ずっと「アルペジョーネ」だと思っていたのですが「アルペジオーネ」と表記されることが多いようです。どっちなんでしょう?
Googleで検索してみると、アルペジョーネ:56,500件、アルペジオーネ28,600件
タワーレコードだと、アルペジョーネ:120件、アルペジオーネ:128件
HMVだと、アルペジョーネ:71件、アルペジオーネ:31件
amazonだと、アルペジョーネ:39件、アルペジオーネ:55件
ウィキペディアだと、アルペジョーネ
「レコード芸術」は、アルペジオーネと表記
私が所有しているCDに付けらえた帯は、いずれも「アルペジオーネ」と表記
ネットでCDを購入するときは、両方検索してみることをお奨めします。
以下「アルペジオーネ」と表記します。
フランツ・シューベルト
Sonata for Arpeggione and Piano in A minor, D821
第1楽章 アレグロ・モデラート
第2楽章 アダージョ
第3楽章 アレグレット
「一息」で説明します。
6弦で24のフレットがあり、膝で挟んで弓で弾く「ギターレ・ダ・ムール、または、ギターレ・ヴィオロンチェロ」は、1823年に製作され、シューベルトはアルペジオが弾きやすいという理由で(勝手に)アルペジオーネと名付け、1824年に「アルペジオーネ・ソナタ」を作曲し、一応初演もされたのですが、魅力のない楽器のせいもあって、あまり評判にはならず、そのうちシューベルトは1828年に亡くなり、このソナタがようやく出版された1871年には、アルペジオーネを弾く人など皆無だったので、最初からヴァイオリンやチェロ編曲版も用意され、中でもチェロでの代用が最も多く、ヴィオラやギター、コントラバス、管楽器でも演奏され、要はどんな楽器でもいいのですが、一方でアルペジオーネを復元して演奏・録音する試みもあり、結果として現代チェロのほうが断然美しく、実は最初からチェロ・ソナタとして作曲されたのではないかという説もあるくらいの素晴らしい名曲です。チェロ・ソナタだったらよかったのに!
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(vc)
ベンジャミン・ブリテン(p)
1968年7月、スネイプ、モールティングス
シューベルトの「アルペジオーネ・ソナタ」の名盤といえば、この演奏・録音のことを指す時代がありました。久しぶりにこのCDを聴いてみまして、(今回一番最後に聴いたのがこれなのですが)非常にスケールの大きい演奏だと思いました。シューベルトも、遠い将来、この曲がこんな演奏をされているとは夢にも思わなかったでしょう。悪い意味で言っているのではないのですが、他の演奏と比較すると、今となっては、その雄大な演奏がシューベルトっぽくなく聴こえてしまいます。とはいえ、恰幅のいいチェロによる表現豊かな歌、そしてブリテンの(後に出て来るアルゲリッチに匹敵すぎるくらい)素晴らしいピアノは、名盤の名に恥じない演奏ともいえます。
併録のフランク・ブリッジの「チェロ・ソナタ ニ短調」は名演です。これは文句なし!
アルト・ノラス(vc)
タパニ・ヴァルスタ(p)
1973年9月、ヘルシンキ
1974年7月21日 モスクワにて
敬愛なる友、アルト・ノラス氏とタバニ・ヴァルスタ氏へ!
お二人がシューベルトのソナタと私の(チェロとピアノのための)ソナタを演奏なさったレコードを、ちょうど聴き終えたところです。私は、これら二つの作品の素晴らしい演奏に対して、深い感謝を捧げます。あなた方がこれからも健康に恵まれ、創造的な仕事において大いなる成功を収めますことを、切に願っております。心より。ドミトリ・ショスタコーヴィチ
この手紙がきっかけで、ノラスは初対面であったショスタコーヴィチと協演する機会を得たのですが、作曲者お墨付きの演奏ということで、このレコードも有名になりました。私もこのブログの黎明期に一度このCDをご紹介したことがあります。久しぶりに聴いて、やっぱり良い演奏だと思いました。この記事でご紹介している演奏はいずれも良い演奏なのですが、ノラスの場合、緩急の差が大きく、あまり細かいことにこだわらない(神経質でない)、直情径行的なさっぱり感が売りでしょうか。ヴァルスタの伴奏も概ねその傾向で、似た者コンビです。すがすがしささえ、感じますね。
それにしても残響が非常に少ないデッドな録音です。楽器の直接音だけが録音されているようで、生々しいと言うこともできますが、本当にこのような音響だったら、ヘルシンキの文化ホールで演奏するのはつらいかも。
ショスタコーヴィチとシューベルトの名演を一度に入手したいという方にお薦めです。ショスタコーヴィチのソナタも大変な(名)曲です!
