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バルトーク 弦楽四重奏曲第5番 Sz.102 の名盤

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「弦楽四重奏」はクラシック音楽において究極の演奏形態であるということが書かれた本がありましたが、このジャンルは「弦楽四重奏曲の父」であり、68曲も残したハイドン(1732-1809)に始まり、モーツァルト(1756-1791)が23曲、ベートーヴェン(1770-1827)が16曲を残しました。

それに続く、シューベルト(1797-1828)が短い生涯に15曲書きましたが、メンデルスゾーン(1809-1847)は6曲、シューマン(1810-1856)は3曲、ブラームス(1833年-1897)も3曲、チャイコフスキー(1840-1893)も3曲、例外としてドヴォルザーク(1841-1904)は14曲も書いていますが、弦楽四重奏曲はだんだん少なくなっていきます。

その理由のひとつに、「ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調 作品131」を聴いたシューベルトが、「この後で、我々に何が書けるというのだ」と述べたように、ベートーヴェン以後の作曲家にとって弦楽四重奏曲は、書きづらいレパートリーになってしまったのかもしれません。

ところが、20世紀に、再びベートーヴェンに匹敵する(と言われている)弦楽四重奏曲を書いた天才がいました。

ハンガリーのバルトーク・ベーラ(1881-1945)です。バルトークは弦楽四重奏曲を6曲残しました。

弦楽四重奏曲第1番 (1908年-1909年) Op.7 Sz.40
弦楽四重奏曲第2番 (1915年-1917年) Op.17 Sz.67
弦楽四重奏曲第3番 (1927年) Sz.85
弦楽四重奏曲第4番 (1928年) Sz.91
弦楽四重奏曲第5番 (1934年) Sz.102
弦楽四重奏曲第6番 (1939年) Sz.114

6曲の中では、特に第3番、第4番、第5番の評価が高いようです。故吉田秀和氏も「バルトーク(略)は、何よりも、二十世紀前半の音楽家中、最大のヒューマニストだった。そういう意味で、彼はベートヴェン的タイプの音楽家だ。(略)彼の六曲の弦楽四重奏もすぐれたものだが、私は、そのうち、特に、第三、四、五番を重視したい。そのうち、どうしても一曲とるとなれば、『弦楽四重奏曲第四番』だろう。これは無調にちかい。彼の最も急進的な作品の一つだが、大胆で徹底的で、しかも強い。(LP300選 新潮文庫)」と書いています。「強い」んですよ。

バルトーク・ベーラ 弦楽四重奏曲第5番 Sz.102

第1楽章 Allegro
第2楽章 Prestissimo con sordino
第3楽章 Non troppo lento
第4楽章 Allegro pizzicato
第5楽章 Allegro molto

第4番ではなく第5番を選んだ理由は、アルカント四重奏団が、第5番と第6番しか録音していないからです。第5番も、第4番に勝るとも劣らない傑作だと思いますし、急進的な第4番よりも聴きやすい(伝統的な和声への回帰が見られるから)です。

それでは早速、弦楽四重奏曲第5番を聴いてみましょう。どうぞ!

Bartók - String quartet n°5 - Végh 1954

Bartok : String Quartet No 5, BB 110, Sz 102

Bartók - String quartet n°5 - Juilliard 1963

「これのどこがベートーヴェンに匹敵するんだ!」という声が聴こえてきそうです。それほどまでにバルトークの弦楽四重奏曲は素晴らしいか?

はい、素晴らしいです!

CDはいろいろあります。現代の弦楽四重奏団にとってバルトークの弦楽四重奏曲は。避けては通れない楽曲なのです。高名な弦楽四重奏団であれば、必ずバルトークを録音しています(嘘です)から、好きなクァルテットを選べばそれでOKです。



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弦楽四重奏曲第5番 Sz.102
ヴェーグ四重奏団
シャーンドル・ヴェーグ
シャーンドル・ゼルディ
ジェルジ・ヤンツェル
パウル・サボー

