この曲は,2009年の1月24日(土)にアップしていました。
当時のコメント欄に「夏になったら挑戦してみます」と書いてありましたので,改めて記事にしてみたいと思います。
グスターヴ・ホルスト
大管弦楽のための組曲「惑星」(The Planets)作品32
火星,戦いをもたらす者(Mars, the Bringer of War)
金星,平和をもたらす者(Venus, the Bringer of Peace)
水星,翼のある使者(Mercury, the Winged Messenger)
木星,快楽をもたらす者(Jupiter, the Bringer of Jollity)
土星,老いをもたらす者(Saturn, the Bringer of Old Age)
天王星,魔術師(Uranus, the Magician)
海王星,神秘主義者(Neptune, the Mystic)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
DECCA 1961年9月
ウィーン,ゾフィエンザール
この曲をローカル名曲からインターナショナル名曲に押し上げた録音と言われています。いまだにこの演奏が最高という人もいるでしょうけれど,名盤がいっぱい現われてしまった今日,改めて聴くと少々複雑な思いがします。指揮者もオーケストラも頑張っているけれど,少々ぎこちなさを感じます。それが初々しくてよいのかもしれません。「木星」以降の演奏が好きですが,この演奏の売りは何と言ってもウィーン・フィルの独特な音色でしょう。なお,この録音に関しては斜めのジャケットのOIBP盤のリマスタリングはよくないと思います。
ズビン・メータ指揮
ロサンジェルス・フィルハーモニー管弦楽団
ロジェ・ワーグナー合唱指揮
ロサンジェルス・マスター・コラール女声合唱
DECCA 1971年4月
ロサンジェルス,ロイスホール
DECCAのスペクタル名曲路線を担当していた頃のメータ/ロス・フィルのコンビによる演奏。楽譜に書かれている音符は全部聴かせてやんよという録音とダイナミックな演奏による効果満点な1枚。意外に「金星」や「水星」も良いです。このタイプの名演奏・名録音が多くなってしまった今となっては分が悪いのですが,忘れられない一枚です。
レナード・バーンスタイン指揮
ニューヨーク・フィルハーモニック
アブラハム・カプラン合唱指揮
カメラータ・シンガーズ
SONY CLASSICAL 1971年11月・12月
ニューヨーク,エイヴリー・フィッシャー・ホール
中学生の頃,友人宅で聴かせてもらった演奏で,「惑星」全曲を聴いたのはこのときが初めてだったと思います。「火星」や「水星」はこんなにテンポが速かったかなぁ。瑞々しい感性と覇気がみなぎるバーンスタインによる若々しい熱演といったところでしょうか。ややオフマイク気味の録音ですが,悪くはありません。「水星」なんてとても良いと思います。
ユージン・オーマンディ指揮
フィラデルフィア管弦楽団
ロバート・ペイジ&マリア・ザッツマン合唱指揮
フィラデルフィア・メンデルスゾーン・クラブ
RCA 1975年12月18日
フィラデルフィア,スコティッシュ・ライト・カテドラル
オーマンディとフィラデルフィア管弦楽団が残した多くの録音の中でも最高傑作のひとつではないでしょうか。輝かしいサウンドはやや高域を持ち上げた録音のせいもあり大変豪華な印象を与えます。少々やかましいですけれどね。指揮も,オーマンディってこんなに濃い味つけをする人だったっけ?と思わせるような高カロリーのものです。効果満点という言葉はこちらに使うべきでした。そういう演奏であり録音です。「土星」ラスト近くのオルガンの重低音がすごい……。
エイドリアン・ボールト指揮
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
ジェフリー・ミッチェル合唱団
EMI CLASSICS 1978年6月・7月
ロンドン,アビー・ロード第1スタジオ
「惑星」のスペシャリストであるボールトの5回目にして最後の録音(ですよね?)。「惑星」はボールト指揮の演奏が一番というコメントをよく見かけます。そんなに決めつけなくてもいいじゃんって思うんですけれど,こうして聴き比べてみると,やはりこれは名演であったのだなと感心します。どの曲もこう演奏されなければいけないというような信念が感じられ,まさにその通りだと思わされます。演奏効果が節度を保ちつつきちんと表現されているのが素晴らしく,感動的でもあります。聴き比べの最後にもう一度聴き直してみたいと思わせる名盤。
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
RIAS室内合唱団
Deutsche Grammophon 1981年1月
ベルリン,フィルハーモニーザール
カラヤンの20年ぶりの再録音。晩年になってなぜこの曲?という思いもありましたが,録音してくれて感謝したい演奏です。前録音はオーケストラの音色が面白かったものの未熟な印象がありました。しかしこのベルリン・フィルとの再録音は,音楽づくりの完成度が高く,「惑星」のお手本といっていいくらいの名演だと思います。。
なお,OIBP(KARAJAN GOLD)盤のほうがゴージャス感がありますが,初期デジタル録音の情報量の少なさをエコーでごまかしているような気もします。私は初期盤のほうが好きで,オーケストラの音が自然で楽器の分離がよいですし,例えば「天王星」フル・オルガンの上行グリッサンドも初期盤のほうがきちんと聴こえていました。(でも,初めて買う人はOIBP盤のほうが聴き映えがしてよいかも。)
ロリン・マゼール指揮
フランス国立管弦楽団
フランス国立放送合唱団
SONY CLASSICAL 1981年
パリ,フランス国立放送104スタジオ
