第5回になりますが、あと2回は必要です。
小林研一郎だけで3種類もあり、ヴァント、ゲルギエフも各2種類あるのです。
定盤や最新録音は入れておきたいし、例えばインマゼールのような人が指揮しているともなると、これは感想を書かなくてはという気になって、リストが減りません。
「展覧会の絵」(ラヴェル編)
アンドレ・プレヴィン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1985年4月18-23日(ライヴ)
この録音時では56歳でしたが、プレヴィン(1929年-)は今や89歳です。ウィーン・フィルによる「展覧会の絵」は、この後ゲルギエフ(1953年-)の演奏が控えていますが、とにかくプレヴィンです。良くも悪くもウィーン・フィル、他のオーケストラとは、ひと味違います。「第1プロムナード」は脱力した感じ、「グノム」も緊迫感がないようにも聴こえます。牧歌的(のんびり)な「第2プロムナード」を経て「古城」は曲がウィーン・フィルに合っていて良い感じです。木管と弦が美しい「テュイルリーの庭」、えっちらおっちらとい感じの「ビドロ」です。「第3プレリュード」「卵の殻を~」は良いテンポで、これも曲想がウィーン・フィルに合っています。「サミュエル~」は、ちょっと違和感があり、「リモージュの市場」はOKで、「カタコンベ」もこういう曲だったかなという思いがあるものの、柔らかい金管が美しく、「死せる言葉~」も木管と弦がきれいです。打楽器おかげで「バーバ・ヤガー」も出だしは好調、「キエフの大門」はウィーン・フィルなりの壮麗さを出していますが、ちょっと長く感じてしまいました。
「展覧会の絵」(ラヴェル編)
シャルル・デュトワ
モントリオール交響楽団
1985年10月
モントリオール,聖ユスターシュ教会
【お薦め】
デュトワ(1936年-)がモントリオール交響楽団の音楽監督であったのは1977年から2002年までの25年間ですが、その後のデュトワもモントリオール響も、今ひとつぱっとしないと思うのは私だけでしょうか。それくらい幸福な関係であり、産み出された録音はいずれも高い評価を受けるに値するものばかりだったのですが、楽団員との確執があってデュトワは辞任してしまいます。
前置きが長くなりましたが、「第1プロムナード」はDECCAの録音のおかげもあって、モントリオール交響楽団の艶やかな管・弦を楽しむことができます。間髪入れず「グノム」が始まりますが、低弦・打楽器の迫力、テンポも絶妙で、素晴らしい演奏です。管が巧い「第2プロムナード」の後の「古城」は、デリケートな弦と木管がとても美しいです。生き生きとした「第3プロムナード」の後の「テュイルリーの庭」も理想的な仕上がりです。「ビドロ」は低弦の刻みからして重厚であり、併せてラヴェル編の華やかさも表出しています。不安を感じさせる「第4プロムナード」とは打って変わって愉しい「卵の殻をつけた雛の踊り」も理想的な名演。「サミュエル・ゴールデンベルクとシュムイレ」も、この曲のお手本のような演奏で、ここでもしっかりした低弦が効果を上げています。「リモージュの市場」も素晴らしく、「テュイルリーの庭」と「卵の殻を~」の2曲と同様、テンポも色彩感もよろしく、嬉しくなります。「カタコンベ」は、モントリオール響のブラスはこんなにも素晴らしかったのかと改めて思うほど隙の無い演奏で、「死せる言葉に~」も美しい演奏、「バーバ・ヤガー」の冒頭はこの楽団の底力を改めなければと思うほどの迫力で、一区切りついた後の各楽器のバランスが絶妙、その後は再び迫力満点、そして「キエフの大門」も完璧で、ひとつひとつの楽器の意味深さ、ラヴェル編を十分に生かし切った名演です。これはもう【決定版】ですね。凄い演奏でした。
「展覧会の絵」(フンテク編)
レイフ・セーゲルスタム
フィンランド放送交響楽団
1986年2月17, 19日
Kultturitalo, Helsinki, Finland
Wikipedia によれば、レオ・フンテク(1885年-1965年)は、オーストリア・ハンガリー帝国出身のスロベニア人の指揮者で、生涯の大半をフィンランドに過ごし、フィンランド歌劇場の指揮者も務めた、のだそうです。そのフンテクによる管弦楽編曲版をセーゲルスタム(1944年-)の指揮で聴きました。