1954年の録音

この「ヴェーグ四重奏団」と次の「ハンガリー四重奏団」の関係について説明します。シャーンドル・ヴェーグは、1935年にハンガリー四重奏団を結成し、第1ヴァイオリンを演奏していました。その2年後にバルトークと親交のあったセーケイ・ゾルターンが、ハンガリーQに加入すると、セーケイに第1ヴァイオリンを譲り、ヴェーグは第2ヴァイオリンに回ります。ハンガリーQは1936年にバルトークの弦楽四重奏曲第5番の初演を行っています。その後、事情(愛国心)があってヴェーグは1940年にハンガリーQを脱退し、ヴェーグ四重奏団を結成します。
さて、このヴェーグ四重奏団には2種類のバルトーク弦楽四重奏曲全集があります。この1954年の録音と、1972年の録音です。一般には1972年盤がステレオ録音ということもあり、評価が高いのですが、この1954年の録音も、ヴェーグ四重奏団の原点ともいえる演奏です。演奏については、次のハンガリーQと同じことが言えます。要は、ハンガリーを、ヴバルトークを感じさせてくれる演奏ということです。ただ、やっぱり録音はどうしても次のハンガリーQのほうがだいぶ聴きやすくて、そちらがお薦めということになってしまいます。同じ録音状態だったら、こちらのヴェーグQのほうを推薦するかもしれませんが。



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弦楽四重奏曲第5番 Sz.102
ハンガリー弦楽四重奏団
ゾルターン・セーケイ
ミヒャエル・クットネル
デネーシュ・コロムサイ
ガブリエル・マジャル

1961年6月-11月 ハノーファー,ベートーヴェンザール

シャーンドル・ヴェーグによって1935年にブダペストで結成されたハンガリー四重奏団ですが、第2次世界大戦のため、1940年に活動拠点をオランダに移すことになると、ヴェーグはハンガリーに残る道を選んで退団し、ヴェーグ四重奏団を結成します。一方、ハンガリー四重奏団は戦後はアメリカに拠点を移し、セーケイの強力なリーダーシップのもと、1972年まで国際的に活躍しました。少々ややこし話ですが、同じ話を2回も繰り返したので、お分かりいただけたかと思います。
それでセーケイ率いるハンガリーSQのこの録音なのですが、この後に出てくるどの演奏とも趣が異なっており、個人的には「本物」を感じさせるものとなっています。主題のひとつひとつがふさわしい形で演奏され、どの部分も意味深く、聴くたびに新鮮な発見があります。どの楽章も素晴らしいのですが、第6楽章など他の録音は演奏効果をねらいがちなのに、ハンガリーQは内容本位です。大変充実した演奏として、自信をもってお薦めする次第です。録音もこの年代としては上出来です。定位がしっかりしているのが嬉しい。



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弦楽四重奏曲第5番 Sz.102
ジュリアード弦楽四重奏団
ロバート・マン
イシドーア・コーエン
ラファエル・ヒリヤー
クラウス・アダム

1963年3月7・8日、10・14日(6)
3月15・16日(4)、21・24日(2)
9月18・20日(1)
9月23・26日(5)

ジュリアード弦楽四重奏団は、世界で初めてバルトーク弦楽四重奏曲全集を録音した団体で、それは1949年の録音です。第2ヴァイオリンが替わってから1963年にステレオ録音を行い、ロバート・マン以外の全員が入れ替わってから1981年に3度目の録音(デジタル)を果たしています。3度の全曲録音を行ったのは(おそらく)ジュリアードSQだけであり、バルトークの弦楽四重奏曲に対するこだわりがうかがえます。このクァルテットにとって、ベートーヴェンとバルトークは格別の存在だったのでしょう。
聴き始めてすぐに判ります。これはすごい!と。この後に出て来るどの演奏よりも完璧です。一糸乱れぬ強靭なアンサンブル。ジュリアードSQが真骨頂を発揮しています。バルトークが書いた楽譜の正確な再現(純音楽的な名演)という意味では、これに勝るものはないでしょう。第1楽章は唖然としているうちに終わります。第2楽章や第4楽章を聴くとき、夜の草原や森を思い浮かべますが、その詠唱にはどこか暖かさを感じさせるものです。第3楽章は都会的でありながら、懐かしさを感じさせるもの、そして再び圧倒的な第5楽章。ジュリアードSQならもっと早いテンポでも可能なのでしょうけれど、どこか余裕を感じさせる演奏です。



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弦楽四重奏曲第5番 Sz.102
東京クヮルテット
原田幸一郎
池田菊衛
磯村和英
原田禎夫

1975年8月29日-9月1日 ロンドン、コンウェイ・ホール(第2番)
1976年12月14日-16日 ハンブルク、ラールシュテット・スタジオ(第6番)
1979年6月8日-10日 ニューヨーク、CBSスタジオ(第1・3番)
1980年9月7日-11日 ロンドン、聖ヨハネ教会(第4・5番)

