G.W.最終日に思い切ってオーディオ機器の配置を変更した。2013年6月1日以来の変更だ。スピーカー(スタンド込みで一本58.4kg)、アンプほどではないが、CDプレーヤーが意外に重くて(21.8kg)、全身筋肉痛になってしまった。一週間経ってようやく回復したが、年齢を感じてしまう。
配置を変更した理由は、左右のスピーカーの設置環境を揃えたかったのと、オーディオ・ラックが横長タイプであるため、ケーブルの脱着や端子のクリーニングが困難であったからだ。
半日の作業を終え、音出しをした。従前より良い音がするはずだった。ヨーヨー・マのチェロで、コダーイの無伴奏チェロ・ソナタのSA-CDをかけてみた。良い音になった気がするのだが、何かおかしい。2本のスピーカーの中央にチェロが定位しない。FM放送のニュースを聴いても、アナウンサーの声がまとまらない。ステレオ再生とは、かくも難しいものであると思い知った次第。
さて、標題のとおり、フランクのソナタであるが、8回目となる。あともう1回で終了する予定であったが、頑張って今回で終了させよう。ひとつの記事は4,000文字という制限があったのだが、現在は20,000文字(原稿用紙50枚分)に変更されたようで、画像も「1つの記事につき、縮小後のサイズで合計20MB以内です。たとえば、縮小後のサイズが約500KBの画像では、1つの記事に合計40点まで掲載できます。」となっていた。つまり、残り全部の演奏について一つの記事で書いてしまうことができるということ。あとは根気だけ。
前置きが長くなった。シリーズの最後なので、気分転換に文体も変えてみた。敬体の文書は、何かと都合がよかったのだが、気分転換に常体を用いてみた。少しは新鮮味が出るだろうし、マンネリを打破することができるかもしれない。それでは早速。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
戸田弥生(vn)
アブデル=ラーマン・エル=バシャ(p)
2014年2月6-8日
神奈川県,相模湖交流センター
戸田弥生(1968年-)の受賞歴では、1993年エリザベート王妃国際音楽コンクール第1位が光っている。彼女が現在使用している楽器は、上野製薬から貸与されている1740年製ピエトロ・グァルネリだそうだ。1978年エリザベト王妃コンクール優勝のアブデル・ラーマン・エル=バシャ(1958年-)のピアノで聴く。
ゆったりしたテンポの第1楽章で、引き摺り気味のせいか、狂おしいという言葉が似合いそうなヴァイオリンである。第2楽章は、エル=バシャのピアノに惹かれる。戸田のヴァイオリンは第1楽章と同様だが、こちらの方が感情の振幅が大きく感じられる。感情の込め方が半端ではない。第3楽章は Fantasia 部でやっと一息というところ。熱のこもったヴァイオリンに、ようやく平穏が訪れたようだ。第4楽章も前3楽章の延長上にある演奏である。統一感はあるものの、この楽章では吹っ切れた明るさを期待したいところだが、戸田の集中力は途切れず、一音たりともおろそかにしないという決意が伝わってくる。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
カリュム・スマート (vn)
ゴードン・バック(p)
2014年2月19日(リリース)
2010年に13歳で BBC・ヤングミュージシャン・コンクールに入賞したカリュム・スマートは、同年のメニューイン国際コンクールで1位を獲得している。17歳のスマートがどのようなフランクを演奏しているのか興味が湧く。
第1楽章はまだこなれていないものを感じるが、逆にその素直さが好印象でもある。第2楽章も深みや味わいには乏しいかもしれないが、このような演奏は貴重とも思うし、わかりやすいとも言える。フランクのヴァイオリン・ソナタはこのような曲であったのだと、改めて感じさせる演奏。楽曲の有様を私心無く再現していると言えばよいのだろうか。第3楽章もヴィブラートは控えめ、音の美しさで勝負しているようなところろがあり、スマートの誠実さが伝わってくる。第4楽章も、そう、こういう演奏を聴きたかったのだと思わせる。ゴードン・バックのピアノも、スマートをよくサポートしている好感の持てるものであった。
(追記:次のCDが素晴らしかったため、思わず当盤の【お薦め】を取り消してしまった。ごめん、スマート!)
