアーを成功させた、その年の録音です。さすがにこの頃になるとモノラル録音でもそれほど鑑賞に抵抗感は少なく、44歳のカラヤンの(覇王色の)覇気に満ちた音楽を聴くことができます。テンポの揺らしは少なくなり、手練手管無し、一直線に突き進む潔さがあります。これがステレオ録音だったら、文句無しで【お薦め】にしたでしょう。提示部のリピートは無し、トランペットは最後まで主題を吹き続けます。14分38秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルベルト・フォン・カラヤン
Herbert von Karajan
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1953年9月8日(ライヴ)
ベルリン,ティタニア・パラスト

フルトヴェングラー(1954年11月30日没)最晩年の頃のベルリン・フィルをカラヤンが指揮した貴重な記録で、この日はバルトークの管弦楽のための協奏曲も演奏されました。後の流麗なものと異なり、いかにもドイツのオーケストラといった響きのベルリン・フィルの(野暮ったい・武骨な)響きがいいですね。カラヤンとしてもベルリン・フィルの芸術監督の地位に就きたかったでしょうから、フルトヴェングラーとは違ったやり方で、当時のベルリン・フィルの魅力に自己の芸術を注入した演奏となっていますが、なんとなくカラヤンが借りてきた猫のように収まっているような気がして、本領を発揮していない居心地の悪さを感じます。提示部のリピートは無し、終止部のトランペットは最後まで主題を吹きます。14分38秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルベルト・フォン・カラヤン
Herbert von Karajan
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1962年11月11-15日
ダーレム,イエス・キリスト教会
【お薦め】
カラヤンがベルリン・フィルの終身首席指揮者兼芸術総監督に就任したのは1955年のことですが、満を持したかのような時期にベートーヴェンの交響曲全集が録音されました。最も早く録音されたのが交響曲第1番で1961年12月27・28日、最も遅いのがこの「英雄」です。ここまでモノラルばかり聴いてきたせいもあるのですが、まず録音が素晴らしいです。カラヤンのベートーヴェンではこの全集が最も優秀な録音ではないでしょうか。この録音にかけるカラヤンとDeutsche Grammophonの意気込みが伝わってきます。ベルリン・フィルも50年代のゴツゴツした響きから、厚みのあるサウンドはそのまま、美しい流線形の響きに姿を変えており、こんなに美しくてよいのだろうかと思うほどに、心底聴き惚れてしまいました。カラヤンの「英雄」の解釈も自然体で奇をてらったところが全くなく、非常に完成度の高い演奏だと思います。提示部のリピートはありません。終止部のトランペットは最後まで主題を吹きます。14分50秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルベルト・フォン・カラヤン
Herbert von Karajan
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1971年10月
ベルリンCCCスタジオ

ベルリンCCCスタジオ収録の映像作品で、フーゴ・ニーベルングの演出によりオーケストラを逆三角形(弦が両側、管とティンパニは中央)の3つのブロックに分け、傾斜のきつい雛壇に配置しています。なお、音声を映像は別録りしたものだそうですが、私はかねてよりカラヤン/ベルリン・フィルは1970年代前半が最も素晴らしい時期だと考えており、この頃のベートーヴェン交響曲全集がないので、これはヘンテコな映像だとしても貴重なものです。いや、この演出家は「英雄」という曲に思い入れなど少しも無いに違いないと思わせる本当にどうしようもない映像(カメラワーク)なのですが、演奏も1962年のものに比べても、録音が今一つのせいもあり、魅力的に響きません。これはカラヤンの指揮姿をたっぷり観たいという人向けで、「英雄」を鑑賞しようとする人にはお薦めできないものです。いちいち書くまでもありませんが、提示部のリピート無し、コーダのトランペットは主題を最後まで吹きます。それにしても前回とほとんど演奏タイムが変わらないのは驚きです。14分53秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルベルト・フォン・カラヤン
Herbert von Karajan
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1976年5月7日・1977年1月30・31日・3月8日
ベルリン,フィルハーモニーザール