Rostropovich Shostakovich Cello Sonata Op. 40 Allegro
ミッシャ・マイスキー(vc)
マルタ・アルゲリッチ(p)
1984年1月、ラ・ショードフォン
アルゲリッチのシューベルトは珍しいですよね。少なくとも独奏曲は録音していないはずなので貴重です。冒頭の数小節を聴いただけで心が奪われます。これはすごいピアノ。ただし、この曲でのアルゲリッチは、ひたすらチェロを引き立てることに徹しているようです。今回聴いた中では疑いなく最高のピアノ伴奏で、ついついピアノに耳を傾けがちになりますが、はっきり言ってマイスキーはピアノに負けていると思うのです。これだけアルゲリッチが尽くしてくれているのに、マイスキーには底の浅さを感じてしまう。表現が常套的すぎるというか……。いや、このCDは名曲名盤の類で常にトップの位置にある「決定盤」ですから、期待するものが大きすぎるのかもしれません。マイスキーはダリア・オヴォラと再録音をしていますので、それも聴いてみたいところです。
エマニュエル・パユ(フルート)
エリック・ル・サージュ(p)
1994年2月、スイス
フルートとピアノのための「しぼめる花」の主題による序奏と変奏曲 D802 を聴くために買ったら、フルートによる「アルペジオーネ・ソナタ」も併録されていました。最初は違和感がありますが、聴いているうちになじんできます。曲の包容力が大きいのでしょうね。パユは現代を代表するフルート奏者ですから、きちんと聴かせますし、サージュのピアノも息がぴったり合っていて素晴らしいです。最初からフルート用のために作られた曲のよう、というのは言い過ぎにしても、フルートの音域を目いっぱい使用して、果敢に挑戦した演奏です。正直第1楽章はどうかと思いましたが、第2楽章の息の長い歌といい、第3楽章の鮮やかさといい、パユは本当に巧いです。
アンナー・ビルスマ(チェロ・ピッコロ)
ジョス・ファン・インマゼール(フォルテ・ピアノ)
1997年6月、ハールレム
5弦のチェロ・ピッコは、アルペジオーネと音域が同一になるそうですが、この録音でアンナー・ビルスマが使用している楽器は「 five-storinged - Anonymous, Tirol, c. 1700 」だそうです。 アルペジオーネに近いチェロということになるのでしょうか。ビルスマは、バロック・チェロの先駆者であり、世界的な名手と言われていますし、この録音も「レコード芸術」誌の名曲名盤500で「アルペジオーネ・ソナタ」の第2位という高評価です。でも、「アルペジオーネ・ソナタはシューベルトの名曲らしいから聴いてみよう」と思う人が最初に選ぶべきCDではないと思いますし、私も他人にこれをお薦めしません。ラルキブデッリによる演奏は、どれを聴いてもしっくりこないのです。しかし、嫌いかと問われれば、いや、そうでもない、と答えるでしょう。不思議な力をもった演奏ではあります。今回ご紹介した中には、途中で聴くのを止めたくなる演奏もあったのですが、この演奏は最後まで通して聴こうという気にさせられる何かがあります。それはビルスマの、そしてインマゼールの演奏力なのでしょう。
ジョン・ウィリアムス(ギター)
リチャード・トネッティ(指揮)
オーストリア室内管弦楽団
1998年12月、オーストラリア
ギターはアルペジオーネと同じ調弦(6弦)なので、この演奏はシューベルトのオリジナルに近いのかもしれません。ギターとピアノはあまり相性がよくないということもあり、ギターと弦楽合奏による「アルペジオーネ・ソナタ」ですが、ギター協奏曲みたいで全く別の曲を聴いているような趣があります。ジョン・ウィリアムズ(「スター・ウォーズ」等の音楽を作曲している人ではありません。オーストラリア出身のクラシック・ギターの巨匠です。念のため。)のギターだけあって、これがなかなか良いのです。音楽がすごく新鮮に聴こえます。やっぱりジョン・ウィリアムズは巧い! これで十分と言いたいぐらい。でも、伴奏は弦楽合奏じゃないほうがよかったです。なんか気持ち悪い。
アンヌ・ガスティネル(vc)
クレール・デセール(p)
2005年6月、スイス
アンヌ・ガスティネルのCDは、Naiveから発売されています。その中でも最も人気があるのは、このCDでしょうか。「アルペジオーネ・ソナタ」の他、ソナチネ D 384(チェロ編曲版)、歌曲トランスクリプションのシューベルトづくしで、「ヴイクトワール・ドゥ・ラ・ミュージック」を受賞した名盤とのことです。使用楽器が「TESTORE 1690」だそうで、1690が年代を表すのであれば、ヨハン・セバスティアン・バッハの時代ですよね。柔らかい響きがし、癒されます。シューベルトの、泉のようにこんこんと湧き出るメロディ(特に第3楽章!)に、常にふわさしい表現を聴かせてくれ、ただひたすら聴き惚れてしまいます。デセールのピアノも優しい音色でガスティネルをよくサポートしており、これも私のお気に入り盤です。
ジャン=ギアン・ケラス(vc)
アレクサンドル・タロー(p)
2006年1月、パリ
チェロのケラスは、私にとって「アルカント・カルテット」の抜群に巧い(あの四重奏団は全員巧いのだけれど)チェリストという印象。
聴きながら、こんなふうにチェロが弾けたら気持ちいいだろうなぁと思いました。楽器がケラスの体の一部となって、自在の歌を奏でています。タローの元気がよい(でも、うるさい)ピアノとともに青春の歌を奏でているようです。第2楽章もチェロの音色が美しい。使用楽器は1696年ジョフレド・カッパ製であるとのこと。第3楽章も春のそよ風のように晴郎で爽やか。非の打ちどころのないテクニックで弾き上げます。この演奏が今の私の一番のお薦めでしょうか。
追記:ヴィオラでもよく演奏される曲ですので、ユーリ・バシュメット(va)ミハイル・ムンチャン(p)による1990年録音があったらよかったです。