フランク ヴァイオリン・ソナタ
ペイジュン・シュー(va)
パウル・リヴィニウス(p)
2014年3月
ヴッパータール、インマヌエル教会
【お薦め】
次世代のヴィオラの女王と言われるペイジュン・シュー(徐沛珺)を聴いた。シューは、今井信子やタベア・ツィンマーマンに師事し、2010年のユーリ・バシュメト国際ヴィオラ・コンクールで優勝している実力の持ち主だ。
第1楽章は予想していたヴィオラの音ではなかったので、少し面喰ったが、ヴィオラにもいろいろあるようだ。割とヴァイオリンに近い音色である。ヴィオラだからということではなく、この演奏には新鮮な感動を覚えた。第2楽章はヴィオラの豊かな音色を活かした主題提示に魅了される。ヴィオラで演奏することの違和感をあまり感じない。Tempo I allegro の Recitativo などすごい迫力で、シューは信じられないくらい巧い。楽器の種類を超えて、これだけ聴かせる第2楽章は本当に久しぶりという気がする。鳥肌が立った。第3楽章も見事で言葉を失う。技術が高いはもちろんだが、シューの音楽性が優れているからここまで心を打つのだろう。驚きの連続だ。良い演奏は時間が経つのが早い。第4楽章の、あの素晴らしいカノン主題をこのように演奏した人はいなかった。
シューは、次世代の女王ではなく、疑いもなく現代のヴィオラの女王だ。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
ルノー・カピュソン(vn)
カティア・ブニアティシヴィリ(p)
2014年4月28-30日
【お薦め】
人気ヴァイオリニストのルノー・カピュソン(1976年-)には、アレクサンデル・ギュルニングとのデュオの、LUGANO FESTIVAL 2002 がある(はず)だが、それは入手していないので、この録音だけを取り上げる。なお、カピュソンが使用している楽器は、1737年製グァルネリ・デル・ジェス「パネット」で、アイザック・スターン(1920年-2001年)が約半世紀にわたって使用し、その録音のほぼすべてに使用した楽器なのだそうだ。
ピアノは個性的な演奏で人気があるブニアティシヴィリ(1987年-)だ。
感想だが、シューの次に聴いたCDがカピュソン盤で良かった。シューの後には、他のどのヴァイオリニストの録音を持ってきても霞んでしまったであろう。この演奏にはブニアティシヴィリ(当時27歳)という超強力な共演者を得ていることも大きい。
第1楽章はまず美しいヴァイオリンの音色と歌に酔いしれる。今回の最高のヴァイオリンと言っても良いだろう。第2楽章はブニアティシヴィリのピアノがエキサイティングだ。第1楽章・第2楽章ともに雰囲気に流されているようなところもあるのだが、今どきこれだけ艶やかで美しく、バランスの良いヴァイオリンもないと思うので、全然OKだ。フランス系のヴァイオリン・ソナタはかくあるべしといった感のある演奏。第3楽章も、これを聴いている間は、もうこれでいいんじゃないかと思わせる演奏だ。欠点があるとすれば、カピュソンのヴァイオリンが美し過ぎて、それがだんだん鼻に付くことだろうか。第4楽章もほぼ理想的な演奏。こういう演奏に対して、主題が、展開が、コーダがと書いてもしょうがない気がする。ただ、ひたすら美しい演奏と録音を楽しめばよいのだ。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
ジェイムズ・エーネス(vn)
アンドルー・アームストロング(p)
2014年5月19-21日
サフォーク州,ポットン・ホール
【お薦め】
カナダのエーネス(1976年-)とアメリカのアームストロング(1974年-)のデュオ。実は、あまり期待していなくて、よくなかったら適当に飛ばして終りにしようと思っていたら、これがなかなか優れた演奏だった。第1楽章第1主題は細心の注意を払って弾かれているのがよくわかる。その微妙な匙加減が素晴らしいし、音色も美しい。第2主題を奏でるピアノも同様だ。もうこの段階で【お薦め】決定なのだが、もう少し書こう。第2楽章は速め。カピュソンのような耽美的な音色の美しさはないが(それでも十分美しい)、その分、内面を深く掘り下げているように思う。この辺りまで聴くと、カピュソン盤よりエーネス盤の方が好きかもしれないと考えるようになる。コーダの悲痛なヴァイオリンも印象的で、情熱的な演奏であった。満足。第3楽章は最弱音でも、音がかすれないのが素晴らしい。あまり一生懸命聴き過ぎて感想を書くのを忘れてしまったくらい。第4楽章のカノンも気持ちよく流れるが、表面的ではなく、各主題や各動機が意味深く演奏される。全体として大変充実した演奏だった。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
ジョヴァンニ・グッツォ Giovanni Guzzo(vn)
Anne Lovett(p)
2014年7月8日
【お薦め】
ベネズエラ生まれのジョヴァンニ・グッツォ(1986年-)とフランス生まれのピアニスト兼作曲家であるアン・ロヴェットによる演奏。
グッツォの楽器は、1759年製のニコラ・ガリアーノとのこと。明るい音が出るそうだが、本当に明るい明るい美しい音色だ。グッツォは、この楽器の特性を最大限活かし、朗々とメロディを歌わせている。低音は巾が広い太い音色で、最高音はも輝かしい。あっという間に第1・2楽章が終わり、第3楽章。ここでテンポをぐっと落とし、さらに演奏が丁寧になり、各フレーズを慎重に提示している。大きな崩しがなく、楽譜に忠実に演奏しているのが良い。第4楽章は打って変わって速めのテンポだが、拙速という感じはなく、フィナーレにふさわしい華やかな演奏で幕を閉じる。全体に明る過ぎるような気がしないでもないが、これだけの立派なヴァイオリンを【お薦め】にしないわけにはいかないだろう。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
五嶋龍(vn)
マイケル・ドゥセク(p)
2014年9月
ニューヨーク,アメリカ文芸アカデミー
五嶋龍(1988年-)とドゥセク(1958年-)のデュオ。この録音に用いた楽器は、2013年12月から日本音楽財団が貸与している1722年製ストラディヴァリウス「ジュピター」であろう。
五嶋龍の演奏について語ろうとするとき、偉大な姉である五嶋みどりを意識してしまう。ましてや、フランクのソナタは五嶋みどりも録音しているから、、それと比較しないわけにはいかない。しかし、正直な話、これだけいろいろな演奏を聴いた後では、お姉ちゃんの演奏の細かいところまで記憶に残っていないのである。端正な演奏であったような?
