「英雄」第1楽章のみの聴き比べ、最終回です。
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
若 杉 弘
Hiroshi Wakasugi
シュターツカペレ・ドレスデン
1985年6月
ドレスデン,ルカ教会
【お薦め】
まず、オーケストラの音色・ホールの響きが魅力的です。若杉弘もこの名オケ・名録音会場を得て、恰幅のよい堂々たるベートーヴェンを繰り広げています。このサウンドに浸りきっているだけでもう十分で、私にとっては大変なご馳走なのですが、あまりに正統派過ぎて、もう少し若杉弘ならではの何かがないのかと贅沢なことを言いたくなってきます。しかし、演奏は立派なもので、これだけのベートーヴェンはなかなか聴けるものではありません。主題提示部は繰り返し、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。18分28秒
なお、若杉弘/ケルン放送交響楽団(1977年10月28日ライヴ)は未聴です。
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ブルーノ・ワルター
Bruno Walter
ニューヨーク・フィルハーモニック
1949年3月21日、4月16日、5月4日
ニューヨーク,コロンビア30丁目スタジオ
さすがニューヨーク・フィル、力強く風格のある響きがします。後年のコロンビア響との演奏より重く引きずる感じがありますが、粘る箇所は同じですね。ただ、ワルターがニューヨーク・フィルを統制し切れていないのか、僅かにもたつく、微妙にテンポのズレのようなものがある場面が気になるところです。ワルターの基本的な楽曲解釈はコロンビア響とのステレオ録音とほとんど変わりませんので、(オーケストラが劣るとしても)ワルターを聴くならそちらを選ぶべきと思います。録音はこの時代ですから当然モノラルで、全合奏時にキンキン鳴りますが、聴き辛いというほどのことはありません。提示部のリピートは無し、終止部のトランペットは高らかに主題を演奏します。14分47秒
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ブルーノ・ワルター
Bruno Walter
シンフォニー・オブ・ジ・エア
1957年2月3日(ライヴ)
【お薦め】
以前にも書きましたが、シンフォニー・オブ・ジ・エアは、旧NBC交響楽団のことで、トスカニーニの芸術が染み込んだオーケストラをワルターが指揮すればとてつもない名演が出来上がるに違いないと思ってCDを購入したところ、録音の悪さにがっかりした記憶があります。今回聴いてみたら録音はそんなに悪くなく、先のニューヨーク・フィル盤よりも良いと思いました。テンポはやや遅めに変わり、よりいっそう旋律を歌う演奏となっていますので、ワルター/コロンビア響はオーケストラが物足りないと感じている人(私はそれほど不満を覚えないけれど)には、こちらをお薦めしたいと思います。鳴りのよいオーケストラをたっぷり歌わせたワルターの「英雄」です。主題提示部は繰り返しません。終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。16分06秒
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ブルーノ・ワルター
Bruno Walter
コロンビア管弦楽団
1958年1月20,23,25日
ハリウッド,アメリカン・リージョン・ホール
【決定盤】
ワルターの人間性を感じさせる大らかな演奏です。故吉田秀和先生が著書「LP300選」でベートーヴェン『第3番交響曲変ホ長調』は、このレコードを掲げていました。だからというわけでもないのですが、この「英雄」は初めて聴いた時から私のお気に入りで、繰り返し聴き続けてきたものです。音楽が若々しく清新で、晴れ渡った青空を思わせる演奏であり、何度聴いても素晴らしい演奏だと思います。弦の数が少なめなのも現代風で古臭さを感じさせまんし、コロンビア響はクリーヴランド管みたいに巧くないかもしれないけれど、ワルターの指揮に忠実で、気持ちの良い演奏を聴かせてくれます。少しでも音質の良いCDが欲しかったので、何度も買い直し、今は「ベートーヴェン:交響曲全集、ヴァイオリン協奏曲、リハーサル(7CD)」に落ち着いています(SACDで出ていないか検索したら自分のブログがヒットしてしまい恥ずかしい)。提示部の繰り返しはありません。終止部のトランペットは最後まで主題を演奏します。16分08秒
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ギュンター・ヴァント
Gunter Wand
北ドイツ放送交響楽団
