湿度が高い毎日が続いていましたが,関東・甲信越地方は7月6日に梅雨が明けたそうで,昨日今日と猛暑が続いています。梅雨明け十日といって気候が安定し(晴天が続き),アウトドアに適した季節なのですが,あまりの暑さに家でじっとしています。
記事を書こうという気力も全く起きませんが,ちょっと頑張って書いてみます。曲はロッシーニ。イタリアは湿度が低くて夏でも(日陰は)涼しいそうですから,それが理由。
それで,ロッシーニの序曲集を片っ端から聴き始めたのですが,ロッシーニの序曲ってどれだけあるかご存知でしょうか。ネヴィル・マリナーがロッシーニ序曲全集を録音していますので収録曲をご紹介しますね。
マリナー/アカデミー室内管(1974年~1979年)
ジョアキーノ・ロッシーニ「序曲全集」
01.「ウィリアム・テル」序曲
02.「コリントの包囲」序曲
03.「チェネレントラ」序曲
04.「どろぼうかささぎ」序曲
05.「婚約手形」序曲
06.「絹のはしご」序曲
07.「タンクレディ」序曲
08.「ブルスキーノ氏」序曲
09.「イタリアのトルコ人」序曲
10.「幸福な錯覚」序曲
11.「マホメット2世」序曲
12.「リッチャルドとゾライデ」序曲
13.「シンフォニア・アル・コンヴェンテッロ」序曲
14.「ボローニャのシンフォニア」序曲
15.「セミラーミデ」序曲
16.「ランスへの旅」序曲
17.「セヴィリャの理髪師」序曲
18.「アルジェのイタリア女」序曲
19.「ビアンカとファリエロ」序曲
20.「オテロ」序曲
21.「デメトリオとポリビオ」序曲
22.「エドゥアルドとクリスティーナ」序曲
23.「アルミーダ」序曲
24.「コロノスのオイディプス」序曲
25.「エルミオーネ」序曲
26.「トルヴァルドとドルリスカ」序曲
ロッシーニのオペラは全部で42作あるのでしたっけ。序曲全集が26曲なのは使いまわし(例:「パルミーラのアウレリアーノ」序曲→「イングランドの女王エリザベッタ」序曲→「セヴィリャの理髪師」序曲)が多いからなのでしょうか。
最もよく知られているのはなんといっても「ウィリアム・テル」序曲(の第4部「スイス軍の行進」)でしょう。その次は「セヴィリャの理髪師」序曲かな。
あと「泥棒かささぎ」序曲は村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」にも出てきますよね。スパゲティーをゆでるにはうってつけの音楽だという記述があって,それを読んで以来,スパゲティーをゆでるたびに「泥棒かささぎ」序曲を思い出してしまうのです。(小説に登場したのはアバド指揮ロンドン交響楽団でしたか?)
それでは聴き比べです。しかし暑いですね。
クラウディオ・アバド
ロンドン交響楽団
Deutsche Grammophon 1971年,1975年
ロッシーニを得意とする指揮者としてまずアバドの名前が思い浮かびますが,このDG盤には「セヴィリャの理髪師」,「チェネレントラ」,「どろぼうかささぎ」,「アルジェのイタリア女」,「ブルスキーノ氏」,「コリントの包囲」序曲の5曲が収録されています。録音年が2つの年にまたがっているのは,「セヴィリャの理髪師」と「チェネレントラ」序曲は全曲盤の演奏だからでしょうか。「ウィリアム・テル」序曲が入っていないのが残念ですが,名盤の誉れ高いCDです。演奏については,この演奏を褒めるとそれはそのままロッシーニの音楽に対する賛美となるというような,お手本のような名演です。新鮮で小気味良くて切れ味・小回りが利いてよく歌う演奏。ちょっと小さくまとまり過ぎているようにも思いますが,ロッシーニだからこれでよいのでしょうね。
クラウディオ・アバド
ロンドン交響楽団
RCA 1978年
この録音では,「セミラーミデ」,「絹のはしご」,「イタリアのトルコ人」,「セヴィリャの理髪師」,「タンクレディ」,そしてなぜかDG盤に収録されなかった「ウィリアム・テル」序曲が録音されています。「セヴィリャの理髪師」序曲がDG盤と重なっていますが,LP初出時には曲名が「イングランドの女王エリザベッタ」序曲と表記され,重複していないように見せていたとか。それで「セヴィリャの理髪師」を聴き比べてみたのですが,DG盤は録音がデッドなせいか堅苦しい感じがしたのですけれど,こちらのほうが録音が私の好みで,艶やかで広がりがあり,各楽器がはっきりと聴き取れます。情報量が多いのですね。Dレンジ・Fレンジ共に広さを感じますので,演奏も劇性が増しているようで聴き応えがあります。なお,アバドにはヨーロッパ室内管弦楽団との1989年録音(DG)もあり,残念ながらそちらは持っていないのですが,このRCA盤が好きです。
アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
アンブロジアン・シンガーズ
PHILIPS 1974年~1979年