東京クヮルテットにも2種類の全曲録音があり、これは最初の録音で、全員日本人であった頃の演奏です。1993~95年(第1ヴァイオリンはピーター・ウンジャン?)の録音もあり、そのほうが評価が高いのかもしれませんが、私はこちらが気に入っています。
当然のことですが、前々回、前回と聴いたラヴェルとドビュッシーと同じ響きがします。そのしっとりとした響きがバルトークによく合っています。東京Qという腕の立つクァルテットにとって、バルトークはまさにうってつけのレパートリーというところでしょう。精巧な演奏です。ここまで精度の高いアンサンブルは、それだけで快感です。第5楽章など鮮やかなものです。集中力も高く、聴いているほうも強いられるので、聴いた後に心地よい疲れが残ります。また、技術だけでなく、ハンガリーと日本で通ずるものがあるのでしょうか、共感度の高い演奏でもあります。どの楽章も説得力があり、これはまさしく名演でしょう。全5曲の録音会場がまちまちで場当たり的な印象もありますが、世界を駆け巡っていた東京Qらしいとも言えるのではないでしょうか。



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弦楽四重奏曲第5番 Sz.102
アルバン・ベルク四重奏団
ギュンター・ピヒラー
ゲルハルト・シュルツ
トーマス・カクシュカ
ヴァレンティン・エルベン

1986年6月(1,5)
1984年4月(2)
1985年12月(4,5,6)
1985年6月(3)
スイス,Evangelickal Church, Seon

数あるアルバン・ベルク四重奏団の録音の中でも、代表的なものと言ってよいのではないでしょうか。正直、アルバン・ベルクQがここまで巧いは思いませんでした。4人が4人とも本当に素晴らしい演奏をしています。残響の多い録音会場に助けられている面もありますが、不協和音が心地よく感じられるほど、美麗な音です。土の香りがするハンガリーQ(やヴェーグQ)の演奏や、アンサンブルをひたすら磨き上げたジュリアードSQの演奏も良いけれど、このアルバン・ベルクQの鮮やかな演奏も素晴らしいと思いました。バルトークの音楽として、都会的過ぎる:都会の喧噪のように聴こえなくもないのですが、いや、これは立派な演奏です。さすがアルバン・ベルク四重奏団と思いました。わかりやすい演奏ですし、耳になじみやすいサウンドですので、バルトークの弦楽四重奏曲を初めて聴いてみようという方は、このCDを選ばれるとよろしいのではないでしょうか(他方、既にバルトークが好きな人には、ちょっと違うという印象をもたれるかもしれません)。個人的には残響少なめで、楽器の音がダイレクトに届いてくるような録音のほうが好きなのですが、これはこれで良しとしましょう。



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弦楽四重奏曲第5番 Sz.102
エマーソン弦楽四重奏団
ユージーン・ドラッカー
フィリップ・セッツァー
ローレンス・ダットン
デイヴィッド・フィンケル

1988年1月(No.2,3,6)
1988年2月(No.4)
1988年3月(No.1,5)
ニューヨーク,アメリカ芸術アカデミー

エマーソン弦楽四重奏団は、1976年に結成されたアメリカ合衆国のクァルテットで、ドビュッシーやラヴェル(しまった!)、アイヴズ、バルトーク、グリーグ、ショスタコーヴィチ、バーバーなどの近現代作品を得意としているのだそうです。第1・第2ヴァイオリンが曲によって交代するのが特徴ですが、このバルトークの録音も、ドラッカーがNo.1.4.5、セッツァーがNo.2,3,6というように、第1ヴァイオリンを弾き分けています。
1回の演奏会でバルトーク全曲を演奏してしまうという凄い(聴く方も大変だ)クァルテットです。
このクァルテットも巧いですね。ダイナミックで力強く、スリリングかつ繊細で奏者の現代的な感性を感じます。四人がそれぞれ自己主張をしているように聴こえますが、バルトークの場合、それがプラスに働きます。各パートの役割が大きいので。都会的で洗練されているという印象は、次のケラーQと同様ですが、こちらのほうがもう少し表現が濃く、感情の振幅が大きい感じがします。どちらを選ぶかといえば、こちらのほうが好きかもしれません。カッコイイ演奏です。



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弦楽四重奏曲第5番 Sz.102
ケラー四重奏団
アンドラーシュ・ケラー
ヤーノシュ・ピルツ
ゾルタン・ガール
オットー・ケルテース

1993年11月24-26日、1994年1月17-29日、2月28日、3月4日、6月18-20日、10月14-19日、11月15-18日 スイス,Salle de musique de la chaux-de-Fonds

