ジャズのピアノ・トリオばかり聴いていた私ですが、クラシック音楽のスイッチが入ったので、気が変わらないうちに記事を書きたいと思います。
鉄は熱いうちに打てですよ!
曲は、ブラームスが「自作で一番好きな曲」「最高傑作」と言った交響曲第4番です。
ヨハネス・ブラームス:交響曲第4番ホ短調作品98
第1楽章 Allegro non troppo ホ短調 2/2拍子 ソナタ形式
第2楽章 Andante moderato ホ長調 6/8拍子 展開部を欠いたソナタ形式
第3楽章 Allegro giocoso ハ長調 2/4拍子 ソナタ形式
第4楽章 Allegro energico e passionato ホ短調 3/4拍子 パッサカリア
これも名盤と言われるものがいっぱいあって、それら全部を聴くことはできないので、名曲名盤500等を頼りに、ベスト5に挙げられているものだけを聴くことにします。
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1948年ライヴ
古いライヴ録音ですが、意外に聴きやすい音質(デッド)です。第1楽章は幻想的と言ったらよいでしょうか。冒頭のやや伸ばし気味のHの音がすすり泣くようです。音楽に従ってテンポが非常に速くなり、またはかなり遅くなり、著しい緩急の差が劇的な効果をあげています。ここぞというときの和音の踏み締めも効いています。音の塊が熱気となって押し寄せてくるようです。第2楽章はホルンと木管のぶっきらぼうな演奏に始まりますが、それにより直後に訪れる優しさが際立ちます。ヴァイオリンの第1主題の変奏のところの高揚感が素晴らしいし、チェロによる第2主題も豊かな歌に溢れています。再現部の重厚な弦楽合奏も聴きものですし、迫力、熱気も十二分です。第3楽章は速めのテンポによる豪快な演奏ですが、第2主題になると長閑で落ち着いた表現となります。展開部、再現部は手に汗握る熱演でした。第4楽章も変化が大きく、それらをいちいち挙げていたらキリがありません。第12-15変奏とそれに続く第16変奏以降の気持ちの切り替えがすさまじいです。コーダも白熱的で、こんな演奏は
ブルーノ・ワルター指揮
コロンビア交響楽団
1959年
【決定盤】
もう20年ぐらい前のことですが、クラシック音楽のフォーラムがあって、そこで「ブラームスの第4でワルター/コロンビア響以外の名演を挙げよう」というお題があり、私は小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラと答えていましたっけ。もうひとつ思い出があり、それは社会人になってから最も厳しい仕事をし、精神体調ともに最低の状態にあって音楽に興味を失ってしまったときでも、なぜかワルター/コロンビア響のブラームス第4だけは繰り返し聴くことができたのです。
第1楽章は第1主題からして最高です。見事なバランス。弱弱しくなる一歩手前の柔らかさ。旋律の歌わせ方が絶妙です。第2主題の滑らかさも絶品。三連音の動機も高らかに演奏されます。展開部の哀愁、再現部に至ってはますます寂しさを増しているように感じられます。ワルターの優しさが滲み出た名演でした。第2楽章も管・弦のピッツィカートのバランスは最上に保たれ、ヴァイオリンが第1主題を変奏し始めると幸せな気持ちになります。チェロの第2主題の哀愁もこれ以上のものはないと感じさせるくらい心がこもったものです。八声部の弦楽合奏はこれより美しい演奏もありますが、私にはこの演奏が一番しっくり来ます。第3楽章は演奏によってはやかましく感じるものもあるのですが、この演奏は落ち着いており、かつ十分快活で瑞々しく生き生きして輝かしいものです。第4楽章は悲劇的になり過ぎない節度が好ましく、各変奏をじっくりと描いていきます。第12変奏のフルート・ソロもこれが最高に思えます。
カール・シューリヒト指揮
バイエルン放送交響楽団
1961年
少々古い録音の中から柔らかく抒情的な第1楽章が聴こえてきて、あぁ良い演奏だなと思います。どこまでも滑らかで優美で、三連音の楽句も刺々しく鳴りませんが、それもやや遠く感じる録音のせいなのかも。コーダも劇的ではあるものの抑制が効き、走りすぎることはなく、この指揮者の美質を感じさせます。第2楽章は冒頭から鐘の音を模したという動機が美しく、旋律は滞りなく流れ、全体にこの楽章特融の若干古びたイメージをよく表現した演奏で、これで録音が良ければベストと言いたいところです。第3楽章もシューリヒトらしい重厚ではあるがキレの良さを感じさせる演奏で、雄渾で華やかです。第4楽章も前3楽章について述べてきたことが当て嵌まります。作為めいたところがなく自然に音楽に語らせているような演奏。第12-15変奏が夕映えのように美しく、それ以降は一層音楽が充実しているように感じられます。