マゼールはなにかやってくれるのではないかと期待させる指揮者ですが,この演奏も裏切りません。それがあちこちにそれがあるわけではなく,どこかはネタバレになるので書きませんが,興味がある人は聴いてみてください。いや,興味がなくてもこの「惑星」は秀演と思いますので是非。楽器のバランスがとてもよく,聴いていて非常に気持ちがよいです。録音も優秀です。全体的に美しく丁寧に仕上げた演奏で,フランスのオーケストラらしい色彩感も魅力的です。
シャルル・デュトワ指揮
モントリオール交響楽団
イワン・エドワース合唱指揮
モントリオール合唱団
DECCA 1986年6月
モントリオール,聖ユスターシュ教会
頭に楽譜が浮かんでくるようなDECCAらしい精密な描写の録音。オルガンの音が最もよく聴こえます。私は一時期このCDが一番好きだったのですが,やっぱりいいですね。初めて聴いたときは,モントリオール交響楽団がここまで壮麗な音が出せるオーケストラと思わなかったので驚きました。聴かせ上手なデュトワの指揮にも全く不満はなく,演奏・録音共に総合点の高いCDでしょう。無難な演奏ともいえますが,この洗練度,完成度の高さは一頭地を抜いていると思います。
コリン・デイヴィス指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ディートリヒ・クノーテ合唱指揮
ベルリン放送女声合唱団
PHILIPS 1988年11月
ベルリン,フィルハーモニー
指揮者の誠実な人柄を想像させる演奏です。したがって「金星」「水星」「土星」「海王星」は美しい演奏で申し分のない丁寧な仕上りです。「火星」「木星」「天王星」も各曲がもつ演奏効果をストレートに生かした力強いもので大変聴き応えがあります。そしてベルリン・フィルのアンサンブルはカラヤン盤より一層緻密ですので,こちらを好む人も多いでしょう。録音が優秀なのも嬉しいですね。飽きの来ない名演だと思います。〔以上,書き直しました〕
ジェイムズ・レヴァイン指揮
シカゴ交響楽団
マーガレット・ヒリス合唱指揮
シカゴ交響女声合唱団
Deutsche Grammophon 1989年6月
シカゴ,オーケストラ・ホール
このCDを購入したとき,これで「惑星」のCDはもう買う必要がないと思った演奏であり録音でした。シカゴ交響楽団によるこの曲のスペクタキュラー路線での決定的演奏に,お腹がいっぱいになってしまったのです。オーケストラが優秀で,録音もよく,レヴァインも演出巧者で,言うことなしです。ひとつの方向の頂点。でも,聴いているうちに疲れてきちゃう?
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮
アーヒム・ホールプ副指揮
フィルハーモニア管弦楽団
モンテヴェルディ合唱団(女声)
Deutsche Grammophon 1994年
ロンドン,オールハローズ・ゴスペル・オーク
ガーディナーの「惑星」ってなんか違和感がありますが,ガーディナーはホルストに縁があるのだそうです。このCDは購入したときから好きで,個人的にはレヴァイン/シカゴ響の定評ある演奏よりしっくりくるのは,イギリスの指揮者とオーケストラによる演奏だからでしょうか。各曲の性格分けが的確で,オーケストラも巧く,録音も大変優秀ですから最初の1枚としてもお薦めです。世間の評価があまり高くないみたいで残念。良い演奏だと思うんだけどな。併録のグレインジャーの「戦士たち(管弦楽と3台のピアノのための想像上のバレエの音楽)」が面白い曲で,なかなかポイントが高いCDです。
サイモン・ラトル指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
グリットン・ロビン,サイモン・ハルジー合唱指揮
ベルリン放送合唱団
EMI CLASSICS 2006年3月16~18日
ベルリン,フィルハーモニー
再生装置を選ぶCDで,スピーカーによって驚くほど印象が異なります。雰囲気で聴かせるタイプのスピーカーでは欲求不満が溜まりますが,分解能・解像度が高いスピーカーで聴くと優秀録音だと思えます。けして悪い録音ではないです。「火星」はいかにも優秀な指揮者とオーケストラによる充実したサウンドでラストはなかなか壮絶。じっくり遅い「金星」はベルリン・フィルの名技のせいもあって天国的な美しさがありますし,いつもながら小気味良く駆け抜ける「水星」も意味ありげに演奏されます。「木星」の緩急変化にラトルのセンスの良さを感じますし,「土星」も深みと重みのある演奏です。最も凝った管弦楽法を聴かせる「天王星」もベルリン・フィルならではの色彩感豊かな演奏で,「海王星」もメルヘンティックかつ神秘性豊か。このまま終わってくれればよかったのですが,最後にコリン・マシューズ作曲の「冥王星、再生する者」(Pluto, the renewer)が演奏されちゃいます。「冥王星」だと思われなければ,面白い曲です。重低音がすごい!
【参考盤】
ジェイムズ・ワトスン指揮
ブラック・ダイク・ミルズ・バンド
キース・オーレル合唱指揮
ハレ合唱団
DOYEN 1996年
ホルストは「惑星」の編成を変えたり抜粋で演奏することを厳禁したそうです。私が初めて聴いた「惑星」(の「木星」)は吹奏楽版だったのですが,割りとイケますね。このCDはスティーブン・ロバーツの編のブラスバンド版で,弦どころか木管楽器もなしのブラスバンドによる演奏です。この曲で弦と木管ナシ(オルガンと一部の打楽器もナシ。しかし,琴みたいなハープがでかい音で響くし,海王星には女声合唱が付く)というは聴く方にとってもかなりきついものが予想されますが,実際「火星」「木星」「天王星」のような色彩的な曲は違和感があります。しかし,「金星」は大人のムードが漂うし,「水星」は別の曲みたいだし,途中まではよかった「土星」,ハープ協奏曲みたいな「海王星」と楽しめました。提供してくれた人に感謝。
意外にCDをもっていましたが,とても全部について書けないし,文字数制限もあるから,何枚かは割愛しました。なんだかんだ言って,私,「惑星」好きなんだなと思いました。