名曲中の名曲だから、丁寧に弾いているのがわかる。そしてそれは良い結果を生み出しているのだろう。ゆえに第1楽章はまずますの出来で、第2楽章も poco piu lento のフレーズなど美しく弾いると思う。レシタティーボ風のヴァイオリンの箇所も電のように響く。再現部になってからの切迫感もなかなかのものだ。第3楽章の Recitativo も熱っぽい演奏を聴かせるし、Fantasia のメロディも気持ちが入っている。第4楽章も、荒削りながら思い切りよく弾いていて、聴き応えがある。お姉ちゃんのフランクも、このぐらいの思い切りがあったら良かったのにと思う。
ドゥセクのピアノも優れていて、ツボを押さえたピアノであった。
続く、ヴィエニャフスキ「創作主題による華麗なる変奏曲」も(こちらの方がより)熱演だった。それでは、なぜ【お薦め】にしないのかというと、発展途上な印象が常にあり、よく言われているように「将来に期待したい」という月並みな感想をもってしまったからでだ。先入観を覆せなかったということか。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
Patrycija Piekutowska(vn)
Anna Miernik(p)
2014年11月11日
ポーランド生まれの Patrycija Piekutowska(1976年-)とAnna Miernik のデュオ。経歴がわからないと聴く側の思い入れが低くなり、あまり期待しないで聴区ことになるのだが、これがなかなか良かった。概ね楽譜どおりであまり変なことをやっていないのが良い。第2楽章もTempo I allegroで本格的な展開部になってからは、なかなか鮮やかである。再現部も気持ちのこともった演奏には迫力があり、コーダも激しい。これだけやってくれれば大満足。第3楽章を聴いてようやく気がついたのだが、Piekutowska って割と感情的な表現をする人だった。大きな踏み外しがないから、違和感なく聴ける。ちょっとがちゃがちゃした印象もあるけれど、これもなかなか佳い演奏だったよ。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
ミシェル・ベネデット(vn)
アニー・ダルコ(p)
2015年(リリース)
フランスのマルセイユ生まれ同士のデュオ。ベネデットについて詳細はわからなかったが、エルネスタ・フランチェスカッティ門下で、ピアノのダルコの甥にあたるそうだ。1967年から1975年までパリ管弦楽団のヴァイオリン奏者を務めた」ともある。
ダルコ(1920年-1998年)は、パリ音楽院でマルグリット・ロンに学んだそうで、1946年ジュネーヴ国際音楽コンクール・ピアノ部門で二位入賞を果たし、室内楽奏者・独奏者として活躍した人とのこと。
だから、2015年録音のはずがないし、マスター・テープに起因すると思われる周期的なノイズ(もしかして板起こし?)が聴こえる。ただ、録音データ不詳でボツにするにはもったいない演奏だったので、取り上げることにした。フランスの演奏家によるフランクは妙に馴染むものがある。第1楽章で割と大きな表情を付けても、ちっとも違和感がない。必要だから当然行っているということだろう。第2楽章も理想的な表現だし、第3楽章の洗練された抒情が素晴らしい。第4楽章もこれでいいのだと納得させられる。録音はイマイチだけれど、充実した好演。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
スタインバーグ・デュオ
ルイザ・ストーンヒル Louisa Stonehill(vn)
ニコラス・バーンズ Nicholas Burns(p)
2015年(リリース)
Canada,Banff Centre
スタインバーグ・デュオ(Steinberg Duo)という名前は、Louisa Stonehillの父親がポーランド人だったときの姓に由来しているそうで、2007年からデュオとして活動しているとのこと。詳細は、以下のURLをご覧いただきたい。
第1楽章は悪くないのだけれど、ちょっと違うという感じがする。あちこちに書いているように、この楽章は難しい。第2楽章も僅かに違和感がある。第3楽章は序奏からして、やっぱり違う。あえて指摘すると、ニコラス・バーンズのピアノが良くない。変な表情づけが曲の美しさを損ねていると思う。ヴァイオリンもそう。これだったら忠実な再現のほうが有難い。第4楽章が最も出来が良いのは、変な節回しが無かったから。けして悪い演奏ではなかったのだけれど、私には合わなかった。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
フレデリック・ベッドナーズ(vn)
平塚夏生(p)
2015年2月21・22日
Montreal,McGill University Music Multimedia Room
