2000~2003年に「レコード芸術」誌で、「完全保存版 21世紀の名曲名盤300 決定盤はこれだ!」という特集が組まれましたが、プロコフィエフは「交響曲第1番(古典交響曲)」「ピーターと狼」「ピアノ協奏曲第3番」の3曲だけでした。
2009~2010年にも「新編 名曲名盤300」という6回に渡る特集がありましたが、300曲という総枠の中で、プロコフィエフの3曲が変わることはありませんでした。編集部の選曲は揺ぎないものでした。
そして、2014~2016年は「最新版 名曲名盤500」となり、500曲に増強したこともあって、プロコフィエフは「交響曲第1番(古典交響曲)」「交響曲第5番」「ロメオとジュリエット」「ピアノ協奏曲第3番」「ヴァイオリン協奏曲第1番」「ヴァイオリン・ソナタ第1番」「ピアノ・ソナタ第7番<戦争ソナタ>」と大幅増。編集部の「ピーターと狼」へのこだわりも失せたようです。
今月号では「最新版 名曲名盤プラス50」という追加特集が組まれ、プロコフィエフは「交響曲第7番」が追加されました。う~ん。
今回は、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番を記事にします。
「カロル・シマノフスキとアルトゥール・ルービンシュタインはこの作品の上演に接した後、感極まって楽屋に作曲者を訪ねた」そうです。私のように何度も繰り返し聴かなければ曲の佳さを理解できない凡人と違って、大家は一聴で芸術の真価を理解するのでしょう。
渡辺和彦氏が「この美しい、本当に美しいコンチェルトは(略)」(ヴァイオリン/チェロの名曲名演奏、音楽之友社)と書き出さなければ、私はこの曲を繰り返し聴く努力を怠ったに違いありません。
セルゲイ・プロコフィエフ
ヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 作品19
第1楽章 アンダンティーノ ニ長調
第2楽章 スケルツォ、ヴィヴァーチッシモ イ短調
第3楽章 モデラート - アンダンテ ニ長調
とにかく、取っつき難く、懐かしく、奔放で慎ましく、大胆かつ繊細で、長いようで短く、気まぐれで、不可解で、不思議な、しかし、美しい曲。
Lisa Batiashvili (1/3) Prokofieff Violin Concerto No. 1
1. Andantino - Andante assai
Lisa Batiashvili (2/3) Prokofieff Violin Concerto No. 1
2. Scherzo (Vivacissimo)
Lisa Batiashvili (3/3) Prokofieff Violin Concerto No. 1
3. Finale. Moderato
ダヴィド・オイストラフ(Vn)
ロンドン交響楽団
ロヴロ・フォン・マタチッチ(指揮)
1954年11月18・21日,ロンドン,アビー・ロード第1スタジオ
いきなり決定盤。録音はモノラルだけれど、鑑賞に差し支えない、というか、ステレオだろうがモノラルだろうが、この演奏の価値には関係ないです。全曲を聴き終えた後、もう一度最初から聴きたくなります。このような名演を言葉で表現するのは難しいのですが、とにかく終始圧倒的です。豊麗な音色でよく歌うヴァイオリン。技巧も完璧。どうしてこんな音が出せるのだろう。20世紀の大ヴァイオリニスト、ダヴィド・オイストラフの代表的な録音のひとつ。
チョン・キョンファ(Vn)
アンドレ・プレヴィン(指揮)
ロンドン交響楽団
1975年10月10日,ロンドン,キングズウェイ・ホール
チョン・キョンファは鄭 京和だから、カタカナ表記が姓・名の順。ユンディ・リは李 雲迪だから名・姓の順。ユジャ・ワンは王 羽佳から、名・姓の順。なぜ表記が異なるのだろう、などとどうでもいいことを考えてしまいました。
そういえば、今年の1月、チョン・キョンファにサインをもらいました。私が子供の頃、ヴァイオリン協奏曲は、チョン・キョンファで間違いなしというくらい、彼女の存在は圧倒的なものでしたから、そのチョン・キョンファが目の前にいるという事実が信じられませんでした(普通のおばちゃんに思えました。失礼!)。
前置きが長くなりましたが、この演奏を一言で表すなら清冽でしょうか。指揮のプレヴィンとオーケストラの暖かい音色と対照的です。すごい集中力による気迫のこもった演奏。最初の録音が1970年6月だとしたら、それから間もない、チョン・キョンファが最も彼女らしかった頃の名演。
プレヴィンの指揮も最高です。プレヴィンはプロコフィエフを得意としていて、録音が多いですからね。
アンネ=ゾフィー・ムター(Vn)
ワシントン・ナショナル交響楽団
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(指揮)
1988年3月4-7日,ワシントン,ジョン・F・ケネディ・センター