カルロス・クライバー指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1980年
C. クライバーが残した代表的な録音のひとつで、今回一番最後に聴いた演奏です。なぜ一番最後にしたかというと、ファンの方は憤慨されるかもしれませんが、実はこの演奏に一度も感動したことがないからです。レコード芸術の「最新版 名曲名盤500」でも第1位なので改めて聴いてみることにしました。
第1楽章はこれ以上ないというくらい彫琢された演奏という印象を持ちました。ただ、違った聴き方をすれば、ウィーン・フィルがこれくらい出来て当たり前とでも思っているかのようにも感じられ、どうもしっくり来ません。これは録音のせいなのかもしれませんが、どうもクライバーが空回りしているように感じられてならないのです。第2楽章も細部まで目が行き届いた美しい演奏です。これほどの完成度の高い第2楽章もなかなか無いと思います。ただ、時にウィーン・フィルが機械的に演奏しているようにも聴こえてしまうのです。クライバーの指揮に雁字搦めとなって自発性を欠いているような演奏のように思われる箇所があります。これほど完成度の高い演奏も無いのですが、私にはどうしてもそのように聴こえてしまう。第3楽章はウィーン・フィルの響きが鮮烈で気持ちよく聴くことができます。クライバーはこういう曲を振らせたら本当に上手く、文句なしです。オーケストラも水を得た魚のように生き生きとしています。第4楽章は指揮者とウィーン・フィルが完全に一体化し、ブラームスの情念のようなドロドロしたものを一掃した、きびきびとした音楽づくりが心地よく、結果的にはこの演奏は名演という結論に達しました。今後は努めてこの録音を聴くようにしたいと思います。
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1989年ライヴ
この指揮者らしいやや遅めのテンポ(思ったほど遅くはありまませんが)で細部まで彫琢された第1楽章で、秋の気配を感じます。ウィーン・フィルの弦や木管が美しいです。終始ゆったりと落ち着いていて品格のある演奏。場面が移り変わるところで絶妙な表現を聴かせます。第2楽章も冒頭のホルンの音色に魅せられ、落ち着いた速度でじっくりと音楽が語られていきます。しとやかなで、この楽章も細かいところまで目が行き届いた演奏です。第3楽章も中身がぎっしり詰まった充実した響きですが、微に入り細を穿つ表現は変わりありません。第4楽章も実によく歌う演奏なのですが、この演奏を最後まで集中して聴くのはなかなか大変です。このテンポで一切手抜きなしですから聴き手もそれなりの覚悟が必要です。ただ単に私の注意力が持続しないだけかもしれませんが。
ギュンター・ヴァント指揮
北ドイツ放送交響楽団
1990年ライヴ
これは一般に出回っている1996-97年録音の前のライヴです。第1楽章は堅固な造形美、一点も揺るがせず、テンポの揺れも抑え、厳しい表情を聴かせます。ヴァントの指揮に渾身の演奏で応える北ドイツ放送響の熱演。第2楽章は朴訥な管からヴァイオリンに第1主題が受け継がれていく箇所、一気に華やかになるところが素晴らしいです。再現部の大きくうねる波のような重厚さ、弦楽合奏の立派さががブラームスらしくて素敵です。この演奏の白眉と言ってよいかも。第3楽章も理想的なテンポと華やかさ、賑々しさがあり、トライアングルがきちんと聴こえるのも◎です。演奏に覇気があり音楽が瑞々しく枯れていないのが良いですね。第4楽章も各変奏が力強く、全体が大きな生き物のようです。
ベルナルト・ハイティンク指揮
ボストン交響楽団
1992年
第1楽章第1主題は、この曲にふさわしい哀愁に満ちた表現でボストン響のシルクのような弦が美しいです。各楽器のバランスもよく保たれており、申し分のない仕上がりなのですが、全体に安全運転に終始しているようにも聴こえ、もう少し痛切な表現があったらもっとよかっのにと贅沢な感想を持ちました。第2楽章も雰囲気がよく、暖かみのある音楽を聴かせてくれ、仕上げの丁寧さが心地よいです。オルガンのような厚みのある充実した響きです。第3楽章はおおっとりとした演奏と思いきや意外に活発で、これもブラームスらしい重厚な響きが味わえる立派な演奏となっています。第4楽章も各変奏の的確な表現による抜群の安定感と完成度を誇る名演となっています。
