記事を書き終えると同時に、次の曲を選ばなければなりません。それは楽しい時間でもありますが、最近は迷う時間が長くなっています。
それで、思い出したのです。4年前、ある曲について書こうと思ったことを。それを書かずにブログを休止してしまったのですが、やり残しはよろしくない。そうだ、その曲について書こう! 決めました。
今回は念入りに準備しました。まず、YouTubeで10回ぐらい聴きました。それから手持ちのCDを聴き、一巡したところで、もう一度聴き直しました、さらに、時間が許す限り、第1楽章と第2楽章を聴き比べました。
聴けば聴くほどこの曲が好きになり、もっといろいろな演奏を聴いてみたくなりました。それは我慢するとして、最初はどのCDも名演と思っていたのが、少しずつ好き嫌いがはっきり分かれるようになりました、と、昨夜書いたのですが、今日聴いたら、やっぱりどれも名演に聴こえます。これでは聴き比べの記事が書けません。
セルゲイ・プロコフィエフ
ピアノ協奏曲第2番 ト短調 作品16
第1楽章 アンダンティーノ ト短調 ソナタ形式風の自由な形式
第2楽章 スケルツォ ヴィヴァーチェ ニ短調 三部形式
第3楽章 間奏曲 アレグロ・モデラート ト短調 三部形式
第4楽章 フィナーレ アレグロ・テンペストーソ ト短調 変形したロンド形式
忙しい人向け
第1楽章(5分20秒からカデンツァ)
第2楽章
第3楽章
第4楽章
スコア付き
風邪をひいてしまったので熱っぽいです。頭が働かず、文章を直すエネルギーがないので、そのままアップします。お読み苦しい箇所はご容赦ください。
ペーター・レーゼル(p)
ハインツ・ボンガルツ(指揮)
ライプツィヒ放送交響楽団
1969年,ライプツィヒ,フェアゼーヌング教会
これは好きな演奏です。
レーゼルは一つ一つの音符をきっちり弾いていくタイプのピアニストですが、そのピアノの音をマイクがよく拾っていて、オーケストラの音に埋没しません。
今では小曲を魅力的に演奏するお爺ちゃんになってしまったレーゼルの若かりし頃の名演です。若さを武器に、技巧を存分に発揮しての熱演です。打鍵の一音一音に意志の力・エネルギーを感じます。あくまでピアノが主役の曲ですから、それが好ましい結果につながっています。ボンガルツの指揮も味わい深いもので、名指揮者というだけのことはあります。
ところで、レーゼルは、チャイコフスキー国際コンクール第3回(1966年)で、第6位なのです。これほどのピアニストが第6位なのですよ。気になったのでこの年の順位を調べてみました。
ピアノ部門
第1位 グリゴリー・ソコロフ(ソ連)
第2位 ミッシャ・ディヒター(アメリカ)
第3位 ヴィクトル・エレシュコ(ソ連)
第4位 アレクサンドル・スロボジャニク(ソ連)
ゲオルギー・シロタ(ソ連)
第5位 エドワード・アウアー(アメリカ)
ジェイムズ・ディック(アメリカ)
第6位 フランソワ=ジョエル・ティオリエ(フランス)
ペーター・レーゼル(東ドイツ)
第7位 アンドレ・デ・グロート(ベルギー)
第8位 エティエンヌ・リュシアン・カルヌセッカ(フランス)
ブルーノ・リグット(フランス)
第1位はソコロフだったのですね。他は知らない人ばかり。
ウラディーミル・アシュケナージ(p)
アンドレ・プレヴィン(指揮)
ロンドン交響楽団
1974、75年,ロンドン,キングズウェイ・ホール
アシュケナージとプレヴィン/ロンドン交響楽団というと、ラフマニノフのピアノ協奏曲全集の名演を思い出しますが、プロコフィエフもほぼ同様の印象を持ちました。アシュケナージのピアノは、美しいと思っていたけれど、音が滲んでいるように聴こえるのが独特であり、中低音に弾みがあるのですね。
プロコフィエフのピアノ協奏曲全集の名盤であり、正々堂々というか、奇をてらわないというか、正統的というか、標準的・模範的というか……。その後、いろいろな演奏が出てしまった現在、なんとなく、インパクトに欠けるような気もします。
プレヴィンの指揮はもちろん良いです。名サポートぶりです。
オラシオ・グティエレス(p)
ネーメ・ヤルヴィ(指揮)
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
1990年5月7-12日,アムステルダム,コンセルトヘボウ
グティエレスが弾くピアノの音色の美しさにびっくり。この曲でこんなに美しいピアノが聴けるとは思いませんでした。音色から香りが漂ってくるよう。こんな演奏だったら何回でも聴けます。美しいだけでなく、打鍵の迫力や、ちょっとした表情のセンスの良さもあり、この演奏は大好きです。
何度タイプしても名前が覚えられないグティエレスですが、1970年のチャイコフスキー国際コンクールで第2位(第1位は次のCDのクライネフ)となったことから、グティエレスの充実した経歴が始まるのですが、日本ではあまり知られていませんよね。録音もあまり多いとはいえませんし。
グティエレスは1948年生まれだから、もう69歳になってしまいました。いつまでも代表作がプロコフィエフのピアノ協奏曲全集というのではなく、もう一花咲かせてほしいものです。
ウラディーミル・クライネフ(p)
ドミトリー・キタエンコ(指揮)
フランクフルト放送交響楽団
1991・92年,フランクフルト,ドルンブッシュ放送局
1970年度の第4回モスクワ・チャイコフスキー国際コンクール第1位のクライネフです(2位はグティエレス)。このピアニストも入手できる録音が少ないし、代表作はプロコフィエフのピアノ協奏曲全集のようです。
