今後の数回(もしかしたら10回ぐらい)は,管弦楽曲の聴き比べをやりたいと思います。理由は特にないのですが,管弦楽曲というジャンルは,今やっておかないと,この先集中して聴くことができないような気がするのです。心の余裕があるうちに聴いておこうと思いまして。
しかし,このブログでまだ取り上げていない曲で,どれから手をつけようか迷っているうちに週末を迎えてしまいました。「組曲」は演奏時間が長いので単独曲。思いつきで次の曲にします。
アレクサンドル・ボロディン
歌劇「イーゴリ公」より「だったん人の踊り」
(ダッタン人の踊り,韃靼人の踊り,ポーロヴェツ人の踊り)
序奏 Andantino, 4/4
娘達の踊り Andantino, 4/4
男達の踊り Allegro vivo, 4/4
全員の踊り Allegro, 3/4
少年達の踊りと男達の踊り Presto, 6/8
娘達の踊りと少年達の踊り Moderato alla breve, 2/2
少年達の踊りと男達の踊り Presto, 6/8
全員の踊り Allegro con spirito, 4/4
皆さんよくご存知の曲だと思いますが,以上の部分が切れ目なく続きます。組曲ではありませんよ~。
序奏に続く「娘達の踊り」の旋律は特に有名ですね。クラシック音楽の名旋律では,ロシア人作曲家のメロディが私には一番しっくりきます。
Polovtsian Dances with Chorus (from 'Prince Igor')
USSR Radio Large Chor/Klavdi Ptitsa, USSR Symphony Orchestra
Conducted by Svetlanov
Polovtsian Dances - Borodin - Berlin Phil - Seiji Ozawa
「だったん人の娘たちの踊り」+「だったん人の踊り」
(小澤征爾指揮 シカゴ交響楽団)
Gergiev with the Kirov ( Mariyinksky) Opera(オペラの場面)
背ラベルに「だったん人の踊り」と書いてあるわけではないので探すのが大変でしたが,以下のCDが見つかりました。チェクナヴォリアン指揮のCDも持っていたはずなのですが,どこへいったのやら。
ジョージ・セル指揮
クリーヴランド管弦楽団
SONY CLASSICAL 1958年2月
クリーヴランド,セヴェランス・ホール
「序奏」の木管楽器の巧さが耳を引きつけます。続く「娘達の踊り」はやや早めのテンポですが情感はたっぷり,「男達の踊り」はクリーヴランド管のアンサンブルの見事さに聴き惚れ,「全員の踊り」の響きの充実,「少年達の踊りと男達の踊り」で再びオケの技術に魅了され,「娘達の踊りと少年達の踊り」のセルの歌心に惹かれ,「少年達の踊りと男達の踊り」から「全員の踊り」では,管弦楽曲を聴く醍醐味を十分味わうことができます。見事なものです。この曲は,ちょっと泥臭いところがあって,私はこの曲のそういうところが好きなのですけれど,このように洗練されている演奏も素敵ですね。後年のベートーヴェンやブラームスよりも録音が優れているようようで,とりあえず良い音で聴けてよかったです。
アンドレ・クリュイタンス指揮
パリ音楽院管弦楽団
EMI CLASSICS 1959年9月
パリ,サル・ワグラム
「だったん人の娘たちの踊り」と「だったん人の踊り」との組合せバージョン。ダイナミックレンジはさほどではないのですが,意外に鮮明なステレオ録音です。「全員の踊り」の打楽器群など迫力があって聴き映えがしますし,全体を通じてさすがクリュイタンスは聴かせ上手だと思いました。ところどころ縦の線が揃っていないような気もしますが,それもご愛嬌として,このCDはなかなか魅力的です。この曲に求めたい土臭さは程ほどですが,お洒落で洗練されていて,高級レストランのデザートに舌鼓を打つような趣もあります。食べたことありませんけれど。ところで,私が持っているCDに収録されているムソルグスキーやリムスキー=コルサコフはいずれもステレオ録音ですが,某オンラインショップではモノラルと表記されています。
ジョルジュ・プレートル指揮
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
EMI CLASSICS 1960年頃
フランスの長老(?)指揮者,ジョルジュ・プレートルは1924年生まれですから,この録音当時はまだ36歳の若さです。この人の場合,年齢を重ねても音楽が瑞々しく,老成しない印象がありますが,この演奏もイキがよいです。音楽づくりが若々しくてピチピチしています。クリュイタンス盤も録音は良かったのですが,1年後(?)のこちらはさらに鮮明・鮮烈な音質で,全く50年以上前の録音とは思えません。マスターテープの保存状態が良かった(人気がなくて使用されなかった?)のか,劣化しているように聴こえないのです。劣化が進むと,埃っぽい音,輪郭のぼやけた音になってくるのですが,デジタル録音に近い印象がありますね。演奏以上に音質に驚いてしまいました。
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
Deutsche Grammophon 1970年12月・71年1月
ダーレム,イエス・キリスト教会
「だったん人の娘たちの踊り」と「だったん人の踊り」との組合せバージョン。カラヤンはフィルハーモニア管弦楽団(モノとステレオ)とベルリン・フィルとでこの曲を3回録音していますが,いずれも「だったん人の娘の踊り」を加えています。それで演奏なのですが,まぁ,何と申し上げたらよいのか……。聴く前からおそらくそうだろうとは思っていたのですが,「だったん人の踊り」の序奏が始まったとたんに鳥肌が立ちます。フルート巧すぎ。まさに圧倒的な演奏。何を言ってもしょうがない。
この時期のベルリン・フィルですから,最高に贅沢なサウンドなのですが,私の嗜好でいうと,特にティンパニが嬉しい音を奏でてくれます。
また,私が持っているCD(OIBPリマスター盤。画像はオリジナル盤のジャケットなので違います)は,計8つのトラックが切ってあるのでとても便利。なんて親切なCDなのでしょう。
少しでも良い音で,オリジナルのカップリングで聴きたいので,SACDを購入することにしました。このような演奏のためなら,少しぐらいお金がかかってもいいんです。
ヴァレリー・ゲルギエフ指揮
サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団
サンクトペテルブルク・キーロフ合唱団
PHILIPS 1993年4月
オランダ,コンセルトヘボウ
聴き比べの最初にカラヤン盤を聴いてショックを受けてしまったので,次にどれを聴こうか迷いましたが,ゲルギエフを聴きました。合唱付きです。先程ご紹介したYouTubeの動画は,合唱が粗っぽいのですが,この合唱もまぁまぁというところでしょうか。ゲルギエフという指揮者,個人的には期待を裏切られることがあるのです。ゲルギエフならではのアプローチを期待したいのですTが,この「だったん人の踊り」は良いですね。オーケストラの分厚い響きがいかにもロシアっぽく,演奏も結構熱っぽいので,聴いていて血湧き肉躍るものがあります。「全員の踊り」での打楽器(ティンパニと大太鼓)を動画ほど派手に鳴らしてくれたらもっと満足できたのだけれど,旋律もよく歌わせているし,合唱付きの演奏で新しめの録音ということであれば,このCDなどよろしいのではないでしょうか。