ある記事で、ホッホドラマティッシャー・ソプラノという言葉を使用しましたが、不安になったので調べてみました。
どんなソプラノかというと、ワーグナーのオペラでは、ゼンタ、オルトルート、イゾルデ、ブリュンヒルデ、クンドリーで、リヒャルト・シュトラウスでは、エレクトラ、プッチーニでは、トゥーランドットといったところです。
そのようなわけで、急に「トゥーランドット」を聴きたくなりました。
以下、Wikipediaより。
トゥーランドット
題名役のトゥーランドットには、分厚い管弦楽の響きや合唱をも圧するような超人的な高音域を長時間にわたって歌い続けることが要求され、「ノルマ」の題名役と並んで、ソプラノ・ドランマーティコ最大の難役の一つと考えられている。
カラフ
カラフ役にも、「ハイC」といわれる高音域を含めて、トゥーランドットと声量・声質の両面で渡り合うだけの力強さが求められる。リリコ・スピント・テノールが担う。
ジャコモ・プッチーニ 歌劇「トゥーランドット」
登場人物
トゥーランドット:鉄血にして熱血にして冷血。氷のような姫君
カラフ:名前を知られてはいけない王子、ティムールの息子
リュー:王子に密かに想いを寄せる召使
ティムール:ダッタン国を追われた盲目の廃王、カラフの父
中国の皇帝アルトゥム:トゥーランドットの父
ピン:皇帝に仕える大蔵大臣
パン:内大臣
ポン:総料理長だが、料理をする場面はない
役人:一番最初に歌う人。出番は少ないが重要な役と思う
ペルシアの王子:歌うところが一箇所しかない。叫び声?
プー・ティン・パオ:歌うところは一箇所もない。首切り役人
ラマ教の修行僧:少年合唱
混声合唱
①
アルベルト・エレーデ
サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団&合唱団
トゥーランドット:インゲ・ボルク
カラフ:マリオ・デル・モナコ
リュー:レナータ・テバルディ
ティムール:ニコラ・ザッカリア
皇帝アルトウム:ガエターノ・ファネルリ
ピン:フェルナンド・コレナ
パン:マリオ・カルリン
ポン:レナート・エルコラーニ
役人:エツィオ・ジョルダーノ
1955年7月(ステレオ録音)
ローマ、聖チェチーリア音楽院
今回最初に聴いた演奏です。
とにかく、マリオ・デル・モナコのカラフが凄いです。こんなカラフは聴いたことがありません。「黄金のトランペット」の異名をとっただけのことはあり、このカラフだけでも聴く価値はあります。
他の歌手の存在感が薄れてしまいますが、戦後カラスと人気を二分したというレナータ・テバルディのリューも非の打ちどころがない歌唱で、役にふさわしいと思います。
肝心のトゥーランドットですが、ボルクは、喉に負担がかかっている感じで、声を潰してしまうのではないかと心配しされられますが、健闘していると思います。この当時、DECCAにはトゥーランドットを歌える歌手がいなかったのでしょうか。
エレーデの指揮とオーケストラは、歌手中心の録音のせいもあって、万事控えめで、伴奏に徹しているようです。
それにしても、1955年なのにステレオ録音です。どこかのレコード会社も見習ってほしかった。
②
トゥリオ・セラフィン
ミラノ・スカラ座管弦楽団
ミラノ・スカラ座合唱団
合唱指揮:ノルベルト・モーラ
トゥーランドット:マリア・カラス
カラフ:エウジェニオ・フェルナンディ
リュー:エリーザベト・シュヴァルツコップ
皇帝アルトゥム:ジュゼッペ・ネッシ
ティムール:ニコラ・ザッカリア
ピン:マリオ・ボリエルロ
パン:レナート・エルコラーニ
ポン:ピエロ・デ・パルマ
役人:ジュリオ・マウリ
ペルシャの王子:ピエロ・デ・パルマ
第1の声:エリザベッタ・フスコ
第2の声:ピヌッチャ・ペロッティ
1957年7月(モノラル録音)
ミラノ、スカラ座
今回5番目に聴いた演奏です。
セラフィンの指揮は、「トゥーランドット」のお手本のようなもので、他の演奏もこのようであったら良いのにという理想的なものです。モノラルなのが残念で、これがステレオ録音だったらどんなに素晴らしかったでしょう。
マリア・カラスのトゥーランドットは、私の好みだと、ビルギット・ニルソンより好きです。カラスは強い個性と特徴的な声を持っていますが、より人間的なトゥーランドットを感じさせてくれます。第2幕から第3幕途中までのトゥーランドットに人間らしさを求めるのも変ですが、氷のような姫君にも血が通っているのです。
この録音のすごいところは、リューをシュヴァルツコップが歌っていることです。カラスとシュヴァルツコップの共演、なんて豪華なのでしょう。シュヴァルツコップというと、元帥夫人とかドイツ・リートを連想しますが、このリューも少々表現過多であるものの、声質が合っているので、けして誤った起用ではないと思います。