「第1プロムナード」は弦で始まります。それに管が加わり、そしてティンパニと、次第に厚みと壮麗さを増していきます。「グノム」は重厚なラヴェル編と異なり、もっと軽く飛び回る感じですが、中間部はおどろおどろしいです。「第2プロムナード」は弦と木管によります。「古城」のメロディ楽器はコーラングレ、そして弦。ティンパニがリズムを刻んでいます。ちょっと淡泊な感じ。「第3プロムナード」は弦とホルン、「テュイルリーの庭」はピッコロが目立ち、「ビドロ」は重厚ではありませんが、打楽器が盛大に打ち鳴らされます。「第4プロムナード」は、最初は木管、途中からラヴェル編によく似たアレンジ。「卵の殻を~」もラヴェル版に似ていますが、もう少しおどけた感じ。「サミュエル~」も弦で始まり、「シュムイレ」は木管と木琴。原典どおり「第5プロムナード」が演奏されますが、弦と金管です。「リモージュの市場」も、どうしても似てしまうのか、ラヴェル版を思い出させますが、もっとふざけた感じです。「カタコンベ」は金管にタムタムが加わります。「死せる言葉~」も弦の伴奏でホルンや木管が旋律を歌います。「バーバ・ヤガー」もラヴェル編を下敷きにして、もう少し色彩感を増したような印象ですが、ラヴェル編と同じ箇所が多いです。「キエフの大門」の最初は金管のみ、やがて木管、そしてティンパニが加わり、と、きりが無いのでもう終わりにしますが、この「キエフの大門」のオーケストレーションは、なかなか興味深かったです。
「展覧会の絵」(ラヴェル編)
リッカルド・シャイー
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
1986年8月
【お薦め】
この年代になってくると、演奏がパターン化され、画一的になり、名演が生まれ難くなるのではないかと考えましたが、前述のデュトワ指揮の録音といい、良いものは良いのですね。各プロムナードは、シャイーの指揮あってなのでしょうけれど、コンセルトヘボウ管の音色、巧さに魅了されます。「グノム」の迫力(打楽器がすごいのです)、奇怪さは申し分なく、「古城」もやや速めのテンポによりもたれることがなく、物懐かしさも十分表出しています。「テュイルリーの庭」の素朴な感じ、「ビドロ」の重厚感、「卵の殻を~」の木管と弦、「リモージュの市場」の金管と弦の妙技、「カタコンベ」の金管のハーモニー、「バーバ・ヤガー」はまずティンパニとグランカッサの強打に耳が行きがちですが、やはりコンセルトヘボウの合奏能力の高さが物を言います。素晴らしいです。遅めのテンポでじっくりと音の大伽藍を聴かせる「キエフの大門」も見事です。
「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1987年12月
ベルリン,フィルハーモニー・ザール
【お薦め】
ライヴや映像まで含めると何種類あるのかわからないカラヤン(1908年-1989年)の指揮です。前回(1965年)の録音よりも格段に優れているのではないでしょうか。「第1プロムナード」はいぶし銀の響き、続く「グノム」は重心が低く、荒涼とした感じがあります。「第2プロムナード」もしみじみとしてうて、「古城」のアルト・サクソフォーンやその他の木管や弦も美しいです(カラヤン・ゴールドのCDで聴いているのですが、低音が膨らみ気味なのが気になりますが。)。「第3プロムナード」からは予想できない「テュイルリーの庭」の良いテンポ、「ビドロ」はソロがこれだけ小さな音で始まるのは初めて聴きました。木管が愛らしいけれど、弦が不安な感じをよく表現している「第4プロムナード」を経て、「卵の殻を~」も絶妙なタイミング。「サミュエル~」はカラヤンらしい音価を十分保った(レガートな)弦とトランペットのソロの対比が興味深く、「リモージュの市場」の色彩感の表出、いかにもベルリン・フィルの金管といった「カタコンベ」、ゆったりと語られる「死せる言葉に~」、分厚い響きで重量級だけれど意外に快速な「バーバ・ヤガー」、朗々と歌われる「キエフの大門」など、久しぶりに聴いて、この年齢にあってもカラヤンはカラヤンであったのだと感銘を受けました。
「展覧会の絵」(ラヴェル編)
マリス・ヤンソンス
オスロ・フィルハーモニー管弦楽団
1988年8月
オスロ,コンセルトフス