前述のとおりCD3枚に26曲を収録。ロッシーニファンは是非入手していただきたいCDです。曲数が多いだけででなく,演奏も録音も素晴らしいからです。26曲も演奏していると1曲1曲の演奏はそれほどの演奏でもないような気がするのですが,そんなことは全然なく,本当に素晴らしいのです。イタリア人の演奏より分析的というか理が優っているように感じられますが,そこが良いのです。ここでこの楽器が来てほしいと願う場所できちんとそれが聴こえてくるのは気持ちのよいものですし,マリナーの語り口が実に巧妙でほれぼれとしてしまう出来です。アカデミー室内管弦楽って,弦も管も本当に優秀ですね。3枚組というところにちょっと抵抗があるかもしれませんが,これはロッシーニ序曲(全)集では一番にお薦めしたいCDなのです。マリナーにも再録音盤がありますが,それは未聴です。
リッカルド・シャイー
ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団
DECCA 1981年,1984年
シャイーもロッシーニを得意とする指揮者で,特にチェチーリア・バルトリを起用している全曲盤はいずれもよく聴かれていますよね。ロッシーニ序曲集は,アバドのロンドン響に対抗するわけではありませんが,DECCAから1982年と1985年に2つのアルバムが発売され,現在では2枚組で入手できると思います。この2枚に収録されているのは,「ウィリアム・テル」,「ブルスキーノ氏」,「ランスへの旅」,「絹のはしご」,「どろぼうかささぎ」,「イタリアのトルコ人」,「アルジェのイタリア女」,「セヴィリアの理髪師」,「トルヴァルドとドルリスカ」,「結婚手形」,「オテロ」,「セミラーミデ」,「コリントの包囲」,「タンクレディ」の各序曲で,珍しい曲も含まれていますね。演奏の傾向はアバドによく似ていますが,もう少しほっそり(すっきり)していて情緒的な感じ。現代的でややクールな演奏でしょうか。良い演奏なのだけれど,求心力が他盤に比べてやや劣るような気がします。もう少し熱っぽさがあればと思うのですが,これがシャイーの持ち味かも。
シャイーには,スカラ座フィルハーモニー管弦楽団を指揮した1995年盤(DECCA)もありまして,そちらのほうが評判がよいみたいですが,私は持っていません。現在廃盤中……。
シャルル・デュトワ
モントリオール交響楽団
DECCA 1990年
「ウィリアム・テル」,「セヴィリャの理髪師」,「ブルスキーノ氏」,「アルジェのイタリア女」,「チェネレントラ」,「どろぼうかささぎ」。「絹のはしご」,「セミラーミデ」の8序曲を収録。デュトワも巧ければオーケストラも巧い,そんな第一印象。選曲もこれだけは押さえておきたいという曲が入っていますし,これはなかなか良いCDですね。アバドやシャイーに比べると湿度感が高いというか,しっとり感があってその上で劇性が構築されているような演奏。能天気なロッシニーはイヤだという人にはお薦め。アバド以上によく歌っていますし(モントリオール響の木管が美しい),洒落ていますよ。逆にちょっとじめじめしているところもあるので,もう少しカラッと晴れたロッシーニを好む人には違和感があるかもしれませんね。でも私はしっとり系が好きなので,この演奏は好きです。美しいなぁと思う。
ヘルベルト・フォン・カラヤン
フィルハーモニア管弦楽団
EMI CLASSICS 1960年
「どろぼうかささぎ」,「セヴィリャの理髪師」,「アルジェのイタリア女」,「絹のはしご」,「ウィリアム・テル」,「セミラーミデ」の6序曲を収録(CDによって曲順が変わっています)。LPではこんなもんだったけれど,CDだと曲数不足の感は否めませんね。これは初めて入手したロッシーニですが,買ったのではなくて先生の家から(勝手に)もってきてしまったLPだったと思います。アビーロード第1スタジオとキングズウェイホールの録音が半々ずつぐらいでしょうか。「セヴィリャの理髪師」序曲は後者ですね。序曲の後にオペラが始まりそうな雰囲気があります。少し残響が多くてしっとり感がありますが新しい録音に比べるとやや分離が悪いので,よくいえば重厚,悪くいえば鈍重な印象もありますね。でも,どこか懐かしいし気分がしますし落ち着きます。
ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
Deutsche Grammophon 1971年
イエス・キリスト教会での録音。収録されているのは,「どろぼうかささぎ」,「絹のはしご」,「セミラーミデ」,「セヴィリャの理髪師」,「アルジェのイタリア女」,「ウィリアム・テル」で,フィルハーモニア管弦楽団との録音と曲順は異なりますが曲目は一緒です。大好きな「アルジェのイタリア女」序曲から聴き直してみたのですが,木管楽器のあまりの巧さに開いた口がふさがらないです。もう少しカラッと軽やかな演奏のほうがロッシーニらしいと思うのですが,まぁ,なんというか,すごいです。このアルバムで最も素晴らしいのは「ウィリアム・テル」序曲で,第1部「夜明け」冒頭のチェロを聴いただけで,これが最高の演奏だと断言できてしまいます。ベルリン・フィルのトゥッティが凄まじい第2部「嵐」,コーラングレとフルートが耳にご馳走な第3部「牧歌」,そして第4部の「スイス軍の行進」の巧さなど,開いた口がふさがらないというか。最近ではスッペの序曲集とセットで販売されることが多いアルバムですが,そちらも素晴らしい演奏(曲は飽きるかも?)ですよ。