第13回です。なかなか終わりませんね。
念のためにもう一度書いておきますが、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」の第1楽章だけを聴き比べしています。全曲を聴いていないのは手抜きではありませんから!
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ゲルト・シャラー
Gerd Schaller
フィルハーモニー・フェスティヴァ
2014年5月25日
エーブラハ,シトー会修道院「皇帝の間」
ブルックナー交響曲他全集で有名なシャラーの「英雄」です。会場が少し響くのが私の好みではないのですが、美しい響きがし、演奏も優れています。まず遅からず速からずのテンポ設定が実に心地よく、堂々たる風格を感じます。やや弦の編成が大きめですが、モダン楽器オーケストラによる「英雄」はこんなものでしょう。ブルックナーのようなベートーヴェンですが、なんだか久しぶりにまともな「英雄」を聴いたような気もしました。主題提示部は繰り返します。17分42秒
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルマン・シェルヘン
Hermann Scherchen
ウィーン国立歌劇場管弦楽団
1951年1月
シェルヘンの1枚目はモノラル録音なのが惜しまれます。怪演を期待していたところ、これが至極真っ当な演奏だったので拍子抜けしてしまいました。いや、それはシェルヘンに失礼でしょう。ベートーヴェンに敬意を払った丁寧な演奏であり、テンポを大きく動かしたり、激しい強弱を付けたりなどしない、ゆったりとしていて大船に乗ったような気のする、立派で風格のある演奏です。提示部の繰り返しは無く、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。14分46秒
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルマン・シェルヘン
Hermann Scherchen
ウィーン国立歌劇場管弦楽団
1958年9月18日
【お薦め】
シェルヘン/ウィーン国立歌劇場管の「英雄」は2種類あるのですが、古い雑誌などを読むとそれらを混同しているようで、モノラル・ヴァージョンとステレオ・ヴァージョンがあるように書かれていますが、そもそも録音年代が違うのです。前回とは人が変わったようにテンポがかなり速くなり、細かいことを気にせず音楽をぐいぐい推進していく演奏で、こちらのほうが私のイメージのシェルヘンらしい演奏です。とにかく生命力に溢れ、聴いているこちらも元気になってきます。ひたすらオーケストラを叱咤激励して追いまくっている感じですね。激烈なだけでなく、ふっと抒情的になるところなど、この指揮者の感情の豊かさを感じます。録音はWestminsterだけあってこの年代としては優秀で、オーケストラの各楽器が実在感をもってリアルに響きます。なお、ヴァイオリンは両翼配置でコントラバスは上手に置かれています。提示部は繰り返します。終止部のトランペットは意外にも最後まで主題を演奏しないで途中で降ります。これらも前回と違うのはどのような風の吹き回しによるのでしょう。14分39秒
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ヘルマン・シェルヘン
Hermann Scherchen
ルガノ放送交響楽団
1965年2月12日(ライヴ)
ある評論家が絶賛したことで有名になったベートーヴェン交響曲全集の中の一曲です。録音はシェルヘンの3種類の中で最も良いのですが、その分オーケストラの粗さも目立ちます。弦楽器なんて揃っていないくて、ピッチのおかしい管楽器があったりと、ローゼンシュトック/N響のほうが上手かったと思い返したくらいです。でもそれを問題視するのは野暮というもので、シェルヘンの棒に必死でついていこうとするルガノ放送響を称えるべきでしょう。ぶっつけ本番的な即興味があり、スリル満点です。今回は提示部は繰り返しませんし、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。一貫していませんね。14分05秒
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ハインリヒ・シフ
Heinrich Schiff
ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン
1994年
名チェリストでもあるシフは、1990年から指揮活動にも取り組むようになったそうです。オーケストラは現在パーヴォ・ヤルヴィが音楽監督を務めるカンマーフィルハーモニー・ブレーメンです。演奏はオーケストラが同じせいか、P. ヤルヴィ指揮に似ている(あの演奏は指揮者ではなくオケの個性によるものなのだろうか?)ように思い、シフの先進性を感じました。颯爽とした速いテンポですいすい進んでいく、順風満帆という言葉を連想させる演奏で、風のようにそよぐ木管楽器が心地よいです。ただ、あまりにも流麗過ぎてコクに乏しい感じも否めません。主題提示部は繰り返します。コーダのトランペットが主題を演奏するのは途中までです。16分26秒
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
マクス・フォン・シュリングス
Max von Schillings
シュターツカペレ・ベルリン
Wikipediaによると、マックス・フォン・シリングス(1868年-1933年)は、ドイツの作曲家・指揮者で、1919年から1925年までベルリン国立歌劇場の首席指揮者を務め、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーの師としても知られている、のだそうです。これは相当古い録音のようですが、不思議と聴きやすい音質です。かといって、演奏の優劣を述べるような代物ではなく、最後まで聴くのはやめておきます。あくまでご参考として掲げておきます。提示部の繰り返しは有りません。終止部のトランペットは主題を最後まで演奏します。14分15秒