「グノム」は打楽器の切れ味も鋭く(と言っても鋭くない演奏は少ないけれど)、グランカッサも量感があって楽しめます。「古城」も雰囲気の良い演奏です。「テュイルリーの庭」は珍しくテンポが速い演奏で、木管楽器がちょっときつそう。「ビドロ」はリズムをはっきり刻む弦が面白です。「卵の殻を~」も速いテンポが慌ただしい感じで楽しい演奏、「リモージュの市場」も同様です。ヤンソンスにはこういう曲が向いているのでしょうか。「バーバ・ヤガー」「キエフの大門」も良いのですが、もはやこれぐらいの演奏は当たり前の年代となっています。
「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ユーリ・テミルカーノフ
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1989年9月19,22,25日
「第1プロムナード」が好演なので、期待が高まります。「グノム」はテンポの変化を大きく取った演奏、「古城」は割とすっきりとした感じで、私は好きです。「テュイルリーの庭」も上々の出来、「ビドロ」もなかなか重厚です。「卵の殻を~」も十分コミカルで美しくもあり、「サミュエル~」もよく歌う演奏、「リモージュの市場」も弦の響きが爽やか、「カタコンベ」も殺伐とした感じが良いです。「バーバ・ヤガー」が予想外の迫力でこれは楽しめました。「キエフの大門」は余裕のあるテンポでじっくりと盛り上げる演奏でした。
「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ネーメ・ヤルヴィ
シカゴ交響楽団
1989年11月27、28日
シカゴ,オーケストラ・ホール
とにかく録音が多い父ヤルヴィ(1937年-)ですが、「展覧会の絵」に名盤を残しているシカゴ響との録音です。「グノム」は変化が面白く、「古城」は速めのテンポが好ましいです。「テュイルリーの庭」は緩急の付け方に特徴があり、「ビドロ」は普通かな? 「卵の殻を~」はちょっと切れ味が鈍く引き摺る感じです。この録音ではやはり「バーバ・ヤガー」以降が良く、この曲の演奏で最も速いと思われるテンポでぐいぐい進みますが、中間部は急に速度を落としてしまったのが残念です。「キエフの大門」もシカゴ響らしい絢爛たる演奏で、この曲が白眉でした。せっかくのシカゴ響だったのですが、総じてまとまりの悪さのようなものを感じてしまいました。
「展覧会の絵」(ラヴェル編)
ジュゼッペ・シノーポリ
ニューヨーク・フィルハーモニック
1989年12月
ニューヨーク,マンハッタン・センター
「アイーダ」の指揮中に倒れて亡くなってしまったシノーポリ(1946年ー2001年)の「展覧会の絵」です。他の指揮者とはちょっと変わったことをやってくれるのでは?という期待をしてしまうのですが、どうでしょうか。
「第1プロムナード」は最初は清々しいのですが、内省的な面も漂わせます。続く「グノム」は大仰にならないバランスを保ちつつ、ラヴェル編のグロテスクな雰囲気を醸し、良い出来です。「古城」は老いた人が語る昔物語のようで、まどろみながら音楽が進行していくよう。「テュイルリーの庭」は、遅めのテンポも多い中、ちょうど良いテンポで美しいです。「ビドロ」も力押しせず、虚無感さえ漂う演奏になっています。「卵の殻を~」も速めで駆け抜け、前後の曲との対比が上手です。「サミュエル~」も威丈高にならない賢人のようで、かえって「シュミイレ」の卑屈さが目立ちます。「リモージュの市場」も快速で走り回ります。「カタコンベ」はニューヨーク・フィルの金管の響きが良いです。「死せる言葉~」は夢見るような美しい音楽。「バーバ・ヤガー」も勢いで演奏しているのではなく、よく考えたうえでの表現だと思います。「キエフの大門」も同様で、落ち着いた運びです。この曲は起伏が大きいうえに長いので、聴いているうちに疲れることがありますが、抒情的な部分を大切にした演奏と感じました。シノーポリらしい演奏ですが、最後の2曲を物足りないと思う人もいるでしょうから無印としました。
「展覧会の絵」(ラヴェル編)
カルロ・マリア・ジュリーニ
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1990年2月17・19日