カラヤン/ベルリン・フィルの2度目の全集からで、収録に時間がかかっています。収録会場がイエス・キリスト教会からフィルハーモニーザールに変わっていますが、手慣れているはずのベートーヴェンになぜこれほどの時間をかけたのでしょう。カラヤンの「英雄」はこれまで14分台後半をキープしてきましたが、この演奏では約1分速くなっています。カラヤンは、ベートーヴェンのメトロノーム記号を意識し、時計を見ながら指揮していたという、レコード芸術の記事を読んだ記憶があります。ただでさえ流麗なカラヤンのベートーヴェンに磨きがかかり、艶々になっています。これはこれで究極のベートーヴェンという気がしないでもありませんが、聴きながらつい他のことを考えてしまいます。あまり音楽に集中できない演奏で、カラヤンのベートーヴェンが嫌いという人は、たぶんこういう演奏を聴いてしまったからなのでしょう。この速さなのだから提示部のリピートがあってもよさそうなもので、また、大きな編成ですからコーダの主題はトランペットが吹かなければならないでしょう。13分33秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルベルト・フォン・カラヤン
Herbert von Karajan
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1977年11月13日(ライヴ)
東京,普門館
【お薦め】
カラヤン/ベルリン・フィルの来日公演(ベートーヴェン・チクルス)を当時のFM東京が収録したものです。第5・第6を除いて若林駿介氏が録音エンジニアを務めており、この「英雄」もそうなのですが、なかなか良い録音で、Deutsche Grammophonのフィルハーモニーザールでの録音よりもこちらのほうが好みです。あちらは響き過ぎて細部まで聴こえない録音になっていましたが、普門館はデッド(残響がほとんど無い?)な会場なのでオーケストラの直接音しか聴こえず、ベルリン・フィルの合奏力の高さ・音色の剛毅さを味わうことができます。録音時期がそれほど変わらないのに、こうまで印象が異なるとは驚きで、ライヴゆえの感興もあるのでしょうけれど、カラヤンの指揮にも勢いとノリを聴きとることができます。この素晴らしい録音が残されていたことに素直に感謝したいと思います。14分01秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルベルト・フォン・カラヤン
Herbert von Karajan
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1982年4月30日(ライヴ)
ベルリン,フィルハーモニーザール
【お薦め】
ベルリン・フィル創立100周年記念演奏会のライヴ映像で、100周年という特別なコンサートであるだけに、ベルリン・フィルの渾身の演奏を聴くことができます。当時74歳のカラヤンはいつもどおり目をつぶった指揮ですが、オーケストラは良い意味で力が入っており、集中力の高さが半端ではありません。映像はカラヤンが多いですけれど、限られたアングルではありますが、オーケストラの面々も(奏者によっては楽器だけ)映されており、作り物ではない自然な感じが好ましいです。映像が演奏を補完してくれるので、感銘も増すというもの。演奏としては、1970~80年代の演奏と劇的に異なるというわけではないのですが、気迫を目と耳で感じることができるので、感動しやすいとも言えます。14分10秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルベルト・フォン・カラヤン
Herbert von Karajan
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1984年1月23-31日
ベルリン、フィルハーモニーザール

9日間もかけて収録された映像作品ですが、1970年代の頃に比べたらずっと自然にはなりました。カラヤンが映ることが多いのですが、観たいと思った楽器にカメラが向くだけでも大きな進歩です。いつも限られたアングルしか映りませんが、入念なカメラ・リハーサルが行われ、これがベストというポジションを得たのでしょう。これを観て思うのは、オーケストラの編成が大きいということ。ワンカットずつですが、フルートとトランペットは多いときで各4本(倍管)が用いられています。そういうことを知ることができただけでも観る価値はあったと思います。演奏についての感想は同時期に収録された次のCDと同じです。14分10秒


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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルベルト・フォン・カラヤン
Herbert von Karajan
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1984年1月25・26,28・29日
ベルリン,フィルハーモニーザール

先のDVDと並行して音声のみの録音がなされていたようです。1970年代の録音はフィルハーモニーザールが響き過ぎて閉口しましたが、この頃はほとんど残響を取り入れておらず、とても良い感じです(個人的にはFM東京の普門館ライヴのほうが好み)。ただ、思うのは、1962年の録音からだいぶ遠いところに来てしまったなぁということ。1970年代の演奏からそうなのですが、ベートヴェンの演奏がルーチン・ワークのようになってしまっていて、演奏に新しい発見がないのです。それでもすごいのはベルリン・フィルからやる気のなさが感じられないことでしょうか。コーダの迫力など思わず息をのみます。
ところで、カラヤン/ベルリン・フィル最後のベートーヴェン交響曲全集は、最初は1枚目のジャケットだったのですが、その後にリマスタリングされ、2枚目のジャケットで発売されるようになりました。1枚目のジャケットはデザインが誰が許可したのかと思うほど派手なデザイン(ゴージャスさが売り?)です。初期盤とリマスタリング盤(カラヤン・ゴールドのシリーズ:OIBP盤)を聴き比べてみたのですが、意外なほど音質は変わっていませんでした。14分10秒


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