問題はカラフ。フェルナンディは、「トスカ」のスポレッタ(スカルピアの副官)を連想させます。主役ではない脇役のテノール。フェルナンディにも良いところはありますが、カラフとしては物足りなさを感じます。
これはマリア・カラスを聴くべきCDでしょう。
③
エーリヒ・ラインスドルフ
ローマ歌劇場管弦楽団&合唱団
トゥーランドット:ビルギット・ニルソン
カラフ:ユッシ・ビョルリンク
リュー:レナータ・テバルディ
ティムール:ジョルジョ・トッツィ
皇帝アルトゥム:アレッシオ・デ・パオリス
ピン:マリオ・セレーニ
パン:ピエロ・デ・パルマ
ポン:トマゾ・フラスカーティ
役人:レオナルド・モンレアーレ
1959年7月3-11日
ローマ歌劇場
今回2番目に聴いたCDです。
空前のはまり役と言われたビルギット・ニルソンによるトゥーランドットは、水晶ようない声で、この難役をものともせず、軽々と歌っているように聴こえます。
ユッシ・ビョルリンクは健闘しているものの、デル・モナコを聴いた直後だったので、物足りなさを覚えました。リューはエレーデ盤と同じテバルディで、このような役は独壇場で文句なしです。
このCDは、ラインスドルフの指揮が面白かったです。プッチーニのオーケストレーションをきっちり分析・把握し、楽しく聴かせてくれます。アリアの伴奏をしている木管楽器の表情豊かな歌わせ方など、他にない良さがありました。
④
フランチェスコ・モリナーリ・プラデッリ
ローマ歌劇場管弦楽団&合唱団
トゥーランドット:ビルギット・ニルソン
カラフ:フランコ・コレッリ
リュー:レナータ・スコット
ティムール:ボナルド・ジャイオッティ
皇帝アルトゥム:アンジェロ・メルクリアーリ
ピン:グイド・マッツィーニ
パン:フランコ・リッチャルディ
ポン:ピエロ・デ・パルマ
役人:ジュゼッペ・モレーシ
ペルシャの王子:ピエロ・デ・パルマ
第1の声:イェーダ・ヴァルトリアーニ
第2の声:イーダ・ファリーナ
1965年
ローマ歌劇場
今回4番目に聴いた演奏です。
ニルソンのトゥーランドットは、ラインスドルフ盤に同じで、また、フランコ・コレッリも50年代後半から60年代後半にかけての代表的なカラフでだったそうです。そんな二人の共演ですから、「トゥーランドット」の代表盤として多くの人から支持されています。
加えてリューは、プリマドンナのレナータ・スコットであり、悪かろうはずがありません。
プラデッリの指揮も強い個性は感じないものの、手慣れていて安心して聴けます。
しかし、ニルソンが巨大な声で歌っているかというと、そうでもないし、コレッリは調子が悪いのか、それほどでもないように思われます。
そのようなわけで、私にとっては魅力が今一つなのですが、いかがでしょうか。
⑤
ズービン・メータ
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
ウォンズワース・スクール少年合唱団
合唱指揮:ラッセル・バージェス
ジョン・オールディス合唱団
合唱指揮:ジョン・オールディス
トゥーランドット:ジョーン・サザーランド
カラフ:ルチアーノ・パヴァロッティ
リュー:モンセラート・カバリエ
ティムール:ニコライ・ギャウロフ
皇帝アルトゥム:ピーター・ピアーズ
ピン:トム・クラウゼ
パン:ピエル・フランチェスコ・ポーリ
ポン:ピエロ・デ・パルマ
役人:サビン・マルコフ
ペルシャの王子:ピエル・フランチェスコ・ポーリ
1972年8月
ロンドン、キングスウェイ・ホール
今回3番目に聴いた演奏です。
このCDは値下がりを待って入手し、すごく期待して聴いたのに、さほど感銘が得られず、がっかりした記憶があります。
まずメータの指揮ですが、メリハリが効いていてダイナミックなのは良いのですが、平板な印象があります。ひとつにはテンポの問題があります。セラフィンが理想なのですが、メータは普通の人とちょっと違う感性を持っているのか、常人の私には違和感を覚えるところが多いのです。
ジョーン・サザーランドは偉大な歌手ですが、トゥーランドットはどうでしょう。高音が苦しそう(ハイCの張り合いでは、パヴァロッティに負けてしまう)です。しかし、それ以外は、プリマドンナとしての存在を感じ、やはりこの人はすごい歌手であったと再認識しました。もう一度アリア「この宮殿の中」を聴いてみたいと思った歌手のひとりです。
パヴァロッティは「キング・オブ・ハイC(3点ハ音)」の人ですから、高音に余裕がありますね。
No, no, Principessa altera.