シカゴ響との録音が名盤の誉れ高いジュリーニ(1914年-2005年)ですが、76歳での再録音です。オーケストラはベルリン・フィル、レコード会社はSONY CLASSICALに変わります。
「第1プロムナード」はベルリン・フィルが艶っぽくて輝かしい響きを聴かせますが、「グノム」はお爺さんのようです。「古城」はこの頃のジュリーニにマッチした曲想なので、文句なしです。「テュイルリーの庭」はやっぱり遅かったですが、管も弦も優美です。「ビドロ」は普通、かな? 木管が美しい「第4プロムナード」を経て、予想に反して軽快な「卵の殻をつけた雛の踊り」が嬉しく、ベルリン・フィルの巧さが光ります。「サミュエル・ゴールドベルグとシュミイレ」は、今ひとつ。「リモージュの市場」もしっかり弾かせるので少し重め、「カタコンベ」より「死せる言葉による死者への呼びかけ」のほうが良い出来です。ここまでで、ジュリーニの統率力に翳りが見えるときがあったのが少々残念で、「バーバ・ヤガー」はテンポが遅いのが気になり、「キエフの大門」も壮麗ではありますが、このテンポでは少々つらいものを感じました。
「展覧会の絵」(ラヴェル編)
リッカルド・ムーティ
フィラデルフィア管弦楽団
1990年10月
【お薦め】
ムーティ(1941年-)の再録音、管弦楽は同じフィラデルフィア管弦楽団です。やはり、このオーケストラの華麗な響きは、「展覧会の絵」によく合っており、「第1プロムナード」から魅了され(以降の「プロムナード」も全て良い出来です)、早くも【お薦め】当確の予感です。続く「グノム」も理想的で最初から最後まで素晴らしいです。しっとりとした「古城」も良く、テンポ感が優れています。曲の長さを感じさせない、このぐらいがちょうど良いのです。「テュイルリーの庭」には寂寥感さえ漂います。「ビドロ」はなかなかよい演奏に巡り会えない曲ですが、これは申し分なしで、「卵の殻を~」も楽しく美しい演奏です。「サミュエル~」も巧いですね。「リモージュの市場」も嬉しい演奏、「カタコンベ」の艶やかな金管、「死せる言葉~」の情感など、フィラデルフィア管は本当に素晴らしいです。「バーバ・ヤガー」「キエフの大門」の迫力は言うに及ばずです。
「展覧会の絵」(ゴルチャコフ編)
クルト・マズア
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
1990年12月
管弦楽編曲者のセルゲイ・ゴルチャコフ(1905年-1976年)に関して詳しいことはわからないのですが、モスクワ音楽院作曲科教授だった人らしいです。指揮はクルト・マズア(1927年-2015年)です。マズアというと、私にはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者(1970年-1996年)というイメージがあり、同オケによる映像収録(1993年)もあるのですが、今回はロンドン・フィルによる演奏だけを聴きました。
「第1プレリュード」はトランペットで始まるところはラヴェル編と同じですが、弦楽器と交互にメロディを受け持ちます。続く「グノム」で鳴らされる打楽器はウッドブロクだそうで、これが目新しいのですが、ラヴェル編と共通する部分が多いですね。でも、なかなか良い編曲です。「第2プロムナード」は別の曲を聴く趣があり、「古城」はもちろんアルト・サクソフォーンではありませんが、この曲はやっぱりラヴェル編のほうがいいかな。「テュイルリーの庭」は木管偏重です。ゴルチャコフ編のほうが素朴さが出ています。ffで始まる「ビドロ」はホルンのユニゾンが雄々しい感じで、ただでさえ重苦しい曲が息苦しく感じます。「卵の殻を~」はヒヨコが増えたようで、「サミュエル~」はラヴェル編とよく似ていますが、「シュミイレ」はトランペットではなくソプラノ・サクソフォーンです。ここでラヴェル編ではカットしている「第5プロムナードが復活します。元気が良いアレンジ。「リモージュの市場」は一層せわしない感じ、「カタコンベ」はシンプルなラヴェル版に対し、打楽器・弦楽器を追加してドラマティックに仕立てています。「バーバ・ヤガー」はなんとも形容しがたいですが、成功しているか否かはともかくとして、オーケストラ曲としては面白いです。「キエフの大門」も同じです。演奏はマズアのうなり声も聴こえる熱演で、これはラヴェル版で聴いてみたかったですね。