カナダ人ヴァイオリニストのベッドナーズと平塚夏生の夫妻デュオ。この二人に関しては、実はよく知らないし、某通販サイトで検索しても1枚もヒットしない。だからと言って、このフランクが悪い演奏ということはない。第1楽章はブラームスを聴いているような感じ。第2楽章もしっとりとした落ち着いた演奏だが、クライマックスではそれなりに力強さをみせる。ベッドナーズは、卓越した技巧の持主というわけではなさそう(難しい箇所が本当に難しそうに聴こえるし、音程が甘いところもある。それも味わい)だが、旋律の歌わせ方など、なかなかのものである。演奏から受ける印象として、バッハなど弾かせたら存外上手いのかもしれない。この演奏も前2楽章より第3・4楽章が優れていると感じた。
平塚のピアノは、終始控えめだが、しっとりとした音色がとても美しく、ベッドナーズをよく支えていると思う。この演奏の成功の、少なく見積もっても半分以上は、平塚のピアノが貢献している。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
オーガスティン・ハーデリッヒ Augustin Hadelich(vn)
ジョイス・ヤン Joyce Yang(p)
2015年6月11-14日
ニューヨーク州立大学パーチェス校,
パフォーミング・アーツ・センター
【お薦め】
ドイツ出身の両親のもと、イタリアで生まれ、ジュリアード音楽院ではジョエル・スミルノフ氏に師事したハーデリッヒ。彼は、全身に負った大火傷を克服し、2006年インディアナポリス国際ヴァイオリンコンクールに優勝、2016年グラミー賞最優秀クラシック・インストゥルメンタル・ソロ賞受賞のヴァイオリニストである。
韓国生まれの女性ピアニストであるジョイス・ヤン(1986年ー)については、以下のURLを参照されたい。
第1楽章は、ヴァイオリンもピアノも好演。このソナタの第1楽章は難しい。デリケートな曲なのだ。これぐらいのアゴーギクがちょうどよいと感じる。第2楽章も、気持ちが入っているけれど大仰な表現にならないのは好ましいこと。佳い演奏だ。第3楽章も同様。前2楽章より出来がよいと感じる。各フレーズの描き分けが的確で、特に71小節以降は上々。第4楽章は、やや速めのテンポで美しい歌を聴かせる。重要な143小節からのffも感情が籠っており、それ以降も感動的だ。ピアノもなかなか良い。
ところで、この録音はヴァイオリニストの呼吸がやや大きめに入っている。気になるというほどではないが、歌みたいに、ここでブレスをしてはいけないんじゃないか?などとついつい考えてしまう。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
諏訪内晶子(vn)
エンリコ・パーチェ(p)
2016年1月26-29日
パリ,ノートルダム・デュ・リバン
諏訪内晶子(1972年-)は、1989年エリザベート王妃国際音楽コンクール第2位(第1位はヴァディム・レーピンだから仕方がない)受賞後、1990年に史上最年少でチャイコフスキー国際コンクールに優勝し、その後の活躍はご存知のとおりである。ピアノはイタリア生まれのエンリコ・パーチェ(1967年-)で、1987年のストレーザ国際ヤマハ・コンクール、1989年の第2回国際フランツ・リスト・ピアノコンクールで優勝をきっかけに本格的な演奏活動を始めた人。
諏訪内の楽器は、世界三大ストラディヴァリウスの一つである「ドルフィン(Dolphin)」(1714年製)で、かつてハイフェッツ(1901年-1987年)が使用していた楽器を、日本音楽財団は諏訪内に2000年8月から貸与している。(ちなみに、三大ストラディヴァリウスの残りの2挺は、「アラード=バロン・ヌープ(1715年製)」と「メサイア(1716年製))
諏訪内の人気からすれば、フランクのソナタをもっと早く録音していてもおかしくはないのだが、2年前の録音である。
すっかり前置きが長くなってしまったが、このCDについてどう書いたらよいか迷ってしまい、都合4回も聴いてしまった。それで、書くには書いたのだけれど、どうも気に入らないので、このCDについては感想を保留とさせてください。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
タスミン・リトル(vn)
ピアーズ・レーン(p)
2016年4月25-27日
サフォーク州,ポットン・ホール
【お薦め】
イギリスのタスミン・リトル(1965年-)とオーストラリアのピアーズ・レーン(1958年-)のデュオ。リトルの経歴やレパートリーの広さからすれば、もっと多くの録音があって然るべきなのだが、新作とか忘れ去られた作品に力を注いでいるせいか、注ぎ某通販サイトでは12件しかヒットしない。諏訪内晶子でも23件なので、そんなものなのかもしれないが。ピアノのレーンも広範なレパートリーを誇るので、似た者同士のデュオということなのかも。