オーケストラと一体感のある録音で、客席だとこのように聴こえるのかもしれません。クライネフのピアノは、グティエレスに比べると、丸みがありやや太めのタッチで、この曲の一面である、ラフマニノフの影響、ふつふつと湧いてくる情念のようなもの、は、よく感じとることができます。初めての人には聴きやすい演奏かもしれません。
キタエンコの指揮もプロコフィエフにふわしいもので、管楽器の扱いなど面白いです。
これも名演です。自信をもって推薦できます。
クン=ウー・パイク(p)
アントニ・ヴィット(指揮)
ポーランド国立放送交響楽団
1991年5月13-18日,カトヴィツェ,ポーランド放送コンサート・ホール
クン=ウー・パイクは1945年(ソウル)生まれの人ですが、私が持っている(かなりマイナーなピアニストでも載っている)本では、なぜか紹介されていません。Deutsche GrammophonからCDが発売されているぐらいの人なのに不思議です。とはいえ、某ネットCDショップで検索したところ、15件しかヒットしませんでした。
パイクのプロフィールには「2003年にはプロコフィエフ没後50年を記念して、世界各地でプロコフィエフの協奏曲を演奏した。(略)録音では、プロコフィエフ:ピアノ協奏曲全曲でフランスのディアパゾン・ドールおよびヌーヴェル・アカデミー・ドゥ・ディスク賞を受賞」しています。
この曲を弾き込んでいるのでしょう。音楽の魅力が自然に伝わってきますが、ペーター・レーゼルの演奏に近いものがあります(レーゼルの方が巧いですけど)。やや渋めの重い音色が曲にバッチリ合っています。
ヴィットの指揮がやや大味に感じられるのと、オーケストラの魅力が乏しいのが残念です。
アレクサンドル・トラーゼ(p)
ヴァレリー・ゲルギエフ(指揮)
マリインスキー劇場管弦楽団
1995年7月,フィンランド,ミカエリ・コンサートホール
この演奏が今回の悩みの種のひとつでした。深淵な解釈による名演に思えるときと、無機的な音の羅列に感じられるときがあったのです。
ただ、初めてこの曲を聴かれる方は、この演奏からじゃないほうがよいと思います。まず。いくつか他の演奏を聴いて、この曲に興味を抱けるようであれば、この録音に挑戦するのがよろしいのではないかと。
この曲のある面を、極限まで描いた演奏と言えるかも。この曲に最初に感じる親しみやすさは、ラフマニノフ的なロマンティシズムだと思うのですが、この演奏はそこから遠いように思うのです。
ピアニストと指揮者の方向が一致して、不思議な世界、透徹した世界、人を寄せ付けない世界を創り出しました。すごいことです。
ユンディ・リ(p)
小澤征爾(指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
2006年5月24-26日,ベルリン,フィルハーモニー(ライヴ)
ユンディ・リは、「第14回ショパン国際ピアノコンクールで、スタニスラフ・ブーニン以来15年ぶりに第1位での優勝」を果たしたことで有名になりました。15年ぶりというとすごいですが、ショパン・コンクールは5年に一度の開催なので、第12回と第13回は第1位の該当者がなしだったということです。いや、否定的な意味で言っているわけではないです。
ユンディ・リが好んで弾いている曲ということもあって、さすがに手慣れたものです。ショパン・コンクール第1位は伊達ではないです(とフォロー)。
第2楽章など、テンポが速すぎて、弾くので精一杯のような気がしないでもありませんが、小澤征爾/ベルリン・フィルの熱演もあって興奮させられます。
ただ、この演奏も悩みの種で、ユンディ・リのピアノが素晴らしいと思えるときと、微妙な弾き崩しに違和感を覚えるときときがあるのです。そういう意味では、第4楽章が最も良かったかも。
それにしてもこの当時、小澤征爾さんはまだまだ元気だったのですね。ピアニストとオーケストラを煽りまくっています。カロリーが高い指揮です。
ユジャ・ワン(p)
グスターボ・ドゥダメル(指揮)
ベネズエラ・シモン・ボリバル交響楽団
2013年2月,カラカス
これも悩みの種でした。ユジャ・ワンにプロコフィエフは無理だったのではと思うときと、女性らしい細やかな表現に長け、かつ、技巧に優れたユジャ・ワンらしい演奏と思えるときがあるのです。
この記事の最初に張り付けたYouTubeの演奏のほうがよかったです。CDもそれだけ聴いていれば満足なのですが、聴き比べをすると、どうしても男性ピアニストの力強さに分があるように思います。叙情的な部分などはさすがと思える箇所もあるのですが。
もうほんのちょっぴり、録音がユジャ・ワンに味方してピアノを明確に捉えてくれたら、違う印象をもったかもしれません。主役がドゥダメルのような気がするのは、気のせいでしょう。ドゥダメルとオーケストラには感心しました。
なお、このCDは「レコード芸術誌の第36回リーダーズ・チョイス~読者が選んだ2011年ベスト・ディスクの第1位に選ばれました。私も一票投じたかも。
追記:
11月24日(金)のサイモン・ラトル/ベルリン・フィル(サントリー・ホール)のソリストは、ユジャ・ワンだったのですね。そういうことは早く言ってくれないと!
追記:聴いてみたかった演奏
ミシェル・ベロフ(ピアノ)
クルト・マズア(指揮)
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
1974年1月・2月、ライプツィヒ,パウル・ゲルハルト教会
エフゲニー・キーシン(ピアノ)
ウラディミール・アシュケナージ(指揮)
フィルハーモニア管弦楽団
2008年1月17,18日、ロンドン,ロイヤル・フェスティヴァル・ホール(ライヴ)