ケラー四重奏団は、ハンガリーの弦楽四重奏団で、1987年に結成され、1988年にポーツマス国際弦楽四重奏コンクールでバルトーク賞を受賞、1990年にはフランスのエヴィアン・コンクールとイタリアのパオロ・ボルチアーニ賞の両方で優勝しました。レパートリーは幅広いのですが、とりわけバルトークを得意としているそうです。悪かろうはずがありません。
第一印象は、実にしっかりとした演奏という感想でした。四人が皆巧いです。気持の良い響きがする弦楽四重奏団。しかし、技術一辺倒というわけでもなく、バルトークを感じさせてくれるとことは、ハンガリーののクァルテットならではというところでしょうか。第1ヴァイオリンのアンドラーシュ・ケラーは、シャーンドル・ヴェーグの教えを受けているそうですから、薫陶を付けているのでしょう。ただ、同じハンガリーの四重奏団でも、ヴェールQやハンガリーQの土臭さはあまり感じられず、美しく洗練されているように聴こえるのは、録音が優秀だからでしょうか。そういう意味では、演奏自体は優れたものであるものの、少し中途半端な演奏ともいえます。現在はapexの廉価版で入手が容易なのですが、最初の1セットはこれではないほうが良いと思います。ちょっとインパクトが弱い感じ。



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弦楽四重奏曲第5番 Sz.102
ハーゲン四重奏団
ルーカス・ハーゲン
ライナー・シュミット
ヴェロニカ・ハーゲン
クレメンス・ハーゲン

1995年12月 バイエルン,図書館大ホール(1-3)
1998年9月 ザルツブルク,モーツァルテウム大ホール(4-6)

前の記事にも書きましたが、ハーゲン四重奏団はお気に入りのクァルテットです。そういうこともあって点が甘いかもしれませんが、前2つのエマーソンQ、ケラーQと聴き比べても、ハーゲンQのほうが好きなのです。この四重奏団でいつも感心するのは、兄妹弟ということもあるのか、息がぴったり合っていて、それにライナー・シュミットが実にうまく溶け込んでいる(良い仕事をしています)のと、4人の技術水準が高いことです。ソリストとしても活躍しているヴェロニカとクレメンスのヴィオラとチェロが雄弁であるのも、この演奏の魅力のひとつで、分厚い響きを生み出しています。ゆえに第2楽章、第4楽章の夜の歌が良いです。もちろんメリハリの効いた第1楽章、やはりヴィオラとチェロが素晴らしい第3楽章、ダイナミックな第5楽章など、やはりハーゲン四重奏団は私が好きなクァルテットなのでした。



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弦楽四重奏曲第5番 Sz.102
アルカント四重奏団
アンティエ・ヴァイトハース
ダニエル・ゼペック
タベア・ツィンマーマン
ジャン=ギアン・ケラス

2006年10月 ベルリン,テルデック・スタジオ

アルカント四重奏団のデビュー盤で、第47回レコード・アカデミー賞銅賞を受賞した名盤です。このCDを紹介するためにこの記事を書いたと言っても過言ではありません。それで、最初にこのCDを聴き、中間地点でもう一度聴いて、最後にもう一度このCDを聴いたのですが、その演奏は精巧で、名匠の手による工芸品を見るようです。実に美しく、アルバンベルク四重奏団の演奏をさらにもう一歩進め、磨きに磨いたという感じで、これはひとつの極北ともいえる演奏でしょう。反面、バルトークの名盤を一週間聴き続けた耳には、これでよいのだろうかという気がしないでもありません。バルトークの音楽に期待する土臭さのようなものは、ここにはは全くといっていいほど感じられず、ひがすら美しい響きのする音楽が奏でられています。だからといってこの演奏を否定するものではありません。ハンガリー弦楽四重奏団による演奏を聴いて、この曲のどこがいいのかさっぱりわからないという人には、このCDは大きな手助けとなることでしょう。
このCDは廃盤のようです。再発売の際には新録音を加えて全集で復活してほしいものです。アルカントQのCDは、少ないですから。


-*-*-*-

さすがに一週間バルトークの、それも弦楽四重奏曲ばかり聴き続けるのは、私の場合、少々きついものがありました。いくらベートーヴェンに匹敵するといっても、精神を鼓舞したり、癒したりしてくれる音楽とはちょっと違いますからね。
でも、ヴェーグ四重奏団の1972年のステレオ録音を入手したら、これに懲りずに第4番の聴き比べ記事を書きたいと考えています。



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