第1楽章は少し遅めのテンポを採用、太めの美音を用いてメロディを情感豊かに歌い上げている。本当に良く鳴るヴァイオリン。第2楽章も力強い。弱音でも音が痩せない(わざとやるときは別)。リトルの楽器は、1757年製のガダニーニとストラディヴァリウス「リージェント」だそうだが、この録音はどちらを使用しているのだろう。後者かな? ヴァイオリンの豊かな音だけで【お薦め】に値し、このような演奏を実演で聴いてみたいものである。だから第3楽章や第4楽章が悪いわけがない。
技術と表現の見事さで、なかなかこれをしのぐ演奏はないと言いたいぐらい。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
イザベル・ファウスト(vn)
アレクサンドル・メルニコフ(p)
2016年6,9月
ベルリン,テルデックス・スタジオ
【お薦め】
ドイツのファウスト(1972年-)とメルニコフ(1973年-)による演奏だが、カップリングのショーソン「コンセール」が素晴らしい演奏で、ファウストとメルニコフに加え、サラゴン四重奏団(クリスティーヌ・ブッシュ(vn)、リサ・インマー(vn)、セバスティアン・ヴォルフファース(va)、ジェシーヌ・ケラス(vc))が演奏している。昨年度の第55回レコード・アカデミー賞を受賞(室内楽曲部門)も頷ける。以前から好きな曲だったけれど、こんなに美しい曲であったかと改めて思ったくらい。
さて、ファウストは、1710年製ストラディヴァリウス「ヴュータン」、メルニコフは、1885年頃製エラール(Erard)を使用。このピアノの音色が、これまでの演奏と一味違う雰囲気を醸し出している。その木質的な響きが実に上品で風雅、心地よい。
現代ヴァイオリン界の女王とまで言われ始めたファウストだが、第1楽章は弱音主体の繊細な表現で、この人らしい内省的な演奏。再生装置によっては線が細く、神経質に聴こえるかもしれず、もしかしたら好みが分かれるかもしれないが、強い音に達するときには迫力も十分となっている。第2楽章は最初から力強いがpoco piu lento では再び第1楽章のような演奏となるが、その後の展開部や再現部はなかなか情熱的で表現の巾も大きく、こうでなくてはと思わせるものがある。第3楽章もエラールの雅やかな音色が好ましく、ファウストのヴァイオリンも負けず劣らず、素晴らしい音色で Recitativo を弾いている。Fantasia は、弱音がか細く演奏され、もう少し太い音色が好みなのだが、奥行きのある表現は白眉とも言える。コーダの最後の音をここまで伸ばすのも技術があってこそ。第4楽章はもの悲しさを感じさせる寂しい歌。他の演奏が俗っぽいと思えるほど高雅な歌を聴かせて幕を閉じる。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
千々岩英一(vn)
上田晴子(p)
2016年7月27-29日
神奈川県,相模湖交流センター
【お薦め】
千々岩英一(1969年-)は、フランス政府給費留学生としてパリ国立高等音楽院に学び、審査員全員一致の一等賞を得て卒業、同音楽院第三課程も修了し、1998年よりパリ管弦楽団の副コンサート・マスターを務めているそうだ。楽器は、1740年製のオモボノ・ストラディヴァリ(アントニオ・ストラディヴァリの次男)製作のもの。上田晴子は、1995年に日本国際ヴァイオリンコンクール最優秀伴奏者賞受賞という経歴がある。
第1楽章を少し聴いただけで【お薦め】の予感がする演奏。千々岩は「日本を発つときから、将来はいずれフランスで仕事を見つけて食べて行こうと思っていた」そうで、「個性というのは、無理矢理見つけなくても自分の中から滲み出てくるものだと思います。だから、普通に自然体でやっていくのがいいと思います」と述べているが、そのとおり、自然に音楽が流れていく演奏で無理がなく、フランスでの生活が長いせいか、雰囲気がとても良い。美しく豊かな音色で、佳い演奏だと思って聴いているうちに終わってしまう。続くフォーレの第2番も美しい。もっとこの人の演奏を聴いてみたいと思った。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
テディ・パパヴラミ(vn)
ネルソン・ゲルナー(p)
2016年10月29日~11月3日
ベルリン,テルデックス・スタジオ
パパヴラミ(1971年-)はアルバニアのヴァイオリニストで、名フルート奏者アラン・マリオンとの出会いにより、フランス政府給費留学生として1982年(11歳!)に招かれて渡仏、15歳で卒業している。その少し前に母と2人でフランスに亡命しているのだが、アルバニアに残された家族には社会的制裁が下され、なかなか大変だった模様……。パパヴラミには「ひとりヴァイオリンをめぐるフーガ」山内由紀子訳の著作もあり、読んでみたい。
パリ音楽院では、ピエール・アモイヤル(1949年-)に師事したそうだから、その薫陶を得ているという理解でよろしいだろうか。