1984年11月28-30日、12月1,3,6日
ハンブルク,フリードリヒ・エーベルト・ハレ
【お薦め】
ヴァントのベートーヴェンは食わず嫌いというか、最初に買ったのが交響曲第1番と第2番で、これがあまり良いとは思えなかったため、それ以後、入手に努めていないのです。そのようなわけであまり期待しないで聴いたこの録音ですが、なかなか良いですね。大きめの編成のオーケストラをよく鳴らし(内声部の充実)、旋律を伸びやかに歌わせ、ヴァントらしく細かいところまで神経の行き届いた、気持ちのよい「英雄」です。厚めの弦に程よく管楽器がブレンドされ、ティンパニは深い響きで打たれます。もはやこれは職人芸の世界ですね。主題提示部はリピートし、終止部のトランペットは主題の演奏を途中で降り、木管楽器に引き継ぎます。18分06秒
なお、ヴァント/北ドイツ放送響の1989年12月10日~12日(ライヴ)及びベルリン・ドイツ響の1994年2月15日(ライヴ)は残念ながら未聴です。
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ブルーノ・ヴァイル
Bruno Weil
ターフェルムジーク・バロック・オーケストラ
2012年5月24-27日(ライヴ)
トロント,ケルナー・ホール
名前にバロックを付けているくらいですから、ピリオド楽器オーケストラによる演奏です。弦は少なめノン・ヴィブラート、管楽器も飾り気のない素朴な音色です。ヴァント指揮北ドイツ放送響の分厚い響きを聴いた直後では、弦楽合奏が栄養失調気味で痩せているように聴こえます。もっと速いテンポにすればよかったのに、中庸のテンポを採用しているので、響きの薄さが気になってしまうのです。このタイプの演奏であれば、モダン楽器オーケストラのほうがふさわしいでしょう。主題提示部はリピートし、終止部のトランペットは最初から目立たたず、木管楽器主体で推移していきます。これは新しい発見。17分05秒
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
フェリックス・ワインガルトナー
Felix Weingartner
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1936年5月22日・23日
ワインガルトナーは、他にもロンドン響、ブリティッシュ響、ロイヤル・フィルを指揮してベートーヴェンの全交響曲を録音していますが、これは第1・7・8・9番と同じウィーン・フィルを指揮したものです。録音は音の揺れに時代を感じますが、聴く前に想像したより鮮明な音です。自由にテンポを動かしている演奏で速度がコロコロ変わりますが、フルトヴェングラーのように大きなうねりとならず、少しせわしない感じがします。提示部の繰り返しは無く、終止部のトランペットは最後まで主題を演奏しているように聴こえます。14分24秒
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
デイヴィッド・ジンマン
David Zinman
チューリヒ・トーンハレ管弦楽団
1997&98年
【お薦め】
ベーレンライター社刊行の「新全集版を使用」という触れ込みで話題を集めた全集でしたが、これを初めて聴いた時は、今まで聴いていたベートーヴェンは何だったのか?と本当に驚いたものでした。それらの驚きは、実は新全集版の楽譜がそうなっているからではなく、ジンマンや奏者のアイディアによるものだと知ったのは後のことでしたが、騙されたと怒って中古ショップに叩き売った人もいます。買い叩かれて2度怒ったそうです。でもね、それを差し引いてもこのベートーヴェンは魅力的だと思うのです。テンポは時代考証型で速いですし、少なめの弦により木管楽器が浮き上がってクリアな響きを確保していますし、ティンパニも元気です。音楽が生き生きとしていて新鮮で、オーケストラがこれが自分達のベートーヴェンだと言わんばかりに溌剌と自発的に演奏しているのがわかります。主題提示部は繰り返します。終止部のトランペットは途中で降りて主題を木管に譲ります。15分34秒
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これでひとまず終了です。目標の200枚には達しなかったかもしれません。
最近はYahoo!ブログ終了に伴う、引っ越し問題が悩ましいです。ブログの移転は単純なことではないということがわかってきました。Yahoo!ブログ提供予定の「他社ブログへの移行ツール」を使用すると「移行元のYahoo!ブログは閲覧・更新できなく」なるのですが、その理由を確かめるために、次回の記事はひとつ実験をしてみたいと思います。お時間のある方はご協力くださるようお願い申し上げます。