ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
交響曲第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」
第1楽章 Allegro Vivace ハ長調 4/4拍子
第2楽章 Andante Cantabile ヘ長調 3/4拍子
第3楽章 Menuetto (Allegretto) ハ長調 3/4拍子
第4楽章 Molto Allegro ハ長調 2/2拍子
ブルーノ・ワルター指揮
ニューヨーク・フィルハーモニック
SONY CLASSICAL 1956年3月録音
これは最初から良い演奏だと思っていました。何度聴き返してもそれは変わりません。これは「ジュピター」の決定盤でしょう。第1楽章はエネルギッシュで推進力があります。「ジュピター」の第1楽章はこうでなくちゃと思います。第2楽章は途中で飽きてしまう演奏が多いのですが,さすがワルターの演奏はたっぷりと旋律を歌わせ,聴かせてくれますね。第3楽章も同様ですが,ここにはどっしりとした力強さがあります。終楽章も充実の極み。味が濃いです。そんなわけで大変素晴らしい演奏なのですが,モノラル録音であることが惜しまれます。これがステレオ録音だったら,このCDとあともう1枚取り上げて「ジュピター」は終わりにすることができます。
【29分05秒】
ブルーノ・ワルター指揮
コロンビア交響楽団
SONY CLASSICAL 1960年2月録音
2012年9月に発売された6枚組BOXに収録されているCDを聴きました。数分で聴くのを止めました。これは録音がひどい(このCDのリマスタリングのせい?)と思ったのです。左右にめいっぱい広がったステレオ録音は仕方がないとしても,キンキン響く金属的な高弦,異様に膨らませた低音は,聴くのが苦痛でした。聴き比べ2巡目で我慢して聴き続けたところ,そういう音にも次第に馴れまして,これはこれで良い演奏だと思えるようになりました。オーケストラの魅力という点では,薄っぺらい響きのコロンビア響はニューヨーク・フィルにとてもかないませんが,ステレオ録音のせいで,爽やかに感じます。さて,この演奏を取り上げた最大の理由は第2楽章。この演奏が私のツボにはまりました。今回聴いた中ではベストだと思ったのです。なんて寂しく孤独な音楽なのでしょう。2回目に聴いたときに,そう感じました。
【30分26秒】
ジョージ・セル指揮
クリーヴランド管弦楽団
SONY CLASSICAL 1963年10月録音
聴く前にイメージしていたとおり,セルらしくきりりと引き締まった演奏です。特に終楽章の精密機械のような演奏は圧巻で,感動的ですらあります。どの楽章もプロポーション抜群で,まるでギリシャ彫刻のよう? あまりに申し分なさ過ぎて,感想が書きづらいです。セルの厳しい造型に触れた後では,ワルターの人懐っこい演奏が懐かしく思えます。いや,本当に素晴らしい演奏ですし,これからも機会あるごとに聴いていくであろう名演なのですが,毎日食べたくない料理ってあるじゃないですか。録音も,もう少し冴えたものであったら,また違った印象があったかもしれません。
【26分32秒】
カール・ベーム指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
Deutsche Grammophon 1961年12月,1962年3月
以前にも書きましたが,中~高校生の私にとって,ベームは神様のような指揮者だったのです。特にモーツァルト,シューベルト,ブラームスに関しては。そんな私にとって,ベームがベルリン・フィルとウィーン・フィルを指揮した2種類の録音がある場合,どちらを選べばよいかというのは切実な問題でした。両方買って聴き比べるなんて,とてもできませんでしたかね。こうして聴いてみると,「ジュピター」はベルリン・フィル盤を選んでおけば,その後のこの曲への接し方も変わっていたかもしれないと思いました。この頃のベルリン・フィルの藍色のサウンドと,ベームの逞しい音楽づくりが魅力的ですが,その一本気なところが今の私にはちょっぴり物足りなく感じたりもします。
【27分07秒】
カール・ベーム指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
Deutsche Grammophon 1976年4月録音
そんなわけで,私が初めて買った「ジュピター」はこれです。今聴いてもウィーン・フィルの優美なサウンドが大変魅力的です。録音も良いので,オーケストラの響きが艶っぽくて,鮮やかで,とてもイイですね。特に第1楽章が立派です。響きだけ採れば,この第1楽章が一番好きかもしれません。問題は,この演奏,聴いているとき,ついつい他の事を考えてしまうのです。曲が長く感じられてしまうのですね。ベームの色気がない(男らしい? 漢って書くのかな?)指揮のせいなのか,私の集中力の無さによるものなのか,きっと後者だと思うのですが,実は買ってからあまり聴かなかったレコードなのです。
【28分20秒】
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
EMI CLASSICS 1970年9月
それでは,カラヤンのベルリン・フィルとの2種の録音のうち,どちらを選ぶかというのも難しい問題です。カラヤンの解釈自体はそれほど変わらないと思うのですが,録音会場(イエス・キリスト教会)が違うし,音づくりも異なりますので,印象が結構変わります。木管楽器の聴こえ方もかなり違います。この頃の,当時最高水準にあったかもしれないベルリン・フィルの木管奏者の名技を堪能できるという点で,このEMI CLASSICS盤に軍配が上がるかもしれません。全体的にゴージャスで華やかなサウンドで,なんだかR・シュトラウスを聴いているような気持ちになりますが,これはこれでアリかも,と思います。
【28分20秒】
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
Deutsche Grammophon 1976年5月録音
録音場所がベルリンのフィルハーモニーに変わりまして,レーベルもドイツ・グラモフォンとなりました。カラヤンの「ジュピター」を購入するのであれば,このCDだと思います。EMI CLASSICSの華美な印象が後退し,もっと引き締まった音楽を聴かせてくれます。録音が自然になったこともあるのでしょうね。カラヤンのモーツァルトというと敬遠する人もいますが,私は結構好きでよく聴きます。名曲名盤本には,私にはどこが良いのかさっぱりわからないCDが上位に顔を出すことがあるけれど,それらのCDよりカラヤンのほうがよっぽど聴き応えがあると思うのです。
【30分16秒】
クラウディオ・アバド指揮
ロンドン交響楽団
Deutsche Grammophon
1979年10月、1980年1月
これも良いですよね。現代オーケストラによる演奏では最も爽快な演奏ではないでしょうか。軽やかでよく歌う素敵な演奏です。「ジュピター」では重量感のある演奏が多く,このアバド盤も軽量というわけではないのですが,フットワークが軽いというか,小粋なのです。イタリア・オペラを聴いているように感じることもあります。ピリオド楽器による演奏は苦手なので,現代オーケストラによるCDを1枚紹介してほしいといわれたら,録音の優秀さも評価して,このCDを上げるかもしれません。余計なことですが,この演奏の第1楽章,カラヤンっぽくないですか?