ゲルナー(1969年-)は、アルゼンチン出身のピアニストで、1990年ジュネーブ国際音楽コンクールのピアノ部門の第1位を受賞している。
この演奏は、後半楽章の方が断然優れ鋳ている。前半はパパヴラミの音色が安定しておらず、音が汚いとまで思ってしまったのだが、もしかしたらそれは演出であったのかもしれない。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
フランチスカ・ピーチ Franziska Pietsch(vn)
デトレフ・アイシンガー Detlev Eisinger(p)
2016年11月22-24日
ベルリン,イエス・キリスト教会
東ドイツ生まれで、ジュリアード音楽院にてドロシー・ディレイ(1917年-2002年)に師事し、またルッジェーロ・リッチ(1918年-2012年)からも指導を受けたフランツィスカ・ピーチ(1969年ー)は、ソリストとして活躍する他、1998年から2002年までヴッパータール交響楽団の第1コンサート・ミストレスも務めていた。
デトレフ・アイシンガー(1957年-)のピアノで聴く。
第1楽章は繊細かつ小さな範囲でのアゴーギク。大きく崩さないところが好印象。ちゃんとそこをわきまえている。大きくいじれば台無しになってしまう音楽。第2楽章の poco piu lento は祈りの音楽だ。これにはどきっとした。第3楽章もこれ以上やったら神経質と眉をしかめる寸前のところで立ち止まっている。第4楽章についても同様。悲しい音楽に聴こえてくるから不思議。これは【お薦め】にしようか迷う。演奏内容は濃く充実しているのだが、やっぱり【保留】というところか。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
ブロフィー・シスターズ The Brophy Sisters
Linnaea Brophy(vn)
Maeve Brophy(p)
2017年(リリース)
The Brophy Sisters については、以下のサイトをご参照いただきたい。
心のこもった、誠実な演奏だ。ただ、ヴァイオリン、ピアノに、あまり魅力が感じられない。特にピアノがよくなくて、素人っぽいのが残念。ヴァイオリンには光るものもあるけれど、全体に一本調子に陥っているように思われる。つまり、聴いていて飽きてしまうのだ。残念。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
ガブリエル・チャリク(vn)
ダーニャ・チャリク(p)
2017年2月10,11日
パリ,サル・コロンヌ
ロシアの血を引く、フランスの音楽家兄弟ガブリエル&ダーニャ・チャリクによる演奏。アルバム・コンセプトは、プルースト「失われた時を求めて」の架空の作曲家であるヴァントゥイユのヴァイオリン・ソナタ。プルースト自身がサン=サーンスのヴァイオリン・ソナタ第1番だと示唆したともいわれ、また譜例として示されたものがフランクのソナタだという説もあるそうだ。。またプルーストの相方レイナルド・アーンが登場人物スワンのモデルとも言われている。このアルバムでは、それら3つのソナタを収録している。そういうことを抜きにしてもなかなか選曲がよいと思う。
肝心の演奏は、熟成していない、練れていない、ような気がする。楽曲に対して小細工を弄せず、ストレートな表現を行っているのは好ましいが、発展登場であり、録音として広く世に問うのであれば、もう少し時間が必要と考える。ただ、けして悪い演奏ではないということを付け加えたい。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
デュオ・ビリンガー Duo Birringer
レア・ビリンガー(vn)
エステル・ビリンガー(p)
2017年2月6-9日
Saarländischer Rundfunk, Großer Sendesaal
ドイツの姉妹デュオ、レア・ビリンガーとエスター・ビリンガーの演奏。
ビリンガー姉妹は、グリーグとフランクはもちろんのこと、それぞれと交流をレア・ビリンガーは、2008年のブラームス国際コンクールで最高位を受賞、エステル・ビリンガーは、第6回ヨハン・セバスティアン・バッハ国際コンクールで第1位という経歴の持ち主。世の中にはいろいろなコンクールがあるものだ、と意地悪くなってしまう。
演奏は、ピアノに比してヴァイオリンが大きめの音量で捉えられている録音だが、それゆえか、ヴァイオリンの表情がつぶさに分かり、なんだか不安定な感じがする。それは音程とか速度ではなく、ひとつのフレーズを歌うときに、歌い切れていないような気がする第1楽章。それもひとつの演出だと思ったのは、第2楽章がそうではなかったから。第1楽章とは逆のストレートなヴァイオリンで、もう少し何かしたほうがよいのではと思ったくらい。しかし、これはこれで、この情熱的なヴァイオリンは魅力的でもある。尻上がりに好調となるデュオ・ビリンガーの第3楽章は、これに力点を置いていたようで、優れた演奏となった。ここには不足するものがない。第4楽章は美しい。第1楽章のぎこちなさとは、えらい違いである。第3学長と第4楽章だけだったら十分【お薦め】にできたのだが。
