読売日本交響楽団第586回定期演奏会
2019年3月14日〈木〉19:00
サントリーホール
アルノルト・シェーンベルク「グレの歌(Gurre-Lieder)」
ソプラノ=レイチェル・ニコルズ
メゾ・ソプラノ=クラウディア・マーンケ
テノール=ロバート・ディーン・スミス、ユルゲン・ザッヒャー
バリトン・語り=ディートリヒ・ヘンシェル
新国立劇場合唱団(合唱指揮:三澤洋史)
シルヴァン・カンブルラン(指揮)
読売日本交響楽団
シェーンベルクの「グレの歌」は、演奏時間約1時間50分(60分、5分、45分)で、5人の独唱及び大人数の合唱団と巨大なオーケストラによる大作です。シェーンベルクというと、無調・十二音技法を連想してしまいますが、これは(基本的には)超ロマンティックな作品です。初めて聴かれる方は、非常に短い第2部から聴くことをお勧めします。
上演に必要な演奏者は、Wikipediaによると以下の陣容です。何人必要なんだろう? 弦五部だけで80人!(実際にはステージに乗り切れないので少し縮小しているみたいですけれど。)
語り手1
ソプラノ1
メゾソプラノ1
テノール2
バス・バリトン1
3群の男声四部合唱
混声八部合唱
ピッコロ4
フルート4
オーボエ3
コーラングレ2
クラリネット(A管およびB♭管)3
バスクラリネット2
小クラリネット(E♭管)2
(以上編入楽器はすべて持ち替え)
ファゴット3
コントラファゴット2
ホルン10(うち4つがワーグナーチューバと持ち替え)
トランペット6(F管、B管、C管からなる)
バストランペット(E♭管)1
アルトトロンボーン1
テナートロンボーン4
バストロンボーン1
コントラバストロンボーン1
チューバ1
ハープ4
チェレスタ
ティンパニ6台(2人)
テナードラム
小型と大型のバスドラム各1
シンバル
トライアングル
タンブリン
グロッケンシュピール
木琴
ラチェット
チェーン
タムタム
弦楽五部(第1・第2ヴァイオリン各20、ヴィオラ16、チェロ14、コントラバス10)
【「藝大開学100周年記念演奏会」の画像を拝借】
この画像ではハープは2台ですが、読売日本響はちゃんと4台揃えていました。
「グレの歌」とは、このような曲です。
クーベリック指揮/バイエルン放送交響楽団による演奏(対訳付き)
(すごい! こんな動画があるのですね!)
演奏会前日に次の2つの録音で予習しました。ブーレーズ盤も少し聴いてみましたが、私の好みの演奏ではありませんでした。
シェーンベルク:グレの歌
ジェイムズ・マックラッケン(テノール)
ジェシー:ノーマン(ソプラノ)
タティアナ・トロヤノス(アルト)
デイヴィッド・アーノルド(バリトン)
ヴェルナー・クレンペラー(語り)、他
タングルウッド祝祭合唱団
ボストン交響楽団
小澤征爾(指揮)
1979年4月(ライヴ)
ボストン,シンフォニー・ホール
シェーンベルク:グレの歌
ジークフリート・イェルザレム(ヴァルデマール王)
スーザン・ダン(トーヴェ)
ブリギッテ・ファスベンダー(山鳩)
ヘルマン・ベヒト(農夫)
ペーター・ハーゲ(道化師クラウス)
ハンス・ホッター(語り)
ベルリン聖ヘトヴィヒ大聖堂聖歌隊
デュッセルドルフ市楽友協会合唱団
リッカルド・シャイー(指揮)
ベルリン放送交響楽団
1985年6月
ベルリン,イエス・キリスト教会
シャイー盤は、以前にこのブログでもご紹介したお気に入りのCDで、録音も含めて「グレの歌」のベストワンと言える演奏だと思います。
さて、カンブルラン/読売日本交響楽団他による演奏がどうであったかというと、う~ん、一言で表現すれば「堅実」かな……。
いや、実際、良い演奏と感じました。第1部を聴き終えた時点で、私が今後接するであろう演奏も含めて実演ではナンバーワンとなるに違いないと思ったほどです。
カンルブラン/読響と言えば、レコード・アカデミー賞を受賞したメシアンの「アッシジの聖フランチェスコ」が大変評判が良く、シェーンベルク「グレの歌」も実に丁寧な演奏で、第1部のようにヴァルデマール王とトーヴェが交互に歌い、最後に山鳩の歌で締めくくられるような曲にはカンルブランの、歌曲のオーケストラ伴奏的なアプローチは功を奏していたと思います。
ちなみに、私の席は前から3列目のやや下手側で、歌手の声がビンビン伝わる場所でした。2人の女声、レイチェル・ニコルズとクラウディア・マーンケが素晴らしく張りのある声を聴かせ、オーケストラに負けていなかったのですが、声楽人で一人だけ暗譜で歌ったロバート・ディーン・スミスは、さすがに管弦楽にかき消されてしまう瞬間がたびたびありましたが、これはシェーンベルクのオーケストレーションが人間の声を考慮していないためであり、素直に熱唱を称えたいと思います。
第1部の後、休憩かと思いきや、続けて短い第2部が演奏されました。個人的には第2部と第3部を続けて演奏したほうが効果的だと思っていたので、少し戸惑いました。
第2部はヴァルデマール王が怒り狂って神を罵倒する歌なので、もっと激情を叩きつけるような演奏が好ましかったです。低音金管など空気を引き裂くようにバリバリ鳴らしてほしいし、やや遅めで品が良すぎる感じでした。
15分の休憩の後、席に戻ったら合唱団が入場していたのですが、P席を使い切っていないのが意外でした。新国立劇場合唱団なので、少ない人数でも十分なのでしょうが、女声が不足しているような気がします。
第3部の歌手は、農夫と語りがディートリヒ・ヘンシェルで、この人はまぁまぁといったところですが、道化師クラウスのユルゲン・ザッヒャーが素晴らしく、この人の歌はもっと聴きたかったですね。ヴァルデマール王のロバート・ディーン・スミスは、もう喉を温存する必要が無くなったためか、声の威力を増したようで、最後の歌唱 Tove, Tove, Waldemar sehnt sich nach dir!(トーヴェ、トーヴェ、ヴァルデマールはあなたに会いたくてたまらない!)という部分では不覚にもホロリときてしまいました(涙)
カンブルランの指揮は、コミカルな場面でもリズムが重く、表現の幅がやや狭いように思いました。他にカンブルランの実演を聴いたことがないので判断しかねますが、すごく真面目な人なのかもしれません。
「グレの歌」は最後になってやっと女声合唱団が登場するのですが、Seht die Sonne という素晴らしい混声八部合唱はやっぱり女声が少なくて物足りなかったです。また、王の家来である3群の男声四部合唱はたとえ人数が倍になったとしても、巨大オーケストラには勝てないで、この人数でOKということなのでしょうか。しかし、第一声の Holla! という叫び声はCDでも揃わない場面ですが、これがぴったり合っていたのは驚きです。ここは勇気が必要な場所。
カンブルランのサインが欲しかったのですが、次の日は重要な仕事があったので、スタンディング・オベーションに参加した後、まっすぐ家に帰りました。
なお、3月21日(木)18:30からタワーレコード新宿店で「シルヴァン・カンブルラン トーク・イベント&サイン会」があるのですが、どうしようかな?