【34分56秒】
オイゲン・ヨッフム指揮
バンベルク交響楽団
ORFEO 1982年3月,11月
肉づきの良い,ふくよかなモーツァルト。育ちの良さを感じます。スリムで引き締まったスタイルが多い中,こういう演奏が逆に新鮮に感じられるかも。ヨッフムの指揮だと,そこそこメリハリもあるますので,ベートーヴェン的ですね。ベーム指揮の演奏に近いものがありますが,あちらはもう少し筋肉質でした。ヨッフムのほうがポッチャリしていて,私はこちらのほうが好きです。他の演奏の良いところだけを吸い上げて構築したような演奏で,そのような意味では中庸なのかもしれませんが,非の打ち所が無い演奏というのは安心して聴くことができるので,心地がよいものです。
【35分56秒】
ニコラウス・アーノンクール指揮
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
TELDEC 1982年録音
レコファンという中古ショップがありまして,このCDそこで購入した覚えがあります。初めて聴いたときは衝撃的というか,目からウロコでした。個人的にはこれが「ジュピター」の決定盤だと思っています。いろいろ言いたいことがあり過ぎて,それらを書こうとすると途方に暮れます。だから,ご紹介するだけ。モーツァルトの交響曲の場合,ピリオド楽器による演奏だと,へなへな~という貧乏くさい感じがすることがあるのですが,ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスではなく,名門コンセルトヘボウ管を起用したところが良いです。響きが立派で技術も確か。今聴いても全く古さを感じさせません。これは最も多く繰り返し聴いた「ジュピター」の録音で,最初に購入した中古CDが寿命を迎えてしまったため,4枚組のセットを新しく買い直して愛聴しています。何度でも買い直し,一生聴き続けます。
【41分35秒】
ニコラウス・アーノンクール指揮
ヨーロッパ室内管弦楽団
TELDEC 1991年ライヴ
モーツァルト没後200周年記念演奏会のライヴ録音(ウィーン)です。先程,アーノンクール/コンセルトヘボウ管による演奏を絶賛しましたが,こちらのヨーロッパ室内管との録音のほうが評論家さんにはウケが良いみたいで当惑します。どちらが良いか。この判断は難しい。私はコンセルトヘボウ管盤が,よりアーノンクールらしくて,迫力のあるオケ(特にティンパニ)も指揮者の意図を十全に表現しているように感じられていたので,そちらのほうを推していたのですが,改めて聴き比べてみるとこのヨーロッパ室内管の演奏も,見通しのよい録音のせいもあって,表現が洗練されているように感じられますし,この瑞々しさは捨て難いものがありますね。うーん,一般にはこのCDのほうが良いかも。弱気。これも決定盤にします。
【40分51秒】
フランス・ブリュッヘン指揮
18世紀オーケストラ
Philips 1986年5-6月ライヴ
ピリオド楽器による「ジュピター」。ブリュッヘンと18世紀オケによるCDは評価が高いものが多いです。とりわけモーツァルトの交響曲はいずれも名盤中の名盤的な扱いで,へそ曲がりな私は,それほどでもないんじゃない?って思ってしまいます。他の曲ならいざ知らず,「ジュピター」の場合,ピリオド楽器による演奏は響きが空虚な感じがして寂しい気持ちがするのです。結果としてはなかなか面白かったですし,これだけ力感のある第1楽章も珍しいと思います。そういう意味では単なる美しさの追求に留まらない第2楽章がユニーク。第3楽章は普通。第4楽章はやっぱり力強い演奏。
【41分14秒】
マルク・ミンコフスキ指揮
レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル
ARCHIV 2005年10月ライヴ
ミンコフスキは才人指揮者というイメージがあって,何かやらかしてくれるのではないかと,いつも期待して聴いています。私見では,世評の高いブリュッヘン盤よりこちらのミンコフスキ盤のほうが魅力的なのですが,いかがでしょうか。20年近く後の録音だけあって,こちらのほうが新鮮です。録音も良いですし。アーノンクールに近いものがありますね。レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル・グルノーブル(グルノーブル・ルーヴル宮音楽隊)って,古楽器オーケストラなのですけれど,こういう演奏だったらピリオド・オケでも全然OKです。第2楽章や第3楽章もユニークですが,おおっ!って思うのはやはり第4楽章でしょう。この第4楽章はスリリングでなかなか聴き応えがありますよ!
【37分04秒】
この記事,アップしてからCDを2回入れ替えています。
5,000文字制限ってやつは!