エステル・ビリンガーもなかなか見事なピアノを聴かせていたことを追記しておく。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
デュオ・ガッツァーナ Duo Gazzana
ナターシャ・ガッツァーナ(vn)
ラファエラ・ガッツァーナ(p)
2017年3月27-29日
ルガーノ,オーディトリオ・ステリオ・モロ
ガッツァーナ姉妹であるナターシャとラファエラは、ローマ近郊のソラで生まれ、1990年代半ばにDuo Gazzanaを結成した。これも詳しくは以下のサイトをクリックしてくださいということになる。それにしても今回は兄弟・姉妹デュオが多いような気がするのだが、気のせいか。
第1楽章は遅め。どこかのんびりしているし、常に音楽が微笑んでいるようだ。こういう雰囲気も悪くない。結婚祝いのための曲だったら、こう弾くべきなのだろう。第2楽章もこんな曲だったっけ?と思うほどに明るい。quasi lento では掠れた音で表現する人が多いが、ナターシャはそんなことはなしない。Tempo I allegro からでも悲劇性を強調することなく、(五月の)風を切り、胸を張って歩いているような、自信に溢れた演奏だ。美しいヴァイオリン。第3楽章もゆったりしたテンポ。この楽章でようやく寂しい音楽となるが、ほのかな明るさをもった寂しさであるか。メリハリが付いていないので聴く方の集中力も途切れがちとなってしまう。しかしラストは素晴らしい。第4楽章も急がず慌てずで、最後までじっくりである。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
ジェスパー・ガッセリング Jesper Gasseling(vn)
サニー・リ Sunny Li(p)
2017年5月19日(リリース)
ガッセリング(1991年-)については、
サニー・リ(李:1991年ー)については、
をクリックしていただければ、詳細を知ることができる。
この録音は、私がご紹介したどの録音よりも衝撃的だった。これを初めて聴いたとき、この録音の製作意図を知りたいと思った。なぜ、こんなことをする必要があったのか、ということを。サニー・リのサイトで聴くことができるので、興味を持たれた方は、挑戦していただきたい。第2楽章か第4楽章を聴けば、私が言いたかったことを瞬時に理解できるはずだ。聴かない方が幸せと思うが。
ガッセリングの使用楽器は、ジョヴァンニ・パオロ・マッジーニ(1581年-1632年)製作の「ボリショイ」らしいが、この録音のプロデューサーにとって、ヴァイオンやピアノが何であれ誰であれ、どうでもよかったのだろう。実際、演奏はたいしたことがないのだけれど。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
周防亮介(vn)
三又瑛子(p)
2017年9月19-21日
埼玉県,富士見市民文化会館(キラリふじみ)
【お薦め】
「レコード芸術」3月号に周防亮介(1995年-)のインタヴューが掲載されているが、あれはピアニストの反田恭平(1994年-)のと同じくらい、特別な印象を与えるのであった。いや、余計なことを書いた。お二人とも、素晴らしい経歴の持ち主だ。このようなインタヴューによって、演奏に先入観を持つのはよくない。
このCDは周防のデビュー盤である。デビューにフランクのソナタを持ってくるなんて、なかなかできることではない。
第1楽章の序奏が終わり、ヴァイオリンが登場して間もなく、これは【お薦め盤】だと判る。やはり、人は見かけで判断してはいけない。これだけよく歌っている第1楽章は、数えるぐらいしかない。第2楽章もよいテンポだ。これ以上、速くても遅くてもいけない。各主題が絶妙なテンポで演奏されており、第1楽章同様、旋律の歌わせ方にこだわりが感じられる。その抑揚はかなり大きいのだけれど、このソナタの場合、これぐらい有ってもよいと思い直す。第3楽章は、Recitativo 前半の、たびたび訪れる静寂(休符)がキリキリしていて、その緊張感が半端ではない。59小節からの、あの素晴らしいテーマ(dociss. espress. tranquillo)も理想的で、71小節からの重要な主題も同様。ヴァイオリンの最後の音を可能な限り長く伸ばすのも嬉しい。第4楽章は若さがはち切れている好ましい演奏、いや、素晴らしい演奏。これがデビュー盤だなんて恐れ入る。
最後になってしまったが、ピアノの三又瑛子は、桐朋学園大学音楽学部演奏学科ピアノ科を首席で卒業した人。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