Ti voglio tutta ardente d'amor !
この箇所の最高音なんていくらでも延ばせそうです。でも、私は太い声のカラフが好きなので、パヴァロッティはちょっと違う気がしています。
リューは、どの録音もその時代を代表するソプラノ・リリコが歌っていますが、モンセラート・カバリエも、正しい発声はかくあるべき的な素晴らしい歌唱です。
録音はDECCAだけあって鮮明です。
⑥
ヘルベルト・フォン・カラヤン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
トゥーランドット:カーティア・リッチャレッリ
カラフ:プラシド・ドミンゴ
リュー:バーバラ・ヘンドリックス
ティムール:ルッジェロ・ライモンディ
皇帝アルトゥム:ピエロ・デ・パルマ
ピン:ゴットフリート・ホーニク
パン:ハインツ・ツェドニク
ポン:フランシスコ・アライサ
役人:ジークムント・ニムスゲルン
1981年5月
ウィーン、ムジークフェラインザール
今回最後に聴いたCDです。
冒頭の、
Popolo di Pekino!
La legge è questa: Turandot la Pura
sposa sarà di chi, di sangue regio,
spieghi i tre enigmi ch'ella proporrà.
Ma chi affronta il cimento e vinto resta,
porga alla scure la superba testa!
北京の民よ!
これは法である。
清らかなトゥーランドット姫は
姫が出す3つの謎を解いた、
王子の花嫁となる。
しかし、謎解きに挑んで敗れた者は、
誇り高き首を斧に差し出すのだ!
が良い声だなと思ったのですが、ジークムント・ニムスゲルンだったのですね。
プラシド・ドミンゴのカラフは、最高音のハイCがかなり苦しいですが、それ以外は理想的で、中高音に張りのある立派な声です。今回聴いた中では、唯一デル・モナコにあともう少しというところのテノールでした。
バーバラ・ヘンドリックスのリューは、とてもチャーミングで表情豊かですが、少し歌い方に癖があります。でも素晴らしいです。
さて、このCDの最大の問題は、カーティア・リッチャレッリをトゥーランドットに起用したことです。リッチャレッリもプリマドンナのひとりですから、約不足ではありません。しかしアイーダやトスカを歌えても、トゥーランドットは相当な負担だったのではないでしょうか。でも、このようなトゥーランドットは嫌いじゃありません。むしろゾクゾクするものを感じます。
それにしてもリッチャレッリ、最近は名前を見かけません。どうしているのでしょう。
カラヤンの指揮は、「ラ・ボエーム」「トスカ」「蝶々夫人」の名演を残しているだけあって、この「トゥーランドット」も見事です。これだけ細微に入り細をうがつ演奏は今後も現れないでしょう。迫力も満点です。
効果をねらった録音も新しい発見を与えてくれます。
以上、6組のCDをご紹介しましたが、ここでクイズです。
6組のうち5組に、「ある歌手」が登場しています。それは誰でしょう?
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答えは、 ピエロ・デ・パルマ です。
カラヤン盤では、皇帝アルトゥムを歌っていますが、「この役はしばしば『往年の名テノール』が舞台生活の最後に演じる役として用いられる。(Wikipedia)」のだそうで、パルマの起用は感慨深いものあります。
もっともパルマはこの後、数年歌い続けているのですが。