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
フリッツ・シュライバー
Fritz Schreiber
ドレスデン国立管弦楽団
全く知らない指揮者なので、相当古い録音かと思いきや、なんと良質なステレオ録音であり、意外に良い演奏だったので驚きました。ただ、Wikipediaによると「フリッツ・シュライバー指揮、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団」というのは架空の指揮者による演奏なのだそうで「ベートーヴェンの交響曲第3番のレコードは『本当はフルトヴェングラー指揮のラジオ放送用録音なのではないか』という憶測を呼び、中古レコード市場で1万円を超える値がついたこともあった」のだそうで、もっとも有名な正体不明盤なのだとか。ステレオ録音ですし、どう聴いてもフルトヴェングラーの演奏には聞こえませんけれどね(もしかして、シュライバー名義の録音は数種類ある?)。演奏者がはっきりしていれば【お薦め】にしたかもしれません。提示部の繰り返しは無しで、終止部のトランペットは高音危なかっかしいけれど最後まで主題を吹きます。13分50秒
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
カール・シューリヒト
Carl Schuricht
シュトゥットガルト放送交響楽団
1952年2月29日(ライヴ)
ここからシューリヒトの録音が続きますが、次から次へとライヴ録音が発売されてきたので混乱しています。もしかしたら間違って違う演奏の感想を書いてしまうかもしれません。まず録音は当然モノラルなのですが、意外に優れた音質で鑑賞に不足はないでしょう。セッションでもこれ以下のものはあります。しかし、オーケストラはあまり上手くないですね。あまりリハーサルの時間が取れなかったのでしょうか、少々雑です。肝心の指揮はというと、あまりテンポを揺り動かさず、淡々と進めていく印象があり、音楽自らに語らせているようで、そこに物足りなさを感じる人もいるでしょうし、これを指揮者の風格と捉える人も少なくないでしょうが、私は前者のほうです。提示部の繰り返しは有りません。終止部のトランペットは最後まで主題を吹きます。13分58秒
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
カール・シューリヒト
Carl Schuricht
パリ音楽院管弦楽団
1957年12月18,20,23日
パリ,サル・ワグラム
ほぼ同時期のクリュイタンス/ベルリン・フィルの全集はステレオ録音なのに、シューリヒト/パリ音楽院管はモノラル録音なのが解せませんが、何はともあれセッションによる交響曲全集の一曲です。これは良い演奏。「英雄」にふさわしい覇気と熱気、前へ前へと進もうとする推進力が演奏にあります。パリ音楽院管の音色も香り立つような色彩と気持ちの良い響きで聴き手を魅了します。シューリヒトの指揮も、何か特別なことをしているわけではないのだけれど、「英雄」の場合、音楽が充実し切っているのでそれがプラスに働きます。提示部の繰り返しはありません。コーダのトランペットは最後まで主題を吹きます。14分14秒
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
カール・シューリヒト
Carl Schuricht
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1961年8月23日(ライヴ)
ザルツブルク祝祭大劇場
【お薦め】
モノラルですが、すごく鮮明な録音なのがありがたいです。優秀録音と言っても差し支えないものです。セッションより遅めのテンポで、緩急の差も大きく、ちょっとした箇所の表情づけも豊かであり、シューリヒトを聴くならこちらでしょう。前2種とあまりにも違う濃い味付けに、ウィーン・フィルがシューリヒトをリードしているのでは?と思ってしまいました。それくらいウィーン・フィルが羽を伸ばした演奏を行っており、常に金管の強奏が効いています。提示部の繰り返しはありません。終止部のトランペットは最後まで主題を吹きます。総じて誠にダイナミックな演奏でした。15分21秒
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
カール・シューリヒト
Carl Schuricht
フランス国立放送管弦楽団
1963年5月14日(ライヴ)
パリ,シャンゼリゼ劇場
良質なステレオ録音です。シューリヒトが得意としたという「英雄」をステレオで聴けるとはなんたる幸せ。テンポの伸縮はさらに大きくなり、ロマンティックな解釈に変わっています。バランスは弦主体でフルートなど小さめ、ウィーン・フィルの時のような金管の強奏はありませんが、代わりに弱音時の抒情性に聴くべきところがあります。総じてウィーン・フィル盤ほどの感銘は得られなかったのですが、老いてなおダイナミックな指揮は変わっていないようです。提示部の繰り返しは有りません。終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。15分06秒
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
カール・シューリヒト
Carl Schuricht
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1964年10月(ライヴ)
ベルリン,フィルハーモニーザール
録音状態が前3種に劣っていて、情報量が少ないため、あまりベルリン・フィルらしく聴こえないのですが、カラヤン時代のBPOをシューリヒトが指揮した貴重な記録です(それ以上のものではないと思います)。ベルリン・フィルを起用した録音は1970年代初め頃までイエス・キリスト教会が使われていましたから、フィルハーモニーザール(1963年竣工)での録音というのも珍しいかも。演奏はシューリヒトの録音の中では最も堅固な印象で、録音がもう少し良ければ聴き映えがしたでしょうね。提示部は繰り返されず、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。15分12秒