キョンファ・チョン(vn)
ケヴィン・ケナー(p)
2017年10月31日-11月7日
サフォーク州,ポットン・ホール
今回の曲のように全ての演奏を聴き終えるのに時間がかかると、困ったことが生じる。ひとつは、新譜が発売されてしまう(聴かなければならない音源が増える)ことであり、もうひとつは、レコード芸術に「月評」が掲載されてしまうということ。それを読んでしまったが、極力思い出さないようにして感想を書きたい。
前回が1977年だったので、なんと40年ぶりの、チョン・キョンファ(鄭京和:1948年-)の再録音。ピアノはアメリカのケヴィン・ケナー(1963年-)が務めるが、ケナーは、1990年チャイコフスキー国際コンクール第3位入賞、同年のショパン国際ピアノコンクールで最高位の第2位という実力の持ち主である。
チョンの気力は全く衰えておらず、第1楽章から付点の音価を変えてみたりと、積極的なアプローチを示す。謙虚な演奏であった40年前とは随分異なる印象だ。最後の音を長く伸ばすのは賛成だが、あともう少しのところでピッチが乱れてしまうのは惜しい。ここは難しいのである。第2楽章は最もチョンにふさわしいと思われる音楽で気合が入っている。ピッチが怪しいところも無きにしも非ずだが、そんなことは些細なことであろう。第3楽章も流されず、速めのテンポの中で常に変化を求める姿勢だ。落ち着きがないとも言えるが、チョンの健闘を湛えるべきであろう。第3楽章でも積極性は変わらず、他のヴァイオリニストが大事に大事に弾いているフレーズでも大胆なアゴーギクを採る。全体を通して最も成功しているのは第4楽章であるかもしれない。今のチョンの持てる力を出し切っている。
なお、この録音でのチョンの楽器は、1735製グァルネリ・デル・ジェスではなく、1702年製ストラディヴァリウス「キング・マキシミリアン」だとか。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
鈴木理恵子(vn)
若林 顕(p)
2018年1月16-18日
神奈川県,相模湖交流センター
鈴木理恵子は、23歳で新日本フィルハーモニー交響楽団副コンサート・ミストレルに就任(1997年に退団)、2004年から2014年2月まで読売日本交響楽団の客員コンサート・ミストレルであった人で、若林顕(1965年-)との夫婦デュオによる演奏。
第1楽章はかなり遅めのテンポによりポルタメントが目だってしまう。せっかく美しい音色を持っているのだから、ポルタメント無しでもよいのでは? まぁ演奏者の自由なのだが。第2楽章も遅めだが、もう少しテンポにメリハリを付けたほうがよいと感じる。このテンポだと1回目はいいけれど、繰り返し鑑賞するのはつらいかもしれない。さすがにコーダは速くなる。第3楽章は他の演奏も遅いのが常なので、それほど気にならない、かな? そもそもフランクってこういう音楽だっただろうか? Recitativo が速いほうが、後半の Fantasia が引き立つのでは? いや、Fantasia も速いほうが好きなんだけれど。最後の音は長く伸ばす、私が好きなパターン。第4楽章はOKです。カノンが天高い秋の空に吸い込まれていくようなイメージだ。それでもやっぱり遅くて時にピアノとずれてしまうことも。鈴木理恵子という人は、とても信念の強い人なのだろう。なぜかコーダは普通のテンポなのが意外だった。
フランク ヴァイオリン・ソナタ
松田理奈(vn)
清水和音(p)
2018年2月20-22日
埼玉県,コピスみよし
【お薦め】
このブログの過去記事で、イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタのブックレットが話題となった松田理奈(1985年-)。2006年ニュルンベルク音楽大学(ドイツ)に編入し、2008年に首席にて卒業、同大学院も2010年に首席で修了したという実力の持ち主。ピアノは清水和音(1960年-)という万全の布陣。
第1楽章は丁寧な表現を心掛けているようで好感が持てる。第1楽章で無理をしてはいけない。台無しになってしまう。第2楽章も同様だが、安全運転というわけではなく、自身の節度の範囲内できっちり表現している。再現部からコーダにかけての情熱はなかなかのもの。第3楽章、recitativo 部の第2部の古典的(バロック的?)なプロポーションが美しく、Fantasia 部ではさらに素晴らしく、目を閉じるように曲が終わる。第4楽章は全曲で最も松田の長所が発揮されている。この曲のお手本のような演奏で、文句の付けようがない。使用楽器は、1752年製ジェーピー・ガダニーニであろうか。
清水の好サポートぶりも特筆される。
ヴァイオリン・ソナタ イ長調 FWV 8の名盤(改 )1929~2018
ちょうど100枚の紹介でした。それではごきげんよう!
完