パーヴォ・ベルグルンド指揮
ヨーロッパ室内管弦楽団
2000年ライヴ
比較的小編成、左右対向配置のオーケストラを指揮していて、隅々まで見通しが良く、木管楽器がよく聴こえるのがありがたい演奏です。テンポは速め、スイスイと進行します。小編成ゆえにここ一番の迫力に欠けます。また、全体に即物的であっさりしている印象があります。ただ、響きは新鮮で聴きなれたこの曲に新しい発見があるかもしれません。第2楽章は一層その感が強くなり、第1楽章以上に成功していると思います。管と弦の繊細な美しさに聴き惚れます。管楽器が主役の楽章ですが、八声部に分かれた弦楽合奏も聴きものです。この楽章でも速めのテンポでもたれることなくスムーズな音楽の運びが心地良いです。第3楽章はキレの良いリズムが爽快です。ここでも隅々まで聴き取れるのが楽しくて思わず聴きいってしまいました。愉しい演奏です。第4楽章も管楽器がよく聴き取れるため、他の演奏よりわかりやすい音楽となっています。展開部(第16変奏~)以降ももなかなかの迫力です。非常に充実した演奏で感銘を受けました。
サー・ジョン・エリオット・ガーディナー指揮
レヴォリューショネル・エ・ロマン・ティーク
2008年ライヴ
第1楽章冒頭から惹き込まれます。編成は小さめなのでしょうが量感と重さがありロマンティックでよく歌われています。ベルグルンド盤同様、常に管楽器がよく聴こえるのもう嬉しいところ。ピリオド楽器とそのスタイルによる演奏なのでしょうけれど、あまりそうしたことを感じさせない演奏です。コーダはたたみかけるように終わります。第2楽章も良いテンポで全体に古雅な趣があり、よく歌われています。第3楽章は一転して速めのきびきびした演奏で、あっという間に終わる印象があります。第4楽章はこの楽章の性格と演奏スタイルがよく合っています。第12変奏のフルートの雅やかなフルート独奏が美しいです。とにかく各変奏がその性格に従って鮮やかに演奏されていく様は高級な織物を眺めているようで、実は私はこの楽章が少々苦手なのですが、最後まで飽くことなく聴くことができました。
リッカルド・シャイー指揮
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
2013年
第1楽章はまずは申し分のない第1主題の歌に始まります。表情に起伏があり十分劇的なのですが、あまりにもスムーズでスイスイ曲が流れていくので、いつの間にか終わってしまいます。優等生的な演奏を言うべきでしょうか。第2楽章もこの曲の最も美しい演奏ではないかと思います。八声部に分かれる弦楽合奏などとてもきれいです。第3楽章は元気いっぱいでこれもあっという間に終わってしまいます。第4楽章はシャイーが最も力を入れたであろう演奏となっており、各変奏の描き分けが見事です。
さて、この録音にはおまけとして「第1楽章冒頭部分の異稿」が付いており、これは「初演後の1886年2月には、ヨーゼフ・ヨアヒムが曲の冒頭部分を改訂するようにすすめ、そのときはブラームスも同意して4小節の短い導入部を書いた。しかし、後日これはブラームスが抹消し、当初の構想は変えられなかった(Wikipedia)」というものなのですが、この導入部は無くて正解だと思いました。
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久しぶりに聴き比べの記事を書いたので疲れてしまいました。
今後について
Yahoo!ブログのサービス終了により、2019年9月1日以降は、記事・コメント等の投稿および編集ができなくなります。それまではあと何本か聴き比べの記事を投稿し、8月31日にこのブログを自ら削除する予定です。
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移転と同時に当ブログを利用停止にしますので、記事で移転先のリンクをお知らせすることができませんが、新ブログタイトルを「クラシック音楽・名曲名盤500」(←某誌の真似)に改めますので、それで検索してお越しいただければ幸甚です。
覚えてくださいね。「クラシック音楽・名曲名盤500」です。