誉め言葉になっていない気もしますが、ムターの音楽性(人間性)と曲との相性が非常に良いのでしょう、ムターの個性が全て長所となって、この名演奏に貢献しています。この曲のステレオ録音で最もオイストラフに近い印象を受けました。あくまで印象であり、演奏は非なるものですが、それにしても圧巻です。その味わいの濃さは格別ですし、ムターの技巧はこの曲の難所を難所と感じさせません。
ロストロポーヴィチも、プロコフィエフやショスタコーヴィチには思い入れが強いのででしょう、熱のこもった指揮と思います。
マキシム・ヴェンゲーロフ(Vn)
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(指揮)
ロンドン交響楽団
1994年5月,ロンドン,アビー・ロード・スタジオ
個性的な演奏ばかり聴いていると、ヴェンゲーロフの演奏や音色は少し地味に感じます。しかし、よく聴けば、抽斗が多いというか、表現が多彩なことはすぐ分かりますし、技巧の堅実さが素晴らしいです。プロコフィエフのこの曲の場合、技巧、特にピッチが正確であることは、大きな武器になります。バックのオーケストラと一体となって生み出すハーモニーの美しさ、弱音の美しさは最高でしょう。第2楽章の奇怪な表現も随一です。このCDが「最新版 名曲名盤500」の第1位であるのも素直に頷けます、とここまで書いて、それではお前はこの演奏に格別の魅力を感じているかというと、実はそうでもないのです。ヴェンゲーロフが表現の限りを尽くしているというのに、この演奏からはワクワクするものがあまり感じられなくて、妙に冷めている自分に気がつきます。いや、凄い演奏なのです。それはよく分かります。最も正確に弾いているのはこの演奏です。
(1995年に、プロコフィエフとショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲のCDは、グラモフォン賞の年間最優秀賞と、協奏曲部門最優秀賞に輝き、グラミー賞にもノミネートされた。)
ギル・シャハム(Vn)
アンドレ・プレヴィン(指揮)
ロンドン交響楽団
1995年6月,ロンドン,ンリーウッド・ホール
神童と呼ばれてデビューしたギル・シャハムの、数多い録音の中でも代表的な一枚でしょう。たぶん。私が勝手に思っているだけですが。ヴェンゲーロフ盤をあまり褒めていない私ですが、この演奏は素直に良いと思うのです。最初の一枚にはこのCDがお薦めですと言えるぐらい。ヴァイオリンを弾く技術に関してはヴェンゲーロフの方が数段上だと思いますが、シャハムはもちろん巧いですし、やや細めですが音色も美しく、この曲の素晴らしさを分かりやすく伝えてくれます。優秀な録音もシャハムをサポートとしています。
この録音もプレヴィンですね。熟練の指揮が素晴らしいです。
庄司紗矢香(Vn)
ユーリ・テミルカーノフ(指揮)
サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団
2012年9月25・26日,サンクトペテルブルク・フィルハーモニア
好きになった曲とはいえ、毎日繰り返し聴いているとさすがに飽きてきます。そのような中でもこの演奏は印象に残りました。チョン・キョンファの演奏に近いイメージでしょうか。あれほど鮮烈ではありませんが、庄司紗矢香が全身全霊を込めて演奏している、実に清々しい演奏です。その一生懸命さに心を打たれます。第2楽章の難所も鮮やかにクリアしていますし、第3楽章の豊かな歌も素晴らしいと思います。これも名演でしょう。
庄司紗矢香は1983年生まれなので、もう34歳ですか。ついこの間デビュー(パガニーニの協奏曲第1番は2000年7月録音)した天才少女だと思っていたのに、ビックリです。時が経つのは早いですね。
ところでこのCD、録音は優秀なのですが、演奏場所の外を走る大型自動車の振動もマイクが拾っているようで、地鳴りのような音が聴こえるのが気になります。
Shoji Sayaka Plays Prokofiev 1/2 : Violin Concerto No.1
(冒頭のCMは、数秒後にスキップしてください。)
この演奏には関係のない(どうでもいい)ことですが、庄司紗矢香のCD(Deutsche Grammophon)は、国内盤のみの発売なのでしょうか?
今後機会があれば聴いてみたい演奏です。
ダヴィド・オイストラフ(Vn)
キリル・コンドラシン(指揮)
モスクワ放送交響楽団
(モスクワ・フィル?ソ連国立交響楽団?)
1953年頃の録音
ナタン・ミルシテイン(Vn)
カルロ・マリア・ジュリーニ(指揮)
フィルハーモニア管弦楽団
1962年10月17~19日、65年6月4~7日
ロンドン、アビー・ロード第一スタジオ
アイザック・スターン(Vn)
ユージン・オーマンディ(指揮)
フィラデルフィア管弦楽団
1963年録音
イツァーク・パールマン(Vn)
ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー(指揮)
BBC交響楽団
1980年10月